5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 22:49:26.42 ID:kXklKAoV0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
17 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 22:53:02.03 ID:kXklKAoV0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヒトヒラ城・南東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
25 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 22:55:27.22 ID:kXklKAoV0
●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城・南東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
31 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 22:57:59.04 ID:kXklKAoV0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
39 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:00:02.79 ID:kXklKAoV0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ
T:ニダー/ギルバード
U:ジョルジュ/モララー
V:シャイツー
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
46 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:02:30.86 ID:kXklKAoV0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

52 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:04:33.57 ID:kXklKAoV0
【第108話 : Trigger】


――ミーナ城周辺――

 この戦、ミルナは『マリミテ城防衛戦』の再現を狙っている。
 それは最初から、分かっていたことだった。

 本隊が西を攻めている間、東の城を守り抜く。
 西の城が落ちれば必然的に東の城も安定する、といった塩梅だ。
 どう考えても、ドクオ=オルルッドの作戦を踏襲しているとしか思えなかった。

(´・ω・`)(……となれば……)

 狙いは、ひとつだろう。
 大将の首。このショボン=ルージアルの、首を取りに来る。
 必ずだ。

 ドクオもかつて、専守と見せかけてミルナを討ち取りにいった。
 結果的に失敗したものの、オオカミを大いに脅かし、撤退を決断させたのだ。
 作戦立案力、そして実行力。いずれも図抜けていたドクオだからこその作戦だった。

 あの勝利を見て、自分は決断したのだ。
 ドクオを消そう、と。
 このまま生かしておけば、必ず後顧の災いとなる。そう確信した。

 オリンシス城の守将に任じ、手紙を用いてドクオを消した。
 オオカミの力を上手く使うことができた。
57 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:07:05.69 ID:kXklKAoV0
 おかげで、そのあとラウンジと不可侵条約を結ぶときも困難はなかった。
 懸念した相手は、モララー=アブレイユだ。
 ラウンジと通じていることを、勘付かれるかも知れないと思った。

 しかし、ドクオを殺された怒りで強硬策に出た、と思わせることに成功した。
 あのときの流れは、我ながら完璧だった。

 ただ、ミルナの自分に対する恨みは、強まっただろう。
 ラウンジと手を組んで、ヴィップはオオカミを滅ぼした。
 その共同歩調の音頭を取ったのが、他ならぬ自分だったのだ。

 この戦で、ミルナは自分を討ち取りに来るだろう。
 できればそれを、返り討ちにしてやりたい。

(´・ω・`)「……雨か」

 陽が落ちる頃になって、雨が降り始めてきた。
 確かに今日の空は不機嫌そうな色だったが、突然だ。
 空気が冷たくなる感覚もなかった。

(´・ω・`)「驟雨であればいいが」

( ̄⊥ ̄)「篝火を守るよう、徹底させます」

 雨中では自由に明かりを確保できない。
 ただでさえ、月明かりがないのに、だ。

 篝火に大型の傘を被せて、極力火を絶やさぬようにした。
 それでも、晴天の夜と比べれば、本数は激減している。
 心許ない光。
63 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:09:59.11 ID:kXklKAoV0
 そういえば、ドクオが穴を掘って城外に躍り出たときも、非常に暗い夜だったと聞く。
 闇に紛れて城壁を駆けあがろうとしていたオオカミの、不意を突く動きだったと。

(´・ω・`)(……まさかとは思うが……)

 もし、自分の首を取るべく出てくるとすれば、今か。
 しかし、ドクオのように穴を掘る時間などはなかったはずだ。

 城を打って出てくるようなことは、あるのだろうか。
 相手は、一万。対するラウンジ軍、いまだ十万近い軍勢なのだ。
 常識で考えれば、ありえないことだ、と思える。

 城との距離は、半里ほどだった。
 城外に出てくるのであれば、野戦になる。

 ラウンジとしては、悪くはない展開だ。
 城外に出てくる際、必ずヴィップには隙が生じる。
 城門を開くのであれ、城壁を縄伝いに降りてくるのであれ、地中から這い出てくるのであれ。

 そこを、叩けばいい。
 マリミテ城防衛戦のときは、ミルナが地中からの出撃を読めなかったことに敗因があったのだ。
 城門、城壁、地中。全ての可能性を考慮していれば、対処できる。

 それともまさか、空を飛んでくるとでもいうのだろうか。

(´・ω・`)(まぁ、それならD隊で一斉射撃して撃ち落とすだけだ)

 城壁を縄伝いに降りてくるのであれば、無防備な背中を狙い撃てばいい。
 地中から這い出てこられるのがラウンジとしては辛いが、これはないだろう。
 それほど大掛かりな準備をする時間はなかったはずで、あったとしても、慌てることはない。
69 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:12:24.98 ID:kXklKAoV0
 城門を開けてくるのであれば、好都合だ。
 多少の犠牲を払ってでも、城内への侵入を敢行する。
 ミーナ城の勝手は自分も知っていた。城内戦も決して不利ではない。

 戦が始まってから既に半月。
 西のギルバード、プギャーがブーン相手に苦戦している、という情報は入ってきていた。
 なるべく早めにミーナ城を落とさないと、西のヒトヒラ城を奪取される可能性がある。

 何よりも、今のブーンに場数は踏ませたくない。
 報告では、先日までとは見違えるような戦を展開するようになったというのだ。
 もはや、ギルバードでさえ相手にならない、とも言われていた。

 それが真実であれば、思わず肌に粟が立つところだ。
 ギルバード=インダストルは、ラウンジ内で自分に次ぐ将。
 その男さえ、手をつけられないほどに成長したのだ、とすれば。

 もう、自分しかいない。
 ブーンを討てるのは、このショボン=ルージアルの他にいない、ということなのだ。

(´・ω・`)(……そこまでの男になったか、ブーン)

 やはり少し、育てすぎた。
 ヴィップで大将を務めていたときから、その思いはあった。

 だからこそ、オオカミを滅ぼしたあとは消そうと思った。
 フィレンクトさえ居なければ、討ち取れただろうと今でも時折、考える。
 ただ、あのときブーンを追わなかった自分を、責めようとは思わなかった。

 あそこでフィレンクトを無視すれば、自分が自分でなくなってしまうからだ。
74 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:14:29.28 ID:kXklKAoV0
(´・ω・`)「ファルロ、ヴィップはどう出ると思う?」

( ̄⊥ ̄)「…………」

 ファルロの視線は、ひたすらミーナ城へと向いている。
 自分の声に対する呼応は、ない。

(´・ω・`)「……ファルロ? 聞いているか?」

( ̄⊥ ̄)「はい、何でしょうか」

 陣中は決して、静穏に満ちているとは言えない。
 人の声が多少、聞き取りづらいこともある。

 しかし、ファルロが上官の声を聞き洩らすのは、珍しいことだった。

(´・ω・`)「ヴィップはどう出てくるか、と聞いたんだが」

( ̄⊥ ̄)「あ……失礼しました」

(´・ω・`)「疲れているのか?」

( ̄⊥ ̄)「いえ、ちょうどヴィップがどう出てくるのかを考えておりました」

(´・ω・`)「……そうか。お前の意見を聞こう」

 雨は決して激しくはないが、止む気配もない。
 耳に残る音は、優しげで、苛立つこともなかった。
84 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:17:17.42 ID:kXklKAoV0
( ̄⊥ ̄)「私は、城外に出てくるだろうと思っています」

(´・ω・`)「ふむ」

( ̄⊥ ̄)「この戦、恐らくはマリミテ城戦でのドクオ=オルルッドの戦術を模倣しているのでしょう」

(´・ω・`)「だろうな、そうとしか考えられない」

( ̄⊥ ̄)「でしたら必ず、ショボン大将の首を取りに来るはずです」

(´・ω・`)「そのためには城外に出るか、あるいは城内に引き入れて罠に掛けるしかない」

( ̄⊥ ̄)「はい。しかし、城内にラウンジ軍が侵入すれば、ヴィップは敗北確定です」

(´・ω・`)「無論、ミルナほどの男ならそれを重々承知しているはずだ。だからこそ、城外か」

( ̄⊥ ̄)「ですが、城外に出てくる策が読めません」

(´・ω・`)「そうだな。となると、裏をかいて城内に留まりつづけることも、考えられなくはない」

( ̄⊥ ̄)「その場合は、着実に前進して城門を破るのみです」

(´・ω・`)「ヴィップとしては、避けたい展開だろう。だからこそ、城外に出てくるはずなんだが」

 どうやっても、成功するはずはないのだ。
 必ず甚大な被害をヴィップは受ける。
 歴戦の将、ミルナ=クォッチがそれを理解してないとは思えない。
92 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:19:55.63 ID:kXklKAoV0
(´・ω・`)「……ミルナが、こちらの予想を全て上回ったときのことを、想定しておこう」

( ̄⊥ ̄)「はい」

(´・ω・`)「無傷で城外に出てきたとした場合は、当然だが、ミルナの首を狙う」

( ̄⊥ ̄)「首を取れれば、終わる戦ですね」

(´・ω・`)「だが易々とはいかないだろう。他に狙うべきは、可能な限り敵兵を討ち取ることだが」

( ̄⊥ ̄)「とにかく、潰すことだけを考えればいいわけですか」

(´・ω・`)「まぁな。多少の犠牲を被っても問題ないだけの兵力が、ラウンジにはある」

 それだけの価値はある城だ。
 ミーナ城さえ落とせば西のブーンやジョルジュさえ討ち取れるかも知れない。
 是が非でも。ただ、ヴィップ側もその思いは強いはずだ。

(´・ω・`)「とにかく、数の利を存分に活かすことだ」

( ̄⊥ ̄)「はい」

 それさえ、貫くことができれば。
 ヴィップに負けることは、ない。

 それにまだ、切り札も残してはいるのだ。

(´・ω・`)「……ん?」
97 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:22:31.60 ID:kXklKAoV0
 夜の雨で霞むミーナ城。
 少々、城内の兵が動いた程度では、とても視認できない。

 自分も、見えはしなかった。
 視力には自信を持っているが、この不明瞭さでは、限界があるのだ。
 が、しかし。

 まるで、城そのものが、動いたかのような。
 そんな、ありえないことを――――
 
(´・ω・`)「ッ!!」

 漆黒に染まった城は、涙を流していた。

 一瞬の煌めき。
 ただ、流れ落ちる。
 それも、急速に。

 どういうことだ。

(; ̄⊥ ̄)「ショボン大将! あれは――――!!」

(´・ω・`)「分かっている」

 何が、と問われれば、言葉は返せなかっただろう。
 分かっているつもりだ。しかし、分からない。

 やがて陣内もざわめきはじめた。
 城までは半里。薄く、しかし隙間なく広げた自陣。
104 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:25:12.61 ID:kXklKAoV0
 ほぼ全兵が、把握しはじめた。
 現況を。

 縄伝いに、ヴィップ兵は城壁を降下し、城外に出てきた。
 冷静に見れば、ただそれだけのことなのだ。
 無論、事前に予測はしていた。

 しかし、予想を遥かに上回る速度。
 一瞬で降下し、また次の兵が降りてくる。
 それを実現させているのが、あの縄だ。

 兵が城壁を滑るように降りてきたかと思えば、すぐに縄が城壁の上に戻っている。
 伸縮性を備えているのだ。伸びきった縄は、反動で元の位置に戻る。
 それが、数百といった単位で用意されていた。

 負担がかかりすぎないように、なのか、縄は極力短くされていた。
 城壁の外に、土が盛ってある。あれは、今にして思えば、城壁の上からの距離を縮めるためだったのだ。
 縄が切れることも期待できない。そして、距離が短くなったことで、降下も一層、早まっている。

 驚くほどの速さで、ヴィップ兵は、城外に躍り出ていた。

(´・ω・`)「引くな! 迎撃しろ!」

 動転する兵卒に、大声で指示を出す。
 打って出てくることは、予測していた。慌てなければ、対処はできた。
 怯える必要はない。ラウンジは十万で、城外のヴィップ兵は一万にも満たないのだ。

 だが、速かった。
 ヴィップ軍の、城外の土を踏んでからの行動が、速すぎた。
110 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:27:47.40 ID:kXklKAoV0
 俊敏に動ける兵を集めたのだろう。
 しかし、それ以上に、最初から目的を持っていたことが大きい。
 不意を打たれたラウンジとは、対照的だった。

 素早く迫ったヴィップ軍とラウンジ軍が、衝突した。
 波紋が、広がる。

 暗闇に紛れて進軍してきたヴィップ軍は、的確にラウンジの前衛を潰しに来た。
 次々に膝を折るラウンジ兵。碌に反撃も成せていない。
 動揺はやはり、すぐさま拭えるものではなかった。

 しかし――――と思った。

(´・ω・`)(……どういうことだ)

 いまひとつ、腕に力が入らない。
 全身の肌が粟立つような、危機感が、ない。

 ヴィップは城外に出てきた。
 情報はないが、ミルナも打って出ているだろう。
 だが、自分の首は、いっさい脅かされていない。

 擁しているのは十万の軍だ。
 その事実を見据えれば、何ら不思議はない、とも思える。
 しかし、引っかかった。

 ミルナ=クォッチが、これで終わるはずはない。
 必ず自分の首を取りに来るはずなのだ。
115 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:30:08.83 ID:kXklKAoV0
 だが、現状では到底不可能。
 不遜ではなく、客観的に、自分の首が打ち取られることはない、と考えるしかなかった。

 ヴィップ軍は、ラウンジにほんのすこし、掠っただけのような攻撃を見せてきた。
 前衛が薄く剥がれた。しかし、ただそれだけ。

 それだけで、ヴィップは、悠々と撤退していったのだ。

(´・ω・`)(なんだ、これは……)

 また、惑わしか。
 遮二無二、敵の背中を負うべきか。
 しかし、前衛の兵は倒れ、大きな障害ではないものの、道は塞がれている。

(; ̄⊥ ̄)「前衛の兵が……」

(´・ω・`)「……生かされているな」

 正確には分からないが、ほぼ全兵、生かされているように思えた。
 致命傷となる部位を、狙われていない。

 これでは、苦しんでいる兵を放置して城を狙うこともできなかった。
 加えて、無理に追えば恐らく、城壁からFの集中放射を浴びるだろう。
 こちらからはまだ、城内をFで狙える距離ではない。

(´・ω・`)「負傷した兵の手当てを最優先。陣は、四半里下げる」

 素早く指示を出して、兵は遅々とした動きで陣を下げた。
 それでも自分は、元の位置から動かなかった。
119 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:32:41.03 ID:kXklKAoV0
 いかなる方法で、城外に躍り出るか。
 ミルナは戦前から、それを考えていたはずだ。

 方策は、城壁を縄伝いに降りる隙を、極力減らすことだった。
 確かに、あの速度なら、距離が開いた状態ではどうすることもできない。

 降下速度が遅々としていれば、その隙に近づいて城壁にFを射ることもできる。
 もちろん、ミルナはそれを嫌った。だからこその、あの縄だろう。

 伸縮性を備えた縄を作るのは、素材を間違えなければ、さほど難しくはないだろう。
 多数用意されたことが、ラウンジにとっては痛かったのだ。

 しかし――――。

(´・ω・`)(……なんだったんだ、さっきの攻撃は……)

 確かに不意は打たれた。
 だからこそ、何もできずに前衛を剥ぎ取られた。

 城を狙うべく動いていたラウンジの、意図は阻害された。
 それも、重大な事実ではある。
 しかし、ミルナの狙いは、自分の首ではなかったのか。

 まさか、裏をかかれたのか。
 首を狙う、と見せかけて、また時間を稼ぎに来ただけだったのか。
 そうだとすれば、術中に嵌まってしまったことになる。

 今回の攻撃で、また二日ほどヴィップは時間を得ることになる。
 そうやって、西の戦の終了を待ち続けるつもりなのか。
124 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:35:16.60 ID:kXklKAoV0
(´・ω・`)「…………」

 西の戦況は分からない。
 が、とにかくミーナ城攻略隊としては、一日でも早く城を落とす必要がある。

 負傷した兵の治療と、部隊の再編は、明日には終わるだろう。
 また明後日、城へと接近し、力ずくで落とすべく攻め込むべきだった。

 しかし、翌朝。

(´・ω・`)「今度は、投石機か」

 城壁から物々しく姿を現し、石を投げ込まれた。
 ただし、ラウンジ軍にまでは届かない。

 しかも、石を投げたのは最初の一度だけで、あとは全て、土の入った袋だった。
 疑念を抱かずに考えれば、土塁を築くためだと思えた。

 だが、今更すぎる。
 土塁を築くのなら、戦が始まる前に、いくらでも時間があったはずだ。
 何故、この時機で。

 おまけに、土袋は等間隔で、規則正しく投げ込まれていた。
 考え方によっては、また、意味のない行動が復活したとも思えた。
 しかし本当に意味がないのかどうか、判別できない。

 理解できない行動が、あまりに多すぎる戦だった。
 それに加えて、この戦――――

(´・ω・`)(……くそっ……)
131 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:38:35.95 ID:kXklKAoV0
 相手は、ミルナだけではない。
 かつてミルナと刃を交えた、あの男まで、自分に切っ先を向けている。
 死してなお、ヴィップの忠臣として、正面から自分に立ち向かってきている。

 そんな気がしてならないのだ。



――ギフト城付近――

\(^o^)/「さて……どうしましょうか、次の戦は」

川 ゚ -゚)「オワタ様ですか」

 風が少し、生温くなってきた。
 しかし依然として、北東の地は雪に包まれている。

 篝火が揺れて、オワタの姿も一瞬、闇に紛れた。
 陣中の視察を終えたばかりらしい。
 私は、何をするでもなくただ、火の揺らめきを見つめていた。

\(^o^)/「望むべき結果、というのを現実的に考えてみました」

川 ゚ -゚)「はい」

\(^o^)/「ギフト城を落とす。もしくは、モララーを討ち取る。いずれかです」

 風に煽られた火は、やや勢いを増したようだった。
 炭の爆ぜる音が、鮮明に響く。
140 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:41:17.05 ID:kXklKAoV0
川 ゚ -゚)「どちらも難しいことではあります」

\(^o^)/「そうですね。次点として、ニダーを討ち取る、というのもあります」

川 ゚ -゚)「しかし、狙えるのであれば、モララーを狙ったほうがヴィップにとっては痛い」

\(^o^)/「非常に難しいことですが……」

川 ゚ -゚)「ギフト城、もしくはモララーの首。
    どちらかは取れるような策を考えましょうか、オワタ様」

\(;^o^)/「そんな策がありますか?」

川 ゚ -゚)「それを、考えるのです」

 これが正式な軍議であれば、机のうえに地形図が載っているだろう。
 しかし、二人とももう、紙だけならば忘れられないほどに見た。

川 ゚ -゚)「中軸となるのはシャイツーです。モララーに一騎打ちで勝てます」

\(^o^)/「そうですね。上手く誘き出してやれば、討ち取れる可能性はあると思います」

川 ゚ -゚)「城にはニダーが張り付くはずです。
    となれば、モララーは遊撃隊として動くでしょう」

\(^o^)/「それは、やや希望的な観測が入っているのでは?」

川 ゚ -゚)「いえ、あくまでヴィップ側の視点です。
     大軍を擁するラウンジに立ち向かうには、モララーによる翻弄が不可欠です」
148 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:45:03.70 ID:kXklKAoV0
川 ゚ -゚)「ニダー=ラングラーは必ず城を守ります。根が守備のなかを張っているような男ですから。
     ビロードは分かりません。戦局眼は確かな将です、臨機応変に動くでしょう」

\(^o^)/「ロマネスクは恐らく、モララーかニダーの補佐でしょうね」

川 ゚ -゚)「いつもの陣容ならば、そうなるでしょう」

 読みどおりならば、警戒すべきはビロード=フィラデルフィアか。
 しかし、それは言わずとも、オワタなら分かっているであろうことだった。

川 ゚ -゚)「オワタ様、ここから先こそが、希望的観測が入るのですが」

\(^o^)/「はい?」

川 ゚ -゚)「実は、シャイツーとモララーの一騎打ちに関しては、策を弄する必要がない、とさえ思っています」

 月光は陰っている。
 薄雲に、遮られて。

川 ゚ -゚)「前回の戦では、モララーの読みの鋭さで、シャイツーの部隊を潰された。
    それが私とオワタ様の間で共通した認識です」

\(^o^)/「そのとおりです。さすがはモララー、と認めざるを得ませんでした」

川 ゚ -゚)「しかし、あれが単にシャイツーを狙っただけの攻撃だとしたら」

\(;^o^)/「……どういう意味ですか?」

川 ゚ -゚)「私にも、分かりません。あくまで、希望的な観測ですから」
151 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:47:37.00 ID:kXklKAoV0
川 ゚ -゚)「ですが、そういう捉え方もできる攻撃でした、あれは」

 シャイツーは、素性が一切知れない。
 孤児として山を駆けずり回っていたところを、クラウンに保護されたためだ。
 過去を調べようにも、どうしようもなかった。

 そしてモララーの過去も、あまり知れていなかった。
 両親がいることは分かっている。が、既に故郷から離れているらしく、行方知れずだった。

 つまり、偶然にしては似すぎている、とさえ思える二人の繋がりは、一切分かっていない。

川 ゚ -゚)「次の戦も、モララーはシャイツーを狙ってくると思えます」

\(^o^)/「……その可能性に賭けるのが、ラウンジとしては動きやすい形ですが……」

川 ゚ -゚)「賭けましょう。こちらは、数の利さえ活かせば、必ずモララーとシャイツーの一騎打ちに持ち込めます」

(・∀ ・)「俺の話すんなよー」

 不意に、暗闇から姿が浮かび上がった。
 寝惚け眼のシャイツーだった。

(・∀ ・)「照れるだろー」

川 ゚ -゚)「シャイツー、どうしたの?」

(・∀ ・)「静かすぎて寝れないぞー」

 昨日は、陣中が慌ただしかったため、うるさすぎて眠れないと言っていた。
 発言の一貫性など、昔からない。
155 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:51:12.49 ID:kXklKAoV0
 幼子のように、ただ誰かに構ってもらいたいだけなのかも知れない。
 しかし、戦場の中心に在りながら、それほど悠長な気持ちを抱えているわけにもいかないのだ。

川 ゚ -゚)「眠れるおまじない、してあげるから」

(・∀ ・)「やーだねー。されてやるもんか」

 伸ばしかけた手を、軽く振り払われた。
 シャイツーは大袈裟に首を振るわせている。

 普段から決して従順とは言えないシャイツーだが、行動に示すのは珍しかった。
 大抵、催眠術をかけようとすると、大人しくかかってくれるが、今日は違った。

川 ゚ -゚)「わがまま言わないの」

 もう一度、手を伸ばす。
 そしてもう一度、手を払われた。

(・∀ ・)「だってお前はおかーさんじゃないだろー」

川 ゚ -゚)「ッ……?」

 今度は、手を伸ばせなかった。
 開いていた手を、軽く、握り締める。

 今までにない意味合いの言葉を、シャイツーは口にした。
 母親。

川 ゚ -゚)(……シャイツー……?)
159 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:54:11.25 ID:kXklKAoV0
 シャイツーは孤児だった。
 それは、本人も自覚していることだ。

 だが、今まで一度も、親に対する言葉を聞いたことがなかった。
 恐らくは、忘れているのだろう。そう思っていた。
 しかし、シャイツーははっきりと、母親のことを口にしたのだ。

川 ゚ -゚)「シャイツー、お母さんって」

(・∀ ・)「うるせーなー。かんけーないだろー」

川 ゚ -゚)「お母さんのこと、覚えてるの?」

(・∀ ・)「かーんけーなーいだろ〜」

 詳細について話すことを、頑なに拒んでいる。
 なにか、シャイツーの根底に眠る意思に、触れたような気がした。

 シャイツーは戦うことでしか生きていけない。
 だが、あくまでそれは、私やショボン、クラウンの認識だ。
 シャイツー自身には、また違った思いもあるのかも知れない。

 今までは、考えようともしなかった。

川 ゚ -゚)「…………」

 モララーと通ずる何かも、あるのかも知れない。
 だが、シャイツーは喋らないだろう。
 今は調査の時間を貰うこともできない。
166 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/02(日) 23:56:24.13 ID:kXklKAoV0
川 ゚ -゚)「……おやすみ、シャイツー」

 有無を言わさず、無理やり眠らせた。
 今は簡単な手順で眠れるよう、仕込んである。
 人道的とは冗談でも言えないようなやり方だった。

川 ゚ -゚)「オワタ様、申し訳ありませんが、シャイツーを」

\(^o^)/「分かりました」

 地面に伏したシャイツーの体を、オワタが担ぐ。
 シャイツーはオワタよりも大柄だが、さすがに軍人で、軽々と抱えあげた。
 両腕を挙げている姿が、何故か様になる人だ。

川 ゚ -゚)「オワタ様、戦の構想は、私のほうでもう少し煮詰めておきます」

\(^o^)/「お願いします」

 オワタは前日から、夜通し次の戦の準備を進めている。
 疲労が溜まっていることだろう。早めに休んでもらいたかった。

 鼻先をくすぐるような微風が吹いて、また、篝火はその身を捩じらせる。

川 ゚ -゚)「…………」

 篝火に背を向けて、ゆっくりと、その場から離れた。
174 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:00:28.01 ID:IvStgnsr0
――ヒトヒラ城付近――

 夢を見た。

 自分は月で、眼下には瞬く星が犇めきあっていた。
 星は、明滅を繰り返していた。

 光がなくとも、星は消滅したわけではなかった。
 ただ、輝きが陰った。ただ、それだけのこと。
 そう思っていた。

 やがて、星は姿を眩ませた。
 ただ、それだけ。
 しかし、再び光が宿ることは、なかった。

 そんな、悪夢を見た。

(; ω )「…………」

 何刻も前から、目覚めていたような気がする。
 しかし、実際には今しがた、瞼が開かれたばかりだ。
 まだ、外は薄暗い。

 何だ、あの夢は。
 起きてすぐ、先ほどまでの世界を思い出す。

 その世界には、自分がいた。
 自分以外の仲間も、敵も、いた。
183 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:03:50.67 ID:IvStgnsr0
 刃を交え合い、普段と何も変わらない様子で、戦っていた。
 幾多ものアルファベットが戦場を彩っていた。

 そこで、はっきりと、見てしまったのだ。

 自分に近しい人が、四人、倒れゆく様を。

 そして、分かってしまった。
 その人たちに抱いていた念が、尊敬だったということも。

 肌に粟が生じたのは、寝汗をかいたからではなかった。

(*个△个)「おっはよーございまーす! ブーン大将!!」

 一瞬、アルファベットを掴みかけた。
 ルシファーの接近に、気づけなかった。

(;个△个)「……あれ? どうかしました? 顔色が良くないみたいですけど……」

( ^ω^)「……いや……」

 袖で額の汗を拭った。
 寝汗は、僅かに肌が湿っている程度だ。
 ルシファーが気付くことはなかっただろう。

( ^ω^)「なんでもないお。ルシファー、おはようだお」

(个△个)「おはようございます! 戦の朝です!」

( ^ω^)「だおだお」
196 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:06:58.75 ID:IvStgnsr0
 今日、また、ラウンジ軍に戦を仕掛けると決めていた。
 ヒトヒラ城攻略戦。こちらの戦を早めに終わらせなければ、ミーナ城防衛戦が苦しい。
 ショボンと相対しているミルナのために、一日でも早く決着をつけなければならない。

 ミルナのことを思い出して、また悪寒が駆け巡った。
 ミルナだから、ではない。ただ、先ほどの、忘れ難い悪夢。
 あれは、ヒトヒラ城攻略戦の将校に限った話ではなかった。

 ミーナ城防衛戦、そしてギフト城防衛戦。
 無論、このヒトヒラ城攻略戦も含まれる。

 そのなかの、四人。

 ただの夢だ。夢に過ぎない。
 現実になることなど、ありえないと思うべきなのだ。

 だが、もし現実になるとしたら。

(; ω )「…………」

 四人は、いかにも、多すぎる数だった。


( ゚∀゚)「おう、相変わらず起きんのが早いな」

 身支度を整えた後、朝餉を摂りに向かっていた、その途上。
 夜半のうちに起きていたらしいジョルジュと出会った。

( ^ω^)「おはようございますお」
212 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:12:24.58 ID:IvStgnsr0
( ゚∀゚)「よく眠れたか?」

( ^ω^)「うーん、それなりですお」

( ゚∀゚)「つっても、睡眠時間は四刻か五刻くらいだろ? 大丈夫か?」

( ^ω^)「最近は慣れましたお」

( ゚∀゚)「俺も大将やってた頃は、長くても八刻程度で、四刻なんてのも珍しくなかった。
     でも、結局は体調崩して、みんなに迷惑かけちまった……」

( ^ω^)「それは……」

( ゚∀゚)「お前もそうなるとは限らねぇけどよ、休めるときには休めよ。
     大将ってのは、兵卒にとっちゃ、止まり木だ。大樹なんだ」

( ^ω^)「……もちろん、心得てますお」

( ゚∀゚)「そうか、そうだな。要らん節介だった」

 ジョルジュが手を振りながら、遠ざかっていく。
 見慣れた光景のはずなのに、あの夢のあとだと、予兆を感じてならない。
 一瞬、胸を手で押さえてしまったほどに。

 冷めた朝餉を腹に押し込んで、軽く体を動かした。
 体調はここ最近、ずっと良かった。今なら、手合いでも誰にも負けない、と思うほどに。
 そして、戦の指揮の調子も、上向きだ。
221 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:15:07.83 ID:IvStgnsr0
 以前よりも遥かに、深く、そして先まで、戦を見通せるようになった。
 戦術の引き出しも増えた。
 寝る間を惜しんで勉強を続けた甲斐が、少しはあったのだろうと実感している。

 客観的に見て、今の自分がギルバードやプギャーに負けるとは思えなかった。
 無論、ジョルジュやヒッキー、ルシファーらの支えを前提とした話だ。
 自分ひとりでは到底、戦い抜くことなど、できはしない。

(-_-)「……今日は、晴天だな……」

( ^ω^)「ヒッキーさん。おはようございますお」

 一日中そうだが、朝は特に眠そうに見えるヒッキーが、空腹を満たすべくやってきた。
 しかし、近頃のヒッキーは小食で、数口で食事を終えてしまう。
 五十を過ぎるとそんなものだ、と自虐的な口ぶりで語っていたが、そうなのだろうか。

(-_-)「……ジョルジュ中将は……」

( ^ω^)「もう、戦の準備を始められてますお」

(-_-)「そうか……分かった……」

 たった二口、糒を食しただけで、ヒッキーは立ち去ってしまった。
 やはり歳を取ると、食欲も衰える、ということなのだろうか。
 釈然としないものは、無論あった。

( ^ω^)「…………」
235 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:19:03.04 ID:IvStgnsr0
 天候に恵まれた日だが、そのぶん、空気は純粋に冷たかった。
 平原には風を遮るものもなく、順調に寒気を運んで来ている。
 体を動かしていなければ、歯が震えて音を立てるほどだ。

 アルファベットXを振り回して、寒風を切り裂いた。
 大型の刃を持するXは、一度に複数の敵を斬り伏せることができる。
 自分には合っているアルファベットかも知れない、と近頃感じるようになっていた。

 敵は、七万に近い軍勢。
 対するヴィップ軍は、半数に満たない兵力だ。
 それでも現状、互角に戦えているのは、やはり将の層の厚さが違うからだった。

 現大将である自分と、元大将であるジョルジュ。
 実力や実績から言えば、中将でもおかしくないヒッキー。
 新進気鋭のルシファーもいる。やはり、将の質の違いは、大きい。

 だがもし、将が失われるとすれば――――

(  ω )「…………」

 ――――また、そのようなことを考えてしまっていた。
 頭を振って、前を見据える。

( ^ω^)「……陣を展開、斥候は敵陣の様子を」

 思考を戦のみに集中させるべく、命令を下した。
 まだ朝の匂いが残っている時間だが、既にラウンジ軍も準備は万端なようだ。
243 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:21:49.94 ID:IvStgnsr0
 この戦いで、決着をつけたい。
 東の戦、ミルナの防衛戦は、苦戦必至なのだ。
 時間さえあれば、ショボンは確実にミーナ城を落とす。

 その、前に。
 自分たちがヒトヒラ城を陥落せしめ、ショボンに圧力を掛けて、撤退させなければならないのだ。

(兵#=#)「ご報告申し上げます! ラウンジ軍は魚鱗を組んだまま進攻してくる模様!」

( ^ω^)「ありがとだお」

 魚鱗で攻める、基本に忠実な戦。
 大軍を擁している側の選択としては、無難極まりなかった。
 誰からも非難されることはない。だが、決して褒められもしないだろう。

 そして無論、基本に忠実な戦は、真っ先にヴィップの想定にも入ってくるのだ。
 つまり、ヴィップは万全な対策を練ってある、ということだった。

( ^ω^)「四隊に分けて、迎撃するお」

 自分と、ジョルジュと、ヒッキーと、ルシファー。
 四人がそれぞれ八千を率いて、どこに比重を置くこともなく、隊を分ける。
 魚鱗の攻撃力を削ぐのが目的だ。

 積雪は、一時期より薄くなってはいるが、まだ馬が存分に駆けられる状態ではない。
 雪中の戦いに慣れてきた、歩兵の機動力に期待すべき戦だった。

 四隊を横に並べた。
 騎兵隊を率いているのが自分で、あとは全て歩兵隊。
 I隊を率いるのがジョルジュ、H隊を率いるのがルシファー、G隊を率いるのがヒッキーだ。
252 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:24:34.82 ID:IvStgnsr0
 それぞれの役目を分割したのも、対策を練りやすくするためだ。
 I隊が攻撃されたらG隊が補う。H隊が攻撃されたらI隊が補う、など。
 事前に可能な限り想定して戦に臨めば、兵卒が逡巡することもない。

 できる限りの手は打った。
 あとは、ラウンジの出方を見るのみだ。

(兵#=#)「ラウンジ軍、加速して進軍!」

 皚々とした雪原に、立ち並ぶは、戦に生きる者たち。
 迫り来るも、戦に生きる者たち。

 どちらかを潰すことでしか、戦は、決して終わらない。

( ^ω^)「鉦を!」

 ラウンジの魚鱗と、僅か二里ほどの距離になってから、指令を出した。
 何が狙いかを、見定めることができたからだ。

 ラウンジはまず、ルシファーのH隊を潰しに来た。

 想定内だ。ルシファーの補助には、ジョルジュが入る。
 側面援護はヒッキー。圧力を掛けるのは、自分だ。
 それぞれが、俊敏に動いていた。

 魚鱗は、一度攻撃した部隊が後ろに下がり、背後の部隊が次の攻撃を繰り出す。
 そうやって間断なく攻め込むのが最大の魅力だが、必ず欠点として露わになるのが、後退だ。
 攻撃を終えたあと、陣の尾に戻る際、どうしても隙ができる。
259 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:27:21.33 ID:IvStgnsr0
 そこを、見逃さない。
 実際に攻め込まなくともいい。圧力さえ、掛けておけば。
 ラウンジの攻撃は、必ず鈍る。

 寡兵であることの重みは、戦が長引けば長引くほど、圧し掛かってくるのだ。
 加えて、ヴィップの兵は連戦で疲れが溜まってきている。
 直接に刃を交えずとも、優位に立てるよう戦わなければ、負けてしまうのだ。

 力強くアルファベットXを握り締めた。
 ラウンジの先陣と、ルシファーの部隊が、ぶつかった。

( ^ω^)「行くお!」

 衝突の瞬間、動きだした。
 魚鱗は、敵とぶつかったあと、半分に別れて後方へ向かう。
 自分の部隊は現在、魚鱗の西側に居た。半分の兵は、牽制できる。

 突っ込んでもいいかも知れない。
 ふとそう考えたが、今はまだ、出方を窺うべきだ。
 ラウンジの全体的な狙いまでは見えていない。

 前回の戦も、ヴィップが勝利を得たことは間違いない。
 が、撤退するラウンジ軍からは、何故か若干の余裕感が漂っていたのだ。
 具体的に言えば、負けるを良しとまではしないものの、これも悪くないと感じているような空気。

 あの戦が、何かの布石になっている可能性がある。
 ギルバードほどの男なら、敗戦を無駄にはしないだろう。
 必ず次の戦に活かしてくるはずなのだ。

 だから、この戦は、慎重に臨むべきだった。
262 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:29:46.43 ID:IvStgnsr0
( ^ω^)「ッ……」

 ラウンジの攻勢は、凄絶と表現して良かった。
 深く、深く、一兵でも多く討ち取ろうとして攻撃している。
 防ぎ続けるルシファーの部隊との攻防は、熾烈を極めていた。

 だが、ルシファーも確実に戦は上手くなっていた。
 いつも言葉や表情は怯えを隠さないが、不思議と戦は思い切りがいいのだ。
 大軍のラウンジに対しても、まったく引いていない。

 しかし、兵力が削がれることによる後退は、致し方ないことだ。
 甚大な被害にはならないよう、ジョルジュが上手く助けてくれている。
 戦の経験は誰よりも豊富なジョルジュ。やはり、頼もしい存在だった。

 やがて先鋒が後方へと戻ろうとした。
 すかさず、退路を脅かす。
 実際に刃を交えるには至らないが、攻撃は確実に鈍っている。

 雪が溶け出すような熱気の中での戦い。
 寒風さえ、この身を冷やすことはない。

 ラウンジ軍によるルシファーへの攻撃は、続いていた。
 部隊はまだ、形を保っている。まだ、しばらくは戦えるだろう。
 だが、いずれは崩壊させられ、抗う間もなく大勢が討ち取られてしまうかも知れない。

 いま手痛いのは、ヒッキーの部隊があまり活きていないことだ。
 本来ならば、ルシファーへの攻撃を分散させ、痛みを分け合う予定だった。
 しかし、ラウンジの攻撃が想定より激しい。そして、ヒッキーには目もくれていない。
268 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:32:39.33 ID:IvStgnsr0
 東と西から押し潰すべきか。
 攻撃を終えた部隊が後方に戻る隙を、狙うべきなのか。
 だが、やはりまだ、明確な目的が見えてこない。

 火の出るような烈しい攻めだからこそ、躊躇うのだ。
 これが何かの、囮なのではないかと。

 だが、戸惑いつづけていては、負ける。
 そう考えていた、矢先に――――

( ^ω^)「ッ!!」

 既に、ラウンジの攻撃部隊は四隊目。
 間断なく続けられる、ルシファーへの攻め。

 しかし、魚鱗全体へと、目を向けてみれば――――

( ^ω^)(陣が……)

 緩んでいる。
 隙間が出来て、守りが、疎かになっている。

 考えるまでもなく、好機だ。
 今の状態で側面攻撃を受ければ、ラウンジは間違いなく潰走する。
 いや、殲滅戦に持ち込むことさえ、可能かも知れない。

 ――――普段なら、絶対にそう考える場面だ。

 手先が微かに震え、即座に下知を下せないでいた。
 そのとき、鉦が鳴った。
275 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:35:32.19 ID:IvStgnsr0
(;^ω^)(ジョルジュさん?)

 仲間と意思疎通を図るための鉦。
 戦場に響く干戈の声は、次第に増してきている。
 しかし、だからこそ、と考えてしまうのだ。

 その状況下で、ジョルジュが自分に提案してきたこと。
 それは――――

(;^ω^)(魚鱗本隊への急襲……)

 特に、中核だ。
 恐らくギルバードとプギャーが待ち構えている。

 守りは、疎かで、隙だらけ。
 古くなった布のように、少し手を加えてやるだけで、いとも簡単に破綻するだろう。

 戦の経験が多ければ多いほど、隙を見つけるのは上手くなり、付け込むことも上手くなる。
 だから、ジョルジュは即座に見抜いたのだ。

 時間を置けば、ラウンジは自らの隙に気づき、補修してしまうかも知れない。
 付け込むなら、早い方がいいのは事実だ。
 ジョルジュの提案は正しい。

 だが、それさえも好餌に見えてしまう。

(; ω )(……ここは……)
283 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:39:44.04 ID:IvStgnsr0
 判断が、つかない。
 大将である自分が、戦場で惑うなど、あってはならないことなのに。
 そう、分かっているのにも関わらず。

 ジョルジュを、行かせろ。
 夢を見る前の自分が喚く。

 ジョルジュを、行かせるな。
 夢を見た後の自分が引き止める。

 心臓の鼓動が肋骨を叩く。
 返答の鉦さえ、鳴らさせることができない。

 やがてジョルジュから、再び、鉦。

(;^ω^)「……ジョルジュさん!!」

 ジョルジュは、決断した。
 魚鱗本隊へと攻め込むことを。

 間違った判断であるはずがない。
 引き止める理由は、理屈として、何一つないのだ。
293 :第108話 ◆azwd/t2EpE :2008/11/03(月) 00:42:25.52 ID:IvStgnsr0
 だが、しかし。
 この戦、あるいはギフト城、ミーナ城方面で。

 四人が、消えるとするならば――――


 ――――恐らく、これが、その引き金になる。













 第108話 終わり

     〜to be continued

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