2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 01:57:41.85 ID:UFTXMlm20
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
27歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●('A`) ドクオ=オルルッド
27歳 中尉
使用可能アルファベット:P
現在地:マリミテ城

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
37歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:オリンシス城付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
32歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オリンシス城付近

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
35歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近
8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 01:59:09.92 ID:UFTXMlm20
●( ^Д^) プギャー=アリスト
33歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:シャッフル城

●(=゚ω゚)ノ イヨウ=クライスラー
36歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
26歳 少尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近
14 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 01:59:50.99 ID:UFTXMlm20
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー
少将:ギコ/プギャー

大尉:ブーン
中尉:ビロード/イヨウ/ドクオ
少尉:ベルベット


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ビコーズ
少尉:

(佐官級は存在しません)
17 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:00:38.93 ID:UFTXMlm20
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:
M:
N:
O:ヒッキー
P:ドクオ/ベルベット/アニジャ/オトジャ
Q:
R:ブーン/ギコ/イヨウ/プギャー
S:ニダー
T:アルタイム
U:ジョルジュ/ミルナ
V:モララー
W:ショボン
X:
Y:
Z:
19 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:01:27.14 ID:UFTXMlm20
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 オオカミ
(マリミテ城〜オリンシス城)

・ヴィップ 対 ラウンジ
(パニポニ城〜ギフト城)

 

20 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:02:25.22 ID:UFTXMlm20
【第53話 : Fenrir】


――オリンシス城付近――

( ;ω;)「イヨウさん!! イヨウさん!!」

 遠ざかる背中。
 血の滴るPを、構えたままに。

 裏切り者、シラネーヨ=ネーロ。
 シラネーヨ大尉が、イヨウ=クライスラーを斬った。
 そして、逃げだした。

 頭の中に淡々とした言葉だけが浮かんでくる。
 どうして、どうして。
 何故裏切った。何故斬った。分からない。

(=;-ω-)ノ「……すまない……」

( ;ω;)「イヨウさん!!」

 すぐにイヨウに駆け寄って、体を抱き起こした。
 呼吸が淡い。眼の色が霞んでいる。
 違う。そんなはずはない。

 きっと雨のせいだ。
 雨が色を流してしまっただけだ。
 そう信じたかった。
28 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:05:01.84 ID:UFTXMlm20
(=;-ω-)ノ「油断……した……気付け……なかった……」

( ;ω;)「すぐに助けますお!」

(=;-ω-)ノ「やめろ……!! いま俺を助けたら戦に負けるぞ……!!
      ……それに……俺はもう……助からんさ……」

 戦はまだ続いている。
 ドラルが包囲を破らんとして猛攻を仕掛けてきている。

 そんなこと、分かっている。
 しかし、このままでは――――。

(=;-ω-)ノ「悔いはないさ……昔の俺だけが、『死にたくないよう』と叫んでいるがな……」

( ;ω;)「イヨウさん……!!」

(=;-ω-)ノ「元々、シア城戦で果てていたはずの命だ……ブーン大尉、心の底から感謝しているぞ……」

 イヨウの表情が、曇っていく。
 自分の視界が滲んでいるせいなのか。

 イヨウの巨躯から夥しいほどの血が流れ出している。
 この大地さえも真っ赤に染め上げるような。
 雨とともに染み込んでいくような。

 モナーに続いて、イヨウまで。
 嫌だ、嫌だ。
 子供のような我が侭が収まってくれない。
37 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:07:45.62 ID:UFTXMlm20
 それでも、イヨウの体からは何かが抜けていく。
 血液のように触れられるものではない。もっと抽象的な何か。

 捕まえることのできないような、何かだった。

(=;-ω-)ノ「最後まで……迷惑をかけることに……なってしまったな……」

( ;ω;)「そんな……!」

 イヨウの体が、冷たくなっていく。
 雨で冷えたせいだけではないと、はっきり分かる。

 震える右手。
 掴んでも決して止まることはなかった。

(=;-ω-)ノ「……すまない……この戦を……ヴィップを……頼む……!!」

 薄く開かれていたイヨウの目が、閉じた。
 体から、力が抜けた。

 呼吸もない、脈もない。
 イヨウが、死んだ。

 腹の底から、胸の奥から、声が出そうになる。
 それを、ぐっと堪えた。
 ここで慟哭すれば少しは楽になる。しかし、意味はない。

 頼む、と言われたのだ。
 今は全ての感情を抑え込まなければならない。
 戦に勝つことだけを、考えなければならないのだ。
44 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:10:38.56 ID:UFTXMlm20
(  ω )「イヨウさん……必ず勝ってみせますお」

 亡骸を部隊長に託し、すぐに伝令を発した。
 シラネーヨが裏切ったこと、イヨウが討ち取られたこと。
 その二つをすぐにショボンに伝える必要があった。

 シラネーヨが裏切ったことで、戦の帰趨は分からなくなった。
 いや、勝つのが難しくなった。
 ドラルの猛攻が、止まらない。

 すぐにドラルを抑えに行った。
 ここが破られるとヴィップは敗戦しかねない。

 モナーのためにも、イヨウのためにも、勝利しなければならない戦だ。
 何がなんでも、勝たなければならないのだ。

(#`ω´)「おおおおおおおおおおお!!!」

 素早く斬り込んだ。
 上手くベルベットが抑えてくれていたところに、横からの急襲。
 ドラルの部隊の足が止まる。

 しかし、オオカミも負けじと軍を出してくる。
 H隊歩兵。進軍は、早い。

 先頭に立つ男。
 不敵な、不気味な笑みを浮かべた男。
 シラネーヨ=ネーロ。

 殺してやる。
51 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:13:52.12 ID:UFTXMlm20
( <●><●>)「ブーン大尉、ここをお任せします」

(;^ω^)「ッ!! ベルベット……!!」

 無心で飛び出しかけた。
 その視界の先に、ベルベットの左手。
 驚いて、思わず静止した。

( <●><●>)「ドラル=オクボーンを討ち取る機は必ず来ます。
        劣勢なら尚更です。見逃さないでください」

(;^ω^)「ベルベット、シラネーヨは」

( <●><●>)「分かっています」

 力強く駆けだしていくベルベット。
 シラネーヨを討ち取りに行く気なのか。

 ドラルが再び軍を動かしてきた。
 シラネーヨの動きに呼応する形だ。
 ここは、受け止めるしかない。

 他の戦況はどうなっているのか。
 混乱していて分からない。伝令も来ない。
 今はドラルを抑えるしかないが、不安もあった。

 ドラル自身までは、遠い。
 一騎打ちは無理だ。
57 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:16:27.71 ID:UFTXMlm20
 シラネーヨが裏切ったと知ったショボンは、どうするのか。
 同時に二人の将を欠いた。戦況が苦しいのは、間違いない。
 ここから盛り返す策が要る。

 とにかく、ドラルを抑えながら指示を待つしかなかった。



――オリンシス城付近――

 限界だったのだ。
 あまりに不当な地位、あまりに不当な待遇。
 誰がどう見てもおかしい、と思った。

 適材適所だ、とショボンは言った。
 それぞれの能力を考えた上での役割、配置なのだと。

( ´ー`)(……そんなの知らねーよ)

 贔屓されている、と感じるようになったのは、ブーン=トロッソの台頭だった。
 あいつが入軍したとき、自分は既に大尉だった。
 512年のエヴァ城戦で身を張ってオオカミの攻撃を食い止め、その戦績が評価されたのだ。

 それから既に九年が経過した。
 ブーンが新兵から大尉になるまでの間、一度も昇格することはなかった。

 何故だ、と自分に問うた。

63 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:19:14.97 ID:UFTXMlm20
 確かにこの九年、目覚ましい活躍をしたわけではない。
 後から将校になったブーンやドクオのほうが貢献度では上だろう。
 しかし、自分も特に失敗を犯したわけではない。

 現にプギャーやビロードは何もしていないのに昇格している。
 ならば自分が同じ理由で昇格してもおかしくないはずなのだ。

(#´ー`)(あんな待遇、正しいはずがねーよ……)

 大体、自分が活躍できなかったのは、ショボンの指揮が悪かったせいだ。
 前線や側面援護をやらせてくれれば、ブーンやドクオなんかには負けない自信があった。
 アルファベットだってPまで使える。重用されておかしくない人材だ。

 それなのに、いつも微妙な位置に置かれ、戦で目立てなかった。
 運の悪さもあった。

 確かにヴィップ軍東塔は、優秀な将が多い。
 ショボン、モララー、ギコの三人は疑うべくもない。
 自分も当然、そう思っていた。

 だが、この不公平。
 明らかにその将官たちに原因があるのだ。

 若い人材を育てたがるのも分かる。
 既に三十四に達した自分に期待を抱けとも言わない。
 しかし、明らかに不遇だ。

 やがてショボンやモララーといった指揮官の能力を疑うようになった。
 適材適所などただの言い訳で、本当は自分を疎んじているのではないかと。
 個人的な感情に任せて処遇を決定しているのではないか、と思ったのだ。
70 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:22:30.01 ID:UFTXMlm20
 一度そう考え出してからは、止まらなくなった。
 小さな所作でさえ気にかかるようになり、自分の中で、疑惑は確信に変わった。
 しかし、どうすることもできずただ、命令に従うだけの日々が続いた。

 そんな折だった。
 オオカミのリレントから、引き抜きの誘いが来たのは。

(ゝ○_○)「これを」

 オリンシス城を最初に囲んだとき。
 オオカミが一度だけ夜襲を仕掛けてきた。

 さすがにショボンやモララーも訝っていたが、理由があったのだ。
 あれは、自分に手紙を渡すことが目的だった。
 顔を隠したリレントがそっと耳元で囁き、懐に入れてくれた。

 一人になって手紙を読んでみると、丁寧な言葉遣いで、自分の功績が書き連ねてあった。
 こんなに武将のことを研究しているのか、と思わず舌を巻いたほどだ。
 自分でさえ忘れているようなことまで事細かに書いてあった。

( ´ー`)(俺の力をこんなに認めてくれるとこは他にねーよ……)

 将官級を約束する。
 オリンシス城戦が終われば誰かを外して中将とすることも検討する。
 給与はヴィップ時の倍。家族の安全は保障する。

 垂涎ものの好条件だった。
 オオカミの懇切丁寧な態度に、感動すら覚えた。
 ヴィップなどとは比較にならなかった。
73 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:25:12.15 ID:UFTXMlm20
 オオカミこそが自分の居場所だ。
 そう確信した。
 引き抜きの誘いに、考える時間は要らなかった。

( ´ー`)(最高のタイミングで裏切ることができたーよ……)

 オオカミは引き抜きと言ってくれたが、明白な裏切りだった。
 無論、だからと言って躊躇ったりはしない。
 例えヴィップから謗りを受けようと、もう関係のないことだ。

 オオカミには、証拠を示す必要があった。
 偽装ではない、真の裏切りだと理解してもらう必要があったのだ。
 イヨウへの攻撃はそのためだった。

 安否は確認していないが、深く斬り込んだ。
 本当は胴を両断するつもりだったが、寸前に反応されて身を引かれたため叶わなかった。
 しかしあれなら間違いなく死に至っただろう。

 あの光景はリレントも見てくれていた。
 晴れて自分はオオカミの将となれたのだ。

( ´ー`)(世の中、上手く生きてかなきゃいけねーよ)

 最高のタイミングで裏切ることができた。
 オオカミは劣勢に喘いでいて、自分が裏切らなければ敗戦は必至だった。
 オリンシス城はヴィップのものになっていただろう。

 しかし、ヴィップは一気に二人の将を失った。
 少し前にはモナーも命を落としている。
 大幅な戦力低下。統率の乱れ、士気の喪失は避けられないだろう。
80 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:27:52.51 ID:UFTXMlm20
 この状況なら、もう勝利は目前だ。
 自分のおかげでオオカミはオリンシス城を守り抜くことができる。
 戦功第一。中将に推す声も大きくなってくるだろう。

 それを確実にするためにも、更なる活躍を見せる必要がありそうだった。

( ´ー`)「敵陣を乱しに乱すんだーよ。イヨウが抜けた穴を突くんだーよ」

 しっかり軍が動いてくれる。
 ヴィップの兵が精鋭だと言われているが、オオカミも決して負けていない。
 自分の持っているノウハウを活かせば更に鍛え上げることができそうだ。

 自分とイヨウが抜けた穴を埋めるべく、ヴィップ軍が動いている。
 そのため、全体の陣が崩れつつあった。
 もはや包囲などと言っている余裕はないだろう。

 できればあと一人くらい、将校を討ち取っておきたい。
 将官級。プギャーかギコなら討ち取れる可能性はある。
 近づいてこい、と願った。

( ´ー`)「ッ……!!」

 そう願った直後だ。
 憤然とした形相の男が、部隊を率いて駆けてきた。
 ギコ=ロワードだ。

 まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。
 情報の伝達が早い。行動も迅速だ。

(,,#゚Д゚)「てめぇ……」
96 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:30:25.10 ID:UFTXMlm20
 怒りに満ちている。
 少し、体に寒気が走った。

 しかし、冷静さを欠いた者が勝てるほど、戦場は甘くない。

( ´ー`)「アンタもバカな男だーよ」

(,,#゚Д゚)「黙れ」

( ´ー`)「アンタなら分かるはずだーよ。僕の気持ちが」

 ギコのアルファベットが振り上げられる。
 動きが大きい。さすがに隙は小さいが、難なく防げる攻撃だった。
 しかし、怒りのぶん、力がこもっている。

( ´ー`)「ずっと大尉に留め置かれた僕の気持ち、何年も少将やってるアンタなら」

(,,#゚Д゚)「分かるわけねぇだろ!!」

( ´ー`)「冷静になるんだーよ。怒ったってイヨウは帰ってこねーんだーよ」

(,,#゚Д゚)「黙れ!!」

 ギコから連続で攻撃が繰り出される。
 鋭く、重い。両手に痺れが走る。
 防ぐので精一杯だ。
103 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:33:11.42 ID:UFTXMlm20
( ´ー`)「自分の力を正当に評価されない苦しみ、アンタなら分かると思ったーよ。
     分かってくれないとは、残念だーよ」

(,,#゚Д゚)「てめぇの気持ちなんて分かりたくもねぇんだよ!!」

 実に愚かだ。
 ただショボンやモララーを盲信してしまっている。
 ギコ自身、己の不遇さに気づいていない。

 こいつがオオカミに寝返ってくれれば。
 ふとそう考えたが、どうやっても無理だろう。
 ヴィップへの忠誠は人一倍のギコ=ロワードだ。

 となればやはり、ここで討ち取ってしまうのが最上だった。

( ´ー`)(熱くなって周りが見えてない……この状況なら、ギコを討ち取るのは……)

 容易い、と思った。
 アルファベットを振りあげるまでは。

 後方に、モララーの姿を確認するまでは。

(;´ー`)「くっ……」

 二人が相手では分が悪い。
 いや、間違いなく負けてしまう。

 すかさずギコと距離を取った。
 ここは引くべきだ。勝ち目のない戦いを行うべきではない。
109 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:35:53.80 ID:UFTXMlm20
(,,#゚Д゚)「てめぇ!!」

( ´ー`)「また後で相手してやるだーよ」

 ギコも深く追ってはこない。
 ここで追えば全体に影響を及ぼすことは分かっているようだ。

 モララーが迫ってきたためギコを討ち取るのは中断せざるをえなかった。
 しかしまだ機は訪れるはずだ。
 ギコだけではない。モララーや、上手くいけばショボンだって。

 それくらい、今の自分には力がある、という気がしていた。

( ´ー`)(やってやるんだーよ)

 自然と口がにやけた。
 癖でよくやってしまうのだが、不敵な笑みに見えると周りからは言われた。
 嘲笑されているように感じる、とも。

 直したほうがいいのか、と考えたこともあった。
 しかし、今はこのほうが将官らしさがあるかも知れない、と思える。
 常に俯瞰しているような威圧感を見せることも大事だろう。

 自分でも驚くほど、将官という地位がスムーズに体へ入りこんでいった。
114 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:38:45.40 ID:UFTXMlm20
――マリミテ城付近――

(#゚д゚)「ハァァァァッ!!」

 重力に、重量に任せた一撃。
 振り下ろす。

 ドクオはそれを受け止めず、横から弾いた。
 上手く手綱を引いて、身を移動させながらだ。

 連続で突きを見舞う。
 Uはこれといった特徴のないアルファベットだが、そのぶん多様な攻撃を繰り出せる。
 リーチもあるため上位アルファベットの中でもかなり使いやすい部類だ。

 自分の力を存分に発揮することができる。
 しかし、ドクオのアルファベット使いも巧みだった。

 決して正面から受け止めようとはしない。
 受け流し、弾き、上手く攻撃を躱している、といった状態だ。

 連続の突きは小刻みな動きで躱された。
 俊敏な身動き、上手い体捌き。
 多くの訓練を積んでいるのが分かる。

 払うように横に振った。
 さすがにこれは、弾けない。
 受け止めるしかないだろう。
123 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:41:25.38 ID:UFTXMlm20
 その一撃を、ドクオはやはり受け止めてきた。
 しかし、アルファベットPを精一杯伸ばし、こちらの力が満足でない位置でだ。
 上手く力を抑えられた。

 ドクオは、戦い方を知っている。
 上位アルファベットとの戦い方だ。

 アルファベットを数字で数えれば、PとUは五つぶん離れている。
 これは、上手くいけば数撃で、どれだけよく保っても十数撃で決着がつく差だ。
 下位アルファベットが破壊されるためだ。

 まともに受ければ長くはもたない。
 それをドクオはよく分かっている。
 だから弾いたり受け流したりして、アルファベットの破壊を防いでいるのだ。

 言葉にするのは簡単だが、実行するのは難しい。
 なんといっても、相手はこのミルナ=クォッチなのだ。
 アルファベットの扱いではそうそう他者に負けない自信がある。

 その自分の攻撃を、いなしてくる。
 これは上位アルファベットとの訓練を相当積んでいなければ為し得ない芸当だ。
 上位使いが溢れているヴィップで訓練を重ねたからこそだろう。

( ゚д゚)(自分に一騎打ちを仕掛けてくるだけのことはある……)

 十倍の兵を相手に、戦ってきた。
 大将の首まで狙ってきた。

 果敢さ、勇猛さ、英明さ。
 いずれも兼ね備えた若き勇将。
132 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:44:15.26 ID:UFTXMlm20
 何としても、ここで討ち取らなければならない漢だ。

(#'A`)「オオオオォォォッ!!」

 ドクオのPが鋭く振るわれた。
 受け止める。

 鍔迫り合い。
 火花の散るような、鬩ぎ合い。
 互いの腕が震える。

 ドクオが、引かない。
 更に力を強めてくる。

(;゚д゚)「くっ……」

 まだ押してくるのか。
 このまま押し切ろうというのか。
 無謀だ。無謀すぎる。

 ドクオのアルファベットを、押し返した。
 一瞬怯んだ表情を見せる。
 しかし、隙はない。

 下位アルファベット相手に、ここまで手こずらされるとは思わなかった。
 上手く戦われてしまっている。
 一騎打ちが長引いてしまっている。
141 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:47:03.79 ID:UFTXMlm20
 ドクオは、形振り構わず攻撃してくると思った。
 実際、そうでなければ自分を討ち取ることはできない。
 しかし、あくまで慎重に、じっくりと機を待つように戦ってきた。

 あまりドクオ一人を相手にしつづけるわけにもいかない。
 早めに討ち取る必要がある。

( ゚д゚)「決着をつけさせてもらうぞ、ドクオ」

 Uを振り下ろす。
 ドクオは、悠々と躱してくる。
 こちらの狙いには、気づいていないようだ。

 すぐにUを振り上げた。
 上から下へ、そして下から上へ。
 この一連の動作の速さには、自信があった。

(;'A`)「くっ!!」

 ドクオが、正面から受け止めてきた。
 思惑通りだ。
 ドクオにしてみれば、不覚を取ったというところだろう。

 こうやって何度か受け止めさせれば、すぐにでもアルファベットは破壊されるはずだ。
 後は素早く攻撃を繰り出していけばいいだけだった。

 そのはずだった。

( ゚д゚)「……ずいぶん、余裕の表情だな」
150 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:50:03.32 ID:UFTXMlm20
 手を出しにくくなった、と感じた。
 隙がない。その上、余裕まである。
 何故、この状況下で。

('A`)「余裕なんてないさ。ずっとギリギリだ」

 Uを再び振る。
 ドクオに、弾かれる。

 掌に、汗を感じた。
 状況的には、まだ戦えるはずなのに。
 それなのに、何故か、先が見えない。

 周囲が、俄かに騒がしくなっている。
 瞬間、全身を悪寒が駆け巡った。

 ドクオを睨みつけた。
 その表情には、相変わらず、余裕が浮かんでいる。

 まさか。

(;゚д゚)「……貴様ッ……!」

('A`)「アンタを討ち取るのは、ここでじゃない」
156 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:52:48.57 ID:UFTXMlm20
 ドクオが、離れた。
 距離を取った。

 追えない。
 近づけない。
 そうすべきではない、と何故か分かったからだ。

('A`)「それに……例え何があっても、戦にだけは勝たなきゃならねーんだ」

 何が、起きているのか。
 まだはっきりとは分からない。
 しかし、掌だけだった汗が、いつの間にか全身に及んでいる。

 オオカミ軍が、浮足立っている。
 何故だ。分からない。
 しかし、確実に何かが起きている。

(;゚д゚)「誰か情報を持ってこい! 状況を伝えろ!」

 ドクオはいつの間にかいなくなっている。
 いや、今はドクオを気にしている場合ではない。
 戦全体のことを考えなければならない。

 周りを見回した。
 戸惑い、慌てながらどこかへ駆けてく兵。
 無論、オオカミ兵だ。
162 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:55:34.20 ID:UFTXMlm20
 オオカミの兵が、ヴィップ軍の攻撃に、立ち向かっていない。
 逃げだそうとしている。

 オオカミ軍の中に入り込んだヴィップ兵のせいなのか。
 違う。それなら最初から逃げ出そうとするはずだ。
 しかし、それなら何故、このタイミングで。

 不意に、ひとつの可能性に気付いた。

(;゚д゚)「まさか……」

 ドクオ=オルルッド。
 何もかも、あの一騎打ちさえも、計算通りだったというのか。

 そんなはずはない。
 ここまで完璧な策を、立てられるはずがない。

 しかし、拭えない。
 危機感や、焦燥感。

 そして、恐怖。

(;゚д゚)「そんな……バカな……!」
176 :第53話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/29(日) 02:58:39.66 ID:UFTXMlm20
 まさか、まさか。


 ――――そのまさかだった。
















 第53話 終わり

     〜to be continued

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