4 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:03:02.41 ID:xw3bxZw70
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:オリンシス城付近

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:オリンシス城付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:オリンシス城付近

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:オリンシス城付近
8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:05:19.70 ID:xw3bxZw70
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:オリンシス城付近
16 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:07:25.31 ID:xw3bxZw70
●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
24 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:09:18.07 ID:xw3bxZw70
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
34 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:11:11.11 ID:xw3bxZw70
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:フサギコ
S:
T:ニダー/ファルロ
U:ジョルジュ
V:
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
36 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:12:48.01 ID:xw3bxZw70
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・フェイト城〜オリンシス城間

 

53 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:17:14.11 ID:xw3bxZw70
【第116話 : Select】
 
 
――フェイト城・南東――
 
 夏の暑さも、夜になればいくらかは和らいだ。
 
(´・ω・`)「涼夜でも、水分の補給は忘れるなよ。また倒れられては敵わん」
 
\(;^o^)/「は、はい。もちろんです」
 
( ̄⊥ ̄)「オワタ中将、水筒に余りがあります。どうぞ」
 
\(^o^)/「ありがとうございます、ファルロ中将」
 
(´・ω・`)「念のため、キョーアニ川の動向は調べておいてくれ、ファルロ、オワタ」
 
( ̄⊥ ̄)「ミルナを擁しているヴィップですから、水軍への警戒は必要ですね」
 
(´・ω・`)「まぁ、水路を使う場合は遡上しなければならん。その道を選ぶことは、ないと思うが」
 
\(^o^)/「調査はしておきます」
 
(´・ω・`)「頼んだ」
 
 二人が揃って馬に跨り、闇に溶け込んでいく。
 最近、特に過日の戦功が理由で同時に中将となって以降、行動を共にすることが増えたようだ。
62 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:20:35.34 ID:xw3bxZw70
 将校の昇格を決めるのは自分だ。
 クラウンからは、都合で昇降させてもいいと許可を得ている。
 だから、本城への伝令はまだ送っていなかった。
 
 クラウンは体調を崩したままだ。
 満足に政務を行なえる状態ではないという。
 
 やはり、戦を一日でも早く終わらせなければならない。
 クラウンと初めて会った日に見た、夢のような光景を、現実のものとするためにも。
 
川 ゚ -゚)「ベル様のことを、思い出します」
 
 南から馬を駆けさせてきたクーは、顔に汗一つ浮かべていなかった。
 万事を涼しげな顔でこなす女だ。昔から、そうだった。
 
川 ゚ -゚)「お得意でしたね、ベル様は」
 
(´・ω・`)「……そうだな」
 
川 ゚ -゚)「森を使った戦、ですか……」
 
 フェイト城の南東、オリンシス城の北に広がる、広漠な森。
 嗟嘆の森、と呼ばれていた。
 
 懐かしいと言うべきだろうか。
 ここで、敵将を利用し、将来の障害となるかもしれない男を討った。
 まだ数年前のことのはずなのに、随分、長い時を経たように感じる。
 
 ドクオが、ミルナと戦い、敗れた森だ。
68 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:24:45.27 ID:xw3bxZw70
川 ゚ -゚)「お見事でしたね、あのときは」
 
 クーが、自分の心を見透かしたようなことを言った。
 恐らくは、同じことを思い出していたのだろう。
 
(´・ω・`)「偽物か、とドクオはこの森で思っただろうな。実際には、本物だったが」
 
川 ゚ -゚)「手紙ですか」
 
(´・ω・`)「あぁ、何もかもが上手くいった。ミルナの働きが、素晴らしかった」
 
 皮肉的に、当時もそう思った。
 想定通りに動いてくれたのは、ドクオだけではなかったのだ。
 ミルナが、こちらの願ったように戦ってくれたからこそ、自分に猜疑の目が向けられることもなかった。
 
(´・ω・`)「二人が大規模な戦をやった。あのときのままだ、この森は」
 
川 ゚ -゚)「想定は、最初からですか?」
 
(´・ω・`)「いつか森を使うことになるかも知れない、とはずっと思っていた」
 
(´・ω・`)「勝利目前、敗北濃厚、いずれであってもだ」
 
川 ゚ -゚)「……ヴィップも恐らく、想定しているだろうと?」
 
(´・ω・`)「ヴィップというより、ブーンだな。あいつなら、見えているだろうと思っていた」
 
(´・ω・`)「実際、森の南に布陣しているところを見ると、やはり挑んでくるようだな」
 
川 ゚ -゚)「二と三の選択、ですか……」
75 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:28:16.24 ID:xw3bxZw70
 戦の構造は、単純明快だった。
 かつてドクオが南からフェイト城を急襲しようとしたことからも分かるように、嗟嘆の森には道がある。
 森を大軍が駆け抜けられる、大きな道があるのだ。
 
 そして当然、東と西、森の外側から回り込むこともできる。
 つまり、森の反対側へと到達するべく使える道は三つあるのだ。
 
 全軍を三つに分けて、城を目指す。
 真っ先に考える戦法は、それだ。
 
 だが、選択肢として、全軍を二つに分ける道もある。
 敵軍の、三つのうち一つは切り捨てて、残り二部隊を全力で打ち破り、城を目指す。
 
(´・ω・`)(三つのうち一つでは、城を落とすのは厳しい……全軍から見て、半分以上の力が必要だ)
 
 敵軍の力を半分以下に。
 自軍の力を半分以上に。
 
 基本線は、そこに置くこととなる。
 
川 ゚ -゚)「どちらを選択するかは、難しいですね」
 
(´・ω・`)「あぁ。相手の出方次第で、勝敗が揺れる」
 
 ラウンジには数の利がある。
 定石で考えれば、三部隊に分けるのが最上だろう。
 
 ヴィップが同じく三を選択してくれれば、容易い。
 大軍をもってして、各個撃破できる。
82 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:31:51.31 ID:xw3bxZw70
 怖いのは、二を選ばれたときだ。
 突破力で優るヴィップの兵数が多いとなると、ラウンジは抗えない。
 ラウンジの一隊は無条件通過だが、ヴィップに二隊通過されると、間違いなく先に城を落とされる。
 
 では、ラウンジが二部隊に分けた場合。
 相手が二部隊だと、これもやはり、数で優るため有利だ。
 ただ、道を同じくするかどうか、で変わってくる。
 
 三つのうちの二つとなれば、当然、選ぶ道はそれぞれで違う。
 両軍全て衝突する場合もある。しかし、互いに一隊は戦わずに森の向こうへと到達する可能性もあるのだ。
 
 半数が互いに活きる状態。
 これは、勝敗の行方がまったく読めない。
 
 兵数が少なく身軽なヴィップのほうが先にフェイト城に到達するか。
 あるいは大軍を擁するラウンジが即座にオリンシス城を落とすか。
 
 城の防備は互いに薄い。
 ラウンジからすれば城に籠る体力はなく、城の前を固めても勢いに乗ったヴィップには立ち向かえない。
 ヴィップからすれば大軍の力押しに抗しきれる余力は残っていない。
 
 全力を森に注ぎ込んでいる。
 だからこそ、博打の要素が強い不明瞭な展開には、ラウンジとしてもヴィップとしても、持ち込みたくはないのだ。
 
 こちらが二部隊で、ヴィップが三部隊だった場合。
 兵数差が大きければ、ヴィップの突破力は殺せる。
 二部隊を止めれば、あとの一部隊は放っておいても問題はないだろう。
87 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:35:35.02 ID:xw3bxZw70
 どちらかが一部隊を選択することは、ありえない。
 二部隊以上を相手に選ばれると敗北濃厚だからだ。
 当然、両軍ともに避けることとなる。
 
 兵数の多い部隊であれ、敵と当たればいくらかは時間を失う。
 例え局所的には勝利を収めることができたとしても、だ。
 
 その失う時間が、非常に大きな鍵となる。
 城へと先に到達したほうが断然、有利だからだ。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 ヴィップが三部隊であれば、ラウンジが有利だ。
 元よりヴィップ兵には疲弊がある。
 士気の低下も、ある。
 
 ヴィップは、二部隊か。
 多勢での進軍となれば、今のヴィップ兵にとっては心強いだろう。
 三部隊では、それぞれの部隊の兵に、心許なさがあるはずだ。
 
(´・ω・`)「……ヴィップは、二部隊かな」
 
川 ゚ -゚)「私も、そう思います」
 
(´・ω・`)「ただ、一つの要素を考慮すると、想定が覆るかもしれない」
 
川 ゚ -゚)「……捨て身ですか?」
 
(´・ω・`)「そうだ」
92 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:39:02.80 ID:xw3bxZw70
 今までの想定は全て、将を考慮していない。
 どこにブーンが来るかを、考えていない。
 
 それは、とりあえず置いておくとした場合。
 浮かんでくる顔がある。
 かつて、辛酸を舐めさせられた二つの顔が。
 
(´・ω・`)「ジョルジュと、ミルナ。どちらかが囮になって、自分を止めに来る可能性がある」
 
 今の想定は、敵軍の分割が均等であることを前提にしている。
 つまり、ジョルジュもしくはミルナが、数千程度の兵と共に、全滅覚悟で進軍してきたら。
 これは、戦が分からなくなる。
 
 特に、突破力を持つ自分の部隊と当たった場合だ。
 たった数千の相手に時間を稼がれると苦しいのだ。
 
 今後も戦は続くのだ。
 普通ならば、囮などありえない。
 
 しかし、あの二人に限っては分からない。
 どちらかが、自分を慕う兵と共に、命を擲ってくる可能性がある。
 
 それほどの、深い、因縁があるからだ。
 
(´・ω・`)「戦の開始は、どちらかが動いたら、だ」
 
川 ゚ -゚)「ヴィップも同じであれば、衝突は森のほぼ中央に」
 
(´・ω・`)「森を進む部隊は、そうだな。外を回る部隊も似たようなものか」
98 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:42:20.08 ID:xw3bxZw70
 誰が、どの道を選ぶか。
 それも重要だ。
 
 ヴィップが三部隊に分けてきた場合、指揮官は、ブーンとジョルジュとミルナだろう。
 こちらは自分と二中将になる。
 
 互いに思考せずに戦に臨めば、中央の道で、自分とブーンが戦うことになるはずだ。
 だが、仮に自分と、捨て身のジョルジュあるいはミルナが戦うとなると、ラウンジは不利かもしれない。
 全滅覚悟で挑んで来られると、最大限の時間を稼がれてしまうだろう。
 
 一部隊を囮にして、残りで城を狙う。
 ブーンが許すはずはない作戦だ。
 
 しかし、ジョルジュとミルナは、ブーンよりも戦場に身を置いていた時間が長い。
 二人からの提案であれば、拒みきれないだろう。
 
川 ゚ -゚)「森の出口で迎え撃つ手は?」
 
(´・ω・`)「まぁ、勢いに乗ってきたヴィップ軍にやられるだろうな」
 
川 ゚ -゚)「士気に差があろうとも、ですか」
 
(´・ω・`)「最後だ、とブーンは兵に言い聞かせるはずだ。一時的に、ある程度は活力が蘇るだろう」
 
川 ゚ -゚)「……まして、今までのような野戦とは一味違うとなれば、尚更ですか」
 
(´・ω・`)「そうだな」
107 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:45:53.88 ID:xw3bxZw70
 ブーンとしては、負けが込んでいる状態でこの戦いに臨みたくはなかっただろう。
 もしヴィップが連勝していれば、この展開、ラウンジが逆転を懸ける戦になっていた。
 ヴィップは三部隊なら不利との仮定があるが、もしヴィップが優勢なら、三部隊を選べば圧勝だっただろう。
 
 現状、ラウンジが優勢であるにも関わらず、この展開を受け入れる理由は、単純だった。
 戦を早期に終わらせたいからだ。
 
 ラウンジは慢性的に兵糧の問題を抱えている。
 劣勢に立たされたとはいえ、ヴィップは粘ろうと思えばまだ粘れるはずだ。
 長期化させられると、例え勝っても、ラウンジは今後に響いてくる。
 
 ヴィップとしても、いたずらに被害を拡大させたくはないだろう。
 両軍ともに、早く終わらせたいという思惑は合致していた。
 恐らく、最初からだ。
 
 この展開に到達するまでに、事を有利に進められているかどうか。
 それが、大事だったのだ。
 ヴィップ側が優位に立っていれば、囮など使う必要はない。
 
川 ゚ -゚)「囮は、どう対応しますか?」
 
(´・ω・`)「十中八九、使ってくる手だからな。無理に避けようとした挙句に当たってしまうと、ラウンジは苦しい」
 
川 ゚ -゚)「では……」
 
(´・ω・`)「あえて、囮と戦う。ジョルジュであろうがミルナであろうが、俺が直接、この手で討つ」
 
 今宵は、やはり涼しい。
 汗ばんだ肌を、小夜風が撫でていく。
119 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:49:45.59 ID:xw3bxZw70
川 ゚ -゚)「……相手が三部隊なら、楽な立場では臨めませんね」
 
(´・ω・`)「ある程度、賭けの要素が出てくる。俺が、いかに早く囮を潰せるか」
 
(´・ω・`)「ヴィップからすれば、囮がどれだけ囮の役目を果たせるか、が重要になってくるのだろうな」
 
川 ゚ -゚)「囮になるのは、恐らくジョルジュ=ラダビノードですね」
 
(´・ω・`)「そうだと思うが、まぁ分からん。ミルナも充分ありうる」
 
川 ゚ -゚)「囮であれば、一騎打ちに持ち込める可能性は高い。そうなると、ランクが高いミルナのほうが現実味はありますが」
 
(´・ω・`)「とはいえ、いずれにせよZには敵わんと分かっているはずだ」
 
 それでも、捨て身だ。
 本気で自分の首を狙ってくるだろう。
 
 現実味は薄いが、下位だからといって侮るわけにはいかない。
 遠距離であり、不意だったとはいえ、ミルナにはWで手傷を負わされているのだ。
 
 思い出すと、既に完治した傷が疼くような感覚さえある。
 それほどに、屈辱的な一撃だったのだ。
 
 相手がジョルジュであってもミルナであっても、怒りに任せて戦おうとは思わない。
 冷静に、確実に、そして素早く、首を刎ねることが肝要だ。
134 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:53:10.36 ID:xw3bxZw70
(´・ω・`)「こっちとしては、相手の望みどおりでいい。裏をかく必要はない」
 
川 ゚ -゚)「三部隊に分けて、ショボン様が中央を進まれる」
 
(´・ω・`)「そうだ。恐らく、ヴィップの予測どおりだ」
 
 ヴィップは、囮が中央を進んでくる。
 ブーンが右か左か。それはどちらでもいい。
 ファルロかオワタの、どちらかが最大限、侵攻を食い止めるだろう。
 
 ブーンが戦っている間に、囮を潰す。
 すぐさま引き返して、ブーンの背後を襲う。
 
 そうすれば、ヴィップは、全滅に近い打撃を受けるはずだ。
 
 自分の働きが、重要になるだろう。
 それはいい。いや、それでいい。
 自分は、ラウンジ国軍の、大将なのだ。
 
 ヴィップの囮が別の道を選んできたとしても、問題はない。
 中央にブーンが来たならば、城への侵攻は止めたも同然だ。
 相手の出方は、いずれであっても対処できる。
 
 不確定要素はやはり、囮だ。
 いかに素早く潰せるか、だ。
149 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/16(金) 23:56:38.93 ID:xw3bxZw70
――オリンシス城・北――
 
 風は涼やかだが、自分のなかの熱は奪ってくれない。
 滾る思いがあるのかと問われれば、少し違う、と答えるだろう。
 では何だ、と聞かれれば、恐らく答えに窮する。
 
 荒い岩肌は身を委ねても疲労を癒してはくれない。
 夜空を見上げれば、僅かばかり月が近付いたようにも感じる。
 しかし、手が届かないことに変わりはなかった。
 
 視線を傍の篝火に移すと、まるで嫌がったかのように炎は身を捩らせる。
 意識しないうちに自分は口元を歪めていた。
 ただ、不思議と心の浮沈は落ち着いたような気がした。
 
( ゚д゚)「ここにいたのか、ジョルジュ」
 
 再び頭の重心を後ろに傾けたところで、届いた声。
 高くも低くもない。昔は聞きなれたもので、最近になってまた、慣れが生まれてきた。
 ミルナの声だった。
 
( ゚∀゚)「どうかしたか?」
 
( ゚д゚)「ブーンが、お前を探していた」
 
( ゚∀゚)「マジか。じゃあ戻らねぇとな」
 
( ゚д゚)「いや、いい。ジョルジュは休息を取っているのだろう、と言っておいた。
    それならまた明日にする、とブーンも言っていた」
 
( ゚∀゚)「なんだ、そうなのか。ブーンの用事が気になるとこだが」
158 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:00:25.71 ID:/7DBo5Jw0
( ゚д゚)「恐らく、編成の関係だろう。もうすぐ戦だからな」
 
( ゚∀゚)「……あぁ」
 
 腰掛けている岩は、二人なら余裕をもって座れる。
 ミルナは、自分と背中を合わせるようにして、岩に腰を下ろした。
 
( ゚д゚)「空を、見上げていたな」
 
( ゚∀゚)「ん?」
 
( ゚д゚)「何か、馳せるべき思いでもあるのか?」
 
 ミルナも、天を仰いでいるのだろうか。
 声はまるで流星のように、空から降りてきた。
 
( ゚∀゚)「そりゃまぁ、多少はな」
 
( ゚д゚)「俺は、あまりない」
 
( ゚∀゚)「俺に何か言ってくれてもいいんじゃねーのか」
 
( ゚д゚)「今更、言葉で伝えようとは思わんさ」
 
 ミルナの表情を確かめられないことが、少し残念だった。
 しかし、それでいいのかも知れない。
 
( ゚∀゚)「ハンナバル総大将のことを、少し、思い出してたんだ」
164 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:05:20.99 ID:/7DBo5Jw0
 下顎を天に向けるようにして、また月を見上げた。
 夏の空。戦場でも美しさは変わらない。
 いや、あるいは、命を賭す場所だからこその輝きもあるのだろうか。
 
( ゚д゚)「ハンナバル=リフォースか。手強い男だった」
 
( ゚∀゚)「傍目には、とても有能なやつには見えなかったんだけどな。ただ、あの頃のヴィップは強かった」
 
( ゚д゚)「強みは、人間性だったのだろうな。ハンナバルの許で戦う誰しもが、活力に溢れているように思えた」
 
( ゚∀゚)「あぁ。特にモナー大将なんて、心から笑ってたのはハンナバル総大将がいた頃だけだったと思う」
 
( ゚д゚)「お前も、随分と変わったな」
 
 その言葉を発しても、やはりミルナは月や星に視線を向けているようだ。
 少し、意外な思いだった。
 
( ゚д゚)「人間らしくなった、とでも言おうか」
 
( ゚∀゚)「ハンナバル総大将にも、似たようなことを言われたな。昔は野生児みたいだったとか」
 
( ゚д゚)「野性的な部分は確かに多かった。しかし、お前はあの頃から、誰よりも武人だった」
 
( ゚∀゚)「……そうか?」
 
( ゚д゚)「誰よりも、その身を戦いのなかに置いていた。いつでもだ」
 
 ミルナの言葉は、あくまでオオカミ時代のことだろう。
 しかし、自分の頭に去来したのは、西塔大将だった頃の記憶だった。
170 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:38:37.13 ID:/7DBo5Jw0
 十五で軍に入った。
 あれからもう、三十年以上が経過している。
 そのほとんどを、ヴィップの将として過ごしてきた。
 
 ラウンジと戦った。
 ショボンとも戦っていた。
 そして今、その両方と戦っている。
 
( ゚∀゚)「長かったな」
 
 自分にさえ、声は風にかき消されてほとんど聞こえなかった。
 ミルナの耳には、届いただろうか。
 
( ゚∀゚)「今更だが、悪かったと思ってる。お前を、俺は欺きつづけた」
 
( ゚д゚)「勝手に信じたのは、俺だ。恨みはないさ」
 
( ゚∀゚)「オオカミ滅亡の一因には、なっただろ」
 
( ゚д゚)「まぁ、そうかもしれんが、突き詰めるとやはり全て大将に行き着く」
 
( ゚∀゚)「オオカミは、生まれ育った国だ。俺だって、無感情でいられたわけじゃねぇ」
 
( ゚д゚)「その言葉は、随分と勝手だな」
 
( ゚∀゚)「分かってるが、本心だ」
 
( ゚д゚)「亡国に手向けるには、いかにも遅すぎる」
 
( ゚∀゚)「だが、お前には言っておきたかった。もう、こうやって話せる時間も、残り僅かだ」
175 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:40:48.35 ID:/7DBo5Jw0
 風は徐々に、激しさを増している。
 時折、髪で視界は塞がれた。
 
 あの日の夜のような、強い風へと変貌しつつある。
 
( ゚∀゚)「……ん」
 
 強風の間隙を縫うようにして、小さな接近音が届いた。
 伝令の兵だ。
 
 手短にブーンからの用件を伝えると、またすぐに背を向けて駆け出して行った。
 
( ゚д゚)「決まったか」
 
( ゚∀゚)「あぁ。三日後だ」
 
 ちょうど、アルファベットの寿命と同じだな。
 そんな意味のないことを、一瞬考えた。
 
( ゚∀゚)「お前とこうやって話すのも、あと三日か」
 
( ゚д゚)「まぁ、奇跡でも起きん限りはそうなる」
 
 兆すものは何もなかった。
 ないだろうと思っていたのに、何故か意外だと感じた。
180 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:44:00.54 ID:/7DBo5Jw0
( ゚∀゚)「言葉は、不便だな。心の、本当の深いところは、上手く伝えることができない」
 
( ゚д゚)「だから、言葉で伝えようと、俺は思わん」
 
( ゚∀゚)「あぁ。お前はいつだって正しい」
 
( ゚д゚)「本当にそうなら、俺は今ここに居るはずがないさ」
 
( ゚∀゚)「じゃあ、ある意味では、俺は感謝すべきなんだろうな」
 
( ゚д゚)「されても困るが」
 
( ゚∀゚)「巡り合わせ、だったのかもな」
 
( ゚д゚)「それは、そうかもしれん。数奇なものだ、と思う」
 
( ゚∀゚)「オオカミ時代、俺が心を許せたのはお前だけだった。その男と、三十年以上経った今、こうして背を合わせている」
 
( ゚д゚)「やはり数奇だな」
 
( ゚∀゚)「あぁ。でも、だからこそ、次の戦はいい舞台だ。もったいねぇくらいに」
 
( ゚д゚)「……ブーンは、納得はしていなかったな」
 
( ゚∀゚)「あいつは多分、自分自身が許せないんだろ」
 
( ゚д゚)「あぁ。ここまで連勝で来ていれば、犠牲を強いることはなかった。ブーンは、そう思っているはずだ」
 
( ゚∀゚)「間違っちゃいねぇが、自分に責任を求めるべきじゃないんだ、ブーンは」
186 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:48:39.93 ID:/7DBo5Jw0
( ゚д゚)「そうだな。ブーンの立てた作戦自体は、最善と言ってよかった」
 
( ゚∀゚)「大将が、全ての責任を負いたくなる気持ちは、理解できるが」
 
( ゚д゚)「それは、充分すぎるほどにな」
 
( ゚∀゚)「ただ、今のあいつなら、次の戦でも最善を尽くしてくれるさ」
 
( ゚д゚)「……そう願おう」
 
( ゚∀゚)「願う必要はねぇよ、ミルナ。あいつは、必ず思いを酌んでくれる」
 
 軽く笑った。
 ミルナの表情はやはり確かめられないが、きっといつもと同じだろう。
 感情を露わにするところは、あまり見たことがない。
 
 最近見たのは、いつだったか。
 ショボンとの会談のときだったか。
 
 あいつに対する思いは、誰しもが強い。
 この手で、首を刎ねてやりたいと思っている。
 
( ゚д゚)「ショボンは、どう出てくるか」
 
( ゚∀゚)「どうだろうな。こっちの思惑通りならありがたい」
 
( ゚д゚)「ヴィップの作戦、読まれているとは思えんが……」
 
( ゚∀゚)「読まれていたら、苦しい。かなりキツイ」
190 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:52:03.28 ID:/7DBo5Jw0
( ゚д゚)「もし、囮のことまで読み切っているとなれば、ショボンはやはり完成された軍人だ」
 
( ゚∀゚)「そうだな。だけどあいつにだって、欠点はあるはずだ」
 
( ゚д゚)「祈るしかないのか。軍人としては、失格もいいところだな」
 
( ゚∀゚)「もう、そういう段階に来ちまってるってことだろ。情けねぇ話だが」
 
( ゚д゚)「命を預けてくれる兵がいるんだ。その兵の思いには、応えねばならんだろう」
 
( ゚∀゚)「あぁ、分かってるさ」
 
 命運を共にすると言ってくれた兵が大勢いた。
 この作戦の犠牲に、ヴィップの天下の礎に、自分がなりたい、と。
 
 全ての兵を守りたい。
 ヴィップの大将ブーンは、そういう気持ちを抱いている。
 だから本当は、犠牲ありきの作戦など、許容するはずがないのだ。
 
 我が侭を、受け入れてもらった。
 結局、最後まで迷惑をかけることになってしまった。
 
 全て、戦場で返すより他ない。
 
( ゚д゚)「三日後、か」
 
 ミルナはまだ、空を見上げているだろうか。
 足元を見ている自分には、もはや分からない。
 
 ただ、お前は見上げつづけていてくれ、と思った。
194 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:55:50.57 ID:/7DBo5Jw0
( ゚∀゚)「三日後、だな」
 
 夜は、音もなくただ、更けていく。
 全てを飲み込むように。
 覆い隠すように。
 
 
 
――三日後――
 
――嗟嘆の森・北――
 
 森のざわめきに、心が揺らされることはない。
 
(´・ω・`)「風の強さは、妨げになるか?」
 
 頭巾を被ってからが、クーの戦闘体勢だ。
 闇の中でも暗い輝きを放つクーの長髪は、まだ風に弄ばれていた。
 
川 ゚ -゚)「特段、問題になることはないと思います」
 
(´・ω・`)「そうだな」
 
 音を使う戦なら、風声に邪魔されることはあるかもしれない。
 あるいは火計を用いられる恐れがある場合は、火の勢いが強まることに警戒しなければならないかもしれない。
 
 しかし、今回の戦では、関係ないことだった。
202 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 00:59:34.25 ID:/7DBo5Jw0
 読み合い、そして攻め合い。
 その二つだけだ。
 他に、介在するものは何もない。
 
 一度、アルファベットZを抜いた。
 製作されてから二年近く経つが、まだあまり使用していないこともあって、劣化は全くない。
 さすがに、世界一の名工だった、ツン=デレートの作品なだけはある。
 
 一本はミルナに破壊された。
 これは、予備として作らせておいた二本のうちの一本だ。
 アルファベットとしての出来は、最初の一本と比べても遜色ない。
 
\(^o^)/「ショボン大将。準備の完了を報告致します」
 
(´・ω・`)「オワタか。御苦労」
 
( ̄⊥ ̄)「こちらも、不備はありません」
 
(´・ω・`)「分かった。二人とも、所定どおりに頼む」
 
 全て、準備は整った。
 あとは、戦に臨むだけ。
 
 本当は、勝利を確信したときこそ、準備万端と言うべきなのだろう。
 しかし、今回は賭けの要素が強い。
 いや、今回も、と表現すべきなのか。
 
 盤石な戦を続けてきたわけではない。
 勝敗も、割合でいえば敗北のほうが多い。
 苦々しい事実ではあるが、ヴィップの力を認めざるをえなかった。
210 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:02:45.43 ID:/7DBo5Jw0
 夜空にかかる雲は薄い。
 時折、煌めく星々を覆うが、輝きは隠し切れていなかった。
 
川 ゚ -゚)「綺麗ですね」
 
 髪を束ねながら、クーは呟いた。
 恐らく空を見ているのだろうが、森に視線が向いているようにも思える。
 
川 ゚ -゚)「……ラウンジの世になれば、きっと、もっとゆっくり楽しむことができるのでしょうね」
 
 黒い頭巾を被った。
 ほとんど、目も覆われていた。
 
(´・ω・`)「……そうだな」
 
 クラウンが、病床に伏している。
 もう、永くはないという。
 
 ラウンジの天下は、クラウンが四十五年前から抱き続けてきた悲願だ。
 ニューソク、ウンエイ、オオカミを蹂躙し、残すは一国となった。
 やっと、ここまで来たのだ。
 
 クラウンに、見てほしい。
 敵などどこを探しても見当たらない世界を。
 自由に、思うままに、巡ってほしいのだ。
 
 だからこそ、負けられない。
 絶対に、負けるわけにはいかないのだ。
 
(´・ω・`)「行くぞ」
216 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:05:50.41 ID:/7DBo5Jw0
 騎馬隊、全兵騎乗。
 手綱を、固く握りしめる。
 
 強風を裂くように駆け出していく。
 三つに分けた部隊、それぞれが、それぞれの戦いへと向かって。
 
 自分の部隊は、森へと突入した。
 
 道は広い。疾駆に障害はない。
 細い小道は他にもあるが、軍が移動できる道となると中央のみだ。
 つまり、このまま進めば、必然的にヴィップと衝突する。
 
 ジョルジュか。
 それとも、ミルナか。
 
 どちらでもいい。
 一合たりとも刃を交えるつもりはない。
 即座に、首を刎ねてやるつもりだった。
 
 囮を討つのが、早ければ早いほど、戦勝の確率は高まる。
 不意でもいい。一騎打ちでなくともいい。
 とにかく、首を飛ばしてしまうことだ。
 
 馬蹄が土を叩く。
 森が揺れるのは風のせいか、騎馬隊のせいか。
 今のところまだ、風声以外は聞こえていなかった。
 
 ラウンジが動きだしたことで、今はヴィップも動いているはずだ。
 全兵、穏やかでない緊張感をその身に抱えている。
 しかし、動きが固くなることはない。
225 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:09:02.53 ID:/7DBo5Jw0
 ヴィップの囮は恐らく数千の兵だろう。
 強引に潰せるか。森では全滅させるのは厳しいだろう。
 機能性さえ奪ってやれば問題はない。
 
 気がかりなのは、相手がミルナだった場合、配下は恐らくオオカミの兵だろう、ということだ。
 ミルナに付き添ってきた兵たちは、それこそ玉砕しか考えずに戦ってくるだろう。
 一筋縄ではいかないかもしれない。
 
 もっとも、ジョルジュを慕っている兵もかなり多いはずだ。
 いずれにせよ、似たようなものか。
 
 森の木々が足早に後退していく。
 景色は直線の集合となっていく。
 
 森の東を進んだのはオワタ。
 西を進んだのが、ファルロだ。
 
 唯一、クーだけを少数の兵とともに、森の外に置いてある。
 いざというときの遊撃隊だが、使いどころは難しい。
 南からやってきたヴィップ兵の勢いに抗うのは、いかにクーといえど不可能に近いだろう。
 
 やれるとすれば、後背からの不意討ち。
 しかし、クーの部隊に駿馬を与えている、ということもない。
 際どいところを上手く見極めなければ為し得ない芸当だ。
 
 だが、仮にクーの部隊が機能しなくとも、少数兵であるためさほど影響はない。
 クー自身も、指揮官としては短期間で大きく成長しているが、アルファベットはもう伸びないだろう。
 Lでは、ヴィップの誰と当たっても厳しい。
231 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:12:19.23 ID:/7DBo5Jw0
 森に入ってからは、ほとんど風を感じなくなっている。
 葉が擦れて奏でる音は相変わらず大きい。
 それがなければ、無風とさえ思ったかもしれない。
 
 ――――しかし、葉風が鳴らす音よりも大きな、喊声。
 
(´・ω・`)(始まったか)
 
 西だ。
 恐らく、二部隊に分けてきたヴィップと衝突した。
 相手は、ブーン=トロッソだろう。
 
 ブーンが相手では、まともに堪えるのは厳しい。
 できる限り時間を稼いでくれるだけでいいが、果たせるか。
 ファルロにとっても、正念場だった。
 
 近いうちに、東でもオワタと、ジョルジュあるいはミルナの戦いが始まるはずだ。
 オワタの部隊は騎馬が少ない。衝突は、もう少し遅くなるはずだ。
 
 それでも、森の外を駆ける部隊のほうが早いだろう。
 森を進む部隊は、まだ交戦に至る気配さえない。
 
 可能性として、ヴィップの囮が森の道を選んでいないことも考えられる。
 読みを外して、森の外を進んでいる可能性だ。
 
 その場合、森の中はまともな戦になるが、相手が誰であっても敗北はないだろう。
 そして、東では囮をオワタが潰す。そうなれば、二部隊が城へと至る。
 ラウンジの勝利は固い。
 
 だが、楽観的な見方など、通用しないのが戦だった。
239 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:15:40.15 ID:/7DBo5Jw0
(´・ω・`)「……来たか」
 
 地面から、確かに伝わる、振動。
 敵軍の、進軍。
 
 数は、思っていたよりも多い。
 五千はいるのか。
 しかし、七万で進んでいるラウンジに、抗えるはずもない数だ。
 
 地が揺らされていることによって、馬も、そして自分の体も震える。
 振動で、体がぶれる。
 
 敵軍はまだ闇の中だ。
 しかし、森を進んでいることは間違いない。
 体の震えは徐々に大きくなっている。
 
 徐々に、徐々に。
 
 
 ――――止まらないほどに。
247 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:19:08.81 ID:/7DBo5Jw0
(´・ω・`)「ッ!?」
 
 まだ、敵軍は視認できない。
 ジョルジュか、それともミルナか。
 どちらであるかなど、分からない状況だ。
 
 しかし、震えが止まらない。
 
 なんだ、これは。
 悪寒が襲う。予期せぬ事態が起きていると、自分は確信している。
 確信、してしまっている。
 
 ブーンなのか。
 森を駆けてきたのは、ブーン=トロッソなのか。
 
 違う。それは、予測の範囲内だ。
 もしブーンなら、堂々と一騎打ちを行ない、打ち破るだけでいい。
 それに、ブーンが五千程度の兵と共に囮として戦うことはありえない。
 
 では、なんだ。
 何が闇の向こうにいるのだ。
 
 ――――その、答えを。
 
 自分は、自分の目で、そして耳で、教えられることになった。
258 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:22:57.08 ID:/7DBo5Jw0
 _
(#゚∀゚)「ショボンッ!!!」
 
 
 
 ジョルジュ=ラダビノード。
 かつて、地位を同じくした、長年戦い続けてきた男。
 
 そして――――
 
 
 
(#゚д゚)「全てを終わらせよう、ショボン=ルージアル」
 
 
 
 ミルナ=クォッチ。
 歴戦の、亡国の猛獣。
 
 その二人が、囮となって、森を駆けてきている。
 
 
(´・ω・`)「馬鹿なッ……!!」
 
 二人が同時に、囮になるとは。
 こちらは七万。どうあっても、最終的に、二人は間違いなく討たれる。
 
 ありえない。
 今後もまだ戦は続くというのに、ここでジョルジュとミルナを失うつもりか。
 これほどに馬鹿げた作戦を、ブーンは選択したというのか。
288 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:27:51.20 ID:/7DBo5Jw0
 しかし――――二人のアルファベットは、確実に自分へと迫っている。
 
(´・ω・`)「くっ……!!」
 
 一騎打ちの利点はない。
 周りの兵と共にでも、とにかく二人を討ってしまうことだ。
 それが、最善だ。
 
 だが、ヴィップの兵、五千もそれを理解している。
 二人を守るようにして展開してきている。
 
 ジョルジュとミルナは、止まらない。
 止める手立ては、ない。
 
(´・ω・`)「……いいだろう」
 
 ヴィップの作戦の真意は分からない。
 しかし、外の戦況も分からない状態では、違う手を打つこともできない。
294 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:30:33.86 ID:/7DBo5Jw0
 自分と二人の間を、遮るものはない。
 一対二。相手は、アルファベットUとV。
 
 常識で考えれば、Zを操る者とて、決して優位には立てない相手だ。
 
 しかし、構わない。
 それぐらいの相手、討てなくてどうする。
 
 自分は、ショボンだ。
 アルファベットZを従える、唯一無二の男だ。
 
 Zを、構えた。
 
 
 
 
(´・ω・`)「来い!! ジョルジュ=ラダビノード!! ミルナ=クォッチ!!」
 
 
 
 
304 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:33:28.31 ID:/7DBo5Jw0
 両手で握り締めるZ。
 右からジョルジュ、左からミルナ。
 
 アルファベットを、同時に振り上げた。
 
 
 
 _
(#゚∀゚)「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
 
 
(#゚д゚)「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
 
 
 
 
 獣の、咆哮。
 自分の芯にまで届くような。
 
 二つに分離したZで、二人の打ち込みを、同時に受け止める。
312 :第116話 ◆azwd/t2EpE :2009/10/17(土) 01:36:23.80 ID:/7DBo5Jw0
 ジョルジュ、ミルナ。
 
 お前たちが、ここで終わりを迎えるつもりならば、いいだろう。
 
 
 
 最後はせめて、憎き仇敵である、自分の手で終わらせてやる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 第116話 終わり
 
     〜to be continued

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