- 5 :
底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:22:47.34 ID:jcM4ZquU0
- ★登場人物
〜東塔の兵〜
●( ^ω^) ブーン=トロッソ
19歳 中尉
使用可能アルファベット:J
現在地:シア城
●('A`) ドクオ=オルルッド
19歳 シャッフル城戦・ブーン中尉配下部隊長
使用可能アルファベット:G
現在地:シア城
●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
29歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:シア城
●( ・∀・) モララー=アブレイユ
24歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:シア城
●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
27歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:シア城
- 9 :
底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:24:19.39 ID:jcM4ZquU0
- ●( ^Д^) プギャー=アリスト
25歳 大尉
使用可能アルファベット:M
現在地:シア城
●( ><) ビロード=フィラデルフィア
22歳 少尉
使用可能アルファベット:?
現在地:エヴァ城
●(=゚ω゚)ノ イヨウ=クライスラー
28歳 少尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シア城
●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
44歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城
●(‘_L’) フィレンクト=ミッドガルド
26歳 シャッフル城戦・ブーン中尉配下部隊長
使用可能アルファベット:I
現在地:シア城
- 13 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:26:01.59 ID:jcM4ZquU0
- 〜西塔の兵〜
●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
34歳 大将
使用可能アルファベット:S
現在地:ヴィップ城
●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
35歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ハルヒ城
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
38歳 大尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ヴィップ城
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
31歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
- 15 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:27:29.35 ID:jcM4ZquU0
- 階級表
〜東塔〜
大将:ショボン
中将:モララー/モナー
少将:ギコ
大尉:プギャー/シラネーヨ
中尉:ブーン
少尉:ビロード/イヨウ
〜西塔〜
大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ
大尉:ヒッキー
中尉:ビコーズ
少尉:
(佐官級は存在しません)
- 17 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:29:00.65 ID:jcM4ZquU0
- ★使用アルファベット一覧
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:ドクオ
H:
I:フィレンクト
J:ブーン
K:
L:
M:プギャー
N:ヒッキー
O:
P:イヨウ
Q:
R:モララー
S:ジョルジュ
T:ショボン
U:
V:
W:
X:
Y:
Z:
- 18 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:30:16.38 ID:jcM4ZquU0
- ★この世界の単位
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
- 21 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:31:50.89 ID:jcM4ZquU0
- 【第25話 : Agonist】
――シア城――
入念な準備が必要だった。
ショボンは姿を見せない軍議室に、将校が集められていた。
召集をかけたのは、モララーだ。
( ・∀・)「シャッフル城に攻め込む」
予想していなかった一言だった。
モララーはいつも通りの表情を変えていない。
(,,゚Д゚)「どういうことですか? 昨日の、ショボン大将が行う策は……」
( ・∀・)「あれはなしだ」
(;^Д^)「えっ……?」
( ・∀・)「そういうことにする、ってことだ。間者対策だよ。
俺達はあくまで普通の攻めを装う。その裏で、ショボン大将には策を実行してもらう。
まぁ、なしにするってことだから当然、ショボン大将にも攻めには参加してもらうんだがな」
( ^ω^)「シャッフル城に攻め込むというのは、ショボン大将のサポート的な意味合いが強いんですかお?」
( ・∀・)「だな。サポートというより、俺達が攻め込まなきゃ策が成功しないんだ」
- 24 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:34:59.40 ID:jcM4ZquU0
- 机上の地図に、モララーが筆で線を入れていく。
進軍経路だろう。
( ・∀・)「シャッフル城の南側に布陣したオオカミ軍を攻撃する。
城に入るか、迎撃してくるかは、分からん。どっちでもいい、と俺は思ってる」
(,,゚Д゚)「篭られるほうが、ショボン大将の策は確実性が増しますね」
( ・∀・)「だな。迎撃してくるなら、打ち破るまでだが」
( ^Д^)「しかし、大軍が相手です」
( ・∀・)「まともにはぶつからん。ミルナが出てくると厳しいが、四中将が相手なら何とかなるだろう」
(,,゚Д゚)「しかし、迎撃された場合は、策が苦しくなりますね」
( ・∀・)「そうでもないさ。篭ってくれたほうが楽だが、迎撃されても手段はある」
(=゚ω゚)ノ「篭られた場合は、撤退ですか?」
( ・∀・)「囲う振りをしてからな。包囲する構えを見せれば、相手はまた出てくるだろう。
そこで撤退して、また出陣する。いずれミルナは焦れるはずだ」
(,,゚Д゚)「ミルナは冷静な武将ですが……」
( ・∀・)「ミルナが焦れる、というよりは、四中将が焦れるだろう。
いずれ反発を抑えきれなくなる。もしくは、強引なやり方で抑え込むはめになる」
自信に溢れていた。
やはり頼りになる。東塔にとって、なくてはならない天才。それがモララーだった。
- 29 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:37:59.39 ID:jcM4ZquU0
- ( ・∀・)「全体的に危険な戦だが、シャッフル城を雨季までに奪うにはこれしかない。
個々人の働きが行方を左右するんだ。気を抜かずに頑張ろう」
皆が頷いた。
詳細を更に詰めていく。夜にはモララーとギコがリン城に帰るため、今のうちに決めておかなければならないのだ。
武将を現す駒を上下左右に動かして、戦の想定をモララーが披露する。
いくつもの色で塗られた駒だ。ブーンを現す駒は、青だった。
(,,゚Д゚)「……ん?」
ギコが、ひとつの駒を指差した。
鮮やかな赤で彩られている、馬を模った駒だ。
何故、ギコが指差したのかは、すぐに気づいた。
その駒が、誰にも当てはまらないからだ。
(,,゚Д゚)「これは一体、誰ですか?」
( ・∀・)「あぁ、こりゃ助っ人だ」
( ^Д^)「そんな余裕のある人がいるんですか?」
( ・∀・)「一人でも多く将が欲しいときだからな。多少の無理は承知だ」
( ^ω^)「一体、誰を……?」
モララーは答えなかった。
ただにやりと笑い、そのまま軍議を続行した。
- 37 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:40:52.55 ID:jcM4ZquU0
- ――シャッフル城――
白と黒の入り混じった獣のアーティファクトが、廊下の片隅に置かれている。
猛々しい外見に似合った二本の牙を備えているが、片方は先端が欠けていて不揃いになっていた。
螺旋階段を下って、軍議室に向かった。
四中将のうち、二人はもう中に居るだろう。
あとの二人は、いつも大将である自分より遅い。
いまさら咎める気にもならなかった。
扉を開けるとやはり、中には二人しかいなかった。
( ゚д゚)「……ドラルとリレントは?」
| `゚ -゚|「まだですね」
フィル=ブラウニーと、ガシュー=ハンクトピアは既に着座していた。
溜息を入り口に残して、ミルナも上座に着く。木製の固い椅子が軋んだ。
シャッフル城の軍議室は、気に入っていた。純白の机に漆黒の椅子というバランスが素晴らしい。
置かれている小机や資料棚が全体的に丸みを帯びており、デザイン性のある作りとなっていた。
戦場に向けて士気を高めてくれるような部屋ではないが、落ち着いた気分で軍議ができるのだ。
〔´_y`〕「来る前に呼びかけてきたので、もうすぐ到着するはずですが……」
( ゚д゚)「そうか……すまんな、ガシュー」
ドラルは朝に弱く、寝坊が多い。
どうにかしろと言っているが、改善される気配は全くなかった。
- 46 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:43:52.85 ID:jcM4ZquU0
- (ゝ○_○)「すみません、遅れまして」
起き抜けとは思えないほどすっきりした表情で、リレント=ターフルが軍議室に入ってきた。
知性味に溢れた風貌で、颯爽とした立ち振る舞いも不似合いではないが、どこか鼻につく所作だ、とミルナは思っていた。
リレントが部屋の扉を閉めてすぐ、ドラルも入ってきた。
猿のような顔が脂ぎっていて、思わず不快感が湧く。フィルは眼を背けていた。
( ゚д゚)「よし、軍議を始めるぞ」
地図を広げた。
シャッフル城周辺の地図だ。属城までの距離や地形が詳細に記されている。
地の利は間違いなくこちらにあるのだ。
( ゚д゚)「ヴィップは攻めあぐねている。攻城戦はできないし、こちらは野戦に応じない。
このまま何もせずとも勝てる戦だが、俺は万全を期したい。何か提案はあるか?」
(ゝ○_○)「私は野戦に応じてもいいと思います」
リレントが即座に発言した。またか、といった顔でフィルが見ている。
大将の言葉を、まず否定することから始める。それがリレントだった。
(ゝ○_○)「こちらは五万の兵を有しています。それに引き換え、ヴィップ軍は三万。
戦で使ってくるのは二万五千が精々でしょう。こちらは最低でも四万五千。
"誰かが"よほどのヘマをしない限り、まず勝利は間違いないかと」
〔´_y`〕「……しかし、兵は失うぞ、リレント中将」
(ゝ○_○)「それ以上に敵軍を討ちとれます。上手くいけば一気に二つの属城も落とせるでしょう」
- 50 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:46:51.46 ID:jcM4ZquU0
- | `゚ -゚|「敵軍を殲滅するのには私も賛成です」
( ゚д゚)「まぁ、待て。皆分かっているとは思うが、ヴィップの力は侮れん。
兵数が多いのはこちらだ。が、アルファベットでは正直、ヴィップのほうが上だろう」
(ゝ○_○)「らしくありませんね、ミルナ大将。三年前の戦ではショボンを完膚無きまでに叩きのめしましたのに」
( ゚д゚)「だからこそ、侮れんのだ。敗者は力をつける。ショボンはSからTに上がっているしな」
(ゝ○_○)「でしたら、策を仕掛けましょう。釣りはどうです?」
( ゚д゚)「今から策を仕掛けて引っかかるほど甘くはないぞ、リレント。
ヴィップは必死だ。嘗めてかかると痛い目にあう」
(ゝ○_○)「嘗めてなどおりませんよ。それに、必死だからこその釣りでしょう。
好餌を見せびらかせれば必ず食いついてきます。わざと隙をつくるのです」
活発に意見を出してくれるのは、ありがたいことだった。
ただ、リレントにはやはり、驕りの過ぎる部分がある。
自分が絶対だと、信じて疑わないのだ。
( ゚д゚)「そんな危険を冒す必要がどこにある。相手に見破られたら形勢を逆転されるぞ。
リレント、奇策もけっこうだが、そればかりでは兵の心が離れかねんのだ」
一瞬だけ、リレントが不快感を露わにした。
しかしすぐ、いつもの澄まし顔に戻る。
心の底で何と思っているのかは分かるが、ここは無視したほうが良さそうだった。
- 57 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:49:57.69 ID:jcM4ZquU0
- | `゚ -゚|「しかし、敵軍を殲滅させるのには賛成ですね。何度も出兵してくるヴィップにはうんざりです。
エヴァ城を落としたことでヴィップは調子に乗っていますから、叩き潰しておくのもよろしいかと」
( ゚д゚)「それは確かにな。一度、打ちのめす必要はあるかも知れん」
| `゚ -゚|「ヴィップ軍は必ず攻め寄せてきます。それを押し潰してはいかがでしょうか」
今度はリレントが、またか、という表情を浮かべていた。
野戦での真正面からのぶつかり合い。
そして打ち勝って、敵軍を殺し尽くす。それがフィルの好む戦だった。
女が無数に寄りつく外見とは裏腹な、残虐な一面を垣間見せることがある。
ドラルに視線を向けてみたが、何も考えていないような顔で机を見つめている。
たまに的確な意見を言うことがあるのだが、基本的には全く喋らなかった。
その様が、フィルやリレントからすると愚鈍に見えるのだろう。
( ゚д゚)「しかしフィル、現状を考慮してみてくれ。兵力や兵糧に余裕があるとは言えないんだ。
北西ではラウンジがアリア城を狙っているという情報もある。いや、間違いなく来年には戦になる、と俺は思う。
ここでヴィップと野戦を行えば、大勝したとしても多少の損害は被る。俺はそれを避けたい。
せっかく温存できる力だ。勝てるかどうか分からんラウンジ戦を少しでも有利したいんだ」
フィルが考え込む素振りを見せた。自分の嗜好に合う戦をしたがるが、性根はまともな武将だ。
リレントに比べればまだ扱いやすい、とも言えた。
意見の否定ばかりになってしまったが、今は仕方がない。危険は冒せないのだ。
最初から自分の意見を通すつもりだったわけではないが、念を押すような案が出ればと期待していた。
しかし、結局はいつも通りの軍議だ。
〔´_y`〕「私は、ミルナ大将に賛成です。戦わずして勝てるのであれば、それが最上でしょう」
- 68 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:53:04.76 ID:jcM4ZquU0
- これも、いつも通りだ。ガシューは賛成しかしない。
それでいて、後で二人になったときに意見を出したりするのだ。
軍議で言え、といつも言っているが、周りからの反発を恐れているのは明白だった。
臆病なのだ。
ガシューの意見は、ありきたりのものが多かった。
良く言えば基本に忠実、悪く言えば誰でも思いつく。
しかし、こんな人間も必要なのが、今のオオカミ軍だった。
《 ´_‥`》「僕もそれでいいと思います」
| `゚ -゚|「……私は、これ以上は何もありません」
(ゝ○_○)「三人が同意するなら、私も同意するほかないでしょう」
万全を期したい、と言ったのだ。
同意を求めたかったわけではない。
しかし、言わないでおくことにした。
どうせ、これ以上は何も出てこないだろう。
( ゚д゚)「解散」
この場に居るのが不快になって、部屋を真っ先に飛び出した。
ゆっくり歩いているとガシューに追いかけられる。それを今は避けたい気分だった。
自室として使っている第二訓練室に入って、鍵をかけた。
寝床に身を投げ、腹から息を吐き出す。少し眠気に襲われた。
- 75 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:56:00.53 ID:jcM4ZquU0
- 四中将は、当然それぞれに才があるからこの地位に居る。
ドラルは鈍いが、アルファベットでは自分に次ぐ。
フィルは攻めに長けており、戦の指揮で抜群の力を発揮する。
リレントは明晰な頭脳を活かして、策や謀略による戦を展開させられる。
ガシューは万能型で、何でもそつなくこなし、足りない部分を補える。
要するに、この四人が協力しあえば、オオカミは強豪国になりえるのだ。
それだけの可能性は秘めている。個人で比すればヴィップには及ばないが、力さえ合わせれば。
しかし、性格の不一致や外見が好ましくないという子供じみた理由などで、四人の仲は最悪だった。
東と西に分かれているヴィップに比べれば些細なことかも知れないが、悩ましい問題だと思っていた。
この四人の仲を取り持とうとして色々やってはみた。しかし、どれも芳しい成果を挙げることはできなかった。
現状を憂えているガシューも仲良くやろうとは思っているようだが、大将の意見に賛同しかしないのでは無理だろう。
リレントやフィルに侮られつづけるのは目に見えていた。
ヴィップが東西に分かれているにも関わらず、他国に対抗できているのは、人材が優秀であるからに他ならない。
人口は最低、国土面積も狭いヴィップはそれだけで不利だが、何人もの天才を抱えているのだ。
ショボンはもちろんだ。戦での果敢な攻めの凄さは、実際戦った自分がよく分かっている。
三年前は打ち破ったが、あのときのショボンはどこか未熟だった。経験不足というのもあったのだろう。
しかし、今はどれほどまで成長しているか分からない。だからこそ、野戦は避けたいのだ。
そしてモララー。恐らく、全土でも筆頭に挙げられるほどの天才だろう。
若さと才気を兼ね備えており、常に人より二歩も三歩も先を見ている。
エヴァ城戦では全面的な指揮を取って、こちらの救援が到着する前に奪う電撃戦を展開した。
開戦した報せを受け、その次の報せが陥落だった。唖然とし、戦慄したのを覚えている。
三年前の戦のときはまだ中尉だったが、シャナ城まで狙ったフィルを完全に打ち負かしている。
あれ以来、フィルはモララーとの再戦を熱望しており、今度こそ討つと公言していた。
- 79 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
17:59:11.84 ID:jcM4ZquU0
- 二人の影に隠れているが、ギコという少将もいた。
これも侮れない武将だ。オオカミなら間違いなく自分の右腕だろう。
ガシューのような器用貧乏ではなく、本当の意味で何でもこなす。
非常に負けの少ない武将で、着実に役目を果たし、勝ちを拾う。
こういった武将が一人いると、軍の枢軸が固まって格段に戦いやすくなるのだ。
そしていま注目されているのがやはり、ブーン=トロッソだった。
初陣でファットマンを討ち取り、エヴァ城戦ではミラルドを一騎打ちで破っている。
そのほか数々の戦功を挙げており、入軍して半年ほどしか経っていないにも関わらず、中尉まで昇進していた。
若手の昇進が早いヴィップ東塔と言えど、異例の早さだ。
ショボンと裏で繋がっているのではないか、とも言われているほどだった。
アルファベットもモララーに匹敵するほどの才能があるという。
東塔だけでも、これだけの天才がヴィップにはいる。
西塔の事情はあまりよく知らないが、他にも才のある者がいるのだろう。
他のあらゆる面で不利なヴィップは、人材の優秀さで他国と比肩するにまで至っているのだった。
人材で劣っているなら、やはり人材面を強化しなければならない。
そう考えているからこそ、四中将には力を合わせてもらいたいのだ。
誰にも明かしていない切り札もあるが、地力というものが大切だった。
( ゚д゚)(……腹が減ったな……)
起き上がって、部屋を出た。
もう陽は真上にまで昇っているだろう。昼食時だった。
窓の側を鳥の群れが翔けていった。
羽ばたきの痕跡として、数枚の羽をその場に残していく。
空中で舞い、やがて落ちる。視界から、消える。
- 88 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
18:02:41.46 ID:jcM4ZquU0
- この光景が心に残ることは決してない。すぐに、忘れてしまう。
いつだって、そうだ。これまでも、これからも。
食堂に行って、昼食を受け取った。
兵卒が食べるものと大差ないが、何も言わなくても給仕が品数を増やしてくれる。
いまは兵糧に困っている状況ではない。ありがたくいただくことにした。
白米が光を受けて輝き、出汁の取られた味噌汁からは玉葱が顔を覗かせている。
現地調達の一環としてトーエー川で獲られている魚は、見ただけでも脂が乗っているのが分かった。
魚は照り焼きになっている。こうすると、旨味が格段に深まるのだ。
いくつかの生野菜を和えたサラダと、蒸かした芋の上にバターを乗せた皿は、おまけで加えてくれた。
( ゚д゚)「恵みに感謝致します」
右手を天に翳した。
箸を掴んで、米粒を口に入れる。白米は無味だと言う兵もいるが、独特の甘みがある、とミルナは思っていた。
味噌汁の入った椀を左手に持ち、傾けた。出汁を取ったことによる濃厚な味が口の中に広がった。
鰹節で出汁を取るのがやはり美味い、と思った。これだけで満ち足りるほどだ。
魚の身を箸で解し、少しずつ喉を通していく。一気に食べるよりも味わえるのが、好きだった。
| `゚ -゚|「ご一緒してもよろしいですか?」
昼食を受け取ったフィルが、側に来て言った。
調練をしていたらしく、額には汗が浮かんでいる。
それすら似合い、女にとっては魅力となるのが、フィルという男だった。
( ゚д゚)「あぁ」
| `゚ -゚|「失礼します」
- 101 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
18:06:34.36 ID:jcM4ZquU0
- フィルが向かいに腰掛けた。
手を合わせて箸を手に取り、食べ始める。
品数はフィルのほうが一品少なかった。
| `゚ -゚|「今日は、いい天気ですね」
( ゚д゚)「そうだな」
| `゚ -゚|「思う存分に、馬で駆けたくなります」
( ゚д゚)「分からんではないな、その気持ち」
| `゚ -゚|「ミルナ大将、モララーと戦わせていただけませんか?」
突然の一言だった。
フィルの箸を持つ手は、止まっている。
| `゚ -゚|「雪辱を果たしたいのです」
( ゚д゚)「駄目だ。野戦はやらん」
| `゚ -゚|「モララーを討ち取ってみせます。もし失敗すれば、この首を如何様にもしていただきたいと」
( ゚д゚)「尚更、駄目だ。お前を失えばオオカミ軍は大打撃だぞ。いい加減、自覚してくれ。
お前がモララーに敵わんと思っているわけではないが、勝てる確証もないだろう」
| `゚ -゚|「必ず、勝ちます。今回こそと思ってシャッフル城に来たのです。このままでは、終われません」
- 114 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
18:09:51.34 ID:jcM4ZquU0
- 三年前の戦では、わずか二千しか率いていなかったモララーに、一万のフィルが敗れた。
あそこでモララーを打ち破っていれば、シャナ城も落とせていただろう。
フィルは責任を感じるというよりは、ただ敗戦の悔しさだけを口にしていた覚えがあった。
( ゚д゚)「その気持ちは大事だ。お前があのとき以上に力をつけているのも、知っている。
だが今は我慢してくれ。モララーとは今後、嫌でも戦うはめになるだろう。そのときは、お前を使うと約束する」
| `゚ -゚|「……分かりました」
フィルの右手が再び動き出し、口の中に昼食が消えていった。
他の三人に比べると、フィルは幾分か素直だった。納得すればすぐに引き下がる。
ただし、言ってくることは突拍子がなかったり、無理無謀の過ぎる内容だったりする。
それも、素直であるからこそかも知れない、とは思っていた。
戦に関しては素直だが、フィルは基本的に、他人には理解されがたい性格だ。
残虐性がある。戦場に立つと、それが顕著になるのだ。
好色として知られているが、それも女を虐げるのが好きなだけだろう。
寝室では毎晩、悲鳴に近い喘ぎが聞こえるという。隣の部屋だったリレントが部屋を変えてくれとまで言ったほどだ。
女が果ててもお構いなしで続けるため、女が何も言わなくなったと思ったら死んでいた、ということすらあったらしい。
普段の実直な武人としての姿からは、想像もできなかった。
その部分さえなければ、フィルは有能だった。
攻めに関してはフィルに任しておけばほぼ間違いない。攻めるべき箇所を、天性の嗅覚で判断できるのだ。
ただし、勝ったあとは命令を出す必要がある。放っておけば敵を討ちとることにしか目が向かなくなるからだ。
必然的に、フィルの出る戦は、大将である自分が同行しなければならない、ということになる。
- 122 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
18:13:19.34 ID:jcM4ZquU0
- フィルだけではない。ドラルも、リレントも、ガシューも、一人では戦ができない。
それぞれに癖があるせいだ。全員、上に立つ者がいなければ、まともに戦えない。
一人立ちしてくれればオオカミ軍の編成はかなり楽になる。しかし、期待はできなかった。
だからせめて、四人に力を合わせてもらいたいのだ。
その方法は見つかっていない。見つかる気もしない。
昼食を食べ終え、すぐにまた自室に戻った。
今度は執務が待っている。考えただけでも億劫だった。
部屋を出ていた間に、机の上は書類で埋まっていた。
嘆息を吐いて、執務机に向かう。しかし、書類を手に取る気には、どうしてもなれなかった。
この国は、どうなるのだろうか。
ぼんやりと、そんなことを考え始めた。
漠然としすぎていて、ほとんど無心の状態だ。
オオカミで一番影響力を持っているのは、自分だ。
その自分が行動を起こさなければ、何も変わらない。
四中将の問題も、もちろんそうだ。
( ゚д゚)(……疲れるな……)
懐から、封筒を取り出した。
誰にも見られるわけにはいかないものだ。だから、常に肌身離さず持ち歩いている。
寝ているときでも、戦場でアルファベットを振るっているときでも、そうだ。
この封筒の中に収められた手紙こそ、誰にも明かしていない切り札だ。
今まで頑張ってこれたのは、これによるところが大きい。
思い悩んだり、行き詰まったりすると、必ずこの封筒を手に取った。
- 130 : 底辺OL(三重県):2007/03/26(月)
18:17:05.22 ID:jcM4ZquU0
- これからも、この手紙があれば、頑張っていける。
そう思った。
( ゚д゚)(……俺はこっちで頑張る……だから、できるだけ早く戻ってきてくれ……)
差出人欄の、ラダビノードという文字を確認して、軽く頷き、再び懐に収める。
まずは、このシャッフル城を、確実に防衛することだ。
それだけを考えなければならない、と思った。
第25話 終わり
〜to be continued
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