- 3 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土)
02:24:52.55 ID:Fq1YT1670
- 〜東塔の兵〜
●( ^ω^) ブーン=トロッソ
29歳 少将
使用可能アルファベット:T
現在地:帰らずの森・ツンの小屋
●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
39歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:帰らずの森・ツンの小屋
●( ・∀・) モララー=アブレイユ
34歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オリンシス城
●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
37歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:ヴィップ城
●( ^Д^) プギャー=アリスト
35歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城
- 7 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土)
02:26:12.22 ID:Fq1YT1670
- ●( ><) ビロード=フィラデルフィア
32歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:シャッフル城
●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
28歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:ヴィップ城
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
22歳 少尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
●(´・_ゝ・`) デミタス=コーフィー
27歳 少尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
●\(^o^)/ オワタ=ライフ
25歳 少尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
- 9 :階級表
◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土)
02:27:13.72 ID:Fq1YT1670
- 〜東塔〜
大将:ショボン
中将:モララー/ギコ
少将:ブーン/プギャー
大尉:ビロード
中尉:ベルベット
少尉:ロマネスク/デミタス/オワタ
〜西塔〜
大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー
大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:
(佐官級は存在しません)
- 12 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE
:2007/08/18(土) 02:28:14.97 ID:Fq1YT1670
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:ギコ/プギャー/ベルベット
S:ニダー
T:ブーン/アルタイム
U:ミルナ
V:ジョルジュ/モララー
W:
X:ショボン
Y:
Z:
- 16 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE
:2007/08/18(土) 02:30:01.37 ID:Fq1YT1670
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
---------------------------------------------------
・現在対立はありません
- 22 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:30:46.25 ID:Fq1YT1670
- 【第64話 : Arrange】
――帰らずの森・小屋――
眩い光が漏れた。
長大な漆黒の箱の中から。
姿を現す、アルファベットY。
箱の形状からも分かる、その特質さ。
蓋を開けて見れば、それは尚更だった。
長尺の、斧。
ショボンの身長の、倍はある長さだ。
長い柄と大きな刃。
あまりに巨大なアルファベット。
今までのどのアルファベットも比較にならないほどだった。
(´・ω・`)「これがYか……想像以上に大きいな……」
ξ゚听)ξ「作るのは大変でした。今までで一番難しいアルファベットでした」
水の雫や、火の玉のように見える刃。
真ん中に穴が開いていて、まるでこちらを睨んでいるようだ。
その眼を見ると、刃の形も禍々しく見えてきてしまう。
やがてYの柄に、ゆっくりとショボンの手が伸びた。
- 30 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:32:41.78 ID:Fq1YT1670
- (´・ω・`)「さぁ……果たしてYは応えてくれるか……」
ゆっくり、ゆっくりと近づいていく。
さすがのショボンも、はっきり緊張の色を浮かべていた。
未知のアルファベット。誰も到達したことのない域。
そこに、踏み入れようというのだ。
いかにショボンと言えど、少なからずの恐怖があるに違いない。
自分の心音が何度も響いた。
そのたびに、ショボンの手は近づいていく。
そして、ショボンの指が、Yに触れた。
(´・ω・`)「ッ……」
小屋の中は、微かに炭の割れる音が響くだけだ。
あとは静寂。呼吸すら、聞こえないような。
ショボンは、何も言わなかった。
ただ、アルファベットに触れた。
そして握った。
(´・ω・`)「よし」
持ち上げた。
熱は、なかった。
思わず自分まで喜んでしまった。
- 38 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:34:54.85 ID:Fq1YT1670
- (*^ω^)「おめでとうございますお!!」
(´・ω・`)「ありがとう。安心したよ」
ξ゚听)ξ「でも、まだ確定じゃありません。威力を試してからでないと」
(´・ω・`)「あぁ、そうだな。じゃあ、試し斬りを」
ξ゚听)ξ「外へどうぞ」
ツンに招かれるままに、小屋の外へ出た。
灯された明かりが、外へ続く細い道を照らしている。
だが、ツンが向かったのは小屋の後ろ側だった。
ツンが手に持つ明かりしかない、薄暗い場所だ。
木が隙間なく生えており、奥へは進みにくくなっている。
体を横向けて、木々の間をすり抜け、少し行ったところにスペースがあった。
切株が数十個残っている。どうやら、ここで以前にも試し斬りが行われたようだ。
(´・ω・`)「よし、やるか」
ショボンがYを持ち上げた。
その長さ、およそ十八尺。途轍もない重量だろう。
軽々しく持ち上げているように見えるのはショボンだからこそだ。
左手で下端部を掴み、右手で柄の中央付近を握った。
刃がショボンのはるか上空にあるように見えた。
- 44 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:36:47.09 ID:Fq1YT1670
- 一瞬、風が止んだ。
まるで、息を呑むかのように。
そして再び風が生まれた。
ショボンが、生み出した。
鋭く振るわれたY。
視界から消えたと思った瞬間、地面に到達していた。
Yの刃は、音もなく木を通過した。
ゆっくりと大木が倒れていく。
まさに、一瞬だった。
(´・ω・`)「間違いなく、Xを超えている」
ショボンは、笑っていた。
嬉々としていた。
ξ*゚ー゚)ξ「良かったです」
ツンも、笑っていた。
喜んでいた。
アルファベットを扱える者なら、ひとつ下のと比べてどうか、はすぐに分かる。
手応え、感触。そして感覚。
全て、Xを上回っていたのだろう。
(´・ω・`)「次のオオカミ戦、そしてZが楽しみだ」
- 54 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:38:46.31 ID:Fq1YT1670
- Yを引き戻して、二度三度、回転させた。
力強い音、そして光。
逆光で黒く染まったショボンの体は、いつもより大きく見えた。
やはり、頼もしい背中だった。
―― 一ヵ月後――
――ヴィップ城――
陽が落ちる頃になると、ヴィップ城の城下町では炊煙が上がりだす。
それぞれの家庭の営みを垣間見れる。
調練を終えた後、城内の窓からそれを眺めるのが好きだった。
( ФωФ)「美しい夕焼けでありますな」
ロマネスクが、汗を拭いながらそう言った。
まるで猫のように瞳孔が小さくなっていた。
( ^ω^)「綺麗な景色だお。ヴィップ城からの眺めは壮観だお」
( ФωФ)「我輩は遠征の経験があまりないのですが、もっと凄い場所もあるのでしょうか?」
ロマネスクは、それほど体格に恵まれているわけではない。
身長は東塔の中でも低いほうだ。
だが体つきが良く、身長以上に大きく見える。
- 62 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:41:15.06 ID:Fq1YT1670
- アルファベットはKを扱う。
今年で入軍四年目。着実な成長と言っていいだろう。
今後が楽しみな将だった。
( ^ω^)「凄いっていうと、パニポニ城からの眺めも凄いお。
ひたすら鉱山だけが見えるお」
( ФωФ)「一度見てみたいものです」
( ^ω^)「いずれはパニポニ城に行く機会もあるはずだお」
もう一度、町並みに視線をやった。
買い物に行く人、仕事を終えた人。
遊び疲れた子供、喋り疲れた老人。
実に様々な人が道を往来している。
( ФωФ)「我輩は、いずれこの地の全てを見てみたい、と思っております」
真剣な表情で、遠くを見たまま、ロマネスクは強く言った。
いつも物事を淡々と語る。その点では、ベルベット=ワカッテマスに似ている。
だが、心の中に何か熱いものがある、と感じる男だった。
( ФωФ)「我輩はまだヴィップの領内しか知らない小さな男です。
三国に分裂している今、なかなか思うように他国へは行けません。
ですがヴィップが天下を統一すれば、我輩はこの地の全てを見ることができます」
( ^ω^)「おっおっおっ、だから戦うのかお?」
( ФωФ)「はい。祖国ヴィップを天下に導けば、我輩の夢も叶う、と」
- 71 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:43:18.40 ID:Fq1YT1670
- ( ^ω^)「きっと叶うお。必ずヴィップは勝つお」
( ФωФ)「天下に貢献できるよう、精進致します」
ロマネスクの表情から、真剣味が抜けることはなかった。
恐らく、今後も同じ顔で居続けるのだろう、と思った。
夜、夕食を食べたあとは訓練に励んだ。
なるべく早くTを通過したい。ずいぶん慣れてきたが、やはり自分の体格には合わないようだ。
もしYまで行けても上手く扱えないのではないか、という不安も最近はあった。
癖の強い上位アルファベットが多い中で、Uはかなりプレーンなアルファベットだった。
片手で振り回すことができ、威力もある。全アルファベットの中でも屈指の扱いやすさだと聞く。
長尺のTは、片手では振り回せない。
騎馬上では若干不利なのだ。
歩兵を率いるぶんにはいいが、騎馬隊だと苦しかった。
( ^ω^)(おっおっ、月がきれいだお)
第一訓練室の一角、休息所で一息ついた。
温めの茶を啜って喉の渇きを癒す。
飲み干して湯呑みを戻したあとは、窓の外を眺め始めた。
丸い月が、浮かんでいた。
優しく輝いていた。
昨日は雨で月が見れなかったのを思い出した。
- 75 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:45:52.90 ID:Fq1YT1670
- もうすぐ、雨季に入る。
外での調練はしにくくなってしまう。
アルファベットの訓練を行ういい機会だが、部隊を鍛えるのもやはり大切だった。
夏になるまではアルファベットの訓練が主になる。
Tになってからまだ半年ほどだが、来年の戦までにはUに上がりたい。
自信はあった。
ショボンは来年、オオカミと戦う気でいる。
来年のいつかは分からない。年明けかも知れないし、暮れかも知れない。
だが、攻め込む意思は固いようだ。
しかし問題は、ラウンジがオオカミを攻めるつもりでいるらしい、ということだった。
西の果てにあるラウンジ領アリア城。そしてオオカミ領ヒダマリ城。
この二城間で戦が起きるのではないか、と言われているのだ。
ラウンジは近年、領土を少なからず減らしているものの、随一の大国であることに変わりはない。
寒冷地が主だが、それでも兵糧などの物資は多く得られるのだ。
戦をやれるだけの体力はある、ということだろう。
オオカミは多少苦しいものの、ラウンジが攻め込んでくるとあっては、立ち向かわないわけにはいかない。
自国領で防衛戦をやるくらいの力は充分残っているはずだ。
逆にラウンジは、遠征して敵地に攻め込まなければならない。
兵站の維持は難しくなる。兵糧を頻繁に運ぶには遠すぎるからだ。
何より、アリア城とヒダマリ城の間には、トーエー川がある。
水軍での戦いならオオカミにかなり分があることは間違いない。
- 81 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:48:22.92 ID:Fq1YT1670
- オオカミはまず水軍で攻撃を防ごうとしてくるだろう。
対するラウンジは、大軍を用いた人海戦術でオオカミを潰すしかない。
熾烈な戦いになりそうだった。
( ^ω^)(……ラウンジとオオカミが争うなら……)
その間に、オオカミを攻め込みたい。
オオカミは二正面。勝率は確実に上がる。
だが、それには障害があるのだ。
西塔のジョルジュも、同じことを考えているだろう。
ギフト城を奪われた。奪り返したいと考えているはずだ。
つまり、東塔と同じタイミングで、西塔はラウンジに攻め込む可能性がある。
そうなれば、三つの国全てが二つの戦線を抱えることとなる。
情勢は、混沌とする。
それは避けよう、と考えるはずだ。
いま二つの塔が同時に戦をすると、兵糧的に厳しい。
何より、外交をしくじった場合、ラウンジとオオカミが同時に攻め込んでくる可能性がある。
いま、ラウンジは西に兵を集めようとしている。それが、誘いかも知れないのだ。
ラウンジとオオカミが戦うと見せかけ、実は協力しあおうしている恐れがある。
( ^ω^)(……そうなったらヤバイお……)
戦うふりをして結託し、同時にヴィップに攻め込んできたら。
これは、かなり辛い。
- 87 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:50:37.13 ID:Fq1YT1670
- 実際、今までも二つ戦線を抱えたことはあった。
東と西が同時にオオカミとラウンジを相手にしたことは、あった。
だが、あくまでオオカミとラウンジは対立していた。
つまり、二国間に警戒があったのだ。兵を置いたりしていたのだ。
隙を見せれば背後を突かれる。戦っていない相手のことも、気にかける必要があった。
しかし、背後を突かれない、という確証があったら。
全兵力を、ヴィップに向けることができたら。
恐らく、抗えないだろう。
(;^ω^)(……ミルナとカルリナには何の因縁もないはずだお……同盟組んでてもおかしくはないお……)
そう考えたが、大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。
頭を振って、思い直す。
自分でさえ思いつくようなことなのだ。
きっとショボンはとうの昔に、この危険性を考えている。
そして、何らかの対策を打っているはずだ。
信じるしかなかった。
( ^ω^)(……でも、そうなると……やっぱり、ラウンジとオオカミが戦ってる間は静観かお?)
無難に行くなら、静観という道になる。
オオカミを攻める、となれば西塔との間で争いが起きるのは必至だ。
ショボンはこれ以上、西塔との間に亀裂が走るのを避けたがるはずだった。
- 98 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:52:56.04 ID:Fq1YT1670
- しかし逆に、ジョルジュがラウンジを攻めると言った場合。
ショボンは反対するだろう。だが、ジョルジュは強引に押し切ってくるかも知れない。
それが、怖かった。
位は同じ大将でも、ショボンとジョルジュの間には上下関係がある。
それは一ヶ月前の訓練室で感じた。いや、ずっと感じていた。
ショボンは、ジョルジュ相手では強く出れないのだ。
ラウンジ攻めが決まってしまうと、東塔にとっては辛い状況が続くこととなる。
停滞が、士気の低下を生みかねないのだ。
いま東塔は、オオカミへのリベンジで燃えている。
ショボンもそう発破をかけている。
来年は必ずオオカミに攻め込んで、敗戦を取り返そう、と。
それなのに、もし攻め込めないとなったら、モチベーションは下がってしまうだろう。
戦における士気とは、時には戦術以上に大事なことがある。
士気が低ければ兵の動きは悪くなってしまうからだ。
つまり、東塔はオオカミを近々のうちに攻める必要がある。
リベンジに向かう必要がある。
果たしてショボンは上手くやってくれるだろうか。
信じている。きっと何とかしてくれると。
しかし、信じることしかできない。
自分にもっと力があれば。
知恵や発想があれば、ショボンを助けられるかも知れないのに。
東塔、いや、ヴィップにもっと貢献できるかも知れないのに。
- 106 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:55:26.87 ID:Fq1YT1670
- 国家のために命を捨てる覚悟くらい、幼い頃からあった。
男として生まれたからには、祖国の天下に貢献すべきだと思ったのだ。
とーちゃんが兵士だったこともあり、国軍兵士になるというのは自分にとって自然なことだった。
実際、入軍できた。そして、アルファベットでも上位まで上り詰めた。
まだ成長できる。必ずZまでいってみせる、という気概もある。
だが、アルファベット以外での貢献度が、少し低いのだ。
一騎打ちでは何人もの将を討ち取った。
最近ではドラル=オクボーン、Sの壁突破者を討ち取っている。
一騎打ちなら簡単には負けない自信がある。
だが、部隊を率いて戦を行うとなると、決して秀でているとは言えないだろう。
特に失敗を犯すわけではないものの、目を見張るような活躍もあまりない。
自覚はあった。
( ^ω^)(……やっぱもっと勉強しなきゃだお……)
これからもまだまだ、戦い続けなければならない。
ヴィップの天下が成し遂げられるその日まで。
もっと精進しなければならない、と思った。
あらゆる面において、だ。
(´・_ゝ・`)「あの……ブーン少将……」
( ^ω^)「お?」
ひたすら外を眺めている間に、いつの間にか後ろにデミタスが迫っていた。
おどおどしながら喋りかけてくる。
- 115 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:57:28.55 ID:Fq1YT1670
- ( ^ω^)「どうしたんだお?」
(´・_ゝ・`)「あ、あのー……よろしければ、そのー……」
(;^ω^)「?」
\(^o^)/「訓練に付き合っていただけませんか?」
大柄なデミタスの陰に居たため、気づかなかった。
オワタ=ライフがはきはきとした声を出して姿を現した。
\(^o^)/「その若さでTに達したブーン少将に、ぜひ御指導御鞭撻を賜りたいのです」
(´・_ゝ・`)「大変ご迷惑であることは重々承知なのですが……」
( ^ω^)「おっおっおっ、おkだお。じゃあ早速いくお」
立ち上がって、訓練室の中央あたりへ行った。
広くスペースが取れるためだ。
長尺のTを振り回そうと思うと、狭いところでは話にならない。
( ^ω^)(……ん? Tを使うとマズイかお?)
オワタとデミタスのアルファベットを確認してみた。
大柄で、いかにも力がありそうなデミタスはN。
小柄で、いかにも非力そうなオワタはL。
アルファベットTと打ち合っても、すぐには壊れないだろう。
が、やはり直接ぶつけあうべきではないか、と思った。
下手に破壊してしまうとツンの仕事を増やすことになるからだ。
- 122 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 02:59:39.76 ID:Fq1YT1670
- ( ^ω^)「……よし、二人同時でいいお」
(;´・_ゝ・)「え?」
\(;^o^)/「僕たち二人と、ブーン少将一人、ですか?」
( ^ω^)「だおだお。ブーンはひたすら二人の攻撃を防ぐお。防御をかいくぐってほしいお。
でも、あんまり攻撃にばっか集中してたら、ブーンは遠慮なく隙を突かせてもらうお」
二人が一度、見合った。
どうすべきか考えているのだろう。
少しの間唸っていた。
もし怪我をさせてしまったら、と心配しているのだろうか。
( ^ω^)「大丈夫だお。遠慮なくかかってくるお」
二人を促した。
それでもまだ少し躊躇っていたが、こちらがアルファベットを構えると、二人も瞬時に構えた。
さすがに毎日アルファベットを訓練しているだけあって、相手が構えると自然に反応してしまうようだ。
(´・_ゝ・`)\(^o^)/「「いきます」」
二人の声が、重なった。
そして、攻撃も。
デミタスは即座にNを分離させ、両手に持って振るってきた。
オワタはLのリーチを活かしてくる。
近距離と遠距離。同時に相手にするとなると、かなり戦いにくそうだった。
- 130 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:01:48.62 ID:Fq1YT1670
- 先にNの攻撃を受け止め、すぐに弾いてLを受け止めた。
弾き返す。デミタスが、即座に迫ってくる。
小刻みな攻撃。
( ^ω^)(攻撃をするだけなら大丈夫なはずだお)
上位アルファベットの攻撃を受け止めるとなると、下位アルファベットは脆い。
しかし上位に攻撃するのであれば、破壊の恐れはほとんどないはずだ。
防御に徹する、というのは中々いいかも知れない、と思った。
だがやはり、二人が相手では気が抜けない。
専守でなければかなり辛かっただろう。
二人のアルファベット使いも悪くなかった。
デミタスの攻撃を受け続けている間に、オワタからの一撃が繰り出された。
振り下ろされるL。かなりの速度、威力。
両腕に目いっぱい力を込めて、受け止めた。
機、とデミタスは見たようだった。
一気に近づいてくる。攻め込んでくる。
甘い、と思った。
(;´・_ゝ・)「うわっ!」
\(;^o^)/「ッ!!」
Lの軌道を逸らせた。
滑り落ちるように斜め下へ向かっていく。
その先にいたのは、デミタス。
- 143 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:04:07.42 ID:Fq1YT1670
- デミタスは慌ててLを受け止めた。
オワタも動揺しながらアルファベットを引く。
二人が、体勢を立て直す。
だが、あまりに遅すぎた。
( ^ω^)「討ち取ったり、だお」
二人の後ろに回りこんで、背中を手で押した。
同時に膝を突く、デミタスとオワタ。
冷や汗を地面に垂らしていた。
(;´・_ゝ・)「ま、参りました……」
\(;^o^)/「二人がかりで全く手も足も出ないとか……俺らの将校人生オワタ」
( ^ω^)「もっとメリハリを利かせれば良かったと思うお。攻撃が単調だったお」
(;´・_ゝ・)「ま、全くダメですね……最悪ですね……」
(;^ω^)「ちょ、ネガティブすぎるお。二人とも素早く振るえてたのは良かったと思うお」
\(^o^)/「俺らの将校人生ハジマタ。もっと頑張ります」
( ^ω^)「だおだお。アルファベットは訓練次第だお」
(´・_ゝ・`)「またお時間あれば、僕たちのお相手をして下さいますか?」
( ^ω^)「もちろんだお!」
- 158 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:06:09.03 ID:Fq1YT1670
- オワタとデミタスが頭を下げて、先に訓練室から退出していった。
どうやら二人は共に行動することが多いようだ。
大柄で気の弱いデミタスと、小柄で明朗なオワタ。
何から何まで真逆だとも思うが、気が合っているのだろう。
ショボンの下で部隊長を務めていたということは、長く共に戦場で戦ってきたはずだ。
恐らく気心の知れた仲なのだろう。
( ^ω^)(……ブーンにもあんな時期があった気がするお……)
ドクオの顔が、自然と浮かんできた。
入軍してから、つい最近まで、ドクオと一緒にいた。
寝食を共にした仲だった。
ああやって、一緒にアルファベットの訓練をしたりもした。
懐かしいとさえ感じる思い出だった。
だが、あまり深く思い出さないようにした。
明確に振り返ってしまうと、辛くなるからだ。
まだ、死の悲しみを完全に拭いきれていないからだ。
時が癒してくれるのを待つしかなかった。
( ^ω^)(……そろそろ寝るお……)
もう日付が変わる頃だろう。
訓練室の人もかなり少なくなっていた。
( ^ω^)「みんな、あんまり遅くならないように、だお」
- 165 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:08:17.83 ID:Fq1YT1670
- 室内にまだ残っていた兵たちに言って、訓練室から出た。
廊下の明かりは少し暗くなっている。
月が見たかった。
今日は、綺麗な満月だったからだ。
しかし、先ほどの休息所とは方角が正反対なため、ここからでは星しか見えない。
もうすぐ、雨季に突入する。
満足に月や星を見れない日が、夏まで続く。
しかし、やがて夏を越え、秋になったら。
高く澄み切った空、風に揺れる芒。
そして、美しい月が見れるようになる。
次の戦までは、心を安らげるよう努めよう、と思った。
きっと心に余裕ができて、戦でも深いところまで考えられるようになるはずだ、と。
――世界暦・526年――
――春――
突然だった。
いや、冷静に思い返せば、納得できる指令だった。
このために準備を重ねてきたのか、と思えた。
だが、何故そうするのか、は分からなかった。
自分だけではない。ギコやベルベットらさえ分からないようだった。
- 177 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:10:27.06 ID:Fq1YT1670
- 夜のうちにヴィップ城から出発し、ローゼン城まで駆ける。
全軍がローゼン城に入ってから初めて軍議を開く、というものだ。
何故、ヴィップ城で軍議をやらないのか。
分からなかった。ショボンの意図が。
東塔は、混乱のままにヴィップ城を発つこととなった。
再び咲いた桜を背にして、馬は駆け出す。
草鞋を履かせ、なるべく音を立てないようにしながら。
まるで、敵領地での動き方だった。
誰かの目を欺く目的がなければ、これほど密かに動く必要はない。
そしてその相手がいるとすれば、西塔以外にはありえない。
西塔を、欺く気なのだろう。
出し抜く気なのだろう。
(;^ω^)(……でも……)
ショボンが、こんな強硬手段に出るとは思わなかった。
ジョルジュとじっくり話し合い、何とか説得してくれる、と思っていた。
信じていた。
何か考えがあってのことだ。
分かっている。しかし、不安が拭いきれない。
明日の朝になれば、西塔は東塔の動きに気付く。
ジョルジュは必ず反発してくるだろう。
それが、怖かった。
- 187 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:12:27.00 ID:Fq1YT1670
- しかし、ここで不安を感じていてもしょうがない。
とにかくローゼン城まで一刻も早く向かい、ショボンの話を聞く必要がある。
何を考えているのか、理解する必要がある。
夜を徹して駆けた。
ローゼン城はさほど遠い城ではないが、一晩で全軍を到着させるのは無理だ。
歩兵ならどうしても数日かかる。
西塔はすぐに気付くだろう。
果たしてジョルジュは、どんな行動を取ってくるだろうか。
夜明けになり、徐々に陽が高くなりはじめた。
春の陽気を感じながら、しかしとても穏やかな気分にはなれず、ただ駆けた。
休息を取っている間も心は落ち着かなかった。
その日、また空が暗くなった頃。
自分の率いていた騎馬隊は、ローゼン城に到達した。
先行していたショボンは既に城内に入っていた。
このローゼン城は、ヴィップ領土の中心に位置し、行軍の際の休息城として使われる。
西へ行くにも北へ行くにも、都合のいい位置に在るのだ。
戦火に晒されていないだけあって、城は綺麗なものだった。
外観が瀟洒で、非常に洒落た造りだ。
曲線が美しく、そのぶん守りには向いてないのではないか、と思った。
(´・ω・`)「すぐに兵を城内に入れてくれ。歩兵隊が来たら即座に軍議だ」
ゆっくり話す暇もなかった。
ショボンは大慌てで準備を整えていた。
- 191 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:14:11.25 ID:Fq1YT1670
- ヴィップ城から持ってきた物資が充分でなかったため、このローゼン城で補給するつもりなのだろう。
いや、もしかしたら、最初からそのつもりでローゼン城に蓄えていたのかも知れない。
いずれにせよ、ここで準備は万端に整うはずだ。
続々と歩兵隊が到着してきた。
ベルベット、ロマネスク。
間に騎馬隊のギコを挟んで、デミタス、オワタ。
二日の間に、全兵がローゼン城に入った。
兵数、およそ五万。
前線には三万がいる。合流すれば八万の大軍になる計算だ。
勢揃いした将校たちが、軍議室に入った。
(´・ω・`)「突然ですまなかったな、みんな」
先ほどまで準備に追われていたらしく、ショボンの肌には汗が浮かんでいた。
夜、暗い軍議室にランタンの心許ない明かりだけが灯されている。
疲れきったショボンに向かって、最初に口を開いたのはギコだった。
(,,゚Д゚)「単刀直入にお聞きします。いったい何のための行動なのですか、これは」
苛立っているわけではないようだった。
言葉遣いが少しきつくなっているのは、ギコにも若干の不安があるからだろう。
恐らく、誰もがそうだ。
(´・ω・`)「混乱させてしまったな。すまない。だが、こうするしかなかった」
(,,゚Д゚)「何故ですか?」
- 202 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:16:15.55 ID:Fq1YT1670
- (´・ω・`)「ジョルジュ大将と話すわけにはいかないからだ。俺がな」
椅子に腰掛け、その巨躯を沈める。
ショボン自身の気持ちも、沈んでいるように見えた。
(´・ω・`)「正直に言う。俺は、かなり強引な手段に出た」
(,,゚Д゚)「強引……?」
(´・ω・`)「ラウンジと不可侵条約を結んだ」
思わず立ち上がってしまった。
自分だけではない。ギコやロマネスクも。
しかし、呆然としてしまって、何も言えなかった。
ラウンジと、不可侵条約。
それさえあれば確かに、後ろは気にせずオオカミを攻め込める。
いや、実質的にラウンジと協力してオオカミを攻めることになる。
だが、普通なら通るはずがない。
ジョルジュは絶対に反対するはずの条約だ。
(;^ω^)「……ジョルジュ大将に黙って、ですかお?」
(´・ω・`)「あぁ。だから、強引なんだ」
(,,;゚Д゚)「強引すぎます。ジョルジュ大将に何と仰るつもりですか?」
(´・ω・`)「何も言わない。俺は、このまま戦いに臨む」
- 214 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:18:35.60 ID:Fq1YT1670
- ( <●><●>)「アラマキ皇帝の許可は?」
(´・ω・`)「取ったさ。アラマキ皇帝には俺の考えを全て話した。今からお前たちにも話す」
だから座れ、と言わんばかりに手のひらを上下させた。
頷いて、ゆっくり椅子に身を預ける。
ショボンはしばらく黙り込んだあと、静かに語り始めた。
(´・ω・`)「俺はまず、ラウンジがギフト城を奪ったあと、ラウンジに使者を送った。
そして不可侵条約を提案した。つまり、お互いオオカミを攻めよう、ということだ。
同盟まではさすがに無理だった。元より、そんなつもりもなかったが」
(,,゚Д゚)「ラウンジはすぐに了解したのですか?」
(´・ω・`)「いや、渋ったさ。ジョルジュ大将の策だ、と疑われたようだった。
信頼を得るのに時間がかかった。何度も話し合って、やっとラウンジは了解してくれた。
アルタイムもカルリナも、思ったより話の分かるやつだった」
(;^ω^)「でも、何故オオカミなんですかお?
オオカミと協力してラウンジを潰す、という道は?」
(´・ω・`)「無論、それも考えた。最大国ラウンジを先に潰すべきか、とな。
だが引っかかったんだ。これは、俺とジョルジュ大将の個人的な話で出た引っかかりなんだが」
(;^ω^)「???」
(´・ω・`)「ブーン、お前には以前話しただろう。俺はジョルジュ大将に皇帝位を譲るつもりだ、と」
(;^ω^)「お聞きしましたお」
- 226 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:20:50.91 ID:Fq1YT1670
- (´・ω・`)「あのとき、俺はジョルジュ大将にこう頼んだんだ。
『ともにラウンジと戦わせてほしい』と。つまり、協力して戦おう、と。
だがジョルジュ大将はそれを拒んできた」
(,,゚Д゚)「どうあっても、ジョルジュ大将は協力して戦うつもりはない、ということですか」
(´・ω・`)「あぁ。だから俺は、今回の手段を取った。
オオカミを潰せばヴィップの敵はラウンジだけになるだろう?
つまり、ジョルジュ大将がどれほど嫌がっても、東塔はラウンジと戦うしかなくなる」
(,,゚Д゚)「……なるほど……」
(´・ω・`)「逆に、先にラウンジを潰してオオカミと戦った場合のことも考えたが……。
やはりジョルジュ大将が元オオカミの将だ、ということを考慮せざるを得なかった。
疑いたくはないが、もしジョルジュ大将が叛意を抱いていたら、オオカミとは戦ってくれないだろう」
(,,゚Д゚)「その可能性は、ありますね」
(´・ω・`)「多少、な。危険性がある以上、やはりオオカミを先に潰すべきだろう、と思ったんだ」
(,,゚Д゚)「ラウンジが戦の準備を整えていたのは、ショボン大将の提案があったからなのですね?」
(´・ω・`)「まぁな。しかし、ラウンジはしたたかだ。
この条約はヴィップからの提案だ、というのを隠そうとしないつもりらしい。
つまり仮にオオカミが潰れても、亡国の将はヴィップを恨む」
( <●><●>)「ラウンジは先々まで有利なわけですね」
(´・ω・`)「そうだ。まぁ、だからこそ受け入れたのだろうとも思うが」
- 231 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:23:00.31 ID:Fq1YT1670
- ショボンが苦笑していた。
疲れきった笑みだった。
(´・ω・`)「ここまで辿り着くのには苦労した。ジョルジュ大将の目を欺く必要があったからな。
強引な手段だと西塔からは非難されるだろう。俺は甘んじて全てを受け入れるつもりだ。
だが、全てはオオカミ戦を終わらせてからだ。やっとここまで来たんだ。
俺はこの一年でオオカミを潰す。そして、ヴィップの天下を一気に引き寄せる」
ショボンの右手が力強く握り締められた。
疲れを表していた表情が、一瞬にして鋭くなる。
力強くなっている。
ショボンの考えは、全て分かった。
これがヴィップの天下に最も近い道なのだ、ということも。
ショボンがこれほどの策を考えていたとは思わなかった。
ギコやロマネスクも嬉しそうに頷いている。
いつも無表情なベルベットさえ、どことなく明るく見えた。
(´・ω・`)「全ての不安を払拭したわけではない。ジョルジュ大将が何もせんとは限らんしな。
常に多くのことを考えて動く必要がある。周りに気を配る必要がある。
だが、果敢に攻めよう。必ず、オオカミを潰せると信じて」
ショボンが立ち上がって、壁に立てかけられていたYを握った。
天井に接しそうなほどの長さ。長斧。
やはり頼もしく見える、と思った。
数日後にはローゼン城を発って、一日でも早くシャッフル城に入る。
そしてフェイト城、ミーナ城を奪い、オオカミ城に迫るのだ、という。
- 241 :第64話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/18(土) 03:24:59.45 ID:Fq1YT1670
- ラウンジはヒダマリ城、ネギマ城、ヒトヒラ城と、順々に北から攻めるつもりらしい。
軍勢、およそ十四万。ラウンジはかつてない大軍を出してきた。
オオカミは二十二万を相手にすることになる。
とても抗える数ではない。
オオカミの滅亡が、一気に現実味を帯びてきていた。
第64話 終わり
〜to be continued
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