2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:30:13.76 ID:yKeYYVVk0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
27歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●('A`) ドクオ=オルルッド
27歳 中尉
使用可能アルファベット:P
現在地:マリミテ城

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
37歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:オリンシス城付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
32歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オリンシス城付近

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
35歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近
5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:31:00.87 ID:yKeYYVVk0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
33歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城付近

●(=゚ω゚)ノ イヨウ=クライスラー
36歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
52歳 中将
使用可能アルファベット:Q
現在地:オリンシス城付近

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
26歳 少尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近
10 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:32:10.31 ID:yKeYYVVk0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/モナー
少将:ギコ/プギャー

大尉:ブーン/シラネーヨ
中尉:ビロード/イヨウ/ドクオ
少尉:ベルベット


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ビコーズ
少尉:

(佐官級は存在しません)
13 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:33:07.47 ID:yKeYYVVk0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:
M:
N:
O:ヒッキー
P:ドクオ/ベルベット/アニジャ/オトジャ
Q:モナー
R:ブーン/ギコ/イヨウ/プギャー
S:ニダー
T:アルタイム
U:ジョルジュ/ミルナ
V:モララー
W:ショボン
X:
Y:
Z:
17 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:33:49.81 ID:yKeYYVVk0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 オオカミ
(マリミテ城〜オリンシス城)

・ヴィップ 対 ラウンジ
(パニポニ城〜ギフト城)

 

 

23 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:35:31.83 ID:yKeYYVVk0
【第51話 : Appear 】


――パニポニ城――

 そろそろ雨季に入ろうかという頃だが、パニポニ城の周りは景色が一定だった。
 ゆえに、季節の変化が分かりにくい。
 今年は暑いため肌で移り変わりを感じられるが、例年ならまだ春先だと勘違いしてしまいそうだ。

(-_-)(殺風景だな……)

 視界を塞ぐ鉱山。
 パニポニ城の付近には、良質のα鉱石が採取できる鉱山が多くあった。

 パニポニ城は全土の中心に位置する。
 戦略的な価値も大きいが、アルファベットという戦に欠かせない要素を支えているという城でもあるのだ。
 絶対に失えない城だった。

 だからこそ、モナーがここを守っていたのだ。
 老練であり、謀略に長けている元大将が。

 現在は、東塔の助っ人としてオリンシス城の付近にいるはずだ。
 東塔の戦がどうなっているかは分からないが、厳しい戦になっているだろう。
 新しい城を得るというのは容易なことではない。

 モナーが加わったことで、多少は有利性を得ただろうが、果たしてオリンシス城を奪えるかどうか。
 難しい戦であることは、間違いないだろう。

(-_-)「……ん?」
30 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:41:38.52 ID:yKeYYVVk0
 休憩室に立ち寄った。
 今日は夕方で調練が終わったため、時間が空いたのだ。

 あまり広くはない部屋で、兵卒が使うことはない。
 将校のために用意された部屋だ。
 飲食が可能なため利用する将校は多い。

 その休憩室に、ジョルジュがいた。
 一人きりでだ。

 何かを読んでいる。
 薄っぺらい書物。いや、記録帳だろうか。
 ジョルジュの表情が、不思議に穏やかだった。

( ゚∀゚)「ん? ヒッキーか」

 こちらに気づいたジョルジュは、手に持っていたものを閉じた。
 改めて見ると、やはり記録帳のようだ。
 ずいぶん古い。薄汚れていて、全体が黄ばんでいた。

(-_-)「……おはようございます……」

( ゚∀゚)「なに言ってんだ? もう夕方だぞ?」

(-_-)「……そうですね……」

 何故か、気になってしまった。
 ジョルジュがいったい、何を見ていたのか。
41 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:44:54.00 ID:yKeYYVVk0
 普段なら、それを訊くことはしない。
 興味が沸かないこともある。
 だが、今日は違う。今は違う。

 訊いてみたい気持ちだった。

( ゚∀゚)「なんだ? これが気になんのか?」

(;-_-)「……あ……」

 こちらが訊くよりも前に。
 ジョルジュのほうから、切り出してくれた。

(-_-)「はい……少し……」

( ゚∀゚)「大したもんじゃねーよ。ただの記録帳さ」

(-_-)「……いつ頃のものですか……?」

 言うと、何故かジョルジュは軽く笑った。
 苦笑いだった。

( ゚∀゚)「二十年前さ。ハンナバル総大将の、最後の戦についての記録だ」

(-_-)「……ハルヒ城戦ですね……」

( ゚∀゚)「そうだ。お前も参加してたよな」

(-_-)「……はい……」
57 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:48:27.25 ID:yKeYYVVk0
( ゚∀゚)「惜しくも負けたが、いい戦だった」

 ジョルジュは再び記録帳を開いた。
 何枚かめくっていくが、単に手を動かしているだけのようだ。
 目が中身を追っていない。

( ゚∀゚)「ま、ちょっと懐かしんでただけさ。たまには昔を思い出すのもいい」

(-_-)「あの頃は……ハンナバル総大将がいて、ジョルジュ大将がいて……」

( ゚∀゚)「モナー中将が、まだ大将だった」

 あるところでジョルジュが手を止めた。
 一枚の紙を抜きだし、放る。
 ひらりと舞う紙を、右手で掴んだ。

 モナーについて記された紙だった。
 その戦で、どう戦ったか、どんな戦功を挙げたか。
 多くのことが記録されている。

( ゚∀゚)「見りゃ分かると思うが、モナー中将がいなきゃ負けてた戦だ」

(-_-)「……確かに……」

( ゚∀゚)「あの頃から戦局眼に関しては随一だった。ハンナバル総大将が常に側に置いておきたがったのも分かる」

(-_-)「……しかし、近年は謀略ばかりでしたね……」

( ゚∀゚)「多分、本人が衰えを感じてたんだろうな。戦に参加するに、充分ではないと」
69 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:51:18.52 ID:yKeYYVVk0
(-_-)「そんなことは……ないと思いますが……」

( ゚∀゚)「お前は特殊だから分かんねーかも知れんが、武人ってのは難しいんだよ。
     ある意味では、我が侭なんだ。そのうえ、頑固でもある。
     自分が自分でなくなったと感じたら、死に場所のことを考えるもんさ」

(-_-)「……ジョルジュ大将も、そう感じておられるのですか……?」

( ゚∀゚)「おいおい、俺が衰えたように見えるか? 自分でも感じちゃいねーよ。
     まだまだ死ぬには早い。やるべきことはたくさんあるさ」

(-_-)「……そうですね……」

 やるべきことは、たくさんある。
 ラウンジを滅ぼし、オオカミを滅ぼし。
 いずれ、ヴィップの天下を掴まなければならないのだ。

 その気概だけはあった。
 無気力だと周りによく言われるが、漫然と日々を過ごしているわけではないのだ。
 自ら積極的に関わろうとしないだけで、周囲に促されれば行動する気もあった。

 自信を持っているわけではない。
 少将という地位は自分には過ぎたものだとも思う。
 せいぜい中尉か大尉くらいで、やれることをやるのが適切だと考えていた。

 いずれ衰えを感じれば、そういった気力もなくなるのか。
 死に場所を求め、武人としての死を考えるようになるのか。

 自分にはありえそうもない、と思った。
81 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:54:05.05 ID:yKeYYVVk0
――オリンシス城付近――

 全将校が必死に声を飛ばしていた。
 少しでも早く、反撃に出るために。

 でなければ、ひとりの将を、永久に失いかねない状況だった。

(;^ω^)「ショボン大将! モナー中将が!」

(´・ω・`)「分かってる。分かってるから、黙ってろ」

 静かで、しかし重みのある声。
 さすがにショボンも冷静さを欠いていた。

 しんがりとしての役目を果たすべく、最後尾に向かったモナー。
 それが、五千ほどの兵とともに本隊から離れてしまったのだ。

 本隊は、陣を立て直す機を得られた。
 しかし、モナーは孤立してしまい、一身でオオカミの全軍を相手にしている状態だった。
 あのままでは、まずい。

(;^ω^)「……ショボン大将、救援に向かわせてくださいお」

(´・ω・`)「黙ってろと言ったはずだ」

(;^ω^)「でもあのままじゃモナー中将が!」

(´・ω・`)「そうするしかないんだ。分かれ」

 はっきりと、怒りが込められていた。
92 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 15:57:00.85 ID:yKeYYVVk0
 それはもしかしたら、ショボン自身にも向けられていたのかも知れない、と思った。

 唇を噛みしめた。
 助けに、向かえない。モナーの行動を、無駄にすることになるからだ。
 戦に勝つためには、ここで反撃の準備を整えるしかない。

 足が自然に動き出しそうだった。
 必死で抑えつけるも震えが止まらない。
 何故、何のために震えているのかは分からない。

 悔しさなのだろうか。
 違う。もっと漠然としたものだ。

 恐らく、これに一番近いのは、虚しさだろう。
 何となく、そう思った。

(´・ω・`)「反撃に出るぞ! 全力で駆けろ!」

 まだ間に合う可能性はあるのだ。
 素早く反攻し、オオカミ軍を打ち破れば。

 それまで耐えてくれるのを、願うしかなかった。



――本隊から離れたヴィップ軍――

 打ち合いがひたすら続いていた。
 周りは誰も手出ししない。見守るようにして戦い続けている。
 さすがに、この一騎打ちに茶々をいれようとする兵はいないようだった。
106 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:00:22.55 ID:yKeYYVVk0
( ´∀`)(ありがたいことですね)

 歪曲した刃を持するSの一撃を、受け流した。
 円形の刃ならそれが可能になる。
 ただし、相手の形状もかなり特殊だ。

 再び打ち合う。今度は、曲がった部分に刃を向けた。
 鍔迫り合い。ドラルの力は、半端でなく強い。
 押し切れない。

 弾かれた。
 一瞬、懐に隙ができる。右腕が硬直している。

(;´∀`)「くっ!!」

 寸でのところで受け止めた。
 しかし、刃がQの内側に入ってしまっている。
 これでは、相手の攻撃を弾けない。

 押されていく。
 全力を込めるも、ドラルの力には勝てない。
 アルファベットの擦れ合う音が大きくなる。

 しかし、不意にドラルは力を抜いた。
 右腕が大きく跳ね上がる。挙手しているような形。
 胴体は、愉快なほどに、隙だらけだ。

 ドラルの細い眼が、光を放っていた。

(;´∀`)「ぐあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
123 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:04:18.21 ID:yKeYYVVk0
 斜めに駆け抜けた、Sの刃。
 身を引いた。それでも、躱しきれなかった。
 夥しいほどの量の鮮血が溢れ出る。

 視界が眩んだ。
 今日は快晴だ。陽の光を見すぎたのだろうか。
 それならいいが、などと暢気に考える自分がいた。

 ドラルの追撃が襲い来る。
 鋭く、重い。痛烈だ。
 受け止めるも、右腕に全く力が入らない。

 後方から、声が聞こえた。
 やがて前方からも。
 どうやら、ヴィップの本隊が反撃に出たようだ。

 少し、遅かった。
 いや、全体の眼で見れば、充分早い。早すぎるほどだ。
 自分の役割を、上手く果たすことができたようだ。

 それだけでいい。
 自分の生死など、戦局に影響を及ぼすべきではないのだ。

 あとは自分の全てを出し切り、ドラルにぶつけるだけだ。

(#´∀`)「はぁぁぁぁッッ!!!」

 右腕に、最後の力を込めた。
 ドラルのSを弾く。
 その瞬間、ドラルは確かに怯んだ。
138 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:07:38.25 ID:yKeYYVVk0
 Qを一瞬で握り直す。
 突部分をドラルの胴体に向ける。
 これが、最後の一撃。生涯で、最後の一撃だ。

 突き出した。

 右腕に、確かな手応えを感じた。
 しかしそれは、アルファベットとの衝突だった。

 受け止められた。
 ドラルは、際どいところで自分の攻撃を防いでいた。

(;´∀`)「……及びませんでしたか……」

 右腕が、力なく垂れさがる。
 ドラルがゆっくりとSを振りあげた。

 自分の全てを出し尽くした。
 悔いなど、何もない。
 誰もが認めてくれるだろう、と思えるほどに、戦ってきた。

 唯一の心残りを挙げるとすれば。
 挙げるとすれば、やはり、ヴィップの天下を、この目で見れなかったことか。
 しかしそれも、致し方のないことだ。

 いずれ死が訪れる。
 最初から、分かっていたことだ。

 五十をいくつも過ぎたのに、戦場で果てることができる。
 それは、幸運であり、幸福であった。
151 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:10:45.42 ID:yKeYYVVk0
( ´∀`)(皆さん……後を頼みます)

 必ずや、ヴィップの天下を。
 いま願うのは、それだけだった。

 ドラルのSが、眩しいほどに輝いていた。
 視界が、白む。
 何も見えなくなっていく。

 ベルやハンナバルも、死ぬ間際は、こんな視界だったのだろうか。
 そんなことを考えると、自然と笑みが零れた。
 もちろんそれは、最後まで、清々しい気持ちでいられたからこそだった。


 ありがとう。

 誰に言うでもなく、そう呟いた。









――マリミテ城・城内――

 月のない夜だった。
 それに加え、空には暗雲が立ち込めはじめている。
168 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:13:51.98 ID:yKeYYVVk0
 オオカミは、篝火を全て消してきた。
 闇に紛れての接近。
 ヴィップが気付いたときには、既に四半里まで迫っていたのだ。

 慌てて迎撃の準備を整えはじめるも、時間がなさすぎる。
 城壁にD隊を揃える前に、オオカミはFを射てきた。

 的確に城内にのみ射込んでくる。
 どうしようもない。抗いようがない。
 全兵、屋内に下がるよう指示を下した。

 すぐに城壁の穴に兵を向かわせた。
 ここからなら、敵を気にすることなく攻撃できる。
 D隊を並べ、即座に射させた。

 それは、順調だった。
 穴の数に限りがあるため、完全な足止めとはいかないが、進軍速度を鈍らせることができたのだ。
 今のうちに、例の作戦の実行に移ろう。そう考えた。

 東、西、南。
 D隊は必死にFを射てくれた。
 いずれも障害なく動けていた。

 北の異常に気付いたのは、僅かに安堵して一息ついた後のことだった。

(;'A`)「あれはっ……!!」

 イッチロー=マリナーズ。
 そして、他ならぬミルナ=クォッチ。
 更にはフィル=ブラウニー。
190 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:17:37.55 ID:yKeYYVVk0
 三人がMを構え、Fを番え、一斉に放つ。
 城壁の穴に向かって。

 いずれも的確だった。
 手元の灯りが必要なため、穴からは光が漏れているのだ。
 それゆえに、オオカミは穴を狙うことができている。

 次々に射込まれるF。こちらは、身動きが取れない。
 速射されて、穴の近くにいることができないのだ。

 北は、完全に無防備だった。

(;'A`)「スメア! ローダ! 早く作戦に移ってくれ!」

(;V-V)「しかしドクオ中尉、その北だけがまだ準備が」

(;'A`)「言ってらんねぇだろ! 他の三方面もすぐ作戦に移らせる!」

(;゛ロ゛)「では、三方面には攻撃停止の命令を下してきます」

(;'A`)「あぁ、それで頼む!」

 遅々としていては、城壁を駆けあがられる。
 それを許せば、マリミテ城は陥落してしまうのだ。
 一刻の猶予もない。早く、作戦を。

 城内の慌ただしさに、呼吸を忘れてしまうほどだった。
 北の準備は確かに万全ではなかったが、何とかなるはずだ。
 他の三方向に関しては問題ない。
202 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:20:37.87 ID:yKeYYVVk0
 オオカミ軍が、迫ってくる。
 攻城兵器を接近させ、まさに城壁を駆けあがらんとしてくる。

 例え作戦が一時的に上手くいったとしても、最終的には全滅する可能性もある作戦だ。
 怖くないはずがない。それでも、やるしかない。
 五千全員が納得してくれた。命をかけて遂行すると言ってくれた。

 自分も、全てを賭して戦う。
 このマリミテ城は、絶対に死守してやる。
 作戦が少しも乱れることなく完遂できれば、それが可能なのだ。

 だからもう少し、もう少しだけ待ってくれ。
 祈るようにしてオオカミの動きを見つめていた。



――マリミテ城・城壁付近――

 残り僅か。
 四半里にも満たない距離。
 それを埋めるだけで、マリミテ城を手に入れることができる。

 城門には警戒しろと言ってある。
 ヴィップ軍が飛び出してくる可能性もあるからだ。
 しかし、たかが五千。野戦になれば容易い数だ。

( ゚д゚)「素早く地面を修復しろ! 雲梯が通れるだけの道幅でいい!!」

 城壁の付近は、まだ地面が酷い状態だった。
 だが、雲梯を通すだけなら、修復にさほど手間はかからない。
212 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:24:39.31 ID:yKeYYVVk0
 一気呵成に攻め立てる。
 この機を逃せば、恐らく勝ちはない。

 闇に乗じて接近する作戦は、上手くいった。
 イッチローをはじめとする、Mの使い手で城壁の穴を封じることにも成功した。

 北から城壁を駆け上がり、次いで他の三方向からも攻める作戦だったが、ヴィップは攻撃を停止している。
 何か仕掛けてくるのではないかとも思うが、先に攻め込んでしまえば関係ない。
 いま犯してはならないのは、敵の策を恐れて慎重になってしまうという愚だ。

 城内に攻め込んでしまえばいいのだ。
 ヴィップが待ち構えているはずはない。常にFは射込ませている。
 こちらが突入する瞬間に止めさせればそれでいい話なのだ。

 何も穴はない。
 いける。いける。間違いない。
 遂にマリミテ城を手にすることができる。

 雲梯が城壁に接した。
 あとは稼働させて駆け上がるだけ。
 ヴィップは、動かない。

 城壁の穴には、至近距離からD隊に攻撃させている。
 攻城兵器が接近していても、何もできないはずだ。

 それとも、城内にて迎え撃とうというのか。
 無駄だ。こちらには五万の兵がいる。
 多少犠牲を被っても、いずれは手数で押しきれる。
223 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:27:42.38 ID:yKeYYVVk0
 雲梯を、稼働させた。
 二つ折りにさせてあった梯子部分が、城壁に近づいていく。

 やがて、城壁の上に達した。

(#゚д゚)「駆けあがれ!!!!!」

 大声で叫んだ。
 何十もの兵が雲梯を駆け昇っていく。
 全方向で同じことが行われているはずだ。

 D隊には射撃を止めさせた。
 あとは城内に攻め込むだけ。それだけでいい。
 マリミテ城奪取は、すぐだ。もうすぐだ。

 心臓が鼓動が早まる。
 胸が、高鳴る。
 念願のマリミテ城を、遂に、遂に奪えるのだ。

 ――――その、興奮の中で。

 異常に気付いたのは、少し経って、冷静になれたころだった。

(;゚д゚)「……どういうことだ……」

 崩れていく。
 必死になって、全力を尽くして掛けた雲梯が、崩れていく。

 何故だ。
 雲梯と同じように、自分の膝も崩れゆく。
247 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:30:53.41 ID:yKeYYVVk0
 混乱が、一気に広がった。
 これほどまでに乱れる理由も、分からなかった。

 やがて、ひとつの情報が舞い込んできた。
 裏切り。謀反者が出たというのだ。
 雲梯の側にいた何人かの兵が、アルファベットで雲梯を破壊したのだという。

 そしてすぐ、それを否定する情報が入ってきた。
 同時に、体の震えがしばらく止まらなかった。

 全て、布石だったのだ。
 穴からの攻撃をやめたことも、オオカミ軍を接近させたことも。

 そして、地面を酷い状態にしたことも。

 ヴィップ軍は、地下から出てきた。
 城内の地下から穴を掘り、城壁の側に出てきたのだ。

 人が通れるほどの穴など、普通なら気付く。
 どうしても地面が不自然になるからだ。

 しかし、ヴィップは覆い隠してきた。
 地面を不安定にし、穴の存在を隠したのだ。

 あの地面の状態は、接近させないためだけのものではなかった。
 ここ一番で城外に出るための作戦を、隠し通す役目もあったのだ。

 いや、もはやそんなことはどうでもいい。
 ドクオには完全に裏をかかれた。それも、過ぎたことだ。
 今の問題は、他にある。
262 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:34:26.45 ID:yKeYYVVk0
 ヴィップ軍が、オオカミ軍の中に紛れ込んでしまったのだ。
 数は分からない。しかし、少なくはない。
 闇に乗じて接近した。近づいたあとも、敵から動きを把握されにくいように、灯りは消したままだった。

 完全に、裏目に出た。
 ヴィップがオオカミに紛れ込むことを、易々と許してしまったのだ。

(#;゚д゚)「雲梯は放棄! 城壁から離れろ! D隊も下がるんだ!」

 普段なら部隊ひとつひとつを管理してある。
 だが、城壁を駆け昇ろうとした際に、それがほぼないものになってしまった。
 どこにヴィップ兵がいるか、まったく分からない状態だ。

 もしかしたら、自分のすぐ近くにいるかも知れない。
 あるいは、フィルやガシューの背後に迫っているかも知れない。

(#;゚д゚)「ぐっ……!!」

 どうすればいい。
 こんな焦燥を感じるのは、初めてだ。
 対応策が浮かばない。

 とにかく篝火を焚かせた。
 この視界のままではまずい。ヴィップ兵の思うがままだ。
 ただひたすら周りを警戒するしかなかった。

 ヴィップ兵が紛れ込んだということは、間違いない。
 目標は、自分ひとり。
 敵大将を討ち取ることのみが、目標だ。
278 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:37:24.61 ID:yKeYYVVk0
 五千で防衛を行っていた相手に、まさか、命を脅かされるとは。
 守りに徹していたわけではなかった。ヴィップは、常に攻めを考えていた。
 それを把握できていなかった時点で、自分は負けていたのだ。

 不意に、城門が開いた。

 マリミテ城から、ヴィップ兵が飛び出してくる。
 まずい。オオカミは、迎撃戦が行える体勢ではない。
 統率など、完全に失ってしまっている。

 それでも、将校たちに指令を出そうとした。
 将校さえしっかりしていれば、数千の兵など容易く押し潰せる。
 なんといっても、こちらは五万もの兵を有しているのだ。

 しかし、飛び込んできたのはひとつの報。
 ボーリック中尉が、自分の近くにいた兵に討ち取られたという。
 間違いなく、ヴィップの兵だ。

 将校が、いや、全軍が浮足立っていた。
 迎撃か、撤退か。悩んでいる暇もない。
 それでも、即座に判断を下さなければならない。

 一瞬の後に、静かに声を発した。

(#;゚д゚)「ヴィップ軍を、迎え撃つ。敵を、殲滅するぞ」

 すぐに鉦が鳴らされた。
 しかし、全軍にそれを伝えるのは容易ではない。
 決して有利と言える状況ではなかった。
298 :第51話 ◆azwd/t2EpE :2007/07/16(月) 16:40:22.47 ID:yKeYYVVk0
 ヴィップ軍は、全滅を覚悟して城から出てきているのだろう。
 ここで迎え撃たなければ、マリミテ城を奪えないばかりか、オリンシス城まで危うくなる。
 自分や五万の兵も無事では済まない。

 驕りでも侮りでもない。
 十倍の兵がいる。だから、迎え撃つ。
 何も恐れる必要はない。叩き潰してやればいい。

(#゚д゚)「軍を整えろ! マリミテ城を奪取するぞ!!」

 ドクオ率いるヴィップ軍の峻烈な攻撃が、闇の中でもはっきりと分かった。
















 第51話 終わり

     〜to be continued

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