3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:14:20.93 ID:9P/qn/w/0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
28歳 少将
使用可能アルファベット:S
現在地:フェイト城付近

●('A`) ドクオ=オルルッド
28歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城北の森

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
38歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:フェイト城付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
33歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:フェイト城付近

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
36歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城付近
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:15:28.47 ID:9P/qn/w/0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
34歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城付近

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
31歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:フェイト城付近

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
27歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城付近
14 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:16:37.87 ID:9P/qn/w/0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/ギコ
少将:ブーン/プギャー

大尉:ビロード
中尉:ドクオ/ベルベット
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
20 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:17:22.87 ID:9P/qn/w/0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:ドクオ/ギコ/プギャー/ベルベット
S:ブーン/ニダー
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ジョルジュ/モララー
W:
X:ショボン
Y:
Z:
22 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:18:04.06 ID:9P/qn/w/0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 オオカミ
(シャッフル城〜フェイト城)

・ヴィップ 対 ラウンジ
(ギフト城〜リリカル城)

 

25 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:19:22.61 ID:9P/qn/w/0
【第60話 : Laugh】


――オリンシス城北の森――

 茂みを薙ぎ払う、ミルナの一撃。
 あまりに鋭い。

 情けなく逃げることしかできなかった。

(;'A`)「ブハァッ!!」

 アルファベットR。
 あんなに遠い。

( ゚д゚)「お前との再戦が、このような形になるとは思わなかった」

 ミルナの追撃。
 振り下ろされるU。

 必死で手を伸ばした。
 R。柄。
 手で、掴んだ。

 そのまま形振り構わず振りまわした。
 それが運良く、ミルナのUを弾いてくれた。

(;'A`)「ハァ、ハァ、ハァ……」
30 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:21:46.92 ID:9P/qn/w/0
 すかさず距離を取った。
 道に出て、ミルナと相対する。
 互いに、体勢は整っている。

( ゚д゚)「これが最後の戦いになるだろうな」

 ミルナはUを下げたままだった。
 しかし、隙はない。

( ゚д゚)「お前に逃げ場はない。助けも来ない。
    生き延びたくば、俺を殺すしかないぞ」

('A`)「……分かってるさ」

 覚悟は決めている。
 入軍したときから、ずっとだ。

 鳥の鳴き声が聞こえた。
 小さく、断続的に。
 二人の間の空白を塗り潰すように。

( ゚д゚)「ゆくぞ」

 ミルナが一瞬、線になった。
 闇から、消えた。

 鈍い衝撃。
 全身を、襲う。

(;'A`)「ぐっ!!」
37 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:24:33.43 ID:9P/qn/w/0
 あまりに重い打ち込み。
 一撃でアルファベットが砕かれそうなほどだ。
 よく持ちこたえたと自分で思った。

 手首を捻り、Uの力を逸らせた。
 地面へとUの刃が向かう。
 若干の、隙。

 Rの刃を向かわせた。
 力はこもっていない。それでも、アルファベットには力がある。
 強引に突き刺すだけで致命傷となる。

 しかし、腹部への衝撃。
 何かが、突き刺さったような。

(;゚A゚)「ぐぼぇっ……」

 腹の中のものが口から飛び出しそうだった。
 口腔内が、ほのかに酸っぱい。

 ミルナの、蹴りだった。
 強引に足を振りあげてきたのだ。

 すぐに体勢を立て直した。
 互いに、だ。
 ミルナも蹴りが強引だったため、地面に手がついていた。

 一瞬、こちらのほうが早くアルファベットを振るえた。
 勢いよく振り下ろす。
 ミルナは、対応が遅れている。
44 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:26:50.16 ID:9P/qn/w/0
 Uのようにリーチのあるアルファベットなら、縦の攻撃には反応しづらいはずだ。
 ここは振り上げや振り下ろしで攻撃していくしかない。

 それでもミルナは受け止めてきた。
 さすがに、アルファベットの使い方は巧い。

 押し返される。
 怯むわけにはいかない。即座に振るい直した。
 今度は、横。

 だが、横の攻撃では弱すぎる。
 縦に構えられたUに、軽々と受け止められた。
 すぐにアルファベットを引く。

 前回戦ったときは、Pだった。
 今回はR。前より、多少は長く持ちこたえてくれるだろう。
 それでも、激しく何度もぶつかり合えば、破壊される可能性はある。

 騎馬上の戦いではない。
 ここでは、手足が使える。
 それを最大限、活かしていく必要があるだろう。

 だが、ミルナは自分より一尺近く身長が高い。
 体格的にも不利なのは否めなかった。

 それでも、戦うしかないのだ。

(#'A`)「ハァッ!!」
52 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:29:11.24 ID:9P/qn/w/0
 打ち込んだ。
 ミルナは正面から受け止めてくる。
 こちらのアルファベットを疲弊させようという狙いか。

 素早く引いて、今度は突いた。
 だが、それもUは防いでくる。

 刀身に大きな穴が開いているアルファベットだ。
 その穴がある限り、突きは通じない。
 容易く受け止められてしまう。

 Rの刃を開いた。
 この状態のほうが、恐らく戦いやすい。
 短い柄を握りながらだと片手でも力が込めやすい、というメリットもある。

 相対的に横の威力が殺されてしまうが、やはりここは縦で挑むべきだろうと思ったのだ。

 Rを振り上げた。
 またもミルナは受け止めてくる。
 すぐにRを引いて追撃。振り下ろす。

 金属音が鳴り響いた。
 ミルナは、Uを横に構えて受け止めてきた。
 ここは、引けない。

 火花が散りそうな鍔迫り合いが続く。
 押し切りたい。押し切ってしまいたい。
 両腕で握って全力を込めた。
54 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:31:46.55 ID:9P/qn/w/0
(#'A`)「おおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

(#゚д゚)「ふんぬッ!!」

 ミルナの力が強まる。
 逆に、押し返そうとしてくる。
 左足を引いて、盤石の体勢を整えている。

 負けてたまるか。
 討ち取ってやる。勝ってやる。
 まだ死ぬわけにはいかないのだ。

(#'A`)「ぬあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ミルナが、一瞬怯んだ。
 二つのアルファベットが離れる。
 体勢が悪いのは、ミルナだ。

 いける。
 ミルナに、アルファベットを突き立てられる。

 しかし、その時。
 何故か不意に、風を感じた。
 同時に、それを切り裂く音も。

(;'A`)「ッ!?」

 またも、腹部に蹴りを受けた。
 ミルナに蹴り飛ばされた。
60 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:34:18.73 ID:9P/qn/w/0
 そして、駆け抜ける一本のF。

 遠方より飛来し、先ほどまで自分がいた位置を、翔け抜けた。

(;'A`)「なっ……」

(兵〒_〒)「ミルナ大将! 御無事ですか!?」

 オオカミの兵。
 アルファベットDを右手に持っていた。

 もしミルナが蹴飛ばしてくれなかったら、今ごろ首を失っていただろう。
 危ないところだった。

 しかし、危機は続く。
 戻ってきたオオカミ兵、およそ三十。
 全て騎馬兵だ。

 絶体絶命だった。
 この数を相手で生き残るのは、不可能だ。
 諦めるしかないのか。

(兵〒_〒)「ミルナ大将、すぐにドクオを討ち取っ」

(#゚д゚)「邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」

 大気まで震えるような、恫喝。
 完全にオオカミ兵が竦み上がっている。
 自分さえ、驚いて一瞬、動けなくなったほどだ。
67 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:36:41.81 ID:9P/qn/w/0
 ミルナの目には、はっきりと怒りの色が浮かんでいた。

(#゚д゚)「今度邪魔をしてみろ。お前の首から先に落とすぞ」

(兵;〒_〒)「わ、私は……」

(#゚д゚)「男同士の一騎打ちに、平然と割り込むような兵は要らん」

(兵;〒_〒)「ッ……!!」

 Fを放った兵が、小刻みに震えていた。
 それさえ何の不自然もないほどに、ミルナの声は低く、威圧感があった。

(#゚д゚)「分かったら下がれ。決して近づくな。
    例え俺が危機に陥ろうと、手出しすることは一切許さん」

(兵;〒_〒)「わ、分かりました」

 オオカミの兵が、距離を取る。
 ただ黙してこちらを見ながら。
 闇で顔が判別できないほどの位置まで下がっていった。

( ゚д゚)「すまんな」

('A`)「……どっちにしろ、アンタに蹴る余裕があったってことは、さっき討ち取るのは無理だったってことだろ?
   それに、俺はむしろアンタに礼を言わなきゃいけないくらいだ」

( ゚д゚)「たまたま蹴った結果、お前はFを躱すことになった、としておこうか」

('A`)「じゃ、遠慮なく戦えるってわけか」
73 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:39:15.44 ID:9P/qn/w/0
 振り下ろす。
 ミルナのUとの間に生じる、衝撃。

 さっきの間に、少しだけ体力が回復できた。
 勝負はまだ、これからだ。



――フェイト城付近――

 きりがない。
 破られた敵陣が、素早く後ろに回っていくのだ。

 魚鱗、という陣がある。
 先頭は敵陣に当たったあと後ろに下がり、次の部隊が敵に当たる。
 当たったあとはまた後ろに下がる。そうやって間断なく連続攻撃を見舞う陣だ。

 今のオオカミは、それを防御に応用している。
 ある程度攻撃を受け止めたら、素早く後ろに下がっていくのだ。
 それを追おうとすれば、後ろの敵軍が迫ってくる。

 攻め続けるしかない。
 しかし、オオカミの陣は厚い。

(#^ω^)「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」

 敵陣を断ち割る。
 アルファベットSで何十という首を刎ね飛ばしていく。
80 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:41:46.77 ID:9P/qn/w/0
 それでもオオカミは怯まない。
 むしろ、ここは絶対抜かせないというような気迫を感じる。
 オオカミも、必死だ。

 指揮を執っているのはフィル=ブラウニー。
 野戦ではミルナにも匹敵するとの評価を受けている中将だ。
 それを後方支援の鬼であるガシューがサポートしているのだから、手強いはずだった。

( ・∀・)「くっ……」

 モララーがフィル直属の部隊へと攻め込んでいた。
 しかし、攻めきれていない。
 いなされている。

 あのモララーでさえ、打ち破れない。
 ショボンも苦戦している。
 オオカミは、ここに全てを賭けているのだ。

 ショボンの部隊が、下がった。
 モララーもフィルの部隊から離れ、後方へ向かう。

(´・ω・`)「……埒が明かん……」

 鉦が、鳴った。
 一時後退の鉦。

(;^ω^)「ショボン大将!!」

(´・ω・`)「止むを得ないだろう……」
88 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:44:18.14 ID:9P/qn/w/0
 ショボンが、唇を噛んでいた。
 苦々しげな表情のままで敵陣を睨んでいる。
 既に暗くなり、夕闇に染まった敵陣を。

 この視界では確かに戦い続けることも難しい。
 敵陣も固い。

 しかし、ここで戦って打ち破らなければ、ドクオは――――。

(´・ω・`)「……一度、体勢を立て直そう。どうにかして森まで到達する必要があるからな……」

 ショボンの言葉には、いつもの力強さがなかった。
 どんな相手でも打ち破れる、と思える心強さが、なかった。



――オリンシス城北の森――

 大したものだ。
 明らかに実力差がある相手に、臆せず立ち向かってくる。
 死に直面した状況で。

( ゚д゚)(お前ほどの男……そうはいまい)

 アルファベットUを振り回した。
 ドクオは軽く跳躍して躱す。
 息を切らせながら。
99 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:46:59.15 ID:9P/qn/w/0
 かなりの疲労が溜まっているのは明白だった。
 自分の実力を、出し切れていないだろう。
 それでも手を抜くことはできない。

 ドクオも、ここでの一騎打ちを望んでいる。
 決着をつけたいと思っている。
 ならば、それに全力で応えるのが、自分の役目だ。

 例え相手がどんな状態であろうと、全ての力を出し尽くす。
 それが命を賭け合った相手への礼儀だった。

(#゚д゚)「ふんっ!!」

 鋭く横に払う。
 空気の裂ける音だけがその場に響いた。
 ドクオは素早く躱している。

 体力的には、もう限界だろう。
 それでも、気力だけでアルファベットを振るってくる。
 その瞳には、鋭い光がある。

 少し距離を取った。
 アルファベットUのほうがRよりはるかにリーチがある。
 こうやって多少の距離があったほうが、戦いやすいのだ。

 Uを突きだした。
 ドクオはまたも回避する。
 まともに受け続ければアルファベットが破壊される恐れもある、と分かっているようだ。

 だが、思い通りにはさせない。
106 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:49:35.07 ID:9P/qn/w/0
(;'A`)「ッ!!」

 素早く振り上げ、そのまま下ろした。
 ドクオは躱せずに、何とかRで受け止める。
 強烈な衝撃が全身を駆け巡る。

 互いに力があればこその衝撃だ。
 何と心地の良いものか。
 これを感じていられる限りは戦える、と思っていた。

 できれば、このままずっと。
 互いが尽き果てるまでずっと、戦っていたい。
 ふとそう思ってしまうような状況だった。

 しかし、自分は国軍の大将。
 十数万の兵を統べる人間だ。
 ここで決着をつけなければならないのだ。

( ゚д゚)「お前と戦えたこと、心から嬉しく思うぞ、ドクオ」

 Uを一気に押し込んだ。
 ドクオは、耐えきれない。
 これで終わりだ。

 そう思った、直後だった。

(;゚д゚)「ッ!!」

 Rの刃が、開かれた。
 Uが逸れる。地面に、突き刺さる。
120 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:52:13.02 ID:9P/qn/w/0
 自分に、隙が。

(;゚д゚)「くっ!!」

 すぐにUを引く。
 しかし、迫り来るドクオのR。
 受け止められるか。間に合うか。

 微妙な、タイミングだった。

(;゚д゚)「ッ……!?」

 Uを体の前に持ってきた。
 完全な防御体勢。
 これなら、ドクオの攻撃は通らない。

 その体勢に、至れるはずがなかった。
 ドクオの攻撃が、いつも通りなら。
 もっと際どかったはずだ。

 ドクオの打ち込みが、あまりに鈍かった。
 体力の限界に達したのだとすぐに分かった。

( ゚д゚)「…………」

( A )「……くぉっ……」

 Uの刃に、Rの刃が、触れる。
 あまりに小さな衝撃。
136 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:55:04.80 ID:9P/qn/w/0
 ドクオの眼は、虚ろだった。
 もう、一撃たりとも繰り出す力は残されてないのだろう。

 ドクオの腹に、拳を叩き込んだ。
 力なく崩れるドクオの体。
 意識を失わせた。

(兵;〒_〒)「ミルナ大将」

( ゚д゚)「森の外に出るぞ」

 ドクオを肩に抱えた。
 小さく、軽い。将校とは思えないほどだ。
 こんな体で、あそこまで戦えるとは。

(兵;〒_〒)「あの、ドクオは」

( ゚д゚)「まだ死んでいない。俺は、こいつに話がある」

 曳かれてきた馬に乗って、手綱を引いた。
 ドクオを脇に抱えながら。

 もし、ドクオに疲労がない、万全な状態での戦いだったら。
 最後の一撃、果たして受け止められただろうか。

 等間隔に響く馬蹄の音を聞きながら、少しだけそう考えた。
159 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 17:58:04.79 ID:9P/qn/w/0
――オリンシス城北の森付近――

 オオカミは、陣を崩した。
 散り散りになったようにも見えたが、違う。
 それぞれの部隊が、それぞれ向かうべき場所へと移動しはじめたのだ。

 追えば背後を突ける。
 しかし、今は森に向かわなければならない。

(,,゚Д゚)「……いや……ここは、森に向かうべきではないでしょう」

( ・∀・)「……同感ですね」

 二人の中将の意見が合致していた。
 オオカミが森への道を開けたということは、もう森に向かう意味はない。
 きっと、オオカミは森での戦を終えてしまったからだろう、と。

(´・ω・`)「……そうだな……」

(;^ω^)「でも……ドクオが……!」

( ・∀・)「千人ほどを森に送りましょう。もしかしたらドクオがどこかに隠れているかも知れません」

(´・ω・`)「……そうしよう」

 ショボンがすぐに指示を下し、騎馬兵が駆けだしていった。
 オオカミが待ち受けているようなことは、恐らくないだろう。
 騎馬隊ならいざというときにも逃げやすい。
175 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:00:08.42 ID:9P/qn/w/0
 恐らくもう、日付は変わっている時間だ。
 ドクオがいつ森に入ったかは分からないが、かなり経っていることは間違いない。
 そして、オオカミは軍を退いている。

 誰も口にはしない。
 口にはしないが、分かっていた。

 ドクオが、無事でないだろうことは。

 認めたくはないが、それは事実なのだ。
 でなければオオカミが軍を退くはずはない。

(´・ω・`)「……ん……」

 森のほうから、駆けてくる兵がいた。
 徒歩だ。
 先ほど森に向かった兵たちではない。

(´・ω・`)「あれは……ドクオ配下の兵か……?」

 たった三人。
 そして、誰かの遺体を抱えている。
 首は、ない。

 もしや、あれが、ドクオなのか。
 全身を悪寒が駆け巡った。

|;¨Д¨|「ハァ、ハァ……」
194 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:02:45.30 ID:9P/qn/w/0
 全身、傷だらけだ。
 顔色も悪い。
 それでも、生きて帰ってきてくれた。

(´・ω・`)「よく生き延びてくれた」

 ショボンが三人の体を抱え込んだ。
 心なしか、目が潤んでいるようにも見えた。

|;¨Д¨|「申し訳……ありません……私たちは……オオカミの、伏兵を受け……」

(´・ω・`)「いい、いい。今は休め。休んでくれ。
      俺は、生きてここまで駆けてくれたことが嬉しいんだ」

 三人の兵が、涙を流していた。
 ショボンの腕の中で、胸の中で。

( ・∀・)「……この、首のない遺体は……」

 モララーが遺体を抱き起こしていた。
 首だけでなく、左腕までない。
 凄惨さを感じる傷跡がいくつも残っていた。

|;¨Д¨|「それは……スメア部隊長の……遺体です……」

(;^ω^)「スメアッ……!?」

 シャッフル城戦で、自分の配下だった。
 あのときは軍曹として、シア城奪取に貢献してくれた。
 マリミテ城戦以降、ドクオ配下の部隊長として活躍していると聞いていた。
220 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:05:46.06 ID:9P/qn/w/0
|;¨Д¨|「スメア部隊長は……ドクオ中尉を庇って……自ら、囮となって……
     助けようと、自分も敵陣に……向かったのですが……数が、多すぎて……」

(´・ω・`)「……最後まで、戦い抜いてくれたんだな……」

 スメアの遺体を、木棺に入れるよう指示が下された。
 三人の兵も、手当てを受けるべく運ばれていく。
 全員、満身創痍だった。

(´・ω・`)「ドクオの安否は、分からんそうだ……」

 ショボンが、三人のうちの一人を運び終えたあと、戻ってきてそう言った。
 ドクオがどうなったかは三人とも知らないという。

 恐らく、死んでいるだろう。
 将校たちの目が、そう語っている。
 自分さえ、同じように考えてしまっている。

 もし生き延びていたとしても、オオカミに拘束はされているだろう。
 オオカミが軍を退いたということは、そういうことだ。

 その日は森の近くで野営が行われた。
 森に入った兵を待つためだ。
 明日になったら、シャッフル城まで引き返す予定になっている。

(;^ω^)(ドクオ……)

 赤い月が浮かんでいる。
 血のように、鮮やかな。
 丸い月が。
238 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:08:17.39 ID:9P/qn/w/0
 篝火の側で、火の立つ音を聞きながら、朝まで待った。
 森の中を探しに行った兵が戻ってくるまで、ずっと。



――オオカミ城――

 浩々とした広間。
 立ち並ぶ何十人もの兵。

 目の前に座する、ミルナ=クォッチ。

 縛りあげられた、自分の体。

 気が付いたときには、寝床だった。
 逃げられないように体を拘束された状態で、寝かされていた。

 そこがオオカミの牙城であるオオカミ城だと知ったのは、目が覚めてすぐのことだった。
 顔も知らないオオカミの兵が色々と説明してきたのだ。
 ここがオオカミ城であること、これからミルナの許へ向かわされること。

 長い説明の半分以上を聞き流したが、その部分だけははっきりと覚えていた。
 そして、すぐに理解できた。

 これから、ミルナの手によって斬られるのだ、と。

( ゚д゚)「ドクオ=オルルッド」

 ミルナの声は、静かで、重みがあった。
 いつもと同じなはずが、いつもと違って聞こえる。
254 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:11:00.98 ID:9P/qn/w/0
('A`)「……なんだ?」

 あまりに惨めな姿。
 それが、戦に負けた者にはお似合いだ。
 自嘲的にそう心の中で呟いた。

( ゚д゚)「お前は敵国の将として、多くのオオカミ兵を討ち取った。
    ヴィップに国益をもたらした」

('A`)「あぁ、そうだろうな。そのために戦ってたんだ」

 両隣に並んだ兵の誰かが、無礼者、と言った。
 口の利き方に対してだろう。

( ゚д゚)「黙ってろ」

 それを、ミルナが一喝した。
 先ほどまで怒りを顕わにしていた兵が、完全に委縮していた。

( ゚д゚)「国軍の兵ならば誰もが国のために戦っていることだろう。
    それは責められることではない」

('A`)「当たり前だ」

( ゚д゚)「しかし、お前が多くのオオカミ兵を討ち取ったのは事実だ」

 淡々とした声。
 ずっと目を合わせ、無言のままでいた。

( ゚д゚)「……その事実が存在する以上……俺にはお前を斬る義務がある」
268 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:13:33.89 ID:9P/qn/w/0
 何を分かり切ったことを。
 勿体つけて話すようなことか。

('A`)「ならさっさとしてくれ。この体勢が楽に見えるか?」

( ゚д゚)「見えんな」

('A`)「だから早くしてくれ」

 いかに自分のせいとは言え、敗北の挙句に敵大将の前で晒し上げられる。
 それが、屈辱でないはずがなかった。

 敗者が粋がるな、と周りの兵から聞こえてきそうだった。
 それももはや、どうでもいい。
 今ここで、自分は死ぬのだから。

('A`)「アンタは強かった。俺は弱かった。戦いに生きる者同士の間に、それ以上何も必要ないだろ」

( ゚д゚)「……そうだな」

('A`)「俺は最後の相手がアンタで良かったと思ってる。そう思えているうちに、死にたいんだ」

( ゚д゚)「…………」

('A`)「頼むから、早くしてくれ」

 そう言って、下を向いた。
 目を合わせていたくなくなったのだ。
286 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:16:10.40 ID:9P/qn/w/0
 ミルナは、生涯で最高の相手だった。
 最後の相手としては、これ以上ないほどだ。
 戦に生きる者として、嬉しくすらあった。

 できればあの森で、そのまま斬ってほしかった。
 オオカミ城まで連れて来てほしくはなかった。
 だから、なるべく早く斬ってもらいたいのだ。

 醜態を、晒し続けたくはないのだ。

( ゚д゚)「……お前に話がある、ドクオ」

('A`)「……ん?」

( ゚д゚)「お前のその力、オオカミのために使ってみる気はないか?」

 思わず顔を上げてしまった。
 ミルナの視線と、自分の視線が合わさる。

 ミルナの眼は、いつも自分が見てきたものより、少しだけ穏やかに見えた。

( ゚д゚)「お前の才は、実際に戦った俺が一番よく分かっている。
    特にマリミテ城戦では、十倍の兵を相手に完勝を収めた。
    このまま殺すにはあまりに惜しい人材だ。俺は、そう思う」

('A`)「…………」

( ゚д゚)「国内から反発はあると思う。しかし、誰もがお前の力は知っている。
    オオカミは先の戦でドラルを失って、苦しい状態が続いているんだ」
313 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:18:45.74 ID:9P/qn/w/0
 ミルナは、本気のようだった。
 本気で、自分を生かそうとしている。
 国軍に、引き入れようとしている。

( ゚д゚)「ヴィップと戦えとは言わん。ラウンジと戦ってくれるだけでいいんだ。
    お前の妹がオオカミにいることも俺は知っている。しかし、だからオオカミのために、というわけではない。
    妹はお前と暮らす日を心待ちにしていることだろう。ここでお前が死ねば、悲しむのは間違いない」

('A`)「……そうだろうな……」

( ゚д゚)「生きる手段だと思えばいい。死なないために、ラウンジと戦う。
    それは、何もおかしくないことだ。実際、そうやって生き延びた兵は大勢いる。
    ドクオ=オルルッド。自分や妹のためにも、これからはオオカミに」

('A`)「ミルナ=クォッチ、俺はアンタを本物の武人だと思ってる」

 ミルナの言葉を、遮った。
 もう、聞いていられる自信がなかった。

('A`)「ショボン大将とも肩を並べられる、真の武人だ、と」

( ゚д゚)「……?」

('A`)「……だから、俺の軍人としての誇りに、泥水をかけるようなことは言わないでくれよ」

 ミルナが、はっとした顔を見せた。
339 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:21:18.84 ID:9P/qn/w/0
('A`)「俺はヴィップに忠誠を誓っている。
   心身果てるまでヴィップに尽くす、と心に決めている。
   それを、アンタは分かってくれてると思っていた」

(;゚д゚)「ッ……」

('A`)「俺は、最後の瞬間までヴィップの忠臣だ。
   例えオオカミ城で果てようとも、それは変わらない」

 ミルナが目を伏せた。
 額に手を当てながら、黙りこんでいる。

('A`)「俺は、戦に負けた。アンタの作戦に見事嵌められた。
   そのせいで、死んだ兵が大勢いた。全部、俺のせいだ。
   俺を生かすために死んだ兵さえいたんだ。だから、俺は最後まで戦い抜くと決めた。
   それが、自分のせいで死んでいった兵に対する礼儀だと思ったんだ。
   こんな状況で言うのもなんだが、俺は最後まで武人でいられたと思う」

( ゚д゚)「……あぁ、お前は手強い漢だった。生涯、名を忘れられぬほどに」

('A`)「アンタにそう言ってもらえるなら、悔いはないさ」

 軽く笑った。
 自然と、笑みがこぼれたのだ。

 あのミルナ=クォッチが、自分を認めた。
 手強い漢だった、と言った。

 悔いなど、あろうはずもなかった。
370 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:24:42.89 ID:9P/qn/w/0
 ミルナが、小さく息を吐いた。
 決心したのだ、と自分にも分かった。

( ゚д゚)「……お前を、斬ろう。お前と戦い、お前の力を最もよく知った者として」

 ミルナが、静かに立ち上がった。
 携えるアルファベットは、U。

( ゚д゚)「お前ほどの武人がこの世から消えるのは残念だが、これも運命だろう」

('A`)「誰だって、いつかは果てるんだ。時間や場所が、少し違うだけさ」

( ゚д゚)「あぁ……そうだな」

 ミルナが、アルファベットを、ゆっくりと振りあげる。
 しかし一度、ゆっくりそれを下ろし、今度は横に構えた。
 首を一振りで斬り離すつもりだろう。

( ゚д゚)「最後に……何か、言いたいことはあるか?」

 また、自然に笑みがこぼれた。
 最後に、何か。

 とても一言では語り尽くせない。
 色んなことが、あった。
387 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:26:24.47 ID:9P/qn/w/0
 ブーンと一緒に、国軍兵士を志した。
 十八になって、入軍試験を受けた。

 先へ先へといくブーンに追いつこうとして、ひたすらアルファベットの訓練を重ねた。
 戦略や戦術の勉強もした。
 毎日、寝る時間さえ惜しんだ。

 初陣となったシア城戦。
 フィレンクトと一緒に、敵兵になりすまして城を奪った。
 あれが、初めて得た戦功だった。

 ショボンと共に兵糧の襲撃も行った。
 あのときの燃え盛る兵糧の赤さは、今でもはっきりと覚えている。

 シャッフル城戦では、リレントと戦った。
 一万の大軍に迫られたが、何とか凌いだ。
 モララーの助けもあった。

 マリミテ城を奪ったとき。
 自分のせいで、フィレンクトが軍を去ることになった。
 結局、フィレンクトに直接謝ることは、最後までできなかった。

 オリンシス城を攻めたときには、自分の失態が発覚した。
 あまりに情けない失敗。自刃さえ考えたこともあった。
 その失敗を取り戻すために行ったのが、マリミテ城防衛戦だった。

('A`)(ミルナ……アンタは図抜けて凄い武将だったよ……)
404 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:28:14.01 ID:9P/qn/w/0
 どうすればいいのか分からなくなるほどに、怖かった。
 辛かった。苦しかった。

 そして、心のどこかで、楽しいと感じる自分もいた。

 これほどの相手と戦えたことが。
 嬉しかったのだ、きっと。

 そんな漢が、最後の相手となった。
 武人として、これほど幸福なことはない。

('A`)(ショボン大将……モララー中将……。
   フィレンクトさん、スメア、ローダ……)

('A`)(……ブーン……)

 みんな、すまない。

 俺は、ここまでだ。

 何度も失敗を犯した。
 国軍に貢献しつづけられたわけではなかった。
 それでも、精一杯やってきた。

 精一杯、生きてきた。

( ゚д゚)「……何か、ないのか?」

('A`)「……あぁ、ちょっと待ってくれよ」
429 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:29:56.74 ID:9P/qn/w/0
 皆に散々迷惑をかけた。
 すまない。できれば、戦で取り返したかった。
 しかし、それももう、無理なようだ。

 精一杯やってきた。
 何も悔いはない。

 ローダ、スメア。そして、自分のせいで死んでいった多くの兵たち。
 今から謝りに行く。待っていてくれ。

 そして、ヴィップのみんな。
 後は、頼んだ。
 ヴィップの天下を、俺はあっちで待っているから。

 ずっと待っているから。
 見守り続けるから。

 最後まで迷惑かけて、ごめん。
443 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:31:37.92 ID:9P/qn/w/0
( ゚д゚)「……さぁ」

 ミルナと、目が合った。
 何故か、三たび笑みがこぼれた。

 みんな、長い間ありがとう。
 さよなら。

 最後まで、頑張ってくれ。

 また、自然と笑みが溢れていた。


('A`)「我がヴィップ国に、永久なる栄光あれ」


 静かに、しかし、はっきりと届くように、言った。

 皆の、耳に。
 皆の、心に。

( ゚д゚)「さらばだ」

 ミルナの腕が、動いた。
461 :第60話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/09(木) 18:33:18.74 ID:9P/qn/w/0
 首に、何か冷たいものが当たった気がした。


 最後の瞬間まで、俺は、笑えていただろうか。

 そう考えた直後、視界は純白に染まっていった。





















 第60話 終わり

     〜to be continued

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