382 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:00:26.41 ID:OojrKeiY0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
19歳 少尉
使用可能アルファベット:J
現在地:シア城周辺

●('A`) ドクオ=オルルッド
19歳 シャッフル城戦・ブーン少尉配下部隊長
使用可能アルファベット:G
現在地:シア城周辺

●(´・ω・`) ショボン=ルージアル
29歳 大将
使用可能アルファベット:T
現在地:エヴァ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
24歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:シンジ城

●(,,゚Д゚) ギコ=ロワード
27歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:エヴァ城
384 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:02:16.16 ID:OojrKeiY0
●( ^Д^) プギャー=アリスト
25歳 大尉
使用可能アルファベット:L
現在地:エヴァ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
22歳 少尉
使用可能アルファベット:?
現在地:マルコシアス城

●(=゚ω゚)ノ イヨウ=クライスラー
28歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:シア城周辺

●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
44歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●(‘_L’) フィレンクト=ミッドガルド
26歳 シャッフル城戦・ブーン少尉配下部隊長
使用可能アルファベット:I
現在地:シア城周辺
386 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:04:20.00 ID:OojrKeiY0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
34歳 大将
使用可能アルファベット:S
現在地:ヴィップ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
35歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ハルヒ城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
38歳 大尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
31歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
388 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:06:33.79 ID:OojrKeiY0
〜東塔〜

大将:ショボン
中将:モララー/モナー
少将:ギコ

大尉:プギャー/シラネーヨ
中尉:イヨウ
少尉:ブーン/ビロード


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ

大尉:ヒッキー
中尉:ビコーズ
少尉:
391 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:07:57.91 ID:OojrKeiY0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:ドクオ
H:
I:フィレンクト
J:ブーン
K:
L:プギャー
M:
N:ヒッキー
O:
P:
Q:
R:モララー
S:ジョルジュ
T:ショボン
U:
V:
W:
X:
Y:
Z:
393 :この世界の単位 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:09:06.94 ID:OojrKeiY0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

394 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:10:57.20 ID:OojrKeiY0
【第20話 : Fear】


――夜――

――シア城周辺(シア城まで三十里)――

 隊もまともに整っていないうちに駆け出した。

 イヨウが率いていったのは騎馬隊。ブーンは歩兵隊だ。
 逆ならまだ良かった。いくらでも追いつきようがある。
 それに、もしイヨウの配下が歩兵なら、機動力が求められる奇襲など考えなかっただろう。
 ブーンを歩兵、イヨウを騎兵にしたのはショボンだが、無理を言って逆にすれば良かった。
 今さら悔やんでも、遅すぎた。

(;^ω^)「ハァ、ハァ……」

 騎馬隊がいつ出陣したのは知らない。しかし、たかが三十里。
 歩兵なら五刻は要する。しかし、騎馬隊は二刻もあれば充分だろう。

 伝令用に残されていた早馬を前方に送った。
 夜襲をすぐにやめて、引き返せ、と。
 このままイヨウがシア城を攻めれば、結果の如何に関わらず、軍法会議にかけなければならない。
 軍令違反は重罪。ただでさえ、先の戦で降格処分を受けているのだ。
 今回は、斬首すらありえる。

 踏み留まってくれ。
 必死に願いながら、駆けた。
396 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:13:20.79 ID:OojrKeiY0
 起き抜けで駆けている。体力も充分ではない。
 しかし、気にしていられる余裕はなかった。

 ドクオとフィレンクトは後方にいる。半里は離れていないが、隊が徐々に乱れつつあった。
 多少危険だが、隊を二分したほうがいいと思った。足の早い者を前方に固めてあるからだ。
 前方を先駆させ、後方は部隊長二人に任せる。そのほうが隊を乱さずに駆けられる、と考えた。

 すぐに二人へ伝令を送った。
 少ししてから了承の返事が来て、更に速度を上げた。
 ドクオとフィレンクトなら、自分がいなくても上手くやってくれるはずだ。

 イヨウはもうすぐシア城に到着するだろう。
 オオカミ側に、夜襲の備えがあるかどうか。それが鍵だ。
 上手くいけば、敵軍を潰走させられる。イヨウには勝算があるのだろう。
 それに、期待するしかなかった。
 勝てばまだ、命は助かるかも知れない。

 しかし、もし負けてしまった場合。
 ショボンやモララーの怒りは頂点に達するだろう。
 首が刎ねられるのは、恐らく、免れない。

 とにかく思い留まってくれるのが最上だ。
 何度も何度も、祈った。敵陣にぶつかる前に、伝令が到着してくれること。指示を受け入れてくれること。

 朧雲は厚みを増している。
 風も冷たくなってきた。

 雨の気配が、強まっている。
398 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:16:09.38 ID:OojrKeiY0
――シア城周辺(シア城まで五里)――

(=゚ω゚)ノ(……雨か)

 頬を流れる一筋の雨粒。
 目尻から下顎へと向かっていく。

(=゚ω゚)ノ(まるで涙だな……)

 微雨だが、このあたりは地面がぬかるみやすい。
 歩兵なら多少は問題ないが、いま率いているのは騎馬隊だ。
 地面が悪くなると、走れなくなる。

 速度を上げた。

 騎馬隊三千は従っている。三人の部隊長など、戦場に向かう興奮で顔が赤くなっていた。
 独断での夜襲だ、とは言っていなかった。ブーンと相談して、奇襲をかけることに決めた、と伝えた。
 直前まで皆に知らせなかったのは間者を警戒していたからだ、と言えば自然に納得してくれた。

 実際、ブーンさえも知らない夜襲だ。
 敵軍に露見しているわけがない。成功率は高いのだ。
 この奇襲で戦功を得れば、失った信頼を取り戻せる。
 ブーンなどという新米将校の下につくことも、なくなる。

 ブーンに怒りをぶつけるのが、筋違いなのは分かっていた。
 元より、自分の失敗のせいで降格処分となり、補佐に回らされたのだ。
 エヴァ城戦で酒を飲んだ自分のせいだ。分かっていた。
 だが、感情を抑えられるほど器用な性格ではなかった。
403 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:19:04.46 ID:OojrKeiY0
 入軍以来、必死にやってきた。
 アルファベットでは同期の誰より優れていた。今は斧状のアルファベットPに達している。
 奮戦を重ねるうちに、将校に昇格した。攻めの姿勢が評価されたものだった。
 守りはからっきしだが、攻めさせればヴィップ軍屈指。野戦のイヨウ、とまで呼ばれた。

 その自分が、中尉にまで降格された。
 自尊心は崩壊寸前だった。

(=゚ω゚)ノ(……くそっ……)

 幼いころから体が大きかった。
 しかしその割に気が小さく、周囲からは苛めの対象にされた。
 木偶の坊などと呼ばれ、刃向う気概もない自分が、恨めしかった。

(=;゚ω゚)ノ「や、やめてくれよう……ひどいよう……」

 念仏のようにそう唱え続けただけの日々だった。

 十八になった春、両親から国軍入りを勧められた。
 恵まれた体躯を活かせるのは国軍しかない、と両親は盲目的に語った。
 息子の気の弱さなど、お構いなしだ。
 しかし、入軍試験を受けないなら勘当だ、とまで言われては、受けないわけにいかなかった。

 ただアルファベットAを握るだけの試験は、あっさり通った。
 発熱してくれ、という願いも虚しく、国軍入り。不安と恐怖に身を包まれた。
 命をかけて戦をするのだ。怖くないわけがなかった。
406 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:21:16.31 ID:OojrKeiY0
 それ以上に、国軍入りを誇らしげにしている周りの男が怖かった。
 また苛められる。こんな気弱な自分は、きっと虐げられる。
 そう思った。

 しかし、自分にはアルファベットがあった。
 アルファベットを他の新兵たちよりはるかに上手く扱えたのだ。
 周りは自分を尊敬した。他の兵より、常に二つは先のアルファベットを使っていた。
 ショボン大将にも目をかけてもらった。頑張って将校になれよ、の一言で、気弱さなど吹き飛んでしまった。

 アルファベットがあれば、誰にも苛められない。
 更に将校になればほとんどの兵が自分の下になる。それを求めて、頑張った。

 実際、将校になったころには、むしろ人より強気な性格になっていた。

(=゚ω゚)ノ(……雨脚が強まってきたな……)

 怯えているわけではない。
 今の自分なら、例え少尉、兵卒にまで落ちようと、誰からも虐げられるわけがないのだ。
 屈強な体を手に入れた。アルファベットPを扱えるだけの技術もある。

 なのに何故、こんなにも焦っているのか。
 自分でも、分からなかった。

 月灯りもない夜、灯火を持って進軍することもできない雨中。
 闇は深みを極めている。濡れた手の感覚も薄れてきた。
 体が震えている。寒さのせいだと分かっていても、何故か不安になった。

 シア城の周辺に、人影が見えた。
410 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:23:26.76 ID:OojrKeiY0
 オオカミ軍。いま城外に布陣しているのは八千に満たないはずだ。
 こちらは三千だが、すべてアルファベットI。差はかなり小さい。
 まして、敵の虚を突いているのだ。いける。そう確信した。

 気勢を揚げた。
 こちらの咆哮に驚いたオオカミ軍が、算を乱して逃げ出す。
 完全に背を向けている。邀撃の気配などまるでなかった。

 手綱を引いて、速度を上げた。アルファベットを握りしめる。
 アルファベットPを、薙ぐようにして振るった。
 首が二つ同時に飛ぶ。更に二度、三度。
 舞い上がるいくつもの首。

 逃げ惑う敵兵を追った。
 騎馬に追い立てられ、倒れ、討ち取られる。
 オオカミ軍の兵が、目に見えて減っていった。

(=゚ω゚)ノ(……ん……?)

 それに気づいたのは、シア城の門が近くなってからだった。


 オオカミの兵が、少なすぎるのだ。
 八千は布陣しているはずだ。しかし、多めに見ても五千程度。
 残りは城内か。夜襲を予期しておらず、兵を城内で休ませていた可能性は充分ある。

 疑問の答えは、すぐに出た。
415 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:25:57.54 ID:OojrKeiY0
――シア城周辺(シア城まで六里)――

 雨に濡れた髪が垂れ下がってくる。
 掻き上げても、しばらくするとまた視界を塞いでくるのだ。

(‘_L’)「ドクオ部隊長、これを」

 フィレンクトが腰布を手渡してくれた。
 真っ白だったはずの布も、雨に濡れて少し色を変えている。

('A`)「ありがとうございます」

 受け取って、頭に巻いた。
 視界が広がったような気分になった。

 シャッフル城の周辺は地面が悪い。
 少し雨が降っただけでも泥濘しはじめ、たちまち浅い湖へと姿を変える。
 足を取られるほどではないが、走りにくくはあった。

 今はまだ駆けていられるが、これ以上雨が長引くようなら、進軍は困難になる。
 問題は、帰り道だ。シア城から引き返す際、泥濘が酷くなっていた場合、退路を断たれたも当然の状態になる。
 パニポニ城に向かって逃げるという手もあるが、トーエー川を船もなく渡河するのは不可能だ。
 迂回するよりはエヴァ城のほうが近いが、道は悪い。迷いどころだった。

('A`)「フィレンクトさん、退却するときはどこに帰る予定か、聞いていますか?」

(‘_L’)「……いえ、ブーン少尉からは何の指示も受けていません」
420 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:27:55.24 ID:OojrKeiY0
('A`)「この悪路の中、エヴァ城まで引き返すのは辛い……パニポニ城も近いとは言えません……となると……」

(‘_L’)「……とにかく今は急ぎましょう。十里か二十里ほど距離をとって滞陣するという手もありますし、その場で判断すべきだと思います」

('A`)「そうですね……」

 夜襲さえ成功していればいいのだ。
 そうすればシア城に入れる。退却など考える必要はない。

 ブーンとはもう二里は離れただろう。
 とにかく今は救援に急ぐこと。それだけだった。


――シア城周辺(シア城まで四里)――

 疾駆しつづけていた。

 息切れでブーンの体は激しく揺れている。
 体力を奪われにくい走りをしているが、急いで三十里を駆けるのはやはり辛かった。

 しかし、もうすぐだ。
 水分を含んだ地面は走りにくく、体も泥に塗れているが、駆け続けられる。
 イヨウはもう、シア城に攻め込んだだろう。夜襲が成功していることを、祈るしかなかった。

 雨で視界が悪く、数歩先すら目を凝らさなければ見えない。
 シア城までの距離も掴みづらいが、もうかなり近づいているはずだ。
423 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:30:16.44 ID:OojrKeiY0
 ドクオとフィレンクトが指揮している後方隊とは、もう二里以上離れているだろう。
 後ろとの連携は取れない。とにかく今は、シア城に向かって駆けるしかなかった。

 時々方向を確認しながら駆けた。しっかり向かえているはずだ。
 煙雨に進路を惑わされてはかなわない。最短距離で駆けつけなければならないのだ。

 そのとき、前方から、騎馬が現れた。

(;^ω^)(あれは……?)

 闇で顔が確認できない。
 先に止まったのは向こうだった。こちらは止まれない。
 右腕を軽く上げて、並行してくるよう合図を出した。
 馬を反転させて、ブーンの隣に並ぶ。
 走りにくそうにしているが、まだ駆けられるようだ。

(;^ω^)「伝令さんかお?」

(伝;~-~)「ご報告申し上げます」

 伝令章を確認する余裕もなかったが、このタイミングで来るということは、ヴィップの兵だ。

 そしてその兵の表情の、絶望感。
 何を言おうとしているのかが、瞬時に分かった。
425 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:33:01.08 ID:OojrKeiY0
(伝;~-~)「イヨウ中尉は敵陣深く切り込んだところを伏兵のD隊に狙われ、敗走致しました」

 やられた。
 三年前のエヴァ城戦のときもそうだった。オオカミは、敵を自陣に引き入れてから反撃した。
 敵の油断を誘い、大打撃を与える。お得意の戦術だ。
 イヨウは、それにまんまと引っ掛かってしまったのだ。

(;^ω^)「イヨウ中尉の安否は!?」

(伝;~-~)「分かりませんが……あの状況だと、恐らくは……」

 伝令兵が項垂れた。

 シア城までは、あと二里ほどに迫っている。
 同時に判断のしどころだ。どうすべきかの決断を、下さなければならない。

 逡巡が身を包んだ。
 頬を流れるのは、雨か汗か。
 疾走は止まらない。しかし、止めることもできる。

 雨は更に強くなっていた。
 風も、冷たさを増している。

 迷っている時間は、ない。

(;^ω^)「……さっき駆けてきたばかりなのにすみませんお、もう一回行ってもらえますかお?」

(伝;~-~)「え?」
433 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:36:11.27 ID:OojrKeiY0
(;^ω^)「イヨウ中尉の安否と、配下の騎馬隊がどこに逃げたのかを、探ってもらいたいんですお」

 イヨウを、助ける。
 一瞬迷ったが、やはりそれしかない、とブーンは思った。
 まだ討ちとられたと決まったわけではないのだ。

 伝令兵が手綱を引き、再び駆けていった。
 あの馬も、遠くないうちに潰れるだろう。
 戦が終わるまで、何とか耐えてくれ、と願った。

 敵軍にぶつかれば、騎兵は逃げられるだろう。
 不意打ちで敵を浮足立たせられれば、何とかなるかも知れない。
 希望的観測が多いが、やるしかなかった。

 やがて、シア城の城壁が視界に浮かんできた。

 しかし、戦っている様子はない。
 敵軍はいる。こちらに、気付いている。

 地面を埋めているのは、戦い倒れた兵。
 恐らくは、ヴィップの兵だろう。
 血の匂いは雨に流れている。それが、あまりに無情なものに思えた。

 しかし、全滅にしては数が少なすぎる。
 敵軍もそうだ。この場にいるのは、二千か三千といったところだろう。
 つまり、ヴィップの騎兵隊は潰走し、それをオオカミ軍は追撃したということだ。
435 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:38:29.84 ID:OojrKeiY0
 ならば、ここのオオカミ軍と戦っている暇はない。
 だが敵はこちらに気付いている。背を向ければ追撃してくることは必至だ。
 賭けになる。

 倒れた兵の道は、南へと続いている。
 騎馬隊が退却路としたのは、エヴァ城への道だ。
 今はかなりの悪路だろう。馬を捨てている可能性もある。
 追いつけるかも知れない。

 駆け続けてきて、体力がかなり減っているのは間違いなかった。
 オオカミ軍が全力で駆ければ、二里か三里のうちに追いつかれるだろう。

 やはり、賭けだ。
 逃げ切れれば、騎馬隊を追いかけたオオカミ軍の背後を突ける。
 追いつかれれば、ブーンが率いている歩兵隊まで壊滅的な打撃を受ける。

 それが、戦だ。自分に言い聞かせた。
 元より苦境だったのだ。今さら、何も変わらない。

 南へ。
 大声で叫んだ。

 シア城に背を向け、南へ駆けた。
 倒れた兵や馬を道標にして、進む。いずれ追いつけるはずだ。

 後方から慌ててオオカミ軍がついてきた。
 歩兵だ。追いつかれずに済むかも知れない。
439 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:41:16.17 ID:OojrKeiY0
 息は絶え絶え、総身の感覚は麻痺している。
 今は全てを無視して、駆けるしかなかった。


――シア城周辺(シア城まで二里)――

 シア城の周りに布陣しているはずのオオカミ軍が、いない。
 思わずフィレンクトのほうに目をやった。同じように、驚いているようだ。

(;'A`)「これは、どういうことでしょうか……」

(;‘_L’)「分かりませんが……イヨウ中尉が敗北したのは間違いないようです」

 地に伏している兵は、ほとんどがアルファベットIを握りしめている。
 シア城のオオカミ軍にI隊はいないはずだ。ヴィップの兵ということになる。

('A`)「交戦したようですね……オオカミ軍の旗が落ちてますし……」

(‘_L’)「抗うも、敵わず……といったところでしょうか……イヨウ中尉麾下の騎馬隊は敗走したようですね……」

('A`)「ブーン少尉は、それを追った……」

(‘_L’)「そういうことでしょう……となると……」

 これからの行動が、迷いどころだ、とフィレンクトも感じているようだった。
 ブーンの後を追うか。追い付けるかどうかは微妙なところだが、普通はそうするだろう。
 だが、最善ではない気がした。
446 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:44:22.95 ID:OojrKeiY0
(‘_L’)「イヨウ中尉とブーン少尉は、それぞれオオカミ軍に追われていると思います。
   特にブーン少尉を追いかけているオオカミ軍は、上手くいけば背後を突けるかも知れません。
   すぐに進発して、ブーン少尉を救援すべきだと」

('A`)「……いや」

 確かに、それが無難だ。
 場合によっては、最善かも知れない。しかし、引っかかった。
 それでいいのか、という疑問に。

 考えが一つ、浮かんでいる。
 口にするのも憚られるような案だ。何故こんなことを思いついたのか、と自分に問いたくなるような。
 フィレンクトもきっと呆れる。だが、この考えが最善だ、という思いが拭えない。

 迷いに時間はかけられない。
 言うしか、ない。
454 :第20話 ◆azwd/t2EpE :2007/03/09(金) 03:46:40.08 ID:OojrKeiY0
('A`)「……フィレンクトさん、提案があります」

 再進発しようとしていたフィレンクトが、こちらを向いた。
 降り注ぐ雨の音だけが、しばし耳に響いていた。












 第20話 終わり

     〜to be continued

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