- 7 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火)
19:05:30.39 ID:hHAewBYo0
- 〜ヴィップの兵〜
●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:フェイト城
●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:フェイト城
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城
- 10 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:07:29.40 ID:hHAewBYo0
- ●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:フェイト城
●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城
●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
- 13 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:09:24.13 ID:hHAewBYo0
- 大将:ブーン
中将:モララー/ニダー
少将:フサギコ
大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー
(佐官級は存在しません)
- 16 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE
:2010/05 /04(火) 19:11:32.53 ID:hHAewBYo0
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:フサギコ
S:
T:ニダー/ファルロ
U:
V:
W:
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
- 18 :この世界の単位 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:13:18.89 ID:hHAewBYo0
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
- 24 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:15:16.76 ID:hHAewBYo0
- 【第118話 : Last】
――フェイト城・東――
野兎が、夜闇をかき消す炎の光に、吸い寄せられてきた。
動物なのに、火が怖くないのだろうか。
ただ、極端には近付いてこない。
( ’ t ’ )「一緒に食べるか?」
驚かさないように、小さな声を向けた。
そのせいかどうかは分からないが、野兎はすぐにまた闇へと消え去った。
( ’ t ’ )(……動物に好かれた経験ってないな、そういえば)
いくらか寂しく思いながら、火にかけた鍋をかき混ぜる。
一口程度の大きさに切った鶏肉と、野菜を適当に放り込んでいた。
出汁は鶏がらで取っている。
外でこうやって食事を取ることにも随分と慣れた。
たまに、町の料理屋を利用することもあるが、警戒しすぎて疲れてしまう。
正体が発覚するようなことがあると、無用な事態を招きかねない。
( ’ t ’ )(料理も上手くなったかな)
味見のため、鍋の汁を啜る。
当然だが熱く、舌が少し痛くなった。
だが、満足できる味だ。
- 32 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:19:11.78 ID:hHAewBYo0
- 鍋を火から下ろし、器によそって食べ始める。
火の通りにくい鶏肉を先に入れたのは正解だった。
芋も煮崩れしておらず、箸で掴んで食べることができる。
火の弾ける音を聞きながら、鍋の中身を掬った。
風はあまりなく、暑いとも寒いとも思わない夜だ。
だからこそ、だろうか。
( ’ t ’ )「――――何の用だ?」
身構えることはなかった。
殺気は全く感じなかったからだ。
川 ゚ -゚)「……さすがですね、カルリナ様。気配は、完全に殺したつもりでした」
巨大な岩の陰から、姿を現した女。
顔はよく見えないが、紛れもなくクー=ミリシアだった。
( ’ t ’ )「風の強い日なら、気付けなかったかもしれない」
この発言にさして意味はなかった。
クーも、何も言葉を返してこない。
ただ、告げておくべきかもしれない、と思っただけなのだ。
( ’ t ’ )「しかし、よく分かったな」
川 ゚ -゚)「居場所、でしょうか?」
( ’ t ’ )「あぁ」
- 39 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:21:53.78 ID:hHAewBYo0
- この広い大陸で、軍に所属しているわけでもない男ひとりを探すのは、かなり骨が折れるはずだ。
相当に時間をかければ可能だろうが、今のクーにそれほど時間があるとは思えない。
川 ゚ -゚)「間者としての勘が、上手く働いてくれました」
その言葉を愚直に信じられるほど、自分は純粋ではない。
クーという女には、底の知れない不気味さがあるのだ。
クーの手下に、尾行されていたのだろうか。
気配はなかった。今まで一度たりとも感じたことはない。
しかし、尾行されても仕方がないと思えるほどの迷惑をラウンジにはかけた。
( ’ t ’ )「食べるか?」
指で鍋を指した。
クーは、最初に姿を現わしてからずっと、直立不動のままだ。
川 ゚ -゚)「いえ、お気持ちだけで」
( ’ t ’ )「実は、作りすぎて困ってたんだ」
川 ゚ -゚)「……でしたら、お言葉に甘えさせていただきます」
感情を、持ち合わせていないのではないか。
そう思える怜悧さを、端正な顔立ちの裏に隠しているような気がしていた。
しかし、礼儀正しい面も垣間見えた。
間者として必要なものは、全て会得しているのだ。
ただの推測だが、恐らく間違っていないだろう。
- 45 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:25:27.07 ID:hHAewBYo0
- 向かいに腰を下ろしたクーの佇まいは、ただ美しかった。
川 ゚ -゚)「料理がお上手なのですね、カルリナ様は」
器を受け取り、汁を少し啜って、そう言った。
美味しい、と言ってくれているようだが、表情は相変わらずだ。
( ’ t ’ )「自分で毎日作ってれば、多少はな」
昔、ベルが存命だった頃は、自分が食事を作っていた。
その過去については、何となく話す気になれず、伏せておいた。
ただ、クーならば知っていても不思議はない。
川 ゚ -゚)「下野してからずっと、このような暮らしを?」
( ’ t ’ )「まぁ、そうだな」
川 ゚ -゚)「御身体のほうは」
( ’ t ’ )「そんなに柔じゃないさ」
幼い頃からそれほど丈夫な体ではなかった。
入軍してからも、何度か体調を崩し、アルタイムらに迷惑をかけたことがある。
ただ、放浪する日々を送るようになってからは、怪我を負ったことを除けば、自分でも驚くほど快調だった。
( ’ t ’ )「そっちは、どうなんだ?」
クーの長い睫毛が、微かに揺れた気がした。
- 58 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:28:32.66 ID:hHAewBYo0
- 川 ゚ -゚)「どう、とは」
( ’ t ’ )「他愛もない会話に終始するつもりはないんだろう?」
川 ゚ -゚)「……そうですね」
微風に、クーの長い髪が揺れた。
焚火の光で照らし出されていた表情は、また隠れる。
川 ゚ -゚)「御存知かとは思いますが、過日の戦で、ラウンジはフェイト城を失いました」
( ’ t ’ )「……手痛い戦だったな」
両軍が総力を結集させた、過去最大級の戦。
序盤からラウンジが圧倒しつづけ、そのままオリンシス城を奪うのではないかと思った。
ラウンジの勢いが凄まじかったこともあるが、何よりも、ヴィップ兵の疲労は明らかだったのだ。
しかし、最後の最後で、ラウンジは逆転を許した。
ジョルジュ、ミルナというかつての大将二人を犠牲にして、ヴィップは勝利を得たのだ。
あの二人を犠牲にしてまで奪うほどの城ではない。
冷静に考えれば、誰しもがそう思う。
だからこそショボンも、二人が囮となってくることを読めなかったのだ。
どう考えても、愚行。
後々のことを考慮すれば、ジョルジュとミルナの存在は不可欠だった。
それに次ぐのはニダーだが、攻めの戦では二人に遥か及ばない将なのだ。
- 69 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:31:48.07 ID:hHAewBYo0
- ヴィップは敗北を免れる代わりに、かけがえのない将を失った。
今後の苦戦は必至であり、恐らく、再びラウンジが盛り返すだろう。
誰しもが、そう思う状況だった。
川 ゚ -゚)「フェイト城を失ったことは、仰るとおり大きな痛手です」
( ’ t ’ )「トーエー川以南は、厳しいな」
川 ゚ -゚)「まだ二城を有してはいますが」
( ’ t ’ )「ネギマ城もヒダマリ城も、今のラウンジにとって、守りに適した城ではないな」
川 ゚ -゚)「長くオオカミの所有していた城ですから、ラウンジはまだ勝手も分かっていません」
( ’ t ’ )「ただ、ヴィップはすぐさまネギマ城を狙える状況じゃない」
川 ゚ -゚)「仰るとおりです」
戦が終わってから既に一ヶ月ほど経過しているが、両軍ともに動きはなかった。
ラウンジは撤退と、後背の城を防衛の拠点とするための作業に追われている。
ヴィップもフェイト城の防備を固めているようだ。
互いに、城を奪いに行く素振りは見せていない。
( ’ t ’ )「かと言って、東から攻め込むべきか、と言われればそうでもない」
川 ゚ -゚)「ヴィップはギフト城にダイオードを残し、徹底的に防備を強化させているようです」
( ’ t ’ )「そうでなくても、今から大軍を東に移すのは困難だろう」
- 77 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:34:39.47 ID:hHAewBYo0
- 川 ゚ -゚)「空費させてしまうものが、多すぎます」
ヴィップもそうだろうが、ラウンジにとっては更に困難だ。
大軍の行軍は兵糧を多く失う。また、軍が間延びするため、敵の急襲にも気をつけなければならない。
移動速度も極端に遅くなるだろう。攻め込む場合にはあまりにも致命的だ。
川 ゚ -゚)「ラウンジは、攻めあぐねていますが、しかしやはり」
( ’ t ’ )「ジョルジュとミルナの不在は、大きいだろうな」
川 ゚ -゚)「はい。ですから、ヴィップも攻め手を欠いています」
( ’ t ’ )「完全に戦線が膠着してしまったわけか……」
川 ゚ -゚)「加えて……軍内に厭戦感が漂っているのも事実です」
そうだろうな、と思った。
自分が下野して以降のラウンジは、ヴィップに中々勝てていなかった。
領土は縮小し、流れを変えるべく臨んだ三方面での戦も全敗した。
全軍を結集させての総力戦も、途中までは押し勝っていたが、結局は逆転を許した。
基本的に、軍内の士気は、戦に勝利することで上がる。
自分にも経験があるが、負けが込んでくると、士気が低下し、更なる敗北を生むのだ。
負の連鎖を食い止める手段は、戦に勝利することだけだった。
今のラウンジの士気は、落ちるところまで落ちてしまっているのだろう。
しかし――――
- 83 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:38:14.29 ID:hHAewBYo0
- ( ’ t ’ )「厭戦感があるのは、多分、ヴィップも同じだろう」
クーは、僅かに眉尻を動かした。
( ’ t ’ )「確かに戦には勝った。しかし、かけがえのない将を失い続けている」
川 ゚ -゚)「……はい」
( ’ t ’ )「疲労も大きい。勝つためには攻め続けなければならないが……」
川 ゚ -゚)「精神的にも、肉体的にも、それは厳しい、ということですか……」
( ’ t ’ )「それを踏まえた上で考えると――――」
見えてくる道は、たった一つだ。
それがショボンとブーンに見えているのかどうかは、分からない。
ただ、いずれは辿り着くだろう。
川 ゚ -゚)「……考えると?」
( ’ t ’ )「その先のことが、今回の用件なんじゃないか、と思っている」
自分の予測を、クーは理解しているだろうか。
やはり、その表情からは掴み取れない。
川 ゚ -゚)「……そうですね、もしかしたら、そうなのかも知れません」
( ’ t ’ )「じゃあ、そろそろ話してもらおうか」
川 ゚ -゚)「はい」
- 92 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:41:55.43 ID:hHAewBYo0
- クーが居住まいを正す仕草を見せた。
実際には、正す必要などないほど最初から整っていた。
川 ゚ -゚)「実は、ヴィップから会談の申し入れがありました」
( ’ t ’ )「ッ……!!」
川 ゚ -゚)「ブーン=トロッソが、何を話し合いたいのか……そこまでは書簡には記されていませんでした」
( ’ t ’ )「……ショボンは?」
川 ゚ -゚)「会談を、受けると」
やはり、そうか。
いずれはどちらかから、と思っていたが、やはりヴィップだったか。
だが、分からない。
会談をショボンが受けることにしたのであれば、何故。
何故、クーは自分の許へとやってきたのか。
川 ゚ -゚)「ショボン様の意向は絶対です。私は、それに逆らうつもりはありません」
涼やかな、自分にだけはっきりと通るような声で、クーは言葉を続ける。
川 ゚ -゚)「心の底では反対している、というわけでもありません」
川 ゚ -゚)「ただ――――」
( ’ t ’ )「……ただ、何だ?」
- 101 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:45:29.94 ID:hHAewBYo0
- 川 ゚ -゚)「――――カルリナ様に、お願いしたいことがあります」
少し、風が強くなってきていた。
クーの長い髪が、手で押さえなければ、その無表情を隠してしまうほどに。
見たいものが、見えなくなってしまうほどに。
――ネギマ城――
右腕の傷の完治には、時間を要した。
ただ、負傷直後でもZは握れたため、ランクダウンがないことは分かっていた。
恐らく、今の自分はZを扱うに充分すぎるほどの実力を有しているのだろう。
ミルナ、ジョルジュ。それぞれから手傷を負わされたが、Y以下に下がることはなかった。
今もしZを超えるアルファベットが存在していれば、掴めるかもしれない。
ただ、長年Z以上のアルファベットを作り出す研究は行なわれているが、成功には至っていなかった。
(´・ω・`)「悪いな」
クーではない女が運んできた夕食を受け取る。
手狭な軍議室を自室としているが、何ら不満はなかった。
食事も落ち着いて摂ることができる。
右手を使うことも、今は問題なかった。
もはや痛みは感じない。
- 108 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:49:09.03 ID:hHAewBYo0
- もし腕を斬り落とされていたら、絶望的だっただろう。
恐らくZは握れない。S以上のアルファベットも無理だったかもしれない。
隻腕となってから壁を超えたフィレンクトのような芸当が出来る者は、二人といないはずだ。
(´・ω・`)「下げてくれ」
適度な量の夕食を消化しきって、執務に戻った。
戦後処理はまだ終わっていない。特に、後退した領土の整理には時間を要する見込みだ。
(´・ω・`)「…………」
森の中でジョルジュとミルナの一騎打ちを受けた時点で、分かっていた。
フェイト城は恐らく奪われるだろう、と。
いや、元を糺せば、二人が囮になってくることを読めなかった時点で終わっていたのだ。
あの戦は完全に読み合いの帰趨が明暗を分ける戦だった。
二と三の勝負に、是が非でも勝たなければならなかった。
何故読み切れなかったか。
その答えは最初から分かっていた。
今更、思い返すまでもなかった。
二人を討てたことは、相当に大きい。
ヴィップは攻め手を欠いた。間違いなく、攻めあぐねる。
代わりがフサギコやロマネスクではあまりに心許ないだろう。
ただ、ラウンジ軍内の士気が下がっていることは明白だった。
当然、責任は自分にある。鼓舞しなければならないことも分かっているが、難しい。
敗戦の傷を完全に癒しきることはできないだろう。
- 119 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:52:10.74 ID:hHAewBYo0
- そうやって淡々と考えられるほど、自分も完璧な人間ではない。
思いだすたびに腸が煮えくりかえり、頭を壁か床に打ちつけたくなる。
上手くいけば敵将を一網打尽にできたはずの戦で、まさかの逆転を喰らったのだ。
厭戦感が軍内にあることも事実だ。
すぐさま次の戦に臨めるはずはない。
ただ――――だからこそ、泥沼だった。
(´・ω・`)(……士気が下がっているのは、ヴィップも同じだろうな)
自分がヴィップを去って以降、国の中枢を担っていたジョルジュ、ミルナがもう居ない。
精神的な支えを失った傷は、計り知れないほど大きいはずだ。
ラウンジがオワタを失ったことも手痛いが、ヴィップはそれ以上だろう。
次の戦では大きく編成を組み替える必要がある。
調練に時間を割かなければならず、充分に調練を積んでも上手くいくとは限らない。
だからこそ、ブーンが二人を捨て駒にしてくるとは思わなかった。
次の戦は相当に厳しくなる、と、分かっていたはずだからだ。
ラウンジとヴィップの戦はまだ続く。
しかし、終わりが見えてこない。
(´・ω・`)(……だが、こうしている間にも、クラウン国王は……)
国王の病は、進行しているだろう。
恐らく、もって一年、と報告を受けている。
- 127 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:55:03.37 ID:hHAewBYo0
- 次の戦、普通に戦えば、勝つのは間違いなくラウンジだ。
二度戦っても、三度戦っても、ラウンジが勝つだろう。
フェイト城は確実に取り返せる、と見ていた。
ただ、時間がかかる。
どれほど迅速に勝ち進んでも、天下の統一には数年を要するだろう。
それでは、クラウン国王に、ラウンジの世を味わってもらうことはできないのだ。
ずっと勝ち進んでいけるとも限らない。
ヴィップに突如、モララーのような天才新兵が登場し、ジョルジュやミルナの穴を埋めるかもしれない。
同じことがラウンジにも言えるが、いずれにせよ、未来のことを正確には予測しきれないのだ。
だからこその、泥沼だ。
両軍が血反吐を吐きながら戦い続けたとして、いつ終わるのか。
まったく分からないままに戦うのは、心が折れる。兵卒はもちろん、将校でさえも。
国力も落ちてきていた。
既に戦乱が始まってから四十五年。
大地は痩せ細り、民衆にも疲弊や不満が溜まり始めている。
税収が落ちてしまうと戦にも影響が出る。
大軍を擁しての戦が困難になってしまうのだ。
そう遠くない未来、戦を行うことさえできなくなるのではないか、とも言われていた。
無論、それは物資に余裕があると言われているヴィップも同じだ。
領土を奪っていったところで、得られる物資がなければ戦を継続できない。
兵站線の長い戦になると、両軍ともにそちらへと意識が向くため、戦は膠着しやすい。
そして、戦が長引けば長引くほど、物資は失われていくのだ。
- 133 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 19:58:08.75 ID:hHAewBYo0
- (´・ω・`)(ラウンジにもヴィップにも、好材料はほとんどなし、か……)
ならば、どうすべきか。
考えても答えは出ない。
だが――――どうやら、ブーンは違ったらしい。
(´・ω・`)(会談の申し入れ……いったい、何を話す気だ?)
真っ白な封筒を炎の光で透かしながら、そう思った。
今のところは、ほとんど見当もついていない、というのが正直なところだ。
今さら和睦はありえない。
だが、仮にヴィップが勝利を得る道を見つけたとして、何故会談を行なう必要があるのか。
分からないが、会談を断る理由はなかった。
聞くだけなら聞いてみてもいい。
どのみち、すぐに戦はやれないのだ。
ブーンの話が、ラウンジの好機を生む可能性もある。
ヴィップの利にしかならない話なら、聞く耳を持たなければいいだけなのだ。
いま想定できる限りでは、自分にとって不利に働く可能性はない。
会談は、五日後。
場所は、ネギマ城とフェイト城の中間点だ。
済ませておく準備は特にない。
ただいつもどおり執務をこなしながら、その日を待てばいい。
( ̄⊥ ̄)「ショボン大将」
- 143 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:02:40.87 ID:hHAewBYo0
- 扉を二度叩いてから、ファルロが入室してきた。
今やラウンジでは自分に次ぐ将であり、それに次ぐ将は実質いない状態だ。
戦があれば、必然的にファルロに重きを置くことになる。
(´・ω・`)「どうした?」
( ̄⊥ ̄)「……会談について」
(´・ω・`)「あぁ、受けることにした」
自分のなかでは、ブーンからの手紙を受け取った時点で、決めていた。
だが、クー以外には曖昧な態度を取っていたのだ。
特に理由はない。
ただ、もし心変わりがあった場合、クー以外にそれを伝えるのは億劫だった。
クーならば言葉にせずとも自分の気持ちを理解してくれるが、他の将ではそうもいかない。
( ̄⊥ ̄)「ヴィップの話が何なのか、考えていたのですが、分かりません」
(´・ω・`)「そうだな」
( ̄⊥ ̄)「ある程度、予測がついていれば、会談も優位に進めやすいかと思ったのですが……」
(´・ω・`)「そのとおりだが、予想できないものはしょうがない」
今さら、愚策を提示してくるとも思えない。
ただ、良策となると、自分がヴィップの大将だったと仮定しても思い浮かばない。
きっと、鼻で笑うことになる。
- 147 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:05:29.30 ID:hHAewBYo0
- (´・ω・`)「…………」
恐らく間違いないだろう、とも思っていた。
不安もない。
ただ、気持ちだけは、戦に臨む直前と変わりなかった。
( ̄⊥ ̄)「……失礼します」
自分が考えこみ始めたからだろうか。
ファルロは、軽く頭を下げて、静かに退出していった。
自分にもファルロにも、クーにも分からない。
ヴィップ国軍大将、ブーン=トロッソの投げてくる言葉が、まったく分からないのだ。
それでも、分からないままに日々は過ぎて行った。
足早に、されど、ときどき振り返りながら。
――五日後――
川 ゚ -゚)「こちらです」
真っ白な幕舎が見えてきた。
周囲には何もない。見晴らしのいい場所だ。
会談の場所は、ヴィップが用意した。
自分だけで向かうつもりだったが、クーは、罠を警戒して先に幕舎を確認しにいったのだ。
やらなくていい、と言ってもクーは勝手にやる女だった。
- 157 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:08:33.48 ID:hHAewBYo0
- 本来は、クーがやったように警戒しておくべきなのだ。
しかし、自分のなかにはその心が全くなかった。
アルファベットさえ、持っていかなくとも問題ないだろう、と思っていた。
さすがにZは持参したが、もしかしたらブーンはXを持っていないかもしれない。
ただ、仮に丸腰だったとしても、不意を討つつもりなど毛頭なかった。
ブーンとの決着を、下らないものにはしたくないのだ。
(´・ω・`)「お前はここまででいい、クー」
川 ゚ -゚)「……はい」
(´・ω・`)「不服か?」
普段は、こうやってクーの気持ちを確認することなど、ほとんどない。
聞かずとも分かるのだ。
ただ、会談が決まってからのクーは、普段とは違った。
いつものような冷静さが、欠けているようだった。
(´・ω・`)「相応の理由があれば、伴うが」
川 ゚ -゚)「……いえ、私は、ここで」
強要したつもりはない。
クーの言葉は、本心だろう。
尤も、自分に嘘をつくことはない女だ。
川 ゚ -゚)「……もし」
- 163 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:12:04.31 ID:hHAewBYo0
- (´・ω・`)「?」
川 ゚ -゚)「もし、ブーン=トロッソが隙を見せたら……殺してしまいかねない状況ですから」
少しだけ、クーは顔を俯かせた。
実際には、ブーンが隙を見せることなどないだろう。
仮に、そのような隙があったとしても、クーが殺気を見せた瞬間、逆に殺されるかもしれない。
いずれにせよ、クーがブーンを討てるはずはなかった。
だからクーも、"もし"という言葉を使ったのだ。
あくまで仮定。しかし、会談に同席するには相応しくない、と考えているのだ。
(´・ω・`)「そうか」
短く言葉を返して、幕舎へと歩を進める。
クーは、その場から一歩も動かなかった。
入口の前で、一瞬、立ち止まった。
(´・ω・`)「ッ……?」
気配が、思っていたより多い。
一人ではない。二人、中にいる。
ブーンと、あと一人は誰か。
考える必要はなかった。
すぐに分かることだ。
入口を、開いた。
- 171 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:15:00.23 ID:hHAewBYo0
- (´・ω・`)「…………」
( ^ω^)「…………」
正方形の机の向かい側で、自分へと視線を向けた男。
ヴィップ国軍大将、ブーン=トロッソ。
そして――――
( ’ t ’ )「…………」
元ラウンジ軍中将。
カルリナ=ラーラス。
(´・ω・`)「驚いたな」
言葉だけは、そう言ってみせた。
( ^ω^)「ショボン、この会談は」
(´・ω・`)「分かっている」
あくまで、自分とブーンの間で行なわれるものだ。
カルリナ=ラーラスは関係ない。
( ’ t ’ )「自分はただの、立会人です」
(´・ω・`)「傍観者、と言ったほうがいいぞ」
( ’ t ’ )「……申し訳ありません」
- 183 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:18:08.43 ID:hHAewBYo0
- 今頃になって自分の目の前に現れたことを、責めるつもりはない。
ただ、分は弁えておくべきだ。
自分の立場というものを、カルリナが分かっていないはずもないのだから。
(´・ω・`)「ひとつだけ、聞いておきたい」
( ^ω^)「……何だお?」
(´・ω・`)「カルリナの存在は、お前の計らいか?」
カルリナが、すぐさま言葉を発しかけた。
が、口を噤んだ。
自分は、ブーンに回答を求めている。
( ^ω^)「……いや、それは」
(´・ω・`)「分かった、もういい」
ブーンでなければ、思い浮かぶのは一人しかいない。
カルリナを呼んだ理由も、考えられるのは一つだけだ。
(´・ω・`)(……だからさっき、あんなことを言ってたのか)
だが、今はどうでもいいことだ。
改めて、ブーンの前に着座する。
(´・ω・`)「始めよう」
( ^ω^)「……だお」
- 189 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:21:12.29 ID:hHAewBYo0
- ブーンの背後には、アルファベットX。
自分がもしZを向けようものなら、瞬時にXを掴んで防いでくるだろう。
しかし、ブーンにもあまり警戒心はないように見えた。
( ^ω^)「今回の目的は、たった一つ。この誓約書に名前を書いてもらうことだけだお」
そう言って、ブーンが懐から封筒を取り出した。
(´・ω・`)「見せてもらおうか」
とりあえず、ここまでは予想できていた展開だ。
何らかの提案をしてくる。正式な文書への調印を求めてくる。
それは、間違いなく起こる流れだろうと思っていた。
だが、その、提案内容。
(´・ω・`)「……なんだ、これは」
ブーンが差し出した誓約書を、手に取って、三つに折られていた紙を伸ばす。
すぐさま、全文に目を通す。
( ^ω^)「…………」
それほど文字は多くない。
提案そのものは、実に単純だった。
だが――――自分の予想には、まったくなかった。
(´・ω・`)「この提案は……お前、本気で言っているのか?」
- 201 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:24:38.90 ID:hHAewBYo0
- ( ^ω^)「なにか、不明瞭な点が?」
(´・ω・`)「馬鹿げている、と言っているんだ」
自分は、冷静さを失っている。
それは分かっている。
だが、ありえないのだ。
何故、どうしてブーンは、この道を選んだのか。
考えられない。自分がブーンだった場合、この策だけは絶対に採用しない。
愚策どころではなかった。
( ’ t ’ )「きっと、ショボン大将、貴方は――――」
不意に口を開いたカルリナは、そこまで言って、またも口を噤んだ。
今度は、自主的だった。
(´・ω・`)「俺は、なんだ? カルリナ=ラーラス」
カルリナからも、この誓約書の内容は確認できるはずだ。
しかし、驚いた様子が全くない。
まるで、最初から予想できていたことであるかのように。
( ’ t ’ )「……きっと貴方は、この策のような思考を無意識下で殺しているんです」
- 216 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:27:51.19 ID:hHAewBYo0
- (´・ω・`)「…………」
( ’ t ’ )「貴方の知力ならば、すぐに"ありえない"という結論に至る策だからこそ」
( ^ω^)「…………」
( ’ t ’ )「貴方は、この策を考えもしなかった」
カルリナが、軽く頭を下げた。
自分の視線はまた、自然と誓約書へと向く。
カルリナの、言ったとおりかもしれない。
愚策だ、という考えに至ることもないような策だ。
思考に値する条件、というものから完全に外れてしまっている。
しかし、ブーンの狙いは、自分の意表を突くことではなかったはずだ。
この策は、仮に自分が途中で気づいたとしても、防ぎようがない。
ならば何故――――
(´・ω・`)(……そうか)
この策しか、なかったのか。
他に、勝てる道はなかったのか。
苦渋の選択、だろう。
だが、それが最善だったのだ。
- 229 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:31:05.86 ID:hHAewBYo0
- ――――自分とブーンが、一騎打ちを行なう。
そして、勝利を得た大将の国が、敵国全ての領土を支配する。
ただ、それだけ。
アルファベットのランク差を考えれば、ブーンの圧倒的不利は明白だ。
だからこそ、愚策としか言いようがない策だ、と思った。
自分から見れば、それは間違いではない。
だが、ヴィップからすれば、他に選べる道はなかったのだ。
自分が、ヴィップから離れた。
プギャーやオワタも同時に離反したうえ、中将ギコも失った。
モララーも深手を負い、しばらくは戦線に復帰できていなかった。
誰が見ても、ヴィップは滅亡寸前だった。
ミルナが加わっていたものの、ジョルジュも病に倒れており、戦力は明らかに不足していたのだ。
(´・ω・`)(……その、どん底で見出した光明、か)
敵に守る暇を与えないほどの、連戦。
それは、寡兵のヴィップにとっては、まさに博打だっただろう。
だが、ブーンはやってのけた。
多くの犠牲を払いながらも、奪われた領土を取り返すことに成功した。
そして今、両国の領土は、ほぼ同等だ。
(´・ω・`)(この状態に至るのを待っていたのか……)
- 242 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:34:06.25 ID:hHAewBYo0
- 互いの支配地を、一騎打ちの結果によって全て明け渡す。
それは、ヴィップの領土が明らかに少ない場合は、不公平感が出てしまい、納得を得られない可能性がある提案だ。
だからこそブーンは、領土を二分することに拘ったのだろう。
過日の戦で、ジョルジュとミルナを犠牲にしてまでフェイト城を奪った理由も、それだ。
領土を二分さえすれば、ブーン以外の将は必要なくなるためだ。
しかし、自分の首は何度か脅かされている。
ミーナ城攻防戦での、ミルナのWによる一撃や、フェイト城攻防戦での二対一。
あそこでもし、自分が討たれていた場合、ヴィップの逆転の策はどうなっていたのか。
自分が居なければ、ラウンジの戦力は大幅に低下する。
恐らく、疲弊に喘ぐヴィップであっても、ラウンジを圧倒するだろう。
自分の代わりは誰にも務まらないからだ。
途中で首を取れれば、危険性を減らすことができる。
ヴィップ側からすれば、不利益は何もないだろう。
場合によっては、ヴィップは、ラウンジを降伏させることさえ可能な展開かもしれない。
では何故、フェイト城攻防戦でジョルジュとミルナが囮になった際、ブーンが一緒に来なかったのか。
その答えは単純で、一緒に森に入ってしまえば、間違いなくブーンも討たれるからだ。
自分は、一騎打ちを避けようと思えば避けられただろう。
格好はつかないが、敵に背中を向ければ避けようはあった。
そうなった場合、圧倒的なラウンジ軍に押し潰され、ヴィップの三人は無駄死にとなる。
三対一では自分の不利は明白だ。
一騎打ちを受けるはずがない、とヴィップも踏んでいたのだろう。
だからこそ、ジョルジュとミルナの二人だけだったのだ。
- 253 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:37:35.89 ID:hHAewBYo0
- 先の戦までのヴィップの勢いを考えれば、そのまま勝ち進めるのではないか、と感じる兵もいるだろう。
だが、あくまでヴィップは先を見ない戦いだったからこそ勝利を得られていたのだ。
ここから普通に戦を行なえば、ラウンジの優位は明白だった。
あるいは最初から、領土の二分など目指さなければ。
余力を残しながら戦っていれば。
そうも考えられるだろうが、その場合は、ラウンジに対抗できていなかったはずだ。
領土を二分するまでは、常に全力を出し尽くす。
だからこそヴィップは勝てていたに過ぎない。
(´・ω・`)「…………」
ブーンが目指していたものは、はっきり分かった。
ここから先は、自分がどうするか、だ。
まず考えるべきは、ブーンの提案を蹴った場合のこと。
ラウンジは今後の戦を、恐らく優位に立って進められるだろうという予測がある。
単純に一つずつ城を奪っていけばいいのではないか、という考え方もあるだろう。
だが、それも確実な話ではない。
ヴィップ兵に疲労があるのと同じように、ラウンジ兵には厭戦感がある。
それがどこまで影響を及ぼすかは、やってみないと分からないのだ。
大地や民が枯れてきていることも懸念材料の一つだ。
恐らくブーンは、それも読んでいたのだろう。
長く戦うことはできまい、と。
そして何よりも――――
- 260 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:40:31.42 ID:hHAewBYo0
- (´・ω・`)(……クラウン国王……)
もう、猶予はない。
早く天下を得なければ、国王にラウンジの世をお見せすることは叶わないのだ。
(´・ω・`)「…………」
自分とブーンのアルファベットランク差は、二つ。
仮にブーンがYまで上がってきても、自分のほうが有利であることは間違いない。
Zにまで成長されると勝敗は分からなくなるが、それは猶予を与えなければそれで済む話だ。
誓約書に記された一騎打ちの日付は、三ヶ月後だった。
これならば、Yに上がることはあっても、Zに到達することはありえないだろう。
つまり、一騎打ちは、自分が有利。
ヴィップにとって最善で、ラウンジにとって好都合。
この状況を生み出すことに、ブーンは苦心していたのだろう。
そこは、敵ながら見事というしかなかった。
(´・ω・`)「いいだろう」
( ^ω^)「……!」
机上の筆を手に取って、紙の上を滑らせる。
自分の名を、書き記す。
(´・ω・`)「俺の権限を持ってして、ヴィップ軍の提案を受け入れよう」
(´・ω・`)「大将同士の一騎打ち。それを以て、全てに決着をつけよう」
- 273 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:43:26.84 ID:hHAewBYo0
- ブーンは、軽く頷いた。
そして、自分と同じように、名前を書き記した。
( ^ω^)「……決まりだお」
互いの全ての領土を賭けた、一騎打ち。
考えたこともなかった。しかし、それもいい、と思える。
最後の最後は、小さな戦いで終わる、というのも悪くないだろう。
結局、最後に鍵を握ってきたのは、アルファベットだったのだ。
( ^ω^)「じゃあ、今度はアルファベットの扱いについて、だお」
(´・ω・`)「……誓約書の中段に書いてあるやつか」
一騎打ちが終わったあとの、支配地の明け渡し方。
実際には複雑な手順を踏むことになるだろうが、それは後でもいい。
ブーンが懸念しているのは、一騎打ちで決着をつけても、不服に思った兵が刃を向けかねない、という点だ。
愛国心が強い兵ならば、自国の滅亡には耐えられないかもしれない。
自刃するのはまだいいが、敵国に突撃するようでは一騎打ちの意味がなくなる。
そう考えたであろうブーンが取ろうとしている手段は、アルファベットの消滅だった。
(´・ω・`)「三日で消えることを利用するわけか」
( ^ω^)「そうだお」
- 281 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:46:25.30 ID:hHAewBYo0
- それは、以前に自分がブーンに提案したことと同じだ。
アルファベットは、人の手に三日触れないままでいると、自然消滅する。
その特徴を利用して、和睦を図ろう、とラウンジ大将になってすぐの頃、提案したことがあった。
生産所や鉱山の閉鎖も必要になるが、それほど難しいことではない。
密かにアルファベットを隠し持とうとする兵は現れるかもしれないが、厳重に監視していれば問題ないだろう。
仮に一つや二つ、アルファベットが残ったとしても、その程度なら大事には至らないはずだ。
両軍全てのアルファベットが消滅すれば、戦う術はなくなる。
厳密には、アルファベット以外の武器を使えばいいが、普通の武器を作ろうにも大規模な生産所は閉ざしてあるのだ。
大将がしばらくアルファベットを持ち続けていれば、一般兵が抗おうとする意思は大きく削がれるだろう。
一騎打ちの結果を、兵に受け入れさせることも恐らく可能だ。
後の実際の領土譲渡は、問題なくやれるだろう。
(´・ω・`)「アルファベットの消滅証明はどうする?」
( ^ω^)「全兵とアルファベットを、国境線上に集めることで証明するつもりだお」
(´・ω・`)「まぁ、そんなところか。あとは互いの査察だな」
互いに、互いの軍力は把握している。
兵数の大規模な誤魔化しは効かない。
つまり、兵を手ぶらの状態で何もない国境線上に集めれば、互いを監視できる。
その状態ならば、アルファベットを消滅させられるのだ。
生産所は物理的に破壊しなければならない。
また、鉱山も採掘所への道を通行不能にしなければならない。
それは、互いに兵を派遣しあって確認すれば済むだろう。そのための三ヶ月だ。
- 291 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:50:02.36 ID:hHAewBYo0
- そこまで確認できれば、アルファベットの消滅をほぼ証明できる。
実際には、極僅かな数を隠し持つことは可能だが、指示するつもりはもちろんなかった。
ブーンも、同じだろう。
一騎打ちを行ない、勝利を得ることができればいい。
味方のものであっても敵のものであっても、余計なアルファベットは存在しないほうがいいのだ。
(´・ω・`)「他に、懸念材料は?」
( ^ω^)「……特にないお」
(´・ω・`)「そうか。ならば、後は戦うだけだな」
ブーンの瞳が、一瞬強く光った。
連戦による兵の疲弊も、ブーンの策略どおりだったのかもしれない。
ラウンジを連敗させることによって兵に厭戦感を与えることも、全て。
そうやって、周りの兵を戦から遠ざける。
そして最後は、大将だけに全ての責を負わせる。
自分が大将となって、自分に全てを集中させたのだ。
しかも、相手のアルファベットのほうが上位であることを、分かっていながら。
極限まで、ブーンは追い込まれていた。
絶体絶命の窮地から、這い上がろうとしていた。
行き着いたのは、結局のところ、自分の力で勝利を得る手段だったのだ。
(´・ω・`)「……待て、ブーン」
- 300 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:53:23.72 ID:hHAewBYo0
- 会談が終わったのであれば、ここに居る意味はない。
席を離れかけたが、ひとつ、抜けがあることに気付いた。
(´・ω・`)「一騎打ちの場所は、どこだ?」
それが、誓約書に記されていなかったのだ。
( ^ω^)「……それは、決めてないお」
(´・ω・`)「何故だ?」
( ^ω^)「どっちかが一方的に決めれば、相手に疑念を与えかねないから、あえて決めなかったんだお」
例えば、子供が作ったような幼稚な落とし穴であっても、一騎打ち中に嵌まってしまえば、敗北必至だ。
つまり、一方的に決められた場所には罠が仕掛けられているかもしれない。
それをブーンは懸念して、あえて場所を決めていなかったのだ。
(´・ω・`)「別に、どこでもいいがな。邪魔さえ入らなければ」
( ^ω^)「ひとつ、候補として考えてる場所があるお」
(´・ω・`)「どこだ?」
( ^ω^)「双頭の森」
( ’ t ’ )「ッ……」
何故カルリナが僅かに反応したのかは分からない。
ただ、森の場所は知っている。
フェイト城の西、それほど遠くはないところにあった。
- 309 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 20:56:25.93 ID:hHAewBYo0
- あの森は、中央に大きな、何もない空間があるという。
一騎打ちを行なうにあたって、広い場所は不可欠だが、双頭の森なら問題ないだろう。
森の中は外部からの干渉も受けにくい。
ブーンが提案した場所であっても、自分が疑念を抱くことなどなかった。
もし何らかの罠を用意するのであれば、今日、この場でやっているはずだからだ。
(´・ω・`)「そこでいい。公平性のために、一騎打ちの日まで両軍の兵を周辺に派していれば万全だろう」
( ^ω^)「衝突しないように、少し遠ざけて森を監視する……罠を仕掛けたりしないように、ということかお」
(´・ω・`)「そうだ」
自分の部下だった男だ。
細かく言葉の意味を説明せずとも、理解する。
それをブーンは、特に気にしている様子もなかった。
( ^ω^)「監視役は両軍それぞれ三十名。アルファベットは持たせない。それでいいかお?」
(´・ω・`)「あぁ」
ブーンが、軽く息を吐いた。
心を落ち着かせるためのような、あるいは、鼓舞するためのような。
そんな、不思議な息だ。
自分が席を立つのとほぼ同時に、ブーンも席を立った。
互いに、背を向ける。
次に相見えるときは、全てを終わらせるときだ。
- 320 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:00:16.60 ID:hHAewBYo0
- カルリナは、深々と頭を下げたようだった。
それを一瞥することもなく、幕舎から退出した。
――フェイト城――
( ^ω^)「みんなの間に、不満はあるかもしれないお」
( ^ω^)「我が侭で、傲慢で……独裁的だと思う人もいるかもしれないお」
( ^ω^)「だけどそれでも、ブーンは、この手で決着をつけたいんだお」
( ^ω^)「この国に……いや、ラウンジにももう、長く戦をやれる体力は残ってない状況で……」
( ^ω^)「でも、和平はありえない。だから、どこかに終着点を見出す必要があったんだお」
( ^ω^)「……不安に思う人もいるはずだお。だけど、ブーンは約束するお」
( ^ω^)「必ず、必ず勝利を得てくると」
水を打ったような静けさに包まれていた、大広間。
そこに、漣のように徐々に、ざわめきが広がっていく。
不安ではないらしい。
怒りでも、ないらしい。
( ^ω^)「みんな、今までヴィップのために尽力してくれて、ありがとだお」
( ^ω^)「あともう少しだお……もう少しだけ、力を貸してほしいお」
- 329 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:03:32.95 ID:hHAewBYo0
- ( ^ω^)「みんなが信じてくれれば、ブーンは、必ずショボンの首を取ってくるお」
片隅から、気勢が上がった。
それを皮切りに、方々で気迫の篭った声が上がり始める。
( ^ω^)「みんなの力を、アルファベットに乗せて――――この国の勝利を、掴んでくるお!」
兵の声はやがて、大きな喊声になった。
アルファベットXを突きあげると、同じように、兵もアルファベットを掲げてくれた。
今まで自分たちを支えてくれた、アルファベットを。
フェイト城に留まっている兵たちへの説明を終えたあとは、すぐ軍議室に向かった。
将校は、大広間から既に移動しているはずだ。
( ^ω^)「すみませんお」
ニダー=ラングラー、フサギコ=エヴィス。
アニジャ=サスガ、オトジャ=サスガ。
ロマネスク=リティット、ルシファー=ラストフェニックス。
主要な将は今、全てこの城に集っていた。
<ヽ`∀´>「お疲れ様ニダよ、大将」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
( ´_ゝ`)「大勢の前で、あの堂々とした説明、演説……もはや俺を超えたかもしれん」
(´<_`;)「やったこともないアニジャが何を言っているんだ?」
- 339 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:06:35.86 ID:hHAewBYo0
- ( ФωФ)「しかし、ほとんどの兵に納得してもらえたようですな」
ミ,,゚Д゚彡「やっぱ、精神的にも肉体的にも、キツくなってきたんだろうな、みんな……」
(个△个)「分かります、僕も一人でヒトヒラ城を守ってたときは毎日真っ赤なおしっこが出てましたから」
<;`∀´>「ルシファー、それは普通に危ないニダ。医師に見てもらうべきニダ」
(;^ω^)「ごめんだおルシファー、辛い任務を……」
(*个△个)「いやぁー平気です! 結局なんにも起きませんでしたし!」
( ^ω^)「それは、ルシファーが隙なく守り抜いてくれたからこそだお」
ミ,,゚Д゚彡「まさしくそう思うぞ、ルシファー」
(*个△个)「ありがとうございます!」
皆で会話する時間を取れたのも久方ぶりのことだ。
空気は弛緩しており、少しばかり解放感さえあるように思える。
誰も口にはしないが、将校たちも限界は近かった。
特に、ショボンが裏切って以降、重い役割を担ってきたニダーやフサギコの心労は計り知れない。
元西塔の将の心に、今も沈痛な音色を響かせているのは、ジョルジュの死だろう。
長年、心の拠り所として存在してきたジョルジュを、先の戦で失ってしまった。
さすがに、戦の直後は、元西塔の将の誰もがまともに口を開くことができていなかったのだ。
一ヶ月が過ぎた今は、いくらか和らいでいるだろう。
それでも、今も時折ニダーやフサギコ、サスガ兄弟らが切なげに空を眺めている光景を見ることがある。
- 346 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:09:45.84 ID:hHAewBYo0
- 自分にとっても、尊敬する将であったジョルジュ、ミルナの死は、重かった。
事前に覚悟できていたぶんだけ、まだ良かったのだろうが、それでも心の深層部にまで沈み込んでいった。
自分が大将となって以降、常に側で支え続けてくれた二人だ。
もはや、親の仇だったことや敵国の大将だったことも、考えなくなってしまったほどに、信頼していた。
その二人に、戦の帰結を、見届けてほしかった。
( ω )「…………」
勝つしかない。
二人のためだけではなく、今までヴィップに尽くしてくれた、全ての人のために。
勝利を得るしか、ないのだ。
( ^ω^)「……今後の予定について説明しますお」
一度座った席から立ち上がって、地図を広げた。
世界地図とでも言うべき、全ての城の所在を把握できる規模の地図だ。
( ^ω^)「これから、しばらくの時間をかけて、ブーンは各地の城を回りますお」
ミ,,゚Д゚彡「説明のためだな?」
( ^ω^)「ですお。自分が直接そうするのがいいと思ってますお」
<ヽ`∀´>「それが終わったら、今度はアルファベットの放棄、ニカ」
( ^ω^)「そうなりますお。ラウンジと示し合わせて、互いを監視できるような状態で、放棄しますお」
- 356 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:12:52.22 ID:hHAewBYo0
- ( ФωФ)「しかし、近づくわけにもゆかぬ状況での確認に、問題はないでしょうか?」
( ^ω^)「アルファベットを一点に集めれば、確認しやすいはずだお」
(个△个)「でも正直、少しくらいならこっそり隠し持っててもバレないですよね?」
(;^ω^)「そうしたいのかお?」
(;个△个)「いやいや! むしろ手放したいです!」
( ^ω^)「懸念してるのは、ラウンジ側のことかお?」
(个△个)「そうですね。隠し持たれてたら、不意を打たれる可能性もあるはずです」
( ^ω^)「互いの兵力数は把握できてるんだお。相手がたくさん兵を隠してたりしない限りは、問題ないと思うお」
(´<_` )「先の戦は、一人でも多くの兵が欲しい戦だった……だから、ほぼ全兵を把握できている、というわけか」
( ^ω^)「そうですお、オトジャさん」
( ´_ゝ`)「確かに、僅かばかり兵を隠すことができたとしても、その程度なら保持できるアルファベット数は知れている」
( ^ω^)「加えて、高ランクアルファベット使いを隠すことは不可能ですお」
ミ,,゚Д゚彡「なるほど、下位アルファベットを保持されていたとしても、大将がいれば楽に倒せるから問題ないってことか」
( ^ω^)「ヴィップからしてもラウンジからしても、そういうことになりますお」
- 361 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:16:01.30 ID:hHAewBYo0
- 実のところ、ラウンジがアルファベットを隠し持つ可能性はほぼないと見ていた。
例え一千ほどのアルファベットIを隠し持てたとしても、それだけならば門を閉ざして籠城すれば防げる。
万を超える数を保持できれば話は変わってくるが、不可能だろう。
互いの城を査察することにもなっている。
深い森の中にアルファベットを運び出せれば見つからないかもしれないが、運び出す時点で発覚するだろう。
領土の奥地までは見張り切れないが、いずれは前線に運ばなければならないため、同じことだ。
多少のアルファベットを隠し持ち、多少の不意を突いても、戦は終わらない。
また泥沼になり、いずれはアルファベットを復興させる動きが出てくるだけだ。
それでは今と変わりがない。誓約書に署名した意味がない。
一騎打ち後にアルファベットを残すことも、余計な火種を生みかねない。
つまり、自分もショボンも、アルファベットは完全に消滅したほうがいい、と考えているのだ。
だからこそ、アルファベットを隠し持っていた者に対しては、いかなる理由があろうとも死罪を与えることになっている。
( ^ω^)「いま、鉱山の閉鎖に向けた準備を行なってますお」
ミ,,゚Д゚彡「パニポニ城の守兵は忙しくなりそうだな」
<ヽ`∀´>「まぁ、たまには忙しくなったほうがいいニダよ」
( ^ω^)「あとは生産所の閉鎖……これは、各地を回って説明して、準備を進めますお」
( ФωФ)「大将の出立の予定は?」
( ^ω^)「明日には城を発って、まずはヒトヒラ城に向かう予定だお」
- 363 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:19:04.84 ID:hHAewBYo0
- <ヽ`∀´>「適度に休みを挟みながら行ってほしいニダ。途中で倒れたら大変ニダ」
( ^ω^)「ありがとうございますお、ニダーさん」
予定は詰まりきっている。
一騎打ちの日まで、ほとんど休みは取れないだろう。
アルファベット消滅のための準備はもちろんだが、自分にとって、それ以上に大事なことがある。
アルファベットYへのランクアップだ。
シブサワには随分前から依頼してあった。
今は、最高のYを作り上げるべく、碌に休みも取らずに何度も製作を重ねているらしい。
アルファベット職人としての意地だ、とシブサワは言っていた。
その、Yを掴むべく。
( ^ω^)「……出立の前に、皆さんにお願いがありますお」
談笑していた諸将の顔が、武人のそれになった。
――第二訓練室――
訓練室を使う兵はもはやいない。
アルファベットの鍛錬を重ねる必要は、ない。
ラウンジに消滅を示すべく、アルファベットは暫く保持するが、ランクアップを目指す必要はないのだ。
ただ一人、自分を除いては。
- 375 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:22:05.47 ID:hHAewBYo0
- もはや、アルファベットを振るう機会さえない。
兵卒はもちろん、自分以外の将校たちもだ。
つまり、これが別れになる。
( ^ω^)「お願いしますお」
(;个△个)「お、お願いします!」
アルファベットLを構えるルシファー。
表情や口調からは、はっきりと怯えが見て取れる。
ただ、その構えには僅かな隙もなかった。
アルファベットXを、振り上げる。
すかさず懐に飛び込んできたルシファー。
Lの先端にある小さな刃が、自分の腹部を狙っている。
左に動いて躱した。
振り上げたXを、そのまま振り下ろす。
しかしルシファーは機敏に、瞬時に横転してXの刃から逃れた。
すぐさま立ち上がって、Lを薙いでくる。
受け止めた。衝撃は、決して軽くはない。
自分が思っていた以上に、ルシファーには才能があったようだ。
(;个△个)「うわっ!」
Lを強引に弾く。
慌ててアルファベットを引き、ルシファーは身を守ろうとした。
- 383 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:25:39.89 ID:hHAewBYo0
- それよりも遥か速く、自分のXはルシファーの首筋に触れかけていた。
(;个△个)「つ、強い……さすがです、ブーン大将」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
(*个△个)「ありがとうございました!」
ルシファーが深々と頭を下げた。
入れ替わり、次は、ロマネスク=リティット。
( ФωФ)「よろしくお願い致しまする」
( ^ω^)「よろしくお願いしますだお」
ロマネスクは、最初から守りに入って動かない。
両手に持ったアルファベットNは、微動だにしていない。
攻めにくい、と感じさせられる。
踏み込むことを、躊躇ってしまうほどに。
Xを、その場から突きだした。
ロマネスクには届かない、と分かっている。
ロマネスクは、ほとんど動じていなかった。
眼前までXの刃が迫っても、構えを崩さないのは、見事としか言いようがない。
ただ、それでも僅かな動揺を誘うことはできた。
- 389 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:29:08.89 ID:hHAewBYo0
- 左足を踏み出す。
ロマネスクの右手が、瞬時に動いた。
一拍遅れて、左手も。
二つに分離したN。
まず、右を落ち着いて受け止める。
同じように左も受けようとしたが、ロマネスクに察知され、軌道を変えられた。
右を弾いて、身体を沈める。
ロマネスクの左は、空を切った。
(;ФωФ)「ッ!!」
あとは、隙の生じた懐にXを突き出して、終わりだった。
( ^ω^)「ありがとうございましただお」
(;ФωФ)「ありがとうございました」
息を乱したロマネスクが下がる。
変わって、サスガ兄弟が前に出た。
( ´_ゝ`)「俺たちのコンビネーション、とくと味わえ!」
(´<_`;)「二人がかりを躊躇わないとは、流石だなアニジャ」
( ^ω^)「問題ありませんお。お願いしますお」
- 405 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:33:41.72 ID:hHAewBYo0
- 二人が横に並び、同じようにPを構える。
後ろに門があれば、まるで門番のように思えるだろう。
それも、絶対に通ることができない、と諦めさせるような威圧感を持った門番だ。
普段、武人らしいとは言えないサスガ兄弟だからこそ。
その峻厳な表情は、容易に攻め込めない雰囲気を醸し出していた。
( ´_ゝ`)「行くぞ!」
アニジャの合図で、二人が同時に動き出した。
まずはオトジャ。斜めに振り下ろされるP。
そしてアニジャは、下からの攻め。
渾身の力で、オトジャのPを跳ね上げる。
そして、アニジャのPを叩く。
サスガ兄弟は、怯んでいなかった。
すぐに体勢を立て直して、果敢に攻め込んでくる。
休まない。打ち合いが、続いていく。
さすがに、二人が相手ではそうそう攻め込む隙を見出せない。
操るアルファベットも長尺のPであるため、尚更だ。
しかし、ショボンはZを扱う。
今と同じように、左右から攻められることは間違いない。
Pを相手に手間取っているわけにはいかないのだ。
(´<_`;)「ぬっ!?」
- 407 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:35:41.33 ID:hHAewBYo0
- 力強く振るわれたオトジャのPに、あえて押し込まれた。
オトジャは、一瞬不意を突かれて、体勢を崩した。
それを、アニジャが補いに来る。
無理な体勢で攻撃を打ってきた。
アニジャの攻撃は、躱す。
今度はオトジャの体勢が整ったが、アニジャを押し倒して、瞬時に首元を狙う。
オトジャはPの刃で防ごうとしてきたが、Pの穴に刃を通して、鼻先に突きつけた。
(;´_ゝ`)「凄まじき惨敗だな……」
(´<_`;)「流石だよな、俺ら……」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
肩を落として引き下がるサスガ兄弟の後ろから、今度は、フサギコが前に出てきた。
ミ,,゚Д゚彡「俺は一人で行かしてもらうぜ」
( ^ω^)「よろしくお願いしますお」
フサギコが、Rを巧みに頭上で振り回してから構えた。
さすがに手慣れた様子でアルファベットを扱っている。
Sの壁は超えられなかったが、充分な才能と技術を有していた。
ミ,,#゚Д゚彡「うるぁ!」
- 425 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:38:49.18 ID:hHAewBYo0
- フサギコが俊敏な動きで自分に迫ってきた。
リーチの短いRでは、どうしても接近戦になる。
だから、自分のなかにも当然、想定はあった。
想定以上だったのは、フサギコの速さだ。
迫って来てRを突きだしたかと思えば、瞬時に横に回り込まれて、開いた刃が首を覆いかけていた。
頭を沈める。
Rの刃は、浮いた自分の髪を僅かに斬り落とした。
フサギコは後ろに跳んでいる。
すかさず追ってXの刃を向けるが、フサギコはまた跳んで躱した。
そして再び、横に回られる。
今後は、Rを受け止めた。
フサギコはまたも跳躍し、背後に回り込もうとした。
ミ,,;゚Д゚彡「ッ……!!」
背後に、回った。
フサギコは一瞬、狙い通りだ、と感じただろう。
だが、自分の読み勝ちだった。
フサギコが移動し、自分へと向かおうとした、その道にXの刃を向けていた。
自分がアルファベットを僅かに動かすだけで、フサギコの胴が両断されるような位置だ。
- 431 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:42:29.13 ID:hHAewBYo0
- ミ,,;゚Д゚彡「勝てねぇなぁ……」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
ミ,,゚Д゚彡「おう!」
アルファベットランクの低い順に、戦ってきた。
ここまでは全て、順調に打ち負かせている。
だが、最後の相手は、壁を超えていた。
<ヽ`∀´>「……ウリに負けるようじゃ、ショボンに勝つなんて到底ムリニダ」
<ヽ`∀´>「だから、本気で行くニダよ。首を、取るつもりで」
( ^ω^)「……もちろんですお」
中将、ニダー=ラングラー。
アルファベットTを、力強く構えている。
自分よりも間合いが広いことを活かして、ニダーはゆっくりTを振りあげた。
懐には、一見、隙しかない。
しかし、容易に突っ込めば、間違いなく首を落とされるだろう。
ニダーが、右足を軽く踏み出した。
自分は、ニダーの間合いに入っている。
視界から消えるほどの速さで、振り下ろされるT。
受け止めるという選択肢は、選べなかった。
反射的に後ろへ跳んでいた。
- 440 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:46:18.60 ID:hHAewBYo0
- 床を叩いたTからは、訓練室全体が揺れるほどの衝撃が生みだされた。
体勢が、一瞬崩れる。
それをニダーほどの男が、見逃すはずはない。
小さく振り上げ、素早く自分に襲いかかるT。
(;^ω^)「ッ……!」
不安定な体勢だったが、何とかニダーのTを受け止めた。
しかし、止まらない。何度も何度も、Tを振るってくる。
長尺であることを感じさせないほどの速さだ。
弾いて、反撃に出たい。
だが、ニダー相手では強引な戦い方は命取りだ。
力任せではなく、相手の隙を突くやり方でなければならない。
十数撃を、耐えた。
やがて、ニダーがアルファベットを引くのが、僅かに遅れる瞬間がやってきた。
左足を踏み出して、ニダーのTを封じにいく。
アルファベットを抑え込めば自分の勝ちだ。
そう思った。
( ^ω^)「ッ!!」
ニダーのアルファベットが、消えた。
正確には、自分が思い描いていた軌道と違う道を進んだ。
身体の近くにTを戻すのだと思っていたが、ニダーは身体を開いたまま、遠いアルファベットを再び振り下ろそうとしている。
- 448 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:49:20.88 ID:hHAewBYo0
- 先ほど、一瞬動きが鈍ったように見えたのは、偽装だったのだ。
ニダーの強引な一撃を、自分も強引に受け止める。
先ほど室内を揺らした衝撃が、今度は、自分に直撃した。
脳が、視界が揺れるような一撃。
さすがは、ニダー=ラングラー。
もはやヴィップ内では最古参の将となっており、経験は誰よりも豊富だ。
その長い期間を、無事に過ごしてきただけのことはある。
アルファベットに込める、思いの重みが違うのだ。
生きることを、勝つことを、負けないことを、その大事さを知っているからこそ。
ニダーは、アルファベット使いとして優れているのだ。
だが――――負けない。
年季はともかく、思いの強さで負けるわけにはいかない。
大将となってから、ずっと、誰よりも国のために戦ってきた。
その自負が、あるからこそ。
<;`∀´>「ッ!?」
Tを受け流して、ニダーに迫る。
ニダーはやはり速い。Tを引いて、またすぐ反撃に出ようとしてきた。
だが、それは通さない。Xの刃を、Tの柄と刃の間に引っかけた。
そのまま、Xを振りあげる。
ニダーのTが、大きく浮いた。
- 455 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:52:48.62 ID:hHAewBYo0
- ニダーは手を離さない。
上に逃げるTを、必死で掴んでいた。
だが、そこで自分は、Xを後ろに引いた。
天井へと向かっていたTが、今度は自分のほうに逃げようとしている。
ニダーは、方向の転換についていけなかった。
その両手から、完全にTの柄は離れた。
自分はゆっくり、Xの刃をニダーの前に突き出した。
<;`∀´>「アイゴー……参りましたニダ、大将」
( ^ω^)「やっぱり、ニダーさんは強いですお。ありがとうございましたお」
<ヽ`∀´>「こっちこそ、最後の相手が最高の相手で良かったニダよ。カムサハムニダ、大将。ホルホルホルホル」
戦いを終えた将たちは、皆、アルファベットを見つめていた。
入軍してから今まで、当然のように振るってきたアルファベットも、今日が実質的な別れの日になる。
今の、自分との手合いが最後になるのだ。
それぞれの胸に去来した感情は、何だったろうか。
きっと、それぞれが噛み締めていることだろう。
( ^ω^)「……ありがとうございましたお」
いま一度、礼を言って頭を下げた。
- 463 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 21:56:28.61 ID:hHAewBYo0
- ―― 一ヶ月後――
――フェイト城近郊の丘――
遥か遠景。
人がいることは分かる。誰がいるのかは、分からない。
しかし、主要な将は全て集まっているはずだ。
( ’ t ’ )「…………」
腰を下ろした。
誰かに気づかれる心配はしなくてもいいだろうが、単純に、立っているのが辛くなってきたからだ。
もう、二日以上ここに留まりつづけている。
国境線上に集まった、両軍も。
およそ十里ほど距離を取って、両国のほぼ全軍が集結していた。
両軍の中間点に積み重ねられたのは、膨大な数のアルファベット。
何十万本あるのかなど、数えようとするだけ無駄だろう。
あのアルファベットが消滅するときを、皆がただただ待ち続けているのだ。
( ’ t ’ )(読み通りだった……と言っていいのかな)
アルファベットを全て消滅させて、大将同士の一騎打ちに臨む。
恐らくそうだろうと思っていた策だが、実際にブーンが提案した瞬間は、やはり動揺があった。
本当に、やるつもりなのか、と。
心の中では、馬鹿げた策だと思っていたのかもしれない。
だが、何度思い返してみても、ヴィップに他の道は残されていなかったのだ。
- 470 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:00:01.72 ID:hHAewBYo0
- この策が最も勝率の高い、最善策であったこと。
それは即ち、ヴィップが極限まで追い込まれていたことを表している。
到達することさえ困難だと思った。
領土を再び同等にまで取り返すことなど、不可能だと思っていた。
しかし、実際に達成したのだ。
ブーン=トロッソは、逆転の策の完遂まであと少しのところを今、歩いている。
喜ばしいことであるはずがない。
ラウンジは、ベル=リミナリーが身命賭して作り上げた国だ。
ショボンも死力を尽くして戦っていた。是が非でも、天下を統一してほしいと今も願っている。
ただ、ブーン=トロッソには、驚嘆させられるばかりだった。
もはや、歴代の名将のいずれと比較しても、遜色ない。
それどころか――――
( ’ t ’ )(……そろそろかな)
三歩ほど離れた木に、立てかけておいたP。
両軍が国境線上に結集したときからずっと、触れていない。
アルファベットを全て消滅させる。
その意思を、自分が酌まないわけにはいかなかった。
名残惜しくはある。
在軍中から、そして下野してからも、共に歩んできたアルファベットだ。
このアルファベットがなければ、山賊に苦しめられていた村を一人で救うことはできなかっただろう。
- 478 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:03:21.10 ID:hHAewBYo0
- だが、あれもアルファベットが存在していたからこその事件だった、とも言える。
やはり、平和な世のためには存在しつづけるべきではないのだ。
陽が落ちてきていた。
広大な原野の方々に、篝火が灯されている。
さすがに、両軍合わせて三十万近い兵が集っているとなると、陣も相当延びていた。
まるで川を挟んだ対岸で睨み合っているかのようだ。
並べられたアルファベットの輝きは、夕日の光を反射する水面の輝きに似ていた。
( ’ t ’ )(一騎打ちまでは、あと二ヶ月か……)
ラウンジもヴィップも、今は急速に生産所の鉱山の閉鎖に向けて動いている。
既にヴィップ城南東の鉱山は半分以上が閉鎖されたという。
ラウンジの査察隊も慌ただしく動いているようだった。
ラウンジは、鉱山は少ないが生産所は多い。
ヴィップの査察隊は大変だろう。
アルファベットを封じるだけならば、鉱山を閉鎖すればそれで済む。
ただ、既に採掘済みのα鉱石もあるため、生産所も閉じておくべきなのだ。
通常の武器の製作もこれで防げる。
民の叛乱や暴動などが起きた際に対応できるよう、アルファベットでない武器を最低限持っていればいい。
アルファベットでなければ、三日で消えることを憂慮する必要もない。
これからの二ヶ月は、ショボンもブーンも任務に忙殺されるだろう。
いや、軍に所属している者は皆そうだ。
漫然と戦の終結を待つのは、自分くらいのものだろう。
- 482 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:07:02.67 ID:hHAewBYo0
- 自分の役目は、あの会談を見守ったことで終わった。
クーからの頼みだったが、立ち会いを許可してもらったことに感謝しなければならない。
ブーンにも、ショボンにも。
クーは、何故立ち会ってほしいのか、とはっきりと口にしなかった。
ただ、自分が了承した瞬間、クーは明らかに表情を変えたのだ。
厳しさと穏やかさが入り混じったような表情を浮かべたのだ。
それを見れば、全てが分かった。
クーは、あの場に部外者が必要だったのだ。
誰のためでもなく、クー自身のために。
自分としては一切合財構わなかった。
第三者として立ち会えたことが、会談の正当性を示すことにもなる。
あの場に自分がいたことは、恐らく、誰にとっても良いことだったのだ。
やがて、陽が落ちきった。
あれほどの兵が集まっているというのに、まったく音がない。
皆の視線が、アルファベットに注がれている。
両軍がアルファベットを放置してから、あと一刻ほどで三日が経過する。
普段、三日触れずに消滅させることはほとんどないため、消滅の瞬間を見たことがない兵もいるはずだ。
音も、動きもない。
それぞれがただ、前を向いている。
そして――――アルファベットは煌めきだす。
- 489 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:11:06.01 ID:hHAewBYo0
- ( ’ t ’ )「…………!!」
岩が、風化して砂になるように。
アルファベットは小さな粒子となって消えゆく。
形を、崩していく。
長大な両陣の中間点に積まれたアルファベット。
一点には積みきれず、長い陣に沿うように並べられている。
夜の闇に溶けていくアルファベットは、まるで天の川のようだった。
これほど遠くからでも、はっきりと見て取れる輝き。
今日の満月の光が、確かに届いているのだ。
それが、煌めきを生みだしているのだ。
ゆっくり、堆く積まれたアルファベットの山が崩れていく。
光となって消えていく。
別れを惜しむかのように。
ゆっくりと、ゆっくりと。
自分のPも、静かにその場から消え去った。
( ’ t ’ )(ありがとう……)
( ’ t ’ )(……さよなら)
大軍は、やはり動かなかった。
いや、動くことができないのだろうか。
- 496 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:14:09.74 ID:hHAewBYo0
- それでもアルファベットは、消えゆく。
風に攫われるかのように、光を舞わせながら。
ただ、消えゆく。
―― 一ヶ月後――
――シャナ城――
ここに来るのは、随分と久しぶりのような気がする。
何年も訪れていない、という城ではないのに、何故だろうか。
( ・∀・)「おいーっす」
( ^ω^)「お久しぶりですお、モララーさん」
( ・∀・)「長旅お疲れさんだな。座ってくれ」
モララーが居室として使っている部屋で、一息ついた。
今日は昨日までよりだいぶ暑く、具足のなかは汗で湿りきっていた。
( ・∀・)「軽装で来りゃいいのに」
( ^ω^)「多少なり武装してないと周りに心配されるんですお」
( ・∀・)「ま、そりゃそうだ。お前に何かあったら一大事だからな」
- 504 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:17:30.03 ID:hHAewBYo0
- 周囲の兵の心配も分かるが、ラウンジが不意を打つような真似をしてくるとは思っていなかった。
あるいは、転倒の心配でもされているのかもしれないが、それも普段から気を配っている。
( ・∀・)「閉鎖はあらかた終わったか?」
( ^ω^)「パニポニ城の生産所と鉱山が閉鎖しおわりましたお」
( ・∀・)「じゃあ、ほぼ終わったも同然だな。あそこがデカいからな」
( ^ω^)「ラウンジもトナグラ城周辺の鉱山を閉鎖しきったみたいですお」
( ・∀・)「査察は?」
( ^ω^)「ロマネスクが行ってくれてますお」
( ・∀・)「こっちにも確か、ファルロが来てるらしいな」
( ^ω^)「先日、オオカミ城の生産所の閉鎖を確認してもらいましたお」
( ・∀・)「密かに生産所を作ってたとか、クラウンならやってそうな気もするけどな」
( ^ω^)「クラウンには今、指示を出せる力はないみたいですお。だから、ショボンが徹底的に全て潰させてるらしいですお」
( ・∀・)「まぁ、その状態でクラウンしか知らねーような生産所があっても無駄ってことか」
( ^ω^)「あっても、小規模なものなら影響はないですお」
( ・∀・)「ま、隠しようがない鉱山の閉鎖がきっちり終わってれば、問題ないと思ってるけどな」
( ^ω^)「確かに、そのとおりですお」
- 513 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:20:57.42 ID:hHAewBYo0
- ( ・∀・)「しかし、なーんか落ち着かないな。アルファベットがないってのも」
モララーは、シャイツーとの戦いで隻腕になった。
それ以来、アルファベットには触れていないはずだ。
どこまでランクが下がったのかは、本人も把握していなかっただろう。
モララー自身のアルファベットは、しばらくなかった。
それでも、寂しさを感じているらしい。
( ^ω^)「きっとみんな、そうだと思いますお」
( ・∀・)「かなぁ。ま、平和な世に必要ないってのはもちろん分かってるんだけどな」
( ・∀・)「……あ、そーいやふと気になったんだけどよ」
( ^ω^)「?」
( ・∀・)「アルファベットって七百年くらいずっと存在しなかったわけで、それはやっぱ三日で消えるせいだよな?」
( ^ω^)「そうだと思いますお」
( ・∀・)「なーんでかな? なんで三日でアルファベットは消えるんだ?」
モララーが首を捻っていた。
入軍してすぐに誰もが教えられる。
アルファベットは三日以上触れずにいると、形を崩してしまう、と。
だから、アルファベットに触れつづけなければならない、と。
( ^ω^)「……それは、何となく察しがついてるんですお」
- 526 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:24:26.30 ID:hHAewBYo0
- ( ・∀・)「お、マジか?」
( ^ω^)「多分、最初は三日で消えなかったんですお。ずっと形を保ってられたんですお」
( ・∀・)「ん……誰かが意図的にそうしたってことか?」
( ^ω^)「恐らく、ニチャン国のシャイツーが、そうさせたんですお」
( ・∀・)「……あぁ、そういえば。なるほどな」
さすがに、そこまで言えばモララーは全てを理解するらしい。
およそ七百年ほど前に起きたとされる大戦も、同じだったのだ。
長く戦い続けたことにより、もはや戦の続行が困難になった。
そして、ニチャン国の大将は、大将同士の一騎打ちによる決着を提案したというのだ。
恐らく、そのときにアルファベットは改造された。
三日触れずにいれば消えるようになったのだ。
ただの推測であり、何ら根拠はない。
どうやって改造したのかも分からない。
しかし、そう考えると筋が通る気がした。
α鉱石は放っておいても消滅しない。
溶かして液状にしても、消滅することはない。
アルファベットとしての形を成してから消えるようになるのは何故か。
その答えが、過去の大戦にあるような気がした。
あくまで、憶測に過ぎなかった。
- 534 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:27:31.83 ID:hHAewBYo0
- ( ・∀・)「ま、答えなんて分かりようもねーし、分かったとこで何にもならねーんだけどな」
モララーは朗らかに笑って、そう言った。
( ^ω^)「……そういえば、御身体は大丈夫なんですかお?」
( ・∀・)「最近はな。腕斬られた直後は地獄だった」
(;^ω^)「おっ……」
( ・∀・)「フィレンクトは、斬られた次の日にはもう平然としてたよな?
信じられねー。俺なんか三日くらいずっと喚いてたぞ」
(;^ω^)「フィレンクトさんも、多分痛いのを我慢してただけだと思いますお」
( ・∀・)「我慢もできなかったんだ、俺には。尋常じゃなく痛かった」
( ^ω^)「……ゆっくり休んでほしいですお。勝利は、ブーンが掴んできますお」
( ・∀・)「おう。いつの間にか随分、逞しくなったな」
からかうように笑って茶菓子を食べるモララーに、別れを告げた。
本当は、もうしばらく話していたいが、今は時間がない。
まだ、アルファベットYへのランクアップを果たせていないのだから。
- 544 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:31:36.10 ID:hHAewBYo0
- ――二週間後――
――ダカーポ城――
次々に入る報告の、ひとつひとつに集中した。
紙に起こすのは時間の無駄だから止めろ、と言ってある。
全て自分に、言葉で伝えるように、と。
(´・ω・`)「パニポニ城の確認が終わったか」
ヴィップ国内で最大のアルファベット生産拠点である、パニポニ城の生産所と鉱山の閉鎖が確認された。
クーがその目で確認してきたという。
ラウンジの最近の動向としては、ウエルベール城の生産所の閉鎖がある。
稼働させていなかったが、その気になれば動かせる状態にはしてあったのだ。
もはや稼働不可能となったことを、ヴィップのフサギコが確認したらしい。
自分にも、ブーンにも、相手を騙そうという意思はない。
確認されずとも、鉱山と生産所は完全に閉鎖するつもりだった。
では何故確認しているのか、と問われれば、兵を納得させるためとしか言えない。
中には、ヴィップがラウンジを謀ろうとしているのではないか、と思っている兵がいるはずなのだ。
尤も、誰もヴィップを疑わないのであれば、それはそれで問題だった。
(´・ω・`)(さて……)
鉱山はほぼ全て閉山させた。
生産所も、主要拠点は全て閉鎖が完了している。
あとは、辺境の城にある稼働していない生産所だけだ。
- 548 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:35:11.68 ID:hHAewBYo0
- ヴィップも残すはローゼン城とオリンシス城だけのはずだ。
ヴィップ城の確認はアクセリトが済ませており、その帰りに合わせてローゼン城が確認される。
あとはファルロをオリンシス城に送れば全ての確認が終わる。
(´・ω・`)(三ヶ月という期間は、ちょうど良かったみたいだな)
大急ぎで進めたが、三ヶ月以内に終わりそうだ。
自分が抱えていた作業も、とりあえず手を離れている。
仕事に忙殺された日々でも、アルファベットを振るうことは怠らなかった。
もはや、ラウンジ国内に他のアルファベットは残っていないため、誰かと訓練することはできない。
ただ、元より自分の相手に相応しい男はいなかった。
訓練室で、軽くアルファベットを振るった。
感覚は悪くない。アルファベットの老朽化も問題ない。
自分の全てを発揮できるだろう。
ブーンは、Yに達してくるだろうか。
分からない。Xに上がってから、それほど時は経っていないはずだ。
しかし、Yを携えてくることを覚悟しておくべきだった。
アルファベットYは、接近戦には弱い。
それは一騎打ちにおいては、不利な方向に働くだろう。
ただ、距離を取って戦われた場合は、Yのほうが上だ。
Zとは、間合いに差がありすぎる。
ブーンは、自身の身軽さを活かして、遠距離から攻撃しつづけるつもりかもしれない。
- 557 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:38:38.50 ID:hHAewBYo0
- アルファベットXならば、楽に捻ることができる。
三本の刃を有するが、双剣Zならば容易く躱してブーンを斬れるだろう。
それはブーンも分かっているはずだ。Xでは、勝機は限りなく薄い、と。
(´・ω・`)(ただでさえ……)
ヴィップ兵の間には、不満があっただろう。
アルファベットXの男が、アルファベットZの男に挑むというのだ。
どう考えても無謀。勝ち目はないだろう、と思った兵はいたはずだ。
ブーンは各地の城を回って、兵に説明したという。
クーの調査によれば、今やブーンの策に疑問を抱いている兵はいないだろう、とのことだが、やはりランク差は不安なはずだ。
Yに上がることで、兵を安心させることもできる。
ただ、一騎打ちの日まで、残すところあと二週間。
未だブーンがYを掴んだという情報は入ってきていない。
自分には、どうしようもないことだ。
一騎打ちの日を、今は待ち続けるしかない。
ラウンジの天下が訪れる日を。
(´・ω・`)(……必ずや、勝利します。クラウン国王)
訓練を終え、汗を拭う。
また報告を受けるため、自室に戻った。
- 563 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:41:51.84 ID:hHAewBYo0
- ―― 一週間後――
――オリンシス城――
かつて、ツンの小屋へ、ショボンと共にYを受け取りに行ったことがある。
巨大な箱から現れたYを見て、言い知れぬ戦慄を覚えたことを、今でもはっきりと思いだせる。
その、Yが、いま眼前にあった。
_、_
( ,_ノ` )「時間がかかってすまんかったの」
( ^ω^)「いえ」
_、_
( ,_ノ` )「生涯の集大成。そう言って恥ずかしくないほどのアルファベットになった、と思っておる」
机のうえに寝かせたYを、二人で見つめていた。
小さな蝋燭の明かりに、照らし出されるYの刃。
中央に空いた穴は、まるで、自分を睨んでいるかのようだ。
_、_
( ,_ノ` )「いけそうか?」
頷いた。
何故か、あまり不安はなかった。
ショボンと一騎打ちを行なう。
それを、逆転の策の終結とする。
ミルナと共にオオカミ城の地下でそう考えてからずっと、Yを目指してきた。
- 572 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:45:08.12 ID:hHAewBYo0
- Zに到達する時間は恐らくなく、また、Zではショボンに一騎打ちを承諾してもらえない可能性がある。
そう思ったからこそ、Yへの到達だけを見てきた。
シブサワにも、ずっと頼んであったことだ。"最高のYを"と。
シブサワは、文句のつけようもない、素晴らしいアルファベットを作り上げてくれた。
あの日、ツンが作ったYを思い返してみても、まったく遜色ないほどの出来栄えだ。
あとは、それを自分が掴めるかどうかだった。
寝食の時間を惜しんで訓練を重ねてきた。
時には胃液を吐きながら、一歩も動けなくなるほど自分を追い込みながら。
ニダーたちにも訓練を手伝ってもらった。
全力を込めて自分の相手をしてくれた。
あのとき確かに、自分への期待や願いを受け取ったのだ。
シブサワと、シブサワの弟子が見守る。
自分の手は、ゆっくりとYの柄へと伸びる。
ショボンがYを掴んだときの光景が、ふと蘇る。
力強くYを握り締めた、あのときのショボンの表情が。
当時、ショボンの配下だった自分は、ショボンをあまりに頼もしい存在だと感じた。
打ち負かせないものなど何もない。全てを、蹂躙してくれる。
そう思わせてくれる力が、Yにはあった。
今は自分が、その高みに到達しなければならない時だ。
( ^ω^)「ッ……!!」
- 586 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:48:56.66 ID:hHAewBYo0
- Yに、触れた。
一瞬、Yを熱いと感じた。
だが、自分の手がアルファベットから離れることはない。
上位に到達していないとアルファベットに判断されれば、手に熱を感じる。
それに似た感覚だった。しかし、違う。
この熱は、自分の興奮によって生み出されたものだ。
Yを、掴んだ。
そして、掲げた。
_、_
( ,_ノ` )「おぉ……!」
( ^ω^)「ありがとうございますお、シブサワさん」
_、_
( ,_ノ` )「礼を言いたいのはこっちじゃよ。さすがじゃな、ブーン=トロッソ」
シブサワは、口元を僅かに緩ませる、渋みのある笑みで自分を称えてくれた。
長尺で、大型の刃を持するYだが、不思議とあまり重くは感じない。
小刻みに振るうことも不可能ではなさそうだ。
_、_
( ,_ノ` )「悪くない最後じゃ、と思う。残念ながら、Zは作れんかったが」
( ^ω^)「それは……」
_、_
( ,_ノ` )「間違っても、謝ったりせんでくれ。戦の決着が見えとる状況でZに固執するような偏屈と思われたくはないんじゃ」
( ^ω^)「……はいですお」
- 598 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:52:38.20 ID:hHAewBYo0
- 世界一の職人である、ツンを超える。
そのために、アルファベットZをシブサワは作りたがっていた。
もはや、その機会が訪れることはない。
シブサワには、心苦しい気持ちでいっぱいだった。
_、_
( ,_ノ` )「それが運命ならば、受け入れよう。ワシは、ツンを超えられなんだ。致し方ないことじゃ」
( ^ω^)「……でも、このYは、ツンさんが作ったものに決して劣っていませんお。自信を持って、そう言えますお」
_、_
( ,_ノ` )「……そうか、そう言ってもらえると、少し救われた気分じゃな」
ある意味では、シブサワがツンに挑む一騎打ちでもあるのかもしれない。
だが、アルファベット職人のことを考えられる余裕は、率直に言ってなかった。
ショボンを倒す。ただそれだけのことしか考えられない。
( ^ω^)「受け取ってすぐで、すみませんお。出発しますお」
_、_
( ,_ノ` )「この工場は、使えなくしておけばいいんじゃな?」
( ^ω^)「放っておいてもらっても大丈夫ですお。兵がやりますお」
_、_
( ,_ノ` )「いや、自分の仕事場じゃからな。自分の手で、終わらせてやりたい」
( ^ω^)「じゃあ……お願いしますお」
頷いて、弟子と二人がかりで、作業に取り掛かるシブサワ。
オリンシス城にも大規模な生産所はあるが、それは既に閉鎖されている。
シブサワに宛がっていたのは個室で、その個室を閉鎖すればオリンシス城もアルファベットを作ることはできなくなる。
- 606 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:55:58.86 ID:hHAewBYo0
- 明日にはファルロが査察に来る予定だという。
それまでに終わっていれば問題ないだろう。
アルファベット職人であるシブサワとその弟子には、既に一生分の給与を渡してあった。
ただ、どうやらシブサワは自分の弟子に、自分の給与を全て与えたようだ。
シブサワの弟子は、今後もシブサワを支えて生きていくつもりだという。
二人が並んで作業場の解体に取り組んでいる背中をしばらく見つめてから、その場を去った。
数人の供と並び、すぐオリンシス城を発った。
向かう先は、ヴィップ城だ。
決戦の日を迎える前に、アラマキ皇帝と話をしておきたい。
アラマキ皇帝からは、国の全権を託されている。
だから、今回の策も特に相談はしていなかった。
しかし、やはり直接会って話しておくべきだ、と思ったのだ。
昼夜兼行で四日ほど駆けて、ヴィップ城に到達した。
一ヶ月ほど前にも来たが、あのときは兵への説明と、生産所の閉鎖に向けた指示で精一杯だった。
アラマキの体調もあまり良くないと聞いていたため、謁見は避けていたのだ。
今夜は、一晩ここで過ごして、明日また西に戻るつもりだった。
お帰りなさいませ、と城内の掃除婦に挨拶された。
緊張した面持ちだったが、そこまで畏まる必要はないことを告げると、掃除婦の顔に柔らかい笑みが生まれた。
( ^ω^)「そのほうが可愛いお」
そう言うと、掃除婦は慌てて顔を伏せて、背中を向けてしまった。
そしてそのまま遠ざかっていく。
- 615 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 22:59:36.11 ID:hHAewBYo0
- (;^ω^)「おっ……なんか変なこと言っちゃったかお……」
気を取り直して、上階へと向かう。
誰も使っていない訓練室や、物静かな将校たちの居室の前を通り過ぎて、更に上へ。
アラマキ皇帝の許へと。
( ^ω^)(……今日は体調大丈夫かお……?)
多少、不安に思いながらも扉を叩く。
すぐに侍女が扉を開けて出迎えてくれた。
広大な部屋の奥へと通される。
あまり物は多くない。部屋の広さは活かされていないようだ。
アラマキ皇帝らしい、と言えるような気がした。
やがて、最奥の部屋に到達した。
アラマキ皇帝は、寝床から窓の外を眺めていた。
( ^ω^)「お久しぶりですお、アラマキ皇帝」
/ ,' 3「ブーン大将。わざわざすみません」
( ^ω^)「いえ、謁見は自分からお願いしたことですお。それより、御身体のほうは」
/ ,' 3「今日は問題ありませんよ」
( ^ω^)「それは良かったですお」
/ ,' 3「私はむしろ、ブーン大将、貴方のほうを心配してしまいます」
- 619 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:02:48.05 ID:hHAewBYo0
- ( ^ω^)「自分ですかお?」
/ ,' 3「はい。一騎打ちを行なうことが決まってから、ずっと働きつづけていると聞いていますし……」
( ^ω^)「体調は特に問題ありませんお。それに、今日は城でゆっくり休むつもりでいますお」
/ ,' 3「身体もですが、精神的にも……ジョルジュ中将、ミルナ中将を失ったのも、つい最近のことですから……」
( ^ω^)「……二人のためにも、頑張らなきゃいけない。今は強く、そう思ってますお」
/ ,' 3「そうですか……そうですね、要らぬ心配りでしたね」
( ^ω^)「いえ、ありがとうございますお」
アラマキ皇帝と会話している時間は、心が安らぐ。
この人が頂点に立っているからこそ、兵は、自分の力を存分に発揮できるのだ。
アラマキ皇帝に喜んでもらいたい、と思うからこそ。
自分が立てた逆転の策については、いま一度、詳細を説明した。
アラマキ皇帝は、口を挟むことなく最後まで聞いてくれた。
/ ,' 3「無論、反対するつもりなど毛頭ありませんよ。今の私には、全てを託すことしかできませんから」
( ^ω^)「だけど、この国はアラマキ皇帝の国ですお。今までずっと……いえ、これからも」
/ ,' 3「……ハンナバルさんと共に築き上げた国も、もう四十三年ですか……早いものですね」
アラマキの顔と手の甲に、深い皺が刻み込まれている。
この国と同じように、アラマキは時を重ねてきたのだ。
労苦と共に。
- 626 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:06:07.14 ID:hHAewBYo0
- / ,' 3「ブーン大将、お分かりかとは思いますが、いま一度お話しておきます」
( ^ω^)「……?」
/ ,' 3「ショボンとの一騎打ちに勝利し、ヴィップが天下を得たあと……私の後継として、国を繁栄させてほしいのです」
( ^ω^)「……アラマキ皇帝、その話は」
/ ,' 3「また後で、というわけにはまいりません。今でなければ」
( ^ω^)「…………」
/ ,' 3「私の生死に関わらず……皇帝という地位でなくとも構いませんが、権威も権力も持った統治者となっていただきたいのです」
( ^ω^)「ブーンは……もちろん、ヴィップを末永く繁栄させるつもりですお。でも、皇帝位は」
/ ,' 3「いずれ、誰かに継がねばならないことです。私に子はいませんから」
/ ,' 3「恐らく、遺言など何も残さずとも、私が没した場合はブーン大将が継ぐことになるでしょう」
/ ,' 3「それは分かっていますが、自分の口から伝えておきたかったのです。これが、皇帝としての最後の役目だ、と思っていますので」
国に生きる者としての、最後の瞬間を。
それぞれが、迎える日々のなかで。
アラマキ皇帝にも、その思いは、確かにあったのだ。
覚悟が、情熱があった。
願いが、祈りがあった。
- 635 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:09:20.70 ID:hHAewBYo0
- ( ^ω^)「……アラマキ皇帝」
皆が、自分の役割を終えようとしている。
大将として、自分にできることは、それぞれの意思を可能な限り酌むことだけだった。
( ^ω^)「了解しましたお。自分が、ヴィップ国を率いて、繁栄させていきますお」
/ ,' 3「はい。よろしくお願いいたします」
アラマキ皇帝が、深く頭を下げた。
やめてほしいと告げてもアラマキ皇帝はずっと頭を下げたままだった。
自分も、腰を直角に曲げた。
視界に広がるのは床。これがもし透明ならば、自分の下についてくれる者たちがよく見えるだろう。
頂点に立つときは、そうやって、あらゆるところに目を配らなければならないのだ、と思った。
――夜――
――ヴィップ城・大将室――
リ|*‘ヮ‘)|「ブーン様! お帰りなさいませ!」
( ^ω^)「ただいまだお、セリオット」
リ|*‘ヮ‘)|「帰ってきて下さる日を、心待ちにしておりました!」
( ^ω^)「おっおっ、ありがとだお」
- 646 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:13:41.16 ID:hHAewBYo0
- リ|*‘ヮ‘)|「すぐにお食事をご用意いたします」
しばらく離れていたが、愛らしさは全く変わっていない。
幼いとさえ感じるが、自分の侍女であるセリオットは、確か今年で二十になったはずだ。
無邪気さを隠せば、やはり相応の年齢に見える。
今日帰ってくる予定であることは、事前に告げていた。
セリオットは、事前に食事の準備を済ませていたらしい。
奥から次々に料理が運び込まれた。
リ|*‘ヮ‘)|「量に不満があったら遠慮なく仰って下さい。すぐにお作りします」
( ^ω^)「ちょうどいいくらいだお。いただきますお」
リ|*‘ヮ‘)|「はい」
朝から何も口にしていなかったため、すぐさま料理に箸をつけた。
最初は一人で食べ続けていたが、向かいにいるセリオットも、自分に促されて食べ始めた。
ただ、遠慮していることもあるのだろうが、元々少食でもあるため、またすぐに箸を置いた。
( ^ω^)「遠慮なく食べちゃうお」
リ|*‘ヮ‘)|「はい。そのためにお作りしましたから」
セリオットは、終始嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
侍女として雇ったものの、ほとんど留守にしており、退屈な日々を送らせてしまったかもしれない。
致し方ないことだと分かってくれているとは思うが、心苦しく思う気持ちもあった。
- 655 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:17:21.63 ID:hHAewBYo0
- ( ^ω^)「ごちそうさまだお、セリオット。美味しかったお」
リ|*‘ヮ‘)|「ありがとうございます」
( ^ω^)「今日はここでゆっくりしてく予定だお。一日だけ、色々とよろしくお願いだお」
リ|*‘ヮ‘)|「……一日だけ? 今日だけ、ですか?」
( ^ω^)「明日の朝には出立して、またフェイト城に戻るお」
リ|;‘ヮ‘)|「……今晩だけ、ですか……」
( ^ω^)「……だお」
何故か、セリオットは気落ちしていた。
すぐに去ってしまうことは、あまり喜ばしいことではないようだ。
久しぶりに自分の本来の仕事をこなせると思ったら、またすぐに居なくなる。
それを、不満に思ったのかもしれない。
セリオットは真面目な侍女だからだ。
一騎打ちに勝利することができたら、しばらくはのんびりしたい。
実際には、すぐに叶う願いではないだろうが、いずれはセリオットとゆっくり過ごす日々を送るのも悪くなさそうだった。
ショボンが裏切って以降、完全な休日は一日たりともなかったからだ。
食事を摂り終えたあとは、湯に浸かって、それからセリオットと軽く雑談した。
しぃの近況も聞けた。最近は、ずっと元気にしているらしい。
フサギコが帰ってくる日を待っている、という話だった。
- 661 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:20:48.77 ID:hHAewBYo0
- ( ^ω^)「しぃさんは……」
リ|*‘ヮ‘)|「はい?」
( ^ω^)「……いや、なんでもないお」
髭を剃り、髪を整え、フサギコはしぃの前に姿を現したことがある。
あれがフサギコだと、しぃは気付いているのだろうか。
フサギコの帰りを待っているということは、気付いているのかもしれない。
しかし、単純にギコの兄だから、という理由でしかない可能性もある。
分からないが、今の自分が思案することではなさそうだった。
リ|*‘ヮ‘)|「……ブーン様、ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」
( ^ω^)「ほぇ? なんだお?」
リ|*‘ヮ‘)|「ブーン様は……ショボン=ルージアルとの一騎打ちに臨まれるのですよね?」
セリオットが、戦のことを話そうとするのは珍しかった。
自分はあくまで侍女であり、仕事のことにまで踏み込んではならない、と考えている節がセリオットにはあると思っていたのだ。
( ^ω^)「そうだお」
リ|*‘ヮ‘)|「ですが、すごく落ち着いてらっしゃいます……以前と、まるで変わりがないほどに」
リ|*‘ヮ‘)|「何故ですか……?」
- 669 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:24:38.15 ID:hHAewBYo0
- 何故セリオットがそれを気にするのかは、分からなかった。
もしかすると、自分が居なくなる可能性があることに不安を抱えているのかもしれないが、あくまで推測だ。
( ^ω^)「……それは、前から覚悟していたっていうのがまずあるお。ショボンが裏切ったあとは、ずっとそのために戦ってきたからだお」
リ|*‘ヮ‘)|「覚悟……」
( ^ω^)「もう一つは……今までヴィップ国のために戦ったみんなの想いを、ブーンは背負ってるからだお」
遥か昔の、建国時のアラマキやハンナバルの想いにまで遡る。
このヴィップという国のために戦い、散っていった者たち。
誰しもが、国の天下を望み、その礎となるべく果てていったのだ。
数え上げればきりがない。
将だけではなく、歴史に名の残らないような兵卒であっても、誰もが想いは本物だったはずだ。
国の天下を願っていたはずだ。
自分の戦いで、全てが決まる。
想いに報いるのも、無碍にするのも、全て自分のアルファベット次第だ。
それは、昔の自分ならば、あまりに重すぎると感じたかもしれない。
肩に圧し掛かってくる重みに耐えきれず、膝を折っていたかもしれない。
だが、今の自分は違う。
皆の想いを、両腕に含ませて、力強くアルファベットを振るうことができるだろう。
だから、絶対に勝つ。
勝たなければならない。
- 673 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:28:10.74 ID:hHAewBYo0
- 勝利以外には、何も必要ないのだ。
皆の想いに、応えるために。
リ|*‘ヮ‘)|「想い、ですか……」
( ^ω^)「だお。納得してもらえたかお?」
リ|*‘ヮ‘)|「はい……ありがとうございます。貴重なお時間をいただいてしまい、申し訳ありません」
(;^ω^)「いやいや、そんなの気にしなくていいお」
リ|*‘ヮ‘)|「遠く離れたヴィップ城からではありますが……ブーン様のご帰還を信じ、勝利を祈念させていだきます」
( ^ω^)「ありがとだお、セリオット」
セリオットは、優しく笑った。
心を一瞬で温めてくれるような、無二の笑顔だ。
一緒にいると癒されるのは、この笑顔によるところが大きい、と思っていた。
( ^ω^)「じゃあ、そろそろ寝ることにするお」
リ|*‘ヮ‘)|「あ、はい。寝床を用意してあります」
恐らく、自分がいない日々でも毎日、完璧に用意してくれていたのだろう。
突然帰ってきたとしても、対応できるように。
窓から離れた位置にある寝床には、心地良い花の香りが漂っていた。
心が、穏やかになる。
ショボンとの一騎打ちのことも、頭から霞んでいくような安らぎを与えてくれる。
- 682 :第118話 ◆azwd/t2EpE :2010/05 /04(火) 23:31:43.63 ID:hHAewBYo0
- 久方ぶりに、深い眠りに就けそうだった。
( ^ω^)「おやすみだお、セリオット」
リ|*‘ヮ‘)|「はい、おやすみなさいませ」
寝室の扉が、ゆっくり閉じられる。
それとほぼ同時に、自分の瞳も閉じられ、すぐに意識は薄れていった。
リ|* ヮ )|「……ごゆっくり」
第118話 終わり
〜to be continued