3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:11:03.62 ID:mMEw+9fP0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
17 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:13:20.84 ID:mMEw+9fP0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヒトヒラ城・南東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
25 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:15:28.27 ID:mMEw+9fP0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城・南東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
32 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:17:48.41 ID:mMEw+9fP0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
41 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:20:02.76 ID:mMEw+9fP0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ
T:ニダー/ギルバード
U:ジョルジュ/モララー
V:シャイツー
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
47 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:22:05.70 ID:mMEw+9fP0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上
 

53 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:24:09.81 ID:mMEw+9fP0
【第109話 : Esteem】


――ヴィップ城――

 窓を開けていると、少し、暖かい匂いを漂わせる風が吹き込んできた。

 机上に立てられた花瓶の、名も知らぬ赤い花が揺れる。
 開いたまま置いてあった本の頁が無造作に捲られていく。

 そっと窓に手を伸ばして、風の通り道を遮った。
 僅かに靡いていた自分の白髪も、着地する鳥のようにふわりと収まる。
 侍医が自室に薬湯を運んできたのは、そんな折だった。

「冷ましてきたつもりですが……」

/ ,' 3「いただきましょう」

 器には熱が移っていた。
 掴めないほどではない。

 杯を傾け、口腔内に広がる薬湯を味わうこともなく、喉を通させた。
 独特の苦味は、仕方がないと分かっているが、舌が慣れることはない。

「漢方薬を、煎じます」

/ ,' 3「お願いします」
57 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:26:17.38 ID:mMEw+9fP0
 処方に関して、口を出すことはなかった。
 侍医は懸命に、日々研究を重ねていると知っている。
 疑念を感じたとて、それを伝えたところで、結末が変わることはないだろう。

 かつて稀代の英傑、ベル=リミナリーは、自分の死期を正確に把握したという。

/ ,' 3「…………」

 顔を近づけてみて、初めて匂いを感じ取れる花のように。
 実際に接近してみなければ、分からないことは多い。

 自分は、戦場に立ったことなど一度もない。
 直接的に人の命を奪ったことはなく、また、人の死に間近で触れたこともなかった。

 ハンナバルの最後の瞬間は、看取れなかった。
 いや、看取らなかった、と言ったほうが正しい。
 どうしても、あの人が逝く瞬間に立ち会いたくなかったのだ。

 明朗快活で、磊落で、誰よりも器の大きい人だった。
 どれほど水が注がれても、溢れることはない。
 そう思ってさえいた、あの人が。

/ ,' 3「…………」

 危篤だと知らされても、会いに行けなかった。
 恐らくは、信じようとしなかったために。
 死というものの、存在自体を、だ。

 恐怖を覚えたことなど、なかったはずだった。
65 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:28:21.46 ID:mMEw+9fP0
「皇帝、こちらを」

/ ,' 3「はい」

 侍医から受け取った薬は、一瞥だけして口に流し込んだ。
 受け取った水を口に含む。薬の味は、ほとんど舌に残らなかった。

「失礼します」

 頭を下げる所作はいつもと変わらない。
 このところ、体調は変動が見られず、低空飛行を続けていた。

 容体は安定している、このまま存えるのではないか。
 そういった見方もあるようだが、首を傾げざるをえなかった。

 寝床から離れ、何十年も前から使用している椅子に腰掛けた。
 木製で、背凭れが短く、一国の長が座る椅子ではないと言われたこともある。
 が、苦楽を共にしてきた、仲間だ。今更、他の椅子に身を預けようとは思えなかった。

 風が勝手に読み進めてしまった本を閉じ、本棚に戻す。
 腕を伸ばしてようやく届く高さだ。
 侍医や侍女がいれば、慌てて本を奪い取り、本棚に収めるだろう。

 部屋のなかには、あえて誰も置かなかった。
 我が侭を通すのには苦労したが、結局、自分の言葉とあっては周りは折れざるをえない。
 おかげで、窮境に喘ぐ国の皇帝のものとは思えないような、平穏極まる時間を過ごせている。

 だからこそ、心の底から安まるときなど、ありはしないのだ。
68 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:30:26.78 ID:mMEw+9fP0
/ ,' 3(……ブーン大将……)

 ショボン=ルージアルの造反により、新たに大将となった。
 ブーン=トロッソ。
 今や名実ともに、ヴィップ随一の将となっていた。

 ヴィップ国史上、かつてない危機だった。
 幾つもの城が奪われ、軍内には猜疑の嵐が吹き荒れた。
 今や領土の争いを盛り返し、かつての版図に近づきつつあるが、それも全てブーンのおかげだった。

 危急の事態の際、自分などただ寝込んでいただけで、何もできなかった。
 ショボンが裏切り、ジョルジュも病に倒れていた。目の前が、一気に暗転した。

 何よりも、皇帝の後継として考えていたショボンが謀反したのは、衝撃だった。
 誰にも言うことはなかったが、あのままならショボンに皇帝を禅譲するつもりだったのだ。
 ジョルジュより若く、生粋のヴィップ軍人であり、そして、兵からの信頼も厚かったショボンに。

 結局自分は、言い訳のしようもないほど、完璧に騙されていたのだ。

 そのせいで武官、文官に掛けた迷惑は計り知れない。
 一時は自刃さえ、考えた。
 もっとも、いま自分が死んだところで、国益になることはない。

 冷静に考え、踏みとどまったが、この罪はあまりに重かった。

/ ,' 3「…………」

 衣服を着込んで、部屋から出た。
 朝の光を浴びたところで、外に控えている護衛が慌てて制止してくる。
77 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:33:48.98 ID:mMEw+9fP0
/ ,' 3「ただの散歩ですよ。心配には及びません」

「ですが……」

/ ,' 3「心配でしたら、少し距離を取って、ついてきてください」

 付き添わなくてもいい、と言ったところで、願いが通らないのは分かっている。
 自分も、立場は充分に理解しているつもりだった。

 ただ、昔からそうだが、皇帝である自分には権威こそあれど、権力はほとんどない。
 それでいいと思っていた。ハンナバルの頃から、ヴィップは、大将が実質的な権限を握っている。
 皇帝は、君臨すれども統治せず。そうやって永い時を経ている国なのだ。

 ラウンジは、クラウンが自ら国を主導している。
 若いころから行動力は抜群だった男だ。
 自分とは、正反対だった。

 どちらのやり方が正しいのかは、戦が教えてくれるだろう。

/ ,' 3「……ん……?」

リ|*‘ヮ‘)|「あっ」

 廊下の角から、可憐な少女が姿を見せた。
 慌てたように姿勢を整えて、頭を下げる。
 やや長めの髪が彼女の上半身を隠した。

 そしてその後ろから、もう一人。
 こちらは、見覚えのある顔だった。
83 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:36:03.47 ID:mMEw+9fP0
(*゚ー゚)「あー、アラマキこーてーだー」

 精悍な顔立ちの中将が、まず思い出される。
 ギコ=ロワードの嫁だった、しぃだ。

/ ,' 3「おはようございます。しぃさん、と……」

リ|*‘ヮ‘)|「あ、わたしくセリオットと申します」

/ ,' 3「セリオットさん、ですか」

 やはり、聞いたことのない名だった。
 誰かの正室、というわけではないようだ。

リ|*‘ヮ‘)|「ブーン=トロッソ大将の、侍女を務めさせていただいております」

/ ,' 3「なるほど、そうなのですか」

 言わば側室だろうか。
 そう思ったが、ブーンは正室を持っていないはずだ。
 しかし、ただの侍女にしては、見目が美しすぎた。

/ ,' 3「何故、ブーン大将の侍女であるセリオットさんが、しぃさんと共に?」

リ|*‘ヮ‘)|「あ、それは……」

(*゚ー゚)「おともだちだから! なのー!」

 後ろからセリオットに抱きついて、屈託のない笑みを浮かべる。
 知能に障害があるということだが、眺めているぶんには、天真爛漫な少女にしか思えない。
95 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:38:21.99 ID:mMEw+9fP0
リ|*‘ヮ‘)|「ブーン大将が長期不在中ですので、しぃ様のお世話を担当しておりまして」

(*゚ー゚)「ちがうのー! ともだちなのー!」

リ|*‘ヮ‘)|「そう言ってくださるのは、大変嬉しい限りなのですが……」

 欣然とした表情は、偽りではないだろう。
 ただ、笑顔になっても侍女としての態度は崩れない。

(*゚ー゚)「今日もね、これからね、一緒にお散歩なの!」

/ ,' 3「そうでしたか」

リ|*‘ヮ‘)|「『ハイナル草』を摘みに行く予定です」

/ ,' 3「……ハイナル草、ですか?」

リ|*‘ヮ‘)|「はい。私の故郷では昔から、祈りを捧げるときに集める草で、薬草としても用いられています」

 薬草の一種であることは知っていた。
 ただ、治癒力を高める効果はなく、感覚を麻痺させて痛みを和らげる草だったはずだ。
 使い方を誤れば、体の四肢がまともに動かなくなる。

 だからどうということもなかった。
 誰にでも手に入れられる一般的な薬草だ。
 気に掛ける必要など、一切ない。
105 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:40:31.03 ID:mMEw+9fP0
/ ,' 3「……昨日に比べれば、今日はさほど寒くありませんが、暖かい格好でお出かけ下さい」

リ|*‘ヮ‘)|「はい、ありがとうございます」

(*゚ー゚)「いってくるー!」

 無邪気に手を振る少女と、控え目に頭を下げる少女。
 爽風が駆け抜けるような感覚に包まれる。

 今が、戦時だからこそだ。
 民の笑顔は、いつも、傍にあるべきものだった。
 そして可能ならば、永遠に。

 戦には、勝たなければならない。
 ブーンを始めとする将たちが、命を賭して戦ってくれている。

 自分はただ、将兵たちの心を揺らさぬように生きることしかできない。
 無力さは、もう、飽きるほどに嘆いた。
 それでも、やれることをやるしかないのだ。

/ ,' 3(……皆さん、どうかご無事で……)

 そんな祈りももう、何回繰り返したのか、数えきれなくなっていた。
115 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:42:37.81 ID:mMEw+9fP0
――ミーナ城――

 防衛戦が始まってから、既に十六日。
 ここまでは、城を脅かされることなく戦えている。

 ただ、兵たちの疲労は、目に見えて溜まり始めていた。

( ゚д゚)(……厳しい戦いであることは、間違いないな……)

 城塔から敵軍を眺めていた。
 まだ半里以上、離れている。昨晩、城外に躍り出て敵陣を下げさせることができた。
 ただ、僅かでも気を抜けば瞬時に距離を詰めてくるだろう。

 そうやって常に気を張っていなければならない状況というのが、辛かった。
 身体的にも、精神的にも、休まるときがない。

 だが、昨晩の戦は、決して悪くなかった。
 フィッティルが準備してくれた伸縮性を持つ縄で、素早く城壁を降下することができた。

 城から縄を下げたままでは、いずれFで狙い射ちされる可能性がある。
 城壁から下がっている状態を極力なくす必要があったのだ。

 昨日の戦は目論見どおりに運べた。
 ショボンにすれば、何の意味もない攻めだったと思えただろうが、しかし。
 それでいいのだ。

( ゚д゚)「オールシン、投石機についてだが」

< `ζ´ >「はい」
122 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:45:22.41 ID:mMEw+9fP0
( ゚д゚)「土嚢を投げる量は、今のままでいいが、間隔を空けよう」

< `ζ´ >「どれほどに」

( ゚д゚)「倍にしていい。あまり土嚢が多すぎると、邪魔だ」

< `ζ´ >「承知致しました」

 オールシンに指令を与えたあとは、城内に戻った。
 ミーナ城はさほど広い城ではない。一万も兵がいれば、一人になれる場所はほとんどなかった。
 もっとも、それが許される状況でもない。

( ゚д゚)「フィッティル」

|`-∪-´|「んぇ?」

 兵卒に混じって素早く兵糧を口にしているところに、声を掛けた。
 呼びかけられても、フィッティルの手と口は止まらない。

( ゚д゚)「二日後、また城外に出るが、準備は万端か?」

|`-∪-´|「見て分かりません?」

 準備が整っていなければ、屋内で兵糧を取ることはしない。
 恐らくは、そう言いたいのだろう。

( ゚д゚)「分からんな、お前に限っては」

|`-∪-´|「オールシンみたいにずっと仕事するのは無理ですよ、無理」
132 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:47:43.73 ID:mMEw+9fP0
( ゚д゚)「期日にさえ間に合えば、何も問題はないさ」

|`-∪-´|「だから大丈夫ですって。飯くらいゆっくり食わしてくださいよ」

 そう言いながら、極力早く食事を終えようとする。
 オールシンとは性質がまるで違うが、生粋の軍人であることに変わりはないのだ。

( ゚д゚)「今度は、本番だぞ」

|`-∪-´|「そーでーすねー」

( ゚д゚)「俺かショボン。恐らくどちらかが、死ぬことになるだろう」

 一瞬、フィッティルの咀嚼が、止まった。

( ゚д゚)「絶対とは、言いきれんが」

|`-∪-´|「……まぁ、どー考えても現状ではミルナ大将のが不利ですよね」

( ゚д゚)「まぁ、そうだな」

 平気で憎まれ口を叩くところは、相変わらずだった。
 そうやって、いつもどおりのフィッティルと接することで、少し落ち着きたかったのかも知れない。

( ゚д゚)「それとフィッティル、俺はもう大将じゃない」

|`-∪-´|「あぁ、そうでしたね」

( ゚д゚)「中将というのも、違和感があるがな」
141 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:50:44.04 ID:mMEw+9fP0
|`-∪-´|「まったくですよ。呼ぶのさえメンドくさい」

( ゚д゚)「好きなように呼べばいいさ。お前とオールシンは」

 踵を返して、再び屋外に出た。
 寒気は少し、攻勢を緩めたようだが、まだ体は震える。
 風除けは可能な限り設置しているが、限界もあった。

 寒さで体の動きは確実に鈍る。
 それはラウンジ軍であろうと変わりないことだ。
 が、一人一人の役割が大きいヴィップ軍のほうが、後になって響いてくる。

 兵の気力は、大国ラウンジに互角以上の戦ができているという一点のみで保たれている。
 一度でも大敗を喫すれば、恐らく、もう立て直せない。
 ブーンの取った逆転の策は、綱どころではなく、紐の上を渡るようなものなのだ。

 でなければ、物量で圧倒的に不利なヴィップは生き残れない。
 分かってはいるが、空恐ろしかった。
 未来だけではない。ブーンという男の、器量もだ。

 果たして自分がヴィップの大将だったとして、同じ策が取れただろうか。
 答えなど、考えるまでもなかった。
 自分は、亡国オオカミの、大将だった男なのだ。

( ゚д゚)「…………」

 また、城壁から外を眺めた。
 ラウンジ軍に大きな動きはない。
 自分の読みが正しければ、あと、二日。
148 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:53:20.58 ID:mMEw+9fP0
 二日後には、ショボンと、雌雄を決することになる。

 鍵を握るのは、投げ続けている土嚢。
 そして、最初に一度だけ投げ込んだ、何の変哲もない石だ。


――ギフト城付近――

 北東の地の風は、相変わらず、刺すように冷たかった。
 何日滞留しても慣れない。
 恐らく、何十年滞陣しても今と同じように体を震わせているだろう。

 ただ、時折、そんな風に触れたいと思うときがある。
 両腕で自分の体を抱えてしまうほどの寒さだが、驚くほど頭のなかが鮮明になる。
 普段、分からないことが、何故か分かりそうな気がしてくるのだ。

 しかし、何かの思いに耽ることもなく、呆然と夜空を見上げるだけだった。

( ・∀・)「ここに居たのか、探したぞ」

( ><)「モララー中将?」

 珍しく、モララーの頬は朱色だった。
 いや、今日の月がやけに赤いせいで、そう見えるだけだろうか。
 ただ、いくらか酒を飲んでいるのは間違いないようだった。

( ><)「どうしたんですか?」

( ・∀・)「たまには、昔話でも、と思ってな」
155 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:55:44.17 ID:mMEw+9fP0
 城の三階の、多目的室の窓。
 風は暴れ馬のように攻め寄ってくる。

 一国の少将と中将が語り合うには、あまりに平々凡々としているが、自分には相応しい。
 しかし、モララーにはどうだろうか。

( ><)「昔話、ですか」

( ・∀・)「お前との付き合いも、長くなってきたことだしな」

 モララーは酒瓶を呷った。
 だが、中身はただの水のようだ。
 酒を飲んでいるのは間違いない、と思ったが、自分の勘違いだろうか。

( ><)「初めてお会いしたときのことは、今でも覚えてるんです」

( ・∀・)「奇遇だな、俺もだ」

(;><)「初めましての一言を、五回も六回も噛んじゃって……」

( ・∀・)「一緒にメシ食ったらスープ引っくり返すしな」

(;><)「慌ててたというか、気が動転してたというか……」

( ・∀・)「こんなんが将校で大丈夫か? って思ったぞ」

(;><)「お恥ずかしい限りなんです……」

( ・∀・)「ま、戦じゃ大したやつだったけどな」
161 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 00:57:58.37 ID:mMEw+9fP0
 またモララーは酒瓶に口を付ける。
 丸い底が、丸い月に向けられた。

( ・∀・)「俺が記憶してる限りじゃ、お前の失敗ってのは、一回もない」

( ><)「いや、そんなことは……」

( ・∀・)「些細なミスくらいは誰にだってあるが、お前のせいで不利になったり、負けたりしたことはないだろ」

( ><)「……だけど、僕がいたから勝てた、なんて戦も全然ないんです」

( ・∀・)「守りを任されることが多かったからな。それは、仕方ないだろ。
     いや、逆に言えば、守りがしっかりしてたから勝てた戦ってのもあったはずだ」

( ><)「……よく分からないんです」

 人から貶されることは、あまりない。
 だが、褒められることも、同じように、ない。

 だから、たまにこういうことを言ってもらうと、気恥ずかしいのだ。
 どう言葉を返していいのか、分からなくなる。

( ・∀・)「まぁ、お前の素質を見抜いたショボンは、さすがと言うべきか」

( ><)「……その一点、実は引っかかってるんです」

( ・∀・)「ん? なにがだ?」

( ><)「ショボンは何で僕を将校にしたのか……」
171 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:00:37.99 ID:mMEw+9fP0
 窓の縁に腕を乗せ、顔を埋めた。
 少しだけ低くなった視界で、広漠な原野を眺める。

( ><)「ヴィップがオオカミを滅ぼすための、駒だったのか……それとも」

( ・∀・)「ラウンジに連れていくためだったのか、か?」

 言葉は返さず、僅かに頷いた。

( ><)「ブーン大将は、後者の目的だったって聞きました」

( ・∀・)「らしいな。俺も、どうやらそうだったらしい」

( ><)「正直言って、僕は心の底から、ショボンを尊敬してたんです。
     この人が大将である限りは戦える……命を尽くせる。
     そう、思ってたんです」

( ・∀・)「連れてってほしかったって意味か?」

( ><)「違うんです」

 モララーは茶化すように言ったが、そこだけは、明確に否定しておきたかった。

( ><)「僕は、みんなと同じです。ヴィップの将なんです」

( ・∀・)「だったら、何も問題ないだろ」

( ><)「……ただ、思うのは……」
181 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:03:28.22 ID:mMEw+9fP0
 言っていいのか、と、一瞬だけ躊躇った。
 だが、ここで終わらせるべき言葉ではない。

( ><)「もし……ショボンが僕に、ブーン大将のように、目をかけていて……。
     そこで……話を持ち出されてたら……もしかしたら……」

 目まで、完全に腕のなかに隠した。
 モララーが視界に入ることはないと、分かっていながら、怖かった。

( ><)「……そう思うんです」

 それでも、顔を上げてモララーの表情を確かめた。
 安堵していいのか、恐怖すべきなのか、判断しかねる無表情だった。

( ・∀・)「……ビロード」

( ><)「はい……なんです」

( ・∀・)「俺も正直言うが」

 モララーは、酒瓶を床に置いた。

( ・∀・)「ショボンは最高の大将だった。あいつについていけば、何も間違いはないと思ってた。
     騙されてたってことだ、完璧なくらいに。
     でも俺は、今でも最強の武将だと思ってる」

( ・∀・)「俺は、ラウンジに来ないか、なんて言われたら即座にアルファベットを向けてた。
     勝てようが勝てまいが、死ぬ気でショボンを討ちにいってた。
     それは間違いないこと、なんだが……」
194 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:06:39.53 ID:mMEw+9fP0
( ・∀・)「……戦場で相対すれば、刃が鈍るのも、たぶん間違いないな」

 モララーは、短い髪を軽く掻き毟った。
 抜け落ちた黒髪は、風が連れ去っていく。

( ・∀・)「ショボンのことは、言うまでもなく、憎いが」

( ><)「感情の折り合いが、上手くついてないのは、僕も同じなんです」

( ・∀・)「難しいな」

 何が、と聞くことはなかった。
 自分とモララーの間には、必要のない言葉だからだ。

( ・∀・)「まぁ、ここには居ない。今はミルナが頑張ってくれてるはずだな。
     ここなら思う存分に、戦える」

( ><)「あ……だけど、気になることがあるんです」

( ・∀・)「ん?」

( ><)「突然現れた指揮官……ヴィル=クールのことなんです」

( ・∀・)「あぁ、そういや……居たな」

( ><)「ヴィルの戦が……まるで、ショボンのもののように感じるんです」

 モララーは、やはり無表情だった。
 今度は、また別の意味で、安堵していいのかどうか分からなかった。
201 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:08:48.88 ID:mMEw+9fP0
( ><)「何となく、なんですけど……でも、ロマネスクも同じことを言ってたんです」

( ・∀・)「……まぁ、腹心ってとこだろうな」

( ><)「その程度だと、僕も思うんですが……」

( ・∀・)「ショボンと同じ戦ができるやつはいない。あの戦は、真似できない」

( ><)「はいなんです。だけど……」

( ・∀・)「大丈夫だ。その程度で俺が逡巡したりはしない」

 それは、分かっていた。
 モララーは、ヴィルのことを一時、忘れてさえいたようなのだ。
 ヴィルのことなど、気にかけてもいない。

 ショボンのような武将といっても、ショボンであるはずがない。
 だから、懸念しているのは、ヴィル=クールのことではないのだ。

 同時に戦場へやってきた、Sの壁を超えている、強靭な敵将のことだった。

( ・∀・)「とにかく、この戦には勝つぞ。ギフト城は絶対に落とせない」

( ><)「……もちろんなんです」

 東塔で共に戦った頃から、一緒だった。
 昔話もできる。お互いの正直な心の内を、語りあうこともできる。

 だが、それでも、踏み出せない。
 シャイツーに関する話題を、出せない。
210 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:11:18.53 ID:mMEw+9fP0
 道を踏み誤れば、取り返しのつかないことになる。
 その可能性があると、分かっていながら。

 夜は更けていき、そして、戦の朝を迎えた。


――ギフト城付近――

 モララー=アブレイユは、明らかに精彩を欠いている。
 だが、それでも彼は、モララーだった。

<ヽ`∀´>「モララー中将には遊撃隊を任せるニダ」

 直接ではないが、モララーにそう伝えた。
 任命権は自分にある。編成も、自分の思い通りにやれる。
 そのうえで、モララーを遊撃隊の指揮官に選んだ。

 苦渋といっていい決断だった。
 選び方を呼称するなら、消去法になる。

 指揮官である自分は城を離れられない。
 しかし、ラウンジの大軍に対する牽制は必要だ。
 となれば、誰かが遊撃隊を率いなければならない。

 ビロード、ロマネスク、ダイオード。
 いずれも、モララーに比べれば遙かに劣る。

 だが、今のモララーは明らかに、先日までの男とは別人だ。
 些細な変化かも知れない。気にかけるほどでもないのかも知れない。
 しかし、自分の、軍人としての勘は叫び声を上げていた。
217 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:13:53.03 ID:mMEw+9fP0
 明らかに、ヴィルやシャイツーという敵将が現れてからだった。

<ヽ`∀´>「…………」

 遊撃隊は、無論、自由に動ける部隊だ。
 戦況にもよるが、好きな敵将を狙えるといってもいい。

 結局、自分が容認したのと同じ形だ。
 それでも、現状では最善の布陣だった。

<ヽ`∀´>「ダイオードには、敵軍が二里以内にいる場合は、絶対に門を開けないよう、伝えてほしいニダ」

(伝 -V-)「はい」

 本当は、昨日のうちに伝えてあることだった。
 単に、動いていないと落ち着かないだけなのだ。
 自分が、だった。

 ギフト城は、対ラウンジで最重要といってもいい城。
 それくらい、誰でも分かっていることだ。
 無論、モララーも。

 もはや過程はどうでもよかった。
 場合によっては、自分の生死さえ、厭う必要はない。

 この戦にさえ、勝てれば。
 ただ、それだけでいいのだ。

(伝 -V-)「ラウンジ軍、進撃開始!」
224 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:16:17.79 ID:mMEw+9fP0
 アルファベットTを、砕けそうなほど強く、握り締める。

 十万の大軍勢。
 逡巡は、死。

 アルファベットを高々と掲げた。
 同時に、モララーの遊撃隊が、朔風を裂いて駆けだしていく。

 モララーに、賭けた。
 堅陣を敷いた自分は、絶対に陣が破られぬよう、死力を尽くすだけだ。



――ヒトヒラ城――

 自分の部隊の威力が、殺されている。
 敵の狙いを破れていない自分のふがいなさもあるが、しかし。

 地味に、目立たぬように。
 ギルバードとプギャーは、自分を封じ込めているのだ。

 その事実に、ジョルジュは、気づいていない。

(;-_-)「ッ……」

 だからこそ、としか思えなかった。
 ジョルジュは、魚鱗の本体へと攻め込んだのだ。

 愚策ではない。
 むしろ、妥当な選択とさえ思える。
228 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:18:40.51 ID:mMEw+9fP0
 だが、この胸騒ぎは。
 いったい。

 魚鱗に隙があるのも分かる。
 今が好機であるのも、経験があるからこそ、分かるのだ。
 ジョルジュも、同じだろう。

 自分とジョルジュの違いは、ただ、臆病であるか否か。
 それだけだ、と思いたかった。

 思えなかった。

(-_-)「ジョルジュ中将……!」

 気づけば、飛び出していた。

 無我のうちに駆けて、次の瞬間にはもう、敵陣へ斬り込んでいた。
 かき分けるように。進む、進む。

 アルファベットOを、振るわずに、ただ前へと押しだした。
 斬り合いになれば絶対不利。
 瞬きの間に飲み込まれて、終焉だ。

 そして、やはり。
 自分が飛び込んでも、敵兵に、衝撃を受けた様子がまるでない。

 口を開けて、待っていた。
 そうとしか思えなかった。

(;-_-)「くっ……」
241 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:21:12.31 ID:mMEw+9fP0
 ジョルジュは。
 いったい、どこだ。

 一瞬で周囲の全てを把握した。
 ジョルジュの部隊は、まるで、誘われるように中核へと進んでいる。
 自分はまだ、敵陣の端。

 しかし、分かっていたことだが。
 退路は既に、絶たれていた。
 ラウンジは陣を組み替えながら、自分の進んできた道を塞いでいる。

 魚鱗の隙は、やはり罠だった。
 でなければ、ラウンジはこれほど迅速に、陣を組み替えられないだろう。
 いつの間にか、堅陣へと姿を変えているのだ。

 ならば、今やるべきことは。

(-_-)(中核へ……!)

 行くしかない。
 ジョルジュを、助けにいくしか、ない。

 手綱を今一度、引き絞る。
 もはやブーンからの指令は届かない。
 自己判断だ。しかし、それ以外の道があろうはずもない。

 アルファベットを、振り上げた。
 自分はここだ、と、誇示するために。
 誰の目に届くのか、分からなくとも。
254 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:23:52.87 ID:mMEw+9fP0
 行く手を塞ぐラウンジ兵を、強引に押し倒す。
 最小限の動きで可能であれば、首も飛ばした。
 I以下の相手ならば、負けるはずはない。

 そこに、アルファベットKの敵兵。
 確か、フル=ヌード少尉。

(-_-)「どけ……!」

 初撃、繰り出したのは向こうが先だった。
 跳ね上げるようにして、弾く。
 懐には、隙。塞ぐべくアルファベットを出してくるが、しかし。

 その動きでは、遅い。
 身を屈めて潜り込み、胴体を両断した。

 留まらずに、突き進む。

 いくつもの光が交差していた。
 ラウンジ軍の、中核に近い場所。
 間違いなくあそこに、ジョルジュは居るはずだ。

 不利であろうが、なんであろうが、ジョルジュは戦うしかない。
 戦って、ギルバードとプギャーを討ち取ることでしか、もう生き残れない。
 この戦にも、勝てない。

 だから、ジョルジュは逃げ出さずに戦っているのだろう。
 罠に掛けられたことには、気づきながらも。
273 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:27:15.54 ID:mMEw+9fP0
 やはり、自分が助けなければ。
 おこがましい話だ。ジョルジュには、叱咤されるかも知れない。
 しかし、それでもいい。

 それぞれには、それぞれの太陽がある。
 ヴィップの中軸となっているのは、間違いなくブーンだ。
 自分のぼやけた視界の中でも、あまりに燦然と輝いている。

 だが、それでも。
 それでも、自分にとっての、太陽は――――

(;-_-)「ッ!!」

 敵兵の波に飲まれ、陽の光は届かない。
 だからこそ、今、全身が冷たいのか。

 違う。
 戦慄、それによる悪寒だ。
 思わず、部屋に閉じこもってしまいたくなるような。

 ギルバード。
 そして、プギャー。

 二人の将が、ジョルジュではなく、自分に迫っていたのだ。
294 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:30:25.79 ID:mMEw+9fP0
(;゚∀゚)「ヒッキー!」

 声が、遠来する。
 良かった、まだ、陽光は身を暖めてくれる。
 悴んだ手が、はっきりと動くようになる。

 どうやら、自分はもう少しだけなら、戦えるらしい。

 ビロードが、教えてくれたのだ。
 誰かのために行なう戦もあるのだと。

 何十年もただ、漫然と戦をこなしてきた。
 死ぬときは死ぬだろう、致し方ない。
 そんな、諦念に近い感情とともに。

 生きようと思わなかった、死のうとも思わなかった。
 戦は、生きがいなどではなく、死地として戦場を求めることもなかったのだ。

 そんな自分が、唯一見出した、価値。
 そこに生きる人に、生きてほしいと願った。

 自分には、充分すぎて、相応しくもない。
 だが、あるいは、似合いの終結なのかも知れない。

 迫り来る二人の将軍。
 どちらも、一騎打ちでさえ辛い相手だ。
 しかし、それが戦だった。

 ギルバードのTが、天から落ちてくる。
 自分のOは、天を穿つように、突き出される。
306 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:32:55.14 ID:mMEw+9fP0
(#-_-)「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

 一瞬だけ、二人が怯んだのが、分かった。
 しかし、あまりに無情な一瞬。

 視界が白むことを、幾許かしか、引き延ばしてはくれないようだ。


――ヒトヒラ城付近――

 一合。
 そして、二合。

 思った瞬間には、もう、五合目。
 七合、八合、十合。

 それは、ただ、一方的な戦い。

(;゚∀゚)「ヒッキー!!」

 距離にして、たったの四半里。
 しかし、なんという遠さだ。

 行く手を阻むのはラウンジ兵。
 今は、一兵を相手にしている時間さえ、惜しいというのに。
 _
(#゚∀゚)「邪魔だ!!」

 アルファベットUで、斬り伏せる。
 一度に、三人。
316 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:35:18.95 ID:mMEw+9fP0
 その間に、ヒッキーとギルバード、プギャーの戦いも、進んでいく。
 ただ一方的にヒッキーが防ぎ続ける、それだけの戦いが。

 ヒッキーは、負ける。
 このままなら、確実に負けてしまう。

 罠に掛けられたのは、自分だ。
 プギャーとギルバードを侮り、勢いで攻め込んでしまった。
 ラウンジの狙いどおりに動いてしまっていたのだ。

 自分の失策であることなど重々分かっている。
 それを、取り返さなければならないということも。

 だから、ここで、ヒッキーが死ぬなど。
 そんなことが、あってはならないのだ。

 ヒッキーはいつも自分に忠実でいてくれた。
 だから、ヒッキーは必ず、守ってくれるはずだ。

 平和を得たヴィップが繁栄する様を、ずっと見ていてほしい。
 その命が、続く限り。

 ただそれだけの命令を。

 何本ものアルファベットIが突き出される。
 全てを粉砕し、全力で駆け出そうとした。
 しかし、今度はGによる壁。
330 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:37:39.78 ID:mMEw+9fP0
 たまらずに、周囲を確かめてしまった。
 ブーンは、一体どこにいるのだ、と。

 あまりに惨めな自分に、今の時点では、気づけないでいる。

 それでもブーンの位置は把握できた。
 自分よりも、ヒッキーからは遠い。

 既に十五合。
 上位ランクの二人を相手に、だ。
  _
(#;゚∀゚)「クソォ!!」

 死なせたくない男がいた。
 昔から、そして、今でも。
 一人ではないが、確かにいた。

 言うまでもなく、そのうちの、一人なのだ。
 ハンナバルのように、ミルナのように。
 ヒッキーは、ヒッキーは――――

(;゚∀゚)「ッ!!」

 光が、拡散した。
 無情なまでに、緩やかに。

 砕け散った、アルファベットO。

 待て、やめろ。
 そんな声が、届くはずもない。
350 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:40:02.36 ID:mMEw+9fP0
 常に覇気はなく、しかし、淡々と任務をこなしていた。
 自分の命令には、常に従ってくれていた。

 何故、今さら、そんな過去が思い浮かぶ。

 鈍重に流れる情景。
 粉雪のように、ふわりと。
 ヒッキーに襲いかかる、アルファベットR。


 最後の一瞬、ヒッキーは、こちらを見た。

 初めて見るような、笑顔だった。

  _
(#;゚∀゚)「うああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 跳ね上がった首。
 それを刃先に突き刺して、掲げるプギャー。
 醜悪なまでの勝ち誇った顔と、高笑い。

 殺してやる。

 プギャー、ギルバード。
 お前らだけは、なんとしても。
 絶対に。

 前のめりになった瞬間、視界を塞ぐ手のひら。
377 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:42:28.44 ID:mMEw+9fP0
(  ω )「ジョルジュさん」

 いつの間にか、ブーンがここまで来ていた。

(  ω )「戦を、お任せしますお」

 そう言って、一瞬だけ指した方向。
 堅陣となったラウンジ軍の、現在の中核。

 そしてブーンは、猛然と駆け出していった。
 ヒッキーの亡骸が在る、その場所へと。


――ヒトヒラ城付近――

 首に、アルファベットを突き刺す。
 そして、高々と掲げる。

 やりすぎだ。
 そんな声は、恐らく、届かないだろう。
 今のプギャーは、周囲などまるで見えていない。

 ヒッキー=ヘンダーソンを討ち取った。
 プギャーと自分の、二人がかりで。

 それだけの価値はある将だった。
 確実に、ヴィップの戦力は落ちる。
 あとは、できるなら同じやり方で、ジョルジュを討ってしまいたい。
401 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:45:12.64 ID:mMEw+9fP0
 怒りに包まれているだろう。
 慮る気持ちも、なくはない。
 しかし、戦の本質など、ジョルジュほどの男なら分かっているはずだ。

 ジョルジュを、討ちに行こう。
 ブーン=トロッソが迫ってくる前に。

 そう、プギャーに言おうとした、瞬間。

(;`゚ e ゚)「ッ!!」

 馬鹿な。
 いったい、いつの間に。

 鬼神のような表情のブーンが、もう、眼前に迫っていた。

(#`゚ e ゚)「ぬぅぅぅん!!」

 機先を制すべく、Tを振り上げる。
 プギャーもヒッキーの首を放り投げて、アルファベットを構えていた。

 対するは現在、ヴィップ最強の武を誇る、ブーン=トロッソ。
 巨大なアルファベットXは、この距離でも威圧を感じる。

 しかし、プギャーと自分の、二人で戦うのだ。
 いかにブーンといえど、TとRが相手では、勝てようはずもない。

 ありがたいことだ。
 ジョルジュを釣るつもりで投げた針に、大将が掛かるとは。
 愚行。その一言で済ましてしまえる。
423 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:48:02.68 ID:mMEw+9fP0
 振りおろしたアルファベットTを、ブーンは難なく受け止めていた。
 分かっている。アルファベットXを操る相手だ。
 単騎で勝てるはずもない。

 だが、今はそこに、もう一撃がある。

 素早く脇腹を狙ったプギャーのR。
 的確だ。もっとも防ぎにくい部位。
 いかにブーンといえど、これは――――

(;`゚ e ゚)「ぬっ!?」

 勝った、と思った、次の瞬間。
 自分のTは、手から離れることこそなかったものの、力なく浮いていた。
 そして、ブーンのXはプギャーのRと交わる。

 何が起きた。

 分からない。だが、ブーンは生きている。
 体勢さえ、盤石。

 まさか、純粋な力だというのか。
 力、その一点のみで、自分のTが押し返されたのか。
 馬鹿な。そんなはずは、ない。

 もう一撃。
 アルファベットを、押し出す。
 プギャーも同時だった。

 それを、一切の狼狽も見せずに、受け止めるブーン。
444 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:50:34.46 ID:mMEw+9fP0
 アルファベットXは三つの刃を持する。
 一度で複数の攻撃を受けることは、確かに、可能だろう。
 だが、そんな理屈で済ませられる問題ではなかった。

 自分も、プギャーも。
 それぞれ、アルファベットの才には秀でた将として評されているのだ。
 ブーンには及ばないまでも、自分たち二人なら、越えられないはずはない壁だろう。

 そう、思っていたのに。

 無我夢中で、アルファベットを繰り出していた。
 プギャーと二人、手数は圧倒的に上回っている。
 ブーンは、防戦一方。

 だが、ヒッキーとは違う。
 ヒッキーは、本当にただ、防ぐことしかできなかったのだ。
 しかし、ブーンは、何かが違う。

 そのとき、一瞬、ブーンの表情を確かめてしまった。

 雪の粒も逃げるような、鋭い眼光。
 全身が、言うことを聞かなくなった。

 手先から足先までを震えさせているものは、いったいなんだ。
458 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:52:58.59 ID:mMEw+9fP0
(;`゚ e ゚)「ぐっ!!」

 自分とプギャーが、同時にアルファベットを下げた、ほんの一瞬。
 その隙を突いて、ブーンのXは、咆哮を上げた。

 信じがたい光景だった。

 咄嗟にTで身を守った。
 次の瞬間には、もう、Tの刃がなかったのだ。

(;` e )(バカ……な……)

 アルファベットの機能を失ったTは、槌も、柄も、たやすく砕かれた。
 何も持たない自分に迫るのは、巨大な銀の刃。

 視界に移るもの全てが、透明化していく。
 何も、分からなくなっていく。


 ――――そうか。

 これが、死か。


 抗いようもない、絶望そのものだ。
485 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:55:47.06 ID:mMEw+9fP0
――ヒトヒラ城付近――

 鮮血は雪に混じる。
 冷たいか、温かいか。
 肌に触れるものが雪か血かは、それだけで判断していた。

 ギルバードは、討ち果たした。
 あとはもう、こいつだけだ。

(;^Д^)「う、うあああぁぁぁ!!」

 振りが大きく、脇は甘い。
 とてもRを使う者とは思えない。
 壁を越えられなかったことにも、合点がいく。

 自分の初陣となった、ハルヒ城防衛戦。
 あのとき、プギャーは自分にアルファベットの使い方を教えてくれた。
 基礎を徹底的に叩き込んでくれた。

 今、その基礎を、プギャーがまるで守れていない。
 皮肉なものだった。

 もっとも、その基礎も、自分をラウンジの駒にすべく仕込んだものだったのだ。
 あのとき、プギャーはショボンからの命を受けていたはずだ。
 ショボンからのものと思われる手紙も来ていた。

 その事実を思い返しても、不思議と、激情に襲われることはなかった。
 過ぎ去ったことであり、消去できることでもない。
503 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 01:58:51.93 ID:mMEw+9fP0
 今は、ただ、ヒッキーの仇として目の前に存在している。
 それだけの男なのだ。

(  ω )「プギャー=アリスト」

 相手が、硬直したのが分かった。

(  ω )「その命、貰うお」

 一撃。
 アルファベットRを、粉砕する。

 身を震わせるプギャー。
 情けないの言葉では足りぬ醜態。

(;^Д^)「ち、違うんだ! 聞いてくれ!」

 手を前に出して、下がろうとしながら、言葉を吐く。

(;^Д^)「お、俺は、ホントはヴィップの将なんだ!
      今はショボンに従うふりをしてるだけで……!
      だから一緒にショボンを討とう! ブーン!」

(;^Д^)「い、今まではショボンに脅されて……ホントはヒッキーも討ちたくなかったんだ!
      な、分かるだろ? さっきまでギルバードもいたし、仕方なかったんだ!
      これからは一緒に戦おう!」
546 :第109話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/24(月) 02:01:57.31 ID:mMEw+9fP0
(;^Д^)「そ、そう、俺たちが一緒なら、何も怖いものなんて」

(  ω )「もう――――」

 前に出されていたプギャーの手を、切り落とす。


(  ω )「――――もう、黙れお」


 プギャーの首は、赤黒い血を撒き散らして、胴体から離れた。














 第109話 終わり

     〜to be continued

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