4 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:15:42.79 ID:EVEwk6RA0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:嗟嘆の森付近

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:嗟嘆の森付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:嗟嘆の森付近

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:オリンシス城付近
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:17:32.80 ID:EVEwk6RA0
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近

7 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:18:33.13 ID:EVEwk6RA0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:オリンシス城付近

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
9 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:19:43.19 ID:EVEwk6RA0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
12 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:21:05.81 ID:EVEwk6RA0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:フサギコ
S:
T:ニダー/ファルロ
U:ジョルジュ
V:
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
17 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:22:18.49 ID:EVEwk6RA0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・フェイト城〜オリンシス城間

 

19 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:23:48.74 ID:EVEwk6RA0
【第117話 : Die】
 
 
――二十日前――
 
――オリンシス城付近――
 
( ゚∀゚)「――――俺とミルナの、どっちかが囮になって、ショボンと戦う」
 
( ゚∀゚)「……ショボンは恐らく、そう考えてるはずだ」
 
 ブーンは、努めて感情を表に出すまいとしているようだ。
 しかし、昔からそれほど器用な男ではなかった。
 特に、感情面に関しては。
 
( ゚∀゚)「二と三の選択をラウンジが受けてきても、ヴィップの不利は動かねぇ」
 
( ゚д゚)「まともにやれば、敗戦は免れないだろう」
 
( ゚∀゚)「だが、囮を使えばどうだ……? 状況は好転するんじゃないか……? って、俺も考えたし、ミルナも考えた」
 
( ゚д゚)「決して口にはしないだろうが、ブーン、お前も思考の端にはあっただろう」
 
(; ω )「…………」
 
( ゚∀゚)「そんで多分、ショボンも同じことを考えてるんだ」
 
 ショボンは、ブーンを始めとしたヴィップの諸将を、決して侮ってはいないだろう。
 ブーンを除けば、自分とミルナ。この二人のことを、かなり警戒しているはずだ。
23 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:25:51.01 ID:EVEwk6RA0
 ラウンジが絶対優位の状態でも、引っくり返されるかも知れない。
 それくらいのことは、当然、ショボンなら考えているはずだった。
 
( ゚∀゚)「ただ、問題になってくるのは、ショボンに読まれてたら囮の意味が薄れるってことだ」
 
( ゚д゚)「不意を突くことが重要だからな」
 
(  ω )「……確かに、ブーンのなかにも、囮のことが全くなかったとは言いませんお」
 
 ブーンの声は、沈みかけている。
 無理に振り絞ったのだと分かる声だった。
 
(  ω )「ただ、仰る通り……ショボンならそれをきっと読んでますお。だから、効果的とは言えないんですお」
 
( ゚∀゚)「あぁ、そうだ。お前の言うとおりだ」
 
( ゚∀゚)「だが――――ショボンの思考は恐らく、『ジョルジュかミルナか』で停止するはずだ」
 
(; ω )「ッ!!」
 
 ブーンの顔が、強張った。
 聞きたくない、と、表情が物語っていた。
 
( ゚∀゚)「あいつはこれからも同じような戦が続くと思ってる。中将たちは今後も必要だろう、と」
 
( ゚∀゚)「だから、俺とミルナの、両方が囮になる」
 
( ゚д゚)「二人で、ショボンと戦う」
26 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:28:29.48 ID:EVEwk6RA0
(; ω )「待ってくださいお! そんな、それは……!」
 
( ゚∀゚)「支障はねぇはずだ。フェイト城を奪えばもう、俺たちは必要ない」
 
(; ω )「そんな、こと……!」
 
( ゚д゚)「軍人に徹すれば、見えてくるだろう。必要な駒は」
 
( ゚∀゚)「旗地と一緒だ、ブーン。手駒を並べたあとは、賽を振るだけだ」
 
(; ω )「……許可、できませんお。大将権限で、献策を却下しますお」
 
 ブーンは、俯き加減のままそう言った。
 小さな幕舎内に、一瞬の静寂が訪れる。
 
(; ω )「ここでお二人を失うなんて……そんな想定は……」
 
( ゚∀゚)「違うんだ、ブーン。聞いてくれ。どのみちもう、ダメなんだ」
 
( ゚∀゚)「俺の余命は、ほんの僅かしか残されちゃいないんだ」
 
 弾けるように、ブーンは顔を上げた。
 だが、何かを悟ったかのように、また頭を垂らす。
 
(; ω )「……知りませんでしたお……ジョルジュさんは、ベル=リミナリーと同じ道を……?」
 
( ゚∀゚)「あぁ。こうやって戦場に立つことと引き換えに、寿命を削った」
29 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:30:38.84 ID:EVEwk6RA0
( ゚∀゚)「……すまなかった。お前に、何も言わずに、勝手に……謗りを受けて当然だ、と思う」
 
(; ω )「謗りなんて……そんな……」
 
( ゚∀゚)「じきに燃え尽きる灯だ。最大限、ヴィップのために活かしたい」
 
 消え去るときは、近い。
 ショボンの一息で吹き飛んでしまうような、心許ない灯りだ。
 
 それでも最後は、ヴィップの未来を照らしていきたい。
 
( ゚д゚)「ブーン、俺は寿命を削ってはいないが、しかし、次の戦が最後になると思っている」
 
 ミルナが一歩、踏み出す。
 ブーンは僅かに退く仕草を見せたが、実際には下がっていなかった。
 
( ゚д゚)「ラウンジの臣でありながらヴィップに潜入し、東塔大将としてオオカミを滅ぼした男――――」
 
( ゚д゚)「――――ショボン=ルージアルに、アルファベットを突き立てる、最後の機だろう、と」
 
(; ω )「…………」
 
( ゚д゚)「討てるならば、討ってしまったほうがいい。それは、間違っていないはずだ」
 
(; ω )「それは……確かにそうですお」
 
( ゚д゚)「あいつの首が胴から離れるのであれば、俺は誰がやってくれても満ち足りるものはある」
 
( ゚д゚)「だが、身勝手な願望を言わせてもらえば、やはりこの手で討ちたい」
33 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:33:45.32 ID:EVEwk6RA0
(; ω )「……でも……」
 
( ゚д゚)「お前の言いたいことは、分かる。アルファベットVでは、Zにはまず敵わんだろう」
 
( ゚д゚)「ショボンは、アルファベット使いとして、あまりにも圧倒的すぎる」
 
( ゚∀゚)「俺とミルナの二人がかりでも、討ち取れるかどうかって相手だ」
 
( ゚д゚)「しかし、ブーン。敗北を、是とするわけではないが――――」
 
( ゚д゚)「俺は、ここでもう一人の仇も討っておきたいんだ」
 
 ミルナが、固く拳を握りしめる。
 何かを、その獣の爪で、砕き潰すように。
 
( ゚д゚)「およそ二年前、俺が大将を務めていた国、オオカミは滅亡した」
 
( ゚д゚)「……ヴィップとラウンジの手によって、討ち滅ぼされた」
 
 一つずつ、ゆっくりと、階段を上がるように。
 ミルナは、不思議に思えるほど落ち着いた声で、語っていた。
 
( ゚д゚)「オオカミ城を落とされたあと、なんとか生き延びた俺は、しばらく考えていた」
 
( ゚д゚)「"どうして滅んだ。何故、オオカミは息絶えたんだ"と」
 
( ゚д゚)「細かく原因を挙げだせばキリがない。国王は下衆で、文官は不足していたし、四中将も結束してくれなかった」
 
( ゚д゚)「後でショボンの策略を聞いたあとは、あいつへの恨みを強くもした」
36 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:35:59.98 ID:EVEwk6RA0
( ゚д゚)「だが、やはり、全てを突き詰めると――――大将だった自分に行き着いたんだ」
 
 冷静から、うつろう。
 表情は、疲労さを滲ませたものへと。
 
( ゚д゚)「さっき挙げたいずれも、俺の力で補えれば良かった。
    そうすればきっと、国が滅ぶこともなかった」
 
( ゚д゚)「大将としての力が足りなかったんだ、俺には。
    仲違いしていた四中将をまとめ上げることも、結局できなかった」
 
( ゚д゚)「俺ひとりではやれることにも限度がある。
    しかし、それなら周りが盛り立ててくれるような大将になればよかったんだ」
 
( ゚д゚)「その発想は俺にはなかったし、実行する力もなかった。
    生前のベルが唯一、犯してしまった愚を、俺も犯していたんだ」
 
 ひとつ、大きく吐かれた溜息。
 瞳を、瞼で覆いながら。
 全ての過去を瞼の裏に蘇らせているのか、と思った。
 
( ゚д゚)「国が滅んだあとは自刃も考えたが、フィッティルやオールシンなど、俺を慕ってくれた兵のことを思うと、とてもできなかった」
 
( ゚д゚)「そして俺自身も……戦場で果てたい気持ちは、やはりあったんだ」
 
( ゚д゚)「だからヴィップに身を置かせてもらった。あくまで、俺はオオカミの将だからだ」
 
( ゚д゚)「オオカミのミルナとして、敵将を――――ヴィップのミルナを討つ。
    そうすることで、擬似的にでも、仇を討ちたかった」
40 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:38:12.96 ID:EVEwk6RA0
( ゚д゚)「国に最も貢献できた男だったという自負もある。
    しかしそれでも、俺はやはり、国を滅亡に導いた男なんだ」
 
( ゚д゚)「そう、結論づけた」
 
 また、溜息。
 万感を込めたような、淡いものだった。
 
( ゚д゚)「囮となった場合、運が良ければ仇を二人とも討てるだろう」
 
( ゚д゚)「ショボンは無理だったとしても、ヴィップのミルナ=クォッチは戦場で果てさせてやることができる」
 
( ゚д゚)「だから、最後の戦だ。狼牙を敵に突き立てることは、もうない」
 
( ゚д゚)「老いも隠せぬ年齢になってきたが、最後くらいは、子供のような我が侭でも貫きたい」
 
( ゚д゚)「それだけが、俺の願いだ」
 
 ミルナの瞳は、いつも力強い。
 その眼力だけで、兵卒ならば震えあがるほどだ。
 
 常に、純朴ともいえるほどに、武人であったから。
 だからこそ、ミルナの目は、常人のそれとは明らかに違っていた。
 
 それほどの男が、純粋なる願いを口にした。
 恐らく、オオカミという国で大将をやっていた頃であれば、絶対に言葉にはしなかった思いだ。
 ただ自分のために、という願望。
44 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:40:24.25 ID:EVEwk6RA0
( ゚∀゚)「俺も、ミルナも……いや、もちろんお前だってそうだ」
 
( ゚∀゚)「国のために戦ってる。自分のことは、いつだって二の次だ」
 
( ゚∀゚)「そうやって個を殺してきたからこそ、最後くらいは、と思っちまう」
 
( ゚∀゚)「大将であるお前に迷惑をかけちまうことは、重々承知なんだが……でも」
 
(  ω )「……分かってるんですお。本当は、それがいいんだってことは」
 
 声の大きさは、呟きと変わらない。
 だが、自分たちの耳にははっきりと届いた。
 
(  ω )「戦に勝つためにも、ジョルジュさんのためにも、ミルナさんのためにも……それが最良の選択だ、ってことは」
 
(  ω )「……だけど……お二人と同じように、自分にも、我が侭といえる感情がありますお」
 
(  ω )「お二人と、ともに……勝利を分かち合いたい……そう思ってるんですお……」
 
( ゚∀゚)「ッ……」
 
( ゚д゚)「…………」
 
 ――――ここにいる三人は、全員、軍人として未熟なのかもしれない。
 だが、決して非にはならない。
 いや、非にしてはならないのだ。

45 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:42:31.03 ID:EVEwk6RA0
 それでも戦は、常に無情だった。
 だからこそ、今日まで生き延びることができたのだ。
 
( ゚∀゚)「言葉だけで充分だ、ブーン」
 
( ゚д゚)「ありがたく、受け取らせてもらう」
 
(  ω )「はい……ですお……」
 
 納得、できるはずはないだろう。
 全ての兵を守りたいとさえ言っていたのだ。
 確実に兵を失う作戦を、是とするはずはない。
 
 礎になりたい。
 無為な死を享受したくはない。
 
 その思いを、ブーンは酌んでくれた。
 自分の気持ちを犠牲にしてまで。
 
 身の犠牲。
 心の犠牲。
 そのいずれもが伴う作戦だ。
 
 だからこそ、絶対に、失敗は許されない。
48 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:45:10.20 ID:EVEwk6RA0
――嗟嘆の森・中央――
 
 僅かに降り注ぐ月光。
 振り上げたアルファベットが頂点に達した、その一瞬だけ、刃に輝きを与える。
 
 渾身の力で、振り下ろした。
 
( ゚д゚)「ッ……」
 
 喧騒が凄まじい。
 怒号や、干戈の音が飛び交っている。
 周囲の状況を耳だけで把握することは困難だ。
 
 だからこそ、目の前の光景は、鮮やかに網膜に焼きついた。
 
(´・ω・`)「賛辞を、送るべきか」
 
 二振りの剣として使用される、アルファベットZ。
 こちらは、自分とジョルジュの二人がかりだ。
 当然、ショボンはそれぞれのZで受け止めることになる。
 
 理屈でいえば、あまりにも単純。
 しかし、実際に目の当たりにしても、信じ難かった。
 
 ショボンは、いとも容易く、自分とジョルジュの同時攻撃を受け止めた。

 

60 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:56:20.12 ID:EVEwk6RA0
(´・ω・`)「二人とも、間違いなくアルファベット使いとして、屈指の存在だ」
  _
( ゚∀゚)「余裕かましてるつもりか?」
 
(´・ω・`)「そう捉えられるのは残念な限りですよ、ジョルジュ大将」
  _
( ゚∀゚)「ッ……!」
 
 慣れ親しんだショボン、だろう。
 ジョルジュにとっては、だ。
 
 その程度で、激情に襲われるはずはない。
 ジョルジュはただ、ショボンの首だけを、冷静に狙っている。
 _
(#゚∀゚)「おおおおぉぉッ!!」
 
 突き出されたアルファベットU。
 ショボンは、あえて際どいところで躱したように見えた。
 事実、表情には僅かな焦りもない。
 
(#゚д゚)「ふんッ!!」
 
 ショボンが回避した先へ、Vを向ける。
 こちらは躱さずに、受け止めてきた。
 ジョルジュの追撃。しかしそれも、アルファベットZは防いでくる。
 
 弾かれて、三人それぞれに、若干の隙。
 しかし、体勢を立て直すのはショボンが一瞬早い。
 
 攻めの、体勢に。

61 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 15:57:25.15 ID:EVEwk6RA0
 左手のZは、薙ぐように。
 右手のZは、振り下ろすように。
 
 それぞれ、自分たちを襲う。
 
(;゚д゚)「ぐっ!!」
 _
(;゚∀゚)「くぉっ!」
 
 アルファベットの形状だけではない。
 手の痺れ、そして振るわれる速度。
 正に、稲妻のようだ。
 
 かろうじて、受け止めることはできた。
 しかし、アルファベットを前に出したにも関わらず、かなり押し込まれてしまった。
 Vの刃が、自分の胴体を裂きかねない位置にまで。
 
 堪えて、押し返す。
 既に、自分の呼吸は乱れ始めていた。
 
 何度もZの攻撃を受け続けるわけにはいかない。
 二人がかりだからこそ、まともに戦えてはいるが、アルファベットは一つだ。
 いずれ破壊される恐れがある。
 
 予備を用意したところで、持ち替える暇などショボンが与えてくれるはずもない。
 アルファベットが壊れれば、それは間違いなく、首を失うのと同義だ。
 
 間断なく、攻め続ける。
 最初から、自分たちにはそれしかないのだ。
64 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:00:11.29 ID:EVEwk6RA0
 ジョルジュがまず、リーチを活かしてショボンを狙う。
 しかし、攻撃可能範囲が広いというのは、初動から敵に攻撃が届くまでに時間がかかる、ということだ。
 ショボンの不意を突くことはできず、当然のように攻撃はいなされる。
 
 だが、そこにVで素早く攻撃を繰り出せる自分がいる。
 どちらかの腕一本でも斬り落とすことができれば、自分たちの勝利は間違いない。
 左腕を狙った。
 
 ショボンは、右手のZで、叩き落とすようにVを攻めてきた。
 手からVが離れたとしても納得してしまうような、急襲。
 すかさずジョルジュがUで右腕を狙ったが、今度は左手のZで搗ち上げるようにUを防いだ。
 
 もう一度、Vで左腕を狙う。
 今度はジョルジュも同時に右腕を狙った。
 
 その二撃は、腕を広げるようにして、アルファベットで弾き飛ばされる。
 
(;゚д゚)(……化け物か、こいつは……)
 
 自負を持っていることに対して、恥じる気持ちはない。
 それほどの場数を踏んできた。相応しいだけの高位アルファベットも操ってきた。
 自分だけではなく、ジョルジュもそうだ。
 
 その、二人を相手に。
 
 圧巻。
 そして、圧倒的。
 
 数合、刃を交えただけで、伝わってくる。
 あまりにも隔絶的な、実力差が。

65 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:03:04.57 ID:EVEwk6RA0
 かつて、シャッフル城戦では、単独での一騎打ちを行なった。
 あのときの自分が、今は信じられないほどだ。
 
 堪らずに少し、距離を取る。
 ショボンの巨躯が、離れてもまだ、視界を覆っているように感じた。
 
 その、瞬間。
 
(;゚д゚)「ッ!!」
 
 王を守る、側近。
 近衛騎兵隊。
 
 僅かな隙をついて、一瞬で自分たちを囲んできた。
 
(;゚д゚)「くっ……!!」
 
 再び、下がる。
 下がらざるをえない。
 
 目的が、遠ざかってしまう。
 
 ショボンが何かを指示した様子はなかった。
 恐らく、近衛騎兵隊は、一騎打ちが途切れる機を狙っていたのだ。
 邪魔立てすればショボンの意に沿わない。しかし、先ほどの時機ならば、絶妙だ。
69 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:05:20.16 ID:EVEwk6RA0
 近衛騎兵隊としては、二対一の勝負など許容できるはずがないだろう。
 主のことを考えた行動として、充分に理解できる。
 ショボンに叱責されてでも。近衛騎兵隊は、そう思ったのだろう。
 
 しかし、あまりに厳しい状況だ。
 
 敵勢、五百。
 それぞれが、一兵卒として抜きん出た力を持っている。
 将校であったとしてもおかしくない男が何人も混じっている。
 
 ショボンに対しては、どうやらヴィップの兵が襲いかかっているようだ。
 声が聞こえる。強い恨みを入り混じらせた声が。
 誰にとっても、ショボンは憎き仇だった。
 
 しかし、いくらか時間を稼げたとしても、自分たちがいなければどうしようもない。
 この壁を前にしてしまったという、僅かな光を見出すことさえ困難な状況を打破しなければ。
 
 だが、先の戦で、ジョルジュほどの男が一人も討ち取れなかった相手だ。
 あれが例え自分だったとしても、そう大差はなかっただろう。
 
 状況としては、もはや、絶望的な――――
 
 _
(#゚∀゚)「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 
( ゚д゚)「ッ!!」
 
 
 ジョルジュに、視線を向けていなかったからか。
 いや、例え注視していたとしても、分からなかっただろう。
71 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:08:13.45 ID:EVEwk6RA0
 目にも止まらぬ速さで、ジョルジュのアルファベットが、近衛騎兵を貫いていた。
 _
(#゚∀゚)「お前ら如きに塞げる道じゃねぇよ」
 
 真紅に染まったUを引き抜き、左右に振った。
 飛散する血は音もなく地に落ちる。
 
 そうだ、ジョルジュの言うとおりだ。
 この程度の相手に、塞がせていい道ではないのだ。
 
(#゚д゚)「ふんッ!!」
 
 首を狙った一撃は、アルファベットIが防いでくる。
 しかし、あまりに不格好な守り方だ。
 アルファベットを粉砕して、そのまま喉を突く。
 
 何も絶望する必要などなかったのだ。
 今の自分には、頼もしすぎるほどの味方がいるのだから。
 
 行くぜ、ミルナ。
 呟きのように、しかし力強く、ジョルジュはそう言った。
 
 言葉を返す代わりに、自分はアルファベットの切っ先を敵兵に向けた。
 
 
 
――嗟嘆の森・西――
 
 強い風が全身にぶつかって弾ける。
 しかし、進軍速度が緩まることはない。
74 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:10:43.69 ID:EVEwk6RA0
 疾駆する。
 疾駆、しつづける。
 
 叶うならば、このまま城まで。
 瞬時に陥落せしめ、引き返したい。
 今度は、森の中へと。
 
 だが、それは叶わないと知って、作戦を選んだ。
 全てを、覚悟したうえで。
 
 何が、覚悟か。
 ただの逃げではないのか。
 そう自問したところで、現実が変貌することはない。
 
 ジョルジュと、ミルナ。
 かけがえのない仲間である二人を、ここで失うという現実は。
 
(  ω )「…………」
 
 即座にフェイト城を奪取し、二人を助けに向かえば。
 そうすれば、共に勝利を分かち合うことができる。
 しかし、客観的に状況を見れば、それが不可能であることは明白だった。
 
 城を落とすことさえ、可能かどうかは分からない。
 圧倒的寡兵の軍が敵城を奪うことなど、そうそうありえることではないのだ。
 それこそ、囮でも使わなければ、だ。
 
 全てを理解したうえで、自分も、二人も、戦に臨んだ。
 最善を求めて。栄光を求めて。
77 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:13:10.03 ID:EVEwk6RA0
 だから、踏み留まることはできない。
 引き返すことも、できない。
 
 今はただ、目の前の敵を粉砕するのみだ。
 
( ̄⊥ ̄)「かつての借りを、返させてもらおう」
 
 敵勢、何万か。
 計算する必要などない。関係がない。
 何人であろうと、打ち破るだけだ。
 
 指揮官は、ファルロ。
 それだけが分かっていればいい。
 
(  ω )「敵陣を、突破するお」
 
 ただそれだけを言って、突っ込む。
 小細工は要らない。ただ突き進むだけでいい。
 
 単純に事をこなしていくほうが、他のことを考えないで済む。
 
 陣頭に立って、戦端を開いた。
 肌で感じる限りでは、両軍の兵数はほぼ同じだと思えた。
 
 しかしやはり、敵兵の数など関係ない。
 アルファベットXで、薙ぎ払うだけだ。
 
 指揮官の首を取るのが最も早い。
 ファルロ自身、以前に一騎打ちで"討ち取られなかった"ことに対する悔しさを抱えているだろう。
 一騎打ちに持ち込める可能性はある。

78 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:15:47.89 ID:EVEwk6RA0
 ただ、ファルロが冷静ならばありえないことだ。
 そして、愚将でないことなど分かり切っている。
 稀代の英傑、ベル=リミナリーの血を受け継いでいる男なのだ。
 
 気にかかるのは、オワタとヴィルの動向。
 東には部隊を配していないため、ラウンジ軍は無条件通過だ。
 ヴィップ兵がいないことを見て、果たしてどう出るのか。
 
 そのままオリンシス城に突っ込む。
 これが、最も自然な流れだ。
 ただ、ヴィップがしばらく堪えられるよう、ニダー以下の諸将を全て城に残してきてある。
 
 いざというときには、オオカミ城かマリミテ城まで逃げられるように。
 それも、考えている。
 
 もしここで即座にフェイト城を奪えなければ、ヴィップは、恐らく滅亡するだろう。
 ならば、城に籠って無用に兵を失うようなことがあってはならない。
 逆転の策が潰えてしまった場合は、降伏するより他ない。
 
 そのための、後背。
 歴戦の将たちを、盤石な体制で残してきた。
 可能な限り粘る。しかし、諦める道も考えたうえで。
 
 ここで勝って城を奪ってもまだ、逆転の策は成らない。
 しかし、負ければそこで終わりだ。
 ヴィップはずっと、そういう戦いを続けてきた。
 
 ラウンジ軍の中核へと向かって斬り進んでいく。
 手応えは残らない。Xは、全てを蹂躙していく。
 ただ、熾烈な戦いとなっていることは間違いなかった。
81 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:18:36.43 ID:EVEwk6RA0
 後ろからついてくる兵が、次々に倒れていく。
 それでも、止まれない。停止してはならない。
 いま一度、アルファベットを強く握り締める。
 
 不意に、アルファベットLが眼前に現れた。
 正々堂々、一騎打ち。そんな言葉は、頭の端にもないらしい。
 無論、当然のことだろう。
 
 顔が確認できず、名も分からない。
 尉官か、あるいは部隊長格の兵だろう。
 
 しかし、Lの存在を確認した直後には首を狙われていた。
 悪くはないアルファベット捌きだ。
 このまま着実に成長すれば、いずれは壁に挑戦できるのではないか、と思えた。
 
 若く有望な才があろうと、戦場では、子供が無邪気に花を摘むように、容易く。
 容易く、素首を落とされる。
 自分も同じ危機に何度も瀕してきた。同じように、摘んでもきた。
 
 持ち主を失ったLが、闇溜まりのなかへと落ちていく。
 無数のアルファベットIが突き出されてくるが、薙ぎ払うように全て粉砕した。
 
 自分が討たれれば、戦は終わる。
 それを、ラウンジも充分、把握しているのだ。
 
 そして、自分も、分かり切っているからこそ、感覚が研ぎ澄まされているのだ。
 この程度の相手に、討たれるはずがない、とさえ思える。
 そこに、僅かな驕りもなかった。
84 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:20:51.67 ID:EVEwk6RA0
 だからこそ、気を引き締める必要などない。
 最初から常に、最善は尽くしきっている。
 
 そして、眼前に、ファルロが立つ。
 
(# ̄⊥ ̄)「ふんぬッ!!」
 
 武人としての矜持と、軍人としての役目。
 双方が、ぶつかりあったのだろう。
 ファルロは、影から突如として現れ、しかしアルファベットは正面から繰り出してきた。
 
(  ω )「構ってる暇は、ないんだお」
 
 受け止めず、躱す。
 そして、馳せ違う。
 
(# ̄⊥ ̄)「逃げる気か、ブーン=トロッソ」
 
 できれば、ファルロをここで討ち取りたい。
 しかし、ヴィップ軍の被害は事前の想定以上に大きいのだ。
 兵数が互角であれば、互角に戦えると思ったが、しかし。
 
 ヴィップ兵の疲労は、明らかに大きかった。
 
 ファルロと一騎打ちになれば、どうしても足を止めざるをえない。
 今は勢いに乗って攻め込めている。それでも、被害が大きいのが現況だ。
 一度止まってしまうと、ラウンジに飲み込まれてしまう可能性が高かった。
87 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:23:22.56 ID:EVEwk6RA0
 だからこそ、ファルロも不利な一騎打ちにあえて臨んできたのだろう。
 状況的に、足止めさえできれば大局的な勝利は得られる、と見たのだ。
 冷静な判断は、恐らく父親譲りなのだろう。
 
 ファルロの判断力のせいで、形勢はかなり微妙になった。
 ヴィップ兵の動きも、依然として鈍い。
 
(  ω )(もうちょっと、だお……みんな……)
 
 あと少しで、終わらせられる。
 この戦いも、この地の戦乱も。
 
 あと、少しだ。
 
 背後からファルロが迫ってくる。
 敵兵を薙ぎ倒しながら、懸命に前へ、前へと進んだ。
 どれほど斬り伏せれば突破できるのか、もはや分からなくなっている。
 
 それでも、前へ。
 ファルロから受ける威圧感は、弱まっていた。
 どうやら、追撃を諦めたらしい。
 
 まだ、敵陣のなかだ。
 恐らく、全体指揮のなかで、ファルロは自分を苦しめてくるだろう。
 そのほうが賢明、と判断したか。
 
 いや、違う。
 ファルロは、もっと効果的な別の道を見つけたのだ。
 正確には、向こうから道がやってきた、と言うべきか。

88 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:25:57.72 ID:EVEwk6RA0
(  ω )「ッ……!!」
 
 ファルロ率いるラウンジ軍を、まだ突破できていない。
 突破できていないのに、更に壁が立ち塞がった。
 あれは、オワタの軍勢だ。
 
 東の道は空過だったはずだ。
 そのまま、オリンシス城に突っ込むのではないか、と思っていた。
 あるいは、森の外周を回るようにして、自分の背後を突いてくるのではないか、と。
 
 東に誰もいない、と分かった瞬間、引き返したのか。
 オワタの独断だとすれば、あまりにも有能すぎる男だったということになる。
 だが、東の道の進軍途中でその決断を下すことは、ほぼ不可能だろう。
 
 恐らくは、誰かが指示を送ったのだ。
 考えられるのはヴィル=クールだが、どこにいるのかは把握できていない。
 
 しかし、苦しくなった。
 
(; ω )「作戦に変更はないお! このままフェイト城を目指すお!」
 
 ファルロの軍を、まずは突っ切る。
 先は長い。それでも、やらなければならない。
 
 ここで立ち止まってしまうようなことがあれば、全てが終わりかねないのだ。
92 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:28:33.52 ID:EVEwk6RA0
――嗟嘆の森・中央――
 
 群がってくる羽虫など気にならなかった。
 アルファベットI以下の兵が何人いたところで、自分の首が脅かされることはない。
 
 ジョルジュ、ミルナとの打ち合いが僅かながら途切れた際のことだ。
 近衛騎兵隊が即座に二人を囲んだ。
 打ち合い中は分からなかったが、恐らくずっと機を窺っていたのだろう。
 
 命令にない行動を、責めることはできない。
 筋は充分に通っている。
 しかし、邪魔立てされたという気持ちが、全くないわけでもない。
 
 これで、決まってしまうだろう。
 いかに名将との誉れ高い二人でも、あの五百を捻じ伏せるのは不可能だ。
 
 できれば、自分の手で討ってやりたかった。
 武人は、誰しもが、望める限り最高の相手で最後を迎えたい、と思うものだ。
 
 二人とも、それを望んでいい男だった。
 自分にとっては常に敵将として存在していた二人だが、自分にないものも持っていたのだ。
 
 ジョルジュは、自分が入軍したときには既に圧倒的な存在だった。
 戦の指揮も、寡兵でベルと互角に渡り合うほど、抜群に上手かった。
 怜悧にも見えたが、そのくせ配下からの信頼は厚かった。
 
 ミルナも、他に有能な男が一人としていない国を、あそこまでの強国に仕上げた。
 ジョルジュに匹敵するほどの戦上手であり、特に水軍の指揮力は明らかに誰も追随できない次元に達していた。
 民政も、実質一人でこなしていたことを考えれば、恐らく自分やジョルジュより遥かに上だろう。
96 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:31:01.52 ID:EVEwk6RA0
 二人とも、時には羨ましくなるほどの才を持っていた。
 だからこそ、幾度となく苦しめられた。
 
 しかし、その二人には相応しくないほどの、呆気ない最後だ。
 誰しもが望んだ結末を得られるはずはないが、無慈悲なものだった。
 
(´・ω・`)「無駄と知りつつ挑んでくるやつも、嫌いではないがな」
 
 無数に繰り出されてくるアルファベットI。
 近衛騎兵隊がジョルジュとミルナを囲んでいるため、自分の周りには敵兵しかいなかった。
 だが、何人いようとも関係ない。いくらでも防ぎようはある。
 
 独楽のように二度、三度と回転した。
 十を超える首が夜空を翔る。
 そして、前と後ろに、右と左に、何度もZを突きだす。
 
 次第に、周囲には空虚感が生まれはじめていた。
98 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:33:14.28 ID:EVEwk6RA0
 ヴィップの兵数は五千程度のはずだ。
 既に百人以上は斬った。母数が少ないことを考えれば、徐々に致命的な傷となってくるだろう。
 だが、ここで敵兵を減らしたところでさほど意味はない。
 
 肝要なのは、ジョルジュとミルナの首。
 それさえ手にできれば、即座に南へ向かうべきだ。
 逆に言えば、二人を討たない限りは南へ進めない。
 
 しかし、確実に兵は減ってきている。
 まるで南への道が開きつつあるかのように。
 
 ――――明らかに、少ない。
 
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 
 いつしか眼前には、衝撃的な光景が広がっていた。

99 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:35:40.03 ID:EVEwk6RA0
 
 
 
 _
(#゚∀゚)「うらぁぁぁッ!!」
 
 
(#゚д゚)「ふんッ!!」
 
 
 
 
 演舞のように、華麗に。
 血化粧を纏いながら。
 
 二人は、次々に近衛騎兵を討ち取っていく。
 
(´・ω・`)「馬鹿な……!!」
 
 いったい、どういうことだ。
 確かにアルファベット差はあるが、上位に対する戦い方は熟知している兵たちなのだ。
 あれほどまでに一方的にやられるはずがない。
 
 ジョルジュがUで二人からの攻撃を受け止める。
 即座に弾いて、その二人を、そして更にもう二人、討ち取った。
 
 ミルナはVで兵の眉間を突き刺し、すぐに抜いて真後ろの兵の胴を裂く。
 最小限の動きで首を狙った近衛騎兵を、脚で往なし、そこから体を捻って二人を討った。
104 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:38:15.07 ID:EVEwk6RA0
 既に、百人以上が討たれている。
 尚も勢いは止まらず、瞬きの間に三人、四人と倒れていった。
 
 精強無比、唯一無二の存在である、近衛騎兵隊が。
 
(´・ω・`)「くっ……!」
 
 無論、即座に近衛騎兵隊を救出しようとした。
 一晩や二晩で作れる部隊ではないのだ。一人失うだけでも、深い痛手となる。
 それが、百人以上も討たれるなど、信じがたい事態だ。
 
 しかし、その事態を食い止めることができない。
 ジョルジュとミルナの戦いを見て、ヴィップの兵が奮起している。
 命に代えてでも。その気持ちのみで、自分を足止めしているのだ。
 
(´・ω・`)「邪魔だ!!」
 
 一度に五人の首を斬った。
 その直後、十人が自分に襲いかかってくる。
 これは、一息では討てない。
 
 他のラウンジ兵は外側から圧力を掛けようしているが、効いていない。
 森という狭い戦場では、兵が多くとも即座に殲滅させることは難しい。
 ヴィップ兵を逃がすことはありえないが、囲みが厚いぶん、中心から遠い兵は何もできていないのだ。
 
 当然、事前に予測できていたことではある。
 想定外だったのは、ジョルジュとミルナだ。
 それだけだ。
 
 二人の、強さだけだ。
107 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:40:38.83 ID:EVEwk6RA0
 視界を覆うヴィップ兵の隙間から、また少し、苦々しい光景が見えた。
 数人がかりで襲いかかる近衛騎兵。それを、巧みに躱すジョルジュとミルナ。
 背後を取って斬りつける。素早く反転して、攻撃を受け止めた。
 
 受けたアルファベットを弾いて、隙だらけの胴体を貫く。
 瞬間、二人に襲いかかる近衛騎兵。十を超えている。
 
 しかし、待ち望んでいたかのように、引きつけて一度に全てを斬り裂いた。
 
 自分は、読み違えたのだ。
 完全に見誤っていたのだ。
 
 確かに、近衛騎兵は充分な鍛錬を積んでいる。
 Jの壁を越えられなかった兵も多いが、上位に対する戦い方は時間をかけて覚えさせたのだ。
 Sの壁を越えた相手であろうと、互角に戦えるはずだった。
 
 実際、過日の戦では、そうだった。
 ジョルジュとまともにアルファベットを交えたが、誰も討ち取られることはなかった。
 相手を追い詰めることもなかったが、防御だけなら充分、通用すると証明してみせたのだ。
 
 だが、そんなものではない。
 ジョルジュ、ミルナ。二人の真価は、そんなものではないのだ。
 
 Sの壁を突破していた。
 長年、大将として戦場に立っていた。
 当然の事実であり、誰でも分かっていることだ。
 
 しかし、深遠までは理解できていなかった。
 冷静に考えれば、そうだ。あの二人なら、I以下の兵如きは、楽に倒せるはずなのだ。
 いかに近衛騎兵隊が熟練の使い手であろうと、本来、勝てるはずがない相手なのだ。
111 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:43:07.89 ID:EVEwk6RA0
 先日、ジョルジュが近衛騎兵隊を相手に苦戦したことは、布石だったわけではないだろう。
 あのときのジョルジュは、全力だった。手を抜く意味はない場面だった。
 
 追い詰められた今こそ、真価が発揮されている。
 更なる成長を遂げたとさえ思える真価を。
 
 既に、二百を超える数が討たれていた。
 
 下がれ、と叫んだ。
 これ以上は、近衛騎兵隊を失えない。
 立て直すのに数年の歳月が必要になってくる。
 
 そして今、数年をかけて立て直す余裕はない。
 だからこそ、あの二人はすぐに、自分が直接討たなければならないのだ。
 
 しかし、声が届かない。
 周囲のヴィップ兵が、雄叫びと同時に自分に襲いかかってきているためだ。
 
 退却の鉦を鳴らせば森の中の全軍が撤退してしまう。
 近衛騎兵隊だけに伝える鉦が、用意されていないのだ。
 普段、常に側におり、腕の振り一つで指示できる部隊だったためだ。
 
 自分の不手際を嘆いたところで、どうしようもない。
 目の前の道を、切り開かなければ。
 
(´・ω・`)(……同じことだ)
 
 ジョルジュ、ミルナと、同じことなのだ。
 群がる雑兵、全てI以下の兵だ。
 自分に敵うはずはない相手だ。
116 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:45:56.54 ID:EVEwk6RA0
 腰を落とした。
 それを機と見たのかどうかは分からないが、一斉に敵兵が襲いかかってきた。
 
 瞬時に、全兵の上半身と下半身を切り離す。
 
(´・ω・`)「遺言を残す時間が欲しいやつは下がっていろ」
 
 踏み出した。
 そして、斬り裂いた。
 
 まず、二人。そして、五人。
 一振りで可能な限り多くの首を飛ばしていく。
 
 積み重なる亡骸を、踏み越えた。
 軽く跳躍して、三人ほど討つ。
 着地の瞬間を狙われたが、敵兵の足を斬ってやればそれで済む話だ。
 
 更に斬り進んでいく。
 ヴィップ兵の目に怯えが宿るのも、詮無きことだ。
 人間ならば誰しもが、絶対的な相手には恐怖を抱く。
 
 それは、I程度の使い手ならば当然だ。
 しかし、Zが相手ならば、Sの壁突破者であろうとも、大差はない。
 
 恐怖を抱いて、当然。
 それでも刃向かってくる。
 立ち向かってくる。
118 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:48:47.08 ID:EVEwk6RA0
 何故、と問うことはなかった。
 陳腐な理由など、必要ない。
 だからこそ、そこに立っているのだ。
  _
( ゚∀゚)「やっとお出ましか?」
 
 ジョルジュは、息一つ乱していない。
 全身を染める朱色は、全て近衛騎兵隊の血だ。
 
( ゚д゚)「死に行く覚悟を決めるだけの時間は、充分にあっただろう、ショボン」
 
 近衛騎兵隊が、ようやく退いた。
 被害は、恐らく三百を超えている。
 夜闇に紛れて分からないだけで、実際にはもっと多いかも知れない。
 
 その、憤懣だろうか。
 恐らく、似ているようで、少し違う。
 
 自分のなかで渦巻く感情を、上手く理解できないでいる。
 
(´・ω・`)「見縊っていたことを、認めなければならんな」
 
 一歩ずつ、歩み寄っていく。
 二人はまだ、構えない。
121 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:50:59.64 ID:EVEwk6RA0
(´・ω・`)「宿命なのかもしれん。お前たちと、雌雄を決することは」
  _
( ゚∀゚)「下らねぇ理屈だな、ショボン。過去を封じ込めてんのと一緒だ」
 
( ゚д゚)「そもそも、この空間に理屈は必要あるまい」
 
(´・ω・`)「あぁ。きっと、お前たちの言うとおりだ」
 
 本当は、どうでもいいのだ。
 今この瞬間は、何もかもが。
 
 ただ、目の前の男を倒したい。
 それだけでいいのだ。
 
(´・ω・`)「時間はやれない。悪いが、すぐに終わらさせてもらう」
 
( ゚д゚)「やれるものならば、と言葉を返しておこう」
  _
( ゚∀゚)「すぐに終わるさ。ラウンジ国大将の討ち死にでな」
 
 二人との会話に、さほど意味はない。
 互いに、機を窺っているだけだ。
 
 初撃が、この戦いの、流れを決める。
 
(´・ω・`)「名残惜しくもある。が、いつかは訪れるものだ」
  _
( ゚∀゚)「それこそが宿命だ、ショボン」
125 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:53:45.33 ID:EVEwk6RA0
 ジョルジュが、一歩踏み出した。
 ミルナが同じように、恐らく無意識に、右足を前に出す。
 
 瞬間、自分の体は、自然と反応していた。
 
 ジョルジュがアルファベットを振り上げる。
 それを援護するかのようにミルナが側方に回った。
 
 そして、アルファベットが交わる音が鳴り響いた。
 
 
 
――嗟嘆の森・西――
 
 アルファベットは、これほどまでに重い武器だったのか。
 
 首を通り抜けようとするアルファベットHを、受け止める。
 そのまま軽く押しこんでやるだけで、刃はいとも容易く砕けた。
 
 一気に体を貫くことも、不可能ではなかったはずだ。
 しかし、自分の右腕がそれを許してくれない。
 
 体力には自信があった。
 だが、戦が始まってから既に数刻が経過している。
 止まってはならない戦で、数刻だ。
 
 恐らく、自分より体力が劣る配下の兵は、もう限界に近いだろう。
127 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:56:30.36 ID:EVEwk6RA0
(; ω )「まずはファルロ隊の突破に専念するんだお!」
 
 敵勢は、自軍のほぼ倍数だ。
 オワタの参戦が、あまりにも苦しい。
 
 それでも、着実に前へと進んでいる。
 森の中の戦がいつ終わるか分からない状況では、牛歩など許されない。
 進まなければ。どれほど苦しくとも。
 
 背後からは、ファルロが迫ってくるような感覚があった。
 実際にそうなのかは分からない。迫るふりをしているだけかもしれない。
 ただの揺さぶりであっても、効果は充分にある。
 
 いったん、背後の存在を思考から追いやった。
 目の前の敵兵に集中し、アルファベットを振るう。
 
 Jの壁を越えた兵はなかなか出てこない。
 出てこられたくはない。I以下のように、一撃でアルファベットを破壊できるとは限らない。
 今は、僅かでも足を止められたくないのだ。
 
 その瞬間、アルファベットKが現れた。
 
 瞬時に頭を沈める。
 際どくはなかった。しかし、鋭い攻撃だ。
 もし油断していれば首はなかったかもしれない。
 
 空いた懐へ、Xを突きだす。
 Kの兵は、攻めは鋭かったが、肝心の守りが全くなっていない。
 それでは、戦場で生き残ることはできない。
130 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 16:58:53.44 ID:EVEwk6RA0
 そう思ったが、しかし。
 Xの進む道を遮ってくる、アルファベットG。
 別の兵が、攻撃を防いできた。
 
 Gは一撃で砕けた。
 しかし、アルファベットKの兵は生きている。
 刃が、自分の首に向かって降りてくる。
 
(; ω )「ッ……!」
 
 Kの刃が、首に触れかけた。
 しかし、実際に当たっていても、首が飛ばされることはなかっただろう。
 
 アルファベットKを握る腕は、既に体から離れていた。
 振り下ろす直前に斬ることができた。
 
 だが、余裕があったわけではない。
 自分の反応が鈍かったことは確かだ。
 本当に最後まで保つかどうか、分からない。
 
 それでも、突破した。
 ファルロ隊はようやく突破することができた。
 
 それが罠であることに気づいたのは、突破してからしばらくの後だった。
 
(; ω )「ッ!!」
 
 闇からの襲撃者が、確実に近寄ってくる。
 標的に牙を突き立てるべく。
136 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 17:01:21.19 ID:EVEwk6RA0
\(^o^)/「行きましょう」
 
川 ゚ -゚)「はい」
 
 自分を、逃がさないように、だろう。
 ラウンジの兵卒が遠巻きに自分を囲っている。
 そして、正面にはオワタとヴィルだ。
 
 ファルロの部隊を抜け出して、すぐにオワタの部隊とは当たらなかった。
 思ったよりも遠い位置で待ち構えていた。
 理由は、外を囲むためだったのだろう。
 
 そして、背後にはまだファルロの部隊がいる。
 体勢を立て直している段階だが、いずれは後ろを突かれるだろう。
 それは分かっていたことだが、あえて突破させたのだとしたら、話が違ってくる。
 
 普段なら、オワタとヴィル程度の相手は、どうということはない。
 アルファベットはPとLだ。二人がかりで襲われても、容易く破れる。
 だが、先ほどKの相手にも冷や汗をかかされた今の自分では、果たしてどうか。
 
 後ろからはファルロもじきに迫ってくるだろう。
 素早く、そして確実に、二人を討つ必要がある。
 
(  ω )「討たせてもらうお」
 
 アルファベットを、構えた。
 二人は、留まらずに駆け寄ってくる。
 自分も、手綱を引いた。
138 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 17:03:46.61 ID:EVEwk6RA0
 初撃。
 ヴィルのアルファベットを、狙った。
 
(; ω )「ッ……!」
 
 しかし、空を切った。
 ヴィルも、自分が狙われることは読んでいたらしい。
 加えて、アルファベットの振りが大きかった。あれでは躱されるに決まっている。
 
 左から、オワタ。
 リーチの長いPが振るわれる。
 即座にXで受け止めた。
 
 そして今後は、右からヴィル。
 オワタのPを弾いて、Lを受けた。
 同じように弾く。しかし、今後はまたオワタだ。
 
 躱して、反撃。
 しかし、ヴィルの援護が早い。
 ヴィルのLを防いでいる間に、オワタのPが天から振ってくる。
 
 敵ながら、称賛せざるを得ないような息の合い方だ。
 ヴィルのアルファベット捌きは、どことなくオワタのそれに似ている。
 恐らく、オワタがヴィルを指導したのだろう。だからこそ、息も合っているのだ。
 
 冷静に、まるで他人事のように状況を分析すれば、思ったよりも手強い、と言える。
 だが、それを悠長に考えている暇はない。
 
 二人は、恐らくファルロの到着を待っている。
 ファルロがここに加われば、ラウンジはかなり優位に立てる。
140 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 17:06:52.51 ID:EVEwk6RA0
 前回の戦では、三人が相手でも負ける気はしなかった。
 しかし、今は首を刎ねられる未来しか想像できない。
 一対三は、何としても避けなければならない。
 
 打ち合いが重なっていく。
 こうしている間にも、危機は迫っている。
 
 狙うべきは、ヴィルだ。
 低位アルファベット、上手くすれば数撃で破壊できる。
 攻めに転じることさえできれば。
 
 しかし、自分を助けてくれる将はいない。
 
 背に受ける圧力が、徐々に強まっているのが分かる。
 ファルロ=リミナリーが、首を取ろうとしているのが、分かる。
 
(; ω )「うっ……くっ……!」
 
 早く、早くどちらかを討たなければ。
 苦境を打破しなければ。
 焦れば焦るほど、防戦一方になる。
 
 ――――ここで、終わるのか。
 終わってしまうのか。
 
 ジョルジュとミルナ。
 偉大な二将を、囮にしてまで勝利を求めた戦。
 絶対に落とすことができない戦。
209 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:15:11.30 ID:EVEwk6RA0
 皆が奮戦し、それぞれの役割を果たしてくれている。
 あとは、自分だけだ。
 この戦場を一人で切り抜けられれば、勝利を得られるはずなのだ。
 
 しかし、勝利への道が開くことはない。
 
 ファルロはもう、四半刻もしないうちに、自分に襲いかかってくるだろう。
 それまでに、どちらかを討てるか。
 現状では、限りなく厳しい。
 
 配下の部隊も、自分を守れる状況にはない。
 ラウンジ軍を抑えることで精一杯だ。
 
 これが、終焉なのか。
 疲労の積み重なった全身が、徐々に沈んでいく。
 
 自分ひとりでは、無謀だったのか。
 この局面を、乗り切ることはできなかったのか。
 
 自分ひとりでは――――
 
 
(  ω )(……違うお……)
 
 
 一人ではない。
 一人で戦ったことなど、一度もない。
213 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:18:45.10 ID:EVEwk6RA0
 常に、側にいてくれた。
 触れることはできなくとも、話しかけることはできなくとも、
 いつも、心のなかに居てくれた。
 
 みんな、そうだ。
 自分に関わってくれた全ての人が、自分のなかに在りつづけてくれた。
 皆の存在が、心の支えとなっていた。
 
 囮としてショボンと戦っている二人。
 後ろでオリンシス城を守ってくれている諸将。
 
 他の城を守ってくれている将、負傷してヴィップ城に留まっている将。
 今は居なくなってしまった人もいる。愛した人や、幼い頃からの親友も。
 
 皆が、いつも一緒に居てくれた。
 だからこそ、ここまで来ることができた。
 だからこそ、戦えていたのだ。
219 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:21:58.61 ID:EVEwk6RA0
 誰かに支えてもらっていた。
 いつだって、そうだった。
 
 そして、自分は、皆の志を負っているのだ。
 
 
(  ω )「お……お……」
 
\(^o^)/「ッ……?」
 
 
 
(# `ω´)「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
 
 
 
 一気に、押し返した。
 二人のアルファベットが、自分から離れる。
 
 素早く突き出す。
 ヴィルは、身を捻ってXを躱した。
 オワタがPで狙ってくる。しかし、強引に弾き飛ばした。
 
\(;^o^)/「うぐっ……!」
 
川 ゚ -゚)「オワタ様!」
 
 依然として、狙いはヴィルだった。
 僅かながら隙の生じたオワタを助けるべく、ヴィルがアルファベットを繰り出してくる。
 それを、いったん受け止めて、また弾き返す。
225 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:24:38.32 ID:EVEwk6RA0
 そして、すぐに手首を返し、一撃。
 Lの刃に、亀裂が走った。
 
\(;^o^)/「退いてください!! ヒビが入っては……!!」
 
(# `ω´)「させないお!!」
 
 指示どおりに逃げかけたヴィルに、アルファベットを突き出す。
 それを防いできたオワタ。しかし、これでいい。
 狙いはヴィルだったが、それは、ヴィルのアルファベット、という意味だ。
 
 命を奪うべきは、オワタのほうだった。
 
(  ω )「終わりにするお、オワタ」
 
 XとPの打ち合いが、数合続いた。
 眼前でしかアルファベットを受け止められないオワタ。
 確実に迫りつつあるファルロを待っているようだが、それは、虚しい希望だ。
 
 アルファベットPが、砕け散った。
 
 
\(;^o^)/「う……うああぁあぁぁぁぁ!!」
235 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:27:30.75 ID:EVEwk6RA0
 右手で握り締めたXを、左肩の上へ。
 
 そして一気に、振り下ろす。
 
 
 
 
\(;^o^)/「俺の人生 軽やかにオワタァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」
 
 
 
 
 斬り裂くと同時に、駆け抜けた。
 まだ敵兵は残っている。しかし、頭を失った。
 ヴィップ軍には、活気が戻っている。
 
 オワタが討たれ、ヴィルも戦えない。
 ラウンジ軍の士気は、明らかに落ちていた。
 
 背後のファルロはまだ追って来ているようだが、配下の兵は空元気だろう。
 ヴィップ軍の兵数も目減りしているが、フェイト城には間違いなく到達できる。
 確固たる自信が、ある。
 
 もう、一人ではないのだから。
 皆が側に居てくれていたことに、気付けたのだから。
248 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:31:10.72 ID:EVEwk6RA0
――嗟嘆の森・中央――
 
 両腕を、ショボンは振り上げた。
 自分は右を、ミルナは左を、それぞれ受け止める。
 
 森の木々が、強風で揺れた。
 そう思えるほどの衝撃が自分を襲った。
 実際に揺れたのは、自分の視界だ。
 
 足が地面にめり込んだのではないか、とも思った。
 ショボンの巨躯と、リーチの長いZ。
 二つが合わさると、正に夜空から落ちてきた稲妻のようだ。
 
 自分のUは、Zとのランク差がある。
 何度も攻撃を受け続けた場合、いつかはアルファベットが破壊されるだろう。
 破壊されれば、命はない。
 
 Zを押し返すべく、右足を僅かに下げる。
 下半身に力を込め、Uを振り上げようとした。
 しかし、ショボンの右腕は微動だにしない。
 
 呼応するように、ミルナも押し返してくれた。
 それでようやく、ショボンはZを下げた。
 
 一人では、全く歯が立たない。
 二人がかりであっても、ショボンには余裕がある。
 
 その力量差は、最初から理解していた。
 いや、理解しているつもりだった。
 しかし、これほどまでに開いているのか、という、信じがたいような気持ちがあるのも事実だ。
251 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:33:57.58 ID:EVEwk6RA0
 自分が病で躓いたこともあった。
 その間、ショボンは自分の体調管理を怠らず、精進を続けていた。
 無論、才能の差もあっただろうが、普段の生活からしてショボンのほうが上だったのだ。
 
(#゚д゚)「ふんッ!!」
 
 ミルナがすかさず反撃に出た。
 ショボンは、子供の悪戯を相手にするように容易く、ミルナのVを弾く。
 一拍遅らせて、自分も攻めた。しかし、同じように弾かれる。
 
 ショボンの返しは、苛烈だった。
 地面から龍が飛び出したような、穿つような一撃。
 それが、まず左。そして右、と連続で襲ってきた。
 
 狙いは、自分だった。
 _
(;゚∀゚)「ぐっ!!」
 
 防いだ。
 自分で、よく防いだと言いたくなった。
 途中、ほんの僅かでも力を緩めていれば、アルファベットは弾き飛ばされていただろう。
 
 その隙を、ミルナが見逃すはずはなかった。
 ミルナから最も近い、ショボンの左腕を瞬時に狙っていた。
 体の部位がどこであれ、一撃を与えることができれば、この戦いに勝利することができるだろう。
 
 ミルナの一撃は、惜しかった、と表現すべきか。
 ショボンの右腕のほうが早く反応しており、Vを防いだ。
 その表情には、僅かな焦りもなかった。
257 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:36:53.15 ID:EVEwk6RA0
 最初の一撃、自分たちが機先を制することができていれば、まだ流れは違ったかも知れない。
 ショボンのZを、受け止める形になってしまった。それは、やはり痛かった。
 勝利を得るには、一度も相手に攻撃をさせないほどに連続して攻め込む必要があったのだ。
 
 まともな打ち合いでは、二人がかりでも勝てる見込みはない。
 それは、近衛騎兵隊と戦う前の衝突で、感じられたことだ。
 
 このまま戦いつづけても勝機はない。
 では、どうすれば。
 
 答えなど、瞬時に出る。
  _
( ゚∀゚)(……やっぱりやるしかねぇな、ミルナ)
 
 声に出さずとも、肌で、互いの意思を疎通できた。
 感覚は、極限まで研ぎ澄まされている。
 
 ミルナが、僅かに頷いた。
 
 最も勝率が高い道は、最初から"これ"だった。
 他の方策を探ってもみたが、やはりショボンに刃を突き立てることは叶わない。
  _
( ゚∀゚)(ただ、間違いなく……)
 
 ショボンは、この策を読んでいる。
 いずれ仕掛けてくるだろう、と分かっているはずだ。
 
 それでもあえて臨む理由は、ひとつだ。
 分かっていたところで、防ぎようのない策だからだ。
 逆に言えば、だからこそショボンも、いずれ仕掛けてくる、と読んでいるのだろう。
266 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:40:54.43 ID:EVEwk6RA0
 防ぎようはない。
 しかし、本当にショボンを貫くことができるかどうかは、分からない。
 完璧に実行しても、ショボンが無傷で済む可能性はある。
 
 それでも、最善であることに変わりはない。
 
 気づかれない程度に少し、下がった。
 もちろん、ショボンはそれに気づいているはずだ。
 これから策に出るのだろう、ということも。
 
 互いの隙間を、夜風が駆け抜ける。
 
 ショボンの体勢は常に万全だ。
 機を図っているわけではない。
 が、踏み込めない。自分も、ミルナも。
 
 あまりに高い、壁。
 自分のなかでは常に、ヴィップの覇道を塞ぐ存在だった壁だ。
 
 越えられるのだろうか。
 覇道を、切り開けるのだろうか。
 
 一人では、絶対に不可能。
 だが、二人ならば。
 
 この男が、一緒ならば。
 成し遂げられないことなどない、とさえ思えてくる。
271 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:43:56.64 ID:EVEwk6RA0
 行こうか、ミルナ。
 最初だけは、裏をかいてやろう。
 それが吉と出るか凶と出るかは分からないが、信じて進もう。
 
 やはり、言葉にはしなかった。
 それでもミルナは、頷いてくれた。
 
 
――嗟嘆の森・中央――
 
 囮の、囮。
 作戦を簡潔に言い表せば、そうなる。
 
 元より、囮となって臨んだ戦だ。
 既に、生路はない。
 
 そのうえで、更に囮になる。
 僅かな隙を、逃れようのない隙を生みだして、刃を通す。
 
 ショボンも、当然読んでいる策だ。
 それでも、防ぎきれないだろう。
 確実に隙を生みだすことはできる。
 
 問題は、それをどこまで拡大させられるか、だ。
 
 ただ斬られるだけに終わってしまうと、ショボンは即応してくる。
 一人を斬って、すぐにもう一人も斬るだろう。
 それではどうしようもない。
276 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:47:01.40 ID:EVEwk6RA0
 どのような手段を使ってでも、可能な限り隙を拡大させる。
 そうすれば、ショボンを斬れる可能性が出てくるのだ。
 
( ゚д゚)「…………」
 
 アルファベットVを、低く構えた。
 ジョルジュもとうに体勢は整っている。
 
 ――――行こうか、と声が聞こえた気がした。
 
 一陣の、風。足早に通り過ぎる。
 目に見えなくては、目隠しにもならない、風。
 しかし、まるでそれが好機と見たかのように。
 
 ジョルジュが、動いた。
 
 ショボンを突き刺すべく、いったんUを引いた。
 そこから一気に、突き出しにいく。
 
(´・ω・`)「ッ!!」
282 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:50:03.13 ID:EVEwk6RA0
 最初に動いたのは、ジョルジュ。
 ほぼ同時に、自分も動いた。
 
 そして、体ごとショボンに迫る。
 
 一瞬だが、ジョルジュのほうが早く動き出した。
 しかし、実際の攻撃に移ったのは、自分。
 
 
 囮は、自分だ。
 
 
 
 
(#゚д゚)「オオオオオオオオオオオオオォォォォオオオオオォォォォォッ!!」
 
 
 
 
 最後の、咆哮。
 幾度となく吠え続けてきたが、これが最後だ。
 
 ショボンの、前に出る。
 アルファベットVを、突きだす。
 
 右手一本。
 ショボンは、悠々とVを防いだ。
 
 そして、吹き飛ばされる右腕。
291 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:53:16.59 ID:EVEwk6RA0
(#;゚д゚)「うおあぁぁッ!!」
 
 まだ、残っている。
 左腕が、まだ。
 
 激甚の痛みに耐え、左を伸ばす。
 
 ショボンは、Vを受け止めるのに右のZを使った。
 そして、腕を落とすのに左のZも使った。
 
 次の一撃は、右だ。
 左が使えるようになるまでに、数瞬かかる。
 
 その、右腕を掴んだ。
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 首を落とそうとしていた右のZ。
 それを、一瞬だが止めた。
 
 すぐに左腕は振り払われる。
 腕力で敵うはずもない。
 しかし、ショボンの動きを、一瞬制することができた。
 
 
(#;゚д゚)「ジョルジュ――――――――ッ!!」
304 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 21:57:11.94 ID:EVEwk6RA0
 左腕を振りほどかれたあとは、すぐさま右足を振りあげた。
 ショボンの、横腹を狙う。
 
 届かなくともいい。
 意識を、一瞬でも奪うことばできれば、それでいい。
 
 失血で、視界が白くなっていく。
 もはや、ショボンの動作もはっきりとは分からない。
 
 右脚は、不意に軽くなった。
 どうやら、大腿から下を斬り落とされたらしい。
 
 充分だ。
 ショボンに、もう一撃、打たせることができた。
 
 使ったのは左のZだろう。
 右のZは、既に使えるはずだ。しかし、左には隙がある。
 一撃。たった一撃、ジョルジュが凌ぐことができれば。
 
 だが、片腕と片足を失った自分には、もはや起こせる行動などない。
 
( д )(終焉……か……)
 
 長い人生だったのだろうか。
 誰かに問えば、そうだ、と言葉が返ってくるだろう。
 しかし、自分にとっては一瞬だった。
 
 恐らく、常に全力で駆けてきたからこそだ。
 周りの景色は足早に過ぎていった。ついてこれる者など、誰もいなかった。
316 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:00:48.51 ID:EVEwk6RA0
 それでも、共に戦ってきた者たちがいた。
 宿願を果たすことができなかったが、存分にやりきった思いはある。
 きっと、彼らもそうだろう。
 
 
 フィル、ガシュー、ドラル。
 リレント。
 
 遅くなってすまなかった。
 今から、自分も向かうとする。
 
 お前たちは、向こうでも仲違いしているのだろうか。
 また頭を悩ます日々は、御免被りたいところだ。
 
 しかし、それも悪くはないかもしれない。
 あの頃に帰ったような気分に浸れるのであれば。
 
 
 ジョルジュ。
 
 長年、すまなかった。
 最後も、託すことになってしまった。
 
 途中で、互いの夢は違えてしまった。
 しかしそれでも、お前は、無二の親友だった。
 
 こうやって共に戦う日を、ずっと夢見てきた。
 思い描いていた光景とはあまりに違い過ぎたが、それでも、轡を並べることはできた。
 
 結局のところ、自分は、お前と共にアルファベットを振るいたかっただけなのかもしれない。
326 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:04:05.48 ID:EVEwk6RA0
 だが、今となっては、それもどうでもいいことだ。
 この、満ち足りた思いだけで、充分だ。
 
 
 ジョルジュ、お前ならきっと、ショボンを討てる。
 自分では為し得なかったことも、きっとお前なら。
 
 悪いが、先に行かせてもらう。
 すまない。
 
 後は全て、お前に任せた。
 
 
 体が自然と後ろへ傾いていく。
 そういえばベル=リミナリーも、同じだったか。
 もはや、今の自分には思いだせなくなっている。
 
 西の戦況はどうなっているだろうか。
 ブーンは、城に辿り着いただろうか。
 しかし、気にしたところでどうしようもない。
333 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:05:42.07 ID:EVEwk6RA0
 木の葉の隙間から、夜空が見える。
 珍しいな、白い夜空だ。
 まだ払暁は遠いというのに。
 
 固い地面が、自分を受け止めた。
 
 空が、徐々に近づいてくる。
 視界が全て、白く染まっていく。
 どうやら、天が迎えに来てくれたらしい。
 
 長き戦乱に身を置いていた。
 最後まで見届けることは、できなかった。
 
 
 今後の、天下の帰趨は、天上で見守らせてもらうことにしよう。
 
 
 不思議と、笑みが零れた。
 きっとあの男も、同じ心境だったのだ、という気がした。
 
 だからこそ自分は、武人として静かに旅立てるのだ。
 そう思えた。
336 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:07:31.22 ID:EVEwk6RA0
――嗟嘆の森・中央――
 
 ミルナが、右足を斬り落とされた。
 その瞬間が、最大の好機だった。
 _
(#゚∀゚)「ショボンッ!!」
 
 左のZは繰り出せない。
 ミルナは、全身全霊をかけて、片腕を完全に封じてくれた。
 
 自分が囮になる道も、あるにはあった。
 アルファベットのランクでいえば、ミルナのほうが高いからだ。
 しかし、だからこそあえて、役割を逆転させた。
 
 そうすることで、ショボンの不意を打てた。
 ミルナがショボンの右腕を掴めたのも、そのおかげだ。
 
 己が身を犠牲にしてまで、隙を作ってくれたミルナ。
 右腕のZさえ、何とか凌ぐことができれば、という状況に持ち込んでくれた。
 
 あとは、自分だけだ。
 自分が、やるだけだ。
 
 ショボンの右が、動く。
 
 斜めに自分を裂くつもりだ。
 受けるか、躱すか。
 どちらも厳しい。
343 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:10:03.04 ID:EVEwk6RA0
 ならば、融合させる。
 受けて、躱す。
 
 Uを振り上げた。
 ショボンのZが降り始めた、直後。
 
 Uは、リーチが長い。
 地面からの振り上げでは、振り抜くのに相当、時間がかかる。
 一秒にも満たないが、それでも、この場では致命的だ。
 
 だが、惑わした。
 
 ミルナが囮になる前の打ち合いで、あえて一拍、攻めを遅らせたことがある。
 後のための、布石として。
 
 普段よりも、ほんの僅かだが、アルファベットの振り上げを遅くした。
 その残像は、ショボンほどの男なら、自然と記憶しているはずだ。
 
 今、その残像よりも、早く。
 可能な限り素早く、Uを振り上げる。
 
(´・ω・`)「ッ!!」
 
 Uが、Zを受け止める。
 すぐさま、刃を横に流した。
350 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:13:18.37 ID:EVEwk6RA0
 右のZの軌道が、変わる。
 そして、右足を伸ばして、刃の軌道から逃れる。
 
 Zの刃は、地面に突き刺さった。
 
 
 これで、ショボンのZは、両方とも封じた。
 
 
  _
(#;゚∀゚)「お……あ……」
 
 
 
 
 
 _
(#゚∀゚)「うおあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 
 
 
 
 
359 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:16:41.84 ID:EVEwk6RA0
 凌いだ。
 ショボンのZを、凌ぎきった。
 
 アルファベットUを、突き出す。
 ショボンの胴体へと向かって。
 
 ミルナが囮になって、機を作ってくれた。
 それに、応えることができた。
 
 Uが、ショボンの右肺あたりへ向かう。
 どこでもいい。一撃、喰らわせることができれば、どこでも。
 それで、勝負はつく。
 
 アルファベットを、伸ばした。
 伸ばしきった。
 
 
 ショボンから噴き出す、鮮血。
373 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:20:37.06 ID:EVEwk6RA0
 _
(;゚∀゚)「ッ!?」
 
 斬った。
 確かな、手応えがあった。
 
 実際、ショボンも血を流している。
 確かに自分は、ショボンを斬ったのだ。
 
 しかし、右腕。
 上腕を、掠めたU。
 
 胴体は、貫いていない。
 右腕を斬り落としてもいない。
 
 体を、傾けたのだ。
 ショボンは、強引にUを躱してきた。
 
 単に傾けただけならば、追撃できる。
 あとは、倒れこむだけだからだ。
 
 しかし、左のZ。
 ミルナの脚を斬ったあとのZが、地面に刺さっている。
 
 Zを、支えに。
 重心を左に傾けたショボン。
 
 自分の腕は、無防備に伸びきっている。
389 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:24:55.12 ID:EVEwk6RA0
 右のZが、地面から引き抜かれる。
 それが分かっているのに、今の自分の体勢では、どうすることもできない。
 
(´・ω・`)「二人とも、見事だった」
 
 右腕からは流血している。
 それでも、Zを握ることができているショボン。
 
 
 自分の伸びきった腕が、アルファベットごと地面に落ちた。
 
 
(´・ω・`)「これ以上なかっただろうな。二人とも、最善を尽くした」
 
(´・ω・`)「ただ、それでも及ばない、ということが、世の中には数多くあるものだ」
 
 
 前のめりに、倒れこむ。
 アルファベットUは、もはや手の届かない位置にある。
 
 仮に届いたとしても、もう握れない。
 無理に戦場に立ってきた体では、片腕で戦うことはできないらしい。
 総身に、まったく力が入らなかった。
 
 必死に、顎を上げた。
 ショボンの右腕の傷を、確かめる。
 
 浅手ではなかった。
 しかし、決して深手でもない。
401 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:28:25.93 ID:EVEwk6RA0
 せめて、もうZを握れなくなるほどの傷を負わせることができていれば。
 そうすれば、ヴィップの天下は間違いなかったはずだ。
 
 力が、足りなかった。
 今に限ったことではないが、悔やんでも悔やみきれない。
 _
(; ∀ )「く……そぉ……!!」
 
 怒りを込めて、左手で地面を叩こうとした。
 しかし、その程度の力さえ、もはや残されてはいない。
 
 死力を、尽くしきった。
 それでも、ショボンには及ばなかった。
 
 よくやった、と自分を褒められるはずもない。
 後悔は多い。あまりにも、多すぎる。
 ショボンを、討ちたかった。何としても、是が非でも。
 
(´・ω・`)「長かったですね」
 
 昔のような口調で、ショボンは静かに語りかけてきた。
 もはや、その表情を確かめることはできない。
 憐れみでも向けられているのだろうか。
 
(´・ω・`)「貴方との戦いは、本当に長かった」
 
(; ∀ )「知らねぇよ、そんなこと……」
 
(´・ω・`)「感慨深いものがあるのですよ、こちらには」
407 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:31:18.79 ID:EVEwk6RA0
 口ぶりは、本当に宿願を達成したかのようだ。
 あのショボンでも、戦いに苦しんでいたのか。
 少し、意外な気持ちもあった。
 
(´・ω・`)「忘れられない宿敵でした。貴方も、ミルナも」
 
(´・ω・`)「討ち果たせたことを、誇りに思うほどに」
 
 自分にとっても、ショボンは宿敵だった。
 恐らく、ミルナもそうだっただろう。
 
 常に障害として立ち塞がってきた。
 結局、最後まで突き崩すことはできなかった。
 
(´・ω・`)「東塔と西塔に別れていたころから」
 
(; ∀ )「うるせぇ……ぞ……ショボン……」
 
 一人で感慨に浸られても、惨めなだけだ。
 敗者はただ、黙することしかできない。
 
 ショボンは、嘆息を漏らしたようだった。
 
(´・ω・`)「この敬語に」
 
 一瞬、ショボンは言葉を切った。
 
(´・ω・`)「――――他意は、ないのですけどね」
 
 また、先ほどと同じような息を、ショボンは吐いたようだった。
413 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:34:53.27 ID:EVEwk6RA0
 今更、ショボンに何かを言われたところで、どうしようもない。
 やはり自分は、敗者のままだ。
 
(  ∀ )「……そうかよ」
 
 それでも、絞り出すようにして、声を出した。
 最後の、意地だった。
 
 首を捻って、ミルナのほうに目をやった。
 微動だにしていない。もう、息はないのだろう。
 
 すまない。
 ショボンを討つことは、できなかった。
 
 ミルナのためにも、ブーンのためにも。
 いや、過去と未来の、全ての将や兵のためにも。
 そして、自分のためにも。
 
 ショボンを、討ちたかった。
 
 誰もが望む結果を得られるはずはない。
 自分も、大勢の兵と同じだ。
 志半ばで果てることになってしまった。
 
 
 ミルナ。
 最後、共に戦場に立てたことを、嬉しく思う。
 
 ありがとう。
 お前のおかげで、こうやってアルファベットを振るうことができた。
420 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:37:59.73 ID:EVEwk6RA0
 ショボンを討てなかったことは、向こうで謝らせてくれ。
 許してくれとは言わない。存分に責めてくれ。
 
 お前は、自分に責任を求めすぎるところがあった。
 だから、せめて、最後くらいは。
 
 
 ハンナバル総大将。
 申し訳ありません。自分が生きているうちには、天下を得ることができませんでした。
 託された遺志を果たすことは、できませんでした。
 
 貴方に拾ってもらい、貴方に見出してもらった身です。
 せめて、貴方の期待に応えることで、大恩に報いたく思っていました。
 
 自分の手でヴィップの覇道を完成させることは、できませんでした。
 しかし、それでもきっと、貴方は笑って迎えて下さるのでしょう。
 
 また、あの笑顔に、会いに行きます。
 
 
 ブーン。
 結局、全てをお前に任せることになってしまった。
 心から、申し訳なく思う。
 
 ハンナバル総大将の遺志は、確かに継いだつもりだ。
 無責任だが、ヴィップの天下は、お前の手で成し遂げてくれ。
 それだけの力を持った男だ、お前は。
426 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:41:30.46 ID:EVEwk6RA0
 まだ、最後の戦いが残っている。
 お前に残してやれるものは何もないが、せめて、志だけは置いてゆこう。
 それさえきっと、武器にしてくれると信じて。
 
 
 ニダー、フサギコ、サスガ兄弟。
 お前たちはきっと、俺と共に平和な世を楽しみたい、と思ってくれていただろう。
 自分もそうだった。お前たちと、下らない話でもしながら気ままに生きてみたかった。
 
 別離の形は、決して綺麗なものではなかった。
 だが、それも戦ならば仕方ない、と理解してくれているだろう。
 
 自分のぶんまで、ヴィップの世を満喫してくれ。
 先立ったヒッキーが独り、寂しく待っている。行ってやればきっと、喜んでくれるだろう。
 こっちはこっちで、楽しんでくるつもりだ。
 
 
 別れを告げ出せば、きりがない。
 ショボンにさえ、投げかけてやりたいくらいだ。
 
 自分の戦いは、ショボンとの戦いと言ってもよかった。
 それほどの相手だからだ。
 
 もっとも、ショボンがそれを望むとも思えない。
 
(´・ω・`)「とどめは、やはり、僕の手で」
 
 不意に、ショボンの声が聞こえた。
 どうやら、Zをゆっくり、振り上げたらしい。
431 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:44:46.90 ID:EVEwk6RA0
 ショボンは、長かったと言った。
 自分との戦いを、本当に長かったと。
 
 それほどの歳月を、戦場で過ごせたことに、感謝しなければならない。
 自分に関わった、全ての人に。
 
 
 
 ありがとう。
 
 
 
 これで、ようやく逝ける。
 
 
(´・ω・`)「……さらば」
 
 
 顔を伏せた。
 木々の影が降りた地面には、闇が浮いている。
 だが、どうやら星の光を反射しているようだ。
 
 でなければ、この視界の明るさは、説明がつかない。
 
 ヴィップの未来も、このように明るいのだろうか。
 道標になりたいと願った。行く先を照らし出したかった。
 心許ない光であっても。
 
 誰も、躓かないように。
 安寧を迎えられるように。
438 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:47:07.51 ID:EVEwk6RA0
 その役目は、少しでも果たせただろうか。
 そうであれば、無上の喜びだ。
 何かを思い残す必要など、ないだろう。
 
 
 刃が、風を斬っていた。
 恐らく、Zが自分の体に向かって降りてきている。
 
 ヴィップ国に、栄華が訪れんことを。
 ただ、それだけを願って。
 
 自分も、旅立つ。
 
 
 Zが、優しく自分のなかに入り込んできた。
 
 
 天は、明るいのだろうか。
 自分の故郷のような、一面、白銀の世界なのだろうか。
444 :第117話 ◆azwd/t2EpE :2010/01/01(金) 22:49:31.26 ID:EVEwk6RA0
 今、自分に見えているものが天ならば、きっとそうだ。
 思ったよりも、優しい光に包まれている。
 
 苦しみは、ない。
 
 
 
 ――――そしてそのまま、世界は、眩い光に覆われていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 第117話 終わり
 
     〜to be continued

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