4 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 13:56:33.79 ID:CXy5YRsK0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
10 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 13:58:40.05 ID:CXy5YRsK0
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
15 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:01:25.66 ID:CXy5YRsK0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城・南東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
22 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:03:41.58 ID:CXy5YRsK0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
27 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:05:43.11 ID:CXy5YRsK0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:フサギコ
S:ファルロ
T:ニダー
U:ジョルジュ/モララー
V:シャイツー
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
32 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:07:57.02 ID:CXy5YRsK0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

42 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:10:30.35 ID:CXy5YRsK0
【第111話 : Mirror】


――ミーナ城付近――

 何十年も、戦に生きてきた。
 数多なる命を奪い、骸を蹂躙し、高みだけを目指してきた。

 挫折はあった。
 オオカミという国を、失った。

 それでも自分が、武人として生きてきたことに変わりはない。

 今までに得た全てを賭けた。
 費やした。

 かけがえのない部下の命までも。

 腕は震えた。
 足も震えた。

 しかし、アルファベットWからFを放つことはできた。
 やってのけたのだ。

 ショボンのアルファベットZは、粉々に砕け散った。
 咄嗟の防御で、まともに受けられなかったためだろう。
 刃の腹にFが衝突したことも確認できた。

 そして、Fはショボンの腹部を貫いたのだ。
69 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:24:47.43 ID:CXy5YRsK0
(;゚д゚)「……くそっ!!」

 すぐさまショボンの周りに、近衛騎兵隊が群がる。
 もはやアルファベットWは通らない。

 胸を貫いたはずだった。
 アルファベットZさえなければ。

 途中、軌道を遮られたことにより、Fは大きな方向転換を強いられた。
 勢いも弱まっただろう。Fは腹部の端を貫いたに過ぎない。

 だが、決して浅手ではない。

 ラウンジ軍は、すぐに鉦を打っていた。
 徐々に全軍が後退していく。

 撤退するほどの傷か。
 だとすれば、自分が思った以上の深手だ。

 しかし、すまない。
 フィッティル、オールシン。
 討ち取ってやることは、できなかった。

 二人が命を賭して作ってくれた機。
 前回、城外に躍り出た際、人の波で隠しながらWを埋めた。
 場所が分かるように石も置いた。

 ミーナ城防衛戦の全てが、あの一撃に集約されていたのだ。
 しかし、討ち取ることはできなかった。
73 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:28:40.02 ID:CXy5YRsK0
 ショボンの傷が深いようであれば、まだ分からない。
 あの位置ならば腎臓か。内臓を損傷しているようなら、命に関わってくる可能性もあるだろう。

( ゚д゚)「全員下がれ! 城を守るぞ!」

 ラウンジは、まだ完全には撤退していない。
 恐らく、ショボンの傷の程度が分からないため、いったん引き下がったのだろう。
 すぐに反撃してくる可能性もあった。

 だが、思わず呻き声を漏らしてしまいそうだった。
 戻ってきた兵の数が、想像以上に少ない。

 二千から三千は、討ち取られただろうか。
 激戦となることは最初から分かっていた。ある程度、被害が出るだろうことも。
 だが、実際に目の当たりにすると、瞼を閉じてしまいたくなった。

 そして、当然のことながら、フィッティルとオールシンは戻ってこない。

( д )「…………」

 ――――城を、守らなければ。
 ショボンがまだ死んでいないのであれば、戦い続けなければならない。

 ミーナ城の北以外の方面も、慌ただしくなってきた。
 突然、攻撃停止を告げる鉦が鳴ったためだろう。
 ショボンに何かあったのか、と思うのは当然だ。

 もしショボンが命令を下せない状況であれば、撤退は必至。
 この戦、勝利と見ていいだろう。
79 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:31:42.81 ID:CXy5YRsK0
 引き下がってくれ。
 そう願うしかなかった。

( ゚д゚)「負傷した兵は城内へ! 残りの者もすぐ城へ入れるようにしていろ!」

 ラウンジの動向に気を配りながら、次々に下知を下した。
 再び野戦となれば、恐らく今度こそ潰される。
 だが、城に篭るほどの余力は、ほとんど残されていない。

 およそ半里の距離を取った。
 緊迫感は、まだ弛緩しない。
 その気になれば、ラウンジはいつでも攻め込んでこられるだろう。

 どうする、戦の継続か。
 それとも撤退か。

 固唾を飲んで見守っていた。

 そして、次第にラウンジ軍の後方が、動き始めた。
 後方。つまりは、撤退か。
 一瞬、勝利の雄叫びをあげそうになった。

 絶望の序章だとも知らずに。

( ゚д゚)(……なんだ……?)

 頭を擡げている。
 暗い光を放ちながら。

(;゚д゚)(なんだ……あれは……)
83 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:34:50.75 ID:CXy5YRsK0
 聳え立つ、巨像。
 天を穿つように。

 いや、標準的よりいくらか、といった程度だ。
 それほど大きいわけではない。
 だが、何故かそう見えたのだ。

 投石機。
 次々に、組み上がっていく。

 大型で、飛距離が伸びるだろうことはここからでも分かる。

(;゚д゚)(……何のつもりだ、ラウンジ)

 今更、投石機など持ち出して、どうするつもりなのだ。
 ショボンが浅くない傷を負った。劣勢感を味わっているだろう。
 撤退か、そうでなくとも意地で野戦ではないのか。

 城を攻めるつもりか。
 しかし、定石ならここは城門を破る破城鎚だろう。
 間違っても投石機ではない。

 石を投げ込んで、どうする。
 分からないが、狙いどおりにさせるわけにはいかない。

( ゚д゚)「全員、城に入れ!! 投石機を破壊するぞ!!」

 急いで城門を潜り、城壁まで昇った。
 アルファベットWを構え、投石機を見据える。
85 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:38:03.20 ID:CXy5YRsK0
 投石機の最大の弱点は、その脆さだ。
 組み上がった状態のまま運搬するのは手間がかかりすぎるため、戦場にて組み上げる方式が一般的だ。
 そのため、使用される素材は全て、木材になる。

 物にもよるが、木材であれば大抵、アルファベットDで壊してしまえる。
 投石機の射程距離がDより長いことなど、まずないのだ。
 よほど特殊な条件でない限りは、守備側のアルファベットが優る。

 ――――そしてその、特殊な条件が揃っていることに気づくまで、時間は必要なかった。

(;゚д゚)「あれはっ……!!」

 投石機が、光輝いて見えた。
 陽が沈みだしたゆえ、朱色の照り返しが眩しかったのだ。

 だから、一瞬分からなかった。
 投石機の、城に面した部分が、鉄に覆われていると。

 そうか、その手があったのか。
 鉄をそのまま持ち運び、組み立てるのは至難の業だが、木材の一部だけを強化してくるとは。
 領土が広いぶん、鉄鉱山を多く抱えるラウンジならではの作戦とも言える。

 Dで投石機を破壊するのは厳しくなった。
 しかし――――

(;゚д゚)「このまま投げ込んでくるつもりか……!?」

 確実に城内へ放り込むには、まだ距離がある。
 四半里ほどは離れているだろう。
90 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:42:40.21 ID:CXy5YRsK0
 これでは、上手くいっても城壁に当たる程度で――――

(;゚д゚)「ッ!!」

 嫌な予感がした。
 その予感が、当たってしまうような気も。

 ラウンジ軍から、一斉に投石が行われた。
 その多くは、城内まで届くことはない。

 だが、城壁は確実に損傷していく。

 何のつもりだ、これではミーナ城が使いものにならなくなる。
 ラウンジも必死で奪おうとしていた城だというのに、機能を失ってしまうことになる。

 不可解だ、と思った。
 しかし、理由が分かってしまった。

 ラウンジは、ミーナ城を潰すつもりなのだ。
 潰して、ヴィップの居場所を消すつもりなのだ。

 ミーナ城が使いものにならなくなれば、オリンシス城へ逃げるしかない。
 そして、オリンシス城に向かって十万の軍が移動するようなことがあれば、敗北は必至だ。
 途中で全滅してしまう可能性も高い。

(;゚д゚)「くっ!!」

 とにかく、反撃しなければ。
 手を拱いていては、本当にミーナ城を潰されてしまう。
95 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:45:53.59 ID:CXy5YRsK0
 投石機を潰すべく、アルファベットWを射込んだ。
 しかし、飛来している石に当たってしまい、投石機には届かない。

 多くのDによるFも同じだった。
 無数の石にFが防がれてしまい、投石機まで達せない。
 達せたとしても、鉄に防がれてしまう。

 Wならば投石機を破壊できるかも知れないのだ。
 分かっているが、物量に任せたラウンジの攻撃は、自分ひとりでは防ぎきれない。
 おまけに、ラウンジは自分を警戒していた。飛んでくる石の数が半端ではない。

 城壁は確実に脆くなりはじめている。
 そう簡単に破れるほど軟いものではないが、もはや時間の問題。
 アルファベットにはない石の質量。思った以上に損傷が激しい。

 そして、ラウンジの次の一手。

 撒いた土嚢を回避すべく、攻城兵器を担ぎながら移動してくる。
 あれは、破城鎚か。

 しまった、全兵を引き揚げさせたことが、完全に裏目に出た。
 しかし、今から兵を外に出すことはできない。
 城門を開けるわけにはいかず、龍が使える状況でもなかった。

 WとDで破城鎚を狙いたいが、飛来する石を放っておけない。
 その石に遮られることも、多々ある。

 自軍が投げ込んでいる投石機のせいで、破城鎚を運んでいるラウンジ兵にも被害は出ていた。
 だが、それに構うことなく進軍してくるのだ。
 ショボンが負傷したことで、ラウンジは躍起になっていた。
100 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:50:07.02 ID:CXy5YRsK0
 もはや城の確保など、ラウンジは狙ってはいない。
 ただ、このミルナ=クォッチの首だけを欲しているのだ。
 後先さえ考えずに。

 そのために、犠牲さえ厭わないでいる。
 完全に数を恃みにした戦法。

 今までの慎重さは完全に捨てられていた。
 荒ぶる獣のような戦だった。

(;゚д゚)(……そうか、ショボンは……)

 この作戦を、ファルロが取ってくるとは思えなかった。
 やはり、ショボン=ルージアルが命じているのだろう。

 とりあえず、ショボンは死んではいない。
 最後の力を振り絞って、という可能性もあるが、分からない。
 確実なのは、命令を下せるだけの力はある、ということだ。

 今までこの作戦を実行してこなかったのは、やはりミーナ城を失いたくはないからだろう。
 東の要衝、オリンシス城を攻めるにあたって、絶対に必要な城だからだ。

 だがもはや、オリンシス城などどうでもいい。
 今ここでミルナの首さえ取れれば、それでいい。

 ショボンがそう言っているような気がした。

 こうなるとショボンは怖いのだ。
 頭の良さが、かえってショボンの強さを阻害するようなところもあったが、それがなくなった。
 ただ強圧的に攻め込むことだけを考えるようになってしまったのだ。
105 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:53:08.57 ID:CXy5YRsK0
(;゚д゚)「ッ……」

 手当たり次第、Fは射ていた。
 特に、破城鎚を担いでいる兵を狙って。

 何度かは破城槌を破壊することにも、成功している。
 だが、やはり数が多すぎる。

 いずれは、城まで到達されてしまう。

 星の煌めきが見て取れるようになってきた。
 ラウンジの動きを、把握しづらくなってきた、ということだ。
 戦況は、更に不利な方向へと傾いていく。

 何か、何か対策はないか。
 出てこないか。

 ドクオの策を借りて、ショボンを狙った。
 結果、首を取るまでには至らなかった。

 その時点で、敗北と言えば敗北だ。
 だが、まだミーナ城は失っていない。
 自分の首も繋がったままだ。

 この状況下なら、必ずドクオは次の一手を繰り出してきただろう。
 自分は、その策に喫驚することしかできなかっただろう。

 西の方面の戦が、終わっている可能性がある。
 いずれは救援がやってくる可能性が、ある。
110 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:56:12.83 ID:CXy5YRsK0
 それまで持ち堪えるために。

 ドクオ、お前ならばこの状況、どんな手で――――



――ギフト城付近――

 シャイツーのVが、一瞬にして眼前に迫る。
 一拍遅れて、ヴィルのLが振り下ろされる。

 同時に受け止めた。

(;・∀・)「ぐっ……」

 体にキレが戻っていない。
 戦う前から、それは分かっている。

 だが、万全だったとしても、果たしてどうか。
 自分より上位の相手と、下位だがJの壁を越えている相手。
 百八十度回って見ても不利な戦いであることは明白だった。

 だが、それでも先ほどに比べれば、希望が見えているのだ。
 今は、ビロード=フィラデルフィアが共に戦ってくれている。

 ビロードはオワタとの一騎打ち。
 お互い、防御に優れたアルファベットであるOだ。
 一騎打ちは、恐らく長引くだろう。
113 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 14:59:29.19 ID:CXy5YRsK0
 アルファベットPの相手も討ち取ったことがあると聞いたが、オワタが相手では決して優位には立てない。
 ならば、やはり自分が早くシャイツーとヴィルを片付けて、ビロードを加勢すべきだった。

 だが、果たして叶うか。

(・∀ ・)「なんだおまえー」

 間の抜けた顔、やる気のない構え。
 しかし、信じがたいような速度で振り下ろされるV。

 これほどの怪物を、ラウンジは秘匿しつづけていたのか。
 実に大したことだ。
 常に最大国でありつづけてきたラウンジにしかできない試みだろう。

(・∀ ・)「あは、は、は。お前、有名なやつだろー」

(;・∀・)「ッ……?」

 振り下ろされたVは、まともに受け止めず弾いた。
 すかさず懐を狙ってきたヴィルの一撃も、際どいところで叩く。

(・∀ ・)「有名だから、俺がころすぞー」

 言葉の真意が掴めない。
 気にしている余裕も、ない。

 刃が光ったと思えば、次の瞬間にはその光が自分を貫こうとしている。
 間一髪のところで弾くも、一息つく暇さえなく次の一撃が襲いかかってくるのだ。

 そこに、Lの追撃まである。
118 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:02:27.81 ID:CXy5YRsK0
川 ゚ -゚)「…………」

 顔の大部分を布で覆った将。
 アルファベットはLだが、一撃は鋭い。
 シャイツーとの連携にも慣れているようだ。

(;・∀・)「くそっ!!」

 防ぎ続けることしかできない。
 そして、それもいつまで続けられるか分からない。
 いつアルファベットが首を横切ってもおかしくない状況なのだ。

 自分では、勝てない。
 この二人相手に、勝利を収めることはできない。

 一瞬たりともビロードの姿を見ることは叶わないが、願った。
 ビロードがオワタを討ち取ってくれることを。

 あるいは、ニダーかロマネスクだ。
 いま主要な将校は、一時的ではあるが自分とビロードが引きつけている。
 ニダーとロマネスクには多少の余裕が生まれているはずだ。

 相手は十万の大軍。
 それを思えば、二人がすぐさま自分たちを助けてくれるなど、期待すべきではないのかも知れない。
 だが、今は他に道もない。

 敵の策にかかったのは自分だ。
 本来、自分が打破せねばならない窮境なのだ。

 しかし、今は生きつづけるだけでやっとだった。
122 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:05:50.27 ID:CXy5YRsK0
(・∀ ・)「しぶとい、ぞー」

 シャイツーのVが、飛び立つ鳥のように、突き上げられた。
 仰け反って回避し、隙を狙ってきたヴィルのLを弾く。

 もはや、シャイツーが何者であるかなど、どうでもいい。
 こいつをここで討つ。討ち果たす。
 ヴィップ軍の中将として。

 ラウンジを、討ち滅ぼすために。

川 ゚ -゚)「……わって……を……」

( ・∀・)「ッ……!」

 ヴィルが、何か言葉を口にした。
 シャイツーに、囁いた。

 聞き取れなかったが、一瞬だけ、二人に隙ができた。
 自然と、自分の体は賭けに臨んでいた。

(#・∀・)「はぁっ!!」

 二人のアルファベットを同時に防ぎ、怯ませた。
 すぐさま反撃に移る。

 狙いは、ヴィル=クール。
128 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:08:56.72 ID:CXy5YRsK0
 胴体を両断すべく繰り出した一撃。
 ほんの僅かな隙を、突くことができた。

 そう思った。

(;・∀・)「ッ!?」

 ヴィルに、攻撃を弾かれた。
 容易に、ではない。確かにヴィルは、初めて涼しい顔を一瞬、崩した。

 だが、防がれたのだ。
 防がれるはずのない一撃が。

 しかし、そんなことよりも。
 もっと、もっと、おかしなことがある。

 何故、自分はまだ生きているのだ。

 ヴィルへの攻撃は、乾坤一擲だった。
 失敗すれば、間違いなくシャイツーに首を刎ねられていたはずなのだ。

 だが、シャイツーからアルファベットVが繰り出されることはない。

 それは、自分が戦いを傍観しているだけの存在であれば、当然に理解できることだった。
 しかし、今はまったく分からない。
132 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:12:07.03 ID:CXy5YRsK0
 いや、一瞬だが、分かりたくなかったのだ。
 だから、呆然としてしまっていたのだ。

 隙を突いたのは、自分だけではなかった。

(;・∀・)「ッ!! ビロードッ!!」

 自分がヴィルに襲いかかった、その瞬間。
 シャイツーは、姿を消した。

 オワタと、入れ替わっていた。

 やめろ、と叫びかけた。
 その自分には、ヴィルとオワタが襲いかかってくる。

 そして、シャイツーのVは、確かにビロードへと向いているのだ。

 一撃、そして二撃。
 繰り出されていく。

 身を挺してでも、守りたかった。
 しかし、ヴィルとオワタの連携攻撃は、止まない。

 やがて、シャイツーの三撃目。

(・∀ ・)「あははは、らくしょー」
146 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:15:41.79 ID:CXy5YRsK0
 アルファベットVの振り上げ。
 ビロードのOを、跳ね上げて――――


(;><)「うあああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

(;・∀・)「ビロードォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」


 ビロードの胴体の表面を、Vの刃が滑った。

 あまりに鮮やかな温血が、シャイツーに降り注いだ。



――ギフト城付近――

 私の失策だった。
 下手に小細工しなければ、モララーを討ち取れていた状況だった。

 しかし、ビロードが飛び込んできた際に立てた目論見は達成できている。
 どちらが先か、という程度の問題でしかないのだ。

川 ゚ -゚)「…………」

 崩れ落ちるビロードに、目をやった。
 まだ、息絶えてはいない。
 しかし、確実に死に至るだろう。
154 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:18:42.72 ID:CXy5YRsK0
 モララーほどの男なら、僅かな隙でも突いてくることは分かっていた。
 あらかじめ覚悟していたからこそ、渾身の一撃も際どいところで防ぐことができた。

 だが、モララーの一撃は思ったよりも大きかった。
 攻撃のあとの隙が、想像を遥かに超えていたのだ。
 あれほどの空隙を生じさせると分かっていれば、シャイツーにビロードを狙うよう命令することはなかった。

 オワタは状況を察して素早くモララーに攻撃してくれた。
 ビロードは、シャイツーひとりで充分だったのだ。

 そして、地に落ちるビロード。

川 ゚ -゚)(これで……)

 再び、三対一。
 本来の標的が後回しとなってしまったが、構わない。
 この多勢に、抗う術などない。

 今一度、アルファベットを強く握りしめる。
 自分のアルファベットは、モララーのUに遥か劣る、L。
 攻撃している間は大丈夫だが、防御に回るとすぐさま破壊される恐れがある。

 早めに終わらせてしまうことだ。
 モララーを料理すれば、あとはニダーとロマネスク。
 いずれも、モララーに比べれば容易い。

 その二人も、苦境を打開すべく奮戦していることだろう。
 モララーの首に時間をかけていては、十万の大軍といえど破られかねない。

 少しでも早く、モララーを――――
162 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:22:07.66 ID:CXy5YRsK0
川 ゚ -゚)「ッ!!」

(#;・∀・)「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 薙ぎ払われるU。
 三人、それぞれが攻撃を防いだ。

 強烈な一撃。
 しかし、まるで隙がない。

 激情を露わにしているモララーは、今まで見たことがなかった。
 だが恐らくは、自分のせいでビロードが死にかけていることが原因だろう。

 三人で襲いかかれば負けるはずはないが、手強い相手であることは間違いなかった。

(#;・∀・)「あああああぁぁぁぁッ!! うああああぁぁぁぁッ!!」

 無茶苦茶な攻撃。
 そのぶん、一撃は重く、容易に反撃できない。

 私の記憶している限りでは、初めての失敗かも知れない。
 モララーは、怪我のブランクもあるが、やはりシャイツーを意識していた。
 だからこその、失策だ。

 自分のせいで誰かを失うことになる、という経験。
 それが初めてで、冷静さを欠いているのだろう。
 やはり、モララーも人の子だった。

 今は我武者羅も通じているが、このぶんなら討ち取れるだろう。
 シャイツーもじっと機会を窺っている。
176 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:25:10.85 ID:CXy5YRsK0
 振り上げられるUを防ぎ、再び降りてくるUをもう一度防いだ。
 攻撃は、やはり素早い。
 体力が切れるのを待つほうが得策か。

\(;^o^)/「ヴィルさん!!」

川 ゚ -゚)「!?」

 頭のなかは冷静だった。
 しかし、オワタの一言に動揺した。
 いや、目が覚めたと言ったほうがいい。

(#;・∀・)「ようやくか……」

 悠長に、構えすぎた。
 そして、モララーを侮ってしまっていた。

川 ゚ -゚)「ッ……」

 モララーは、冷静に、アルファベットランクの低い私を狙っていたのだ。
 アルファベットLが、破壊された。

川 ゚ -゚)(無茶な振舞いは、油断させるためか……)

 引き下がらざるを得なかった。
 予備のアルファベットを持って来てはいるが、受け取るには多少の時間を要する。
 しかし、シャイツーとオワタの二人でも、充分討ち取れるだろう。

 そう思っていたが、衝撃があった。
 戦いの波が、押し寄せてきていた。
183 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:28:13.83 ID:CXy5YRsK0
<#`∀´>「ニダァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

川 ゚ -゚)(ッ……!!)

 獅子奮迅。
 ニダーを先頭にした騎馬隊が、ラウンジの大軍を打ち破ってきている。
 モララーを助けるためだけでなく、戦そのものに勝つためにも、だ。

 ヴィップのニ将に、時間をかけすぎた。
 このままでは、ラウンジの本隊が堪え切れない。

川 ゚ -゚)「オワタ様!」

 オワタも、苦々しい表情だ。
 二人がかりなら、いずれは必ずモララーを討てる。
 だが、シャイツーとの一騎打ちでは、いくらか確実性が落ちてしまう。

 それでも、ここはオワタと二人で、指揮に戻らなければならない。
 苦渋の決断だが、致し方なかった。

\(^o^)/「予備のアルファベットを手にするまで、僕が守ります」

川 ゚ -゚)「申し訳ありません」
187 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:31:19.21 ID:CXy5YRsK0
 アルファベットVのシャイツー。
 将校のなかでも高ランクアルファベットを持するオワタ。
 そして、シャイツーに細かな指示を出せる私。

 モララーに挑む面子としては、最上だった。
 その三人でしとめられなかったのは、やはりビロードの存在のせいだ。
 結果的に、シャイツーとモララーの一騎打ちになってしまった。

 ニダーやロマネスクを防げる将校がいないのも、問題だった。
 やはり駒不足は深刻だ。
 私もオワタも、シャイツーも、まだ死ぬわけにはいかない。

 シャイツーの勝利を、信じるしかなかった。



――ミーナ城――

 視界を覆うような投石。
 着々と侵攻してくる破城槌。

 いずれにも、抗いきれないでいる。
 ミーナ城が、侵食されていく。

(;゚д゚)「くっ……!」

 手当たり次第、Wで攻撃はしていた。
 だが、やはり兵力数に違いがありすぎる。
 九万の差は、どうやっても埋めきれない。
193 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:34:43.40 ID:CXy5YRsK0
 しかし、十倍の兵力を相手に勝利したのが、ドクオ=オルルッドだった。
 全てが思惑どおりだったわけではないだろう。それでも、臨機応変に戦っていた。
 そして、オオカミの大将だった、このミルナを相手に勝利を収めたのだ。

 ショボンに比べれば、自分のほうが易い相手だろう。
 だがそれでも、十倍の兵力差があったのだ。

 あのドクオなら、この局面、どう対処するだろうか。

 マリミテ城攻防戦で、城を巡って戦った。
 間違いなく、好敵手だった。
 本来、宿敵となるはずの相手だったのだ。

 ドクオの首を刎ねたのは自分だが、追い込んだのはショボンだ。
 仇を取るためにも、などと言えば誰かに笑われるかも知れない。
 しかし、その気持ちも自分の中には、確かにあるのだ。

 だからこそ、この戦局は打開しなければならない。
 一人で戦い抜いた、ドクオのように――――

( ゚д゚)(……そうか……)

 ふと、気づいた。
 自分が、根本的に間違っていたことに。

 ドクオならこの場面で、どう出るだろうかと考えた。
 その答えは、至って単純だった。
200 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:38:24.33 ID:CXy5YRsK0
 ドクオならば、誰かに頼ることはない。
 一人で考え、戦って、勝利をもぎ取るだろう。

 自分も、そうあるべきなのだ。
 今できることを、自分で考えるしかないのだ。
 そんな至極当然のことに、気づけなかった。

 アルファベットWを構える。
 放ったFが、破城槌を運ぶ部隊の長の首を飛ばす。

( ゚д゚)(時間を稼ごう)

 それしかない。
 一瞬でも長く、この城を持ち堪えさせるしかない。

 勝つにせよ負けるにせよ、西の戦はいずれ終わるだろう。
 ミーナ城へと引き返してくる部隊があるはずだ。

 今はそれを待つしかない。

 すぐさま全兵に自分の意思は伝えた。
 下がりつつあった士気も、盛り返した。

 とにかく一本でも多くのFを放つ。
 城壁の損傷を食い止め、破城槌を打ち壊すために。
208 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:41:35.92 ID:CXy5YRsK0
(#゚д゚)「ふんッ!!」

 力いっぱい引き絞ったWから、Fが飛び出していく。
 巨岩が打ち砕かれ、直下のラウンジ兵に破片が降り注ぐ。
 破城槌を破壊したようだ。

 直後、城内にまで届きそうな石が飛来しているのを見つけた。
 急いでFを放ち、破壊する。
 いま投石で兵を失えば、城の寿命は著しく縮まってしまうだろう。

(;゚д゚)「踏ん張れ!」

 疲労困憊、倒れかけた兵の肩を支えた。
 虚ろな目で、大粒の汗を流しながら、それでもDを構えている。
 そして、Fを射て敵兵の首を飛ばしているのだ。

 信じて、耐えてくれ。
 今は、それだけしか言えない。

(;゚д゚)「必ずブーン大将が助けに来る! あと少しだ!」

 何の根拠もない激励さえ、今は効果覿面だった。
 もはやブーンは、ヴィップ兵にとって完全に心の拠り所となっている。

 ブーンの名前を出しただけで、また兵は活気づいた。
 Fを放つ間隔が短くなっている。
 ラウンジ兵の表情にも、進軍への躊躇いが見えた気がした。

 だが、それでも。
214 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:44:58.33 ID:CXy5YRsK0
(;゚д゚)「くっ……!!」

 到達された。
 されてしまった。

 破城槌。
 城門を叩く準備を始めている。

 アルファベットWで阻止しようとするも、やはり数が多すぎる。
 続々と破城槌が城門に迫っていた。
 もはや、WやDでは、防ぎきれない。

 賭けに出るしかない。

( ゚д゚)「……打って出るぞ」

 静かに、言い放った。
 兵は皆、瞳の奥に強い光を湛えさせたまま、頷いた。

 城壁に半数を残し、高ランクアルファベットを扱う者を集めて城門へと向かう。
 そのときちょうど、城門が大きく揺れた。
 揺るがされた。

 破城槌で何度も叩かれる。
 頑強な門といえど、ずっと形を保ち続けられるわけはないのだ。
 いつかは、突破される。

 それならば、いっそ。

( ゚д゚)「行くぞ!!」
218 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:47:57.21 ID:CXy5YRsK0
 内側からなら簡単に開けられるようにはなっている。
 勢いよく城門を開いた。

 ラウンジにとっては、願ったり叶ったりの展開だろう。
 だが、不意に開かれた門に対して、すぐさま突入できるはずはない。
 確実に一瞬は警戒するのだ。

 そこに、つけ込む。

(#゚д゚)「オオオオオオオォォォォォッ!!!」

 自分だけではなかった。
 ヴィップの兵は皆、獣のような雄叫びを上げていた。

 アルファベットVで敵兵の喉を突く。
 蹴りながら刃を抜いて、今度は自分の周囲に円を描くようにして振るった。
 胸部を斬り裂かれたラウンジ兵が崩れ落ちていく。

 闇の中に弾ける紅血。
 それを斬り払うように、尚もVを振るい続けた。

 やがて、城門の前に積み上げられる、ラウンジ兵の亡骸。
 充分であることを確認してから、すぐに門を閉めた。

(;゚д゚)「ハァ……!! ハァ……!!」

 際どかった。
 門が開いたのを見て、すかさずラウンジの後方部隊が駆け寄ってきていたのだ。
 さすがに、肌は粟立った。
222 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:51:30.20 ID:CXy5YRsK0
 しかし、城門の前はラウンジ兵の死骸で埋め尽くされている。
 あれがある限り、破城槌は満足に使えないだろう。
 多少の時間を稼げる。

 だが、その間も投石は続いていた。
 D隊が減ったことで、城壁の損傷は急激に進んでいたのだ。
 崩れかけている部分もあるという。

 すぐさま城壁からWで投石機を狙った。
 だが、やはり飛来する石に防がれてしまう。

 投石機も、徐々に城に寄ってきていた。
 鉄で覆われていれば、Dには破壊されないと確信したらしい。
 今は、城内さえ狙える位置だった。

 D隊が、満足にFを射れなくなってきた。
 投石による被害が出始めているのだ。

(;゚д゚)「くそっ!!」

 それでも、みな決死の覚悟で抵抗してくれている。
 一瞬でも長く時間を稼ぐべく。

 指揮官である自分が諦めるわけにはいかない。

(#゚д゚)「ハァッ!!」

 Fを連射した。
 次々に石を砕く。投石機の破壊に至ったFもあった。
 やはりWならば、当たり所が良ければ破壊は可能だ。
229 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:54:43.46 ID:CXy5YRsK0
 投石機の数に余裕はないはずだった。
 一つずつ確実に潰していければ、勝機が見えてくる。

 そう思った自分を、再び奈落へと誘う衝撃。

(;゚д゚)「くっ……!!」

 破城槌。
 死骸を片づけて、また城門を叩き始めている。

 もう一度、賭けに出るしかないのか。
 しかし、あれは一度の成功でさえ奇跡に近かった。
 今度は確実に城内へと侵攻されるだろう。

 だが、放っておけば確実に門は破られる。
 ここは、例えどれほど分が悪くても、賭けに出るしか――――

(;゚д゚)「ッ!!」

 城門へと向かいかけた足が、揺れた。
 破城槌によるものではない、もっと愕然とするような衝撃があった。

 すぐに報告が入ってくる。
 だが、聞かずとも分かっていた。

 城壁の一部が、崩壊したのだ。

 最初の報告から、ほとんど間を置かず、続報が入ってくる。
 東西南北、至る所で崩壊が始まっていた。
237 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 15:57:47.53 ID:CXy5YRsK0
 城門が破壊されれば、城自体が機能を失う。
 城内へ容易に侵入され、ヴィップ兵は逃げ場を失うのだ。

 分かっている。
 だが、食い止める手段が、何もない。

(#;゚д゚)「クソォッ!!」

 数の暴力に、抗えなかった。
 自分では、ドクオのようには戦えなかったのだ。

 フィッティル、オールシン。
 そしてドクオ。
 今回の戦で力になってくれた三人の、仇を討ってやりたかった。

 しかし、もはやこれまで。

 全身に溜まった疲労は、重みとなって膝を折る。
 もはや、アルファベットを構える気力さえない。
 自分だけではなく、限界に接しつづけたヴィップ兵も、だった。

 何も見えなくなっていく。
 何も、聞こえなくなっていく。
250 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:01:17.72 ID:CXy5YRsK0
 何も、何も――――

(;゚д゚)「ッ……?」

 なんだ。どういうことだ。
 何故、これほど戦場が静まり返っているのだ。

 投石さえ止んでいる。
 城門を叩いていた破城槌も、静止していた。

 自分にとっては、永遠に等しい時間だった。
 だが、実際には一瞬だったのだろう。

 弾けるように、ラウンジは動き始めた。
 あと少しで落城せしめるところだった、ミーナ城から離れて。

 すぐさま城壁から身を乗り出す。
 いつの間にか、朝陽が昇りはじめていたと分かった。

 その光を受けて現れた、騎馬隊。

 止まらない。
 正確な数が認識できないほどの速度で、進軍してくる。

 慌ただしく迎え撃つラウンジ。
 しかし、体勢は不充分であり、突如として現れた騎馬隊に蹂躙されていく。
 その騎馬隊の、先頭に立つ男。


(#`ω´)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
283 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:04:50.60 ID:CXy5YRsK0
 間違いなかった。
 ヴィップ軍大将、ブーン=トロッソ。

 あまりに、眩しい光景だった。

 ようやく把握できたのは、ヴィップ軍の数。
 およそ一万五千から二万といったところだろう。

 だが、それでも十万のラウンジ軍を翻弄している。
 ラウンジの部隊が、全く抵抗できていない。

 為されるがままに打ち倒されていくラウンジ軍。
 信じられなかった。ブーンの部隊は、数で遥かに劣っているのだ。
 しかし、互角以上の戦い。

 速さが、違いすぎる。
 ラウンジが一撃繰り出す間に、ヴィップは三撃も四撃も見舞っているのだ。
 尋常ではなかった。

 騎馬隊相手ならD隊が有効だが、城攻めとあってラウンジは準備が不足していたのだろう。
 馬も極端に少ない。歩兵では、騎馬隊に抗うのは厳しい。
 そうした事情があるのも分かっているが、ブーンの戦は圧倒的だった。

 先頭で振り回されるX。
 ラウンジの部隊に飛び込んだかと思えば、一瞬にして十も二十も首が飛んでいく。
 部隊を突破するまでに討ち取った数は、三桁に達していると思えた。

 あまりに、驚異的。
 ラウンジ軍の、士気を失っていく様が、ここからでも見て取れる。
303 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:08:00.09 ID:CXy5YRsK0
(#゚д゚)「最後の力を振り絞れ!! いくぞ!!」

 ラウンジの意識が完全にブーンへと向いた。
 それを確認してから、勢いよく城を飛び出す。

 先ほどまでに打った賭けに比べれば、随分と危険性は低い。
 だが、賭けであることには変わりないのだ。
 こちらの動きを止められれば、全滅の可能性もある。

 それでも城を打って出た。
 ラウンジを撤退へと追い込む機は、今しかない。
 限界を越えてでも、戦わなければならない時だ。

 アルファベットVを掲げながら、敵陣へと斬り込んだ。
 不意な一撃を受けて、ラウンジは算を乱し始める。
 明らかに浮き足立っていた。

 ミーナ城を囲んでいたラウンジだが、今は北に集まり始めている。
 援軍として現れたブーンの騎馬隊、そして城を出てきた自分の部隊。
 それぞれを討ち取るべく、だ。

 一応形にはなっている、という程度の陣形をラウンジは組み始めていた。
 だが、それを看過するはずがない。
 すかさずブーンが敵陣を乱しにいった。

 広い視野と並外れた決断力。
 ブーンは、これほどの男になっていたのか。
 そう唸ってしまっても、不思議と悔しさはなかった。
314 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:11:15.81 ID:CXy5YRsK0
 ラウンジは必死に体勢を立て直そうとしている。
 だが、機動力で全く勝負になっていないのだ。
 立ち上がりかけたところを、また転ばされるだけだった。

 このままでは、無駄な被害が増えるだけだ。
 いま総指揮を執っているであろうファルロに、それが分からないとも思えない。

 ならば――――

( ゚д゚)「……鉦だ!」

 打ち鳴らされる。
 二度、そして三度。

 速やかに後退しはじめるラウンジ軍。
 全軍、撤退。

 まだ終わりではない。
 ここで安堵したまま眺めているだけでは、一時的な撤退に留まる恐れがある。

 全力で追い討った。
 ブーンも追随してくる。ラウンジ兵を、後ろから討っていく。
 無論、抵抗はしてくるが、もはや勢いに天と地ほどの差があった。

 やがて、ラウンジの足が完全にフェイト城へと向いたところで、ヴィップも引き下がった。
 拠って立てるかどうかは微妙だが、とりあえずはミーナ城へ。
 外から見ると、実に痛ましい姿へと変貌してしまったことが分かる。

 それでも、ラウンジの狙いは打ち砕いた。
 ヴィップの勝利に終わったのだ。
319 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:14:24.53 ID:CXy5YRsK0
( ^ω^)「ミルナさん!」

 あれほど戦場で暴れまわった直後とは思えない。
 ブーンは、ほとんど汗さえ掻いていないように見えた。

( ^ω^)「間に合ってよかったですお……」

( ゚д゚)「すまない、ミーナ城はもう使い物にならんかも知れん」

( ^ω^)「大丈夫ですお。ヒトヒラ城を奪れた今なら、問題はないですお」

( ゚д゚)「そうか、ヒトヒラ城は落とせたのか。犠牲は?」

( ^ω^)「……ヒッキー少将が……」

 ブーンが少し顔を俯ける。
 下唇を噛みながら。

 ヒッキーは、確かもうかなりの高齢だった将だ。
 自分との接点は、ほとんどと言っていいほどなかった。

 こう表現してはヒッキーに悪いが、ジョルジュでなくて良かった。
 今回の戦は、生き抜くことができたらしい。

 ただ、ヒッキーは長年連れ添った配下だったと聞く。
 ジョルジュの精神状態に影響を及ぼしている可能性は高かった。
 尤も、それをいま確かめる術はない。

 今は純粋に、戦の勝利から得られた安堵を噛み締めるべきだった。
333 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:17:32.89 ID:CXy5YRsK0
( ^ω^)「ギルバードとプギャーは討ちましたお」

( ゚д゚)「主力を討ったか、ヒトヒラ城は落とせて当然だな」

( ^ω^)「ラウンジのアクセリトは素早くヒトヒラ城放棄を決断しましたお。
      今はジョルジュさんが城を固めてくれてますお」

( ゚д゚)「西は盤石か」

( ^ω^)「それよりもミルナさん、ひとつ気になることがありますお」

 ブーンは一拍の間を置いた。
 視線を一度だけ、北に向けながら。

( ^ω^)「ラウンジについてですお。いくら攻城戦の真っ最中だったとはいえ、動きが鈍すぎましたお」

 ブーンがそう感じたとしても、不思議はない。
 だが、決して鈍すぎるというほどの動きではなかった。

( ^ω^)「ブーンも不意を突くために、昼夜兼行で駆けてきましたお。
      こっちの動きはほとんど予測できてなかったはずですお。
      ただ、それにしても呆気なさすぎましたお」

( ゚д゚)「あぁ……それは、ショボンが指揮していなかったせいだろうな」

( ^ω^)「……どういう意味ですお?」
348 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:20:42.70 ID:CXy5YRsK0
( ゚д゚)「多少の傷を負った。自分でも確認しきれていないがな。
    Wで腹部の端を貫いた」

(;^ω^)「ショボンに、Wを!?」

( ゚д゚)「それに全てを賭けて望んだ戦だったが……討ち取るには至らなかった。
    傷の程度は分からん。が、致命傷とは思いがたい」

( ^ω^)「しばらく戦に参加できない可能性は」

( ゚д゚)「それは、あるだろうな。
    ギルバードやプギャーを失っているのなら、戦自体が起きんかも知れん」

( ^ω^)「情報は調べさせますお」

( ゚д゚)「北東の戦はどうなってるんだ?」

( ^ω^)「それについては、ブーンもまだほとんど情報を得てませんお」

( ゚д゚)「そうか……だが、ここと西で勝てたのは大きい」

( ^ω^)「ショボンが深手を負っているのであれば、次の戦は優位に立てますお」

 北東の戦の帰趨次第だが、恐らく次の戦は総力を一点に結集させることになる。
 現代の戦史上、かつてないほどの規模で展開されるだろう。

 そしてそれが、自分にとって最後の戦になるはずだ。
354 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:24:05.30 ID:CXy5YRsK0
( ^ω^)「ミーナ城については状態を確認して、城として使えないようなら放棄しますお。
      とりあえず兵はオリンシス城へ。自分が率いてきた兵はオオカミ城に入れますお。
      フェイト城への警戒は継続。シャッフル城と連携して牽制しますお」

 即座に状況を整えていくブーン。
 先ほど、ラウンジを撤退させたこともあるが、やはりそうだ。

 自分とブーンとの間には、今や大きな隔たりがある。
 埋めようもないようなものが。

 だが、それに関してはもはや、どうすることもできない。
 事実を把握しながら、静かに呼吸していくことしかできない。

 最後の戦に、全力を傾注する。
 自分に残された役目は、もはやそれだけなのだ。



――ギフト城付近――

 リーチでは優る。
 しかし、やはりアルファベットはランクの低いほうが不利だ。
 打ち合うたびに、それを実感させられる。

 振り回したアルファベットUは、途中でその進行を妨げられる。
 両手で握られたシャイツーのVに、受け止められた。

 だが、決して負けてはいない。
 シャイツーが突き出してくるVを、Uの穴で受け止める。
 押し込まれることはない。
366 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:27:36.50 ID:CXy5YRsK0
 もう一度アルファベットを繰り出す。
 風を裂いて、シャイツーのVと激突する。
 澄んだ音が戦場に鳴り響いた。

 反動でアルファベットが離れたあと、間を置かずに振り下ろした。
 しかし、シャイツーも反応はいい。
 逆に、アルファベットを弾き返された。

 既に何合打ち合ったか。
 もはや、分からなくなってしまっている。

 下位といえど、ランクの差は僅かに一つ。
 数十合の打ち合いを重ねたところで、破壊されることはないだろう。
 だが、先に壊れるとすれば自分のUだ。

 決着は、自分から迎えにいかなければならない。
 シャイツーがどこまで物を考えているかは知らないが、現状が維持されれば負けるのは自分のほうだ。

 そして何より、すぐにでも一騎打ちを終わらせるべき理由は、数歩離れたところにある。

(;・∀・)(ビロード……!!)

 自分を助けにきてくれたビロードが、斬られた。
 シャイツーのVによって、斬り伏せられた。

 首を取られたわけではない。
 まだ微かに呼吸しているのは分かっている。

 だが、助けにいけない。
 シャイツーが居る限りは。
373 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:30:57.55 ID:CXy5YRsK0
 周りのヴィップ兵も、とどめを刺そうとするラウンジ兵を抑えるだけで精一杯だ。
 だからこそ、自分が一騎打ちを終わらせなければならない。
 ここでシャイツーを討ち取れば、戦そのものも一気に盛り返せるだろう。

 ただ、目の前の男は、かつてない強敵だった。

(・∀ ・)「いいかげん諦めろよー、疲れるだろー」

 幼子のような喋り方で言葉を放ちながら、音が遅れてくるような鋭い一撃を見舞ってくる。
 その不釣り合いな様は、何人の敵と戦ったか分からなくなっている自分の記憶の、誰とも似ていない。
 唯一無二の男。

 それは果たして、戦に限った話だろうか。
 鏡を見つめているような感覚に襲われたまま、そう思う瞬間もある。

(  ∀ )「…………」

 広大な原野で、十数万の兵がアルファベットを振るっている。
 それを遥かに超える数の、雪の粒が降り注ぐ。

 振り払うように、アルファベットを突きだす。
 刃に付着した雪は、シャイツーのVによって弾けた。
 そこには、互いの熱が込められていた。

 反発し、再び引き合う。
 渾身の力を込めた一撃。
 シャイツーは、頬に汗を浮かべながら受け止めた。
377 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:34:41.77 ID:CXy5YRsK0
 反撃が来る。
 薙ぎ払われたV。
 アルファベットUで、弾き返した。

 北風が額の汗を飛ばしていく。
 裂くようにUを振り回した。
 シャイツーは身を屈めて躱す。

 穿つように突き出されたV。
 また、Uの穴を使って受けた。
 今度は、僅かながら押し込まれる。

 堪える力が、次第に失われてしまっているのだ。
 明らかに、両腕は重くなっている。
 一騎打ちだけに集中できていないことも大きい。

 だが、それなら自分の首は飛んでいるはずだ。
 元よりシャイツーのほうがランクは上で、不利な一騎打ち。
 自分の疲労だけを見れば、とっくに決着がついていておかしくない。

 それなのに、まだ首が繋がっている理由。
 考えるまでもなかった。

(;・∀ ・)「ぶはっ……ぐへっ……」

 荒い吐息が、白濁した状態で口から漏れて、凛然とした空気に溶け込む。
 双肩も小刻みに上下していた。
393 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:37:53.21 ID:CXy5YRsK0
 自分以上なのだ。
 シャイツーの疲労は。
 もはや、限界に近付いていると見ていい。

 しかし、ようやく互角。
 自分にも疲労は溜まり始めており、いつシャイツーを超えるか分からない。
 依然として際どい勝負であることに変わりはない。

 だが、絶対に負けられない。
 まだ死んではならないという思いもあるが、それ以上に。
 ビロード、そしてヴィップのために。

 ニダーとロマネスクは奮戦してくれている。
 圧倒的大軍が相手でも、全く怯んでいないのだ。
 あの二人の力戦にも、自分は応える必要がある。

(;・∀・)「ハァ、ハァ……」

 アルファベットの重みが、増しているような気がした。
 懸命に、持ち上げるようにして振り上げる。

 叩き落とすようなシャイツーの攻撃。
 重量はVのほうが軽いだろう。
 疲労の点でも、自分のほうが不利か。

 いや、それでもシャイツーには明らかな疲れの色が見える。

(;・∀・)(……経験の差か)
400 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:40:59.99 ID:CXy5YRsK0
 踏みしめてきた戦場の数が違う。
 潜り抜けてきた死線の数が、違う。

 戦い慣れているのだ。
 自分のほうが、確実に。
 その差だけは、何があろうとも今は埋まらない。

 それでもシャイツーは何度も攻撃を繰り出してきた。
 自分の体も撓んでいる。だからこそ、優位には立てない。
 しかし、勝てない勝負ではないのだ。

 互いを奮い立たせているものは、アルファベットを扱う者としての意地。
 一度アルファベットを交えたからには、絶対に引けないという思いだ。

 だが、自分には他にも、負けられない理由がある。
 一瞬だけ、地に伏せるビロードに目をやった。

(;><)「うっ……あ……」

(;・∀・)(ビロード……!)

 シャイツーに、自分のアルファベットが優るとすれば。
 優るとすれば、それは、意地以外の何かによるものだ。

 打ち合いが続いていく。
 何度も馳せ違いながら。

 断続的な衝突音。
 その間隔は、次第に僅かながら広がり始めた。
 互いにもう、素早い攻撃は繰り出せなくなっている。
409 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:43:57.39 ID:CXy5YRsK0
 はっきりと見えてくる、限界点。

 突き出されたVを、間一髪のところで躱して、首を狙う。
 シャイツーの頭が、まるで後ろから引っ張られたかのように下がって、アルファベットの軌道は空を切った。

 即座にアルファベットを引いて、斜めに振り下ろされるVを防いだ。
 鍔迫り合い、どちらが制することもなく離反する。

 直後の攻撃が、お互い、すぐに出せなかった。
 空気を肺に取り込み、そして吐き出す、その行為だけで精一杯だ。
 視界は、雪のせいなのかは分からないが、霞みつつあった。

 必死の思いで振りかぶったUを、重量の力に任せて降ろした。
 シャイツーの振り上げも、ほぼ同時。
 ぶつかった際に全身を駆け巡る痺れが、骨に皹を入れたのではないかと錯覚させる。

 互いに、限界は超えていた。
 気力だけで、立ち続けていた。

 しかし、それも長くはもたない。
 自分も、シャイツーも、それを理解していた。

(;・∀・)(次……が……)

 次が、最後の一撃。
 どちらかにとって、生涯最後の一撃だ。
426 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:47:49.02 ID:CXy5YRsK0
(;・∀ ・)「あああぁぁぁ……うあああぁぁ……」

 疲れ方さえ知らないのではないか。
 そう思えるような、シャイツーの様相。
 呼吸する際に、掠れた声が伴っている。

 自分は、乾ききった喉から呻きのような音が漏れてくるだけだ。
 尤も、それが無様であることに変わりはない。

(;・∀・)「ハァッ……ハァッ……」

(;・∀ ・)「うぐぁぁ……おぇぁ……」

 アルファベットを、同時に構えた。

 もはや、打ち合いにはならない。
 振り回したアルファベットが、どちらを先に斬り裂くのか。
 勝負は、ただそれだけで決まるだろう。

 何故か、それが分かった。
 何故なのかは、今は考える必要などなかった。

(;・∀ ・)「お……お、おま……お前を……」

(;・∀・)「ッ……!?」

(;・∀ ・)「お前を……おれは、殺して……」
441 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:50:48.32 ID:CXy5YRsK0
 吹き荒ぶ寒風と、数多なる干戈の音。
 そして何より、掠れきったシャイツーの声。
 聞き取りづらいが、それでもなんとか音を拾った。

(;・∀ ・)「おれが……有名になって……」

(;・∀ ・)「見つけてもらうんだ……!! ぜったいに……!!」

(;・∀・)「……!!」

(;・∀ ・)「うあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 一歩、そして二歩。
 シャイツーが、必死の形相で迫ってくる。

(;・∀・)「……アンタにかけてやれる言葉はねーよ、悪いけどな」

 自分は、その場から動かなかった。
 間合いを見極めるべく、ただじっとアルファベットを構えていた。

 そして――――


(#;・∀・)「ハアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!」

(#;・∀ ・)「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!」

463 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:54:46.70 ID:CXy5YRsK0
 互いが、互いへと向けて放った一撃。
 やはりリーチで優るU。しかし、攻撃速度で上回るV。

 接近してくる。
 もはや、シャイツーを討ち取らなければ、自分の命はない。

 そう思った途端に、何故か皆の顔が思い浮かんできた。
 ブーンやビロード、ニダーやロマネスク、ジョルジュやミルナなど。
 憎き敵将、ショボンの顔さえ流れていく。

 これが、走馬燈なのか。
 だとすれば随分、味気ない。
 もう少し過去に浸らせてくれてもいいのではないか。

 不意に現実へと引き戻される。
 だが、視界はやはり霞んでいた。


 しかし、その霞んだ視界のなかで――――

 ――――確認できたのは、斬り離されて舞い上がった、自分の右腕。
499 :第111話 ◆azwd/t2EpE :2009/02/11(水) 16:58:30.03 ID:CXy5YRsK0
 
 
 
 シャイツーは、笑っていた。
 その笑顔と、アルファベットVが、崩れ落ちる自分へと近づいてきている。

 色が抜けていく視界では、それを認識するだけで精一杯だった。















 第111話 終わり

     〜to be continued

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