4 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:05:22.37 ID:tkC5Yg6w0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
28歳 少将
使用可能アルファベット:S
現在地:フェイト城付近

●('A`) ドクオ=オルルッド
28歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:????

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
38歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:フェイト城付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
33歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:フェイト城付近

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
36歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城付近
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:06:03.43 ID:tkC5Yg6w0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
34歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城付近

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
31歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:フェイト城付近

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
27歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城付近
10 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:06:44.93 ID:tkC5Yg6w0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/ギコ
少将:ブーン/プギャー

大尉:ビロード
中尉:ドクオ/ベルベット
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
14 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:07:33.69 ID:tkC5Yg6w0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:ドクオ/ギコ/プギャー/ベルベット
S:ブーン/ニダー
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ジョルジュ/モララー
W:
X:ショボン
Y:
Z:
18 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:08:14.49 ID:tkC5Yg6w0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 オオカミ
(シャッフル城〜フェイト城)

・ヴィップ 対 ラウンジ
(ギフト城〜リリカル城)

 

23 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:08:58.80 ID:tkC5Yg6w0
【第59話 : See】


――オリンシス城北の森――

 何故だ。
 そう考える余裕さえなかった。

 しかし、突きつけられた現実。
 積み重なる亡骸。

 オオカミの、伏兵。

(;'A`)「ハァッ! ハァッ!」

 どうしようもないほどに息が切れていた。
 全身が酸素を欲している。疲れを癒そうとしている。
 だが、立ち止まれない。

 一万の兵を率いてきた。
 そのうち、恐らく五千は死んだだろう。
 これからも更に被害は増えていく一方だ。

 スメアともはぐれてしまった。
 どこに誰がいるのか、分からない。

 確実なのは、この森をオオカミが取り囲んでいるという事実だけだ。

(;'A`)「うあっ!」
31 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:11:23.39 ID:tkC5Yg6w0
 地面の窪みに足を取られた。
 転げ、それでもすぐ立ち上がる。
 静止している時間はない。

 周りには、たった二十人の兵しかいない。
 この広い森で、他の兵と巡り合うのは困難だった。
 オオカミの兵もいるため、尚更だ。

 北に向かうべく、城を発った。
 この森に入ることは、最初から決めていた。

 オオカミの目から少しでも逃れるため、森に入ったほうがいいと思ったのだ。
 この森は決して狭くなく、道も問題なく通れる程度には整っている。
 森を通過しない手はない、と思った。

 そこに、オオカミは伏兵を仕掛けていた。

 恐らく、時間をかけて少しずつオオカミ城から兵を入れたのだろう。
 大規模な兵団が動いたという情報はなかった。あくまで、少しずつだ。
 でなければとっくに気付いていたはずだ。

(;'A`)(くそぉ……!!)

 二刻ほど前のことを思い返した。
 森の半ばまで差し掛かったときの出来事だった。

 突如、周りから姿を現したオオカミ軍。
 瞬く間にヴィップ軍を襲った。

 完全に錯乱してしまった。
36 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:13:46.66 ID:tkC5Yg6w0
 まさか、ここで伏兵に襲われるとは、考えもしなかった。
 オオカミには、完全に動きを読まれていたのだ。

 一万の兵は、散り散りになった。
 半数ほどは討ち取られ、あとは為す術もなく潰走した。
 しかし、ここから逃げようにも、森の外はオオカミ軍が囲んでいる。

 馬は既に失ってしまった。
 逃げ場もない。
 生きる術もない。

 しかし、諦めるわけにはいかない。
 自分のためにも、兵のためにも。
 国のためにも。

 生き抜かなければならない。
 この局面を、切り抜けなければならないのだ。

(;'A`)「ッ!!」

 慌てて身を伏せた。
 木々の向こうに、オオカミ軍がいる。

 将校章をつけている。
 あれは、恐らく中尉だろう。
 ここからでは顔が確認できないが、アルファベットはLだ。

 普通に戦えば勝てるだろうが、囮である可能性もある。
 ここは、迂闊に飛び出せない。
46 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:16:06.70 ID:tkC5Yg6w0
 気付かれないように移動した。
 とにかく夜になるまで見つからないよう逃げ隠れし、隙を伺うしかない。
 死んでいった兵のためにも、生き延びなければならないのだ。

 この森は広大だが木はさほど多くない。
 隠れる場所が少ないのだ。
 敵兵の位置を把握しやすいが、見つけられやすいのは難点だった。

 慎重に移動した。
 できれば発見されにくい場所で留まっていたいが、なかなか見つからない。

 いや、隠れやすい場所ならオオカミには調べられているはずだ。
 かえって危険だった。

 結局、こうやって絶えず移動しているしかない。
 一点に留まっていれば、密かに囲まれて全滅する恐れがあるためだ。
 ここは敵に狙いを絞らせないためにも、動き続ける必要があった。

 だが、当然それは、発見されやすいという危険性も孕んでいる。

( `・ヘ・´)「いたぞー!!」

 敵兵の大声が上がった。
 気付かれた。

(;'A`)「くっ!!」

 ここは、逃げられない。
 思い切って、敵兵の固まりに突っ込んだ。
52 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:18:11.62 ID:tkC5Yg6w0
 将校はいない。
 Jの壁を突破している敵兵もいない。

 素早く敵兵を討ち取っていく。
 必死に抗おうとしてくるが、この程度なら問題ない。
 十人ほどの集まりを殲滅し、また逃げ出した。

 敵兵が集まる前に逃げだした。
 これでしばらくは大丈夫だろう。

 空を見上げた。
 陽はようやく傾きつつある。
 だが、まだ夜になるまでは数刻かかるだろう。

(;'A`)「ちょっとだけ休もう。半刻ほどでまた動く」

 周りの兵たちに言って、木々の間に身を潜めた。
 敵兵の気配はない。

 体を休めている間、考えた。
 何故、こうなったのか。

 慢心があった。
 油断もあった。
 それは否定できない事実だ。

 自惚れてしまっていた部分もある。
 戦いたい気持ちだけが逸り、充分な準備を整えられなかった部分もある。
 それもやはり、否定できない。
62 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:20:50.19 ID:tkC5Yg6w0
 自分のせいだ。
 オオカミがこの森に伏兵を置くことを、見抜けなかった。
 オオカミの思惑通りに動いてしまった。

(;'A`)(みんな……すまねぇ……)

 またも、自分のせいで多くの兵が死んでいった。
 どうあっても償いきれない。
 マリミテ城を守り、挽回した直後での失態だ。

 軍に戻れば、今度こそ死罪となるかも知れない。
 それも致し方のないことだ。覚悟はできている。
 だが、この場は切り抜けなければならない。

(;'A`)(……誰もいないな……)

 辺りの様子を伺った。
 敵兵の姿はない。
 まだしばらく休んでいられそうだ。

 オオカミの軍は、二万ほどだろうか。
 これほどの兵を森に少しずつ入れるのは、相当時間がかかったはずだ。
 今にして思えば、オオカミが時間を稼いでいたのはこのためだったのだろう。

 陣の拡大についても、頷ける。
 兵を南に動かすことによって、森に近づけたのだ。
 そこから森に移動した兵もいるのだろう。

 南だけに陣を動かしては不自然だから、北にも動かした。
 結果的に、陣が伸びたという形になった。
68 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:23:20.60 ID:tkC5Yg6w0
 シャッフル城を狙うと見せかけたのも、自分をオリンシス城から引きずり出すため。
 様々な撹乱も、自分にシャッフル城狙いだと思わせるため。
 何もかも、オオカミの目論見通りだったというわけか。

(;'A`)(……申し訳ありません……ショボン大将……)

 何度も何度も願い入れた。
 攻めさせてほしい、必ず成功させてみるから、と。
 ショボンも遂には了承してくれた。

 裏切ってしまった。
 期待を、想いを。
 せっかくショボンが願いを聞き入れてくれたのに。

 情けなかった。
 自分の無力さが、恨めしかった。

('A`)「……行こう」

 短く言って、再び駆け出した。

 まずは味方のヴィップ兵と合流したい。
 兵が多ければ敵にも立ち向かいやすくなる。

 あとどれほどの兵が残っているだろうか。
 五千。いや、四千。
 三千まで減っていてもおかしくない。

 心の中で、死んだ兵にひたすら詫びながら、駆け続けた。
83 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:25:56.24 ID:tkC5Yg6w0
――フェイト城付近――

 ドクオがオリンシス城を発ってからかなり経っている。
 果たして、間に合うか。

(;^ω^)(ドクオ……!)

 ショボンは、オリンシス城の北にある森に向かうと言った。
 恐らくドクオはそこを通るだろう。オオカミが兵を伏せているだろう。
 そう言ったのだ。

 もはやフェイト城どころではなくなっていた。
 ドクオと一万の兵を失えば被害は甚大。
 今後にも影響を及ぼす。

 オオカミに策で上回られた。
 その時点で、既に負けている戦だ。
 被害を軽減する段階に入ってしまっているのだ。

 順調に南へ向かえば、さほど時間はかからずに済む。
 特に前を駆けている騎馬隊はそうだ。
 上手くいけば、ドクオを救出できるかも知れない。

 だがそれは、あくまで順調に進めれば、だ。

(´・ω・`)「あれはっ……!」

 前方を塞ぐ万単位の兵。
 オオカミ軍だ。
91 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:28:22.69 ID:tkC5Yg6w0
 先回りされていた。
 ヴィップが南に向かうことを見越して。

 全軍が、逡巡した。
 このまま敵とぶつかれば大きなタイムロス。
 回避したほうが賢明かも知れない。

 だが、回避は側面を突かれる恐れがある。
 それで潰走させられてしまった場合、タイムロスどころではなくなる。
 判断が難しい局面だった。

 そして、ショボンの決断は――――。

(´・ω・`)「打ち破るぞ! 決して止まるな!」

 ショボンの低い声が響いた。
 更に勢いを増して駆けていく。
 先陣切って敵兵を薙ぎ倒していく。

(#^ω^)「おおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

 それに続いて、敵陣に突っ込んだ。
 アルファベットSを何度も振る。振る。振るい続ける。
 敵兵を、討ち取っていく。

 早くしなければ。
 一刻も早くドクオの許に向かわなければ。

 こんな奴らに構っている暇はないのだ。
102 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:30:46.99 ID:tkC5Yg6w0
(#^ω^)「お前らどけおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 左右に何度も振るった。
 次々に敵兵が首を失って倒れていく。

 敵の第一陣は突破した。
 しかし、まだ後方に何段も構えている。
 敵兵。恐らく三万はいる。

 既に空は朱色に染まっている。
 時間が、過ぎていく。
 それを静止させることは、できない。

(#^ω^)「敵兵を振り払うんだお! 留まることなく駆け続けるんだお!」

 配下の兵にそう叫んで、再び馬を走らせた。
 何人でも打ち破ってやる。邪魔はさせない。
 必ず、ドクオを助け出す。

 強い意志をアルファベットに込め、第二陣の敵とぶつかった。



――オリンシス城北の森――

(;'A`)「クハッ!! ハァッ!!」

 腕が、上がらない。
 ほんの少し気を抜くだけで、きっと倒れてしまう。
108 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:33:10.95 ID:tkC5Yg6w0
 敵兵の首を飛ばした。
 これで、ここにいたオオカミ兵は殲滅。
 しかし、こちらの兵も確実に減りつつある。

 二十人いた周りの兵のうち、六人が死んだ。
 疲れて倒れ、あるいは敵兵に討ち取られ。
 いずれかの形で息絶えた。

 多くの犠牲を払って生き続けている。
 それは、昔から変わらない。

 だが、ここではそれを間近に感じてしまう。
 何度も経験したことだ。分かっている。
 それでも、悔しさが治まってくれない。

 茂みに隠れ、休息を取った。
 ずっと動き続けていては、いつか倒れてしまう。
 適度に休憩を挟む必要がある。

 だが、このときが一番怖かった。
 遠巻きに囲まれた場合、逃げ出せなくなってしまうからだ。
 常に周りには気を配る必要があった。

(;'A`)「ハァ、ハァ……よし、行こう……」

 だいぶ暗くなってきた。
 このまま夜まで逃げ続ければ、闇に乗じて森から抜け出せるかも知れない。
 敵兵に成りすましたとしてもバレにくいだろう。
114 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:35:32.07 ID:tkC5Yg6w0
 早く時間が過ぎることを祈った。
 祈り続けた。

(;'A`)「ッ!!」

 敵兵。
 前方にいる。

 その数が、多い。
 およそ百人はいる。

(;'A`)(ここは、逆方向に……)

 振り向いた。
 しかし、そこにも待ちかまえている。
 こちらは、二百人以上。

 左右を見た。
 やはりいるのはオオカミ兵。
 完全に囲まれている。

(;'A`)(くそぉ……!)

 遂に、包囲されてしまった。
 四方に、数百の兵。
 避けきれない数だ。

 戦うしかない。
 戦って、突破するしかない。
125 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:37:58.89 ID:tkC5Yg6w0
('A`)「みんな、すまん……最後まで俺についてきてくれ!」

 周りの兵が、力強く頷いてくれた。
 一瞬、視界が滲みかけた。

 勢いよく駆け出した。
 一番薄い左方へ。
 あそこなら、突破できる見込みがある。

(#'A`)「うおおおおおぉぉぉぉッ!!」

 斬り込んだ。
 アルファベットR。振り回す。
 敵の攻撃を掻い潜りながら胴を両断する。

 オオカミ兵は浮足立っている。
 いける。突破できる。
 しかし、後方のヴィップ兵も、次々に倒れていく。

 囲みを、突破した。
 残った兵は、僅かに七名。
 それでも、百人近い敵軍に突っ込んだことを考えれば、奇跡にも近い数だった。

 とりあえず囲みは抜けたが、まだ危機は続いている。
 後ろから、オオカミの兵が追ってきているのだ。
 中には騎馬兵もいる。あれからは、徒歩では逃げきれない。

(;'A`)「クソォ!!」
157 : ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:42:07.58 ID:tkC5Yg6w0
 駄目だ、追いつかれる。
 後ろのヴィップ兵も、倒れていく。
 全滅する。

 みんな、すまない。
 心の中で、そう呟きかけた。

 そのとき、隣を疾風の如き速さで駆けた馬がいた。

 あれは――――。

(;'A`)「スメア!!」

 アルファベットKを構えたスメア。
 単騎で、敵陣へと向かっていく。

 数百の、敵陣に。

(;'A`)「よせ!! スメア!!」

 一度だけ、スメアが振り返った。
 笑っていた。

 そして、左手がさよならを告げていた。

(;A;)「スメアァァァァァ―――――――――!!!」
192 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:44:28.80 ID:tkC5Yg6w0
 スメアが、敵兵を討ちとっていく。
 獅子奮迅。無双の如き力で。
 オオカミ兵の首が、幾つも舞い上がる。

 そのスメアの、左腕が斬り落とされた。

 そして、同時に馬がやられたのが見えた。

 馬上から落ち、敵兵の中へと消えていく。
 敵兵のアルファベットが、次々に振りあげられる。

(;A;)「スメアッ……!!」

 留まってはならない。
 スメアは、自分を逃がすために囮になってくれたのだ。

 悔しくて悔しくて、堪らなかった。
 皆が自分を生かすために、必死になってくれている。
 命を、投げだしてくれている。

 こんな自分のために。
 オオカミに嵌められた、無様な男のために。

 自分が無力なせいだ。
 自分にもっと力があれば、死なずに済んだ兵が、たくさんいた。
 それが、悔しい。悔しすぎる。

 涙を拭った。
 振り返らずに駆けた。
210 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:46:51.78 ID:tkC5Yg6w0
 もう、周りにヴィップ兵は一人もいない。
 こんな情けない男を守ってくれる兵はいない。

 自分の力で生き延びなければならないのだ。
 自分を生かすために死んでいく兵はもう、見たくない。

 頼むから、もう、誰も死なないでくれ。
 そう願って、ひたすら駆けた。

 いつの間にか空には月が浮かんでいた。
 星も出ている。完全に夜になっている。
 この状況なら、敵からは見つかりにくいはずだ。

 森は、静かだった。
 恐らく、多くのヴィップ兵が討ち取られてしまったためだろう。
 干戈の声も聞こえない。

 森のどのあたりにいるかは、全く分からない。
 だが、ひたすら駆ければいつかは外に出るだろう。
 そこに運良く敵兵がいなければ、逃げられる可能性はある。

 信じて、駆けるしかない。

(;'A`)(ハァッ……くそっ……)

 体力が持たない。
 全身が上下している。
 空気を取り込もうとしている。
219 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:49:15.58 ID:tkC5Yg6w0
 茂みに身を投げた。
 倒れこむようにして。

 少しだけ休憩を取って、またすぐ駆けよう、と思った。
 勝負は、森の中の敵兵が外に出るまでだ。
 今ならまだ、外のオオカミ兵は少ないはずだった。

 時間が経てば、敵兵は森の外に出てしまう。
 その前に、脱出しなければならない。

(;'A`)(……ん……?)

 懐から、何かがこぼれ落ちた。
 真っ白な封筒。
 これは、ショボンからの手紙だ。

 攻めの許可を与えてくれた。
 この手紙を見て歓喜に包まれたのは、まだ最近のことだ。
 思えば、あのとき浮かれすぎてしまったのが、敗因なのかも知れない。

(;'A`)(……あれ?)

 この手紙。
 よく見てみれば、やけに字が雑だ。
 ショボンがこれほど乱雑な文字を書いたことは今までなかった。

 いつも丁寧な字で手紙を書いてくれたショボン。
 しかし、この字はいったい。
 少しでも早く、と思って急いだのかも知れないが、それにしても雑すぎる。
227 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:51:49.68 ID:tkC5Yg6w0
(;'A`)(もしかして……)

 可能性としては、だ。
 あくまで可能性に過ぎない、が――――。

 これを、ショボン以外が書いたのだとしたら。

 何もかも全て、オオカミの策略通りだったということになる。

(;'A`)(ここまで緻密な策を立ててたっていうのか……!?)

 自陣に隙を作り、シャッフル城を攻める構えを見せるだけでは、不充分。
 策を完璧にするため、ショボンの手紙をすりかえ、オリンシス城から引きずりだす。

 オオカミは、そこまで考えていたというのか。
 これは、完全にオオカミに上回られている。
 自分では想像もつかないような策だった。

 ミルナ=クォッチ。
 オオカミ軍が誇る名将。

 侮りすぎていた。
 先の戦に勝ったことで、ミルナを心のどこかで軽視してしまっていたのだ。
 相手は、ショボンとも互角に戦う大将だというのに。

 たかが一度の勝利で。
 あまりに傲慢だった。
 不遜が過ぎていた。
239 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:54:34.54 ID:tkC5Yg6w0
 そして、そのせいで死んだ兵が、大勢いる。
 どうやって詫びればいいのか、分からない。

(;A;)(みんな……ごめん……)

 拭っても拭っても涙が止まらない。
 自分の、愚かしさが、悔しい。

 手紙を破った。
 悔しさをぶつけるようにして、何度も何度も。
 こんなものに、自分は惑わされてしまっていたのか。

 もっと慎重に物事を見ていれば。
 そうすれば、こんな大敗は防げたのに。

 いまさら言っても、どうしようもないことだ。
 分かってはいるが、感情を抑えられない。
 涙が、止まってくれない。

 しかし、こんなところでずっと泣いているわけにはいかない。
 逃げなければ。生きなければ。
 自分にできることは、それだけなのだ。

 だが、不意に。

(;'A`)「ッ!!」

 不意なる、音。
 遠来する。いや、近づいてくる。
 馬だ。蹄の音だ。
255 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/07(火) 23:57:31.16 ID:tkC5Yg6w0
 慌ててそこから逃げようと立ち上がった。
 アルファベットを握って木陰へと向かう。
 しかし、慌て過ぎたために木の根っこに足を引っかけてしまった。

 同時に、アルファベットが手から離れた。

(;'A`)(しまっ……!!)

 敵の姿が、見えた。
 アルファベットを拾う余裕はない。

 とにかく身だけを茂みに隠した。
 アルファベットも見つかりはしないだろうが、拾いに行けば気付かれるだろう。

 ここは、じっと身を潜めているしかなかった。

(;'A`)(ん……?)

 騎兵が、およそ二十人。
 声を交わしながらこちらへ向かってくる。

 その中に、ひとりだけ明らかに雰囲気の違う男がいた。
 具足、馬、アルファベット。
 何から何まで。

 圧倒的な存在感。
 そして、アルファベットU。

 ミルナ=クォッチだ。
272 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/08(水) 00:00:30.26 ID:yE1aqZqL0
(;'A`)(この森に来てたのか……!!)

 最悪だ。
 いまミルナに見つかれば、確実に命はない。
 まず生き延びることはできない。

 ミルナと戦って果てるのもいい。
 もしミルナが最後の相手なら不満もなく生涯を終えられる。

 だが、それはあくまで普段の戦ならだ。
 皆が生かそうとしてくれたこの戦で、死ぬわけにはいかない。

 アルファベットが手にない。
 不意打ちもできない。

 このまま息を潜めていることしかできない。

( ゚д゚)「ヴィップ兵はほとんど討ち取ったか」

(兵〒_〒)「はい、八割か九割は」

( ゚д゚)「あとはドクオ=オルルッドだけだな」

 気付かないでくれ。
 このまま、通り過ぎてくれ。

 ひたすら願った。

(;'A`)(…………)
291 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/08(水) 00:02:50.64 ID:yE1aqZqL0
 馬脚が目の前を通過していく。
 手を伸ばせば届くほどの距離だ。
 だが、馬の視点からなら、この茂みの中には目がいかないだろう。

 何頭もの馬が通り過ぎていく。
 恐らくミルナの馬と思われる、漆黒の馬脚も見えた。
 留まらずに、先へ行った。

 全頭が、眼の前から消えた。
 気付かずに、通り過ぎてくれた。

(;'A`)(危なかった……)

 一応、馬が戻ってこないことを目と耳で確認して、ゆっくりと茂みから抜け出した。
 アルファベットRを拾いに行く。

 ――――しかし。

 その、僅かな間。
 極々、短い間に。

 敵兵が、迫ってきた。
 最も戻ってきてほしくない兵が。

(;'A`)(ミルナッ!?)

 何故だ。
 何故、ミルナが戻ってきたのだ。
314 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/08(水) 00:06:48.82 ID:yE1aqZqL0
 馬を降りている。
 音を絶ってこちらに向かっている。

 慌てて身を隠した。
 アルファベットはまだ拾えていない。
 しかも、自分の身も満足に隠せていない。

 せめて、茂みの中に入るか、アルファベットを拾うか。
 どちらかができれば。

 そう思うが、どちらかを行えば、必ずミルナに気付かれる。
 ここは、動けない。

( ゚д゚)「…………」

 ミルナの、鋭い眼光。
 辺りを見回している。

 自分の気配に、気づいたのか。
 恐らくそうだ。でなければ、戻ってくるはずがない。
 音を絶つために、一人で、馬から降りて戻って来たのだ。

 ミルナは、この辺りが怪しいと感づいている。
 ならば尚更、動くことはできない。
 ここでミルナをやり過ごすことができれば、当分は安全だ。

(;'A`)(頼む……! こっちを見るな……!)
337 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/08(水) 00:09:22.64 ID:yE1aqZqL0
 身を伏せている。
 体はある程度隠れているが、肝心の頭が出たままだ。
 ミルナがこちらを注視すれば、見つかってしまう。

 気付かれないよう、息を殺していた。
 それでも、ミルナがこちらを見れば、全てが終わる。
 間違いなく、殺されてしまう。

(;'A`)(こっち見るな……! こっち見るな……!!)

 ひたすら心の中で呟いた。
 祈り続けた。

( ゚д゚)「…………」

(゚д゚ )「…………」

 この暗闇の中だ。
 気付かれない可能性は、ある。

 頼むから、こっちを見ないでくれ。


 そう、願った。


( ゚д゚)「…………」

(゚д゚ )「…………」
365 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/08(水) 00:11:57.31 ID:yE1aqZqL0
( ゚д゚)


(゚д゚ )



( ゚д゚)「…………」



















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426 :第59話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/08(水) 00:14:57.47 ID:yE1aqZqL0
 眼が、合った。

 あまりに、鋭い眼が。


 こっちを見ていた。



((((;゚A゚)))「うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

















 第59話 終わり

     〜to be continued

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