- 4 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月)
09:26:46.98 ID:Qic+ulwE0
- 〜ヴィップの兵〜
●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:ミーナ城
●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヒトヒラ城
●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ギフト城周辺
●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城
●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城周辺
- 9 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月)
09:28:18.29 ID:Qic+ulwE0
- ●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城
●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城周辺
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
- 12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:30:01.62 ID:Qic+ulwE0
- ●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ギフト城周辺
●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城
●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
- 15 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:31:34.15 ID:Qic+ulwE0
- 大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ビロード
大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー
(佐官級は存在しません)
- 17 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE
:2009/05/04(月) 09:33:46.06 ID:Qic+ulwE0
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:フサギコ
S:ファルロ
T:ニダー
U:ジョルジュ/モララー
V:シャイツー
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
- 24 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE
:2009/05/04(月) 09:35:17.64 ID:Qic+ulwE0
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
---------------------------------------------------
・全ての国境線上
- 30 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:36:49.06 ID:Qic+ulwE0
- 【第112話 : Ready】
――ギフト城付近――
寝床にしては随分と固い。
毛布にしては随分と冷たい。
しかし、起き上がる力もない。
凍った地面の上で、降り積もる雪に埋められていくことには、あらがえない。
動けないのに、今の自分は、死へと確実に近づいていっているのだ。
もはや、側に医者がいたところで間に合わないだろう。
いや、自分のことなど、どうでもいい。
隣で倒れた人さえ無事ならば。
今、自分にできることは、祈り。
感覚の消え去った両手は、合わせることさえできないが、祈るしかなかった。
生死さえ、今は確認できない。
僅かでも腕が動けば、腕や喉元に手を当てて、脈を確かめるところだ。
そんなことさえ、叶わない。
それが死だろう。
自分とて、両腕では抱えきれないほどの命を奪ってきたのだ。
そうやって、生きてきたのだ。
最後には当然、死が訪れると分かっていて。
- 35 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:38:49.73 ID:Qic+ulwE0
- 死が何であるのかなど、分からない。
今まで、絶大なる恐怖に押さえ込まれて、考えようともしなかったのだ。
体感すれば分かるだろう、などと割り切ることも怖かった。
しかし、実際に直面してみると、不思議に怖くはない。
全身から感覚が消えていくことも、こういうものなのか、と思う程度だった。
自分の死は、怖くはない。
ただ、やはり恐れているのは、この人の死だった。
(;><)(モララー……中将……)
切り離された腕は、鈍い音を立てて地面に転がった。
舞いながら落ちてくる雪を、赤く染めながら。
温血は凍った地面を溶かす。
しかし、身体まで暖まることは決してない。
それは、自分もモララーも同じだった。
そして、シャイツーも。
(;><)(…………)
自分の目の前に、転がり落ちてきた。
シャイツー=マタンキの首。
全くの同時だったのだ。
モララーの腕が斬り落とされたのと、シャイツーの首が刎ねられたのは。
- 40 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:40:51.80 ID:Qic+ulwE0
- 相討ちに近い。
しかし、シャイツーは明らかに死んでいる。
モララーは、まだ息があるかもしれない。
絶望的でも、願うしかなかった。
生き延びてくれることを。
ただ、ひたすらに。
(;-∀-)「……う……」
(;><)(ッ……!)
風声にかき消されそうだったが、聞こえた。
確かに、モララーの呻き声だった。
良かった、モララーはまだ生きている。
このまま生きられるとは限らないが、希望が持てた。
瞬間、全身が急激に重くなった。
雪が圧し掛かってきたかのように。
気が緩んでしまった。
もう、あと幾許も意識を保っていられないだろう。
元より、果てていたはずの命だ。
ショボンやプギャーらが裏切ったときに。
- 49 : ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月)
09:44:40.83 ID:Qic+ulwE0
- 自分は、モララーを討ち取るための人質にされた。
いま思い出しても煩悶に耐えられなくなる。
あまりに情けなかった。
それを助けてくれたのが、モララーだった。
しばらく戦に出られないほどの重傷を負いながら。
身を挺して、助けてくれたのだ。
恩義には、報いたかった。
しかし、結局、完全に守りきることはできなかった。
それでも、モララーが生き延びてくれるのならば、きっと自分の命にも意味はあったのだろう。
いつだったか、言われたことがあった。
お前の優しさは、いつか誰かを救うと。
あれは、ショボンの言葉だったか。
今際の果てに思い出すとは、実に皮肉なものだった。
だが、不思議と嫌な気持ちは湧いてこない。
ヴィップ城に残してきた嫁には、申し訳なかった。
平和な世で悠然と暮らす夢も、潰えてしまった。
だが、恐らくは覚悟してくれているだろう。
恣意的な理由で北東の戦に参加したいと言った自分を、受け入れてくれたブーン。
その大将にも、恩は返せないままになってしまった。
ヴィップの覇道を支えることも、できなくなってしまった。
- 52 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:46:44.74 ID:Qic+ulwE0
- 次第に、世界が遠ざかっていく。
見えるものも、聞こえるものも。
なにもかもが。
この戦はどうなるだろうか。
勝てるだろうか。
ヴィップの天下は、どうなるだろうか。
果たせるのだろうか。
結局、最後まで、分からないことばかりだった。
天下の行方も、死の正体も。
だが、たったひとつだけ、分かったことがあるとすれば。
あるとすれば、それは――――
( ><)(……さよならなんです……みんな……)
――――こんな自分でも、戦に生きることができた。
ただ、それだけだった。
- 57 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:48:47.75 ID:Qic+ulwE0
- ――カレイドスター城・北西――
この地の最北端は、エアー城の北東にある。
高台から望む景色は幽玄でさえあると聞いたことがあった。
そこには及ばないが、大地の果てであることに変わりはない。
カレイドスター城から二日ほど駆けた先で、断崖の上に立っていた。
( ’ t ’ )(さすがにもう、流氷はないか)
遮るものなど何もない。
それでも、吹き付ける風に震えることはなかった。
恐らく、南では桜が咲いているだろう。
北はまだ春を実感できるほどではないが、随分と寒さは和らいだ。
腰を下ろして、もう一度海を眺める。
遥か彼方から小さく押し寄せる波の数は、無数と表現していい。
生憎の曇天で、水面に光が浮かぶことはないが、深い青はやはり美しかった。
立ちあがって、馬に跨る。
二里ほど離れた場所には砂浜があるのだ。
実際に手で水温を確かめたくなった。
浜辺では馬を曳き、波打ち際で膝を折って海水と触れ合った。
やはりまだ冷たい。すぐさま手の水を払い、衣服の裾で拭った。
軽く息を吐きかけてから、また足を垂直に立てる。
- 63 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:51:02.99 ID:Qic+ulwE0
- 波が砂を飲み込む音と、また海に帰っていく音。
潮騒と呼ばれるが、騒がしいとは全く思わなかった。
むしろ心を静穏で満たしてくれる音でさえあると感じる。
しばらく瞼を閉じて、耳を澄ませていた。
緩やかに流れていく時。
世界はあまりに広漠なのだと肌で実感できる。
( ’ t ’ )(少し、潮が満ちてきたな)
足元にまで波が迫ってきた。
馬の手綱を握って、また崖へと向かう。
砂浜に残った足跡は、一人のものと、一頭のものだった。
先般、森のなかで遭遇した女性とは、その場で別れた。
礼を果たせるまでお伴させてください、と言われたが、誰も伴うつもりはない。
自分の思うがままに、気ままな旅を続けたいからだった。
考えを率直に言う性質の人間だったようで、彼女には何度も食い下がられた。
絶対についていきます、と言われ、脚にしがみつかれたこともあった。
乱暴に振り解くこともできず、ほとほと困り果てたが、必ず彼女の村に行くと固く約束して何とか別れた。
村までの地図も貰っている。
やはり、新年早々に女装することとなってしまった、あの村だった。
アルファベットを使う山賊たちを討ち取り、平和が訪れた村だ。
彼女には、村に戻れるだけの金銭も渡しておいた。
千倍にして返します、と言われたが、それほどの銭があの村にあるとは思えない。
村にはいずれ戻るつもりだが、礼は適当に断ろうと考えていた。
- 67 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:53:05.35 ID:Qic+ulwE0
- ( ’ t ’ )(……戻る、か)
自然とその言葉を使っていた自分に、苦笑した。
本来の故郷である地には、一度たりともその言葉を当てようと思ったことがない。
恐らくは、これからもないだろう。
崖に戻ったあと、またしばらく水平線を見つめていたが、夜になってからは寝床を探した。
春めいてきたとはいえ、深更の風を侮ると凍死する恐れもある。
風の避けられる場所を探す必要があった。
馬を駆けさせて探し回ったが、ちょうどいい洞窟のようなものは見当たらなかった。
仕方なく、荒野の巨岩の側で馬を止めさせる。
充分ではないが、凍えない程度には寒気を凌げるだろう。
荷物を降ろしてからは、すぐに火を熾した。
暖を取るためでもあるが、今晩の夕食を用意するためでもある。
昨日、カレイドスター城の城下町で買った、骨のついた鶏の腿肉を火で炙っていく。
肉は拳以上の大きさがあり、骨を掴んで火に近づけても、手はさほど熱くならない。
皮の色が変わりはじめて、肉から油が落ちるまで焼き、裏側も充分に熱する。
鶏肉と一緒に買った鶏がらを、葱や大蒜、生姜や塩などと一緒に煮込んだタレを取り出した。
焼いている途中の肉に垂らすと、香ばしい匂いが広がる。
鶏肉の色はだいぶ深まってきていた。そろそろ頃合いだろう。
焼き上がった肉の表面に浮く油は、火に照らされて輝いている。
まだ火から離したばかりだが、すぐにかぶりついた。
- 71 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:55:06.61 ID:Qic+ulwE0
- ほんの少し固くなった皮が小気味のいい音を立てる。
しかし、肉そのものは程よい柔らかさだ。
火は中までしっかりと通っていた。
肉は咀嚼のたびに口の中を濃密な味わいで満たしていく。
昨日作ったタレとは上手く合っていたようだ。
すぐに一本目を食べ終え、二本目を焼いた。
一本目より少し、味付けを薄くして、あっさりとした味に仕上げる。
だが、一本目よりも一層味わうように、ゆっくりと頬張っていった。
二本も胃に収めればさすがに満腹感があり、後は火を眺めながら考え事をしていた。
雨は降るだろうか、明日は晴れるだろうか。
そんな、他愛もない思考。
しかしやがて、昨日、カレイドスター城の城下町で得た情報を思い出した。
年明けから戦っていた、ラウンジとヴィップの三つの戦いが、全て終わったらしい。
結果は、ヴィップ側の全勝。
完勝までは言えないものの、目的を果たせたのはヴィップ側だった。
ラウンジは、城二つを攻め、城一つを守る戦だったが、結局いずれもヴィップに挫かれた。
まず、南西の戦。
ブーンやジョルジュなどがヒトヒラ城を攻めた。
ラウンジはギルバードとプギャーを急派させて守ったものの、その二人が討ち取られてしまう惨敗だった。
ヴィップもヒッキーを失っているが、損失は明らかにラウンジのほうが大きい。
- 72 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:57:07.21 ID:Qic+ulwE0
- 守将だったアクセリトは生きているらしいが、城は放棄せざるをえなかったという。
これで、ヴィップはかなり失地を回復してきている。
ただ、それでもミーナ城やギフト城を奪えていれば、ラウンジの圧勝と言ってよかっただろう。
そのうちの、ミーナ城攻略戦。
大将のショボンが、元オオカミの大将ミルナを相手に、十倍の兵力で攻め込んだ。
普通ならばまず間違いなく、ラウンジが勝つはずの戦。指揮官がショボンとあっては、尚更だったはずだ。
だが、M隊を全滅させられたことで出鼻を挫かれ、ミルナに翻弄されつづけたラウンジは、撤退した。
ショボンがWによって傷を負うという、かつてない危急にまで陥った挙句の敗走だ。
ミーナ城を投石により潰したことで一矢報い、実質的には引き分けたが、被害はラウンジのほうが大きいだろう。
ギフト城へ攻め寄せた戦では、兵力でこそ優っていたものの、指揮官がオワタではやや心許ない戦だった。
オワタが決して無能なわけではなく、むしろプギャーなどよりはよほど優れているとは知っているが、相手が悪い。
ヴィップ随一の天才モララーと、鉄壁の守備力を誇るニダーが並び立って指揮執っていたのだ。
将の質の差を埋めるためなのか、ギフト城攻略戦にはシャイツーが投入されていた。
そして、ヴィル=クールという将も。
聞き覚えのない名前だったが、誰なのかはすぐに分かった。
ラウンジ城から脱した自分を、トーエー川の南岸で待ち受けていた、クー=ミリシアだ。
他の人物の可能性は、ないと判断するしかなかった。
ギフト城の奪取は、結局叶わなかったが、辛酸ばかり舐めさせられたわけでもないらしい。
長年、各地の守将を務め、戦では堅実な働きを見せていたビロード=フィラデルフィアを討ち取った。
そして、モララー=アブレイユも片腕を失った。
だが、ラウンジは引き換えに、シャイツーを失った。
モララーは恐らく、二度と戦場に立つことはないだろう。
それでも、層の厚薄を考えれば、ラウンジのほうが手痛い。
- 76 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 09:59:19.36 ID:Qic+ulwE0
- ギフト城の奪取は諦めざるをえず、オワタとクーは軍を退いたという。
これで、三戦全敗。
もはや、領土では五分に近い。
兵力数では、まだラウンジが圧倒的に上回っている。
だが、兵糧の問題がかなり深刻化しているはずだ。
今年中に行える戦は、せいぜいあと一戦だろう。
逆に、ヴィップは三度でも四度でも攻め込めるはずだ。
一見するとヴィップのほうが、かなり優位に立ったように見える。
しかし、ひとつ気にかかっている点があった。
( ’ t ’ )(……無茶をしすぎだ、ヴィップは……)
連戦に次ぐ連戦での、連勝。
士気は、相当に高まっていることだろう。
それに覆い隠されていて、まだ顕在化はしていないのかも知れない。
しかし、蓄積されているはずだ。
確実に、兵の体のなかに、連戦による疲労が。
兵力で劣るヴィップが、多勢を相手に戦えているのは、兵の錬度によるところが大きい。
だが、それは一人一人が限界を常に超えるような戦いを見せて、初めて発揮されるものだ。
戦による疲れは、確実にヴィップのほうが大きい。
それが表に出てくるとすれば、恐らく次の戦だろう。
今、両軍の兵力が南に集中している。
正確に言えば、フェイト城とオリンシス城の間に、だ。
- 82 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:01:30.57 ID:Qic+ulwE0
- 士気の落ちた大軍、ラウンジ。
疲労の満ちた寡兵、ヴィップ。
上回るのは果たしてどちらか。
ここに居ては、何も分からないだろう。
だから、次の戦は直接、この目で帰趣を確かめるつもりだった。
まだ両軍は準備を始めた段階であり、今から真っ直ぐ南へ向かえば開戦に間に合う。
かつてない規模で展開されると噂の大戦を、自分の目で見届けよう、と思っていた。
もう、決着は遠くない。
決して遠くはない。
天下は、もうすぐどちらかの足元に転がるのだ。
――オリンシス城――
ミーナ城を、再び城として使える状態に戻すには一年以上かかるだろう。
間を置きたくない今の状況では、復興を諦めるしかなかった。
ラウンジに利用されないよう、城の機能は徹底的に潰した。
やや離れた位置にある属城はそのままだが、放っておいても問題ないだろう。
大局には影響しない。
ただ、ミーナ城を失う事態は想定の範囲外だった。
事前の構想では、ミーナ城を拠点にしてフェイト城を狙う予定だったからだ。
それは瓦解したが、奪われなかっただけでも良しとすべきだった。
- 84 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:03:40.23 ID:Qic+ulwE0
- ( ゚д゚)「ブーン」
( ^ω^)「ミルナさん。どうかしましたかお?」
城内の休憩室内にて、先の戦での被害を取りまとめた資料を眺めていた。
そこに、やや疲れた表情を浮かべたミルナがやってきた。
元オオカミ軍大将、ミルナ=クォッチの背には、Wがあった。
先の戦ではM隊を全滅させ、ショボンに傷を負わせたアルファベットだ。
もう五十に近いはずだが、さすがはミルナと言うしかなかった。
( ゚д゚)「フサギコがもうすぐこっちに到着するそうだ。陽が落ちるまでには、と」
( ^ω^)「了解ですお。アニジャさんについても何か聞いてますかお?」
( ゚д゚)「そっちは分からんが、特に問題はないだろう。
マリミテ城経由でキョーアニ川を渡ってくるなら、ラウンジに襲われる心配はない」
( ^ω^)「ミルナさんが直々に指導した水軍での迎えだから、不安はないですお」
( ゚д゚)「上流にラウンジが水軍を置いているという情報もないしな」
オオカミ城の守将、フサギコ=エヴィスと、シャッフル城の守将、アニジャ=サスガ。
その二人を、オリンシス城へと呼び寄せた。
次の戦は、総力戦になる。
重要性を二人も理解している。
どうやら、自分が呼び寄せる前から、出立の準備は整えていたらしい。
- 87 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:05:44.43 ID:Qic+ulwE0
- 各地の守将は、多少不安もあるが、部隊長格の兵に任せた。
兵糧は、そのほとんどを籠城用に回している。
籠りさえすれば、簡単に城を落とされることはないはずだ。
ラウンジも、各地の城を狙いにいけば、要衝となっているフェイト城を奪われる、と分かっているだろう。
他の城に兵力を回す余裕は、兵糧面からいって、ないはずだ。
遠隔地となってしまったヒトヒラ城だけが怖いが、他の城が落とされることは考えなくても良さそうだった。
フェイト城とオリンシス城の間で繰り広げられる戦。
それに対して全力を傾注するというのが、もはや両軍にとっての既定路線だった。
( ゚д゚)「将の層は、厚くなるな」
( ^ω^)「それに関しては、ラウンジを上回ってると思いますお」
( ゚д゚)「だが、兵力差はやはり大きい」
( ^ω^)「いかにして埋めていくか。
ヴィップだけでなく、ラウンジにとっても課題になってくる問題ですお」
( ゚д゚)「なるほど。将の層の薄さを、ラウンジがどう補ってくるかは、見極めておく必要があるな」
( ^ω^)「ですお。ただ、恐らくは、数を恃みにしてくると思いますお」
( ゚д゚)「お前がそう言うなら、そうなのだろう」
(;^ω^)「おっ、いや……」
( ゚д゚)「他には思い浮かばんしな」
- 90 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:08:18.59 ID:Qic+ulwE0
- ( ^ω^)「ですお。将の質は、一朝一夕で補えるものではないですお」
( ゚д゚)「こっちは確か、ニダーもロマネスクも呼び寄せるのだな?」
( ^ω^)「来ていただきますお。一応、ラウンジ城に近いギフト城には、ダイオードに残ってもらいますお」
( ゚д゚)「……モララーとビロードに関しては、残念だったな」
( ´ω`)「……それは……」
致し方ない、とすぐに割り切ることはできなかった。
元より、寡兵で大軍に真っ向から立ち向かう、危険極まりない戦だったと分かっていても。
ギフト城防衛戦で、まずビロードがシャイツーに討ち取られた。
入軍当初から、歳の近い先輩として、ずっと親しくしてもらっていた人だ。
心優しい性格であり、モララーのために犠牲になったと聞いた。
戦場という魔物の眼前でも、最後まで、あの人はあの人らしく在ったのだ。
そのビロードが守りぬいたモララーは、生き延びた。
右腕を失い、酷く衰弱したが、命だけは助かったのだ。
ただ、もう二度と戦場には立てないだろう。
モララーならば、その頭脳だけでも頼りになるが、オリンシス城には呼んでいない。
充分な休養を取らなければ危険な状態だからだ。
長年戦ってきた人であるため、ゆっくり休んでほしいという気持ちもある。
被害は二人の将だけではなく、兵力も大きく削られた。
およそ一万五千を失った。
ラウンジよりも遥かに多い損失であり、普通なら負けていてもおかしくはない。
- 93 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:10:21.74 ID:Qic+ulwE0
- しかし、だからこそ、ギフト城を守り抜けた。
ラウンジの攻撃を凌ぎ、撤退させることができたのだ。
圧倒的大軍が攻めあぐねていると感じたのだから、ニダーやロマネスクの抵抗はよほど凄まじかったのだろう。
防衛戦だが、逆に攻め返して何人も将校を討ち取ったらしい。
ラウンジの撤退は恐らく、指揮が行き届かなくなったためだ。
兵数が多くとも、将校の質や数によっては活かしきれない。
ヴィップにとっては、好都合だった。
ただ、次の戦では何かしら対策を打ってくるだろう。
( ゚д゚)「モララーとヒッキー、ビロードがいないのは、手痛いが……やるしかない」
( ^ω^)「……ですお」
( ゚д゚)「有終の美などと、気取ったことを言うつもりはないが、悔いを残したくはない」
調練に向かう、と言い残して、ミルナは立ち去った。
ヴィップ兵には疲労が残っている。
それは自分も、重々分かっていることだ。
しかし、調練を怠ればラウンジとの差は一気に詰まってしまう。
また、戦の準備も、寡兵であるヴィップは負担が大きい。
本城に控えていた兵と、手負いの兵を少しずつ入れ替えてはいるが、焼け石に水だ。
万全とは言い難い状態で、戦場に赴くこととなる。
- 95 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:12:45.26 ID:Qic+ulwE0
- できれば連戦は避けたい。
充分に休養させつつ戦っていかなければ、勝機は薄れるだろう。
そして、何よりも。
( ^ω^)(……緒戦の勝利、だお)
今のヴィップ兵の気力は、連勝によって保たれている。
勝利によって得られる士気は、疲労を一時的に吹き飛ばす力があるのだ。
だからこそ、緒戦での勝利は必須だった。
是が非でも、勝ちに行かなければならない。
ただ、それは無論、ショボン=ルージアルなら分かっているだろうことだ。
ラウンジも、緒戦を重要視しているはず、となれば。
小手調べなどは無用。
最初から、全力をぶつけ合うことになる。
調練には余念がなかった。
今はミルナが統括して、全体の管理を行なってくれている。
そのミルナには、さすがはオオカミを一人で束ねていた男、と唸らされた。
数万の管理を、事もなげに行なう。
オオカミでは更なる大軍を統括していたのだ、と考えれば、充分に納得できた。
アニジャやニダー、ロマネスクがまだ到着していない。
ルシファーにはヒトヒラ城を任せているため、オリンシス城に居るのはミルナとオトジャだけなのだ。
- 96 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:14:46.11 ID:Qic+ulwE0
- ジョルジュは、一度オリンシス城に入ったが、今はオオカミ城に留まっている。
一時的にフサギコと入れ替わる形だが、ジョルジュからの要望を受けてそうした。
以前に得た病は、完治しているわけではなく、まだ薬が多少必要な状態らしい。
( ω )「…………」
分かりましたお、としか言わなかった。
聞きたいことは幾つかあったが、あえて全てを抑え込んだ。
アルファベットXを抱えて、城外に出た。
窓から、粛々と行軍している部隊が見えたためだ。
( ^ω^)「フサギコさん、お疲れ様ですお」
ミ,,゚Д゚彡「お出迎えいただき恐縮です、大将」
(;^ω^)「そ、そんなに畏まらなくても……」
ミ,,゚Д゚彡「はは、悪いな。軽い冗談だ」
フサギコの表情は、もう黄昏時だというのに、輝きに満ちて見えた。
要衝とはいえ、後方のオオカミ城に留まっていた間は、刺激的な日々ではなかっただろう。
鬱憤は溜まっているはずだった。
ミ,,゚Д゚彡「でもまぁ、冗談も言いたくなるぜ。もどかしくて仕方がなかった」
( ^ω^)「ブーンたちが勝てたのは、フサギコさんたちが後方の城をしっかり守ってくださったおかげですお」
ミ,,゚Д゚彡「そう言われると多少は報われるが……まぁ、俺はまだマシだな。
体が疼いてるのは多分、サスガ兄弟のほうだろう」
- 100 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:16:48.58 ID:Qic+ulwE0
- ( ^ω^)「だと思いますお。もちろん、存分にお力を発揮していただきたく思ってますお」
(´<_` )「ふむ、それは実に楽しみな話だ」
( ´_ゝ`)「サスガ兄弟ここにあり、と示そうじゃないか」
(;^ω^)「おわっ!」
後ろからのっそりと現れた二人に、驚いてしまった。
アニジャ=サスガ、そしてオトジャ=サスガ。
何故か全く同じ格好での参上だった。
(;^ω^)「申し訳ありませんお、お出迎えできず……」
(´<_` )「いやいや、アニジャは驚かそうと思って急いできたらしい」
( ´_ゝ`)「作戦成功、幸先が良い」
(´<_`;)「気が早いぞアニジャ」
( ´_ゝ`)「サスガ兄弟ここにあり、と示そうじゃあないか」
(´<_`;)「それはさっきと同じセリフだ」
ミ,,;゚Д゚彡「……相変わらずですね、お二人とも……」
( ^ω^)「お変わりないようで嬉しいですお」
自分もそうだが、サスガ兄弟が現れてから、またフサギコは嬉しそうに笑っていた。
ギコがショボンに討たれて以降、フサギコは沈みがちだったが、少しずつ心の傷は癒えているようだ。
- 106 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:18:49.24 ID:Qic+ulwE0
- (´<_` )「そういえば、ジョルジュ中将はどうしたんだ?」
( ^ω^)「オオカミ城に行ってますお。薬が足りてないそうですお」
(´<_` )「そうか……戦場には立てるが、完治には至っていないのだな」
ミ,,゚Д゚彡「問題ないですよ、あのお方なら」
(´<_` )「……そうだな、自分如きが心配していい相手ではない」
ミ,,゚Д゚彡「ショボンが相手ですから、自分のことで精一杯です。
戦から遠ざかっていましたし、今は準備に専念しましょう」
(´<_` )「うむ」
( ^ω^)「やっていただきたいことは、雲を突き抜けるくらいに溜まってるんですお。
よろしくお願いしますお」
そう言って、指示書を渡した瞬間、目を丸くされた。
同時に、苦笑いが漏れていた。
(´<_`;)「以前の大将より優しい、などという認識は改める必要がありそうだ」
ミ,,;゚Д゚彡「えぇ……それは早計でしたね……」
( ^ω^)「相手より早く準備を完了させることが大事ですお。お願いしますお」
仕事の量に驚きはしていたが、不平不満を述べられることはなかった。
むしろ、それを待ち望んでいたようにさえ思えた。
- 108 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:20:53.88 ID:Qic+ulwE0
- 士気は、全軍そうだが、以前から変わらずに高い。
しかし、果たしてそれもいつまで続くか。
全てを読み切ることはできないまま、戦に臨むことになる。
それは当然のことだが、今回に限っては、簡単に割り切ることはできなかった。
( ´_ゝ`)「おいオトジャ、さっきのは全く一緒のセリフじゃないぞ。
一回目は『示そうじゃないか』で、二回目は『示そうじゃあないか』だ」
(´<_`;)「遅いうえにどうでもいい!」
- 113 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:23:50.27 ID:Qic+ulwE0
- ――フェイト城――
呼吸が、腹から漏れているかのような。
そんな錯覚にも襲われた。
有能な医者は伴っている。
城に戻った瞬間、迅速な手当てを受けた。
それでも、怪我の完治までには時間を要すると言われた。
自分自身、医者の言葉に納得できるほどの傷だった。
ミルナの狙いは完璧であり、無防備な状態なら間違いなく討たれていたはずだ。
咄嗟にアルファベットZを犠牲にしたのは、好判断だったということだろう。
だが、どうやら。
そうやって冷静に片付けられるほど、自分は穏やかな性格ではないらしい。
ヴィップの大将だった頃から、ミルナとは幾度となく死闘を繰り広げてきた。
実力は認めている。全土屈指の名将だ。
あいつに手負わされたのならば、致し方ないと自分に言葉を掛けることも、できなくはない。
しかし、怒りは収まらなかった。
(´・ω・`)「…………」
縫合された傷口は塞がっている。
だが、傷跡に触れるたびに黒い憎悪が燃え上がるのだ。
これまでの生涯で、一度もなかったもののような。
- 117 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:27:26.64 ID:Qic+ulwE0
- ( ̄⊥ ̄)「大将」
扉が二度叩かれたあと、入室してきたのはファルロだった。
相変わらず、何を考えているのか分からないような朴訥とした様子だ。
(´・ω・`)「どうした?」
( ̄⊥ ̄)「オリンシス城に、ヴィップの将が集まっています」
(´・ω・`)「それは知っている」
( ̄⊥ ̄)「詳報として、ニダー=ラングラーとロマネスク=リティットの入城を」
(´・ω・`)「そうか、分かった」
( ̄⊥ ̄)「ラウンジとしては、初夏の開戦を目標に。それでよろしいですか?」
(´・ω・`)「ニダーとロマネスクが入ることも、予測できていたことだ。
今さら変える必要はないだろう」
( ̄⊥ ̄)「そうですね……申し訳ありません」
(´・ω・`)「いや、いい。構わん……が」
(´・ω・`)「もし自分の意見を押し殺しているようなら、俺はお前を叱ろう」
( ̄⊥ ̄)「……それは」
(´・ω・`)「恐らく、シャッフル城やギフト城への方向転換。
つまり、既定路線とは違う道を進みたい、と考えているように見えるが」
- 121 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:30:12.83 ID:Qic+ulwE0
- ( ̄⊥ ̄)「……否定できません」
ファルロは顔を俯かせた。
だが、その表情に曇りはなかった。
(´・ω・`)「ファルロ、お前ほどの男なら、ラウンジの兵糧の苦しさは知っているだろう」
( ̄⊥ ̄)「無論です。しかし、敵城を奪えば楽になります」
(´・ω・`)「それは当然のことだ。だからこそ、先の戦では各地に別れて戦った。
しかし、結果として一つも勝てなかった」
( ̄⊥ ̄)「……自分の不甲斐なさを恥じるばかりです」
(´・ω・`)「やはり戦力を分散させると苦しい。それを実感させられたな」
( ̄⊥ ̄)「では……フェイト城に集まった軍で、シャッフル城を狙う道は?」
(´・ω・`)「後背を突かれる。後ろへの備えを残す手もあるが、戦力を分散すれば先の二の舞だ」
( ̄⊥ ̄)「ですが、僅かでも持ち堪えれば、圧倒的大軍でシャッフル城を強引に落とせるはずです」
(´・ω・`)「確証がないな。やってみてもいいが、俺は正面からぶつかったほうが有利と見ている」
( ̄⊥ ̄)「野戦……ですか」
(´・ω・`)「城攻めは恐らく、兵の間に不安もあるだろう」
その言葉は、口にするのを一瞬ためらった。
指揮官は他の誰でもない、自分自身なのだ。
- 122 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:32:41.65 ID:Qic+ulwE0
- ( ̄⊥ ̄)「分かりました、全力で正面からぶつかりましょう」
(´・ω・`)「あぁ。他には何も要らない」
( ̄⊥ ̄)「では、失礼致します」
頭を下げて退出するファルロの背中に、嘆息を投げかけた。
椅子に座って話すだけでも、微かな疲労感に襲われる。
決して無能な将ではない。
しかし、頼りがいもない。
それが今のファルロに対して抱く感想だった。
ミーナ城攻略戦で、ミルナのWから放たれたFが、自分の腹を貫いた。
その後、自分はせいぜい言葉で指示を出すことくらいしかできず、実際の働きはファルロに任せざるを得なかったのだ。
城に対して投石器を使うところまでは、まだ良かった。
最善な形ではないものの、実質的な勝利を収める直前にまで達していた。
問題は、ブーンが騎馬隊を率いて救援に来た後だ。
野戦を行える体勢になっていない、騎馬隊が少ない。
様々な理由は、確かにあった。
だが、それにしても圧倒的な大軍が、成す術なくやられていくのは、あまりにも無様だった。
無論、ブーンの指揮が優れていたという面はある。
まさしく圧巻。戦勝は諦めざるをえない、と瞬時に判断できるほどの動きだった。
ファルロでは相手にならないだろう。
- 124 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:34:44.56 ID:Qic+ulwE0
- もはや、止められるのは自分だけ。
そこまでの男になった、ということだ。
しかし、体調は万全ではない。
アルファベットには触れており、ランクダウンもなかったものの、鈍っている感覚はある。
次、ブーンと戦ったときに、勝てるかどうか分からない。
(´・ω・`)(……致し方ないことか)
できれば優勢を確立した状態で臨みたいが、詮無いことだ。
常に万全の状態で戦えるはずはない。
それに、もし拮抗した状態で、ブーンと戦えるとすれば。
(´・ω・`)(……それはそれで、悪くはない)
アルファベットZを手に取った。
熱はない。ランクダウンも、老朽化もしていないようだ。
ミルナに破壊されたことで一本失ってしまったが、当面は問題ないだろう。
西の戦では、プギャーとギルバードが討たれた。
ギルバードはもちろんのこと、プギャーでさえ今は痛手となる。
ヒッキーを消せたのは嬉しいことだが、やはり二人は多い。
北東ではシャイツーも死んだ。
モララーとほぼ相討ちに近い、と考えれば悪い結果ではない。
が、やはりVの使い手が居なくなるのは手痛い損失だ。
- 127 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:37:14.80 ID:Qic+ulwE0
- クーが生きていてくれたのが、せめてもの救いか。
次の戦、二十万以上の軍を指揮するには、あまりに指揮官が少なすぎる。
クーやオワタ、アクセリトらが集まって、ようやく最低限だ。
苦しい戦いになるだろう。
だが、ヴィップとて連戦の疲れはあるはずだ。
どちらが勝つのかは、自分にさえ読めない。
そのうえで、勝利を得るために、何が必要か。
考えずとも答えは得られる。
(´・ω・`)(緒戦で……勝つことだ)
恐らく、ブーンも同じことを考えているだろう。
だとすれば、緒戦に大軍は使ってこない。
互いの、選び抜かれた精鋭による戦いになる。
そこで一度、決めてしまおう。
今の自分と今のブーン、果たしてどちらが強いのか、を。
ブーンは必ず、戦いに乗ってくる。
ただ、戦はそこで終わらないはずだ。
何度も何度も戦うことになるだろう。
すると今度は、どこで決着がつくのか、といった点を考えておく必要がある。
どちらかの大将が、戦死する事態になるだろうか。
充分ありえることだ。特に、最近のヴィップの動向を見ている限りでは。
ここで自分を討ち取ることに全てを賭けている、とさえ思える。
- 131 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:40:00.12 ID:Qic+ulwE0
- それを利用してブーンを討つ手もある。
一騎打ちになれば、分は間違いなく自分のほうにあるのだ。
ただ、ヴィップの狙いが一騎打ち以外にあった場合のことも考慮しなければならない。
ひとつひとつを熟慮して、戦の展開を頭の中で進めていく。
そうすると、二つの数字が浮かび上がってくるのだ。
(´・ω・`)(二と三、か……)
二つの数字が、いずれ重要になってくる。
予感めいたものが、あった。
果たしてブーンは、それに気付いているだろうか。
気づいている場合のことと、気づいていない場合のことを、また考えておく必要がありそうだった。
――オリンシス城近辺――
( ゚∀゚)「そのまま、先に城へ向かってくれ」
太陽が出ている時間帯なら、もうオリンシス城の片影が見えているだろう。
一刻かニ刻程度で、城には到着するはずだった。
行軍中、その時機で部下を先行させたことに、理由はなかった。
ただ、ふと空を見上げると、月がやけに美しく見えただけだ。
どこかで腰を降ろして眺めてみようか、と思っただけだ。
- 133 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:42:11.18 ID:Qic+ulwE0
- [;$ω$]「どこかへ行かれるおつもりですか?」
一時的に部隊長を務めている、カネニ=メガクランダーの焦り声が自分を引き止めた。
( ゚∀゚)「ちょっとだけな」
[;$ω$]「おひとりでは……」
( ゚∀゚)「心配されるようになっちゃ、ジョルジュ=ラダビノードもお終いかもな」
はっとしたようにカネニは頭を下げて、すぐさま城へと向かった。
自分は馬首の向きを変えて、南へと駆けだす。
ただ、オオカミ城に戻るわけではなかった。
月影を引き連れたままニ里ほど走った。
近頃は、風が強い夜でも、歯が震えて音を立てることはない。
むしろ今日は、体を冷やしてくれるとさえ感じる。
ただ、やはり木の葉がざわめくような夜は、好きではなかった。
キョーアニ川の支流の畔で、水面上の揺蕩う月を見つめた。
風が吹いて形が乱れると、今度は夜空を見上げる。
こちらは変わらずに丸いままだった。
長大なキョーアニ川は、夜でなくとも対岸の人が見えないほどの広さを誇る。
しかし、地図にも載らないような支流は、ごくありふれた広さの川だった。
水が澄んでいて、夜でも浅い底を確認できる。
- 136 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:44:33.58 ID:Qic+ulwE0
- 履物を脱いで、足を水に入れた。
長駆で汗ばんだ体が冷やされる。
水を手で掬って顔に掛ければ、先ほどまでよりも更に月が美しく見えた気がした。
畔に腰かけ、両手を支えにして空を眺め続ける。
雲はないが、月が明るいため、星の光は陰っていた。
あまりに眩い月の側では、一等星さえも霞んでしまうのだ。
( ゚∀゚)「…………」
水を蹴り上げた。
浮かびあがった水滴のひとつひとつに、また、月が宿る。
それはやがて静かに、川へと帰っていった。
いつしか空の月には目が向かなくなり、しばらく川面を見つめていた。
揺らめきが絶えることはない。しかし、それも悪くない、と思えた。
丸いだけで変化がないよりも、面白いかも知れない、と。
( ゚∀゚)「……ん?」
川で眠る満月を揺らすのは、水の流れ。
それと、髪を攫うような夜風。
だが、巨大な漂流物ならば、月を丸ごと飲み込んでしまう。
(;゚∀゚)「……おいおい」
ただの石や丸太なら、気にも留めなかった。
水から足を上げて回避するだけだった。
- 140 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:47:38.20 ID:Qic+ulwE0
- だがむしろ、腰を上げて川に入らなければならない状況だ。
流れて来ているのは、他ならぬヴィップ軍の大将だからだ。
(;゚∀゚)「おいブーン! お前なにやってんだ!?」
(;^ω^)「お?」
救援を求めている様子ではなかった。
水の流れは緩やかであり、川底にも足はつく。
だから危険はないと分かっていたが、それでも焦らされた。
(;^ω^)「ジョルジュさん、こんなところでどうしたんですお?」
(;゚∀゚)「お前が俺に聞くのか?」
(;^ω^)「ブーンはちょっと、川流れを……」
(;゚∀゚)「ハンナバル総大将と一緒のことすんなよ、びっくりするだろ」
(;^ω^)「おっ、すみませんお。なんか水に流されてると落ち着いて、考えがまとまるんですお」
(;゚∀゚)「理由まで一緒かよ……」
二人で川から上がり、また畔に腰かけた。
葉風の吹く音や、水流が足を掠めていく音。
どれも戦場の喧噪とは程遠く、実に穏やかな空間だった。
- 145 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:50:50.40 ID:Qic+ulwE0
- ( ^ω^)「それで……ジョルジュさんは、何をなさってたんですお?」
( ゚∀゚)「ん? 俺はただの月見だ」
( ^ω^)「……なるほどですお」
深く、追究はしてこないらしい。
ただ、釈然としないものは感じているだろう。
それはブーンに限った話でもない。
しかし、この大将に比べれば、自分の考え事などあまりに瑣末だ。
何かしらブーンが秘め事を抱えているとしても、自分こそ深く追究するべきではない。
もはや、妨げにしかならないだろう。
( ^ω^)「……ヒッキーさんのことは」
( ゚∀゚)「ッ……?」
( ^ω^)「もう……あまり、思い出さないほうがいいと思いますお」
( ゚∀゚)「……なんだ、お見通しなのか」
ブーンは濡れた髪を梳いていた。
垂れ下った前髪は、その瞳を覆い隠している。
( ^ω^)「ヒッキーさんは、きっとそれを望んでいないと思いますお」
( ゚∀゚)「それくらい、分かってるさ」
- 148 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:52:52.10 ID:Qic+ulwE0
- そうだ、分かりきっている。
ヒッキーの性格は、最も長く側にいた自分が一番、分かっているはずだ。
だから、あいつのことを引きずるつもりはなかった。
つもりは、なかったのに。
( ゚∀゚)「……俺は、あいつに言ったんだ」
( ^ω^)「……?」
( ゚∀゚)「平和を得たヴィップが繁栄する様を、見ていてほしいと。
ずっと、ずっと……その命が続く限り」
今の自分は、薬の力で生き存えている。
恐らく、戦えるのは次の戦までだろう。
だからこそ、ヒッキーは死ぬべきではなかった。
自分のほうが、あの場で討ち取られるべきだったのだ。
なのに、ヒッキーは、討たれてしまった。
自分のような男を助けるために。
( ゚∀゚)「俺が西塔の大将だったとき……ずっと、ショボンを疑っていたとき。
本当は、ヒッキーを信じるべきだったんだと後で気づかされた。
恐らくヒッキーも、それを望んでたんだ」
( ゚∀゚)「そんなヒッキーに対する願いは、もしかしたら身勝手だったのかも知れねぇ。
でも、守ってくれると思ってたんだ。
あいつが、俺の命令に背いたことなんてなかったから」
- 153 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:54:59.19 ID:Qic+ulwE0
- ( ゚∀゚)「だが、最後の最後で……少し、裏切られた気持ちになっちまった。
この思いさえ充分、身勝手なんだけどな……。
だけどやっぱり、なんで守ってくれなかったのか、分かんねぇんだ」
ずっと、それを考えていた。
何故なのか、と。
ヒッキーにとって自分は上官であり、身を守るべき対象だったのだろう。
だが、それよりも前に下した命令を反故にされるとは思っていなかった。
ヒッキーは有能な軍人だと、そう思っていたからこそだ。
( ^ω^)「……ヒッキーさんは、限りなく軍人でしたお」
( ゚∀゚)「……?」
( ^ω^)「もしかしたら、最後の戦まで……ずっと、そうだったのかも知れませんお」
( ^ω^)「でも、最後の最後だけは、きっと武人だったんですお」
( ゚∀゚)「ッ……!!」
いつしか嫋々とした風が吹くようになっている。
川面の月も、形を乱すことは、あまりなくなっていた。
( ^ω^)「軍人である自分を、かなぐり捨ててでも……守りたかったんですお。大切な人を」
( ∀ )「…………」
- 156 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 10:58:24.02 ID:Qic+ulwE0
- ( ^ω^)「ヒッキーさんらしくない、とは思いますお。でも、ブーンはきっと、ヒッキーさんなら」
( ∀ )「いや……もう、いい」
顔を伏せて、左手を突き出した。
ブーンの言葉を封じるために。
( ∀ )「やっと、分かった……全部……だから、もういい」
( ^ω^)「……了解ですお。出すぎた真似でしたお」
左手を、軽く横に振った。
おかげで助かった、と声に出そうとしたが、上手く言葉にならない。
きっと、鼻声になってしまうだろうからだ。
しばらくすると、風は完全に凪いでいた。
( ゚∀゚)「……次の戦、俺は今までの全てを賭ける」
空を見上げ続けていたブーンの視線が、自分に向いた。
柔和な笑みの奥に、確固たる意志が見える。
( ゚∀゚)「何もかもを費やそう。そして、勝とう。
俺を導いてくれ、大将。お前が信頼してくれるなら、俺は必ず戦を勝利に導く」
( ^ω^)「……はいですお」
- 158 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 11:00:38.98 ID:Qic+ulwE0
- 次の戦が、全ての帰結ではない。
だが、自分にとっては終結なのだ。
そこに、迷いも苦しみはない。
( ^ω^)「ジョルジュさん、ブーンが次の戦で」
( ゚∀゚)「?」
( ^ω^)「大事になると思っていることが、ありますお」
長く戦から離れていたブランクは、埋めがたい。
ただ、それだけが要因とは思えないほど、近頃のブーンを鋭敏に感じていた。
( ^ω^)「――――数字の、二と三、ですお」
( ゚∀゚)「…………」
( ^ω^)「そのことに、ショボンが気付いているのか……気付いているとしたら、どう動いてくるのか……。
考えなきゃいけないことは、まだまだたくさんありそうですお」
ブーンが、戦の展開をどこまで見据えているのか。
それさえ、自分には分からない。
しかし、構わないのだ、それで。
自分はただ、戦うだけでいい。
自ずと、結果はついてくるはずだ。
<ヽ`∀´>「ブーン大将、ジョルジュ中将、ここに居ましたニカ」
- 161 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 11:03:14.42 ID:Qic+ulwE0
- ( ^ω^)「ニダーさん」
( ゚∀゚)「ニダーか、どうかしたのか?」
現れたニダーのTが、ちょうど月と重なって見えた。
鎚の先に、鉄球が付属しているかのようだった。
<ヽ`∀´>「もう夜も遅いですニダ。話なら城でお願いしますニダ」
( ^ω^)「ご心配おかけしてすみませんお」
( ゚∀゚)「わざわざ探しに来てくれたのか。すまんな」
<ヽ`∀´>「ニダー。大層なことじゃないですニダ」
( ゚∀゚)「しかし、随分と久しぶりな気がするな。実際、一年ぶりくらいか?」
<ヽ`∀´>「ですニダ。お会いしたかったですニダ」
( ゚∀゚)「北東の戦は、頑張ってくれたらしいな。
最後の戦の前に顔を合わせることができて、何よりだ」
<ヽ`∀´>「ニダニダ。みんなが最後まで生き延びれたら最高ですニダ」
そのニダーの言葉に、頷くことは、やはりできない。
微妙な笑みを返すより他なかった。
- 165 :第112話 ◆azwd/t2EpE :2009/05/04(月) 11:06:16.44 ID:Qic+ulwE0
- ( ^ω^)「さぁ、戻りましょうお。戦が始まりますお」
( ゚∀゚)「あぁ」
戦が、始まる。
最後の戦が。
その緒戦は、ブーンとショボンの直接対決で、幕を開くのだ。
第112話 終わり
〜to be continued
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