3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:34:27.95 ID:rRYRftJx0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
23歳 大尉
使用可能アルファベット:N
現在地:マリミテ城付近・間道

●('A`) ドクオ=オルルッド
23歳 少尉
使用可能アルファベット:K
現在地:マリミテ城付近・砦

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
33歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:マリミテ城付近・本道

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
28歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:マリミテ城付近・本道

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
31歳 少将
使用可能アルファベット:Q
現在地:マリミテ城付近・本道

4 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:35:23.26 ID:rRYRftJx0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
29歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:シャッフル城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
26歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:マリミテ城付近・本道後方

●(=゚ω゚)ノ イヨウ=クライスラー
32歳 中尉
使用可能アルファベット:R
現在地:マリミテ城付近・本道後方

●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
48歳 中将
使用可能アルファベット:Q
現在地:パニポニ城

●(‘_L’) フィレンクト=ミッドガルド
30歳 少尉
使用可能アルファベット:I
現在地:マリミテ城付近・間道

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
22歳 マリミテ城戦・ブーン大尉配下部隊長
使用可能アルファベット:J
現在地:マリミテ城付近・間道
9 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:36:37.75 ID:rRYRftJx0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
38歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:名もなき城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
39歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ハルヒ城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
42歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
35歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヒグラシ城
12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:37:39.85 ID:rRYRftJx0
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
37歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
37歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
16 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:38:50.21 ID:rRYRftJx0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/モナー
少将:ギコ/プギャー

大尉:ブーン/シラネーヨ
中尉:ビロード/イヨウ
少尉:ドクオ/フィレンクト


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ビコーズ
少尉:

(佐官級は存在しません)
19 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:39:57.12 ID:rRYRftJx0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:フィレンクト
J:ベルベット
K:ドクオ
L:
M:
N:ブーン
O:プギャー/ヒッキー
P:
Q:モナー/ギコ
R:イヨウ
S:アルタイム(ラウンジ)
T:ジョルジュ/モララー/ミルナ(オオカミ)
U:
V:ショボン
W:
X:
Y:
Z:
24 :この世界の単位 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:40:58.52 ID:rRYRftJx0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

31 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:42:54.15 ID:rRYRftJx0
【第40話 : Request】


――マリミテ城付近・間道――

 咆哮をあげて斬りかかった。
 ガシュー=ハンクトピア。オオカミの中将。
 使用アルファベットは、O。

 構うか。

(#;ω;)「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 アルファベットの衝突。
 分断して両手に構えたNを、左右から振るった。
 ガシューを覆うようにして出されたOに防がれる。

(#;ω;)「ベルベット!!」

( <●><●>)「分かってます」

 隻腕となったフィレンクトを抱えさせた。
 夥しい出血。生きていられるか、分からない。
 考えたくもない。

 とにかくこいつを、殺してやる。
 それしか今は考えられなかった。

(ゝ○_○)「少尉の腕がなくなったくらいで喚くとは……若いな」
39 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:46:05.96 ID:rRYRftJx0
 リレントがMでFを放ってきた。
 瞬時に斬り砕く。アルファベットの扱いは下手だ。怖さもない。
 ガシューも決してアルファベットを得手としている武将ではない。

 いける、討ち取れる、と確信した。

( <●><●>)「退却です、ブーン大尉」

 冷静さの篭った大声を、ベルベットが発した。
 二人とも討ち取ってやる。悲憤のみに支配された頭と腕。
 それを、宥めるように。

( <●><●>)「ここは勝てません。退却しなければなりません」

 瞋恚の炎に言葉を塞がれていた。
 冷静でないのは、自分でも分かっている。
 だからこそ、素直に理解できない。

( <●><●>)「あなたの怒りのために、何人の兵を犠牲にするつもりですか」

(;^ω^)「……!!」

 その一言で、やっと冷静になれた。
 例え中将を討ち取ったとしても、配下の兵は壊滅的な打撃を受ける。
 そもそも、この寡兵の状態で、中将を討ち取れるかどうかも分からないのだ。

 すぐに退却の指示を出した。
 ベルベットだけは先に駆けさせる。追撃を絶って。
 何とか砦まで辿り着いてもらわなければ。
46 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:48:49.36 ID:rRYRftJx0
 こちらも、必死だった。
 フィレンクトの配下だった兵もまとめ、本道へと戻る。
 林を間道と逆方向に駆ければ、出れるはずだ。

 だが、オオカミの軍との間には、まったく距離がない。

(ゝ○_○)「逃がすか」

 リレントが手当たり次第にFを放ってくる。
 同時にガシューがオオカミ軍をまとめあげ、動かした。
 いかに無能と騒がれていても、中将。戦が下手なはずはなかった。

 そして、オオカミ軍の背後を攻め立てるヴィップ軍。

 自分の指示ではなかった。
 G隊が、猛然と襲いかかっている。

(#><)「とにかく攻めるんです! 追い払うんです!」

 ビロードが救援に来てくれた。
 際どいタイミングだったが、助かった。

 オオカミ軍も後退を始めた。
 これでお互い、退却。間道での戦は終わる。
 本道の戦がどうなっているかは、まったく分からなかった。

(;^ω^)「ビロードさん! ベルベットは!?」

(;><)「ベルベット? 見てないんです! それよりフィレンクト少尉は……」
57 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:52:16.27 ID:rRYRftJx0
(;^ω^)「フィレンクトさんをベルベットが連れて逃げましたお! 砦に向かったはずですお!」

(;><)「とにかく本道に向かうんです! 伏兵がバレてヴィップは不利なんです!」

 木々の間を必死で駆けた。
 林を抜ければ本道に着く。両軍が戦っているはずだ。
 兵数では上回っているが、策が破られている。影響は小さくない。

 一刻ほど駆けつづけて、ようやく抜け出した。
 両軍の衝突は、さらに遠い。押しているのはヴィップだ。
 大軍の利を的確に活かし、敵軍を押し込んでいる。

 だが、先に間道から本道に戻った一万が、ヴィップを攻め始めた。
 一万の援軍は辛い。互角になり、やがて押し返される。
 しかしそのころには、こちらも戦に加われた。

 オオカミ軍の後方から、鉦の音が響いた。
 退却するようだ。

 追撃はなし。退却は、ヴィップにとってもありがたいことだった。

 慌ただしく軍がまとめられ、情報が整理された。
 フィレンクト重傷の報は、すぐに知れ渡った。
67 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:55:19.40 ID:rRYRftJx0
――七日後――

――エヴァ城――

 ヴィップ軍はマリミテ城を囲んだ。
 兵站を絶って城を放棄させる作戦に出たのだ。

 北のオリンシス城からの水軍による輸送も、マリミテ城に入れなければ意味がない。
 元より疲弊していたオオカミ軍だ。腰を据えて戦われるのを嫌がっているはずだった。

 ショボンは短期の決着を求めていたようだが、五度目の戦に勝てなかったことで、仕方なく攻城戦に切り替えた。
 時間はかかるが、確実な方法だ。野戦のみで打ちのめせれば良かったが、易々と思い通りにはいかない。

 自分のせいでもあるのか、と思った。

(‘_L’)(……ショボン大将は……もうすぐか……)

 正午ごろ、部屋を訪れる予定になっていた。
 今後のことで話があるという。

 七日前の戦で、伏兵部隊を率いて、敗れた。
 オオカミに見破られ、背後を攻められたのだ。

 すぐにブーンが助けに来てくれた。
 しかし、敵軍に為す術もなく押されており、限りなく危機的だった状況。
 オオカミの中将、ガシュー=ハンクトピアまで迫っていた。

 右腕が消え、そこで意識を失った。
 目覚めたのは二日前。ずっと生死の境を彷徨っていたらしい。
 皆が心配して、毎日様子を見に来てくれたという。
77 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 00:58:18.60 ID:rRYRftJx0
 扉が二度、叩かれた。
 開かれても光が射し込むことはない。ショボンの巨体に遮られていた。

(´・ω・`)「具合は」

(‘_L’)「良好です」

(´・ω・`)「……一昨日や昨日に比べれば、ということか」

 扉の閉まる音が耳に残った。
 寝床の近くに置かれた椅子に、ショボンが腰掛ける。
 大きめの椅子がショボンには合うようだ。

(´・ω・`)「回りくどく言ってもしょうがない。単刀直入に、お前の考えを聞こう」

(‘_L’)「……はい」

(´・ω・`)「今後、軍人として生きるか、一般人として生きるか。二つに一つだ」

 思った通りの言葉だった。
 ならば答えを用意していて当然だ。

 しかし、用意できていない。
 できなかった、といったほうが正確だった。

(‘_L’)「……正直に申しまして、迷っています」

(´・ω・`)「そうだろうな……念願の将校になったと思った矢先だったからな……」

(‘_L’)「軍人に未練は、あります」
81 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:01:17.63 ID:rRYRftJx0
(´・ω・`)「だが、片腕でアルファベットを振るうのは困難だ……その葛藤に苦しんでいるんだろう?」

(‘_L’)「はい……」

 ショボンが空になった杯に水を注いでくれた。
 礼を言って飲み干す。ちょうど喉が渇いていたのだ。
 大柄な体格に似合わず、微妙な所作で相手の心情を図れる繊細さも持っている。

(´・ω・`)「昔話になるが、ハンナバル総大将の時代に、セシル=ヒレンブランドという将校がいた。
      セシルはアルファベットLを扱う武将だったんだが、戦で片腕を失ったんだ。
      だが武人として生きることを選び、その後も戦場に立ち続けた」

(‘_L’)「……お名前は聞いたことがあります。隻腕の武将でしたか……」

(´・ω・`)「セシルはハンナバル総大将が逝去する少し前に自主退役したが、腕を失ってからも昇格さえ成し遂げた。
      だが――――周りからは嫌がらせも受けたそうだ。腕がない者に対しては気が引けるからな、鬱陶しく感じたようだ」

 懸念している部分は、そこだった。
 どうしても、周りに迷惑をかけてしまうのだ。

 自分の気持ちだけを考えれば、まだ戦場に立ちたい。
 ずっと願いつづけた将校になれた。指揮を執って戦えた。
 まだこれから先、成長していける。武人として生きていける。

 そう思っていた。信じていた。

 嫌がらせを受けたり、陰口を叩かれりするのは、耐えられる。
 だが、周りの助けを必要とし、結果迷惑をかけるとすれば、ただの傲慢な男だ。
 それは果たして、武人としてあるべき姿なのか。
96 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:05:57.51 ID:rRYRftJx0
(´・ω・`)「セシルは戦場に立つことを選んだが……お前も知っての通り、腕や足を失った兵はほぼ全員、一般人に戻る。
      正確には、一般人に戻す。兵卒なら、体の一部を失ってまで戦場に立たれても邪魔なだけだ。
      だがお前は違う。いずれ東塔の軸を担うとの期待を負った、将校だ」

(‘_L’)「……迷惑をかける点では、一緒です」

(´・ω・`)「役割が違う。例えば将校なら、指揮を執るだけで充分、軍の力になる。
      お前はアルファベットの才はなかった。恐らく健常でもJの壁は越えられなかっただろう。
      そう考えると、指揮執りだけでも貢献の度合は大差ないかも知れん」

 遠慮もなく、事実のみを淡々と伝えてくれるのは、ありがたかった。
 気分は落ち込むものの、冷静に今後のことを考えられる。

(´・ω・`)「だがお前には妻子もいる。郷里でお前の帰りを待っているんだろう?
      負傷して戦えなくなった兵の生活は最低限保障される。腕を失ったとしても、生きていける。
      将校なら妻子を養うには充分すぎるほどの保障が得られるはずだ」

(‘_L’)「……妻子のことも、確かに考えました」

(´・ω・`)「戦場に立つ決断を下した場合、以前より戦死する可能性はずっと高まる。
      妻子を悲しませることにもなる。それでも武人を貫くという決断も、無論あるが」

 どちらかを勧める、といった口ぶりではなかった。
 双方の利点を挙げたうえで、よく考えて判断してくれ、とショボンは思っているのだろう。

 寛大な大将だった。
106 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:09:32.31 ID:rRYRftJx0
(´・ω・`)「どちらを選んだとしても、俺はお前を支持する。お前の人生だからな。
      自分が思ったとおりの決断をしなければ、死ぬまで後悔することになるぞ」

(‘_L’)「……はい」

(´・ω・`)「俺からの話は以上だ。最後に、セシル=ヒレンブランドについてだが……
      俺はセシルが去ってから入軍した。本人がどういった軍人だったかをよく知らない。
      それを知っているのは、いまエヴァ城にいる武将ではジョルジュ大将だけだ。
      セシルについて語って下さるよう、お願いしてある。後で訪れてくれるそうだ」

(‘_L’)「何から何まで、ありがとうございます」

(´・ω・`)「辛いだろうが、よく考えて決断してくれ。悔いだけは残さないようにな」

 ゆっくりと立ち上がり、最後にまた杯を水で満たして、椅子に置いてくれた。
 ショボンが立ち去ってからは、再び考え始めたが、頭の中が靄がかっているような感覚があった。



――エヴァ城・廊下――

 フィレンクトの部屋を出てから、しばらく呆然としていた。
 どちらを選ぶのかは、考えても分からない。
 いま自分が考えるべきことは、他にあった。

(´・ω・`)(……何故、伏兵がバレたんだ……?)

 七日前の戦で、フィレンクト率いる伏兵部隊が、オオカミに発覚していた。
 事前に発覚していたのだ。当日、戦況を見てオオカミが伏兵を見破ったのではない。
 でなければ、一万の大軍を林の中に入れることなど、できるわけがない。
117 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:12:55.25 ID:rRYRftJx0
 あの伏兵策を知っていたのは、東塔の将校。
 そして、ジョルジュ=ラダビノード。
 それ以外には、ありえないのだ。

(´・ω・`)(……こんなことは今までなかった……なのに、ジョルジュ大将が来た途端に……)

 ジョルジュなのか。
 見張りは一応つけていたが、それを掻い潜って、オオカミに情報を漏らしたのか。

 いや、そんなはずはない。
 元オオカミの将軍であることは皆が知っている。
 これほど疑わしい状況でオオカミと内通すれば、真っ先に嫌疑をかけられるのは分かっているはずだ。

(´・ω・`)(バカなことを考えるなよ……もしジョルジュ大将がオオカミと内通していたら、ヴィップは滅びかねないぞ……)

 考えたくもないことだ。
 だが、先日の皇帝位問題で、辞退すると伝えてもジョルジュは受け入れなかった。
 辞退を受け入れれば、東塔に協力せざるを得ない状況で。

 信じたいが、疑いを捨てるのは危険だ。
 もはや疑義を抱くのも失礼、などと言える状況ではなくなっている。

 単身、東塔の中に入り、軍議にも参加しているジョルジュ。
 怪しむべき人物だが、状況的には不自然だ。疑われることが分かっていて実行する人などいるだろうか。

 逆に、不自然すぎる状況だからこそ、あえて実行したという可能性もある。
 この場合は、相当危険な賭けに出ていることになる。ジョルジュという合理的な人物を思えば、考えにくいことだ。

 ちょうどそのとき、廊下の向こう側から、ジョルジュが歩いてきた。
 病の経過は良好だというが、まだ油断はできないとして、城に留まっている。
122 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:16:11.09 ID:rRYRftJx0
(´・ω・`)「わざわざすみません、よろしくお願いします」

( ゚∀゚)「……あぁ」

 相変わらず素気ない態度だった。
 こちらに視線を向けることもせず、部屋の扉を開き、中に消えて行った。



――フィレンクトの部屋――

(‘_L’)「申し訳ありません……療養中のところを……」

( ゚∀゚)「お前に比べりゃマシさ」

 側に置かれた椅子はやはり大きめなのだと思った。
 ジョルジュが座ると僅かに余りがある。

 病を得ているようだが、良好という情報通り、顔色は悪くないようだ。
 こちらの顔色は、分からない。

( ゚∀゚)「痛むか?」

(‘_L’)「正直に申しまして、眠れないほどに」

( ゚∀゚)「そうか……」

 一瞬目を伏せた。
 最近、ジョルジュが何かを考えるかのように目を伏せるのを、よく見る。
 長いときもあれば、短いときもある。
134 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:20:04.66 ID:rRYRftJx0
( ゚∀゚)「セシル=ヒレンブランドの話、だったな……」

(‘_L’)「はい、お願いします」

( ゚∀゚)「俺が入軍したときは、大尉だった。上官だったな」

 語り口は淡々としていて、感慨が込められている風でもない。
 あまり思い出深い話でもないようだ。

( ゚∀゚)「ラウンジとの戦で利き腕を失い、それでも戦場に立つことを選んだ。
     アルファベットも振るった。残念ながらいくつか下がってしまったがな」

(‘_L’)「やはり、アルファベットの腕は落ちますか……」

( ゚∀゚)「α成分は人間とリンクする不思議な成分だ。五体不満足になれば当然、使用アルファベットは下がる」

(‘_L’)「鍛練次第では、どうでしょうか」

( ゚∀゚)「分からん。もし維持しようと思うなら、相当の努力が必要だろうな」

(‘_L’)「……私はアルファベットに才のない人間です。不安のほうが、多くあります」

( ゚∀゚)「そりゃそうだ。これから先、生きてけるかどうかも分かんねーのに」

(‘_L’)「セシル氏はまだご存命ですか?」

( ゚∀゚)「そのはずだ。もう五十をいくつか越えてると思う。
     セシルは並はずれた精神力で戦場に立ち続けたが、最後は限界を感じて軍を去った」
142 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:23:04.95 ID:rRYRftJx0
 限界。
 やはり、片腕で戦い続けることには、限界があるのか。
 分かっていたことでも、言葉にして聞くと、教えられたような気分になった。

( ゚∀゚)「大将として、俺の意見を言わせてもらう。はっきり言って、片腕を失った将校には期待できない。
     周りからの助けを必要とするし、実際にアルファベットを振るうのも相当困難だ。
     例えば中将クラスなら意見を求めるために残すことも考えるが、少尉ならさほど痛手でもない」

 ぐっと、堪えた。
 涙が溢れそうになるのを。

( ゚∀゚)「お前は有能であり、今後を期待されていた将校だったと聞く。お前自身、自分の今後を楽しみにしていたと思う。
     非常に辛いだろうが……戦場に立ち続けるのは、軍人をやめて畑を耕すことの何倍も辛いぞ」

(‘_L’)「……はい……」

( ゚∀゚)「辛さから逃れるために、ってわけじゃない。お前は確か、妻子がいるんだよな?
     国軍で武官や文官をやってるとそうそう妻子にも会えない。辛い思いをさせてるはずだ。
     まだ片腕が残ってりゃ、抱きしめてやることもできる。再び戦場に立てば、両腕を失うかも知れねーんだ」

 妻子の顔を、思い浮かべた。
 何故か、郷里に帰ってきた自分を見て、喜ぶ顔ばかりだった。
151 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:26:25.15 ID:rRYRftJx0
( ゚∀゚)「十数万もいる兵士の中で将校になれるのはほんの一握りだ。その将校に、お前はなった。
     堂々、胸を張ればいい。お前はよくやった。ショボンだってお前を心から労ってくれるさ」

(;_L;)「……はい……」

 流すまい、と思っていた涙が、零れた。
 ジョルジュの優しい言葉と、ショボンの心遣い。
 偉大な二大将の思いが一気に押し寄せて、止まらなくなった。

( ゚∀゚)「……じゃあ……またな」

 ジョルジュが静かに椅子から立ち上がった。
 部屋の扉へと歩いていく。

 涙で視界が滲んでしまって、その後姿をはっきりと見ることはできなかった。



――翌日――

(´・ω・`)「そうか……分かった」

(‘_L’)「はい」

(´・ω・`)「軍を去る決意を固めたのなら、俺はただ、お前を送り出すだけだ」

 ショボンに再び部屋まで来てもらって、答えを伝えた。
 退役の意を伝えたとき、ショボンは神妙な顔つきで大きく息を吐いた。
 寂しげな表情に見えた。
172 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:30:11.42 ID:rRYRftJx0
(´・ω・`)「今まで、ありがとう。名部隊長として長く活躍し、やがて将校になり……。
      まさにこれから、というところで不慮の事態に遭ってしまったのは、残念で仕方がない」

(‘_L’)「将校に引き上げていただいたのに何の恩返しもできず……申し訳ありませんでした」

(´・ω・`)「謝るなんて、やめてくれ。お前の働きには感謝している」

(‘_L’)「本当に、ありがとうございました」

 深々と頭を下げた。
 そのとき、本当に軍を去るのだ、と実感した。
 切なさが、こみ上げてくる。

(´・ω・`)「郷里までは軍の者に送らせる。その後の生活は、確実に保障する」

(‘_L’)「静かに送り出していただければ、私はそれで充分です」

(´・ω・`)「見送りは少なめに、ということだな。分かった」

(‘_L’)「ありがとうございます」

 また傷が痛みだした。
 少しでも気が緩むと、すぐに顔が歪むような痛みに襲われる。
 ショボンの手前、痛がることもできなかった。

 まだ右腕があるかのような感覚に襲われる。
 体のどこかが痒いときなどに、右腕を伸ばそうとしてしまうのだ。
 悲しくなると同時に、もはやまともではないのだと気付く。

 軍を去るのは、当然の決断だった。
184 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:33:15.37 ID:rRYRftJx0
 呆然とそんなことを考えていたら、いつの間にかショボンは立ち上がって去ろうとしていた。
 最後に感謝の言葉を述べようとしたとき、入れ替わるようにして部屋に入ってきた者がいた。
 ブーンと、ドクオだった。

(;^ω^)「フィレンクトさん……やっぱり、退役しちゃうんですかお……?」

(;'A`)「フィレンクトさん……」

 ショボンは黙って部屋から退出していった。
 不安げな、寂しげな二人は、入口で立ち尽くしている。

(‘_L’)「はい……今までありがとうございました」

( ;ω;)「やっぱり、片腕じゃ無理そうなんですかお……?」

(‘_L’)「日常生活すら際どいところです……やはり軍人として生きるのは不可能と判断しました」

(;'A`)「国軍とは……」

(‘_L’)「もう関わることはないでしょうね……」

 ブーンは大粒の涙を落としていた。
 ドクオは堪えるように何度も目を瞬かせている。

 思えば、自分が将校になれたのは、この二人によるところが大きかった。
 三度、部隊長として仕えたブーン。シャッフル城戦で、共に危機を切り抜けたドクオ。
 二人がいなければ、今もまだ部隊長に留まっていただろう。

 感謝の言葉は、述べきれないほどだ。
195 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:36:19.53 ID:rRYRftJx0
(‘_L’)「数年の間でしたが、ありがとうございました。お二人には心の底から感謝しています。
    私は郷里に帰りますが……一般人として、お二人の活躍を……ヴィップの天下を、心から願っています」

 遂にドクオも涙を隠さなくなった。
 ブーンは声を上げて泣いている。

 自分もまた、涙を流していることに、気付いた。
 止まりそうもない涙だった。


 そのあとも、将校や誼のある兵たちが次々と部屋を訪れ、別れの言葉を伝えてくれた。
 何度も涕涙しそうになり、そのたびに堪え、ときには静止が利かずに溢れだした。

 翌々日、エヴァ城を去った。
 護衛つきでヴィップ城に帰り、まとめられた荷物を抱えて、再び出立。
 見送りには、アラマキ皇帝が来てくれた。

/ ,' 3「貴方がヴィップのために尽力してくださったこと……私は決して忘れません」

 そう言って、優しく手を握ってくれた。
 やはりそのときも、涙が零れそうになった。

 馬に乗って、静かにヴィップ城から遠ざかった。
 途中、一度だけ振り返った。大きな、あまりに大きなヴィップ城。
 何度も苦楽を噛み締める場となったヴィップ城。

 ここから離れることで、自分は、軍人ではなくなる。
 改めて、それを実感した。
208 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:39:38.14 ID:rRYRftJx0
(‘_L’)「……本当に……ありがとうございました」

 心の中で言ったつもりだった言葉が、自然と口から零れ出していた。



――五日後――

――名もなき城――

――夜――

 マリミテ城を囲んでから、十数日が経過した。
 包囲の指揮はずっとモララーが執っている。
 今のところマリミテ城に動きはなかった。

 ショボンが指揮を執っていないのは、エヴァ城に帰っていたためだ。
 フィレンクトのことで、指揮をモララーに任せてエヴァ城に留まっていた。
 しかし、今は包囲に加わっている。

( ´ω`)「はぁ……」

 フィレンクトが、軍を去った。
 戦で片腕を失い、満足に戦えなくなり、軍人をやめることを決めたのだ。

 初指揮を執ったエヴァ城戦から、ずっと一緒に戦ってきた仲間だった。
 パニポニ城に行ってラウンジと戦ったときも、シャッフル城戦も。
 何度も自分を支えてくれて、助けてくれた。
217 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:42:53.34 ID:rRYRftJx0
 死別ではなかった。
 別れの言葉も交わせた。
 まだ生きてくれていただけ良かった。しかし、寂しさは拭い切れない。

 フィレンクト=ミッドガルド。
 穏やかな物腰で、人当たりが良く、皆から好かれていた。
 誰もが軍を去ることを悲しんだ。

 フィレンクトの穴を、埋めるべく、皆が頑張る必要がある。
 ショボンは将校たちを集めてそう言った。
 それがフィレンクトのためであり、本人が望んでいることだろう、と。

 いつまでも気落ちしてはいられない。
 分かっているが、まだ全身が重く感じるのだ。
 せめて今晩だけ。あと一晩だけ、別れを惜しませてほしい、と思った。

 誰もいない廊下の窓辺でそんなことを考えていた。
 そのときだった。

 ジョルジュが、自室から出てきたのだ。
 ふらついている。酒を飲んだのだろうか。
 表情が確認できる距離ではなかった。

(  ∀ )「……心が痛むな……」

 声が、響いた。
 切々とした、悲しげな声。
 酔いだけによるものではない気がした。
235 :第40話 ◆azwd/t2EpE :2007/05/27(日) 01:46:00.74 ID:rRYRftJx0
(  ∀ )「こんなのは……できれば二度と、ないようにしたいもんだ……。
    ……すまねぇ……フィレンクト……」

 謝罪の、言葉。
 何故、どうして。

 理由は、いくつも思い浮かびそうで、しかし混乱に満ちた頭では、ひとつしか浮かばなかった。

 覚束ない、といった足取りのまま、ジョルジュは廊下の奥へと歩いて行った。
 最後に闇に消えたのは、悲しみを負って見えた背中だった。

















 第40話 終わり

     〜to be continued

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