5 :登場人物データ ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:20:32.67 ID:7UnqCrqQ0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
18歳 新兵
使用可能アルファベット:G
現在地:ハルヒ城

●('A`) ドクオ=オルルッド
18歳 新兵
使用可能アルファベット:C
現在地:ヴィップ城

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
28歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:ヴィップ城

●( ,,゚Д゚) ギコ=ロワード
26歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:シャナ城

●( ^Д^) プギャー=アリスト
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ハルヒ城

6 :登場人物データ ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:22:01.93 ID:7UnqCrqQ0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
33歳 大将
使用可能アルファベット:S
現在地:ハルヒ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
34歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ハルヒ城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
37歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ハルヒ城

 
7 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:23:55.85 ID:7UnqCrqQ0
【第6話 : Abuse】


 わずか二里。
 いつ仕掛けられてもおかしくない距離にまで、迫っていた。

 魚鱗に構えたヴィップ軍に相対する、鶴翼陣形のラウンジ軍。
 兵数は一万と二万。当然、ヴィップが寡兵だ。

(;^ω^)(攻め込むとしたら……ヴィップから……)

 ブーンは全容が把握しやすい丘陵の上から、戦陣を眺めていた。
 周りには鉦を打つ兵と、弓状のアルファベットである"D"を構えたD隊。
 矢として使われる"F"を右手に持ち、じっと戦の開始を待っていた。

 ジョルジュは陣形の最後尾に居た。
 すぐ後ろには森。逃げ場はない。
 もっとも、ラウンジ軍も周りには森がある。お互い、逃げにくい場所だった。

 つまり、打ち負けたほうはかなりの被害を受けることになる。
 初戦にして、戦全体の帰趨を占いかねない、重要な局面だった。

 ヴィップが組んだ魚鱗の陣は、大軍を相手にするときに有効な陣。
 ラウンジが組んだ鶴翼の陣は、寡兵を相手にするときに有効な陣。
 お互い、自軍に有益な陣を組んでいる。さすがだ、と思った。

 ジョルジュが次々駆けて来る斥候から報告を聞き、すぐさま指令を下す。
 戦に臨んでいるその顔つきは、峻厳たるものがあった。

8 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:26:12.99 ID:7UnqCrqQ0
 歩兵によって押し出された馬止めの柵が、取り除かれた。
 魚鱗の陣が、動く。
 戦が始まった。

(;^ω^)「おっ、おっ、おっ……!!」

 信じられないほどの速度で敵の陣に攻め込む。
 先頭は、H隊。千人の固まり全員がHを携え、突撃する。
 鶴翼の左翼に、突っ込んだ。
  _
( ゚∀゚)「絶やすな!」

 攻撃の手を絶やすことなく、敵陣に突撃していく。
 傘状に構えられた魚鱗が、左翼を打ち破らんとして攻撃を加える。
 敵陣左翼の五千は、全員がG。
 一方、H隊を先頭にして、後ろにI隊が控えるヴィップ軍は徐々にラウンジ軍を押していく。
 敵陣左翼が、崩れかけていた。

 しかし、鶴翼の利が活かされ始める。
 右翼が動き、ヴィップ軍を包み込んでいく。
 数の上では圧倒的不利。側面から攻撃を受けたヴィップ軍の勢いが、減衰する。

 やがて、ヴィップ軍の魚鱗が、崩れた。

<ヽ`∀´>「鉦を打て」

 側に居たニダーが、冷静に言い放った。
 退却の鉦が打たれる。

 負けたのだ、と分かった。

9 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:29:39.04 ID:7UnqCrqQ0
(;^ω^)「……そんな……」

 膝が折れそうになった。
 確かに、ラウンジは二倍の兵を擁していた。
 しかし、負けるはずはないと思った。ジョルジュの力を信じていた。
 だが、終わってみれば惨敗。

 喊声が上がる。敗北感を、より一層掻き立てられた。

<ヽ`∀´>「……何を落ち込んでるニカ?」

(;^ω^)「え?」

<ヽ`∀´>「大勝利ニダ。ウェーハッハッハ」

 目を凝らした先に映ったものを、疑った。
 敵将の首を取り、高々と掲げるジョルジュの姿。

 勝っていた。
 戦争に於いて、最重要目標となる、敵将を討ち取っていた。

 将軍を失ったことで、完全に崩れたラウンジ軍。
 丘の上からD隊が、ヴィップ軍から離れた敵陣右翼方面に大量のFを浴びせる。
 左翼では、ラウンジ軍を次々に討ち取っていくヴィップ軍。

 あまりの展開の早さに、頭が追いつかなくなった。

(;^ω^)「い、いつの間にジョルジュ大将は……」

<ヽ`∀´>「侮っちゃいけないニダよ。退却の鉦は、偽りニダ」
11 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:32:14.30 ID:7UnqCrqQ0
 そう言って、ニダーが鉦を軽く二回叩く。小さく音が響いた。
 続いて、断続的に三回。

<ヽ`∀´>「鉦の打ち方によって指令が変わるニダ。そうやってラウンジを騙したニダ。
      崩れたのもわざと、退却の鉦もわざと。全て、ジョルジュ大将の計算通りニダ」

 ジョルジュはラウンジ兵を討ちに討っている。
 ショテルのような形状のSは、極端に歪曲した刃を持ち、鞘に収めることはできない。
 しかし、相手の盾を掻い潜って攻撃することができ、攻撃が防がれることはほとんどない。
 また、相手の攻撃を受け止めたり、引っ掛けて馬から落とすなど、実に多種多様な用途があるという。

<ヽ`∀´>「退却の鉦が打たれたことによって、勝利を確信したラウンジ軍は、完全に油断したニダ。
      しかし、ジョルジュ大将の狙いは、最初から側面攻撃。鶴翼は横の攻撃に弱いニダ。
      都合の良いことに、右翼が大きく左翼寄りに動いてくれた。鶴翼の中心は、無防備だったニダ」

(;^ω^)「そこを狙って、ジョルジュ大将が……」

<ヽ`∀´>「三百の騎兵を小さく固めて横に回りこみ、鶴翼の中心に突撃。
      敵将のみを見据え、一撃で討ち取ったニダ。鮮やかだったニダ」

 鳥肌が立った。
 これが、ジョルジュ=ラダビノード。ヴィップ軍が全土に誇る名将。
 二万を相手に、圧勝してみせた。それも、一瞬で。

 ジョルジュの強さに憧れて西塔を希望する兵の気持ちが、分かった気がした。
13 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:35:06.48 ID:7UnqCrqQ0
 追撃戦は夕刻まで続き、敵本陣まで三十里を切ったところでジョルジュは軍を引き上げた。
 討ち取った敵兵は、五千に上るという。こちらの犠牲は、僅か百程度だ。
 文句のつけようもない、完勝だった。

( ゚∀゚)「初戦は取った。しかし、これが全てではない。
     ラウンジは原野でのぶつかり合いを避け、森などで厄介な戦いを挑んでくることと思う。
     しかし、間違いなく勢いはヴィップにある。このまま押し切るぞ!」

 全軍を前に、再びジョルジュの力強い言葉。
 兵の士気が高まる。

 この戦は、勝てる。そう思わせてくれる、初戦だった。


――翌日――

 前日、ラウンジの馬やアルファベットの回収を夜まで続けて、陣営を整えた。
 本営の歩哨にも立った。他にやることがなかったのだ。

 誰何の声に答えているうちに、夜明けを迎えた。

( ^ω^)「晴天だお」

 朝餉の用意があちらこちらで進められている。
 立ち上る湯気だけでも、食欲をそそるには充分だった。

( ^Д^)「よう、ブーン」

( ^ω^)「プギャー中尉!」
15 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:37:53.48 ID:7UnqCrqQ0
 干し肉を齧りながら、プギャーが軽く手を振っていた。
 その姿を見ただけで、嬉しくなった。自分とプギャー以外、東塔の人間は居ないのだ。
 心細さは当然あった。

( ^Д^)「昨日は快勝だったな。言いたくねーけど、さすがはジョルジュ大将って感じだった」

( ^ω^)「びっくりしましたお。負けたかと思ったら、勝ってるなんて……」

( ^Д^)「しっかり吸収しろよ。お前はいつか、上に立つ人間になるんだ」

(;^ω^)「そ、そんな……まだブーンは未熟ですお」

( ^Д^)「だから"いつか"だって。とにかく、しっかり勉強しろ。がっちり力をつけて、ショボン大将の許に帰るんだ」

 頷いた。

 それからは、この戦の今後について話した。
 四万五千になったラウンジはヒグラシ城で編成を練っているらしい。
 急襲は恐らくない、とのことだった。
 しかしそれは同時に、守りを固めたということにもなる。
 今攻めるのは得策ではないだろう。

( ^Д^)「初戦は相手がバカだったんだ。倍の兵を擁してるんだから、もっとどっしり構えれば良かったのに……。
     鶴翼の中央に兵を集めすぎたんだな。鶴翼の肝は両翼なのにな」

( ^ω^)「運が良かった、ってことですかお?」

( ^Д^)「いや、ジョルジュ大将がそれをしっかり調べ上げてたんだ。
     敵将が分かった瞬間、過去の戦績を早急に調査させて、戦に臨んだ。
     あんまり賢い相手じゃないって分かってたんだ。側面攻撃さえすれば勝てる、ってな」
18 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:40:41.64 ID:7UnqCrqQ0
( ^ω^)「やっぱり大将は凄いですお……」

( ^Д^)「まぁ、スゲーのはジョルジュ大将だけじゃねーけどな。
     オオカミとの戦にお前もいずれ参加する。そのときに、分かるよ。
     ショボン大将の凄さもな」

 ジョルジュ一人だけでも、他国にとっては充分脅威となるだろう。
 それが、二人。
 弱小国ヴィップが他国と張り合っていけるのは、やはりこの二大将によるところが大きい、と思った。

( ^Д^)「さて、昨日の戦に勝って、勢いに乗ってるヴィップだが……
     そんなに甘くはない。次からは間違いなく、ベル=リミナリーが出て来る」

( ^ω^)「ベル……?」

( ^Д^)「ラウンジ随一の武将だ」

 陽が高くなってきた。

 ラウンジ軍とは現在、森を挟んで向かい合っている。
 次に交戦が起きるとすれば、森の中。
 伝令の働きが肝要になる、とジョルジュ大将に言われた。

 次からは戦中を駆け回らなければならない。
 敵将のことは、知っておきたかった。

( ^Д^)「二十三年前、当時最大国だったニューソクを滅亡に追いやった名将。
     ラウンジ軍内最古参で、大将を務めている。
     平和時には自ら民政も行う、オールラウンダーな武将だ。
     使用アルファベットは"V"」
20 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:43:45.75 ID:7UnqCrqQ0
 思わず、声を出しかけた。
 口から飛び出さなかった音が、喉に詰まって呻きに変わる。
 大きく目を見開いてしまった。

 アルファベット、V。
 ジョルジュのSより、三つも上。
 ショボンのTでさえ、二つ下だ。

( ^Д^)「今回の戦で、間違いなく立ちふさがってくる相手だ。
     ジョルジュ大将がどんな策を立ててるのかは分からねーが、易い敵じゃない」

(;^ω^)「勝ち目は、あるんですかお?」

( ^Д^)「あるに決まってる。しかし、負ける可能性のほうが高いと俺は見てる。
     ジョルジュ大将次第さ。ベル=リミナリーを上手く抑えられれば、ヒグラシ城の奪取も夢じゃない、ってとこだ」

 先ほどまで抱いていた、妙な信頼が、崩れた気がした。
 敵の大きさを、知らなさすぎた。初戦の勝ちだけで、調子に乗ってしまった。

( ^Д^)「まぁ、お手並み拝見といこうぜ。これは西塔の戦だ。
     お前は戦争に参加するわけじゃないし、しっかり飯食っていつでも走れるようにだけしとけよ。
     夜になったら俺と訓練だ」

 プギャーの口ぶりは軽く、そのまま立ち去ってしまった。

 あくまで西塔の戦と考えている。中尉であるプギャーでさえ。
 それが少し意外だった。
 負けてもいい、と思っているのだろうか。
 今回敗戦し、ハルヒ城をラウンジに奪られてしまった場合、国の存亡にもかかるというのに。
22 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:45:51.29 ID:7UnqCrqQ0
 二つの国が一つの場所に混在しているのと同じだ、と思った。
 そしてそれを、当事者たちは憂いていない。

 国の行く末を不安に思っているのは、自分だけなのだろうか、と考えてしまっていた。



――二週間後――

――ハルヒ城近郊――

 プギャーとの訓練はほぼ毎晩続いた。
 アルファベットを振るい、プギャーがそれをいなすだけの簡単な訓練。
 しかし、人に向けて振るっている分、今までとは違った充実感がある。
 攻撃が全く当たらないことに落胆するときもあったが、一瞬で忘れられるほど楽しかった。

( ^Д^)「やっぱスゲェよ、お前は……この分なら次のアルファベットも余裕だろうな」

 訓練を始めて三日目には、そう言ってもらえた。
 この上ない自信となってそれは身に沁みこんだ。


 ラウンジはヒグラシ城から動かなかった。
 城外の防備は完璧で、ヴィップからはとても攻められない。
 ラウンジから攻めてくるのを待っている状態だった。

( ^Д^)「返り討ちにして、空城になったヒグラシ城を一気に落とすつもりだ、ジョルジュ大将は。
     南進を防ぐだけを良しとせずに、常に攻めの姿勢を崩さない……それが吉と出るか、凶と出るか」

( ^ω^)「是非勝ってほしいですお……ん?」

23 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:48:04.26 ID:7UnqCrqQ0
 兵が一人、幕舎の中に入ってきた。
 大きめの包みを抱えている。

 アルファベットだ、とすぐに分かった。

(兵D_D)「ブーン=トロッソさんですね?」

( ^ω^)「はいですお!」

(兵D_D)「ショボン=ルージアル大将からの配達物をお届けにあがりました」

( ^Д^)「誰も見てないとこで渡すように頼まれたんだろ? 悪いな」

 確かに、今は幕舎の中に二人きりだった。
 プギャー用に与えられた幕舎で、ブーンも用がなければここに来る。
 自分が東塔の人間であるからか、どうしても周りからの視線が気になってしまうのだ。
 それを逃れられる場所であり、安らげる場所だった。

(兵D_D)「では、確かにお届け致しました」

( ^Д^)「ショボン大将に感謝を伝えておいてくれ」

 アルファベットの箱を机に置いて、兵士は走り去っていった。

 俯瞰するようにして、箱を眺める。
 箱は正方形で、その全長は1メートル近くある。
 Eよりはかなり大きいアルファベットだ。

( ^Д^)「開けてみろよ。この大きさだと、多分……」
26 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:50:30.22 ID:7UnqCrqQ0
 包みを解いて、箱を開いた。

 中から顔を現したのは、円形で、一瞬何か分からなかった。
 アルファベットは、武器だと聞いていたからだ。

(;^ω^)「た、盾ですかお?」

( ^Д^)「ちょっと違うな。攻撃もできるが、防御もできる。攻防一体のアルファベット、"G"だ」

 鉄製の盾の周りに、刃が備え付けられている。
 下辺に尖った刃があり、相手を突き刺すこともできるようになっていた。
 裏面から見るとその尖った刃の真横に柄がついていて、Gらしく見えた。

( ^Д^)「D隊がFを使って遠距離攻撃してくるよな? それを防ぐときに使われることが最も多い。
     まぁ、盾としての機能が強いってことだ。ただし、近接戦闘時の攻撃力も侮れない。
     レベルが高くないわりに多機能だから、戦争では最もポピュラーなアルファベットだな」

( ^ω^)「戦場でも充分戦える、ってことですかお?」

( ^Д^)「まぁ、慣れてからだけどな。
     しかし、Gも問題なく握れたな。今日の夜、さっそくGで訓練開始だ」

( ^ω^)「はいですお!」

 Gを握って、何度か素振りしてみる。
 かなり重く、容易には振り回せない。
 確かに、比重は守りに置かれているようだ。

( ^ω^)「……ん?」

27 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:52:38.00 ID:7UnqCrqQ0
 懸命にアルファベットを振り回している間に、プギャーが手紙を読んでいた。
 表情は、真剣そのもの。
 裏面に字が薄っすら透けているが、内容は短かった。

( ^ω^)「手紙なんて、いつの間に?」

( ^Д^)「ん? さっきの兵士が一緒に渡してくれたよ。ショボン大将からだ。
     頑張って戦果を上げてこいだとさ。助っ人で戦に行って活躍すれば勲功は大きいからな。
     大尉昇進も遠くねぇって感じだ」

(*^ω^)「プギャーさんが大尉になったらブーンも嬉しいですお。頑張って下さいお!」

( ^Д^)「あぁ、もちろんだ」

 手紙を折り、懐に収める。
 そしてすぐにプギャーは軍議に向かった。


――夜――

 日が沈んでからプギャーは戻ってきて、一緒に兵糧を取った。
 そして、アルファベットの訓練。
 重いGを、必死で振り回した。

( ^Д^)「二日後にラウンジが攻めてくるらしい」

 プギャーのLを盾で防いでいた。
 長い柄の先に太い刃が付いていて、鍬のようにも見える斧だ。
 ただし、ブーンのGを襲うのはその柄の尖端だった。
 槍のようにして突きを見舞ってくる。
29 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:55:17.41 ID:7UnqCrqQ0
( ^Д^)「今日入った情報だ。明日には全兵に連絡が行き渡る。
     今度の戦がメインになるな。これに勝ったほうが、最後まで押し切るだろう」

(;^ω^)「総力戦ですかお?」

( ^Д^)「そうだな。ラウンジは三万五千を投入してくるらしい。
     こっちも二万五千は使う。かなり大きなぶつかり合いだ。
     戦場は森の中になるぞ」

(;^ω^)「原野まで引きずり出したほうがいいんじゃ……」

( ^Д^)「ラウンジが乗ってくるとは思えない、というのがジョルジュ大将の意見だな。
     俺も原野戦を提案したが、一蹴されたよ。非現実的すぎる、ってな。
     今回の指揮官がショボン大将なら、森からおびき出せると思うけどな……。
     ご立派なジョルジュ大将様は、森での戦にご自信がおありのようだ」

(;^ω^)「……ちょっと、不安ですお」

( ^Д^)「俺もだ。まぁ、決定権はジョルジュ大将にあるから、仕方ねぇ。
     与えられた任務さえこなせばいいんだ。文句は言わせねぇぜ」

 勝ち負けを重視していない。
 それがやはり、違和感として残ってしまう。これは、ヴィップ国の戦なのに。

 もっと、勝つためにがむしゃらにならなければいけないのではないか。
 そう思ったが、とても口には出せなかった。
 プギャーのことは信頼しているし、尊敬の念すらある。
 諍いを抱えたくはなかった。

30 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 21:58:14.47 ID:7UnqCrqQ0
 国が一つになる日は、来ないのだろうか。
 東塔や西塔といったしがらみが取り除かれ、互いに協力しあって敵国に立ち向かえるときは。

 いつか、一つになれる時を夢見て、その日は眠りに就いた。



――二日後――

――ハルヒ城・城外――

 斥候が慌しく走り回っている。
 ジョルジュの口調も、穏やかではなかった。

(斥`ロ´)「ラウンジ軍一万、森の中に散開!」

( ゚∀゚)「森の外を調べてこい。騎兵の数と、歩兵の装備を見て、外に残る数を計算するんだ」

(斥`ロ´)「はっ!」

 すぐに斥候が駆け出していく。
 その後もジョルジュは続々と報告を受け、即座に下知を下していく。

 ハルヒ城とヒグラシ城の間に広がる森は広大で、互いの全軍が入ったとしても充分収まる。
 地理的に、ここで戦うのは自然なことと言えた。森を抜ければ、城だからだ。

 二里先では、ニダー中将率いる歩兵五千が森に入る準備を整えている。
 今日は曇天で、森の中はかなり暗い。火種を持ち歩くようだった。

( ゚∀゚)「ブーン、これを持っとけ」
33 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:01:42.78 ID:7UnqCrqQ0
 ジョルジュが何かを放り投げた。
 慌てつつもしっかりそれを受け取る。

 しかし、それの用途を理解することはできなかった。

( ゚∀゚)「きたねー木片だと思っただろ?」

(;^ω^)「い、いえ……」

 黒ずんで、形も整ってはいない木片。
 何か特別な力を発する物でもなさそうだった。

( ゚∀゚)「それは"伝令章"さ。伝令兵であることの証になる」

( ^ω^)「……あっ……なるほどですお」

( ゚∀゚)「偽の伝令に惑わされないための工夫だ。テキトーなモノを伝令章にすれば偽造の心配もないしな。
     伝令を行うときは必ずそれを見せろよ。まぁ、お前はもう顔も売れてるし、大丈夫だと思うが」

 ジョルジュの言葉に対して反応は示さずに、伝令章を懐に収めた。
 それについて、特に気にしているようには見えなかった。
 ジョルジュの顔は、真剣味に溢れている。

( ゚∀゚)「……よし、ブーン。最初の伝令、いくぞ」

(;^ω^)「は、はいですお!」

( ゚∀゚)「ニダー=ラングラー中将に伝令。森の中に入り、北東方向へ小さく固まって進め。
     包囲されないように細かく斥候を出せ。最初の敵に当たったらFを火矢にして空に放て。
     そこで一里下がって待機。追って伝令を出す。以上だ」
35 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:04:43.32 ID:7UnqCrqQ0
 必死で反復する。内容を忘れてしまいそうで、不安に包まれた。
 一言一句違わず反復し終え、すぐに走り出す。

 ニダーとは二里しか離れていない。少しの時間で、すぐに到着した。

<ヽ`∀´>「……了解ニダ。では、突入するニダ」


 伝令章を示し、伝え終えるとすぐ、ニダー率いるH隊二千とI隊三千が木々の合間を抜けて、暗闇に消え行く。
 その様を無事見届け、ようやく安堵できた。

 すぐにジョルジュの許に戻り、伝令遂行を報告する。
 その速さに、ジョルジュは少し驚いたようだった。

(;^ω^)「次の伝令をお願いしますお!」

 手で額の汗を拭うが、全身汗ばんでいるため大して意味はなかった。
 今日は湿気もあって、かなり蒸し暑い。
 森の中は尚更だろう。

( ゚∀゚)「……よし、次はプギャー=アリスト中尉に伝令。
     南東方向へ小さく固まって進軍。斥候を出しながら慎重に進め。
     三里進んだ場所で待機。敵軍に遭遇した場合もその場所からは動くな。退けろ。
     包囲されたら一点を突き破ってハルヒ城へ退却。その他、追って指示を待て。以上だ」

 反復を終えてすぐに走り出した。
 プギャーはニダーよりも更に近い。ジョルジュの位置からでも充分、姿が確認できる。
 走り寄っていくと、プギャーがそれに気付いて近寄ってくれた。

36 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:07:07.13 ID:7UnqCrqQ0
( ^Д^)「出陣か?」

( ^ω^)「ですお!」

 一応伝令章を示し、ジョルジュの言葉を伝えた。
 プギャーが率いるのはG隊二千。東塔の将だからか、あまり精強な軍隊は与えられていない。
 もっとも、そのぶん果たすべき役割も重くないようで、プギャーは楽観すらしているようだった。

( ^Д^)「ブーン、今回は中々厳しい戦だが……しっかり頑張れよ。
     東塔に帰ったら二人で酒でも飲もうぜ」

(*^ω^)「はいですお!」

( ^Д^)「よし、出陣!」

 歩兵が一斉に動き出した。
 大きかった背中は遠ざかり、やがて暗闇に消える。
 どれだけ目を凝らしても、もう、見えない。

 プギャーの無事を祈って、ジョルジュの許へ戻った。

( ゚∀゚)「……ご苦労さん」

 こっちを見ないまま、ジョルジュが冷たく言い放った。
 こういう人だ、と分かってはいるが、この人柄を心の底から好きにはなれそうにない。
 その思いは最初から変わっていなかった。

( ゚∀゚)「……ブーン、お前……プギャーに気に入られてるみたいだな」

(;^ω^)「……え?」
40 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:09:51.39 ID:7UnqCrqQ0
 突然の一言だった。
 ジョルジュの視線や表情は、一定だ。何も変わりはなかった。

 しかし、次に出てくる言葉で、混乱は激憤に変わる。

( ゚∀゚)「……あいつは無能だぜ……ついていくなら別の奴にしろ。
     戦場での決断力はない、発想力もない、即応力もない……。
     せいぜい、戦が終わったあとに"分かりきったことを"偉そうに語れる程度だ。
     ショボンに気に入られてるおかげで昇進してるが、西塔なら少尉すら危ういぜ。
     あいつと一緒に居るくらいなら、一人のほうがマシだ」

 アルファベットの柄に、手が伸びかけた。
 ジョルジュの表情はやはり、変わらない。それが余計に、憤怒の情を増させていた。

 抑えろ、抑えろ。必死で言い聞かせて、ようやく右手は静止する。
 ジョルジュにアルファベットを振るってしまったら、どうなるか。それくらい、分かっているつもりだった。

 表情を戻せ。何の怒りも表現していない顔で、ジョルジュのほうを見なければならない。
 何か問題を起こせば、ショボンやプギャーに迷惑をかけることになる。
 それだけは絶対に避けなければならない。

 しかし、ジョルジュは言葉を続ける。
43 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:12:02.29 ID:7UnqCrqQ0
( ゚∀゚)「ブーン、西塔に来いよ。東塔で馴れ合いのぬるま湯に浸かってちゃ、体が錆びちまうぜ。
     ショボンみたいな"新参"の許じゃ、お前の才も」

(  ω )「……西塔に行くつもりは、ありませんお」

 平静だ、と思った。
 表情や、語調。どれをとっても、普通に接せている。
 何も問題はないはずだ。
 はっきりとした、この拒絶も。

( ゚∀゚)「……あぁ、そうかい」

(  ω )「せっかくのお誘い、申し訳ありませんお」

( ゚∀゚)「ははは、気にするな……っと、火矢が上がったな」

 森の中から、鬨の声と火矢が同時に上がる。
 ニダーの五千が、敵兵とぶつかったようだ。

( ゚∀゚)「さぁブーン、伝令だ。相手はニダー=ラングラー中将。
     ニダーには昨日の軍議で"敵兵を打ち破ったあとは北に向かえ"と伝えてある。
     ブーン、お前は先に北へ行ってニダーを待つんだ。そこで、ニダーに待機するよう伝えろ。
     その後もお前はニダーについていけ。夜になったらこっちに戻って来い」

 小さく頷いて、反復もせずに森へと向かった。
 早くジョルジュの側から離れたかった。口を開くと、何を言ってしまうか分からない。

 鬱蒼とした森に入って、進軍のあとを辿った。
48 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:14:27.82 ID:7UnqCrqQ0
( ゚∀゚)「…………」


(-_-)「……ジョルジュ大将」

( ゚∀゚)「なんだ、ヒッキー大尉。どうかしたか?」

(-_-)「……昨日の軍議で……敵兵を破ったあと、北に向かえとは……言ってなかったかと……」

( ゚∀゚)「……ブーンとの会話を聞いてたのか……。
     まぁ、記憶にないのは当然だ。言ってねーからな」

(-_-)「……では……先ほどの会話は……」

( ゚∀゚)「お前が気にすることじゃねーよ」

(-_-)「……今、森の北には……」

( ゚∀゚)「それも、お前の気にすることじゃない。
     さっきの会話は忘れろ。それより、進軍するぞ。森の中で戦だ」

(-_-)「……はい……」


(-_-)「…………」
53 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:17:03.27 ID:7UnqCrqQ0
――ハルヒ城−ヒグラシ城間の森――

――通称 "牢乎の森"――

 北に向かって駆け続けていた。
 広大な森だが道は狭くなく、どの道を行けば北に着くのかもしっかり分かる。
 地面から好き放題に生えている草花のせいで走りにくく、そのせいで走りは遅くなっているが、仕方なかった。
 別に急げとも言われていない。与えられた任務さえこなせばいいだけだ。
 今はそう考えてしまう気分だった。

(#^ω^)(……あの言い草は何だお……ありえないお!)

 プギャーのことを、罵倒し尽くす言葉の数々。
 信頼を寄せていて、尊敬もしている。そんな人を、馬鹿にされた。
 大人しく笑っていられるわけがなかった。

 言い返してやりたかった。しかし、何とか理性がそれを抑えつけてくれた。
 プギャーのことを考えるなら尚更、何も言わないほうが良かったのだ。

 それは分かっているが、全力で否定してやりたい気持ちはやはり強かった。

(#^ω^)(……ん?)
55 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:19:28.98 ID:7UnqCrqQ0
 鼻の頭に、水滴が落ちた。
 雨が降り出したようだ。

(;^ω^)(雨かお……森の中だから濡れにくいけど、地面が悪くなると走りにくいお……)

 早めに向かったほうが良さそうだ、と思った。
 加速して北に向かう。誰とも出会わないまま、五里は進んだ。
 このへんはまだハルヒ城のほうが近い。ラウンジ軍と遭遇しないのは、そのせいだろう。


 湿気が体に纏わりついて、汗となって体中から滴る。
 しかし今は雨にも濡れて、さほど気にならなくなった。

 やはり地面はぬかるみ始めた。
 いつの間にか水溜りも点在している。それを避けながら走ったせいで、余計な時間と体力を奪われた。
 だが、もうすぐ目標地点に到達するはずだ。

(;^ω^)(もしかしたらラウンジと遭遇するかも知れないお……アルファベットの用意だけはしておくお)

 背中のGを右手で構え再び走り出した、そのときの、視界の先。
 まさに、ラウンジ軍が、居た。

(;^ω^)(ホ、ホントに遭遇してしまったお……暗くてよく見えないけど、五百くらいの固まりかお……?)

 当然、一人で相手できる兵数ではない。そもそも、新兵であるブーンにはどうしようもない。
 ここは、大人しく身を潜めて、ニダーが来るのを待つしかなかった。

 長めの草が生い茂った草むらに、身を隠そうとして、動き出した。

 そのとき、不意に、視界が変わった。
57 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:22:05.93 ID:7UnqCrqQ0
(;^ω^)「おぉっ!?」

 右肩から、次いで骨盤へと痛みが走る。
 口の中が泥の味で満たされ、思わず咳き込んだ。
 どうやらぬかるんだ足元のせいで、足を滑らせてしまったようだ。

(;´ω`)(痛いお……ん?)

(ラ1~ -~)「今何か、音がしたな」

(ラ2~ -~)「確かに、しましたね」

(;゚ω゚)(ッ!! やばいお!!)

 ラウンジ軍のそばで、隠れるように身を伏せている。
 そんな姿が見つけられたら、間違いなく殺されてしまう。

 逃げるしかない。しかし、動けば見つかってしまう。
 だが、ここに隠れていても見つかる可能性は高い。
 どちらも危険であることに変わりはない。

 どっちが正解だ。考えていられる時間は、ほとんどない。
 早く結論を出さなければ。そう焦れば焦るほど、答えが分からなくなる。

(;^ω^)(……ん?)
60 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:24:33.04 ID:7UnqCrqQ0
 しかし、ラウンジの兵は全く違う方向を探し始めた。
 こちらに向かってくる兵も少しいるが、あまり深く探さずに戻っていく。
 どうやら、雨のせいで音の出所が掴めなかったようだ。

 数分そうやって探したあと、ラウンジの兵は再び隊を組みだした。
 どうやら諦めてくれたようだ。

 そして、いくつもの足音と、聞き取れない会話音を響かせて、ラウンジの兵は去っていった。

(;^ω^)(あ……危なかったお……)

 肩や腰はまだ痛むが、地面が泥濘していたこともあり、思ったより深い痛みではなかった。
 なんとか走れそうだ。

( ^ω^)(気を取り直して、北に進……む……お……)

(;^ω^)(……お……?)

 闇が、濃くなった。
 起き上がりかけて、両手と膝で地面に接している状態。
 顎や髪の先から、雫が滴る。
 まるで、冷や汗のように。

 ゆっくり、恐怖の蓋を開けるように、ゆっくりと、顔を上げた。


 視界に映ったのは、俯瞰の視線を向けている、一人の男。

 確実に、ブーンを見下ろしていた。
62 :第6話 ◆azwd/t2EpE :2006/12/28(木) 22:26:06.54 ID:7UnqCrqQ0
(;゚ω゚)「お……お……お……」

 銀の具足を身に纏った、長身の男。
 ただの兵ではないことが、空気で分かる。

 雷鳴が轟いた。
 稲光が男の背中で光り、男のシルエットを映し出す。


 その右手に握り締めているのは、間違いなく、アルファベットV。


 あまりの恐怖で、何も考えられなくなった。


(;゚ω゚)「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 叫び声が木々に反射して、こだました。








 第6話 終わり

     〜to be continued

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