2 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:42:05.37 ID:KI0hUy5G0
★登場人物

〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
19歳 中尉
使用可能アルファベット:J
現在地:シア城

●('A`) ドクオ=オルルッド
19歳 シャッフル城戦・ブーン中尉配下部隊長
使用可能アルファベット:G
現在地:シア城

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
29歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:シア城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
24歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:リン城

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
27歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:リン城
5 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:43:38.54 ID:KI0hUy5G0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
25歳 大尉
使用可能アルファベット:M
現在地:シア城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
22歳 少尉
使用可能アルファベット:?
現在地:エヴァ城

●(=゚ω゚)ノ イヨウ=クライスラー
28歳 少尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シア城

●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
44歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●(‘_L’) フィレンクト=ミッドガルド
26歳 シャッフル城戦・ブーン中尉配下部隊長
使用可能アルファベット:I
現在地:シア城
8 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:44:58.85 ID:KI0hUy5G0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
34歳 大将
使用可能アルファベット:S
現在地:ヴィップ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
35歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ハルヒ城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
38歳 大尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
31歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
11 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:46:20.68 ID:KI0hUy5G0
★階級表

〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/モナー
少将:ギコ

大尉:プギャー/シラネーヨ
中尉:ブーン
少尉:ビロード/イヨウ


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ

大尉:ヒッキー
中尉:ビコーズ
少尉:

(佐官級は存在しません)
14 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:48:13.23 ID:KI0hUy5G0
★使用アルファベット一覧

A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:ドクオ
H:
I:フィレンクト
J:ブーン
K:
L:
M:プギャー
N:ヒッキー
O:
P:イヨウ
Q:
R:モララー
S:ジョルジュ
T:ショボン
U:
V:
W:
X:
Y:
Z:

15 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:49:28.28 ID:KI0hUy5G0
★この世界の単位

一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

17 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:50:57.67 ID:KI0hUy5G0
【第26話 : Sign】


――シア城――

 日に日に痩せ細る月。
 あれが姿を消し、そして再び満足な状態に戻るころ、戦は動くはずだ。

 長い戦になりそうだ、とブーンは思った。

( ^Д^)「やっぱ滞陣に向いた土地じゃないな、ここらへんは……。
     秣の用意だけでも一苦労だぜ」

(;^ω^)「エヴァ城から繋がれている兵站にも気を配らなきゃいけないから、大変ですお……」

( ^Д^)「輜重隊の警護はしっかりやらねーとな。乱されるとキツイ」

( ^ω^)「でも、オオカミは全然動きを見せませんお」

( ^Д^)「こっちの出方を窺ってるな。戦を避けられるなら避けよう、ってことだろ」

 攻めの準備は整いつつあった。
 三日後にはシャッフル城を一万五千で攻め寄せることが決定している。
 リン城にはシラネーヨ、シア城にはプギャーを残しての攻勢だ。
 本気の攻めだ、とオオカミは感じるだろう。

( ^Д^)「ショボン大将とモララー中将を信じるしかないな、この戦は。
     それと……お前の部隊長、ドクオ=オルルッドか」

21 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:54:13.54 ID:KI0hUy5G0
 献策者のドクオは、最近ずっとショボンと一緒に居る。
 何をしているのかは知らないが、恐らく作戦に向けての準備だろう。

( ^Д^)「あの作戦は、危険だな……全く、度胸があるというか、怖いもの知らずというか……大した部隊長だ」

( ^ω^)「きっと成功するって、信じてますお」

( ^Д^)「もちろん、俺もさ。この戦は勝てると思ってる。そう思いながら戦うのが、大事だ」

 プギャーが爽やかな笑みを浮かべ、手を振った。
 これからプギャーは調練、ブーンは兵糧を管理する文官との話し合いがある。
 廊下の岐路を別々に曲がって、プギャーと別れた。

 庶務室に行って、文官と会った。
 エヴァ城に蓄えられた兵糧は頻繁に運ばれているが、満足のいく量ではない。
 切り詰めなければいけないのは分かるが、このままでは兵が存分に力を発揮できそうにないのだ。
 相談してきてくれ、とショボンに言われていた。

(文+_+)「無茶を仰いますな。もう少し減らそうか、と考えていたところなのですよ」

(;^ω^)「戦になりませんお。逼迫してるという話も聞いたことないのに、この状況は……」

(文+_+)「大量に運ぶと、敵軍に狙われやすくなります。ご理解いただけますかな?」

 癇に障る言い方だ。
 しかし、正論だった。鈍重な輸送部隊は、格好の餌食になる。

 だからといって、簡単に引き下がるわけにはいかなかった。

22 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 17:57:31.49 ID:KI0hUy5G0
( ^ω^)「輸送部隊の増発を検討してくださいお。警護隊はこちらで用意しますお」

(文+_+)「量的にも、余裕があるとは言えない状況です」

( ^ω^)「雨季までに使いきってしまうような量じゃないはずですお」

(文+_+)「……そこまで仰るなら、一度ビロード少尉に掛け合ってみますが……」

( ^ω^)「ブーン=トロッソが……いや、ショボン大将が切望しているとお伝えくださいお」

 報告書をまとめて、庶務室を退出した。

 文官も、意地が悪いからあんなことを言っている、というわけではないのだ。
 戦に勝ちたい気持ちは一緒だ。国を想う気持ちは、一緒だ。
 だからこそ、率直な意見が出ているのだ。

 苦しい戦なのは皆が分かっている。
 しかし、それにより団結力は高まっている、という確信があった。
 上手くいけば、劣勢を覆せるほどに。

 窓の外では、騎馬隊がまとまって動く調練が行われていた。


――十二日後――

 隊を組んで進軍し、シャッフル城外のオオカミ軍まで二十里の距離に迫った。
 それまで静観していたオオカミ軍が、その距離になって、やっと動き出した。

(´・ω・`)「……やはり、篭るか」

23 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:00:27.53 ID:KI0hUy5G0
 城内に兵を接収しはじめた。
 守りがしっかりしているため、攻撃はできない。

( ・∀・)「ま、ありがたいですね。囲む準備は整ってます」

(´・ω・`)「よし、行くぞ」

 ショボンの指示で、ヴィップ軍が素早く散開していく。
 包囲する気だ、と相手に思わせるような動きだ。シャッフル城内が慌ただしく動いているのが分かった。
 当然、敵軍は打って出てくる。

(´・ω・`)「退却」

 鉦が打ち鳴らされ、ヴィップ軍はすぐさま後退した。
 オオカミ軍は戸惑っていたが、結局は再び城外に布陣した。

 何の意味もない行動だ、とミルナは思ったはずだ。
 しかし、これが布石になる。

(´・ω・`)「次は五日後。また同じことをやるぞ」

 ショボンが全軍に伝えて、シア城とリン城に戻った。

24 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:03:09.79 ID:KI0hUy5G0
――十三日後――

――シア城――

 あれから三度、攻め寄せた。

 全て同じ結果に終わった。オオカミ軍は困惑しているようだ。
 何も知らないヴィップの兵卒たちも、さすがに混乱している。
 しかし、不安らしきものは見えなかった。信じているのだ。
 ショボンなら、何とかしてくれると。

 これが、ヴィップ軍東塔の、団結の力だ。
 時には矛となり、時には盾となる。
 決して欠かすことはできない。


 ブーンはプギャーと一緒に城外に出ていた。
 モララーが呼び寄せた助っ人の、出迎えだ。

 名前は聞いていた。
 驚いたが、よく考えれば他に助っ人らしき人はいない。
 しかし、せっかくの助っ人も、晴々しい気持ちで迎えることはできなかった。

( ´∀`)「お久しぶりです」

 やはり、他者とは違った風格を持っている。
 歴戦の将、モナー。会うのはおよそ四ヶ月ぶりだった。
 味の悪い別れ方をしてしまったパニポニ城以来だ。
27 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:05:59.88 ID:KI0hUy5G0
( ^Д^)「行軍お疲れ様です」

( ´∀`)「久々の行軍は堪えますね。老体には厳しいものがあります」

( ^Д^)「老体などと……まだまだお若いのですから」

( ´∀`)「いえいえ、もう満足には動けぬ体ですよ。ヴィップのためなら粉になるまで働きますが」

( ^Д^)「パニポニ城は、大丈夫なのですか? モナー中将がいない間に狙われるということは……」

( ´∀`)「ないでしょう。いまのラウンジは、ハルヒ城かアリア城にしか眼が向いてませんからね。
     パニポニ城を落とすとなると損害も大きい。それよりはハルヒ城を狙うはずです。
     信頼の置ける部隊長を残してきましたし、ご心配には及びません」

( ^Д^)「了解です」

 モナーが率いてきたのはH隊歩兵ニ千だ。
 野戦を行うときには心強い戦力になる。
 何より、経験豊富で、ヴィップを昔から支えてきた武将の加入は大きかった。

 しかしやはり、素直には喜べない。

( ´∀`)「ブーン中尉」

 落ち着きのある、静かな声をモナーが発した。

(;^ω^)「……何ですかお?」

( ´∀`)「お話があります。今晩、お時間は?」
30 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:09:09.88 ID:KI0hUy5G0
(;^ω^)「……ありますお」

( ´∀`)「ありがとうございます。では、日付の変わるころ、中尉のお部屋にお邪魔します」

 パニポニ城のときと、変わりはないように見えた。
 それが、不気味さを醸し出しているのかも知れない、と思った。


――シア城・軍議室――

(´・ω・`)「無理を言ってすみません、モナー中将」

( ´∀`)「何も力になれないかも知れませんが」

(´・ω・`)「いえ、心強い限りです」

 昼過ぎになって将校が軍議室に集まった。
 軍議というよりは、モナーに戦況を伝えるための場だ。

 ショボンが簡潔に説明し、それにモナーが質問する形だった。
 さすがに、質問の内容は鋭い。途中でショボンが行う作戦にも気づいたようだった。

( ´∀`)「危険な作戦ですね」

(´・ω・`)「でなければ、この戦に勝つことはできません」

( ´∀`)「そうですね……かなり苦しい戦であることは間違いありませんね」

(´・ω・`)「ベルの存在が厄介でした。ラウンジの支援がなければ、こんな面倒な戦にはならなかったのですが……」
32 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:12:49.55 ID:KI0hUy5G0
( ´∀`)「致し方ありません。その部分では、オオカミに上回られたということでしょう」

(´・ω・`)「しかし、シャッフル城は必ず奪います」

( ´∀`)「奪ってしまいたいですね。私が総指揮を取っていたころから見ても、版図にあまり動きがありませんから」

(´・ω・`)「やはり、オオカミは手強い相手です。特にミルナ=クォッチは、ベルがいない今、筆頭に挙げられる武将となりました」

( ´∀`)「いえ、筆頭はショボン大将でしょう。ヴィップを除けば、ミルナは他を寄せ付けぬ力を持っていますが」

(´・ω・`)「四中将が安定していないのが救いです」

( ´∀`)「常に謀略を仕掛けていかなければなりませんね。結託されると厄介です」

 謀略を好んで用いる、とモナーはよく言われている。
 戦を避けられるなら避け、謀略などで敵を乱すことを得意としている武将だ。
 血が流れずに決着がつくなら、それが最上であることは間違いなかった。

(´・ω・`)「気づいたことなどあれば、何でも仰ってください」

( ´∀`)「微力を尽くさせていただきます」

 二人が同時に頭を下げた。

 この二人が話しているところは、初めて見た。
 どこかよそよそしいが、蟠りなどを抱えているわけではなさそうだ。
 当たり前のことに安堵できる自分が、ブーンは悲しかった。

33 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:15:20.25 ID:KI0hUy5G0
 一日の任務をこなして、夜が更けていく。
 風が窓に音を立てさせ、閑寂とした城内にはそれのみが響いていた。

 そして、違う音。
 臨時将校室で周辺の地形を覚えていたとき、部屋に去来した。

( ^ω^)「……こんばんはですお」

 アルファベットQを背負ったモナーが部屋の外にいた。
 柔和な笑みはいつもと変わらない。

( ´∀`)「すみません、失礼します」

 部屋の扉が閉ざされる。
 空気の篭った空間に、モナーと、二人きりだった。
 息苦しさを感じるのは何故か。

( ^ω^)「何も用意できなくてすみませんお……」

( ´∀`)「いえいえ、お構いなく。お茶を啜りながらの世間話が目的ではありませんから」

( ^ω^)「……怪我は、完治したんですかお?」

 椅子に腰かけようとしていたモナーの動きが、一瞬止まった。
 その顔には、笑み。しかし、苦味が混じっていた。

( ´∀`)「……やはり、お見通しですね」
35 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:18:06.37 ID:KI0hUy5G0
( ^ω^)「パニポニ城のときから、ちょっと怪しいと思ってましたお……」

( ´∀`)「そうですね……申し訳ありませんでした」

 机に接しそうなほど深く、頭を下げられた。
 何度か呼吸しても、まだ顔は正面に向かない。
 堪らずに声を出して、ようやくモナーは頭を上げた。

( ´∀`)「私が怪我をしていたのは事実です。が、ブーン中尉がパニポニ城に来た頃には、完治していました」

( ^ω^)「何故、嘘をついたんですかお?」

 いまさら怒りはなかった。
 しかし、モナーほどの武将が、戦に嫌気が差して嘘をついたとは考えにくい。
 何か理由があったのだとしか考えられなかった。
 真実が知りたい。いま思うのは、それだけだ。

( ´∀`)「私には、ラウンジと戦えない理由があります」

(;^ω^)「……戦えない?」

( ´∀`)「はい。戦うわけにはいかないんです」

 ランタンの灯りが微かに弱まった。
 部屋の隅には闇が居座っている。

( ´∀`)「世間一般では、私は年齢的な衰えを理由に、大将位をショボン大将に譲ったとされています。
     しかし、実際にはショボン大将による脅しがありました。譲れ、と迫ってきたのです」

(;^ω^)「え!?」
39 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:21:15.13 ID:KI0hUy5G0
( ´∀`)「私はそのことを恨んでいます。挙句の果てにはパニポニ城のような辺境に飛ばされ……屈辱的でした。
     今のヴィップでは不満しか抱けません。だから、私はラウンジに寝返ることを考えました」

 何を、言っているのか。
 両手が震えていた。視界は、霞んでいる。

 この発言で、モナーは何を伝えようとしているのか。
 考えても、分からない。思考がまともに働かない。

(;^ω^)「……それは……つまり……」

( ´∀`)「と、いう具合にラウンジに嘘をつきました。つまり、私は虚偽の裏切りを見せようとしています」

 また、わけが分からなくなった。
 モナーの発した言葉を理解するのは、すぐには無理だと悟った。

(;^ω^)「……ほぇ?」

( ´∀`)「話に筋が通っておりますので、ラウンジは信じてくれているようです。
     もちろん、私はまだ決断していない、迷っているということにしてあります。
     ここ最近、向こうからの説得が凄くて、ちょっと嫌になることもありますが……」

(;^ω^)「……えっと……つまり、どういうことですかお? できれば三行で……」

( ´∀`)「謀略です。ラウンジに寝返るふりをして、ラウンジから情報を引き出し、打撃を与えます。
     本当はオオカミにしてやりたいのですが、パニポニ城の位置関係からラウンジにしかできませんでした。
     ショボン大将にも話していません。嘘をついてしまって迷惑をかけたブーン中尉にはと思い、お話しました」
41 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:24:10.68 ID:KI0hUy5G0
 背凭れに体重をかけた。
 知らぬ間に、全身が汗をかいている。冷や汗だ。
 これほど焦ったのは、イヨウの夜襲以来だった。

( ´∀`)「上手くいくかは分かりませんが、失敗しても痛手はほとんどありません。
     やるだけやってみようと思いました。もちろん、誰にも知られずに」

 だから、嘘をついたということか。
 やっと、話が繋がった。

( ´∀`)「そんな私がラウンジを攻めるのは不自然ですから、ブーン中尉にパニポニ城まで来ていただいたわけですが……。
     あれは本当に私の失策でした。ラウンジに忍び込ませていた間者には、あっさり寝返られてしまいましたからね」

( ^ω^)「でも、モナー中将が謀反の意思を抱えていると知っているなら、間者が裏切る理由は……」

( ´∀`)「知っているのはラウンジでも一部の将校だけですからね。
     ギフト城の守将は知らなかったんです。だから間者を真剣に引きこんだんです。
     当然、間者にも私の謀略は教えていませんでした。運が悪かった、と思っています」

( ^ω^)「なるほどですお……でも、間者を忍び込ませていたと発覚したら、裏切りの意思が虚偽だとバレてしまうのでは……?」

( ´∀`)「いえ。間者も送り込んでいないとなると、ヴィップ側に疑われてしまう、と言えば納得してくれました。
     案外何とか繕えるものですよ。まぁ、向こうの肚の内は分からないのですけれど」

 モナーがまた笑った。今度は、いつも通りの柔和な笑顔だ。
 安心で体が満ちる。胸の痞えが一つ、取れたような気分だった。

( ´∀`)「だからパニポニ城が狙われる心配は今のところありません。
     明け渡すことを匂わせていますからね。わざわざ攻め寄せてはこないでしょう」

42 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:27:50.14 ID:KI0hUy5G0
( ^ω^)「強引に迫ってきたら、どうするんですかお?」

( ´∀`)「パニポニ城の譲渡を、ですか? そのときは謀略を諦めます。強引に迫られないよう努力しますが」

 リスクの低い謀略だ。
 本当に寝返るわけではない。あくまで素振りを見せるだけだ。
 危なくなれば謀略を諦めるだけでいい。それまでに、可能な限り情報を引き出せばいい。
 老練さを感じさせるやり方だった。

( ´∀`)「ラウンジには何かある。そんな気が私はしています。
     この謀略で何か掴みたいのです。ヴィップのためなら、私はなんでもやります」

 言葉には熱がこもっている。
 本当に、忠誠心の強い人だ。
 信頼に足る、と思った。

( ´∀`)「もちろん、此度の戦に関してもです。怪我は完治していますから、思う存分、戦えます。
     いまシャッフル城を奪えれば大きいですからね。頑張りましょう」

( ^ω^)「はいですお!」

 小さな柄と、円型の刃で形成されているQが、モナーの後ろで光を放っている。
 あまりに心強い光だった。
47 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:31:40.41 ID:KI0hUy5G0
――シャッフル城・臨時大将室――

 シア城にモナーが入った、という情報を受けた。
 ヴィップの並々ならぬ意気が伝わってくるようだった。

( ゚д゚)(モナーまで出してくるか……何がなんでも奪う気だな)

 歴戦の将だ。昔、何度か戦ったことがある。
 堅実な戦を展開してくる、戦いにくい相手だ。
 攻めどころと守りどころの見極めが上手い、という印象だった。

 モナー自身、アルファベットはQを操っている。
 モララーのRに次いでいた。オオカミではドラルがQだが、技術面ではモナーのほうが上だろう。
 とにかく、手強い武将だった。

( ゚д゚)(少しでも差を埋めようというのか……しかし、動向は読めんな……)

 湯呑を飲み干して、一息ついた。

 ヴィップは何度かシャッフル城に攻めてきている。
 無論、野戦には応じず、すぐに兵を城内に入れた。
 ヴィップは城を包囲する構えを見せたが、こちらが打って出るとあっさり退却したのだ。

 不可解だった。
 それが何度も続いたのだから、尚更だ。
 何が狙いか。それを読まなければならなかった。

( ゚д゚)(……痺れを切らして野戦に応じることを期待しているのか?)
50 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:34:55.59 ID:KI0hUy5G0
 フィルは何度も野戦に応じることを提案してきた。
 実際、退却するときのヴィップ軍など、隙だらけで、攻撃したくなる気持ちはミルナも一緒だった。
 しかし、そんな隙を何度も見せるほどショボンは愚かではない。罠を仕掛けているのかも知れない、と疑わざるを得なかった。

(ゝ○_○)「ミルナ大将」

 リレントが部屋に入ってきた。
 この時間に行くと前もって聞いていたが、扉くらい叩け、と思った。

(ゝ○_○)「提案があるのですが、よろしいですか?」

( ゚д゚)「あぁ、言ってみてくれ」

 リレントが眼鏡の端を指で押し上げた。
 軽く口角を釣りあげながらやるから、鼻につくのだ、と教えてやりたかった。

(ゝ○_○)「城外にいる兵を、すべて城に入れてしまいましょう」

( ゚д゚)「何故だ?」

(ゝ○_○)「ヴィップは何かを試すような攻めを繰り返しています。
     正直、目的が分かりません。だから、相手の目的を消してしまうのです」

( ゚д゚)「兵を城内に入れて籠城すれば、ヴィップは手詰まる、というわけか」

(ゝ○_○)「えぇ。ヴィップは毎回囲う構えを見せますが、実際囲む余裕はありません」

( ゚д゚)「それは、確かにそうだ。しかし、それこそがヴィップの狙いだとしたら?」

(ゝ○_○)「ヴィップにとっては篭城されるのが最も困ることのはずです。狙ってやる利はありません」

51 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:38:40.96 ID:KI0hUy5G0
 腕を組んで、考えた。
 リレントの言うことは正論だ。充分、納得できる。
 しかし、あくまで自分の物差しを使って相手を計っている。

 自分がショボンなら。
 この戦は諦めて、自陣に引き返している。
 だが、ショボンはまだシャッフル城を諦めていない。

 それが怖かった。勝算があるから、ここにいるのだ。
 自分には見出せない、勝機。いったい何だ。ショボンは、何を狙っているのだ。

 不安に包まれる。
 このままショボンに攻めさせつづけると、いつか城を失うのではないか。
 そういった、やや漠然とした不安だ。

 攻めさせられなくする、というのは効果的だろう。
 ヴィップは何もできなくなる。雨季まで持ちこたえれば、自然と終わる戦だ。
 篭った瞬間、戦を諦めて退却するかも知れない。

 今回は、リレントの提案を採用してみるか。
 そういう気になった。

( ゚д゚)「七日かけて、兵を全て城内に入れよう。そのあとは雨季まで籠城するぞ」

(ゝ○_○)「了解です。各将校に通達してもよろしいですか?」

( ゚д゚)「頼む。俺はラウンジに連絡しておく」

(ゝ○_○)「では、失礼します」
54 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:42:13.31 ID:KI0hUy5G0
 リレントが退出して、少し気が楽になった。

 この決断が、戦の行方を左右するだろう。
 戦況に動きが出る。ヴィップは必ず何らかのアクションを起こす。
 それに対して、冷静かつ的確な対処ができるか。鍵となるのは、そこだろう。

 兵を城に入れるだけで、相手の目的を潰せたと思ってはならない。
 念のため、微細な穴も全て塞いでおく必要がありそうだ。

( ゚д゚)(……"あれ"を、やったほうが良さそうだな)

 息を吐いて立ち上がり、部屋を出て、伝令を呼び寄せた。



――五日後――

――シア城――

 シャッフル城外のオオカミ軍が、徐々に減っていた。
 遂に、籠城する決断を下したようだ。

(´・ω・`)「ここからが正念場だ」

 ドクオは、ショボンと二人で廊下を歩いていた。
 最初は緊張したが、ずっと一緒にいただけあって、今は普通に話せるようになっている。
58 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:45:55.82 ID:KI0hUy5G0
('A`)「今晩ですか……」

(´・ω・`)「あぁ。クーがよく頑張ってくれた。必死で情報を集めてくれたからな。
      それでも策が成功するかは分からん。俺達の働き次第だ」

 俺達、とショボンは言った。
 しかし、実際にはショボンと、そして近衛騎兵隊の働き次第だ。 
 自分は献策しただけで、策の実行時は力になれそうもない。

('A`)「クー=ミリシアさんは、今どちらに?」

(´・ω・`)「シャッフル城だ。接収に乗じて城内に入る、と言っていた」

 クーは、ショボンが抱えている間者だった。
 見目美しき女性で、怜悧さを内に秘めている。
 変装術に長けており、男になりすますのはお得意のようだった。

(´・ω・`)「何かあれば伝書鳥を飛ばすように言ってあるが、戦ではまともに機能するか分からん。
      こちらは常に動いているわけだしな。やはり、こちらの働き次第だ」

('A`)「……頑張ります」

 本当に、良かったのだろうか。
 この策を出したことに、やはり不安と疑問があった。
 いつまで経っても拭えない。恐らく、夜になっても。

 城外にはいつもと変わらぬ調練の風景がある。
 ブーンが指揮取って歩兵を動かしているのが見えた。
 いつの間にか、将校らしい顔つきになっている。
62 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:48:47.84 ID:KI0hUy5G0
(´・ω・`)「……来たか」

 ショボンが立ち止まった。
 城に向かって駆けてくる、騎馬。大きな包みを抱えている。
 城内に消えたかと思うと、すぐに駆けあがってきた。

(´・ω・`)「すまなかったな、急がせて」

(;\_\)「いえ、大丈夫です」

(´・ω・`)「ありがとう、ゆっくり休んでくれ」

 大きく肩を上下させながら呼吸していた兵が、階段を下って行った。
 受け取った包みは細長く、ショボンの背丈に迫ろうかというほどだ。

 ショボンがすぐに包みを解いた。
 最初に見えたのは柄、それから銀色の刃。
 間に穴が開いている。そこでやっと、アルファベットUだと気づいた。

(´・ω・`)「いいアルファベットだ」

 ショボンが柄を握った。
 確かめるように、何度か掴み直す。熱の確認だろう。
 触っただけでも分かるはずだが、ショボンの気持ちは分かった。

 新しいアルファベットに触れるのは、一種の不安に近い思いがある。
 触れて熱がなければ大丈夫だと分かっていても、何度か触れて確認してしまうのだ。
 ショボンほどの武将でも、それは一緒のようだった。

(´・ω・`)「ここでUに上がれたのは大きいな。少し自信がついた」
68 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:51:41.92 ID:KI0hUy5G0
 右に一振り、左に一振り。
 空気の裂ける音が聞こえる。
 鋭さと鈍さが混同したような音だ。

(´・ω・`)「さぁ、出陣の準備を整えようか」

 ショボンは嬉しそうに笑って、再び歩き出した。


――夜――

 馬の蹄に草鞋を履かせた。
 音を消して駆けるためだ。

 装備は軽くしてあるため、防備はかなり薄い。
 アルファベットの前では鎧などさして意味を持たないが、これほどの軽装はさすがに怖さがあった。

('A`)(さすがにショボン大将、冷静だな……)

 静かに命令を下していくショボン。
 軍人らしさを感じる落ち着きようだ。

 五百ニ名。
 それが、この作戦を行う兵の数だった。

 右に出る隊なしと評される、ショボンの近衛騎兵隊、五百。
 そしてショボンと、自分だった。
72 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:55:07.00 ID:KI0hUy5G0
 近衛騎兵隊はほとんどがアルファベットIだが、中にはJやKを扱う者もいる。
 ショボンが直接命令を下す二人の部隊長に至っては、Lにまで達していた。
 普通なら将校になっているはずだが、望んで近衛騎兵隊に留まっているという。

(´・ω・`)「いい月だ」

 満ちた月が空に浮かんでいた。
 月灯りは充分。疾駆するのに障害はない。

 胸の鼓動が、高まった。
 献策してからずっと、馬の訓練をしてきたが、この五百に果たしてついていけるのか。
 恐怖がまぶされた重圧で腕が固い。何故か呼吸まで荒くなっている。

 足を叩いて震えを止めさせたが、感情まではどうにもならない。
 生きるか死ぬか。それが戦だ。分かってはいる。しかし、怖かった。
 自分が死ぬことだけではない。戦の鍵を握る重大な作戦だ。
 もし失敗すれば、国軍に大打撃を与えることは間違いないのだ。

(´・ω・`)「大丈夫だ」

 いつの間にか隣にいたショボンに、軽く肩を叩かれた。
 ごつい手が、優しさに溢れているように感じる。

(´・ω・`)「俺がいるんだ。成功するに決まっている。何も心配は要らない。
      この作戦が終わったら、二人で酒盛りでもしよう。いい酒を隠してあるんだ」

 ショボンが笑った。つられて、自分も笑った。
 手を差し出され、それを握る。やはり、優しさのある手のひらだ。
 不安が薄れるのを感じた。
75 : 空気(三重県):2007/04/04(水) 18:58:17.26 ID:KI0hUy5G0
(´・ω・`)「全軍、動きを止めることなく駆けつづけろ。俺達の手で、この戦を勝利に導くぞ」

 当然、誰からも声は上がらない。
 だが、伝わってくる。並々ならぬ戦意。高まる士気。

(´・ω・`)「出陣」

 ショボンの言葉で、五百ニの騎兵が、静かに動き出した。
 作戦、決行。最初に目指すのは、シャッフル城の西にある、プリムラという名の砦だ。















 第26話 終わり

     〜to be continued

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