2 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/05/31(木) 23:56:56.14 ID:fbQmhRnI0
〜ラウンジの兵〜

●(`・ι・´) アルタイム=フェイクファー
41歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:ミーナ城付近

●( ’ t ’ ) カルリナ=ラーラス
27歳 大尉
使用可能アルファベット:N
現在地:エスカルティン城付近

●( ̄⊥ ̄) ファルロ=リミナリー
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ミーナ城付近
6 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/05/31(木) 23:57:57.45 ID:fbQmhRnI0
〜オオカミの兵〜

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
39歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:フェイト城付近

●| `゚ -゚| フィル=ブラウニー
34歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:ミーナ城付近

●《 ´_‥`》 ドラル=オクボーン
37歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:オリンシス城

●(ゝ○_○) リレント=ターフル
33歳 中将
使用可能アルファベット:N
現在地:オリンシス城

●〔´_y`〕 ガシュー=ハンクトピア
38歳 中将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城付近
10 名前:階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/05/31(木) 23:59:07.86 ID:fbQmhRnI0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/モナー
少将:ギコ/プギャー

大尉:ブーン/シラネーヨ
中尉:ビロード/イヨウ/ドクオ
少尉:ベルベット


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ビコーズ
少尉:

(佐官級は存在しません)
15 名前:使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:00:30.01 ID:ReUoYIDD0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:ベルベット
L:ドクオ
M:
N:
O:ブーン/ヒッキー
P:プギャー
Q:モナー/ギコ
R:イヨウ
S:
T:ジョルジュ/ミルナ/アルタイム
U:モララー
V:ショボン
W:
X:
Y:
Z:
19 名前:この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:01:28.26 ID:ReUoYIDD0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・ヴィップ 対 オオカミ
(マリミテ城〜オリンシス城)

・ラウンジ 対 オオカミ
(フェイト城〜ミーナ城)

24 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:03:05.14 ID:ReUoYIDD0
【第42話 : Runaway】


――ミーナ城属城・エスカルティン城付近――

 オオカミ城から三万、オリンシス城から一万の援軍が出る、という報せを受けた。
 総力戦だ。オオカミは、何が何でもフェイト城を奪い、ラウンジ軍を殲滅するつもりだ。

 アルタイムは、まだ帰ってきていなかった。

(;’ t ’ )「早く……早く!!」

 思わず叫んでしまっていた。
 早く引き返さなければ、手遅れになる。
 もし大将が討ち取られるようなことがあれば、国軍は壊滅状態になるのだ。

 ミーナ城からとはさほど離れていない。
 包囲さえしていなければ、夜までには戻ってこれるはずだ。

 だが、南のオオカミ城からの援軍。
 領内を駆けてくるのだから、到着は早いに決まっている。
 角逐の結末はどうなるか、全く分からない状態だった。

 すぐに北にも伝令を飛ばしたが、ミルナの軽騎兵二万のほうがフェイト城には早く着く。
 フェイト城までは山や森も多く、まだ一度しか駆けていないラウンジの伝令兵との間には、地の利の差があるのだ。

 エスカルティン城の守将に伝言を残し、すぐに兵をまとめて北に駆け出した。
 守将には、攻撃軍が戻ってきたら軍を併せて、即座に北へ戻るようにと伝えた。
 しかし、もし他の隊がエスカルティン城を狙っているとすれば、恐らく守将の命はないだろう。
31 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:06:08.99 ID:ReUoYIDD0
 全滅の危機に瀕していた。

(伝;`ロ´)「カルリナ大尉!」

 手が悴むほど寒い日だったはずだが、伝令兵は全身を汗で濡らしていた。
 自分も、汗こそ掻いていないが、焦燥と恐怖で熱気に満たされている。

(;’ t ’ )「どうなってる!? アルタイム大将は!?」

(伝;`ロ´)「アルタイム大将はオオカミ軍への攻撃を停止し、全軍を退却させています!
      ミーナ城は堅牢な守りに固められていてとても手出しできる状態ではありませんでした!」

 絶対に落とされぬよう、防備を万全にしていたのか。
 それは当然のことだが、この策を成功させるために、普段以上の守りを固めてきたということだろう。
 何もかもオオカミに上回られている。

(;’ t ’ )「とにかく早く北へ! コードギアス城を目指すようにと!」

(伝;`ロ´)「はっ!」

 再び伝令兵が駆けていった。
 危急のときは何もかもが慌ただしい。静止することもできない。
 しかし、ずっと走り続ければ兵も馬も潰れてしまう。

 タイミングを図りながら、ときどき休息を取った。
 焦りでとても気が休まらない。早く駆けなければ、という気持ちだけが先行してしまっている。
 耐えろ、耐えろ。無理して駆ければオオカミ城からの援軍の餌食になる。とにかく耐えろ、と自分に言い聞かせた。
37 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:08:57.35 ID:ReUoYIDD0
 オオカミは、本城から三万、オリンシス城から一万、ガシューとフィルが一万五千、合計五万五千で逃げるラウンジを追っているはずだ。
 北のオオカミ軍は二万。総計で七万五千を出している計算になる。
 明らかに限界を超えた数字だ。もしフェイト城を奪取できなかったら大変なことになる。

 それさえ覚悟で、ミルナは本城から出てきたのだ。
 オオカミを、あまりに侮りすぎていた。

 休息を挟みながら疾駆しつづけ、二日が過ぎた。
 フェイト城には向かわず、ひたすらコードギアス城を目指している。
 恐らくフェイト城は陥落するだろう。現状で守りきれるはずがない。

 そして翌日、予想通り、フェイト城陥落の報せが来た。

(;’ t ’ )(くそっ……!!)

 シッティムは呆気なく投降したという。やはりあの老いぼれに任せたのは間違いだった。
 捕虜になっただろうか。面倒なことになるよりは、首を落とされているほうがまだ良かった。

 これでオオカミは一万の兵を加えて、八万五千となった。
 ヴィップの備えとして東に置いてきた一万がどうなったかは分からない。
 伝令がまともに機能していれば北へ逃げているはずだが、最悪、フェイト城に戻ってしまっていることも考えられる。

 もしその一万までオオカミが加えたとしたら、九万五千。
 ラウンジ軍は、六万を切ることになるのだ。兵力で完全に逆転される。
 そして何より、コードギアス城に帰るためには、トーエー川を渡渉しなければならない。

 そのときこそ、全土最強のオオカミ水軍が牙を剥く。
 抗う術は、ないに等しい。
44 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:12:43.35 ID:ReUoYIDD0
 今の問題は、トーエー川でもたついている間に、背後を突かれる危険性だった。
 既にフェイト城よりは北に来ているが、アルタイムの部隊はまだフェイト城から近いはずだ。
 出撃してこないことを祈るほかなかった。

 翌日、アルタイムの騎馬隊が合流した。

(;`・ι・´)「すまん……完全に俺の失策だ」

(;’ t ’ )「今はよしましょう、アルタイム大将。責めることはいつでもできます」

(;`・ι・´)「……そうだな」

(;’ t ’ )「それよりも、歩兵隊です。ファルロが率いているのですか?」

(;`・ι・´)「そうだ。オオカミの援軍に、もう追いつかれる」

(;’ t ’ )「……やはり、逃げきれませんか」

(;`・ι・´)「カルリナ、俺は少し戻ってオオカミを迎え撃つ。歩兵隊を見殺しにはできん」

(;’ t ’ )「なりません。ファルロはアルタイム大将を生かすために戦うのですから」

(;`・ι・´)「俺が率いてきた騎兵を使えば、被害を抑えられるはずだ」

(;’ t ’ )「逆です。アルタイム大将と騎馬隊が逃げるほうが、総合的な被害は軽く済みます」

(;`・ι・´)「……どちらにせよ、トーエー川で必ず追いつかれる。俺達だって生き残れるとは限らん」
48 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:15:28.45 ID:ReUoYIDD0
 かなり微妙なところだった。
 アルタイムの意見にも確かに一理ある。
 しかし、確実に大将が生き残れるのは、一人で先に逃げる道だ。

 被害では双方に差はないかも知れない。
 ならば尚更、アルタイムには生き延びてもらわなければならない。

(;’ t ’ )「私が行きます、大将。最大限、抗ってみせます」

(;`・ι・´)「バカを言うな、それこそありえん。お前は、ラウンジの未来そのものなんだぞ」

(;’ t ’ )「国軍の大将を失って、未来も何もありません」

(;`・ι・´)「お前はラウンジの天下に欠かせない存在なんだ。それくらい分かれ!」

(;’ t ’ )「……私は、自分の考えを曲げるつもりはありません」

 こんなときに、意見が対立してしまった。
 考える時間など寸分たりとも余っていないというのに。

 そのとき、南から伝令兵がやってきた。
 南西ではなく、南東。オオカミに奪還された、フェイト城の方面からだった。

(伝;-ム-)「御報告申し上げます。ヴィップ方面に割いていた一万の兵は、オオカミ軍に降伏しました」

(;`・ι・´)「くっ……!」

(;’ t ’ )「……捕虜を使われたのですね?」

(伝;-ム-)「はい。降伏しなければシッティム中将の命はない、とミルナが……」
55 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:18:19.67 ID:ReUoYIDD0
(;`・ι・´)「……相当、マズイことになっているな……」

 これで、オオカミの九万五千が確定した。
 兵力差、三万五千。
 しかもフェイト城に蓄えていた兵糧は、まるごとオオカミの手に渡っている。

 オオカミは、じっくりラウンジを潰せばいい、という状況になっていた。

(`・ι・´)「……来たぞ!」

 アルタイムが叫んだ。
 振り返る。兵の姿が微かに見える。
 ファルロが率いている兵だ。

 アルタイムは攻撃軍に五万を率いていき、二万で戻ってきた。
 つまり、ファルロは三万を連れて逃げていることになる。

 ラウンジのすぐ背後に、オオカミは迫っていた。
 交戦している。しんがりが攻撃を防ぎつつ、後退している形だ。
 しかし、その戦法は、広い原野では通じない。

 オオカミが包み込むように兵を展開させてきていた。
 指揮官は、フィル=ブラウニー。野戦では抜群の力を見せる武将だ。
 さすがに、追撃戦も上手い。

(`・ι・´)「戦うぞ、カルリナ。戦って、攻撃を防ぎながら逃げる」

( ’ t ’ )「……はい」
60 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:20:58.52 ID:ReUoYIDD0
 もう、それしかない。
 どちらにせよ、皆が瀬戸際に立たされているのは間違いないのだ。
 ならば、戦ったほうがいい。ラウンジの力を見せつけたほうがいい、と思えた。

 追うオオカミ軍、五万五千。
 すぐにフェイト城からも、ミルナの軽騎兵二万が迫ってくる。
 それに対し、逃げるラウンジ軍、六万弱。

(#`・ι・)「怯むな! 身命を賭して戦え!」

 アルタイムの発破で全軍が活気づいた。

 ファルロ率いる三万を押し包もうとしていたオオカミ軍の、側面を突く。
 そしてすぐに逃げ出す。猛烈な追撃があったが、防ぎつつ後退した。
 一度崩し、徐々に撤退する。遅々とした逃亡になるが、犠牲を抑えるには、これしかない。

 しかし、この方法も長くは使えなかった。

( ゚д゚)「覚悟はいいか?」

 ミルナの軽騎兵が、追いついてきた。
 一部は城に残してきたようだが、それでも一万か一万五千はいる。
 元ラウンジの兵も解体して組み込んであるようだ。

 軍が、崩れていく。
 オオカミ軍の猛攻。防ぎきれない。
 次々と倒れていく兵。

(#`・ι・)「嘗めるな!!」
68 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:23:47.22 ID:ReUoYIDD0
 騎馬隊を率い、敵軍を掻き乱すアルタイム。
 振るわれるアルファベットはT。リーチではIにも引けを取らない。
 何より、その破壊力はやはり下位とは比べものにならなかった。

 アルタイムは奮戦しているが、状況が、あまりに不利すぎる。
 後ろに回られないよう注意しながら、下がってくしかない。
 あまりに難しいことだ。

 弧を描くような形で陣を展開させているオオカミ。
 包囲されぬよう、いびつな隊形となっているラウンジ。
 やはり難しいのはこちらだ。兵を上手くコントロールできていない。

(;’ t ’ )「離れ過ぎるな! 確実に後退しろ!」

 大声で叫ぶも、あまりに多くの音がありすぎて、どこまで届いているか分からない。
 喉が焼けるような痛さで、声は嗄れている。
 ずっと駆け続けた疲労で視界が霞む。全身が重い。

 冬の訪れを告げるような風が吹き荒んでいた。
 寒さはない。ただ、体を叩き起こすような強風だった。

 指揮官が倒れてどうする。
 そんなベルの声が聞こえた気がした。

(;’ t ’ )(……私はまだ未熟者です……生き延びて、これからも……
     ……あなたを超えるべく精進しなければなりません)

 語りかけるように。
 ひたすら、自分に言い聞かせた。
77 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:26:36.18 ID:ReUoYIDD0
(#゚д゚)「ふんっ!」

 ミルナのTが縦横無尽に動き回る。
 そのたびにラウンジの兵の首が飛んでいく。悔しさで身が弾けそうになる。

 とても最近まで病に苦しんでいたとは思えない動きだ。
 それさえ、虚偽だったというのか。

(;’ t ’ )(ダメだ……このままじゃ……!)

 既に五千は討ち取られただろう。
 この短時間で、五千。被害が万に及ぶのも遠くない。

 このままでは、半壊に近い打撃を受ける。
 分かっていたことだが、実際、目の当たりにすると言い知れない恐怖に襲われた。
 今回の戦に参加しているのは、ラウンジの主力部隊なのだ。

 危険な賭けに、打って出るしかないと思った。

(;’ t ’ )「鉦を!」

 アルタイムの承認は得ていない。
 しかし、猶予など寸分もないのだ。
 全ての責任は取る。首でも何でもくれてやる。

 鉦を連続で六回、鳴らさせた。
 血で塗れた戦場に、甲高く響く。
 ラウンジの兵がざわつき、しかし整然と動きだした。
87 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:29:39.99 ID:ReUoYIDD0
 百人の上に、一人ずつ隊長をつけている。
 その隊長に指揮権を預け、散らばらせるための鉦だ。

(;’ t ’ )(下手すれば全滅だ……でも、上手くいけば被害はかなり軽く済む……)

 あとの問題は、アルタイムだった。
 何とか生き延びてもらわなければならない。

 ミルナが率いてきた兵の中には、元ラウンジの兵が混じっているはずだ。
 鉦の意味はすぐに知れ渡るだろう。
 しかし、この戦場で全軍に伝えるのは容易ではない。

 ミルナさえ抑えられれば。
 せめて足止め、せめて一撃。
 僅かでも乱すことができたら、アルタイムが生き延びれる可能性は高まる。

 そのとき、不意にミルナの前を、銀の線が横切った。

( ゚д゚)「ッ……」

(# ̄⊥ ̄)「はっ!」

 ファルロが、ミルナの目の前に現れた。
 後ろには歩兵。ミルナの軽騎兵隊を、抑え込むことだけに専念している。
 そしてミルナ自身には、ファルロが当たっている。

 よせ、ファルロ。
 叫んだが、届いているはずはなかった。

( ゚д゚)「死ぬ気か、ベルの息子よ」
99 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:32:43.28 ID:ReUoYIDD0
 ミルナのTが鋭く振られた。
 ファルロが身を沈めて躱し、反撃に出る。
 だが、アルファベット捌きでミルナに勝てる者は、そうはいない。

 素早く槌で防がれ、弾かれた。
 攻撃と攻撃の間に、ほとんど隙がないミルナ。
 刃がファルロの首を狙う。

 寸でのところでファルロは攻撃を受け止めた。
 アルファベットに差がある。T対N。
 まともに受け続ければ、いずれ破壊される。

 本当に、死ぬ気なのか。
 ファルロ=リミナリー。

(;’ t ’ )「……くっ……」

 死ぬな。
 それだけを願って、目を逸らした。
 アルタイムの許へ駆ける。

 アルタイムは敵の追撃を往なしながら後退していた。
 兵が目に見えて減っている。時間が経つにつれ、兵力差は徐々に広がっていた。

(;’ t ’ )「ファルロが抑えてくれています、一刻も早く」

(;`・ι・)「……あぁ……」

 悔しさが表情に滲み出ていた。
109 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:35:51.05 ID:ReUoYIDD0
 大将を生かすために、ファルロは奮戦しているのだ。
 分かっているからこそ、アルタイムは逃げる選択をせざるを得ない。

 ファルロを助ける、と言い出さないか不安だったが、アルタイムは背を向けてくれた。
 兵は散らばりはじめている。敵の攻撃は、上手く分散しているようだ。
 あとはコードギアス城まで逃げきってくれることを願うしかなかった。


 やがて数刻が経ち、原野は疎らに人が見れる程度となった。
 すっかり夜の帳が降りている。敵軍の追撃も勢いは弱まっていた。

(;’ t ’ )「ハァ、ハァ……」

 騎馬隊を率い、ひたすら駆け続けた。
 夜になって敵軍は標的を失い、戸惑っているはずだ。
 しかし、まだ安心はできない。朝までに一里でも遠く離れる必要がある。

 夜通し駆け続け、空が白みだすころ、森の中に入って休息を取った。
 オオカミがどこまで迫っているかは分からない。
 先で待ち伏せされている可能性もある。

 自分は二千を率いてここまで来た。
 直下の近衛騎兵隊として率いていた部隊だ。
 運良く逃げられた、と言っていいだろう。

 他の部隊、特に歩兵は、撤退がかなり難しかったはずだ。
 討ち取られた数も、少なくはないだろう。

 冷静に、戦のことを思い出した。
122 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:39:02.95 ID:ReUoYIDD0
 そもそも、間違っていたのはミーナ城攻めだ。
 オオカミ城に近い城。つまり、ミルナに近い城でもあったのだ。

 オオカミ城からミルナが出てくることを、もっと警戒すべきだった。
 病で戦に出れない、という情報を鵜呑みにし、侮っていたのだ。
 自分にも、アルタイムにも、油断があったと言わざるを得ない。

 敵の情報は常に調べ続けろ、とベルは言っていた。
 またひとつ、教えを実行できなかった。

 太陽が角度をつけ始めたころに、再び駆け出した。
 敵軍が迫っている様子はない。森が多くなって、上手く索敵できていないことも関係しているのだろう。
 しかし、それはラウンジにとっても、敵の接近を容易に把握できない、ということだ。

 戦が始まる前に地図を頭に入れておいたおかげで、どこを駆けているかは分かる。
 この調子なら、再び夜になるまでにはトーエー川に着くはずだ。

 撤退するときのために、トーエー川には船を残してきた。
 無事を祈るしかない。オオカミに狙われていたら、抗えずに撃沈しているだろう。
 北西のヒダマリ城から船が遡上してきている可能性は充分にあった。

 夕方になっても敵軍は現れず、やがて闇が深まりはじめた頃、トーエー川の流れが見えた。
 川を辿って東へ向かう。暗くてもトーエー川の水の濁りは変わらずに見えた。

 陸に繋ぎとめられた船を発見した。
 間違いなく、ラウンジの船だ。

(;’ t ’ )(……いや、乗員までは分からない)
133 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:41:55.62 ID:ReUoYIDD0
 オオカミに先回りされていて、船を奪還されている可能性もある。
 乗り込んだ瞬間に全滅するかも知れない。

 陣を構えたまま、待った。
 水の流れる音が夜の静寂の中で佇み、闇夜を月光の反射で打ち消す。
 トーエー川を暫し眺めて、一刻ほど経過したとき、船の中から人が現れた。

( ’ t ’ )「……良かった……」

 ラウンジの仲間だった。
 見覚えのある顔ぶれが、何度も心配そうに状況を訊ねてくる。
 初めて少しだけ安堵できたときだった。

 その後も続々とラウンジの兵が集まってきた。
 傷付き、アルファベットを失っている者も多い。
 だが、思っていたよりは生き残っている。

 次の朝になって、アルタイムも数百の手勢を率いて現れた。

( ’ t ’ )「ご無事でしたか……安心致しました」

(`・ι・´)「……俺は、無事だが……」

 アルタイムも、数千を率いていたはずだ。
 しかし、今は明らかに千を切っている。
 アルタイムの部隊はオオカミも集中的に狙ってきた。それゆえに、だろう。

 だが、嬉しい誤算ではあるが、生存者が多すぎる。
 最初にいた兵は八万。そのうち二万はオオカミに接収された。
 残りの六万のうち、半分が戻ってくればいいほうだと思っていた。
141 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:45:04.82 ID:ReUoYIDD0
 しかし、既に二万を超える兵が集まっている。
 まだこれから歩兵の多くが集うはずだ。最終的には、四万を超えるかも知れない。
 要因は、オオカミの追撃が手緩かったことだ。

(`・ι・´)「どうやらヴィップがオリンシス城を攻めたらしい」

 手負いの兵の治療と、対岸への脱出の準備に追われる中で、アルタイムが教えてくれた。
 オオカミは二つの戦線を抱えている。うち一つは大勝したが、もう片方の情勢はかなり逼迫していた。

 オリンシス城が落ちれば、ヴィップもオオカミ城を臨める体勢になる。
 武勇国家であるヴィップなら、電撃戦を展開し、ほとんど兵の残っていないオオカミ城を一気に狙うことも考えられた。
 オオカミ城が陥落すれば、実質的にオオカミは滅亡するのだ。オリンシス城を狙うヴィップを放っておけるはずがなかった。

( ’ t ’ )「……確かオオカミはオリンシス城から一万の兵を出しましたね」

(`・ι・´)「あぁ、あれが失敗だったのだろうな。オリンシス城はかなり手薄になった」

( ’ t ’ )「もしかしたら、ヴィップは情報を正確に得ていなかったのかも知れません。
    いかにオリンシス城が手薄になったとしても、最大国ラウンジの大将が危機なら、城を狙うかどうかは微妙なところです。
    手は出さずに放置しておいて、アルタイム大将が討ち取られるほうがヴィップにとっては確実かつ幸運かと」

(`・ι・´)「その通りだ。恐らくヴィップは、オオカミがミーナ城戦で不利だという情報を得ていた。
      そしてオリンシス城から一万の援軍が発った。それを、ミーナ城に向けたものだと思ったのだろうな。
      実際には、ラウンジ軍を追い詰めるための援軍だったわけだが」

( ’ t ’ )「何にせよ、助かりましたね」

(`・ι・´)「……あくまで、俺達は、だ」

 アルタイムが川面に目をやった。
149 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:48:21.76 ID:ReUoYIDD0
 濁ったトーエー川の水は、穏やかに東から西へと流れている。
 冬の風に煽られ落ちた枯れ葉が、何枚も水面に浮かんでいた。

(`・ι・´)「オーガナ=スウィーシャー中尉は討ち取られたらしい……ディク=ショナリー少尉も戦死の報が入っている……。
      それに……イアン=フラジャイル少将も、フィルに首を飛ばされたのを見たという兵が何人かいる……」

 ほとんど無傷の自分とアルタイムの状態が、信じられないほどだった。
 これほど将校が討ち取られる戦が、ラウンジの華々しい戦史の中で、かつてあっただろうか。

 自分の力不足を、嘆くことすら許されない気がした。

(`・ι・´)「……それに……ファルロだ……」

 ファルロの生死は、まだ確認されていなかった。
 ミルナの部隊を相手に、ミルナが怯むほどの抵抗を見せたという。
 だが、その後どうなったかは分からない。上手く逃げた、といった情報を持っている兵はいなかった。

( ’ t ’ )「……待ちましょう……船で全軍を北に戻すまでに、あと三日は待てます」

(`・ι・´)「それ以上は、危険だな……」

( ’ t ’ )「はい。ヴィップ方面の情勢が落ち着いたら、オオカミは再び軍を向けてくるでしょう」

(`・ι・´)「……待つしかないな……」

 それから二人で情報の整理にあたった。
 生存情報や戦死情報だけでなく、オオカミの状態、ラウンジ兵の生き残りについてなど、あまりに多くの情報が錯綜していた。
 まとめあげるのも容易ではない。
166 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:51:57.36 ID:ReUoYIDD0
 まだ戦えるだけの気力を持った者を選別して、隊を整えた。
 南に向けて構えさせ、オオカミの追撃に備える。
 今のところ、オオカミが大軍で北に向かっているという情報はなかった。

 雀の涙ほどしかない兵糧に熱を通して、少しでも多くの兵の口に入るよう、分け与えた。
 水も数口飲めば枯渇するほどしかない。衛生面に気を配り、煮立てて配分した。
 こんなときだからこそ、慌てずに普段通りやらなければならないのだ。

 やがて一日が過ぎ、二日が過ぎた。
 戻ってくる兵が疎らにいた。既に兵は三万を超えている。
 しかし、本城から率いてきた兵が八万だったことを考えると、あまりに手痛い打撃を受けていた。

 それでも、皆が死力を尽くしてくれたおかげで、全滅は免れている。
 むしろ、予想より多いくらいの生存者がいてくれた。
 行方が知れなかった将校も何人か帰ってきてくれている。

 しかし、ファルロの姿は未だに見えない。

( ’ t ’ )(……ファルロ……)

 やがて、三日目の夜になった。
 船は既に半数の兵を対岸へと運び、また戻ってきている。
 そして、南から再びオオカミが進軍してきている、という情報が入った。

( ’ t ’ )「……いきましょう……アルタイム大将……」

(`・ι・´)「…………」

 最後の船が離岸した。
178 名前:第42話 ◆azwd/t2EpE :2007/06/01(金) 00:54:53.71 ID:ReUoYIDD0
 アルタイムと二人でずっと、名残惜しむようにずっと、岸辺を見ていた。
 やがて視界は虚無と移ろっていき、誰もいない岸辺も、闇の中に溶け込んでいった。




















 第42話 終わり

     〜to be continued

戻る

inserted by FC2 system