5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:06:35.85 ID:DOmeJ2RR0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:オリンシス城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:オリンシス城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:オリンシス城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:オリンシス城
9 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:07:36.42 ID:DOmeJ2RR0
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オリンシス城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:08:47.76 ID:DOmeJ2RR0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:オリンシス城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
14 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:09:31.08 ID:DOmeJ2RR0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
16 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:10:15.55 ID:DOmeJ2RR0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:フサギコ
S:ファルロ
T:ニダー
U:ジョルジュ
V:
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
19 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:10:57.13 ID:DOmeJ2RR0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・フェイト城〜オリンシス城間

 

20 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:11:51.23 ID:DOmeJ2RR0
【第113話 : Go】
 
 
――オリンシス城とフェイト城の中間地点――
 
 陣立ては、凡庸と言ってよかった。
 まだ全軍を使う勝負にはならない、とラウンジは分かっているのだ。
 
 あるいは、誘っているのか。
 しかし、その必要がないことはこちらとしても分かりきっている。
 
 互いに五千の騎馬隊を使った戦い。
 それが緒戦になるという考えに、疑念が入り込む余地はなかった。
 
( ^ω^)「全員、武具と馬の最終確認」
 
 五千の兵に、静かに、確かに告げる。
 皆、一様に険しい顔つきだった。
 
 自分も、アルファベットXを掲げて見上げた。
 刃毀れなどはどこにもない。
 今や全土一の名工となったシブサワが、丹念に作り上げた逸品だ。
 
 愛馬の調子も整えてある。
 不備は何一つなかった。
 
( ФωФ)「ブーン大将、騎馬隊の馬についてですが」
 
( ^ω^)「どうだったお?」
27 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:13:24.22 ID:DOmeJ2RR0
( ФωФ)「問題ありません。遠慮なく全力を御発揮下さりますよう」
 
( ^ω^)「ありがとだお」
 
 馬に詳しいロマネスクには、配下の騎馬隊の馬を確認してもらった。
 兵にも命じてはいたが、ロマネスクの目が行き届けば万全になる。
 これで、原野に展開させた五千の騎馬隊は準備が整った。
 
 ショボンの騎馬隊とは、まだ三十里ほど距離があった。
 ただ、既に準備をほとんど終えていることがここからでも分かる。
 敵軍から放たれる、気概で、だ。
 
 不意を打つような真似は、互いにしない。
 そうやって勝利したところで何の意味もないのだ。
 
 互いが互いを万全な状態になるまで待つ。
 それは、三十里離れたショボンと、まるで会話しているかのように共通できた認識だった。
 
( ゚∀゚)「ブーン」
 
( ゚д゚)「ブーン=トロッソ」
 
( ^ω^)「ジョルジュさん、ミルナさん」
32 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:14:58.97 ID:DOmeJ2RR0
( ゚∀゚)「緊張したりはしてねぇのか、余裕綽々って感じだな」
 
( ^ω^)「そんなことはないですお」
 
( ゚д゚)「だが、泰然としている」
 
( ^ω^)「不安は、ないわけじゃないんですお」
 
 偽らざる本音だが、気にはしていなかった。
 今の自分は、むしろ、高揚を抑えきれないでいる。
 戦の帰趨を決めかねない戦いを前にしても。
 
 今の自分が、果たしてショボンを上回っているのか。
 それが、分かるときがやってきたのだ。
 
( ゚∀゚)「不安はむしろ、ショボンのほうにあるかもな」
 
( ^ω^)「怪我ですかお?」
 
( ゚∀゚)「あぁ、ミルナの一撃を受けたあと、どんぐらい回復してるか」
 
( ゚д゚)「浅い傷ではなかったが、あれからかなり日も経っている」
 
( ^ω^)「恐らく、完治していると思いますお」
 
( ゚∀゚)「良いのか悪いのか、ってとこか?」
 
 さすがにジョルジュは、自分の心情を把握しているようだ。
 苦笑すると、ジョルジュは皮肉らしい笑みを浮かべていた。
41 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:18:17.73 ID:DOmeJ2RR0
( ゚∀゚)「まぁ、万が一にはこっちで備えとくから、安心してくれ。
     フサギコとサスガ兄弟が、そのへんは抜かりなくやってくれる」
 
( ゚д゚)「ラウンジが不意に大軍を動かしてきてもいいように、な」
 
( ^ω^)「存分に、戦ってきますお」
 
 一度、腕を大きく広げ、それから掌を天に向けた。
 快いほどの晴れ空だ。
 
 暑くもない、寒くもない。
 風もほとんどない。
 
 互いの実力以外に、介在するものは何もない。
 
( ^ω^)「行ってきますお」
 
 アルファベットを掲げて、騎馬隊の先頭に立った。
 手綱を引く。五千の騎兵を伴って、駆け出す。
 
 ただひたすらに、緒戦の勝利を目指して。
 
 
 
――フェイト城とオリンシス城の中間地点――
 
川 ゚ -゚)「ショボン様」
 
 暑い日であろうが寒い日であろうが、クーは常に涼しい顔をしている。
 しばらく駆け回った直後であるはずの今も、それは変わらなかった。
44 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:20:38.37 ID:DOmeJ2RR0
川 ゚ -゚)「南東の森を調べ終えました。ヴィップの伏兵などはありません」
 
(´・ω・`)「だから、言っただろう。調べる必要はないと」
 
川 ゚ -゚)「ですが、万全を期さねば」
 
(´・ω・`)「そんな手をここで使ってくるようなやつなら、ブーンはとうに戦乱に呑まれて消えているさ」
 
 アルファベットZを、二度、三度と振るった。
 左の脇腹に、違和感はない。
 ツン=デレートに作らせた三本のZのうち、これが二本目だが、アルファベットにも問題はなかった。
 
川 ゚ -゚)「申し訳ありません、出すぎた真似でした」
 
(´・ω・`)「いや、礼は言っておこう。お前の行動が常に最善であることは知っている」
 
川 ゚ -゚)「……そのようなことは」
 
(´・ω・`)「俺は単に、余計なことを考えたくなかっただけなのかも知れない」
 
川 ゚ -゚)「…………」
 
 配下の五百の騎馬隊は、久方ぶりの戦になる。
 前夜は皆、一様に体を疼かせていた。
 
 漆黒の騎馬、漆黒の具足。
 銀の光を放つアルファベットを携え、まるで物のように微動だにせず待機していた。
 その五百のみならず、既に五千の騎馬隊は全て、準備を終えている。
 
川 ゚ -゚)「……ショボン様」
46 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:22:29.69 ID:DOmeJ2RR0
(´・ω・`)「なんだ?」
 
川 ゚ -゚)「……ここで勝利を、お待ちしております」
 
 アルファベットに向けていた視線は、自然とクーに移った。
 クーが、今まで一度たりとも言ったことがないようなことを、口にしたからだ。
 
 クーとはもはや、言葉にせずとも互いの意思を疎通できる。
 一を言えば十を理解してくれる。
 もう何十年の付き合いになるのか、はっきり記憶していないほどの長い時間を経ているからこそだ。
 
 そのクーが、勝利を願った。
 あえて、言葉にして、だ。
 
 この戦の重みは、最初から理解しているだろう。
 それでも尚、言葉を発した意味とは。
 
 考えずとも、答えは出ていた。
 だからこそ、クーには何も言葉を返さなかった。
 
(´・ω・`)「行ってくるか」
 
 誰に言うでもなく呟いて、馬に跨った。
 無言でアルファベットを一振りすると、配下の兵が一斉に動き出す。
 
 駆け出した。
 ほぼ同時にブーンの騎馬隊も動いたのが、分かった。
49 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:24:09.77 ID:DOmeJ2RR0
――戦場近傍の丘――
 
 人の表情などはとても確認できない。
 それでも、大まかな動きは分かる。
 
 戦場に近づきすぎるわけには、いかないのだ。
 自分は、ラウンジやヴィップにとっては死んだ将であり、生きていると知られれば余計な混乱を招きかねない。
 ただでさえ下野の際にショボンには迷惑を掛けてしまっているのだ。
 
( ’ t ’ )(……そろそろ動くかな)
 
 両軍が陣取った場所から、幾里も離れた小高い丘で、眺望していた。
 ラウンジとヴィップの総力戦を。
 
 ただし、最初から全軍を使いあうわけではないらしい。
 互いに五千の騎兵のみが前に出ている。
 
 恐らくは、力のぶつけあいだろう。
 ショボンとブーン。今や全土中で、どちらが強いのかと口の端に上る二人。
 一度、はっきりさせておこう、ということか。
 
 単純な一騎打ちならば、間違いなくショボンが勝つ。
 しかし、指揮力となればどうか。
 順当にいけばショボンだが、波に乗っているのはブーンのほうだ。
 
 ただ、ショボンには漆黒の近衛騎兵隊がいる。
 わずか五百ではあるが、抜群の統率力で信じがたいような動きを見せるのだ。
 もしブーンの五千がただの騎兵なら、その五百だけで打ち破ってしまえるだろう。
52 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:26:13.28 ID:DOmeJ2RR0
 だが、当然ながらブーンも兵の調練には力を入れていたらしい。
 精鋭揃いのヴィップ軍のなかでも、更に精鋭を選んだと見える。
 特に、中核となる二千は、ショボンの近衛騎兵隊にも匹敵するだろう、と感じた。
 
 残りのヴィップの三千と、ラウンジの四千五百は、これもまたほぼ互角のはずだ。
 つまりは、どちらが勝つのか、まったく読めない。
 
 天候や風に影響されるとは考えられなかった。
 完全な、力のみの勝負になるだろう。
 
( ’ t ’ )「…………」
 
 陽が高くなっていた。
 逆光でどちらかの動きが把握しづらくなる、ということもないはずだ。
 今は、互いに集中力を高めているのだろう。
 
( ’ t ’ )「ッ……!」
 
 動き出した。
 遂に、ブーンが騎馬隊を動かした。
 ほぼ同時に、ショボン率いる騎馬隊も駆け出す。
 
 両軍、遠方にいる自分でも速いと感じるほどの進軍速度だ。
 距離はあったにも関わらず、見る見るうちに詰まっていく。
 二頭の獣が、猛然と駆けていく。
 
 両軍の勢いは更に増し、衰えることを知らない。
 一瞬、そのまま衝突してまともに戦えるのか、と思ってしまったほどだ。
56 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:28:17.16 ID:DOmeJ2RR0
 先頭に立つのは、ショボンと、ブーン。
 ぶつかるのか。回避するのか。
 どう戦うのか。
 
 何も予測できないままに、やがて、両軍はぶつかった。
 
 
(;’ t ’ )「ッ――――!!」
 
 
 暫時、戦場が消えた。
 
 何も、誰も、見えなくなった。
 
 
(;’ t ’ )(……そうか……)
 
 
 ――――そうだったのか。
 どうやら、今まで自覚できていなかったらしい。
 
 自分は、自分が思った以上に、成長していた。
 幾度となく死線を潜り抜けてきたことで、将として充分な力量を備えていたのだ。
 まさか、こんな形で気づかされるとは、思ってもみなかった。
 
 気付いたのは、そうでなければ、こうやって二本の脚で立っていることは不可能だったからだ。
 ショボンとブーンの戦いに気圧されて、膝を折っていたはずだからだ。
 
(;’ t ’ )(……これ、は……)
61 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:30:52.00 ID:DOmeJ2RR0
 一瞬、頭が白くなった。
 直後に戦況を把握しようと努めても、分からなかった。
 既に、両軍の位置は入れ替わっていたからだ。
 
 馳せ違った。
 それは、視認できた。
 
 ショボンとブーンは、一度だけ、アルファベットを交えた。
 その衝撃が、まるでここにまで伝わってくるようだったのだ。
 
 アルファベットZと、アルファベットX。
 先にアルファベットを振るったのは、ブーンのほうだった。
 横に払うように、ショボンの首を真っすぐに狙っていた。
 
 ショボンは、手綱を握り締めながら左手のZでXを防いだ。
 ブーンの一撃は、渾身だっただろう。それを、片手で防御したのだ。
 そして、右手のZで反撃した。
 
 ブーンのXは、すぐさまブーンの身を守った。
 素早い防衛は思わず唸らされるほどだった。
 普通ならば、まったく危なげないブーンの動き。
 
 だが、ショボンのZは、Xを押し込んだ。
 馳せ違ったため、ショボンは押しきれなかったが、まともな一騎打ちであればブーンは討たれていただろう。
 凄まじかった。
 
 その後、五千同士のぶつかりあいとなった様相は、よく分からなかった。
 衝撃を受けているうちに、いつの間にか両軍は再び離れ、反転を始めていたのだ。
 ただ、両軍が衝突した地点には、何人かが討たれて倒れていた。
65 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:32:28.85 ID:DOmeJ2RR0
 まともにぶつかったにも関わらず、討たれたのは数人。
 戦いの次元の高さを、物語っているかのようだった。
 それぞれが騎乗とアルファベットの技術に優れているからこそだ。
 
 また、非常に拮抗していることも改めて分かった。
 どちらかが覆いかぶさるような戦ではない、ということだ。

(;’ t ’ )「…………」
 
 両軍は反転を終え、再び駆けだす。
 再び、引かれ合っていく。
 
 
 
――ヴィップ軍側――
 
 一度目の勝負は、互角。
 自分は、そう見た。
 
( ゚∀゚)「一回目は、やや押し負けたか」
 
 隣のジョルジュは、少し目を伏せてから言った。
 
 確かに、見る者によって意見が分かれるだろう。
 結果を重視すれば互角、内容を重視すれば、ラウンジの優勢。
 自分は、結果を見て互角とした。
 
( ゚д゚)「結果は、偶然か?」
69 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:34:03.78 ID:DOmeJ2RR0
( ゚∀゚)「いや、そうでもねぇさ。あれこそ、ブーンの実力だ」
 
( ゚д゚)「ならば、内容も伴った、ということになるが」
 
( ゚∀゚)「だから、ほんの少し、だな」
 
( ゚д゚)「見る者によっては、ヴィップが上手く凌いだ、と捉えるだろうな」
 
( ゚∀゚)「そう考えれば、優勢なのはブーンのほうかもな」
 
( ゚д゚)「やはり微妙か」
 
 まだ、一度だけだ。
 両軍は反転を終え、二度目の戦いへと向かおうとしている。
 
 両者ともに、抜きん出た力を持っていた。
 特に、ブーンとショボンが直接刃を交えたときは、全身を衝撃が駆け抜けるほどだった。
 アルファベットZと、X。かつてない高ランクアルファベットの邂逅。
 
 そのとき一瞬、ジョルジュの表情や仕草を確かめた。
 大きく目を見開き、しかしやや気圧されたかのように後ろへと一歩下がった。
 だがそれは、自分が立っていた位置と同じ線上でもあったのだ。
 
 数多なる死闘を経験した自分とジョルジュでも、この有様だ。
 周りの兵など、推して図るべし、だった。
 
 両軍が再び駆ける。
 勢いで優っているのは、ヴィップのほうだ。
72 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:35:54.46 ID:DOmeJ2RR0
 ラウンジは、近衛騎兵隊とその他で実力差が大きい。
 全体の統率でいえば、ヴィップに分があるだろう。
 その差が、出た形だった。
 
 やがて、二度目の衝突。
 
(;゚д゚)「ッ!!」
 
(;゚∀゚)「なんだ!?」
 
 不意だった。
 ラウンジは、突如として、隊を二つに分けた。
 
 衝突の直前だ。
 ヴィップの攻撃は、空振り。
 対するラウンジは、ヴィップ軍の外側を削るように攻撃している。
 
 ヴィップも反撃しているが、咄嗟に切り替えられるはずはなかった。
 まるで、皮が剥がされるかのように。
 両軍が再び別れた頃には、明らかにヴィップ軍が小さくなっていた。
 
(;゚д゚)(まずいな……)
 
 ブーンは、正直に戦いすぎた。
 雌雄を決する戦ではあるが、純粋な力勝負だけを見据えすぎていたのだ。
 
 一度目をほぼ互角で終えたあとの、二度目。
 そこで劣勢に立たされたのは、苦しい。
 
( ゚∀゚)「……このままじゃ終わらねぇ」
75 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:37:36.94 ID:DOmeJ2RR0
 ジョルジュは、拳を握り締めていた。
 痩せ細った腕に、血管が浮かんでいる。
 
( ゚∀゚)「ブーンが、このままやられっぱなしで終わるわけねぇ」
 
( ゚д゚)「あぁ……そうだな」
 
 反転。
 今度は更に、ヴィップのほうが早い。
 明らかに、だ。
 
 ただ、先ほども衝突直前までは、有利だと思った。
 今度こそ、ラウンジを慌てさせるような戦いを見せてくれるか。
 
 半ば、期待よりも祈念に近かった。
 
 
 
――ラウンジ軍側――
 
 二度目は、判然たる勝利だった。
 ヴィップは、数百の損害を被っただろう。
 
川 ゚ -゚)「…………」
 
 ラウンジ軍が被害を受けたようには見えない。
 実際には減っているとしても、ここから分かるほどではない。
 つまりは、ショボンが明らかに優位に立っているのだ。
81 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:39:14.88 ID:DOmeJ2RR0
 ただし、油断はできない。
 ブーン=トロッソは今や、ショボンを覇を競えるほどの男になったのだ。
 その事実は、認めなければならない。
 
\(^o^)/「クーさん、どう見てますか?」
 
川 ゚ -゚)「オワタ様。今のところは、まだ趨勢が分かりません」
 
\(^o^)/「僕はショボン大将の圧倒的有利と思っているのですが」
 
川 ゚ -゚)「そう見えるからこそです」
 
\(^o^)/「……ヴィップがこのまま為す術なくやられるはずはない、と?」
 
川 ゚ -゚)「はい」
 
\(^o^)/「そうですね……クーさんの仰るとおりです」
 
川 ゚ -゚)「先ほど、ブーン=トロッソは明らかに不意を突かれていましたが、それほど被害は多くありませんでした」
 
\(^o^)/「しかし、数百は失ったでしょう」
 
川 ゚ -゚)「単純に考えれば、兵力に差も出ましたし、このまま押し切れるかと思いますが」
 
\(^o^)/「ブーンなら上手く凌いで、勝機を見出してくる可能性が……確かに、ありますね」
 
川 ゚ -゚)「そう思います」
 
 何度となく空を見上げたが、やはり雲ひとつない。
 風声さえも聞こえない。
84 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:40:52.79 ID:DOmeJ2RR0
 程よい柔らかさの草原は、馬も駆けやすいだろう。
 運命が二人に用意したとさえ思える舞台だ。
 だからこそ、現状、ショボンが押せているのは、純粋に力の差があるからだった。
 
 ただし、明確な、圧倒的な差ではないだろう。
 
\(^o^)/「ヴィップはやはり、疾駆が速いですね」
 
 反転を終えたヴィップ軍を眺めながら、オワタは感嘆するように言った。
 多少の余裕が感じられるのは、やはりショボンが劣勢に立たされているわけではないからだろう。
 
川 ゚ -゚)「近衛騎兵隊だけに限れば、ラウンジのほうが間違いなく速いのですが」
 
\(^o^)/「致し方ないことですか」
 
川 ゚ -゚)「はい」
 
\(^o^)/「実際の戦いでも、やはり近衛騎兵隊の力は大きいようですね」
 
川 ゚ -゚)「中核さえ潰されなければ、敗北はありません」
 
 それを、両軍が分かっているのが現状だ。
 つまり、ブーンは何とかして近衛騎兵隊を打破しようとするだろう。
 
 正面から突っ込むのか、往なすのか。
 さすがに、読み切れなかった。
 
 やがて、三度目の戦い。
 馬蹄によって蹴りあげられた草が、まるで戦況を覆い隠すかのようだった。
90 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:42:27.80 ID:DOmeJ2RR0
\(;^o^)/「あっ……!」
 
川 ゚ -゚)「……!」
 
 戦況が分からないのは、舞い上がった草花だけのせいではなかった。
 
 小さく、これ以上ないほどに小さく固まったヴィップ軍が、ラウンジ軍に吸い込まれた。
 ここからは、そのように見えた。
 
 予測としては、ブーン=トロッソは正面から近衛騎兵隊を打ち破ろうとするだろう、だった。
 力押し。その一点に、全てを集中させて。
 ショボンより上だという完全たる証明のためには、是が非でも近衛騎兵隊の首が必要だからだ。
 
 だが、しかし。
 ブーンは、隊を分けた。
 
 それは、言葉だけなら先ほどのショボンと同様の行動だ。
 仕返しに出たと考えてもいい。
 しかし、明らかに違うのは、ブーンはラウンジ軍のなかで隊を分けた、ということだった。
 
 敵陣に突っ込むときは、全軍を小さくまとめる。
 それは戦において、新兵でさえ知っている大原則だ。
 
\(;^o^)/「二つの隊が……」
 
 ブーンはあえて、敵軍のなかで隊を分けた。
 進軍路を表すとすれば、アルファベットのYだ。
 分割された隊は斜めに斬り進み、見事にショボンの部隊を突き破った。
94 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:43:59.90 ID:DOmeJ2RR0
 近衛騎兵隊とは、まともに戦わなかったようだ。
 恐らく、隊を分けたのは近衛騎兵隊とぶつかる直前だろう。
 
 両軍の衝突地点には、再び死骸が転がっていた。
 今度は、やはりラウンジのほうが多い。
 黒い具足を身に纏った者も見える。
 
川 ゚ -゚)「……大胆な作戦ですね」
 
 小さく固めた部隊を突っ込ませたブーンは、それを更に小さく固めた二部隊に分けた。
 理屈だけで言えば、効果的に思える作戦だ。
 だが、実際に敵陣のなかで部隊を分割させるのは、言葉にするより何倍も難しいことだろう。
 
 ラウンジにまったく油断がなかったか、といえばそうでもないはずだ。
 ただ、やはりブーンの卓越した指揮力あってこその作戦だった。
 
川 ゚ -゚)(……ショボン様……)
 
 ここからではショボンの表情など、確かめようもない。
 だが、不思議と分かってしまう。
 
 恐らく、僅かではあるが、笑っているだろうと。
 
 しかし、場合によっては、その笑みを凍りつかされる可能性もある。
 先ほどの戦いで、両軍の形勢は互角。
 それぞれ兵数は、四千五百より少し多い程度だろう。
 
 死闘は、まだ、続いていく。
99 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:45:40.14 ID:DOmeJ2RR0
――ショボン側――
 
 四度目は、再び正面から。
 今度は、小細工など考えていなかった。
 
(´・ω・`)「怯むなよ」
 
 一度目は、互角。
 二度目は、勝利。
 三度目は、敗北。
 
 そしてこれが、四度目。
 敗北の直後だが、兵に気負いはなかった。
 
 大きく上下する馬を手綱で操りながら、駆ける。
 ブーンは、自分と同じく先頭には立っておらず、中心へと下がっていた。
 まともにアルファベットを交えたのは、最初だけだ。
 
 それでいい。
 最初の一度で、お互い、充分に理解したからだ。
 やはり、アルファベットでは自分に分がある。
 
 だからブーンは、即座に全体での勝負に賭けてきた。
 五千と五千の勝負なら、ZとXの差は出ない。
 一国の大将としては、当然の決断だ。
 
 自分としても、望むところだった。
 アルファベットで優っていることなど、最初から分かっていたのだ。
 いま興味があるのは、五千の騎馬隊を指揮したときに、どういった戦いになるのか、だった。
105 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:47:11.82 ID:DOmeJ2RR0
 先陣が、ヴィップ軍に触れた。
 すかさず、幾重にも重なった干戈の音が聞こえる。
 
 鋭い音だった。
 アルファベットの扱いに長けた者どうしでなければ、こうはならない。
 
 自分とブーンの一騎打ちでは、音さえ飛んでしまったように感じた。
 互いに、全身全霊を込めた一撃。歓喜なのか恐怖なのかは分からないが、思わず身震いした。
 ベルを相手にしたときでさえ感じられなかった"何か"を感じたのだ。
 
 戦いの波紋が広がってきている。
 次第に、隊は敵軍の中核へと進んで行っていた。
 ただし、ヴィップが崩されているわけではない。
 
(´・ω・`)(うまく、往なされているのか?)
 
 近衛騎兵隊を、少し前に押し出す。
 他の兵ではヴィップの精兵に、やはり敵わないようだ。
 漆黒の牙を、敵軍に突き立てる必要がある。
 
 しかし、そこを狙われた。
 
(´・ω・`)「ッ……」
 
 強引なまでにヴィップは、近衛騎兵隊を潰しに来た。
 アルファベットIの兵を、弧を描く形で並べて、押し包むように迎え撃ってきたのだ。
 
 多角的な攻めは、ラウンジからすれば、当然ながら不利だ。
 他のラウンジ兵が牽制してくれればいいが、錬度で劣っているため難しい。
 ブーンは、総合的な戦力を勘案して、この策を繰り出してきたのだろう。
109 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:48:43.89 ID:DOmeJ2RR0
 望むところだった。
 
(´・ω・`)「喰らい尽くせ」
 
 アルファベットを、掲げた。
 そして、更に勢いを増させて、斬り込んだ。
 
 アルファベットZを振るう。
 さすがにヴィップも精鋭揃いなだけあって、I兵と言えど隙は少ない。
 が、あまりに歴然とした、ランク差がある。
 
 突き出されたアルファベットIを一撃で破壊し、首を飛ばす。
 一人、二人、三人。
 そこからは、数えるのをやめた。
 
 近衛騎兵隊は、ヴィップの包囲を確実に綻ばせはじめていた。
 こちらも全く犠牲がないわけではないが、圧倒している。
 ヴィップ軍からは焦燥を感じた。
 
 やがて、ヴィップ軍の包囲は崩れた。
 完全に押し切ったわけではなく、ヴィップが途中で諦めた形だが、問題はない。
 態勢が崩れたという事実さえあれば、それでいい。
 
 一気に近衛騎兵隊を動かした。
 小さく固めて突破するためではなく、方々を突いて、ヴィップ軍全体に打撃を与えるためにだ。
 あわよくば、このまま勝利を掴みたい。
 
 だが、ヴィップの反撃は、無論あった。
 勢いに任せるのではなく、腰を重くして受け止めようという形。
 並の相手なら鼻で笑うところだが、相手は、ブーン=トロッソだった。
113 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:50:17.28 ID:DOmeJ2RR0
(´・ω・`)「止まるなよ」
 
 アルファベットZで、空を切る。
 自軍は、更に強く駆けだしていく。
 
 止められてしまうと、腰を据えているヴィップのほうが有利だ。
 ここは、何を失ってでも突き進まなければならない。
 
 ヴィップ兵は、ひとりひとりが、獣の彫像のようだった。
 覇気がある。しかし、微動だにせずに待ち構えている。
 疾駆の勢いに乗せて斬り込もうとしているラウンジのほうが、動揺してしまうほどに。
 
 構うな。
 そのまま、斬り進め。
 大声で指示を下した。
 
 アルファベットZで、ヴィップ兵を狙った。
 顔は知らないが、Jの壁を超えている兵だ。
 長柄のアルファベットKが、自分の喉元へ向いていた。
 
 そのまま突き出してくるのかと思ったが、何もしてこない。
 自分のZを防ぐことしか、考えていないようだ。
 
 それは、あくまで結果論だが、悪くない判断だった。
 自分が振るったZを、跳ね上げるようにして防いだのだ。
 たった一撃とはいえ、アルファベットZをKで防御したのは、大したものだった。
 
 東塔の大将だった頃、兵卒のアルファベットの訓練には大きく時間を割いた。
 オオカミに比べて寡兵だったヴィップは、アルファベットのランクで上回らなければ互角に戦えなかったのだ。
115 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:51:50.88 ID:DOmeJ2RR0
 東塔では、モララーとブーンがSの壁を突破した。
 壁を越えられずとも、Rまで達せた者はギコやイヨウ、ドクオやベルベットなど数多かったのだ。
 全体的に、高ランクアルファベットを操る者が揃っていた。
 
 自分が、アルファベット使いとして優れていた。
 だから、配下を鍛えることもできた。
 反面教師というわけではないが、配下を育てなかったベルの愚を犯してはならない、と思ったのだ。
 
 ヴィップを離れた後、育てた将校に牙を剥かれたくはない。
 そう思ったからこそ、元部下を討つことには注力した。
 
 もはや、去り際にギコの推薦で仕方なく将校に引き上げたロマネスクを除くと、一人だけだ。
 自分の部下だった者で戦場に立てているのは、ブーンだけだった。
 
 ある意味では、宿命なのだろう。
 今こうして、ブーンと戦っているのは。
 
 それを討つことで、自分の視界は開ける。
 ラウンジの覇道に、障害はなくなる。
 
 そう考えていた。
 
(´・ω・`)「…………」
 
 いつの間にか、アルファベットKの兵の首は、地に落ちていた。
 防がれたのは、たった一撃。
 やはり、自分のアルファベットに直接抗えるのは、ブーンだけだろう。
120 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:53:23.76 ID:DOmeJ2RR0
 そのブーンとの一騎打ちは、相手にやる気があるなら、やってやるつもりだった。
 だが、もはや利はないと判断しているはずだ。
 ならば、あえて危険を冒して誘うようなことはしないほうがいい。
 
 ラウンジの軍は、止まらない。
 尚も確実に、ヴィップの兵を討ちとっていく。
 しかし、相手も粘り強い。押しているように思えるが、被害は同数程度か。
 
 思うように、崩されてくれないのだ。
 それは、近衛騎兵隊にとって手痛い。
 今まで、これほどに固い相手とは、戦ったことがないのだ。
 
 挫折を知らない。
 近衛騎兵隊の唯一の弱点といえば、それだった。
 精強な兵であれば、誰しもが一度は抱える弱点ではあるが、未だ克服はできていない。
 
 そのまま終焉を迎えることができれば何ら問題はないのだ。
 しかし、大事な局面で弱点が露呈するようなことがあれば、全体の崩壊にさえ繋がりかねない。
 
 それが、今でないことを願うのみだ。
 
(´・ω・`)(あと、少しだが……)
 
 強固なヴィップ軍だが、少しずつ押し込めている。
 同じように、ラウンジも攻勢も弱まりつつある。
 
 ヴィップの崩壊と、ラウンジの停止。
 先に訪れるのは、果たしてどちらか。
124 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:55:02.91 ID:DOmeJ2RR0
 中核である近衛騎兵隊が、奮戦しなければならない。
 そのなかでも更に軸である、自分こそが。
 
 ひたすらにアルファベットを振るいつづけた。
 ヴィップ兵の血が天を覆う。
 切り離された首が宙を翔る。
 
 だが、それぞれ容易く討ち取られてはくれない。
 最強のZを扱う自分に対して、まったく怯んでいないのだ。
 本気で、首を狙ってきている。
 
 無謀だ、と嘲ることはできなかった。
 一瞬でもそう思ってしまえば、本当に自分は討たれるだろう。
 戦場という魔物は、爪牙を光らせるだろう。
 
 それでいい。
 侮りなど、本来、存在してはならないのだ。
 無益な感情を抱いた者から討たれていけばいい。
 
 そして、自分が最後まで戦場に立った者となればいいのだ。
 
 兵の荒ぶる吐息が戦場に満ちていく。
 誰しもが、疲弊を感じ始めていた。
 
 特に、ヴィップの兵は、そうだ。
 
(´・ω・`)(やはり、連戦の疲れか)
 
 次第に、一撃が鈍りはじめていた。
 ラウンジも疲労がないとは言えないが、ヴィップに比べれば遥かにいい。
128 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:56:35.59 ID:DOmeJ2RR0
 望もうが望むまいが、蓄積されていくだろう。
 それも、戦ならば致し方ないことだ。
 
 そろそろ、終わりにしよう
 心のなかでブーンに話しかけて、今一度、大声で兵を鼓舞した。
 
 
 
――ヴィップ軍側――
 
 戦いが、長引いている。
 最初の想定よりも。
 
 長期戦となれば不利だろう、とは思っていた。
 だから、この戦いは早めに終わらせたかった。
 
 ただ、それを許してくれる相手ではないのだ。
 分かっていたことだが、いかにも苦しい。
 
 勝負は、互角と見ていいだろう。
 お互い、決して盤石な状態にはならない。
 常に不安を抱えさせられるような戦だ。
 
 相手が強者であればあるほど、穴は塞ぎにくい。
 隙など、僅かたりとも見逃してはくれないのだ。
 
( ^ω^)「ここを凌ぐんだお! あと少しだお!」
 
 自分が、兵に不安を与えるわけにはいかなかった。
 何が起ころうとも、毅然としていなければならない。
132 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:58:08.01 ID:DOmeJ2RR0
 深紅に染まったアルファベットXを、振り回す。
 ただの兵卒ならば、為す術なく討ち取られてくれるのだ。
 だが、漆黒の近衛騎兵隊が相手では、そうもいかない。
 
 一兵一兵が、まるでJの壁突破者のようだ。
 実際、壁を超えている者も少なくない。
 いかにXを操る自分と言えど、一撃で幾つも首を飛ばすことはできなかった。
 
 一度、近衛騎兵隊の包囲に成功したが、結局は崩された。
 完全に囲みきりたかったが、周りはそれを許してくれなかったのだ。
 全兵が、戦に精通している。何が最善かを、理解していると思えた。
 
 だが、それはラウンジだけではない。
 ヴィップの兵も、いや、ヴィップの兵のほうが、その点においては上回っているはずだ。
 
 ヴィップは、腰を落としてラウンジを迎え撃っていた。
 最初は全軍を小さく固めていたが、徐々に緩まされ、今はところどころに隙がある。
 だが、それでもまだ、破られてはいない。
 
 ラウンジは、全軍が縦に伸び始めていた。
 次第に、一本の槍のような陣形へと変貌していたのだ。
 恐らく、意図的ではなく、流れでそうなってしまったのだろう。
 
 この槍を、食い止めることができれば、ヴィップの勝利。
 突き破られれば、ラウンジの勝利だ。
 構図としては、至極単純だった。
 
 受けきるべく、敵軍の勢いを削ぐ。
 勢いに乗じた一撃を殺せば、それが可能となるのだ。
 そして、着実に果たしつつあることだった。
136 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 17:59:44.52 ID:DOmeJ2RR0
 だが、やられていく。
 ヴィップの兵が、敵兵に蹂躙されていく。
 
 戦場において、ごく当たり前の光景が、受け入れがたい。
 状況的にも、感情的にも、だ。
 
 多くの犠牲を払っているが、確実にラウンジの勢いは衰えていた。
 あと少し、あと少しだ。
 あとほんの僅か耐えるだけで、勝利を得ることができる。
 
 この総力戦を、有利に進めることができる。
 
 アルファベットを振るいつづけた腕は、微かに震えている。
 口から吐き出す息は、音となって自分の耳に届いていた。
 
 自分だけではない。
 配下の兵はもう、皆、限界に近かった。
 
 ――――そして、戦場に静寂が訪れる。
 
( ^ω^)「ッ!!」
 
 止まった。
 ラウンジの攻勢が、完全に止んだ。
 
 受けきった。
 食い止めることが、できたのだ。
 
 まだ油断してはならない。
 ならないが、この機を逃すわけにはいかない。
141 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 18:01:22.95 ID:DOmeJ2RR0
(#^ω^)「全軍!! ラウンジ軍を突き破るんだお!!」
 
 アルファベットXを振り上げ、全軍の目の届く位置に到達させる。
 そして、振り下ろした。
 それが、反撃の合図だった。
 
(#`ω´)「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
 
 一気呵成に攻め立てる。
 形振りに構っている余裕はない。
 とにかく、敵陣を乱しに乱すことだ。
 
 近衛騎兵隊は既に突き破った。
 あとは、後方で固まっている部隊だけだ。
 黒い毛並みの獣に比べれば、いかにも容易い。
 
 討っていく。
 怯え、慌てふためくラウンジ兵を。
 
 隙を見せてはならない。
 しかし、強引にでも攻め込む必要がある。
 兼ね合いは難しいが、やるしかないのだ。
 
 斬り進んで、敵陣の突破を目指した。
 配下の兵は、よくついてきてくれている。
 それぞれもう、存分に戦う力は残っていないはずだが、それでもアルファベットを振るってくれている。
 
 だが、あと少しだ。
 よく耐えてくれた、よく踏ん張ってくれた。
 精神を蝕むような重圧を、撥ね退けてくれた。
144 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 18:03:15.23 ID:DOmeJ2RR0
 後は、ひたすら突き進むだけ。
 ラウンジ軍の崩壊は、もう、目前だ。
 
 そしてやがて、ラウンジの陣を突破した。
 
 
 ――――気づけば、自分は、撤退の命令を下していた。
 
 
(;゚ω゚)「ッ――――!!!!」
 
 悪寒が、後からやってきた。
 それを感じる前に、自分は、本能で撤退を命じていたのだ。
 何故か、を理解する前に。
 
 突破直後、すぐさま隊の進軍方向を逸らした。
 左方へ。誰も、何もいない方向へ。
 
 ひたすら、ひたすら逃げた。
 無様であることなど、気にかける余裕もなかった。
 
 ラウンジからの追撃は、ない。
 
(;゚ω゚)「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
 
 なんだ。
 いったい、何が起きた。
148 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 18:04:55.78 ID:DOmeJ2RR0
 確かに、ラウンジ軍を突破した。
 紛れもなく、打ち破った。
 
 それなのに何故、逃げなければならないと感じたのか。
 分からない。ただ、勝利を得たはずなのに、絶望的な敗北感に支配されたのだ。
 そして、僅かでも回避行動が遅れれば、壊滅的な被害を受けるだろう、と思ったのだ。
 
 一度、振り返った。
 あのとき、あの場所で、何が起きたのかを、確かめるために。
 
(;゚ω゚)「ッ!!」
 
 ――――自分の眼球は、信じられないものを認識した。
 脳が、受け入れるのを拒みたがってもなお。
 
 漆黒の騎馬隊と、ショボン=ルージアル。
 自分たちが、敵軍を突破した地点にいる。
 
 敵陣のなかで、打破したはずだった。
 だから、自分たちは思い切ってアルファベットを振るえたのだ。
 馬を駆けさせたのだ。
 
 しかし、恐らくショボンは、即座に部隊を迂回させた。
 凄まじい速度で外側から回りこみ、自分たちがラウンジ軍を突破する直後を狙ったのだ。
 あのまま側面を突かれていれば、間違いなく甚大な被害を受けていただろう。
 
 互いの被害は、ほぼ同数。
 千から千五百といったところだ。
 
 だが、勝敗は、誰の目にも明らかだった。
152 :第113話 ◆azwd/t2EpE :2009/06/14(日) 18:06:09.34 ID:DOmeJ2RR0
(;゚ω゚)「…………」
 
 逃げ帰った先で待つ兵たちの、絶望感に満ちた表情が、自分の心を刺す。
 ラウンジ軍の大歓声が、更なる刃を突き立ててくる。
 
 自分が負けたことで、この戦は、苦しいものになる。
 それはもう、揺らぎようもない事実だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 第113話 終わり
 
     〜to be continued

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