2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:22:51.16 ID:aL+7i5Lf0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
28歳 少将
使用可能アルファベット:S
現在地:シャッフル城

●('A`) ドクオ=オルルッド
28歳 中尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
38歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:シャッフル城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
33歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:シャッフル城

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
36歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:23:33.18 ID:aL+7i5Lf0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
34歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
31歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:シャッフル城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
27歳 中尉
使用可能アルファベット:
Q
現在地:シャッフル城


〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
43歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ギフト城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
44歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:ギフト城
5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:24:14.75 ID:aL+7i5Lf0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
47歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
40歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
42歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ギフト城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
42歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ギフト城
7 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:25:00.03 ID:aL+7i5Lf0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/ギコ
少将:ブーン/プギャー

大尉:ビロード
中尉:ドクオ/ベルベット
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
9 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:25:46.25 ID:aL+7i5Lf0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:
M:
N:
O:ヒッキー
P:ドクオ/アニジャ/オトジャ
Q:ベルベット
R:ギコ/プギャー
S:ブーン/ニダー
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ジョルジュ/モララー
W:
X:ショボン
Y:
Z:
12 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:26:28.48 ID:aL+7i5Lf0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 オオカミ
(シャッフル城〜フェイト城)

・ヴィップ 対 ラウンジ
(ギフト城〜リリカル城)

 

15 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:27:22.81 ID:aL+7i5Lf0
【第57話 : Weird】


――世界歴・524年――

 冬の乾いた地面の上を粛々と進軍するヴィップ軍。
 騎馬隊が先行し、歩兵は森を抜けて西へ向かった。
 その後ろから輜重や攻城兵器を引き連れた兵が歩いてくる。

 馬蹄を刻みつけながら、歩兵の先頭に立って行軍していた。
 寒風に身を切られ、体を震わせながら進む。
 山が冠雪を頂いているのが見えた。

( ^ω^)(今年の冬は寒いお……)

 防寒具を着込んで来たが、それでも寒さを感じる。
 予定通り進軍を終えたらすぐに火を焚いて暖を取ろう、と決めた。
 恐らく兵もそれを望んでいるだろう。

 シャッフル城から五万の兵が発った。
 年が明けてから十日ほど経ってからの進発だった。

 いずれ逐次戦力を投入する予定だが、まずは五万だ。
 もし苦戦するようなら兵を増やす。
 それを為し得るだけの力が今のヴィップにはあるのだ。

 ただ、今は西塔も戦が続いていた。
 ギフト城を奪ったあと、ラウンジが意地でカウンターを見せてきたのだ。
 かなり激しい戦いになっているという。
22 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:30:19.67 ID:aL+7i5Lf0
 ジョルジュは何とか防いでいるらしいが、ラウンジはもう負けられない。
 だからこそ怒涛の攻めを繰り広げてくるのだろう。
 凌ぎきれるかどうか、分からなかった。

 西塔のことも気がかりだが、今は東塔の戦に集中しなければならない。
 オリンシス城戦に勝って勢いに乗っている。それを削ぎたくない。
 全力を尽くして勝利するしかないのだ。


 それから数日経ち、ようやく進軍が終わった。
 そして後方から続々と輜重を引き連れた歩兵隊が到着し、全軍が揃った。
 すぐに軍議が開かれる。

(´・ω・`)「オオカミも準備は整えている。城外に四万を出しているな」

( ・∀・)「正面から打ち破りに行くしかないですね」

 既に張られていた幕舎の中で、暖を取りながら話し合った。
 一番火に近いところにモララーが陣取り、身を竦めながら声を発している。

(´・ω・`)「フェイト城からの動きが気になるが、今のところ、城から三十里ほど離れた地点で構えている」

(,,゚Д゚)「それなら城はあまり気にせずに戦えますね」

(´・ω・`)「恐らく、城で近いところで戦うのは怖いのだろうな。下手をすれば空隙を突かれて城を奪われる」

( ^Д^)「ラウンジがギフト城を奪われたときと同じですね」

(´・ω・`)「あぁ。城の近くで戦い過ぎたために隙を突かれた。あれをオオカミも知っているからだろう」
27 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:32:31.59 ID:aL+7i5Lf0
( ^ω^)「でも四万を相手にするのは辛いところですお……」

(´・ω・`)「まぁな。簡単な戦いではない」

( <●><●>)「幸い数で上回っていますので、利を活かして戦うしかないかと」

(´・ω・`)「あぁ、そうだな。しかし……」

 ショボンが腕を組んで、椅子の背凭れに体重をかけた。
 軋む音が立つ。
 いったん目を閉じ、また開いて、低い声を出す。

(´・ω・`)「……オオカミが、正直すぎる。これでは分が悪いと分かっているはずなのに、だ」

( ・∀・)「ま、そうですね……」

( ><)「何か策を仕掛けてくるんですか?」

(´・ω・`)「その可能性は高い。が、あの平原、しかも城から離れた位置……何かができるとは思えん」

( ・∀・)「ドクオみたいに穴を掘ってくる、とかありそうですけどね」

(´・ω・`)「もちろんフェイト城の周辺は監視させている。そんな動きはなかったそうだ」

(,,゚Д゚)「罠もないとなると、謀略ですか?」

(´・ω・`)「それも考えたがな……シラネーヨの件があって以来、俺も警戒は強めている。
      オオカミ軍に紛れ込ませた間者からは特に報告を受けていない。
      謀略の線も薄いが……まぁ、シラネーヨの時のように、こちらの警戒が掻い潜られている可能性はある」
31 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:34:51.71 ID:aL+7i5Lf0
( ・∀・)「尚も警戒しつつ、やはり正面からぶつかるより他ないですね」

 軍議が終わったあと、再び編成を整えた。
 更に細かい陣立てまでモララーの指揮下で定まる。
 既に戦が行える体勢だった。

 十日ほど経ってから、ヴィップは少しずつ全軍を動かし、敵陣に迫った。
 オオカミは全く動きを見せない。こちらの攻撃を、待っている。

(´・ω・`)「あそこまで余裕を見せられると攻めにくいが……いくしかあるまい」

 ショボンが号令をかける。
 勢いよく先鋒が駆けだしていく。

 モララー率いる騎馬兵I隊。
 鋭く敵陣を裂いていく。

 後ろから歩兵が随従し、追い討ちをかけた。
 オオカミ軍の抵抗も激しい。しかし、押している。
 更に圧力をかけた。

( ^ω^)「いくお!」

 敵の側面を突きにいった。
 H隊歩兵。
 敵陣が、乱れる。崩れる。

 更に反対側からギコとプギャーの猛攻があった。
 今回は二人がコンビを組んで攻め込んでいる。
 それが上手く嵌ったようだ。
38 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:36:55.85 ID:aL+7i5Lf0
 オオカミ軍は、潰走した。
 城の近くまで逃げ帰っていく。

(´・ω・`)「深追いするな。何があるか分からん」

 ショボンは常に警戒を強めていた。
 安易に追えば敵の罠に嵌る可能性がある、と考えているようだ。

 しかし、オオカミの反撃は苛烈だった。
 ヴィップを打ち破らんとして、こちらの攻撃を真正面から受け止めてきた。
 実際、被害は決して少なくない。

( ・∀・)「どう思う?」

 モララーがアルファベットVについた血を振り払いながら、聞いてきた。
 オオカミの思惑について、だろう。

( ^ω^)「難しいですお……あまりにストレートで……」

( ・∀・)「微妙なんだよな。確かにオオカミはこうやって真正面からぶつかるしかねーんだ。
     ただ、それじゃ負ける可能性が高いって分かってる。だったら違う手を打つはずなんだが」

( ^ω^)「この撤退も、布石っていう可能性は……」

( ・∀・)「ある。目的のためにあえて負けている、という可能性は、ある。
     ただ、それにしては抵抗が強かった。本気で勝ちに来ていた」

( ^ω^)「勝っても負けてもどっちでもいい、どっちでも策はある、ってことですかお?」

( ・∀・)「そういう考え方もあるな。何しろ今回の相手はミルナだ」
44 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:38:59.10 ID:aL+7i5Lf0
( ^ω^)「ドクオに惨敗したから、今回は何が何でも、と思ってるはずですお」

( ・∀・)「となると……しばらくは攻め込まないほうが良さそうだな」

 兵を引き返させ、フェイト城とシャッフル城の中間地点で留まった。
 最初に行軍を終えて軍議を行ったあたりだ。

 この位置なら兵站が切られる恐れはない。
 敵軍から奇襲を受ける恐れもない。

(´・ω・`)「そうだな。今のオオカミは不気味すぎる。しばらく様子を見よう」

 軍議が開かれ、私見をモララーと共に述べた。
 ショボンも同感のようだった。

 冬の間は攻め込まず、敵の行動を探る。
 春になったら一度攻め込み、再び相手の様子を伺う。
 そう軍議で決まった。

( ^ω^)(……もしかしたら、それこそがミルナの狙いなのかも知れないお……)

 城から離れているヴィップのほうが、長引けば長引くほど辛い。
 滞陣の疲れが蓄積されて、戦でも満足に力を発揮できなくなるかも知れない。
 そうやってヴィップの力を削ごうとしているのか。

 ただ、そこまで疑ってしまうと、もはや全てが意図的なのではないかと思えてくる。
 ミルナは撹乱しているのだ。ヴィップを迷わせているのだ。
 ただ正面から敵の攻撃を受け止めるだけで、ここまでヴィップを惑わすとは、さすがだった
57 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:41:21.27 ID:aL+7i5Lf0
 寡兵であるオオカミ軍はどうあっても不利だ。
 籠城できる体力もない。
 だからこそ、こうやってヴィップ軍を乱しにきている。

 やはりミルナがいると手強かった。
 オリンシス城戦のときより、はるかに攻めにくい。
 上手く守られてしまっている。

( ^ω^)(……何か他にも策があるかも知れないお……)

 相手はあのミルナ。
 そして、最近手強くなっているリレント。
 フィルやガシューもいる。

 慎重に戦う必要がありそうだ、と思った。



――帰らずの森・小屋――

ξ゚听)ξ「ふぅ……」

 仕事を終えて、一息ついた。
 紅茶を啜って身を休める。

 アルファベット作成依頼書を折って箱に入れた。
 今までの作成依頼書は、全てこの小さな箱の中に収められている。
 昔アルファベット職人をやっていた母親の代からだ。
64 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:43:53.82 ID:aL+7i5Lf0
 奥底まで探れば、ハンナバル=リフォースの依頼書も出てくるだろう。
 しかしさすがにこの量では、探してみようという気になれない。

ξ゚听)ξ(ブーンくんも遂にSかぁ……)

 ブーンからの作成依頼が届いたのは昨年末だった。
 ドラル=オクボーンのSを奪って討ち取り、壁を越えたという。
 これで史上十人目のS到達だった。

 作成依頼と同封された手紙には、壁突破の喜びを表す文字が躍っていた。
 時間はさほどかからなかったようだが、それでも今までの他のアルファベットに比べれば最長だ。
 突破できた喜びは大きいに違いない。

 自分も職業柄、アルファベットには毎日触れる。
 その過程でアルファベットLまでは扱えるようになった。
 ただ、そこから先にはいけない。というより、訓練をあまり行っていない。

 母親がアルファベット職人として働いていた。
 その背中を見て育った。
 いずれは自分が継ぐことになる、という意識の下で。

 そのため、まだ小さいころからアルファベットに触れさせられた。
 しかしAに触れることができたのは十六のときだ。それまで、毎日熱い思いをした。
 時には嫌になって逃げ出すこともあった。

 だが、母親のことは嫌いではなかった。
 むしろ普段の優しいときには自分から寄っていくことのほうが多かったくらいだ。
 ただ、アルファベットに関することになると母親は人が変わった。
69 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:46:31.55 ID:aL+7i5Lf0
 アルファベットの訓練もさせられた。
 母親が病気で倒れ、アルファベット職人を辞めるまでだ。
 Jの壁を突破できたのは自分でも驚きだったが、それも幼いころから毎日触れ、構造を理解していたおかげだろうか。

 普通、女ではまずJの壁を突破することができない、と言われている。
 男よりも更に低い確率。女にとっては、Jの壁がSの壁だ。
 それくらい男女には差がある。

 女性の入軍を認めない、という事情にはそういう背景がある。
 Jの壁突破が見込めない人材に金を払うわけにはいかないのだ。
 女性の地位も低いため、あまり軍に対し強く言えない部分もある。

ξ゚听)ξ(ま、それはいいんだけどさ……入軍を望む女の人なんて滅多にいないし……)

 立ち上がって食材棚に向かった。
 今日の夕飯を考えながら棚の引き出しを開ける。
 夏に収穫できる野菜が多く届けられていた。

 料理の腕にはあまり自信がないが、どうせ自分しか食べる人はいない。
 母親は既にこの世を去っていた。

 自分がアルファベット職人となってから、もう十年以上が経過している。
 その間、自分の力はどこまで伸びたのだろうか。
 自分で上位アルファベットに触れられないため、自身の成長が掴みにくいのがアルファベット職人の辛いところだった。

 昔、自分の成長を確かめるために、ベル=リミナリーの協力を仰いだことがある。
 ショボンの計らいで、アルファベットUを送り、握ってもらったのだ。
 当時、ベルの使用アルファベットはVだった。もしVならジョルジュが許してくれなかっただろう。
72 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:49:34.81 ID:aL+7i5Lf0
 ショボンのXは問題なく作れた。
 実際ショボンに感触を確かめてもらっている。
 アルファベットとしての性能は問題ないようだ。

 そうやって声を聞かないことには、本当にアルファベットを作れているのかどうか、分からない。
 だから将校には新しいアルファベットを送るたびに反応を求めている。

 Xまでは確実に作れると思っていた。
 形状やα成分含有量から見てもほぼ間違いない、と。

 だが、次のY、そしてZ。
 この二つは、形状も他とは明らかに違う。
 はっきりと、特異なのだ。

 果たして、自分に作れるのか。
 不安はあった。

ξ゚听)ξ(……ショボン様次第、か……)

 いまYやZに到達する可能性がある人。
 何人かいるが、最速となると、恐らくショボンだろう。
 ここ最近、猛烈にアルファベットの訓練を積んでいるらしい。

 近いうちにYを一度依頼してみる、と言っていた。
 そのときが楽しみであり、ある意味では怖くもあった。

ξ゚听)ξ(……ショボン様に次いでるのはモララーくん……いや、ジョルジュ様かな……)

 ジョルジュは一時病で訓練が行えなかったためモララーに抜かれたが、実力はモララーにも負けていない。
 半年ほど前にはVに上がり、モララーに追い付いている。
76 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:53:05.65 ID:aL+7i5Lf0
 ジョルジュもいずれZに達するだろうか。
 そのアルファベットを作る日が来るだろうか。

ξ゚听)ξ(…………)

 何故か、昔の記憶が蘇ってくる。
 ジョルジュの顔、そして声。
 その内容。

 できれば忘れてしまいたい。
 誰にも口外することなく、消し去ってしまいたい。

 あんな話は。

ξ゚听)ξ(……夕飯作ろっと……)

 気を紛らわすため、一時的に忘れるため。
 食材を手に取って、台所へ向かった。



――ギフト城――

 連戦。
 常に気の抜けない戦い。

 さすがに将や兵の疲弊も大きかった。
 しかし、それはラウンジも同じ。
 いや、むしろ城に留まれないラウンジのほうが大きく感じているはずだ。
81 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:55:48.06 ID:aL+7i5Lf0
 それでも、辛い戦であることに変わりはない。

(-_-)「……西の警戒を怠るな……ダカーポ城にも少なからず敵兵がいる……」

 部隊長に指示を下し、走らせた。
 ギフト城を奪ってから既に半年近いが、一日たりとも休まる日がない。
 ラウンジが常に奪還する構えを見せてきているためだ。

 リリカル城は決して遠くない城だ。
 あれがもう少し離れていればラウンジは引き下がるしかなかった。
 しかし、未だ諦めずに攻め込んできている。

 ギフト城を守るヴィップ軍。
 リリカル城から攻めるラウンジ軍。
 その両軍による戦いが続いていた。

( ゚∀゚)「おう、お疲れさん」

 少し仮眠を取るべく自室に向かおうとしたところで、ジョルジュに出会った。
 城外を回っていたらしく、額に汗が浮かんでいる。

( ゚∀゚)「ラウンジは必死だな。あんなに気張ってたらいつか倒れるぞ」

(-_-)「……そのぶん、こちらが受ける圧力も大きなものです……」

( ゚∀゚)「その通りだ。気の緩みが敗戦に繋がる。士気の維持が重要になる」

(-_-)「今は、ニダー中将が……」

( ゚∀゚)「あぁ、城外で頑張ってるな。昨日の攻めも上手く凌いだ」
84 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 14:58:10.34 ID:aL+7i5Lf0
(-_-)「……サスガ兄弟は、守りは不得手ですか……?」

( ゚∀゚)「かも知れねーな。ギフト城を奪うときはフサギコと一緒に頑張ってくれたんだが」

(-_-)「……フサギコ少将は、守りも堅実ですね……」

( ゚∀゚)「あいつはオールマイティだからな。癖がない」

(-_-)「……そのへんは、弟のギコ中将と同じですか……」

( ゚∀゚)「はは、そういうこった」

 ジョルジュがアルファベットを背から下ろして、壁に立てかけた。
 アルファベットV。去年の暮れにUからランクアップしている。
 病気にかかっていたせいで一時はモララーに抜かれたが、これで再び並んだ。

( ゚∀゚)「しかし、カルリナはやっぱ伸びてるな。着実に」

(-_-)「……結果は伴っていませんが……確実に手強くなっています……」

( ゚∀゚)「あぁ。ビコーズを討ち取ったときなんか、敵ながら見事なもんだった。
     あれはちょっと冷や汗掻いたぜ」

(-_-)「……防ぎようがありませんでしたね……」

( ゚∀゚)「ファルロが怒涛の勢いで攻め込んでいる間に後ろからバッサリだ。
     上手く地の利を活かしたんだろうが、いつの間に迫ったのか分からなかった」

(-_-)「……ビコーズ中尉の場所も、あまり良くありませんでしたが……それ以上に、カルリナの移動が見事でしたね……」
92 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:00:42.30 ID:aL+7i5Lf0
( ゚∀゚)「あぁ、あんな攻めを何度もされたらマズイ。しっかり封じてかなきゃいけねーな」

(-_-)「アルタイムも奮戦していますしね……」

( ゚∀゚)「ちょっと空回りしてる感じもするけどな。ただ、徐々に調子が上がってるみたいだ。
     ファルロも頑張ってる。若い将校は確実に育ってるな」

(-_-)「……あれだけの大国ですから……人材は豊富でしょう……」

( ゚∀゚)「アルタイムがカルリナを初めとする若手を積極的に起用したのが大きいんだろうな。
     これ以上新しい人材が出てくると厳しい」

(-_-)「……育つ前に、摘み取らなければなりませんね……」

( ゚∀゚)「ま、そういうこった」

 ジョルジュが具足の一部を解きながら大きく息を吐いた。
 ヴィップ軍の具足は基本的に軽めのものだが、多少の息苦しさはある。
 具足を解くと体が楽になるのだ。

( ゚∀゚)「……領土的にいけば、もうヴィップはラウンジにかなり迫っているな」

(-_-)「……東塔も、オオカミに勝ちましたから……」

( ゚∀゚)「勢いに乗ってるみたいだな。オオカミは、不調か……」

(-_-)「……そうですね……」
100 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:03:55.95 ID:aL+7i5Lf0
( ゚∀゚)「……ま、ミルナはあのままじゃ終わらんだろうけどな。
     何らかの対策を打ってくる。東塔に反撃をかましてくる。
     そんだけの力は持った男だ、あいつは」

 ジョルジュは、オオカミに居た頃、ミルナと共に戦っていたはずだ。
 見知った仲だろう。ミルナの才能も知っているのだろう。
 だから、さっきの発言は、ごく自然なものなのだ。

 そう思い込んだ。

( ゚∀゚)「さて、俺はちょっと休んでくるとするか」

(-_-)「私も、少しだけ仮眠を取ってきます……」

 ジョルジュと別れ、再び自室に向かった。
 広い廊下を何人もの兵が駆けていく。
 軽く会釈しながら。

 ギフト城は不思議と廊下の幅が広い城だった。
 そのぶん、多くの人が行き来できるようになっており、慌ただしいときは助かる。
 ただ、部屋が相対して狭くなっているため、軍議のときなどは息苦しさを感じることもあった。

 もうこの城にも随分慣れた。
 どちらかと言えば古いが、丹念に作りこまれている城だ。
 窓枠や階段の手すりなど、細かい部分が凝られているのだ。

 いい城だった。
 失いたくはない、と思っていた。
103 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:07:11.96 ID:aL+7i5Lf0
 自室に入ってすぐ、寝床に身を沈めた。
 四刻だけ眠ろう、と決めて目を閉じる。
 すぐに意識は薄れていった。



――フェイト城とシャッフル城の中間地点――

 自然と肌に汗が浮いてくる季節になった。
 爽やかな暑さではない。湿気によるものだ。
 雨季に突入していた。

(´・ω・`)「この季節に攻め込むのは下策だな」

 ショボンがアルファベットの手入れをしながら呟いた。
 その隣で、静かに茶を啜る。

( ^ω^)「雨季は兵糧に気を配らなきゃいけないのが大変ですお……」

(´・ω・`)「あぁ。どうしても不衛生になりがちだからな。しっかり熱を通さねばならん」

( ^ω^)「そこらへんはちゃんと徹底させてますお」

(´・ω・`)「それと、夜だ。雨が酷いと火を焚きにくくなって、警戒が難しくなる。
      夜襲を喰らう恐れがある」

( ^ω^)「雨避けの下で篝火を焚かせていますお。でも、晴れのときに比べると量が少ないのは事実ですお」

(´・ω・`)「あぁ。雨音が激しいと敵の接近にも気付きにくいからな。
      常に斥候を放って警戒する必要があるだろう」
111 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:10:21.11 ID:aL+7i5Lf0
( ^ω^)「でも、オオカミだってこの泥濘じゃ攻めにくいはずですお」

(´・ω・`)「まぁな。大人しくしているとは思うが、オオカミは必死だ。
      ありとあらゆる手を使って、勝利をもぎ取ろうとしてくるだろう」

 ショボンがXの手入れを終えて、茶に手をつけた。
 もう湯気は立っていない。
 それでも熱いものを飲むように、音を立てながら啜った。

(´・ω・`)「やはり、しばらくオオカミの動向を見守るしかなさそうだ」

 湯呑みを置いて、ショボンが椅子から立った。
 大きなXを脇に抱える。
 そして、雨の降りしきる幕舎の外へと歩いて行った。


 やがて雨季は終わり、太陽が燦々と照りつける季節になった。
 地面もすっかり乾いている。

 オオカミは、陣を横に広げていた。
 薄く伸ばした形だ。

 敵に打ち破られやすい形状だが、そのぶん隙をなくそうということか。
 守りとしては悪くない陣形だ。

(´・ω・`)「一度攻め込んでみる。相手の反応を伺おう」

 依然兵力で上回っているのはヴィップだ。
 滞陣の疲れもない。普通に戦えば、勝てる。
 だが、ここはあくまで慎重に攻めなければならない。
116 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:12:53.60 ID:aL+7i5Lf0
(´・ω・`)「いくぞ」

 陣が揃い、ショボンの掛け声で動いていく。
 二度目の衝突が、始まった。



――オリンシス城――

 春からの長雨を過ごし、初夏の陽気を過ごし、やがて猛暑が訪れた。
 朝起きると寝床が汗で湿っている。
 従者にそれを洗ってもらうよう頼むことから一日が始まる。

 それから朝食を取り、報告を受ける。
 調練を行って戦について考え、アルファベットの訓練をして寝る。

 毎日が、その繰り返しだった。

('A`)「スメア、そろそろ戦の報告が来る頃だと思うんだが、どうだ?」

( V-V)「来ています。私が手紙を預かりました」

 スメアが懐から書簡を出し、机に置いた。
 共に朝食を取りながら、手紙の文字を追う。
 ショボンからの手紙だった。

('A`)「二度目の戦いにも勝利か……」

( V-V)「オオカミは何がしたいのか分かりませんね。このまま粘る気なのでしょうか」
128 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:15:35.98 ID:aL+7i5Lf0
('A`)「それじゃ疲弊するだけだ。何か逆転の手を打とうとしているんだろうが……」

( V-V)「一向に見えてきませんね……」

 手紙の側に地図を広げた。
 フェイト城周辺の地図だ。

 周りに属城はない。
 特に大きな山や森があるわけでもない。
 オオカミからすれば、作戦が立てにくい場所だ。

 そのフェイト城の東側に、兵を展開させているという。
 シャッフル城からのヴィップ軍を完全に防ぐ形だ。

 ただ純粋に守ろうとしている。
 そういう風にも見える。
 だが、これでは分が悪いと分かっているはずなのだ。

('A`)「あのミルナが、このまま大人しくしていると思うか?」

( V-V)「思いません。あの人の手強さは、身を持って知っています」

 スメアはマリミテ城防衛戦でも部隊長を務めてくれた。
 半年間を共に戦ってくれた。
 ミルナの脅威はずっと感じていたことだろう。

 あのとき一緒だったローダは、穴から出て敵陣に攻め込んだときに討ち取られてしまっている。
 ミルナの側まで迫り、実際に攻撃を見舞ったが受け止められ、直々に討ち取られたらしい。
135 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:18:11.97 ID:aL+7i5Lf0
 最後まで奮戦してくれた。
 例えミルナを討ち取っても、その後に自分が討ち取られるのは分かっていた状況で。
 それが、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 同時に、ローダを失ってしまったという悲しみもあった。
 いずれその仇を討ちたい、とも思っていた。

('A`)「ミルナは優れた大将だ……マリミテ城防衛戦も、ずっと辛い状態が続いた……」

( V-V)「あれは……本当に難しい戦いでした」

('A`)「策に自信はあった。これを完璧に実行できれば勝てる、と思った。
   ただ、実際に戦をやってみると、ミルナの圧力が凄まじくて、手足が震えたよ」

( V-V)「そうですね……今だから言えることですが、本当に作戦が通用するかどうか、不安でした」

('A`)「俺もだ。それはずっと感じていた。作戦通りやっても、打ち破られるんじゃないか、ってな」

( V-V)「だからこそ、今回のミルナは不気味に思えます。何を考えているのか……と」

('A`)「……そうだな……」

 もう一度地図に目をやった。
 フェイト城の近辺で陣を構えているオオカミ軍四万。
 東のヴィップ軍を防ごうとしている。

 守りとしては問題ない形。
 しかし、本当にこのまま戦い続けるつもりのか。
 何か、別の狙いがあるのではないか。
147 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:21:17.24 ID:aL+7i5Lf0
('A`)「……ん……?」

 ふと、あることに気付いた。
 東に構えた陣。
 城を守る陣。

 湾曲しながら間延びしている。
 北からも南からも通さないというような。
 いわゆる、三日月型の陣。

 もしや――――。

('A`)「……スメア……もしかしたら、オオカミは……」

 すっと、指で線を引いた。
 紙の上を滑らせる。

 スメアが、はっとした顔をした。

(;V-V)「……そういうこと……なのかも……知れません……」

('A`)「だとしたら……今後オオカミは、更に陣を伸ばしてくるはずだ」

 スメアはじっと地図を見つめていた。
 視線をあちらこちらに動かしている。

(;V-V)「……報告を待ちましょう……もし次の報告で、オオカミの陣が伸びたというなら……」

('A`)「……あぁ……」
162 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:24:14.87 ID:aL+7i5Lf0
 地図を丸め、ショボンからの手紙を収めた。
 席を立って調練の準備を整える。

 もしミルナが、自分の思った通りの作戦を立てているとしたら。
 すぐに潰さねば、ショボンたちが危ない。
 ミルナは、東塔の五万を丸ごと潰そうとしている。

 その不安に身を包まれながら、今までと同じように調練をこなした。
 頭の中で、ずっとミルナの策を打ち破る方法を考えながら。

 オリンシス城の守将となってから、既に半年以上が経っている。
 フェイト城戦もそれとほぼ同じ期間続いていた。
 そろそろ、戦況が動いてもおかしくない。

 オリンシス城で、毎日同じことを繰り返した。
 何も特別なことではない。実際、戦がないときはひたすら調練を積むしかないのだ。
 前線の城の守将でも、それは変わらない。

 ただ、一年前はミルナとの死闘を繰り広げていた。
 身も凍るような、芯まで震えるような戦いを行っていた。

 あの時の感覚が、まだ残っているのだ。
 肌に、手に、頭に。

 戦いたい、と思ってしまう。
 緊張、恐怖、好奇、歓喜。
 それらを感じたい、と思ってしまうのだ。
169 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:27:11.03 ID:aL+7i5Lf0
 これは、戦場に生きる者として、あってもおかしくない感情だと思っていた。
 ショボンやミルナだって、少なからずそう思うことが、きっとあるはずだ。
 戦う者として、武人として。


 一ヶ月後、オオカミの陣が更に伸びたという報せが入った。

('A`)「……これは、もう……」

(;V-V)「確定……ですか?」

 納得がいく。
 オオカミが時間を稼ごうとしたのも、城から離れて構えたのも。
 そして、陣を徐々に拡大させているのも。

 決して安全な作戦ではない。
 しかし、ミルナは危険を顧みず挑もうとしている。
 この戦に、勝とうとしている。

 今すぐ潰さなければ。
 でなければ、ヴィップが負けてしまう。

('A`)「スメア、筆と紙を」

(;V-V)「……ショボン大将に、ですか?」

('A`)「あぁ」
179 :第57話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/06(月) 15:29:42.42 ID:aL+7i5Lf0
 すぐに筆と紙が用意された。
 一刻でも早いほうがいい。早急に伝えたほうがいい。
 自分の考えを。そして、今後取るべき行動を。

('A`)「じっとしているのは今日で終わりだ」

 すぐに書き終え、封筒に収めた。
 早馬に乗せた兵に、少しでも早く渡してくれ、と頼んで駆けさせた。

 ミルナとの戦いが、再び始まろうとしていた。

















 第57話 終わり

     〜to be continued

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