6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 21:57:41.19 ID:nfzcdcLm0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
24歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:マリミテ城

●('A`) ドクオ=オルルッド
24歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:マリミテ城

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
34歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:マリミテ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
29歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:マリミテ城

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
32歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:マリミテ城
15 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 21:59:19.89 ID:nfzcdcLm0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
30歳 少将
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
27歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:マリミテ城

●(=゚ω゚)ノ イヨウ=クライスラー
33歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:マリミテ城

●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
49歳 中将
使用可能アルファベット:Q
現在地:パニポニ城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
23歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:マリミテ城
23 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:00:50.11 ID:nfzcdcLm0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
39歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:マリミテ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
40歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ハルヒ城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
43歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
36歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヒグラシ城
28 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:01:32.39 ID:nfzcdcLm0
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
38歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
38歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
32 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:02:34.12 ID:nfzcdcLm0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/モナー
少将:ギコ/プギャー

大尉:ブーン/シラネーヨ
中尉:ビロード/イヨウ/ドクオ
少尉:ベルベット


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ビコーズ
少尉:

(佐官級は存在しません)
35 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:03:30.39 ID:nfzcdcLm0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ベルベット
M:ドクオ
N:
O:ヒッキー
P:ブーン/プギャー
Q:モナー
R:ギコ/イヨウ
S:
T:ジョルジュ/ミルナ/アルタイム
U:モララー
V:ショボン
W:
X:
Y:
Z:
39 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:04:55.46 ID:nfzcdcLm0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 オオカミ
(マリミテ城〜オリンシス城)

 

44 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:06:03.12 ID:nfzcdcLm0
【第44話 : Betray】


――520年・夏――

――オリンシス城――

 昼は蝉の羽音が。
 夜は鈴虫の鳴き声が。
 それぞれ、透き通ってくる。

 夏を感じるようになってきた。

( ゚д゚)「兵站を繋ぐのが楽になったとはいえ、油断するなよ。
    今のヴィップはそこを狙ってくる可能性が高い」

(文γ-γ)「はい」

 文官に注意を促して、仕事に向かわせる。
 戦が近いこともあって、城内の緊張感は高まっていた。

 520年になって、半年が経過した。
 早いものだ。もう一年の半分。
 昨年末にフェイト城を奪ったのが、まだ昨日のことのように感じる。

 あの戦でラウンジに大勝できたのが、大きかった。
 特に、新たに二万の兵を組み入れられたことだ。
 解体するのは大変だったが、上手く分散もさせられた。

 ヴィップと相対にするには、充分な数を手に入れられたのだ。
46 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:08:31.75 ID:nfzcdcLm0
( ゚д゚)(兵数で互角になったのは、大きい)

 オリンシス城とマリミテ城で向かいあっている。
 その間にあるのは、キョーアニ川だ。
 トーエー川に比べれば小さく、速さや深さもない。

 だが、水がある。
 それだけで充分なのだ。
 オオカミ最大の武器である、水軍が使える。

 水軍は昔、大将だったアテナット=クインスがラウンジに対抗するために鍛えだした。
 全土最長の川であるトーエー川を挟んで向かい合っていたため、水軍で優位に立てば大国ラウンジに対抗できる、と考えたのだ。
 実に合理的な発想だった。

 ラウンジの元大将、ベル=リミナリーは、陸戦を得手としていた。
 水軍の指揮も常人よりは上手かったものの、やはり軍自体が精強ではなかったため、オオカミの敵ではなかった。
 つまり、あのベルでさえオオカミの水軍には太刀打ちできなかったのだ。

 水戦がなくとも水軍の強化だけは続けてきた。
 国内に大河を有さなかったヴィップとは、天と地ほどの差があるはずだ。
 とても半年では埋まらないだろう。

( ゚д゚)(……と、油断していると隙を突かれる)

 あくまで正攻法で挑んできた場合の話だ。
 ヴィップも、正面からぶつかって勝てないことくらい、分かっているだろう。
 何らかの策を仕掛けてくると見て間違いなかった。
51 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:11:05.86 ID:nfzcdcLm0
 ヴィップがいま狙っているのは、オオカミを水から引き上げて陸戦を行うことだ。
 水軍同士でのぶつかり合いが不利なのは明白。ならば陸で、と考えるだろう。
 だが、それだけは避ける。決して無理はしない。

 マリミテ城は奪還したいところだが、まずはオリンシス城を堅守するのが大事だ。
 もしオリンシス城が落とされればオオカミ城が脅かされる。
 国王のフィラッド=ウルフが降伏すれば、オオカミは滅亡してしまうのだ。

( ゚д゚)(何がなんでも、オリンシス城は渡せん)

 まだフェイト城があり、オリンシス城から易々とオオカミ城を狙える状況ではないが、守り抜ければそれが最善だ。
 そしてできればマリミテ城を奪還したい。防衛戦でヴィップを疲弊させ、カウンターを見舞うのだ。
 ただし絶対に無茶はしない。

 まずは、確実に守り抜く。
 そのために、何が必要か。

( ゚д゚)(考えろ……ヴィップはどんな手を使ってくるか)

 最初に浮かんだのは、挟撃だった。
 船を上流に配置し、流れに乗って一気に攻め立てる。
 水上の戦では効果的な作戦だ。

 しかし、上流を支配しているのはオオカミ側だった。
 川は海に向かって流れている。当然、オリンシス城は上流に位置しているのだ。

 ヴィップが船を密にオリンシス城の北まで運べば挟撃は可能となるが、そんな動きをすればすぐに知れ渡る。
 見え透いた挟撃など、なんの怖さもないのだ。
 この作戦は、ない。ヴィップは使ってこない。
58 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:13:30.86 ID:nfzcdcLm0
( ゚д゚)(次に考えられるのは……)

 海を使ってくる可能性。
 キョーアニ川を一気に下り、回りこんでオオカミ城を急襲する。
 ヴィップなら、やってくることも考えられる策だ。

 だが、成功はしない。
 海と川では勝手が違いすぎる。川用の船は海では使えない。
 海用の船を造っているなら話は別だが、それもありえないだろう。

 ヴィップが今までに、海を使って戦をするための訓練をしていた、という話も聞いたことがない。
 広大な原野が多いこの地で、海を使って攻め込むというのは、あまり賢い選択とは言えないからだ。
 武勇国家であるヴィップなら、尚更だった。

 もし海用の船が使われる動きがあれば、それこそすぐに分かる。
 奇襲でなければ、いくらでも潰しようがある。この策も、ヴィップが冷静なら取ってこないだろう。

( ゚д゚)(では……他にやってくるとすれば……)

 考えられるのは、シャッフル城から陸路で攻めてくる可能性だ。
 不得手な水戦を避け、陸戦を挑む。ヴィップにとっては、間違いなく最上の展開だ。
 だが、オオカミとしてもそれだけは防がなければならない。

 シャッフル城から攻められることは考え、北への警戒は強めている。
 現在、シャッフル城を守っているのは五千。兵数は、恐れるほどでもない。
 もしシャッフル城に兵を入れれば、すぐに分かるような体制は敷いてある。

 マリミテ城からシャッフル城まで兵を移動させてくれるなら、かえって好都合だ。
 マリミテ城を奪還できる可能性が生まれる。
 だが、それもショボンは実行してこないだろう。この策も、なしだ。
64 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:15:55.22 ID:nfzcdcLm0
( ゚д゚)(あるいは……一気に川を渡って、陸路で攻めてくるか?)

 キョーアニ川はおよそ一里半ほどの川幅がある、広い川だ。
 仮にオオカミの水軍を無視して渡渉し、陸路で攻めようとしても、無駄なことだ。
 渡りきる前にオオカミの水軍が側面を衝く。

 それに、この策なら放っておいても問題はない。
 ヴィップの水軍をオリンシス城側に渡らせたあと、川に残された船を着実に潰して退路を断てばいい。
 兵糧もない状態で船が潰れれば、ヴィップは八方塞がりだ。水陸両面から攻められて、全滅するだろう。

 こんな分かりきったことを、ヴィップがやってくるとは思えない。
 やはり、この攻め方もありえないだろう。

( ゚д゚)(……他に効果的な策は……特に思い浮かばんが……)

 考えられるだけ、考えた。
 これ以外の策では、かなり博打の要素が強くなる。
 そうすれば有利なのは水軍に力のあるオオカミだ。

 エヴァ城戦やシャッフル城戦も、ヴィップは賭けの要素が強い戦法を取ってきた。
 そのたびに敗北を喫してきたが、今回は違う。軍の精強さで上回っているのだ。
 現状なら、どんな策を取ってこようとも、潰せる自信があった。

( ゚д゚)(……いや……)

 この程度のはずがない。
 必ずヴィップは自分が思いもよらないような策で攻めてくる。
 そう思って、常に考え続けなければならないのだ。

(ゝ○_○)「ミルナ大将」
69 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:18:34.46 ID:nfzcdcLm0
 爽やかな夏の朝に、凛としたリレントの声。
 そぐわないわけではない。ただ何となく、気に食わないのだ。

( ゚д゚)「なんだ?」

(ゝ○_○)「お話が」

 戦のたびに、リレントは何かを提言してくる。
 ありがたいことだが、上手くいった試しがほとんどない。
 大将である自分を、引きずり降ろそうとしているのではないか、と勘繰ってしまうときもあった。

( ゚д゚)「ここじゃダメか?」

(ゝ○_○)「大事なお話ですから」

( ゚д゚)「無論、戦に関すること、だな?」

(ゝ○_○)「もちろんです」

 今日のリレントは、やけに淡々としている。
 いつものように、自分の策に絶対の自信を持っている風ではない。
 ただ、瞳の奥に不気味な光を湛えている。

 それが何故か今日は、不快ではなかった。
 嫌な予感も、ない。

 夏の風が吹き込む窓辺を通り過ぎ、リレントと二人で静かに、軍議室へと向かった。
74 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:21:08.63 ID:nfzcdcLm0
――520年・秋――

――マリミテ城――

 睨み合いでしばらく膠着し、トーエー川に紅い葉が流れるようになったころ。
 ようやく、戦が始まる気配になった。

( ^ω^)(……勝ち目は薄くないお)

 一年近く、考えに考えた。
 努力も重ねた。絶対的に不利な状況で、勝てる道を探した。
 そして、見出した。

 その策を実行するには、とにかく労力が必要だった。
 決定してからは忙しく働き、アルファベットの訓練も碌にできなかった。
 しかし、何とか勝てる形が見えてきた。

 オオカミの水軍の力を考えると、確実性はいつもより低い。
 それでも、充分に勝てる見込みがある。

(´・ω・`)「まぁ、十割勝てる戦でなければ出陣すべきではない、とよく言うが……そんな戦、ありはしないからな」

( ・∀・)「いつだって多少の博打はあるもんです。特に相手がミルナなら、尚更ですね」

(´・ω・`)「難しい相手だ。しかし、今回は勝てる可能性も充分あると見てる」

(,,゚Д゚)「あとは、実際ぶつかったときに、どれだけ力を出せるか……ですね」

(´・ω・`)「焦らずにいこう。この策のための調練も積んできたんだ」
80 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:23:33.45 ID:nfzcdcLm0
 全軍が整列していた。
 相変わらず壮観だ。五万近い大軍。
 寸分の乱れもなく並んでいる。

 ショボンがアルファベットVを掲げた。
 その輝きは、遥か後方にまで届いているだろう、と思った。

(´・ω・`)「水の上でもヴィップは武勇国家だ。見せつけてやるぞ」

 ショボンの発破はいつもより静かで、短かった。
 それだけに、重みがあった。

 兵が続々と船に乗り込んでいく。
 オオカミは既に上流で待ち構えているはずだ。
 そして、驚いているはずだ。

 最も大きな船である艦を極力少なくし、走舸と呼ばれる機動力の高い中型船を多く配備した。
 それと、船の舳先に尖った丸太をつけ、敵船に直接ぶつかって転覆させるための船、艨衝も増やしてある。
 船の数ではオオカミを圧倒しているはずだ。

 多ければいいというものではない。
 しかし、下流に位置するからこそ機動力を重視した船を増やし、素早く攻め込めるようにしたのだ。
 ショボンは、水軍での真っ向勝負を決めていた。

(´・ω・`)「いくぞ」

 甲高く鉦の音が響いた。
 イヨウ、シラネーヨ、そしてギコが率いる前衛船団が、駆けだしていく。
 櫓を使って水を掻き、遡上していった。
87 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:25:57.85 ID:nfzcdcLm0
 流れに乗れるオオカミのほうが間違いなく速い。
 だが、容易く下っては来ないはずだ。城を守らなければならない以上、動きにくい。
 しかし、接近しつづければいずれは攻撃してくる。

( ^ω^)(でも……オオカミの配備はいつも通りのはずだお)

 ここが博打だった。
 ヴィップは走舸を多く使っている。素早く接近するためだ。
 中型船なら小回りも利く。

 走舸で素早く接近し、敵の船に接舷して斬りこむ。
 つまり、ヴィップの狙いは白兵戦だ。
 水の上でも武勇国家。アルファベット同士の戦いに、持ち込むのだ。

 オオカミは、下流にいるヴィップが白兵戦を狙ってくることをあまり警戒していないだろう。
 下流側は何より機動力で劣る。なのに機動力勝負を挑んでくるとは、普通考えないはずだ。
 だからこそ、あえて勝負した。

 そのために、これまで徹底的に秘匿しながら船を建造させた。
 数が必要だった。今までにあった数では、到底足りなかったのだ。
 兵も動員しての作業で、日々忙しかったが、何とか数を揃えることができた。

 冬になって北風が強まると、ヴィップは更に不利になる。
 次の春まで持ち堪えるのは兵糧的に苦しくなってくる。この秋しかないのだ。
 ここで、勝つしかないのだ。

( ^ω^)「行きますお」

( ><)「了解なんです」
95 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:28:52.64 ID:nfzcdcLm0
 ビロードと同じ船に乗っていた。
 漕ぎ手に指示を出し、川を遡上していく。

 今回、ヴィップは三段に構えて遡上していく。
 この第二段は、自分とビロードが主となって指揮し、左右をドクオとベルベットが固める。
 第三段には満を持してショボンとモララーが登場する。

 走舸や艨衝がこれだけ増えたことを、オオカミは知らない。
 素早く遡上してくる船団を見て、驚くことだろう。

 太陽の光が川面を輝かせていた。
 水面を切り裂く船底。水飛沫を左右に振り撒く。
 船が通ったあとは水が乱れ、やがて収束する。

 キョーアニ川の水は美しかった。
 常に緑色をしているトーエー川とは大違いだ。
 思わず触れて、水中に見える自分の手を確かめたくなるほどの透明感がある。

 その、キョーアニ川の水が。
 徐々に、濁り始めた。

(;^ω^)「これは……」

(;><)「船の破片と……血だと思うんです」

 さすがのビロードも、わかんないんです、とは言わなかった。
 つまり、もう戦が始まっているということだ。

 前衛とはそれほど離れていない。
 だが、まだ進むべき距離は、半分にも達していないのだ。
100 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:31:55.78 ID:nfzcdcLm0
 おかしい。

(;^ω^)「まさか……!」

 オオカミに先手を打たれたのか。
 川を下り、遡上しているヴィップ軍を潰したのか。
 いや、逆の可能性もある。果敢にオオカミ軍と戦い、勝利した可能性も。

 可能性としては考えられるのに、何故かまったくそんな気がしなかった。

 普通なら敵軍は艨衝と、遊艇という小型船を前衛として押し出してくるはずだ。
 それが水戦の基本。だから、その基本を見越して、こちらは走舸を出したのだ。
 走舸なら、敵が大型船や艦を前に出してこない限りは、優位に立てる。

(;><)「見えてきたんです!」

 視界の奥に薄らと映る船。
 どう見ても、大型船だ。
 オオカミの旗を掲げている。

 見透かされていたというのか。
 こちらが走舸を使って、白兵戦に持ち込むことを。
 そんなはずはない。しかし、普通は前衛に大型船を押し出すことなど、ありえないのだ。

 ヴィップの船が大型船に飲み込まれていく。
 高みから打ち下ろされるFで兵が次々と倒れていくのが見える。

 ダメだ。
 オオカミは、ヴィップをはるかに上回っていた。
 勝ち目はない。
108 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:34:27.25 ID:nfzcdcLm0
 そして、大型船の影から、大量の艨衝が現れた。
 舳先の丸太が、まるで喉元に突き付けられてるように感じる。
 まずい。オオカミは常に先手を打ってきている。

(;^ω^)「反転を……!」

(;><)「マズイんです! 艨衝に追い付かれて船を潰されるんです!」

 そうだ。それに、後ろからは第三段が迫っている。
 いま慌てて反転すれば、味方同士で衝突しかねない。

 オオカミは、たった一度の攻撃で、ヴィップのすべてを潰してきた。
 あまりにも、手際が良すぎる。
 これがミルナの力なのか。

(;^ω^)「鉦を!」

 後方に向かって、静止、反転の鉦を鳴らさせた。
 届くかは分からない。しかし、これ以上遡上させるとまずいことになる。
 この辺りは、陸地が丘陵であり、接岸しても陸に上がれないのだ。

 南に下って、陸に上がれる地点まで戻る必要がある。
 しかし、果たして逃げ切れるか。

(;^ω^)「反転だお! 何とか逃げ切るんだお!」

 この戦は既に負けている。
 今できることは、一人でも多くの兵を生かすことだ。
 逃げ切ることだ。
116 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:36:58.47 ID:nfzcdcLm0
 しかし、オオカミの船は容赦なく迫ってくる。

(;><)「精一杯漕ぐんです! 艨衝には側面に回られないようにするんです!」

 側面を突かれると、中型船は一撃で沈んでしまう。
 それを避けるためにも、素早く下っていかなければならない。

 流れに乗って素早く下り始めた。
 オオカミの船団が追従してくる。何百の船があるのか分からない。
 こちらも、数百の船を率いている。

 オオカミとの距離はおよそ一里半。
 普通なら逃げ切れる。しかし、船そのものの速度が違うのだ。
 どう工夫しているのかは知らないが、オオカミの船は速い。距離が縮まるのがはっきりと分かる。

 南に、ヴィップの第三段が見えた。
 鈍重な動きで反転している。第三段には、大型船が混じっているためだ。
 中型船だけなら素早く反転できるが、大きくなるとそうもいかない。

 早くいってくれ。心の中で願い続けた。
 前衛はかなり多くが潰された。第二段も、徐々に潰されはじめている。
 やはり、オオカミの水軍は精強そのものだ。

 アルファベットMを構え、敵船に向かって射込んだ。
 一人のオオカミ兵の首が飛ぶ。焼け石に水だ。
 それでも、指揮官に当たることを願って射るしかない。

 D隊にもFを射させたが、やがてオオカミは矢防ぎの盾を出してきた。
 アルファベットなら薄い木の板など容易く打ち破れるが、何段も構えられると難しい。
 だが、オオカミの船は多少の空気抵抗を受けて、動きが鈍ったはずだ。
121 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:39:26.13 ID:nfzcdcLm0
 しかし、既にオオカミの船との距離は半里もない。

(;^ω^)「舳先を右にずらすお! 艨衝が背後まで迫ってるお!」

(;><)「味方の船に接近しないよう注意するんです!」

 前衛には、将校ではイヨウとシラネーヨとギコがいた。
 生きているだろうか。壊滅的だったあの状況で。
 何とか逃げ切ってくれていることを願うしかなかった。

 この第二段には、自分とビロード、ドクオ、ベルベットがいる。
 ドクオはもっと西に、ベルベットはもっと東にいるはずだ。
 無事かどうかは、分からない。

 更に下っていき、第三段と合流した。
 体勢は安定してきている。オオカミの猛追も、勢いが緩まった。
 潰れた船に道を遮られたことも影響しているのだろう。

 やがて、オオカミの船は動きを止めた。
 ゆっくりと反転し、戻っていく。
 まるで嘲笑うかのような速度だった。

 戦が、終わった。
 あまりに無残な敗北だった。

(´・ω・`)「川を下ってくる生存者を救出するんだ! 遊艇を出せ!」

 ショボンの大声が響いていた。
 戦が終わったのに、まだ落ち着けない。
 敗戦とは、こういうものなのか。
126 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:41:45.62 ID:nfzcdcLm0
(;^ω^)「ベルベット! 無事かお!?」

( <●><●>)「私は大丈夫です。早く生存者を」

 頷いて遊艇に乗った。
 人を拾いやすい小型船だ。

 何度も川を行ったり来たりし、生存者を救いだした。
 転覆しかけた小型船に乗ったイヨウとギコの姿もあった。
 将校では、大尉であるシラネーヨの無事だけがまだ確認されていない。

 キョーアニ川は、対岸までおよそ一里半もある広い川だ。
 その川を、船の破片が埋め尽くしている。
 赤の混じった水が流れてくる。

 船は大量に破壊されたが、直接的に討ちとられた者は多くないはずだ。
 だからこそ迅速な救出が不可欠になる。

 やがて夜になった。
 水面は漆黒に染まり、視界も悪くなっている。
 船同士が接触しないよう、篝火が絶やせなくなった。

 暗くなってからも時々、生存者がいた。
 かなり衰弱している。水に浸かりつづけたためだろう。
 船の破片などに掴まって流されたとしても、体力はかなり奪われるはずだ。
143 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:44:49.09 ID:nfzcdcLm0
(´・ω・`)「シラネーヨも生きてくれていた。将校は全員無事だ」

 日付が変わるころ、本陣にいるショボンが教えてくれた。
 いくつもの幕舎が張られ、怪我人の手当てに追われている。
 オオカミの急襲にも備えなければならないため、休まるときはなかった。

 それでも東雲の微光を感じるようになったころ、ようやく落ち着いてきた。
 さすがに夜が明けると、川を流れてくる兵がいたとしても、息はなかった。
 キョーアニ川は元の美しさを取り戻しつつある。

 将校の無事にはとりあえず胸を撫で下ろせたが、果たして被害はどれほどあったのか。
 船は相当の損失だ。半数近く失っているかも知れない。
 あとは、兵の被害。

(´・ω・`)「……五千は下らんだろうな……」

 オオカミの急襲に備えているモララー以外が幕舎に集まっていた。
 皆、一様に沈んだ表情を浮かべている。
 久方ぶりの敗戦。それも、大敗だった。

(´・ω・`)「オオカミは、ほとんど兵を失ってないだろう……稀に見る大敗だ」

(,,゚Д゚)「申し訳ありません……もっと慎重に進むべきでした」

(´・ω・`)「勢いが必要だったんだ。緩めてしまっては何の意味もない」

(=゚ω゚)ノ「敵軍が大型船を出してきている時点で、後方に鉦を出せれば良かったのですが……」

(´・ω・`)「いや、厳しいな。敵とぶつかる前に鉦を出していたら、それこそ前衛は全滅している」
153 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:47:38.90 ID:nfzcdcLm0
 暗澹たる雰囲気の中で交わされる反省の言葉。
 こんなことは、今まで一度もなかった。
 これが、敗戦の味か。舌を噛みたくなるほど苦々しい。

(´・ω・`)「悔しいが、オオカミのほうが何枚も上手だった。
      皆、この敗戦を忘れるな。そして、次の戦に必ず活かすんだ」

 相手の土俵に上がったことは、間違いではなかったし、無駄でもなかった。
 尊い犠牲を払うことになったが、次の勝利に結びつけるしかないのだ。
 でなければ、死んでいった兵に申し訳が立たない。

(´・ω・`)「引き続き怪我人の救護にあたってくれ。マリミテ城に徐々に入れていくぞ。
      これで以上だが――――ブーン、お前はちょっと残れ」

(;^ω^)「ほぇ? は、はいですお」

 他の将校たちが立ち上がって幕舎の出入り口をくぐっていく。
 すぐにショボンと二人きりになった。

(´・ω・`)「ブーン、お前は今回の戦、どう思った?」

(;^ω^)「どうって……凄く悔しかったですお……」

(´・ω・`)「ほとんどの将校は、512年のエヴァ城陥落を経験している。
      だがお前より若い将校たちはこれが初めての敗戦だ」

(;´ω`)「……勝ち続けることの難しさを知った気がしますお」

(´・ω・`)「あぁ、そして負けた者は、なぜ負けたのかを追及しなければならない」
163 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:50:30.42 ID:nfzcdcLm0
 先ほどの話題を掘り返すのか、と思った。
 しかし、違った。

(´・ω・`)「今回、オオカミが大型船を前に出してきたのは、どう考えても不自然だ」

 嫌な、予感がした。
 そして、何を言おうとしているのかが、分かってしまった。

(´・ω・`)「これは、事前に情報を得ていたとしか思えない。またも、将校しか知り得ない情報を」

 心のどこかで、同じことを考えていた。
 ただ、考えたくなかった。
 本当に、裏切り者がいるかも知れないなどと。

(;^ω^)「……また……ですかお……?」

(´・ω・`)「マリミテ城戦のとき、フィレンクトの伏兵が発覚していた。あれと同じだ。
      東塔の将校と、ジョルジュ大将しか知らない情報だった。今回も、そうだ」

(;^ω^)「……ジョルジュ大将には、見張りを……」

(´・ω・`)「つけているが、限界がある。常に監視しつづけることはできない。
      兵との接触を止めることもできんしな。そうそう情報が漏れるような体制にはなってないが……。
      もし情報が漏れているなら……俺にも落ち度がある」

(;^ω^)「そんな……」

(´・ω・`)「とにかく、今回は形振りに構っていられない。
      多少強引な手を使ってでも、あぶり出す。将校を一人、失うことになってもな」
176 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:52:58.84 ID:nfzcdcLm0
 ショボンの厳然たる姿勢が見えた。
 例えジョルジュが相手でも、一歩も引かないつもりだろう。

 敗戦に続き、内部紛争まで抱えている現状。
 東塔は今、かつてないほど大きく揺らいでいた。



――520年・冬――

――ラウンジ城・執務室――

 城に帰ってきてから、軍内の再編成作業に忙殺された。
 フェイト城という重要拠点を失ったのは、やはり手痛い。
 オオカミと接する城が一気に増えてしまったのだ。

( ’ t ’ )(……やはりミルナは図抜けているな……)

 フェイト城を見事に奪い返したミルナ。
 オオカミでは他者を寄せ付けぬほどの実力者だ。

 そのミルナが、今度はヴィップを完膚無きまでに打ちのめした。
 得意の水戦で散々に打ち破り、百にも満たない犠牲で五千以上の被害を与えたという。
 オオカミは完全に力を取り戻していた。

 驚いたのはオオカミが勝ったことより、ヴィップがオオカミに水戦を挑んだことだ。
 ヴィップの水軍はお世辞にも精強とは言えない。勝ち目が薄いことは分かっていたはずだ。
 なのにあえて水戦を挑むとは、理解しがたい。ヴィップらしくない、と思った。
184 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:55:51.10 ID:nfzcdcLm0
 噂では、敵の虚を突こうとしたが、見破られて敗戦したということらしい。
 やはり水の上でのオオカミは最強だろう。
 指揮や統率が、不安定な水の上とは思えないほどだという。

 ラウンジは今、トーエー川を挟んでオオカミと向かい合っている。
 つまり、次にラウンジと戦うときは、かならず水軍でぶつかることになる。
 今回、間者を送ってオオカミの水軍を調査させたのも、いずれ役に立つことだろう。

(`・ι・´)「ラウンジも水軍を強化せねばならんな」

 同じ執務室で作業していたアルタイムが、筆を動かしながら喋った。
 アルタイムは今、地道に書類をまとめている最中だった。
 大将が行わなければならない仕事、というのは山ほどある。大国ラウンジなら、尚更だった。

( ’ t ’ )「そうですね……しかし、オオカミには敵いません」

(`・ι・´)「やはり水軍だけでぶつかるのは危険だろう。あのヴィップさえ勝てなかった」

( ’ t ’ )「ラウンジには数の強みがあります」

(`・ι・´)「そうだな……数を恃みにしてばかりもいられないが、やはり多いほうがいい」

( ’ t ’ )「そのためには、兵糧ですね。兵糧が潤沢にあれば、兵をもっと多く出せます」

(`・ι・´)「いま一年遠征するとしたら……出せるのは、八万か九万だな」

( ’ t ’ )「兵糧が倍あれば、十五万まで出せます」

(`・ι・´)「それだけの兵がいれば、よほどのことがない限り勝てるだろうが……」
195 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 22:58:47.92 ID:nfzcdcLm0
( ’ t ’ )「大軍を指揮できる人材がいないのも、難点ですね。自分が言うことではありませんが……」

(`・ι・´)「しかし、その通りだ。若い将校に経験を積ませねばならんな」

( ’ t ’ )「経験豊富な将も減ってきていますからね……」

 ヴィップとの戦で、モナーの謀略によってガダンが討ち取られた。
 そしてフェイト城戦では、中将のシッティムが捕虜になった。
 命乞いを繰り返したのがミルナの癇に障り、即座に首を刎ねられたという。

(`・ι・´)「それに……いずれ大軍を指揮させたかった将校が討ち取られたのも辛い……」

 他に将官では、イアン少将もフェイト城戦で失った。
 オーガナやディクといった将来有望だった尉官も消えた。
 改めて、フェイト城戦は痛い敗戦だった。

( ’ t ’ )「ヴィップは水軍での敗戦で、将校は失わなかったそうです」

(`・ι・´)「水戦はアルファベットをあまり使わないからな。生き延びられる可能性が高い」

( ’ t ’ )「アルファベットだと一撃で討ち取られちゃいますからね……」

 兵同士が直接ぶつかる戦は、損害が大きい。
 殺傷能力の高いアルファベットによる攻撃があるからだ。

 水戦で使えるのはせいぜい弓状アルファベット。
 白兵戦ならまた違うが、基本的にはアルファベットが使われる機会は少ない。

(`・ι・´)「もしWを使えれば、一撃で船に穴を空けることも可能かも知れんな」
207 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 23:01:17.58 ID:nfzcdcLm0
( ’ t ’ )「恐らく可能でしょうが、弓で狙えるところの穴を空けても、それほど意味はないかと」

(`・ι・´)「む……それもそうだな。艨衝は水に浸かっている部分に穴を空けるからな」

( ’ t ’ )「Wを水中に射た記録がないので分かりませんが、やはり水中では威力も殺されると思います」

 現代アルファベットにおいて、Wに達したのはベル=リミナリーただ一人だ。
 そのベルも、死に際、ショボンに三発放っただけで、Wの威力に関してはまだはっきりしない部分が多い。
 ただ、二里離れた位置からショボンのTを破壊したというあたり、相当な威力を持っているのは間違いなかった。

 あのとき、ベルには嘘をつかれた。
 ラウンジ城で、本当に息を引き取ったのだと思っていた。
 アルタイムが棺を運び出していったときなど、一晩中、涙が止まらなかったのだ。

 実際には生きていて、最後の力を得て、ショボンの命を狙いにいった。
 嘘をつかれたことは悲しかったが、最後の一瞬まで武人であったベルに対する憧れは強まった。
 そのベルを超えるべく、日々鍛練に励んでいる。

(`・ι・´)「来年には、ヴィップを攻めたい」

( ’ t ’ )「……ヴィップ、ですか?」

 突然の一言だった。
 まだ軍内はフェイト城戦のショックを引きずっているが、攻め込むというのか。
 確かにいま西塔はジョルジュを欠いていて、隙だらけの状態ではある。

(`・ι・´)「兵糧を得られる秋ごろに、だな。それまでにはジョルジュが帰ってくるかも知れんが」

( ’ t ’ )「そうですね……どちらにせよ、ヴィップは攻めやすいかも知れません」
214 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 23:04:54.12 ID:nfzcdcLm0
(`・ι・´)「ファルロを助けてもらった手前、攻めにくい気もするが……」

( ’ t ’ )「もし出陣をやめてくれという要請があれば、儲け物でしょう。それで借りが返せます。
    何も言ってこなければ悠々とヴィップを攻められますし」

(`・ι・´)「そうだな……よし、来年の秋に攻める方向で動いてくれ」

( ’ t ’ )「分かりました」

 物資はかなり困窮しているが、秋まで待てば収穫を得られる。
 そうすれば、十万ほどの兵を出すことは可能だろう。

 ヴィップの西塔が出せる兵は、多くても六万程度のはずだ。
 東塔が戦っている今なら、それよりも少なくなるかも知れない。
 倍の兵を有していれば、戦いやすい。

( ’ t ’ )(いや……バカなことを考えるな)

 オオカミとの戦は、数倍の兵を擁していながら負けたのだ。
 決して侮ってはならない。
 ヒグラシ城を奪いに行って、逆にギフト城やカノン城を奪われるようなことがあってはならないのだ。

( ’ t ’ )「驕らずに戦いましょう。そうすれば、ラウンジは負けません」

(`・ι・´)「あぁ……そうだな」

 編成をまとめた書類を抱え、アルタイムの机に置いた。

 にっこり微笑んで、アルタイムの顔を見る。
 疲れ切って引きつった苦笑いが浮かんでいた。
225 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 23:08:12.60 ID:nfzcdcLm0
――520年・暮れ――

――マリミテ城――

 早くも一年が終わろうとしていた。
 日付が変われば新年を迎えることとなる。

 水の上で敗れたあとは、ひたすら敗戦処理に追われていた。
 兵数が大幅に減少すると、再編成を余儀なくされるのだ。
 それをベルベットと一緒にこなしていた。

 モララーに相談しつつ調整し、何とか形だけは見えた。
 アルファベットのランクを合わせなければならないため、苦労が多いのだ。
 皆が同一の武器を使っていたら、編成作業などすぐに終わるのに、などと思いながら任務をこなしていた。

( ^ω^)(でも、ちょっとずつ時間を見つけて……やっとQまで上がったお)

 寸暇を惜しんで鍛練に励み、アルファベットはQになった。
 Sの壁まで、いよいよあと一つ。
 モララーのアルファベットとして印象深いRの一つ手前だ。

 最近、何となくだが、アルファベットが上がったのが分かるようになった。
 触れているうちに、もう一つ上を扱えるような気がしてくるのだ。
 決して老朽化による熱で分かるわけではない。本当に、何となくだ。

 そのことをショボンに言ったら、笑われた。
 一瞬、恥ずかしくなったが、違った。お前は壁を超えられるぞ、と嬉しそうに笑っていたのだ。
 聞けば、ショボンやモララーもそれを感じることがあるという。
229 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 23:10:45.81 ID:nfzcdcLm0
 実際、ギコが使っていたQに触れてみたところ、熱はなかった。
 遂にQにも認めてもらえたのだ。
 すぐにツンにQの作成を依頼した。

 ツンは最近、将校のアルファベット上昇が激しいため、忙しい日々を送っているという。
 それでも、自分が依頼したときは必ず、手紙を添えてくれる。
 可愛らしい字で、見るたびに心が癒された。

 内容は、ただの雑談程度であることがほとんどだった。
 ただ、文章の端々に辛辣な言葉が散見される。
 『ブーンくんが来ないから森の動物たちも大人しくて平和だ』や『落ち着いて仕事ができる』など。

( ´ω`)(この言い草はヒドイお……)

 ツンとはもう何年も会っていない。
 こちらは寂しくて仕方がないというのに。
 こんな文章を書かれては、気落ちしてしまうのも無理はない。

 ツンの性格を考えれば、素直に感情を表現できていないのは分かる。
 だが、時々不安になるのだ。ツンは、辛辣な言葉を本心から発しているのではないか、と。
 この文章こそが、ツンの本意なのではないか、と。

(,,゚Д゚)「なわけあるかよ。いちいち手紙添えてくるのはお前だけだぜ?
    俺なんて直に受け取りに行ってもほぼ無言で渡されるっつーのに」

 不安になってギコに相談してみたところ、一笑に付された。
 言い知れないほどの安堵に満たされた。
 もちろんギコの言うことが答えではないが、それに限りなく近いものだと思えたからだ。
235 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 23:13:12.44 ID:nfzcdcLm0
(,,゚Д゚)「ま、戦時なのに女と手紙の遣り取りなんて、浮かれてると思われても仕方ねーぞ。
    将校は兵卒たちの規範となるべき存在なんだ。ちゃんと自覚しろよ」

(;^ω^)「了解ですお」

 やはり芯の強い人だ。
 将校として、まさにお手本のような存在。
 ショボンやモララーとは、またどこか違って見える。

(,,゚Д゚)「特に、敗北したあとだからな……俺達がしっかりしなきゃな」

( ^ω^)「……はいですお」

(,,゚Д゚)「水戦で受けた被害は六千……これはみんなに責任があることだ。
    特に前衛の指揮を執っていた俺の責任は重大だが、自虐してもしょうがねぇ。
    次の戦で必ず挽回する。何がなんでも、勝つ。オリンシス城を奪取する」

( ^ω^)「もちろんですお。頑張りましょうお」

 一年が終わる日ということで、今日は全体の予定が朝までしか入っていない。
 午後からはそれぞれ自由な時間を過ごす。
 戦時であるため、常に緊張感はあるが、さすがに年が変わる頃はオオカミも動きを止めていた。

( ^ω^)「ドクオー、ドクオどこだおー」

( <●><●>)「ドクオ中尉ですか?」

( ^ω^)「あ、ベルベット。ドクオ見なかったかお?」

( <●><●>)「見ていません」
251 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 23:16:22.62 ID:nfzcdcLm0
(;^ω^)「……そ、そうかお……」

 相変わらず不思議な輝きを持った眼をしている。
 常に冷静であり、その瞳が色を変えることはない。
 感情を持っていないのではないか、と思うときもあった。

( ^ω^)「もし見かけたら教えてほしいお」

( <●><●>)「分かりました」

 ドクオには、調練に付き合ってほしいと言われていた。
 アルファベットがNに上がったが、分離可能なアルファベットに戸惑っているという。
 Nはそのまま振るうより、分離させたほうが使いやすい。だが、扱いは難しかった。

( ^ω^)(昼飯はとっくに食べたはずだお……じゃあ、いったいどこに……)

(´・ω・`)「ブーン」

( ^ω^)「お? ショボン大将?」

 後ろから肩を掴まれた。
 その手に、いつもの優しさが、他の感情と混ざりながらこもっている。

 振り返った。
 瞬間、全身に悪寒が走った。

 ショボンの表情が、かつてないほどに、暗然としていた。

(´・ω・`)「最悪の報せだ」
261 :第44話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/07(木) 23:17:31.29 ID:nfzcdcLm0
 木枯らしが窓を叩く。
 落ち葉が巻きあがって、やがて落ちていく。
 舞うように、ゆっくりと。

(´・ω・`)「オオカミに内通していた者が、発覚した。証拠を掴んだ」

(;^ω^)「ッ!?」

(´・ω・`)「信じたくはない……信じたくはないが……」

 言葉が、詰まる。
 張りつめた空気が圧し掛かる。

 ショボンが、その左手に、握りしめていたもの。
 それは――――。


(´・ω・`)「内通者はドクオだ」


 窓の震える音が、いつの間にか止まっていた。






 第44話 終わり

     〜to be continued

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