136 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 23:39:02.55 ID:/4xv1z210
【第3話 : Discord】

――ヴィップ城・中央ホール――

 新兵全員が中央ホールに戻され、待機を命じられた。
 ギコ少将を呼びに来た伝令の慌て様が、普通ではなかったと囁く者が居て、それが全体に広まっていった。

('A`)「戦争か……? 確かに西では今、オオカミと睨み合ってるはずだが……。
   でも、交戦状態にまではいってなかったと思うけどな……」

( ^ω^)「ラウンジの急襲かも知れないお」

('A`)「いや、早すぎるだろう……オオカミとの戦が終わったばかりだし、まだ準備は整ってないはずだ……」

 少し時が経ったことで、ブーンは落ち着きを取り戻せていた。
 ショボンとジョルジュの不仲には驚かされ、不安にも包まれたが、慌てたところでしょうがない。とりあえず今は考えないようにした。

 一時間ほど待たされ、ようやくホール前方の壇上に人が姿を現した。
 ただし、ギコではなかった。

(兵´U`)「これから紙を配る。二つの寮塔、どっちがいいかの希望を書いてくれ。どちらでもいい、も可だ」

 何の状況説明もなく、空白の一時間はなかったことのように、紙を配りだした。
 疑問が出るのは、当然だった。

(新1`・ロ・)「先ほどギコ少将が軍議室に向かったようですが、何かあったのですか?」

(新2`・ロ・)「ラウンジかオオカミが攻め寄せて来たのでは?」

 壇上の兵士は黙ったままだった。
144 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 23:42:37.05 ID:/4xv1z210
 更に二人、三人と声を上げ、騒ぎが大きくなる。
 焦りを見せ、諦めたかのように兵士が場を宥め始めた。

(兵;´U`)「大したことではない。西のシャナ城近郊で、オオカミと小競り合いがあっただけだ。
      新兵が気にすることではないし、逼迫した状況でもない。案ずることは何もない」

 そう説明した兵士の、明らかな動揺が、皆に伝わった。
 ただ事ではないと分かった。



――ヴィップ城・第一軍議室――

(;,,゚Д゚)「アラストール城が、ですか……」

(;^Д^)「無血開城は予想外ですね……」

 アラストール城はオオカミとの戦線付近にあり、いつ攻められてもおかしくない状況ではあった。
 しかし、オオカミが三千の兵で攻め寄せたことにより、守将が抵抗もなく降伏。
 ショボンは、対応に苦慮していた。

(´・ω・`)「アラストール城はシャナ城の属城。
     大した城ではないし、シャナ城さえしっかりしていれば、問題ない」

 周章するギコ少将、プギャー中尉を落ち着かせるため、冷静な口調で言った。
 しかし、それを楽しむように、言葉を放つ男が正面に居た。

( ゚∀゚)「そのシャナ城はどーなんだよ、ショボン」
146 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 23:45:27.42 ID:/4xv1z210
 円形のテーブル。
 上座で、椅子に背中を預けたジョルジュが、冷笑を浮かべていた。
 視線を合わせないようにし、頭の中で言葉を慎重に選んだ。

(´・ω・`)「モララー中将が五千の兵で守っています。兵糧にも問題はありません。
     二年は篭城できる状態ですし、オオカミには篭城戦を行うだけの余裕はありません」

( ゚∀゚)「間違いない情報か? 見込み違いじゃないだろうな?」

(´・ω・`)「モララーは守りも得手としています。磐石である、と思います。
     オオカミは春までのラウンジ戦で消耗した力が、まだ回復していません。
     したがって、今回のアラストール城攻めは、単発的なものであると考えられます」

( ゚∀゚)「万一、他のシャナ城近郊の城――――ハルファス城やマルコシアス城に攻め寄せてきた場合は?」

(´・ω・`)「他の城と呼応させ、攻撃軍を迎撃します。
     また、今からギコをマルコシアス城に送ります。それでオオカミは軍を引くでしょう」

( ゚∀゚)「落とされたアラストール城は、放置か?」

(´・ω・`)「いえ、折を見てギコに攻めさせます。
     五千の兵と、周りからの援助があれば、攻め落とせる可能性もあるかと」

( ゚∀゚)「甘いな。お前は城を囲んだことがないから分かんねーだろうが、篭城戦に勝とうと思ったら十倍の兵が居る。
    三万を用意できるのか? できねーだろ。悠長に構えてたら城が各個落ちてくぜ」

(´・ω・`)「ダメだと思ったら、攻め手を引かせます。
     先ほども申し上げましたが、アラストール城はそれほど肝要な城ではありません。
     オオカミも攻めの拠点としては使ってこないでしょう。
     だからこそ、あっさり落とされたとも言えます」
152 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 23:48:45.43 ID:/4xv1z210
( ゚∀゚)「だが、オオカミ方面はお前の担当だ。
    城が落ちたのは、お前の責任だろう?」

 ギコが、一瞬殺気を放った。
 そのギコを、一睨みして、すぐに視線をジョルジュのほうに戻した。

(´・ω・`)「責任は取ります。守将の心を掴みきれなかった私の失策でした。
     ラウンジが南進してくる可能性が高い今、オオカミと余計な戦をしている余裕はありません。
     何とか上手くかわします。ジョルジュ大将にご迷惑はおかけしません」

 ジョルジュが口角を吊り上げながら鼻を鳴らし、立ち上がった。
 そのまま黙って軍議室を立ち去ると、堪えていたものを爆発させるように、ギコが机を蹴った。
 机上の湯飲みが床に落ち、高音を鳴り響かせて割れ、破片が散らばった。

(#,,゚Д゚)「アラストール城の守将を育てたのはジョルジュだ!
    三千に攻め寄せられたくらいであっさり降伏するような腰抜けを」

(´・ω・`)「やめろ、ギコ。裏切られたものはしょうがない。
     ジョルジュ大将が言うように、東塔に移ってきたアイツをアラストール城の守将にしたのは俺だ。
     俺の責任だという言葉は、何も間違っちゃいない」

(#,,゚Д゚)「違います! アイツを育てたジョルジュは、アイツが使えないことが分かって東塔に押し付けたんです!
    自分のところに置いてたら邪魔だからって、無理やりショボン大将に」

(´・ω・`)「とにかく、今はそんなことを言っている場合じゃない。
     ギコ、すぐに五千を率いてシャナ城へ向かってくれ。
     モララーと話し合って、そのあとはマルコシアス城に入るんだ。
     マルコシアス城からなら、アラストール城に睨みを利かせられる」
155 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 23:51:39.93 ID:/4xv1z210
( ^Д^)「ギコ少将のヴィップ城での任務は、自分が引き継ぎます」

(´・ω・`)「そうしてくれ。新兵たちには、まだ教えてやらなきゃいけないことが、たくさんある」

( ,,゚Д゚)「すまねぇ、プギャー……早急に準備を整えます、ショボン大将」

(´・ω・`)「頼む」

 ギコが慌しく軍議室を飛び出して、通路の石を叩く音が響いた。
 プギャーと二人きりになり、一つ大きく息を吐く。
 それを見て、気遣うようにプギャーが言葉を発した。

( ^Д^)「大丈夫ですか? お疲れでは?」

(´・ω・`)「心配するな。何ともないさ」

( ^Д^)「苦悩もおありかと思いますが……」

(´・ω・`)「……まぁ、人材不足感は否めないな。
     今回も、ギコを送らざるを得ない状況だ……モナー中将の怪我が完治しないとな……。
     お前にはヴィップ城での仕事を色々押し付けてすまない」

( ^Д^)「それが私の役目です。私でお役に立てるのでしたら、何でもお申し付け下さい」

(´・ω・`)「ありがとう。とりあえず、新兵たちの割り振りを決めないとな」

 新兵たちの希望を書いた紙は既に送られてきている。
 ざっとそれを確かめた。一見した限りでは、東塔の希望が多いように見えた。

(´・ω・`)(……ん……これは……)
160 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 23:54:57.94 ID:/4xv1z210
 ブーン=トロッソの紙が、たまたま目に付いた。
 希望は、東塔。

(´・ω・`)(……将来が楽しみな人材も、中にはいるさ。大丈夫だ……)

 ブーンの紙をポケットに入れて、他の紙を次々チェックしていった。



――ヴィップ城・東塔――

 夕食前になってようやく寮塔と部屋を割り振られ、新兵たちは各々の荷物を部屋に置いた。
 ブーンとドクオは、希望した通り東塔だった。

('A`)「ジョルジュ大将は評判良くないしな……ショボン大将はみんなから尊敬されてるスゲー人だ」

( ^ω^)「ブーンには入軍試験での恩があるお。恩返しのためにも、ショボン大将の許で頑張るお!」

 長い階段を昇って、七階の突き当たりの部屋。
 ドクオと相部屋になった。

(;'A`)「寝るだけの部屋って感じだな……寝床を用意したら、あとは荷物置くスペースしかねーよ……」

(;^ω^)「こんだけの人数が生活するんだから仕方ないお……」

 新たに千人を受け入れて、それでもまだ部屋にはかなり余裕があるという。
 遠方の城で生活をしている兵もかなり居る。ヴィップの総兵数は十万程度だが、今この城に居るのは三万にも満たないらしい。
 ラウンジの南進に備えて、北に多く兵を配備していることもあり、普段より少なくなっているという。
165 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 23:57:45.94 ID:/4xv1z210
('A`)「東と西の配分は五分五分らしいな」

( ^ω^)「希望通りにいかなかった人もいるんじゃないかお?」

('A`)「いや、ジョルジュ大将を慕う人間も多いんだ。
   ショボン大将を上回る実力の持ち主だからな……」

(;^ω^)「そうなのかお?
     でも、アルファベットはジョルジュ大将がS、ショボン大将はTだったお。
     アルファベットはAが最弱で、Zが最強――――ショボン大将のほうが一つ上のアルファベットだお」

('A`)「個人の実力は、互角程度か、ショボン大将がちょっと上くらいだ。
   だが、戦争に関しては……もちろん、ショボン大将も戦は上手いが、ジョルジュ大将には劣るというのが世間の評価だ。
   それゆえに、ジョルジュ大将の高慢さすらカッコイイと思って、西塔を希望する者も多くいる、ってわけだ」

 ショボン=ルージアル。ジョルジュ=ラダビノード。
 どちらも有名な二大将軍だが、人気はショボンのほうが高いと思っていた。
 少なくとも、ブーンの周りではそうだった。
 意外さで、少し呆然としてしまった。

('A`)「飯食ったら、さっそくアルファベットを使った訓練だな。早く行こうぜ」

 そう言うと、ドクオはさっさと部屋の扉を開けて、出て行ってしまった。
 慌てて後を追い、人で混雑する廊下を駆けた。
172 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/27(月) 00:01:21.27 ID:fFoz2/qk0
――ヴィップ城・第二食堂――

( ^ω^)「そういえば、ドクオ」

('A`)「ん?」

( ^ω^)「さっき……ショボン大将とジョルジュ大将の仲が悪いって話をしたとき……
     "新参"と"古参"の争いって言ってなかったかお?」

('A`)「あぁ、言ったな。それがどうかしたか?」

( ^ω^)「どういう意味だお?」

 人で溢れかえった第二食堂。
 給仕から夕食を受け取り、空いている席に腰掛けた。
 石造りの食器に麦の飯、野菜を煮込んだスープ、豚の肉の炙り焼きと魚の塩焼きが盛られている。
 手を合わせて、早速胃袋に収めていく。

('A`)「そのままさ。ヴィップは今、新参と古参で対立してる。
   十五年も前にヴィップ国軍に入ったジョルジュ大将と、入軍してまだ八年しか経っていないショボン大将。
   つまり、ジョルジュ大将はキャリアが浅いのに自分と同位置に居るショボン大将が気に入らないのさ」

(;^ω^)「それだけの理由でかお?」

('A`)「まぁ、思想的に相容れない部分が多いのが、一番大きいだろうな。
   ジョルジュ大将は、ヴィップ国軍に長く居る分、"ヴィップらしさ"を重視してしまっているんだ。
   まぁ、換言すれば"俺のやり方に従え"ってことだけどな。
   でもショボン大将はお構いなしさ。自分の信条に基づいて行動を取っている。
   つまり、お互い自分の思い通りにならないのが気に食わないんだ」
176 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/27(月) 00:04:30.87 ID:fFoz2/qk0
(;^ω^)「ワガママだお……」

('A`)「そうは言っても、仕方ない。
   ショボン大将は多少歩み寄る姿勢を見せているが、ジョルジュ大将は全く譲らない。
   そうなるとショボン大将も、ジョルジュ大将に合わせなくなる。
   やがて深まった亀裂は、埋まりようがないほどになってしまったんだ。
   そして同時に、ショボン大将に従う者とジョルジュ大将に従う者の間でも、対立が起きた。
   これがつまり、新参と古参の争いってわけさ」

 ドクオが野菜のスープを口に運ぶ。
 音を立てて唇を通過し、喉が鳴った。

('A`)「だから二人は同じ戦場に立つことがない。
   ラウンジ方面はジョルジュ大将、オオカミ方面はショボン大将、と分担されているんだ。
   もちろん、お互いヴィップ国のために戦っているわけだから、連携は取るが、それ以上はない」

(;^ω^)「……でも、そんなことしてたら……ヴィップは……」

('A`)「あぁ、確実に弱っていく。領土を削られ、ラウンジとオオカミの勢力が増す。
   二年前、オオカミとの戦に敗れたのも、そのせいさ。
   お前も覚えてるだろ?」

 二年前、長年ヴィップの重要拠点としていたエヴァ城がオオカミに奪われた。
 ヴィップは後退を余儀なくされ、シャナ城で踏みとどまり、交戦はしていないが現在も睨み合いは続いている。
 当然ショボン大将に批判が集まり、一時は少将にまで降格されたが、すぐに大将に戻っている。

(;^ω^)「確かに、あの戦いのとき、ジョルジュ大将がオオカミ方面に赴いていたら、とは思ったお……。
     まさか、それすらしないほど仲が悪いなんて……全然知らなかったお……」
183 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/27(月) 00:07:17.81 ID:fFoz2/qk0
('A`)「影じゃ喜んでたんじゃねーかな、ジョルジュ大将。
   あの人にとっちゃ、ラウンジ戦が全てだ……ショボン大将が戦死したら、歓喜に打ち震えるだろうよ」

 内紛状態。
 その言葉すら、過言ではないだろう、と思った。

 夕食を口に入れることさえ忘れて、ドクオの話を聞いていた。
 気づけば、ほとんど消化していない。ドクオはもう食べ終わる寸前だった。

('A`)「早くしねーと、夜の訓練始まるぞ」

(;^ω^)「そ、それはマズイお!」

 肉を急いで口に放り込み、喉を無理に通す。
 咽そうになりながら何とか押し込み、ドクオが茶を飲んで一息つくまでに食べ終えることができた。

('A`)「お疲れさん。そんじゃ行こうぜ」

(;^ω^)「りょ、了解だお」

('A`)「……ん?」

 食堂の出入り口が、ざわめいていた。
 そして、食堂に居る兵たちの視線が、一斉に向けられる。
 間違いなく、こちらに。
196 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/27(月) 00:11:47.41 ID:fFoz2/qk0
(;'A`)「ショボン大将……!」

(;^ω^)「お!?」

 ショボンが、歩を進める。
 こちらに向かっているようにしか、思えなかった。

(´・ω・`)「ブーン=トロッソ」

 名を発し、更に近づいてきた。
 気が動転し、どう反応していいか分からず狼狽しているうちに、ショボンは眼前まで迫っていた。

(´・ω・`)「飯は食い終わったか?」

 立ち止まり、静かな声を発した。
 食堂中の視線が、集められている。ドクオも呆然としている。
 世界が揺れ動いて見えた。

(´・ω・`)「どっちなんだ? 状況を見る限り、食べ終わったんじゃないかと思ったんだが」

 はっとして、ようやく質問を理解した。
 慌てて頭を縦に振る。ショボンは、そうか、とまた静かに言った。

(´・ω・`)「これから新兵たちは、アルファベットに慣れてもらうための訓練の時間だが……
     ブーン、お前はそっちには行かなくていい。
     今から俺と一緒に、軍議室に来てくれ」

 再び呆然としてしまうのに、時間はかからなかった。

197 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/27(月) 00:13:20.23 ID:fFoz2/qk0
 ショボンの言葉の、意味が分からない。
 どうすればいいのかも。

 食堂のざわめきは、一気に大きくなった。


















 第3話 終わり

     〜to be continued

戻る

inserted by FC2 system