219 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:16:58.38 ID:sn32L8v90
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:オリンシス城付近

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:オリンシス城付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:オリンシス城付近

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:オリンシス城付近
229 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:19:06.23 ID:sn32L8v90
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城付近

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城付近

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:オリンシス城付近
238 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:20:52.66 ID:sn32L8v90
●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
243 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:22:26.51 ID:sn32L8v90
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
246 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:23:57.98 ID:sn32L8v90
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:フサギコ
S:
T:ニダー/ファルロ
U:ジョルジュ
V:
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
249 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:25:09.64 ID:sn32L8v90
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・フェイト城〜オリンシス城間

 

256 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:28:45.65 ID:sn32L8v90
【第115話 : Decoy】
 
 
――フェイト城とオリンシス城の中間地点――
 
 覇気は、昔と変わらない。
 確かもう、今年で四十七のはずだ。
 しかし、衰えなど微塵も感じることはできない。
 
 それは果たして、本人の気力によるものなのか。
 誰かの手が加わっているのか。
 分からないが、どちらでもよかった。
 
(´・ω・`)「死力を尽くせ。あいつに、凶刃を突き立ててやれ」
 
 配下の兵を鼓舞する。
 特に、ヴィップ時代から連れ添った近衛騎兵隊を。
 _
(#゚∀゚)「うおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!」
 
 ジョルジュの叫び声がここまで聞こえる。
 まだ、指揮官同士には距離があるのに、だ。
 

 ジョルジュは、元オオカミの将であり、西塔の大将だった。
 その事実がどれほど自分を苦しめたか。
 今でもありありと思い出すことができる。
264 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:31:07.50 ID:sn32L8v90
 こいつが裏切る可能性を常に考慮しなければならなかった。
 西塔の動向には目を配らされた。ミルナと連携してくることも考えながら戦っていた。
 あの日々のなかで、満足な睡眠を取れたことなどない。
 
 そして、薄々感じていたことではあったが、やはりジョルジュは自分に猜疑の眼差しを向けていたのだ。
 いつかラウンジに裏切るのではないか、とあの状況で感づいていたのだ。
 今更ながら、その慧眼には驚かされる。
 
 ジョルジュには常に監視されていた。
 それは、実際の狙いとしてはラウンジに裏切るかどうかを見張られていたのだ。
 しかし、考え方によっては、オオカミを潰されないように牽制されているのだとも思えた。
 
 その虚実の使い分けが、上手かった。
 自分は結局、ジョルジュがヴィップ側なのかオオカミ側なのか、オオカミ滅亡まで読み切れなかったのだ。
 
 だが、上回った。
 最後は、ジョルジュが自分を信じた。
 信じ込ませることが、できた。
 
(´・ω・`)「突っ切れ」
 
 束になって突っ込んでくるヴィップ軍。
 それを、逆に突き破るべく、進んでいく。
 携えるアルファベットは、Z。
 
 黄昏の光を受けて、双剣は輝く。
 原野を深い赤に染めるべく。
269 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:33:29.99 ID:sn32L8v90
 疲労があるはずのヴィップだが、動きは軽快に見えた。
 恐らくは、自分が相手だからだろう。
 奮起は当然、といったところか。
 
 敵陣に突っ込んだ。
 ジョルジュはさすがに上手い。まともには、ぶつかってこなかった。
 ラウンジの気を逸らすように、部隊の進軍方向を僅かにずらしている。
 
 軌道は、すぐに修正した。
 しかし、狙い澄ましたようにヴィップは矛先をこちらへ向けている。
 いったんラウンジの不意をつくことが目的か。
 
(´・ω・`)「小癪」
 
 構うな、と叫んだ。
 多少なら、不意を突かれたとて、さしたる問題はない。
 そのまま、ぶつかった。
 
(´・ω・`)「はぁっ!!」
 
 アルファベットZを視認した敵兵の目に、怯えはない。
 憎き敵である自分を討つことしか考えてないのだろう。
 それも、悪くはない。
 
 思考しながら淡々と、首を刎ねる。
 
 ヴィップ軍を崩しにかかっているが、崩れてこない。
 部隊は小さくまとめられていた。困難極まるだろう。
 近衛騎兵隊の質はヴィップを圧倒しているが、他の兵の錬度に差があった。
276 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:36:15.13 ID:sn32L8v90
 巧みに部隊を操っているところは、さすがジョルジュと言うべきか。
 西塔大将時代、強国ラウンジを相手に戦っていただけはある。
 あのベル=リミナリーの攻めさえ、ジョルジュは上手く防いでいたのだ。
 
 入軍した506年の時点で、既にジョルジュは全土に名を馳せる武将だった。
 全土に名を轟かせたのは、ハンナバルが504年に病死し、その遺志を受け継いで行なった505年のハルヒ城戦のときだ。
 ベル=リミナリー相手に、まだ二十五の若い大将が勝利を収めた。
 
 ヴィップに入軍すべく潜伏していた自分にとっても、あれは衝撃だった。
 稀代の英傑が、あんな若造に負けるとは、と愕然とさせられた。
 同時に、ジョルジュには警戒する必要がある、と感じた。
 
 可能ならば、ラウンジが不利にならないように、裏から工作を。
 そうも思っていたが、実際に入軍してみると、不可能だと分かった。
 ジョルジュは、新兵にとってあまりに遠すぎる存在だったのだ。
 
 何よりも、軍人としての才能は認めざるをえなかった。
 幼いころから軍学の習得に励んできた自分だからこそ、あれは分かったのだ。
 調練ひとつとっても、ジョルジュは峻烈で、まともに戦えば勝てないだろうと思わされた。
 
 いや、勝てるはずがない、と思わされたのだ。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 それほどに、隔絶されたものがあると感じた。
 当時、自分はまだ戦場に立ったこともない兵卒。
 一方のジョルジュは、数々の死線を踏み越えた大将だった。
286 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:38:54.72 ID:sn32L8v90
 このままでは、まずい。
 クラウンの命を、果たせない。
 そう思い、自分は入軍以前よりも更に訓練に励んだ。
 
 モナーに目を掛けられ、大将位に就くまで時間はかからなかった。
 しかし、昇格が早すぎる、と思ったこともあった。
 今にして思えば、それこそがジョルジュに目をつけられた原因の根本だったのかも知れない。
 
 ジョルジュは常に仮想敵として存在した。
 ラウンジへと戻ったあと、対峙することになる可能性が最も高い、と考えていたからだ。
 暗殺することは無論、考えていたが、厳しいだろうと最初から分かっていた。
 
 いずれ戦うことになる。
 そう思った相手と、いま実際に、相見えている。
 
 自分が抱えている感情を、どう表していいのか、分からなかった。
 しかし、嫌な気分でないことだけは確かだ。
 
 あのとき、あまりにも巨大に見えた西塔大将。
 どうやら、気概は失っておらず、指揮も冴えているらしい。
 
(´・ω・`)(……そうか、なるほどな)
 
 だからこそ、自分の士気は昂っているのだ。
 越えられないのではないか、とさえ思えた壁を、いま越えられるかどうか。
 それを、確かめられるときがやってきたのだから。
298 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:41:30.61 ID:sn32L8v90
 存分に力を発揮しろ。
 ジョルジュ=ラダビノード。
 
 その全力を越えることにこそ、価値があるのだ。
 
 
 
――オリンシス城とフェイト城の中間地点――
 
 夏の熱気のせいではなかった。
 肌のひりつきは、ショボンの瞳を見た瞬間に生じたのだ。
 
 しかし、自分のなかで息づいた感情は、恐怖ではなかった。
  _
( ゚∀゚)(やっとだな、ショボン)
 
 厳密には、初めて刃を交えるわけではない。
 自分の復帰戦であるミーナ城攻略戦でも、ショボンとは相対した。
 ただ、あれは不意打ちであり、正面からまともに戦ったわけではなかった。
 
 かつては、オオカミに寝返って討とうかとも考えた相手だ。
 今、ここで果たせるかもしれない。
 そう考えただけで、感情は昂ってくる。
 
 ショボンの部隊と、衝突した。
 一気に進軍速度が落ちる。ラウンジの攻めは、苛烈だ。
 こちらを一気に打通しようとしているのか。
305 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:44:06.59 ID:sn32L8v90
 相手の思惑を挫いてやることが大事だ。
 丸ごと飲み込んでしまえるような実力差はない。
 あったとしても、それはラウンジ側の話になる。
 
 何よりも大事なのは、戦勝だ。
 現在までにヴィップは三連敗を喫している。
 そして、此度も非常に苦しい状態だ。
 
 盛り返さなければ、押し込まれる一方だ。
 だからこそ、感情を排してでもショボンを打ち破らなければならない。
 
 しかし、昂揚を抑制することは叶わないだろう。
 それもいい。いや、それでいい。
 自分の全てを出し切ることができるはずだ。
 _
(#゚∀゚)「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
 
 押し寄せる敵兵に向かい、アルファベットを突き出した。
 顔面の中心を貫く。振って、真横の兵の首も飛ばす。
 
 それから振り下ろし、更に、振り上げる。
 アルファベットVのような軌道を描いたUが、三人の兵を討った。
 熱気のなかに鮮血は溶けていく。
 
 ラウンジの初撃は、上手くいなせた。
 しかし、再び同じ手は通じない。
 ショボンほどの相手ならば、尚更だ。
312 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:46:22.43 ID:sn32L8v90
 ハンナバルがいなくなったあとは、自分がヴィップを導かなければならないと思った。
 天下へと。栄光へと。
 その折に入軍してきたのが、ショボン=ルージアルだった。
 
 入軍当初からアルファベットIを操り、注目された。
 主には、誰も比肩できないほどの成長速度が、だ。
 しかし、自分はその指揮力に戦慄させられた。
 
 将校となった直後の、モナーとの調練。
 東塔では絶対的な大将として存在していたモナーを相手に、互角に戦った。
 
 経験豊富なモナーが、脱帽させられたと後に語っていたのを覚えている。
 後にモナーは、衰えを理由に大将位をショボンに譲ったが、今にして思えばあれが影響していたのかも知れない。
 
 ショボンの戦い方は単純だ。
 ひとつの部隊を、強固にまとめあげる。
 そして、恐れずに敵軍へと突っ込む。
 
 誰もがやろうとすることだが、誰にも真似できないことでもある。
 正確には、ショボンほどの次元に達することができないのだ。
 
 基本に忠実な戦。
 それを為すだけの、統率力がショボンにはあった。
 調練を見ているだけでも充分、理解させられた。
 
 ショボンが将校となった、そのときから、好感は抱いていなかった。
 言葉遣いがやけに丁寧で、そのぶん、心の奥底は酷く暗いもののように感じたのだ。
 胸襟を開くことなど、ありはしないのだろうと思えたのだ。
318 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:49:36.17 ID:sn32L8v90
 ショボンが大将となってからは、啀み合ってばかりだった。
 ラウンジの利益を常に念頭に置いているのではないか、と疑っていたためだ。
 
 何をするにしても疑念は拭えなかった。
 ショボンの思惑通りに事を進めさせてはならないと思った。
 
 それは、正解だったのだ。
 当時、何ら確信はなかったが、自分の推測は正しかったのだ。
 しかし、自分の言動すべてが最善だったわけではなかった。
 
 本当は、誰にでもいいから、話しておくべきだったのだ。
 自分の思いを。考えを。
 
 結局、疑いすぎた自分の責任だ。
 ヴィップが、ここまで苦しめられたのは。
 滅亡の危機に瀕したのは。
 
 全体を見れば、版図では確実に押し返している。
 しかしそれも、一時的なものにすぎない。
 そして、いつでも滅亡しておかしくない状況なのだ。
 
 内情は分からないが、もしかしたらラウンジも同じかもしれない。
 だが、常に瀬戸際で戦っているのはヴィップのほうだ。
 それは、ショボンという要を失っており、兵力でも劣るのだから、当然のことだった。
 
 だからこそ、自分は、最後の力を振り絞らなければならないのだ。
  _
( ゚∀゚)「怯むなよ!」
325 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:51:57.38 ID:sn32L8v90
 ショボンが、威嚇するかのように近衛騎兵隊を押し出してきた。
 無理に突っ込ませてはこないだろう。しかし、凄まじい威圧感だ。
 その存在だけで、充分すぎるほど動きを牽制される。
 
 打破するには、やはり、指揮官の奮戦が不可欠となる。
 アルファベットUを構えて、敵兵に向けた。
 
 首を貫くようにして刎ねる。
 後方の兵は血飛沫で目をやられたようだ。
 心臓を抉りだした自分の一撃によって、その瞼が開かれることは二度となかった。
 
 ショボンはやはり部隊を小さく固めている。
 突き崩すのは、困難だろう。
 しかし、上手に往なすのも厳しい。
 
 考えこんでいるうちに、また、攻め込まれる。
 素早く側面へ回られた。これは、受け止めることさえ難しい。
 それでも、強引に正対した。
 
 めりこんでくる。
 たまらずに、部隊を分割した。
 自然と舌打ちが出る。
 
 二つに分けたことで、一気に不利になった。
 まとまった攻勢をかけられない。力が、分散してしまう。
 立て直さなければならないが、それをショボンが許すはずもない。
 _
(;゚∀゚)「ッ……?」
332 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:54:22.32 ID:sn32L8v90
 許すはずはない、と思った。
 しかし、ショボンからの攻勢は、一時的に弱まっている。
 
 即座に部隊を合流させた。
 何故ショボンからの追撃がなかったのだ、と思いながら。
 
 理由は、単純明快だった。
 ショボンの攻撃も、かなり強引であり、すぐさま追撃できる余裕はなかったのだ。
 
 限界まで堪えたことが奏功した。
 ショボンの部隊は、小さく固まっていたが、それにも綻びは生まれていたのだ。
 _
(;゚∀゚)(まだ戦えるな……)
 
 ショボンの威圧感だけで、既に普通の戦を何回も行なったような疲労を感じる。
 今まで、ヴィップの兵たちはこれに耐えてきたのか。
 やはり、申し訳なく思う気持ちが真っ先に生まれた。
 
 だからこそ、臆することなどできない。
 自分は、ジョルジュ=ラダビノードだ。
 _
(#゚∀゚)「行くぞ!」
 
 互いの体勢が、また整った。
 再びぶつかりあう。
 
 ショボンの姿は、はっきりと見える。
 自分からは、遠い。
334 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:56:55.63 ID:sn32L8v90
 アルファベットUとZで、一騎打ちをしたら、どうなるか。
 結果など、考えるまでもない。
 
 この手で討ってやりたい気持ちは、強すぎるほどに強かった。
 だが、差が大きすぎる。
 積年の思いを果たそうなどと、考えるべきではなかった。
 
 いずれ、ブーンが果たしてくれるからだ。
 
 ショボンの部隊が、僅かでも緩んでくれないか。
 そう願いながら、攻めつづける。
 ショボンにはまだ、かなり余裕があるようだ。
 
 近衛騎兵隊を崩さない限り、勝機はないだろう。
 分かってはいるが、果てしなく厳しい。
 部隊の錬度に、大きな隔たりがあるのだ。
 
 反転する。
 素早く、敵より一瞬でも早く、と。
 それでも、視界には既に正面を向いたラウンジ軍がいる。
 
 攻めきれない。
 そう判断するしかないのか。
 _
(#゚∀゚)「もっかい行くぞ!」
 
 それでも、気勢を上げた。
 この戦でも容易に撤退してしまっては、士気の低下に歯止めをかけられない。
341 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 22:59:12.02 ID:sn32L8v90
 ラウンジとの総力戦に臨んでから、既に四戦目。
 これまでの三戦は、全て敗北を喫している。
 
 緒戦の負けはまだいい。
 確かに敗戦だったが、拮抗した戦でもあったのだ。
 以後の戦で、挽回の余地はいくらでもあった。
 
 しかし、ブーン以外の将に、力が足りない。
 ブーンは苦労に次ぐ苦労、戦に次ぐ戦で強くなった。
 だが、他将の力が、反比例するかのようにほとんど伸びていなかったのだ。
 
 支えられて強くなる大将だ、と思った。
 それは、間違ってはいなかった。
 
 いつしかブーンは独り立ちし、周りを支えられるほどになった。
 そうなってくれるように願った、周囲の期待どおりの成長ぶりだった。
 
 他将は、甘えていたわけではないが、精神的に物足りない部分があった。
 ブーンの奮戦を見て発奮し、負けじと成長しなければならなかったのだ。
 かつて、ハンナバルがいた頃は、自分もそうやって伸びていった。
 
 あの頃とは、状況が違いすぎる。
 ショボンが裏切って以降、常に存亡を考えながらの戦を続けてきた。
 だが、それでも劣勢を跳ね返すためには、中将以下の奮起が不可欠だったのだ。
 
 生きているうちは、いくらでも戦える。
 戦ってやる。
 _
(#゚∀゚)「おおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
349 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:01:55.03 ID:sn32L8v90
 ショボンめがけて、斬り進む。
 遮ってくる、近衛騎兵隊。
 
 漆黒の、最強集団。
 
 構わない。
 そのまま、斬り込んだ。
 _
(;゚∀゚)「ッ……!!」
 
 一兵一兵の次元が、将校のそれに達している、と。
 そう思えた。
 
 先頭に立つ兵とアルファベットを交えたが、討ち取れなかった。
 相手のアルファベットは、K。
 
 一撃で破壊するつもりで放ったUを、受け止められたのだ。
 多少なり自分のなかに衝撃はあった。
 
 Kの兵はすぐさま真横に動く。
 そして後ろから、アルファベットIが伸びてきた。
 
 下からUを振り上げて、Iを跳ね上げる。
 だが、近衛騎兵の手からアルファベットは離れない。
 
 受け流すのが、上手いのだ。
 敵のI兵が、無理に堪えようとすれば、Iは破壊できただろう。
 しかし、自分のUがIを跳ね上げようとした瞬間、刃先への力を緩めてきた。
359 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:04:32.93 ID:sn32L8v90
 握り締める力だけは、渾身。
 だからこそ、アルファベットを放すことはなかったのだ。
 
 アルファベットを失うことは、死と同義。
 戦場では、許されざる事態なのだ。
 それを、充分すぎるほどに理解し、防いでくる。
 
 跳ね上げたあと、隙だらけの胴体へ向かってUを突きだした。
 しかし、体を捻じるようにして回避される。
 即座に、また後方からI兵が攻めてきた。
 
 Uを引いて、刀身の穴で受け止める。
 強引に押し返した。やはり、アルファベットは手放さない。
 破壊してしまいたいが、反撃しようとするとまた次の兵が出てくる。
 _
(;゚∀゚)(なるほどな……)
 
 これが、ショボンが全土に誇る近衛騎兵隊か。
 Sの壁を超えている自分が、一人たりとも討ち取れないとは。
 
 危険は感じない。
 相手に討ち取られる気は、しない。
 それでも、僅かたりとも崩せないとなれば、全体への影響は必至だ。
 
 ヴィップ軍の攻めは完全に停滞してしまった。
 相手も活発ではない。しかし、動ける状態だ。
 このままでは、押し返される。
368 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:07:01.62 ID:sn32L8v90
 ならば、もう一度だ。
 もう一度、近衛騎兵隊を突き破りに行く。
 一瞬でも揺り動かせば、こちらに勝機が出てくる。
 _
(#゚∀゚)(自分に期待すんのも、悪くはねぇよな)
 
 馬の嘶きが聞こえた。
 大きく踏み出して、再び闇に立ち向かう。
 
 全てを飲み込んでしまうような、強大なる闇に。
 
 
 
――フェイト城とオリンシス城の中間地点――
 
 並の相手ならばとうに潰している。
 もしブーンが指揮官ならば、どちらかに勝利が転がっている。
 
 いずれでもない。
 まだ、互角に近い戦いが続いているのだ。
 それはひとえに、相手がジョルジュであるからこそだった。
 
(´・ω・`)(やはりまだ、戦場に立つ価値はあるようだな)
 
 それでこそ、ジョルジュだ。
 脆くなった壁を崩したところで、何ら意味はない。
 ジョルジュが自分の思いに応えたわけではないが、望みどおりだった。
372 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:09:25.69 ID:sn32L8v90
 ジョルジュは、単騎で近衛騎兵隊を崩そうとしている。
 理に叶った戦法だ。それほどに、あの男には力があるのだ。
 ただし、全盛期であれば、だ。
 
 アルファベットのランクは下がっている。
 以前のような体力もないだろう。
 目論見が達成される可能性は、ほぼない。
 
 そうでなくては困るのだ。
 ジョルジュ云々ではなく、全土最強の近衛騎兵隊だからだ。
 強敵を一人で潰す戦いは、上手くいけば理に叶うが、相手次第では無謀にしかならない。
 
(´・ω・`)(そのままでいい)
 
 ジョルジュは、躍起になっている。
 この戦の敗北を、取り消そうとして。
 自分一人ででもひっくり返そうとしているのだ。
 
 それは、単純に、ジョルジュを討ち取る機が生まれているということだった。
 
 一度、ヴィップ軍と距離を取る。
 ほんの僅かな隙間。
 また、すぐに埋まった。
 
 やはりジョルジュの視線は、近衛騎兵隊に向いている。
 
 自分は、中核にいた。
 もしそこまでジョルジュが迫ってくるようなことがあれば、一騎打ちになるだろう。
 ただ、ここまで来ることはありえない。ジョルジュも考えてはいないだろう。
381 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:12:04.72 ID:sn32L8v90
 ジョルジュはどうやら、また近衛騎兵隊の先兵と戦っているらしい。
 いかに近衛騎兵が優秀とは言っても、兵個人で見れば、ジョルジュとは歴然とした差がある。
 命を守ることさえ難しいだろう。
 
 だが、いくらかは堪えるはずだ。
 その間に上手く隙を突けば、討ち取れる可能性さえある。
 配下の兵のみで敵将を討てれば、ラウンジにとっては大きい。
 
 それだけの力はある。
 ヴィップに居た頃から、常に切り札として使ってきた部隊だ。
 ジョルジュほどの男に才覚で及ぶはずはないが、並の将校なら凌駕してしまうような兵もいる。
 
(´・ω・`)(……討ち取れ)
 
 そう願った。
 もはや状況的に、自分の手で首を刎ねることは難しい。
 だから、近衛騎兵隊に、だ。
 
 全体としては、ジョルジュの奮戦によってほぼ互角の戦いだった。
 誤算はない、と言えば嘘になる。
 だが、好戦にこそ湧き立てられるものもあるのだ。
 
 熱気が押し寄せる。
 顔を覆いたくなるほどに。
 だが、同時に瞠目したくもなる。
 
 徐々に、徐々に、寄せる大波のように。
 ジョルジュの覇気を、感じる。
 
(´・ω・`)(来るか……?)
388 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:14:21.97 ID:sn32L8v90
 戦況は、はっきりとは分からない。
 確かなことは、一つだけだ。
 ジョルジュの奮戦により、ヴィップの状況が好転しはじめている、ということだけだ。
 
 勝利の女神が微笑みの向きを変えることはない。
 いや、まだない、といったほうが適切か。
 いずれにせよ、圧勝では終われないようだ。
 
 ジョルジュに集中させられているが、今頃は、ブーンも躍起になっているだろう。
 ファルロやオワタ、クーなどが抑えているはずだが、目的を果たせるとは限らない。
 戦は、いつでもそうだ。
 
 ラウンジに限った話でもない。
 ヴィップとて、同じだろう。
 
 いつでもそうだったのだ。
 これからも、そうなるはずだ。
 
(´・ω・`)「ッ……?」
 
 自分は、物思いに耽っていたのだろうか。
 いや、それはない。戦に対する意識が逸れることなどありえない。
 しかし、戦場は明らかに顔色を変えた。
 
 ただし、危機感はない。
 大波は細波になり、やがて海は凪いだ。
 ジョルジュの背中は、遠ざかっていた。
 
(´・ω・`)(……そうか、なるほどな)
397 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:17:27.96 ID:sn32L8v90
 敗北の傷を、できる限り軽減させた。
 それで充分だ、と判断したらしい。
 もしくは精一杯だ、と。
 
 あるいは最初から、そのつもりだったか。
 劣勢から這い上がろうとすれば、逆に傷口を広げる可能性もあった。
 今回、ラウンジが勝利を収めはしたが、ブーンが引き分けと言い張ればヴィップ兵は納得するだろう。
 
 ブーンの部隊も後退している。
 自分が狙ったニダーらはもちろんのことだ。
 結局は、ジョルジュに上手く時間を稼がれた、ということになる。
 
 まぁいい、と心の中で呟いた。
 
 自陣が騒然となっていることに気付いたのは、そのあとだった。
 
(´・ω・`)「……何があった?」
 
 軍内のざわめきが、収まらない。
 オワタ少将が、と誰かが叫んだのが聞こえた。
 
(´・ω・`)「オワタが、どうした?」
 
 大声が飛び交うだけで、状況が把握できない。
 不測の事態が起きたのであれば、真っ先に大将へ情報を入れるべきなのにも関わらず、だ。
 
(´・ω・`)「誰か、確度の高い情報を持ってこい」
 
川 ゚ -゚)「ショボン様」
402 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:19:57.61 ID:sn32L8v90
 苛立つように指示を飛ばした直後、クーの声が背後から届いた。
 いつものような冷静さは、少し失われているように感じた。
 
川 ゚ -゚)「オワタ様ですが」
 
(´・ω・`)「ブーンに、討たれたか?」
 
川 ゚ -゚)「いえ。ただ、ブーンとの戦を終えたあと、倒れられました」
 
(´・ω・`)「手負ったか?」
 
川 ゚ -゚)「はっきりとは分かりませんが、恐らく過労です」
 
 一瞬、耳を疑った。
 何年も戦場に立ち続け、指揮を執っているオワタが、過労。
 確かに最近、将校への負担は大きいが、それでも、戦いすぎて倒れるなどとは想像もしなかった。
 
川 ゚ -゚)「オワタ様は、ブーン=トロッソから私を守りつづけて下さっていたので」
 
(´・ω・`)「それは結構なことだが」
 
川 ゚ -゚)「はい。私の部隊が崩れなかったから、ブーンの進攻は食い止めることができました」
 
川 ゚ -゚)「……ただ……」
 
 クーが、言葉を濁しかけた。
 滅多にないことだった。
416 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:22:53.76 ID:sn32L8v90
川 ゚ -゚)「……外から見ていて、分かっていたつもりでしたが……」
 
川 ゚ -゚)「ブーン=トロッソの猛攻は……率直に申し上げまして、恐怖そのものでした」
 
 嘘を、つくことはない。
 素直に感情を吐露する。それがクーだ。
 今の発言も、言葉どおりの意味だろう。
 
川 ゚ -゚)「初めて、戦に恐怖しました……あれが、ブーンですか……」
 
(´・ω・`)「……俺が、もしヴィップを離れなければ」
 
川 ゚ -゚)「あそこまでの存在には、ならなかった」
 
(´・ω・`)「無論、そんな仮定に意味はないがな」
 
 必然だった。
 誰かが運命と呼ぶならば、きっとそうだ。
 分かっていながら躊躇うこともなく進んできたのだ。
 
 オワタについては、後に詳報が入ってきた。
 クーが言ったとおり、疲労が積み重なっていたらしい。
 炎天下での戦で、脱水症状も起こしていたとのことだ。
 
 ファルロとオワタが奮戦してクーを守った。
 だからこそブーンの一撃が自分の背後を突くことはなかったのだ。
 
 しかし、一万のブーン隊の相手は、五万だった。
421 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:25:05.30 ID:sn32L8v90
(´・ω・`)「…………」
 
 差が、開きすぎている。
 感じていたことではあったが、やはりそうだ。
 
 どれほど長い助走を伴った跳躍でも、飛び越せない。
 遠く、遠く、遠い対岸。
 
 自分以外のラウンジ将校は、きっとそういった光景が瞼の裏に浮かんでいるだろう。
 
 ただ、恐らくヴィップも同じだ。
 今回、同数でジョルジュと戦った。
 結果的に討ち取ることはできなかったが、あのままなら間違いなく自分の勝利で終わっていた。
 
 ジョルジュとて、感じているはずだ。
 もはや、負けないことで精一杯だ、と。
 
(´・ω・`)(……侮るつもりはないが……)
 
 正攻法で挑んできたところで、ブーン以外なら誰でも一緒だった。
 そして当然、ブーンだけに頼った戦で勝てるはずがない。
 
 やはり、来るのか。
 二と三の、どちらかを選択して、一気に城を狙ってくるのか。
 
 それも、悪くはない。
 兵糧の問題をラウンジは抱えているからだ。
 戦は、早急に終わらせなければならない。
428 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:27:57.66 ID:sn32L8v90
 ヴィップが城を狙ってくるなら、こちらも城は狙う。
 防御なしで殴り合うようなものだ。
 どちらに有利に働くかは、まだ読み切れない。
 
 それまでに恐らく、もう一度くらいは戦になるだろう。
 オワタの症状は比較的軽度だという。
 ファルロやクーの状態にも問題はない。
 
 次も、蹂躙するだけの戦になりそうだった。
 
 
 
――フェイト城とオリンシス城の中間地点――
 
 五度目の戦。
 序盤、ヴィップは最初から全力を見せた。
 
 ミルナが先陣切って突っ込んでくる。
 そう思わせておいて、側面からブーンが駿馬隊で攻めよせてきた。
 
 防いだのは、ファルロ。
 ブーンの動きを、完全に読み切っていた。
 
(´・ω・`)(流れが来ているな)
 
 こちらが三万を使ったとはいえ、一万のブーン隊を防げたのは上出来だ。
 徐々に流れが傾いていることの証だった。
 先の戦では、五万の兵でやっと、だったのだ。
433 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:29:55.34 ID:sn32L8v90
 五度目の戦で奮戦したのはニダーだった。
 四度目の際、自らの危難が発端となって敗北したことに、責を感じていたのだろう。
 ブーンの狙いが外れたあと、迅速に援護して全体の流れを引き止めた。
 
 守りのニダーが、あれほどまでに勢い良く攻めてきたというのは、誰にとっても意外なことだった。
 だからこそ奏功した、とも言えるだろう。
 
 そうやって、冷静に敵を評価できている。
 つまり、自分のなかには余裕があったのだ。
 
 広漠な原野を、俯瞰しているような気分だった。
 後方からじっと機を窺っているジョルジュの姿が、滑稽なものに見えた。
 実際、絶好の機に飛び出してきても、冷静にオワタを当てて対処できた。
 
 ミルナの部隊も、クー単独で防がせた。
 それで充分すぎるほどだったのだ。
 
 前回までの戦では、考えられなかったようなことだ。
 ヴィップの中将以上が全て出陣してきたにも関わらず、自分抜きで抑え込めている。
 明らかに、ヴィップの戦い様が劣化しているのだ。
 
 兵の疲労もあるだろう。
 しかし、それ以上に大きいのは、連敗による士気の低下だ。
 敵軍からでもはっきりと見て取れるほどだった。
 
 兵卒ひとりひとりに覇気がない。
 これでは、まともな戦になるはずがない。
 
(;^ω^)「歩兵H隊は下がるお! I隊は前へ!」
442 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:32:16.14 ID:sn32L8v90
 必死に指示を飛ばすブーンの声が聞こえる。
 焦燥を、滲ませながらの指揮。
 
 勝利以上に価値がある敗北など、もはやない。
 美しくとも、泥に塗れていようとも、勝てばいい。
 勝たなければならない。
 
 今の戦は、まさしくそうなのだ。
 
 抵抗を続けたぶんだけ、被害は拡大した。
 やがて、無様にも撤退を決めた。
 
 そのヴィップの背中を見ながら、諸将を労った。
 
(´・ω・`)「充分すぎるほどの働きだった」
 
 オワタは笑顔を弾けさせた。
 ファルロも朴訥とした様を僅かに崩している。
 いつもと変わらないのはクーだけだった。
 
\(^o^)/「これでもまだ、ヴィップは刃向かってきますか?」
 
 既に、五戦。
 いずれも勝利を収めた。
 
 普通なら、撤退してもおかしくない。
 オワタもそう考えているのだろう。
447 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:34:23.29 ID:sn32L8v90
( ̄⊥ ̄)「もって、あと三戦。それがヴィップの限界かと」
 
(´・ω・`)「まぁ、そんなところだろう」
 
\(^o^)/「……次の一戦は、今まで以上に気を引き締めなければなりませんね」
 
(´・ω・`)「そのとおりだ。全てを引っくり返される可能性さえ考慮しておくべきだ」
 
川 ゚ -゚)「となると、ショボン様。次の戦は――――」
 
(´・ω・`)「気付いたか?」
 
 さすがに、クー。
 ここまで来れば、戦の経験は少なくとも、持ち前の洞察力で勘付くようだ。
 
川 ゚ -゚)「……誘いには、乗るおつもりですか?」
 
(´・ω・`)「乗るさ。願ってもない展開だ」
 
 連勝を続けている。
 今なら、あの展開に持ち込んでも、ラウンジが有利だ。
 何よりも、士気の差が大きい。
 
 互いにリスクは負う。
 どちらが勝っても城を奪取することになるだろう。
 しかし、ラウンジにとっては、あと一度で終わらせられるというのが大きい。
 
(´・ω・`)「連勝してはいるが、このまま惰性で戦を続けられると厄介だ」
 
\(^o^)/「兵糧、ですか?」
452 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:37:16.18 ID:sn32L8v90
(´・ω・`)「そうだな。そろそろ、戦を終わらせたい」
 
 まだ収穫の秋は遠い。
 兵糧が完全に枯渇するような事態があれば、為す術なくヴィップに打ち崩されるだろう。
 
 しかし、ヴィップにも兵糧枯れを待つ余裕はない。
 結局は、あの展開に縺れ込ませざるを得ないはずだ。
 
 まだ決定ではないが、しかし、それを見据えて動いても良さそうだった。
 
(´・ω・`)「行くぞ、陣を動かす」
 
\(^o^)/「え?」
 
(´・ω・`)「ゆっくり、東へと向かう」
 
 三人に背中を向けてから、右手で太陽の方角を指した。
 
 
 
――オリンシス城付近――
 
(;^ω^)「被害報告の詳細は後でいいですお。兵の手当てを最優先でお願いしますお」
 
 自分より年長の伝令兵に向かって、指示を与えた。
 五度目の敗北の直後だった。
 
 出陣したことが、そもそもの間違いだった。
 そう思わされるような敗戦だ。
 ヴィップには何の利もない戦になってしまった。
458 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:39:22.81 ID:sn32L8v90
 無様な撤退のあとは、ひたすら戦後処理に追われた。
 次、いつ出陣できるのか。本当に出陣すべきなのか。
 それさえ、分からないままに。
 
 朝方に行なった戦が、僅か一刻程度で終了した。
 しかし、ようやく一息つけたころにはもう日付が変わっていた。
 
ミ,,゚Д゚彡「水、飲むか? 大将」
 
(;^ω^)「フサギコさん……」
 
 幕舎内で編成表を確かめていたところにフサギコがやってきて、竹筒に入った冷水を渡してくれた。
 朝から寸暇さえ取れなかった自分を、気遣ってくれたらしい。
 
ミ,,゚Д゚彡「……きつい戦になっちまったな……」
 
( ^ω^)「申し訳ありませんお……」
 
ミ,,゚Д゚彡「いや、責任はブーンよりも、むしろ」
 
(´<_`;)「不甲斐ない配下にある。そのとおりだ、フサギコ」
 
(;´_ゝ`)「うむ……」
 
(;^ω^)「アニジャさん、オトジャさん」
 
ミ,,゚Д゚彡「もしかしたら今頃は、ロマネスクも、中将たちでさえも、同じことを考えてるかもな……」
 
( ^ω^)「……元を辿れば、ここまでひたすら戦いを続けてきた、その決断を下した自分に責任がありますお」
65 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:42:23.53 ID:sn32L8v90
(´<_` )「いや、ヴィップが盛り返せたのはその決断のおかげだ」
 
( ´_ゝ`)「間違ってはいなかったと思う。ヴィップは、いつ滅亡してもおかしくなかった」
 
ミ,,゚Д゚彡「ただ、逆転の策が、成ろうかというところで……ここで躓くのは……」
 
( ^ω^)「……頓挫すれば、恐らくもう、道はありませんお……」
 
 暗い表情のまま、三人は再び任務に戻っていった。
 昼に休暇を取らせており、夜から朝までは働いてもらうことになっている。
 常に気を張っていなければならないからだ。
 
( ФωФ)「大将も、どうかお体をお休め下さい」
 
( ^ω^)「ありがとだお。おやすみだお、ロマネスク」
 
<ヽ`∀´>「チュムセヨ、ブーン大将」
 
( ^ω^)「おやすみなさいですお、ニダーさん」
 
 寝る前に一言、挨拶に来てくれた。
 ロマネスクとニダーは朝まで休息する予定になっている。
 
( ^ω^)「…………」
 
 体は、休めるときに休めておきたい。
 しかし、心に休息を与えることはできない。
470 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:44:39.11 ID:sn32L8v90
 ラウンジに連敗を喫している。
 互いに総力を結集させた戦での、全敗だ。
 言い逃れはできない。全て、大将たる自分の責任だった。
 
 進んできた道に誤りはなかった、と思う。
 選択の余地さえなかった。
 
 しかし結局は、無謀な策だったということなのか。
 
(; ω )「…………」
 
 まだ、全ての可能性が潰えたわけではない。
 まともな野戦ではもはや、ヴィップの勝ち目は薄い。
 それでも、勝利への道が閉ざされたわけではないのだ。
 
 ない、と思うが、しかし。
 
 劣勢を跳ね返し、いずれフェイト城まで奪う。
 そのために必要になってくるもの。
 
 ――――絶対に、起こしてはならない事態だ。
 
 そうやって勝利を得ても、納得できない。
 最終手段としても、やってはならない。
 
 だが、他に道は。
 何か、あるのか。
 
 自問するが、自答できない。
479 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:46:58.13 ID:sn32L8v90
( ゚∀゚)「ブーン」
 
 突然、後ろから声を掛けられた。
 振り返った先にいたのは、ジョルジュとミルナだった。
 
(;^ω^)「ど、どうかしたんですかお? お二人とも……」
 
 先ほどまでの思考が鮮やかに蘇ってくる。
 二人の姿を、見てしまったからだ。
 
( ゚д゚)「……此度の戦の劣勢は、もはや、覆すのは困難な状態だろう」
 
(;^ω^)「全て、大将の責任ですお」
 
( ゚∀゚)「いや、決定的だったのは、四度目だ。俺の負けが大きかった」
 
(;^ω^)「それは違いますお。あのとき、ジョルジュさんが奮戦してくれたのに、それを後に繋げられなかったのは自分ですお」
 
( ゚∀゚)「充分すぎたくらいだ、お前の戦いぶりは。これ以上なかった」
 
( ゚д゚)「自分に非を求めるべきではないさ、ブーン=トロッソ」
 
( ゚∀゚)「あぁ……俺たちを含む中将以下が、何もできなさすぎた」
 
(;^ω^)「いや、それは」
 
( ゚∀゚)「待ってくれ、話を聞いてくれ」
 
 無理に遮られた。
 逼迫したような、決然としたような表情で。
488 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:49:23.38 ID:sn32L8v90
 空気が、刺々しい。
 何故かそのように感じる。
 
 本当は、何故なのだと、分からないふりをしているだけだった。
 
( ゚д゚)「繰り返そう。此度の戦は、相当に厳しい状況だ」
 
( ゚∀゚)「あまりにも負けが込みすぎてる。こっからフェイト城を奪うのは難しい」
 
( ゚∀゚)「――――そう思ってたんだ、俺も、ミルナも」
 
 胸が、ざわめく。
 堪らずに否定しかける。
 しかし、ジョルジュの言葉は止まらない。
 
( ゚∀゚)「でも、思い出したんだ。お前は、そういうつもりで言ったんじゃねぇってのは分かってるが」
 
( ゚∀゚)「数字の、二と三。あんときはどういう意味か理解できなかったが、今なら分かる」
 
( ゚∀゚)「そしてもう、それしかねぇ、ってことも」
 
 違う。
 あのときは、連敗の後にその展開へと持ち込む予定ではなかった。
 せいぜい、互角。それ以下なら、縺れ込ませてはならなかった展開なのだ。
 
 しかし、ジョルジュは、口を開いてしまう。 
 ミルナも、全てを覚悟したうえで、その言葉を聞いてしまうのだ。
 
 
 起こしてはならない事態を、起こそうとして。
506 :第115話 ◆azwd/t2EpE :2009/09/13(日) 23:53:54.47 ID:sn32L8v90
 
 
( ゚∀゚)「是が非でも勝利を掴む。そのためにはもう、誰かが命を擲つしか、ない」
 
(; ω )「ッ!!」
 
 
 
 
( ゚∀゚)「――――俺とミルナの、どっちかが囮になって、ショボンと戦う」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 第115話 終わり
 
     〜to be continued

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