4 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 22:56:26.78 ID:1GiZgZlt0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
29歳 少将
使用可能アルファベット:S
現在地:シャッフル城

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
39歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:シャッフル城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
34歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オリンシス城

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
37歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ^Д^) プギャー=アリスト
35歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城
7 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 22:57:12.24 ID:1GiZgZlt0
●( ><) ビロード=フィラデルフィア
32歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
28歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城


〜ラウンジの兵〜

●(`・ι・´) アルタイム=フェイクファー
47歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:リリカル城

●( ’ t ’ ) カルリナ=ラーラス
33歳 
少将
使用可能アルファベット:P
現在地:リリカル城

●( ̄⊥ ̄) ファルロ=リミナリー
31歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:リリカル城
9 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 22:57:53.33 ID:1GiZgZlt0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/ギコ
少将:ブーン/プギャー

大尉:ビロード
中尉:ベルベット
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
18 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 22:58:34.42 ID:1GiZgZlt0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:ギコ/プギャー/ベルベット
S:ブーン/ニダー
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ジョルジュ/モララー
W:
X:ショボン
Y:
Z:
22 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 22:59:04.90 ID:1GiZgZlt0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 ラウンジ
(ギフト城〜リリカル城)

 

 

29 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 22:59:46.99 ID:1GiZgZlt0
【第61話 : Afresh】


――世界歴・525年――

――リリカル城――

 新年になるともに、雪がちらついてきた。
 真っ暗闇だった空が、微かに白く見える。

 やがて雪の粒は大きくなり、手のひらの熱でも容易くは溶けなくなった。

 ふう、と息を吐きだした。
 白濁した吐息が雪と混ざる。
 そして、消えゆく。

 もう一度空を見上げた。
 無数に降り注ぐ雪が犇めき合っている。
 左右に揺れながら舞い落ちてくる。

 明日の朝、この雪は積もっているだろうか。

( ’ t ’ )(……今は一粒ずつ見える雪も……積もってしまえば、みな一緒だ……)

 地面に落ち、溶ける粒もある。
 積もり重なる雪の一部となる粒もある。

 雪の一粒だけが残ることは、ない。
 空から舞い降りている間は個々として存在していても。
 やがては、みな同じ運命に辿り着くのだ。
37 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:01:35.39 ID:1GiZgZlt0
(`・ι・´)「雪見酒か?」

 後ろからアルタイムが現れた。
 大広間の側にあるテラスで、軽く酒を飲みながら雪を見ていたのだ。

( ’ t ’ )「さほど寒くないですし、雪を見ながらというのも悪くありませんね」

(`・ι・´)「きっと酒で体が火照っているんだろう」

( ’ t ’ )「そうかも知れません」

 アルタイムが側に座りこんだ。
 椅子もない。机もない。
 大将と少将が酒を飲む場にしては、簡素すぎた。

(`・ι・´)「きれいだな」

 アルタイムが酒を呷りながらそう言った。
 酒を飲んでいる間も、雪から目を離すことはなかった。

( ’ t ’ )「きっと積もるでしょう」

(`・ι・´)「あぁ」

 空になった酒瓶を転がし、アルタイムが息を吐いた。
 やはり同じように、白く濁っている。

 新年を祝う宴が大広間では行われている。
 まだヴィップとは交戦中だが、年末と年明けは互いに攻め込まない、という暗黙の了解がある。
 恐らくヴィップでも今頃、新年の祝宴が行われていることだろう。
43 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:03:10.06 ID:1GiZgZlt0
(`・ι・´)「ヴィップのドクオ=オルルッドが討ち取られたらしい」

 新しい酒瓶の栓を雪中に放り込んで、アルタイムが言った。
 頬の赤みが、雪と混ざりあって鮮やかなものに見えた。

( ’ t ’ )「存じております」

(`・ι・´)「東塔の中軸を担いつつあった将だが……オオカミの策略に嵌められた、とのことだ」

( ’ t ’ )「大きな痛手ですね」

(`・ι・´)「あぁ。これで東塔は、二年足らずの間に四人の将校を失った」

( ’ t ’ )「ここ最近、主だった将を失うことのなかったヴィップですが……一気に来ましたね」

(`・ι・´)「今までは既にピークの過ぎた将ばかりだった。
     モナー=パグリアーロや、イヨウ=クライスラー。
     そして裏切りのシラネーヨ=ネーロ」

( ’ t ’ )「しかしドクオ=オルルッドは、まさにこれから、という将でしたね」

(`・ι・´)「あのミルナを相手に、単身で打ち勝った将だ。いずれラウンジにも立ち向かってくるか、と思っていたが」

( ’ t ’ )「ラウンジとしてはありがたいことですが……少し、寂しいような気もします」

(`・ι・´)「俺も同感だ。不思議なものだな」

 小さな豆粒を齧りながら、アルタイムは酒を飲んでいた。
 自分はあまり好きではないが、アルタイムはその豆がなければ酒が飲めない、という。
 雪の粒より、いささか大きな豆粒だった。
49 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:04:50.53 ID:1GiZgZlt0
(`・ι・´)「いかに敵国と言えど、才気ある将が死んでしまうというのは、不思議と寂しい。
      無論、自国の将なら尚更だが」

( ’ t ’ )「できれば、一度手合わせ願いたかったものです」

(`・ι・´)「一度くらいは戦ってみたかった、と俺も思う」

 戦に生きる者としての、本性だろうか。
 勝敗ということを抜きにすれば、強い相手と戦いたい、と思ってしまうのだ。
 弱い相手では手応えがない。自身の糧となってくれない。そんな気がするのだ。

 自分は、国軍の将校だ。
 常に勝つことだけを考えなければならない。
 だから、可能な限り弱い相手を引き出す努力もする。

 ただ、その作業ほどつまらないものはない、と思っていた。
 自分が全力を出す。それに、相手が応えてくれる。
 戦とは、そういうものでなければならない、と思っているからだ。

 だから、ジョルジュ=ラダビノードとの戦いは、嫌いではなかった。
 まだ一度も満足に勝てていない。自分が戦った中では、最強の相手。
 それでも、充実感を覚えるのだ。

 自己を高めようとする。
 相手に、追いつくために。
 そんな相手がいることが、心のどこかで嬉しいのだ。

 ジョルジュがいなければ戦は楽になるだろう。
 だが、寂しさは恐らく拭えない。
59 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:07:25.77 ID:1GiZgZlt0
 武人とは、不器用で、不思議な感情を抱く生き物なのだ。
 そんなことをベル=リミナリーも言っていた。

(`・ι・´)「しかし、ドクオを失った東塔は今後、どう出るのか……」

( ’ t ’ )「前線に何人かの将を残して、一度ヴィップ城に帰還する、という話もありますね」

(`・ι・´)「体制を立て直す意味でも、それが一番いいかも知れんな」

( ’ t ’ )「短期間に多くの将を失って、盤石ではないでしょうからね」

(`・ι・´)「じっくりと力を蓄え、いずれオオカミと再戦、か」

( ’ t ’ )「そうなるでしょう」

 ヴィップは、特に東塔は、崩れつつある。
 このままオオカミと戦っても、恐らく勝てないだろう。

 まずは軍内を鎮める。
 落ち着かせ、体を休め、力を蓄える。
 しかる後に、オオカミとの再戦に臨む。

 それが最も確実な方法のはずだ。

(`・ι・´)「まぁ、俺たちは東塔のことより、西塔のことを考えねばならん」

( ’ t ’ )「そうですね」
65 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:09:12.76 ID:1GiZgZlt0
(`・ι・´)「今年中に、何とかギフト城を取り返したいところだが」

( ’ t ’ )「やりましょう。やられっぱなしではいられません」

 アルタイムが頷いた。
 揃って立ち上がり、再び大広間へと戻っていく。

 ヴィップは相変わらず手強い相手だ。
 しかし、勝機がないとは思わない。
 必ず勝つ道は残されているはずだ。

 その道を、見つけ出してやる。
 自分の、誇りにかけても。

( ’ t ’ )「待っていろ、ジョルジュ=ラダビノード」

 心の中で発したつもりだった言葉が、自然と口から出ていた。



――オオカミ城・大将室――

 心に穴が開いたかのような。
 何かを、失ったかのような。

 そんな気分だった。

(ゝ○_○)「ミルナ大将、今回の戦に関する報告書を」

( ゚д゚)「あぁ……そこに置いといてくれ」
74 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:10:53.59 ID:1GiZgZlt0
 適当にリレントをあしらい、部屋から退出させた。
 いつもに増して喋りたくない気分だった。

 積み重なった書類の山を、崩す気になれない。
 朝からずっと、椅子に座って呆然としている。

 ドクオ=オルルッドの首を斬った。
 敵国の将を、討ち取った。

 作戦は上手くいった。
 自分がドクオをおびき出して討ち取ることを考え、リレントが謀略を仕掛けた。
 どんな謀略を仕掛けたのかは聞いていないが、あの顔を見る限りでは、恐らく上手くいったのだろう。

 喜ぶべきなのだ。
 成長著しかったドクオという将を、消せた。
 これでヴィップ軍は大きく揺らぐことだろう。

 だが、この虚無感はいったいなんなのだ。
 ベルの死を見たときとも違う。ドラルを失ったときとも違う。
 例えるなら――――ともに天下を目指そうと誓いあった、友を失ったかのような――――。

( ゚д゚)(……くそっ……)

 心のどこかで、思っていた。
 これからもドクオとは鎬を削り、競い合っていくのだろうと。
 互いを高め合っていくだろうと。

 ショボンとが、そうだと思った。
 あいつとの間に宿命がある、と。
79 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:12:34.60 ID:1GiZgZlt0
 確かにショボンは、何度も死闘を繰り広げ、極限まで戦った宿敵だ。
 強靭で、精強。越えたい、と思った。
 いつか越えてやる、と心に誓った。

 だが、ドクオとは何かが違う。

 恐らくあいつは、似ていたのだ。
 自分自身と。

 昔の自分に追いかけられるような気がして、嬉しかった。
 楽しかったのだ。

 だから心のどこかで、ドクオが作戦を打ち破ってくるのではないか、と思っていた。
 また、ドクオがどう出てくるか、楽しみでもあった。
 結果的に何もかも目論見通りに終わってしまったことが、この虚無感を生み出したのだろう。

 それでも、討ち取らなければならなかった。
 国軍の大将として。一人の男として。
 ドクオのためにも。

 せめて最後に、一目くらい妹に会わせてやれば良かったのだろうか。
 そうも考えたが、難しい。妹は辛いだろう。
 ドクオもそれを望んだかは分からない。

 オオカミ城で会わせれば、妹は何かを思うだろう。
 そして何かを思ってしまえば、妹は兄を失う苦しみに苛まれる。
 そう考えるとやはり、妹に会わせることはできなかった。
85 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:14:15.51 ID:1GiZgZlt0
 自分の作戦通りの結末だったのだ。
 何もかも、自分が導いた結果なのだ。
 なのに気落ちしてしまっているとは、いったいどういうことか。

 あまりに自分勝手甚だしい。
 それも全て分かっているのだ。

( ゚д゚)(ちっ……)

 椅子から立ち上がり、寝床に身を投げた。
 とても仕事する気分になれない。

 大将失格だ、とリレントあたりに言われてもおかしくない状況だった。
 再びリレントが来るまでには、やる気を取り戻す必要があるだろう。

 窓の外を一瞥し、寝返りを打った。
 空とは対照的なほどに暗い壁が眼の前にある。

 ヴィップは、軍を退いた。
 フェイト城狙いもやめ、オリンシス城とシャッフル城に二万ずつ残しヴィップ城に帰った。
 しばらくは攻め込んでこないだろう。

 今のうちに、オリンシス城の奪還を狙うべきだろうか。
 二万の兵。難しい数ではある。
 ヴィップは兵糧にも余裕があるだろう。

 駄目だ、攻め込めない。
 オオカミも戦続きで疲れている。
 しばらく力を蓄えなければならない。
89 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:16:10.86 ID:1GiZgZlt0
 中将はこのまま三人でいいだろう。
 他に上げるべき将校も思い浮かばない。

 しかし、ここ数年で多くの将校を失ってしまった。
 近いうちに将校を増やす必要がありそうだ。
 あとでガシューに調査させようか、とぼんやり考えた。

( ゚д゚)(……当分、このままか……)

 ありがたかった。
 今から戦に向かえと言われても、そんな気になれない。
 アルファベットを握る気さえ起きないのだ。

 時間が経てばまた、いつもの自分に戻れるだろう。
 それまでは無理せず、ゆっくり体を休めよう、と思った。

( ゚д゚)(……よし、片付けるか)

 再び執務机に戻って、書類を手に取った。
 手早くチェックして、次々に処理済みの箱へ投げ入れていった。



――ヴィップ城――

 国葬に参加しても、実感が沸かなかった。
 棺に入れられた体と、送られてきた首を見ても。

 本当に、ドクオが死んだだなんて。
96 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:17:52.55 ID:1GiZgZlt0
 幼い頃からずっと一緒だった。
 ともにヴィップの天下のために戦うと誓った。
 国軍に入ってからも、同じ戦場で戦ってきた。

 そのドクオが。
 本当に、死んだ。

 涙が止め処なく溢れ、夜も眠れなかった。
 どうしようもない悲しみ。
 明け暮れを涙と共に過ごすしかなかった。

 友を、失ったのだ。
 幼い頃から親しかった友を。
 生涯共に戦おうと決めた。ヴィップのために生きようと決めた。

 しかし、もういない。
 二度と帰ってはこないのだ。

(,,゚Д゚)「……ブーン」

 ギコが、部屋の扉を叩いていた。
 ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと歩き、扉を開ける。
 こちらを見てギコは、一瞬驚いたような顔をした。

(,,゚Д゚)「眼、真っ赤だな……」

( ´ω`)「すみませんお、こんな状態で……」

(,,゚Д゚)「あぁ、いや……いいんだ。それより……」
106 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:19:41.97 ID:1GiZgZlt0
 ギコが、一歩隣に動いた。
 その影から姿を現した者。
 ドクオと同じように、小柄だ。

 ギコの嫁である、しぃだった。

(*゚ー゚)「久しぶりだね! 元気だった!?」

 以前と変わらぬ明るさ、以前と変わらぬ元気さ。
 ギコを押しのけて強引に迫ってくる。

 両手に何かを抱えていた。
 箱。正方形の箱だ。
 宝箱のような開閉部があった。

(*゚ー゚)「あのね! ご飯作ってきたの! 一緒に食べよ!!」

(;^ω^)「ちょっ、しぃさん」

(*゚ー゚)「早く早く! 冷めちゃうよ!」

 しぃが無理やりに部屋に入ってきた。
 慌ててその後を追う。

 雑多に散らかっていた机の上を片付け、しぃの箱を乗せた。
 蓋を開けると、中からいくつもの料理が飛び出してくる。
 美味しそうな匂いが辺りに漂った。

(,,゚Д゚)「飯はまだだったか?」
114 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:21:29.05 ID:1GiZgZlt0
(;^ω^)「実は昨日から何も食べてなくて……」

(*゚ー゚)「そんなのダメだよ! すっごく食べなきゃ!」

(;^ω^)「すごく食べなきゃ、って……」

(*゚ー゚)「とにかく食べよ! いただきまーす!」

 真っ先にしぃが料理に手を付け、口に放り込み始めた。
 ギコが慌てながら隣に座って、手を合わせる。
 自分も同じように手を合わせ、しぃの料理を頬張った。

 久方ぶりだが、やはり絶品だった。
 遠征先で食う味気のない兵糧とは格が違う。

 食べるのに夢中になってしまっていた。
 昨日から何も口にしていなかったため、本当は空腹だったのだ。
 何も食べたくない気分だったが、一度口にすると止まらなくなった。

(*゚ー゚)「すごーい、いっぱい食べてるね」

( ^ω^)「美味しいですお」

(*゚ー゚)「うん!」

 時折談笑を交えながら、全ての料理を平らげた。
 しぃは嬉しそうにずっと笑っていた。

(*゚ー゚)「また来るね♪」
118 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:23:12.66 ID:1GiZgZlt0
 持って箱を両手で抱え、さっと立ち上がり部屋の扉へ向かうしぃ。
 礼を言う間もなく退出してしまった。

 ギコと共に、ではなく、しぃは一人で帰って行った。
 それも、料理を食べ終えてすぐだ。
 ギコとは部屋が隣のため、迷ったりはしないだろうが、ギコが一緒でないことに疑問を感じた。

 しかし、その疑問もすぐ消え去ることとなった。
 ギコの顔を見たら、だった。

(,,゚Д゚)「すまん……迷惑だったか?」

( ^ω^)「……いえ、とんでもないですお」

(,,゚Д゚)「元気を出してくれたら……と思ってしぃを連れてきたんだが……。
    もし逆に疲れさせちまったらすまんな……」

( ^ω^)「なんだかちょっと元気が出てきましたお。しぃさんの元気につられたみたいですお」

(,,゚Д゚)「そうか、それなら良かった」

 しぃの明るさだけではない。
 ギコの心遣いも嬉しくて、元気が出てきたのだ。

 友を失って気落ちしていることを、心配してくれた。
 その優しさが、嬉しかったのだ。

(,,゚Д゚)「俺はお前より何年か長く軍にいる。仲の良かったやつが死ぬこともよくあった」
122 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:24:53.47 ID:1GiZgZlt0
 湯呑みを傾けながら、ギコがそう言った。
 切なげだった。

(,,゚Д゚)「俺ももう三十七……若くはねぇ……ここまで生き残ってるやつはあまり多くない……」

 口から離した湯呑みには、まだ湯気が立っていた。
 ゆらりと立ち上り、しかしすぐに消える。

(,,゚Д゚)「もちろん、悲しい思いをすることも多々あったさ……」

( ^ω^)「……いつか訪れることだ、とは分かっていたんですお……でも……」

(,,゚Д゚)「誰だっていつかは果てるからな……でも、若いうちはなかなか割り切れねぇだろ……。
    特にお前にとっちゃ、ドクオほど親しい人間との死別は初めてだっただろうしな……」

( ^ω^)「……はいですお……」

(,,゚Д゚)「まぁ……そんでだな……実は、ここに来た理由はもう一つあるんだ」

 湯呑みから手を離し、懐から一枚の紙を取り出した。
 真新しい。汚れ一つない。

(,,゚Д゚)「実は今朝、ツンさんのところに行ってきたんだ」

( ^ω^)「ツンさん……?」

(,,゚Д゚)「アルファベットを新調してもらおうと思ってな。
    まだSの壁は越えてないんだが、Rの期間が長くなっているからな。
    で、この紙をブーンに渡してほしいと言われたんだ」
129 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:26:37.81 ID:1GiZgZlt0
 手渡された。
 何故か、温かみを感じる紙だった。

(,,゚Д゚)「俺からの用はそれだけだ。じゃあな」

(;^ω^)「あ、あの」

(,,゚Д゚)「ん?」

 膝に手を突いて、立ち上がりかけたギコ。
 それを、何故か静止してしまった。
 一瞬、言葉が出てこなかった。

( ^ω^)「……あの……」

(,,゚Д゚)「?」

( ^ω^)「……気を遣っていただいて、ありがとうございますお」

 頭を下げた。
 ギコほどの将が、自分を心配してくれたのが、心底嬉しかったからだ。
 おかげで気持ちはかなり楽になっていた。

 頭を上げると、ギコは軽く笑っていた。

(,,゚Д゚)「夜には軍議があるらしい。またそこでな」

( ^ω^)「はいですお」
139 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:28:46.20 ID:1GiZgZlt0
 ギコの背中に手を振って、別れを告げた。
 そしてすぐ、ツンから貰った紙を開く。

 『時間があったら小屋に来てほしい。
 少しだけ、話したいことがあるから。』

 小さな紙に、それだけが書かれていた。

 その後、寝床で少し休んでから、衣服を着込んで部屋を出た。
 アルファベットを握って帰らずの森へと向かう。

 帰らずの森とはせいぜい三里ほどしか離れておらず、馬を使わずとも行ける距離だ。
 だが、徒歩では誰かに狙われたときの危険性も高まるので、馬を使うよう推奨されていた。

 尤も、将校を討ち取ろうと思うなら、少数人数では話にならない。
 大人数で近付けば必ず誰かが気付く。
 一度帰らずの森とヴィップ城の間で襲われたことがあるが、あの人数が限界だろう。

 そしてあの程度なら、さほど苦労せずに殲滅することができる。
 Sの壁を越えていれば、尚更だった。

 森の護衛に道を開けてもらい、森の中へと踏み入った。
 相変わらず外とは別世界のような薄暗さだ。
 木々が隙間なく生えており、空からの光を遮っている。

 この森には、多くの動物が棲息している。
 猫や兎のような大人しいものから、犬や狐や狼といった猛々しい動物までいるのだ。
 しかも何故か動物たちは仲良く共存している。不思議なものだった。
145 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:30:28.66 ID:1GiZgZlt0
 ツンに会いに来るとき、たまに動物たちに餌をやっている姿を見ることがある。
 自分で作ったらしい料理を振舞っているのだ。
 ツンの料理を見た瞬間に後ずさりしている動物がいたときは少し笑えたが、結局は美味しそうに食べていた。

 一度ツンの料理を食べてみたいと思っているが、ツンには何度も拒まれた。
 恥ずかしそうな顔で、ブーンくんに食べさせる料理なんかない、と言うのだ。
 落ち込んでしまうのが嫌で、ここ数年は食べさせてほしいと頼んだことがなかった。

 凹凸の激しい道をしばらく歩くと、ツンの住んでいる小屋が見えてくる。
 いつもほのかな赤味を帯びた小屋だ。
 建てられてからだいぶ経っていることは外観からも分かる。

 扉を二度叩いて、中からの反応を待った。
 ツンはすぐに出てきてくれた。

ξ*゚听)ξ「こ、こんにちは」

( ^ω^)「こんにちはですお」

ξ*゚ー゚)ξ「久しぶりだね……」

 何とか笑顔を作ってツンと目を合わせた。
 自分よりいくつも年上だが、未だに出会った頃と同じような美しさを保っている。
 毎日工房でアルファベットを作成しているとは思えないほどだ。

 中に入って、木製の椅子に腰掛ける。
 もう随分と座り慣れた椅子だ。
154 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:32:10.06 ID:1GiZgZlt0
 ツンが出してくれたハーブティーを少しずつ飲みながら、ツンの言葉を待った。
 まだ淹れたてで熱く、ひといきでは飲み干せない。
 息を吹きかけて少し冷まそうとした。

ξ゚ -゚)ξ「……あのね……話っていうのは、ドクオくんのことなの……」

 いきなりだった。
 驚いて勢い良くカップを置いてしまい、少し零してしまった。

 まさか最初からその話だとは思わなかった。
 ツンの真面目な表情、そして沈んだ表情は、変わらない。

ξ゚ -゚)ξ「私もドクオくんとは何度もお話したし……ドクオくん、いい人だったから……悲しいよ……」

( ´ω`)「……ですお……」

ξ゚ -゚)ξ「……私は職業柄、こうやって話す人が突然いなくなるってこと、何度も経験してきた……。
    この前は、モナー様とイヨウさんの訃報を受けたばかりだし……。
    でも、やっぱり私は少し慣れちゃってる部分があるんだと思う……」

 風が吹けば森の木がざわめく。
 しかし、今日は何の音も聞こえてこない。ただ閑寂さだけがあった。

ξ゚ -゚)ξ「ブーンくんは……昔からずっと一緒だったドクオくんがいなくなって……きっと凄く悲しいと思う……。
    ドクオくんくらい親しい人との、こんな別れ方……きっと初めてだろうし……。
    でもね……やっぱり、生きている人には、死んだ人のぶんまで頑張ることしかできない、って私は思うの」

( ^ω^)「……ブーンも、そう思いますお……」

ξ゚ -゚)ξ「うん……」
159 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:33:51.93 ID:1GiZgZlt0
 ドクオはまだ三十にも達していなかった。
 まだまだ、生きられる時間は残っていたはずだ。
 しかし、戦場とはあまりに無情なものなのだ。

 自分もドクオも、同じように多くの命を奪ってきた。
 ただ国家のために。ただ天下のために。
 そして、ドクオは同じ理由で命を失った。

 それは戦に生きる者として、必然とも呼べる結果なのだ。
 望む者さえいる。事実、自分もそうだ。
 戦場に身を置く者としては、満足のいく結末なのだ。

 ドクオもきっとそうだっただろう。
 だからこそ生きている者は、ずっと悲しんでいるわけにはいかないのだ。
 いつかはまた、戦場に立たなければならないのだから。

ξ゚ -゚)ξ「それとね……ドクオくんから、伝言があるの」

( ^ω^)「……伝言?」

 意外な一言だった。
 ツンとドクオに、それほど接点があるとは思っていなかったからだ。
 ドクオが、ツンに。いったい、何を言い残したのだろうか。

ξ゚ -゚)ξ「ドクオくん……妹さんいるでしょ?」

( ^ω^)「いますお。オオカミに」

ξ゚ -゚)ξ「その妹さんに対する悩みを、何度か私に相談してたの。
      他に喋れる女の人いないし……って言ってた」
166 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:35:39.81 ID:1GiZgZlt0
( ^ω^)「ドクオは小さいから女の子には人気がなかったんだお」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ。自分でもそう言ってた。
    で、やっぱり妹に関することだからって、女の私に相談してたんだけど……。
    まぁ、実を言うと内容は、妹との思い出話がほとんどで……」

( ^ω^)「ブーンも何度か聞いたことありますお。兄ながら可愛い妹だって言ってましたお」

ξ゚ー゚)ξ「それも聞いたよ。いつも楽しそうに思い出話してたし……聞いてるほうまで楽しくなるくらい。
    ……でね、伝言っていうのは、そんな大したものじゃなくて……。
    ドクオくんも、軽い冗談のつもりで言っただけだと思うんだけど……」

( ^ω^)「?」

ξ゚ -゚)ξ「……もし俺が死んじゃったら……ブーンに、妹をよろしく頼む、って伝えてくれ、って……」

 少しだけ、風が吹いたようだった。
 小屋の外から、木々の触れあう音が聞こえてきた。

ξ゚ -゚)ξ「俺は国家に尽くす軍人だから……小さい頃からずっと、ヴィップのために生きると決めてたから……。
    軍人として、祖国に忠誠を誓った男だから……妹を、守りきれないことも、あるかも知れない……。
    ……だからもし、俺が死んだときは……」

 そこで、手を出した。
 開いた掌を、ツンの口元近くまで持っていった。

 それ以上聞けば、きっとまた涙が止まらなくなってしまう。
176 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:37:21.20 ID:1GiZgZlt0
( ^ω^)「……分かったお……ブーンがドクオの代わりに、妹さんを守るお」

ξ゚ -゚)ξ「……うん」

 オオカミを、討ち滅ぼす。
 その意志が、自分の中にはっきりと芽生えた。

 それは国家のために。
 そして、友のために。

 どちらも自分には、不可欠なのだ。
 そうやって、生きていく男だから。

 これからも、戦っていかなければならないのだから。

( ^ω^)「ツンさん、本当にありがとうございますお。おかげで、頑張れそうですお」

ξ///)ξ「う、うん……」

( ^ω^)「じゃあ、僕は失礼しますお。これから夕飯食べて軍議に行かなきゃなんですお」

ξ*゚听)ξ「あ! それならうちで……!」

 ツンが、はっとした顔をした。
 自分の言ったことに、自分で驚いているような表情だった。
182 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:39:13.73 ID:1GiZgZlt0
( ^ω^)「……いいんですかお? 今まで、何度頼んでも食べさせてくれなかったのに……」

ξ///)ξ「べ、別に食べたくないんならいいわよ! どうせ下手だし……」

( ^ω^)「とんでもないですお! 是非いただきますお!」

 ツンは恥ずかしそうに頷いて、すぐに食材棚へ向かった。
 慌てて野菜を取り出し、そして腕から零す姿が、可愛く見えた。

 料理をしているツンの後ろ姿を、眺めているだけで少し、幸せな気分になれた。



――夜――

――ヴィップ城・第一軍議室――

 灯されたランタン、そして月灯り。
 それだけで十分、軍議室内は明るかった。

(´・ω・`)「今日話したいのは、二つだけだ。まず新将校について」

 何となく見覚えのある顔が、ずっと直立していた。
 それは、部屋に入ったときから気になっていた。

( ^ω^)(……あれが、新将校かお?)

 軍議室の椅子に着座している全将校の視線が注がれていた。
 そこに立つ、三人の男に。
194 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:41:02.70 ID:1GiZgZlt0
(´・ω・`)「まずはロマネスク。ギコの配下で部隊長をやっていたな」

(,,゚Д゚)「はい。まだ若い男ですが、才気はあると思います。果敢に攻め込む戦が身上ですね」

(´・ω・`)「という推薦を受けて将校とした。じゃあ、軽い自己紹介を」

 ショボンが視線で促し、一歩前に出た。
 特徴的な目をした男だ。

( ФωФ)「我輩の名はロマネスク=リティット。今後ともよろしくお願い申し上げまする」

 ロマネスクが頭を下げると同時に、皆から軽く拍手が起きた。
 さすがにこの人数では、大きな音にはならない。

 ロマネスクが空席の一つを埋め、次の兵へ紹介が移った。

(´・ω・`)「残る二人はともに俺の配下だった兵だ。
      デミタス=コーフィー。そしてオワタ=ライフ」

(´・_ゝ・`)「よ……よろしくお願いします」

\(^o^)/「よろしくお願いします」

(´・ω・`)「二人とも部隊長が長かったため経験はある。すぐにでも活躍してくれることと思う」

 また小さな拍手が起きた。
 大柄な割に気弱そうなデミタスは、そそくさと自分の席へ。
 小柄でさっぱりとした顔のオワタはゆっくり自分の席に着いた。
215 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:42:44.64 ID:1GiZgZlt0
(´・ω・`)「とりあえず三人が新たに将校となった。これからしばらくは、この面子で戦に臨むこととなる」

(,,゚Д゚)「二つ話すことのもう一つは、戦ですか?」

(´・ω・`)「あぁ、そうだ。今後の東塔について、だな」

 ショボンが着座しながらそう言った。
 軍議室の最奥。一際大きな椅子。
 ショボンによく似合う、と思った。

(´・ω・`)「今ここにはモララーもビロードもプギャーもいない。
      だからあくまで暫定だが、俺は来年には再びオオカミとの戦に臨むつもりだ」

 ショボンの椅子の背凭れに、Xが立てかけられていた。
 背凭れからはみだし、月灯りを反射して輝いている。
 力強い光だった。

(´・ω・`)「この短期間で東塔は多くの将校を失った。オオカミに討ち取られた。
      モナー中将、イヨウ、そしてドクオ……。
      戦に死者はつきものとは言え、俺は三人の死を決して忘れない」

( ^ω^)「……ですお」

(,,゚Д゚)「そうですね……」

(´・ω・`)「特にドクオの死に関しては……俺は、まだ若かったあいつを失ったことに、気落ちした。
      同時に、仇を討ちたいと思うようになった」

 ショボンの拳が、固く閉じられていた。
 何かを握り潰すかのように。
242 :第61話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/11(土) 23:44:43.79 ID:1GiZgZlt0
(´・ω・`)「俺は何がなんでもオオカミに勝つ。先の敗戦は必ず取り戻す。
      皆、俺についてきてくれ。俺が必ずヴィップを勝利へと導く。
      ミルナを、討ってみせる。例えこの手が何色に染まろうとも」

 並々ならぬ闘志。
 そして、覇気。

 ショボンの熱意が、皆に伝わった。

 次のオオカミ戦、何がなんでも勝とう。仇を討とう。
 国家のためにも、皆のためにも。
 そして、ドクオのためにも。

 以前よりも強く、強く、そう思った。













 第61話 終わり

     〜to be continued

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