2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:29:11.71 ID:9jA+QYFf0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:30:48.22 ID:9jA+QYFf0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヒトヒラ城・南東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
18 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:31:50.65 ID:9jA+QYFf0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城・南東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

19 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:32:51.32 ID:9jA+QYFf0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
22 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:34:01.88 ID:9jA+QYFf0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ
T:ニダー/ギルバード
U:ジョルジュ/モララー
V:シャイツー
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン

23 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:35:00.82 ID:9jA+QYFf0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

25 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:36:50.70 ID:9jA+QYFf0
【第107話 : Rival】


――シュヴァリエ城周辺――

 騎士の集う場所。
 かつては、そう呼ばれていたらしい。

 もっとも数百年の歴史を紐解いたところで、騎士という職業がこの地方に存在していた事実は見当たらない。
 馬がまだ貴重な生物だった頃に、訓練を積んだ兵を添えて国に馬を献上していた者を、騎士と呼んでいたそうだ。

 要するに裕福な人間を指す言葉だった。
 そんな人間が集まって、何のためにか分からないが、建てられた城。
 シュヴァリエ城。もう何十年も戦乱に巻き込まれていない城だった。

( ’ t ’ )(……全土、最小か……)

 国が認める『独城』のなかでは、最小だった。
 ミーナ城の属城である、エスカルティン城よりも小さい。
 周りに城がないため独城とされているが、まともに戦える城ではなかった。

 仮にラウンジがここまで防衛線を下げていた場合は、苦しかっただろう。
 容易く包囲されて締め上げられてしまったはずだ。
 だが、今のところは戦火に晒されることもなく、城壁は美しい曲線を描いていた。

 雪に閉ざされた山村を去ったあとは、北端の地にまで足を運んだ。
 指を入れると凍ってしまいそうな海に浮かぶ船は一隻もなく、ただただ水平線だけが横たわっていた。
30 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:39:18.41 ID:9jA+QYFf0
 海の果てに存在するものの正体は、誰も知らない。
 世界は平面で、果てまで辿りつけば世界から零れ落ちてしまう、とも言われていた。
 世界は球体で、一周して南のマリミテ城に到達できるとも言われている。

 真相は、分からなかった。
 いずれは誰かが研究して、答えを得るのだろう。
 そしてそれは自分の役割ではなかった。

 自分にできることは、せいぜい、この地の戦を見届けること程度なのだ。

( ’ t ’ )(……でも……)

 それこそが、何よりも大切なこと。
 ある意味では、誰にもできないこと、だった。

 シュヴァリエ城の城下町に足を踏み入れた。
 面積だけを見れば、シュヴァリエ城よりもはるかに大きな町だ。
 北部の流通が集約される町とあって、多くの商人で賑わっていた。

 町に立ち寄った理由は、特になかった。
 山賊に襲われていた村を助け、出立する際に食糧は貰っている。
 まだ消化しきれていないほどの量だったのだ。町で調達する必要はなかった。

 単に、町の風景を眺めたかっただけだ。
 自分が戦場としてきた地に、暮らす民の、営み。
 本来、軍人として顧みるべきだった点を、自分は顧みてこなかった。

 あるいは、だからこそ、あの山村に不幸が訪れたのかも知れない。
 自分はもう、国家運営に携わることもないだろうが、それでもできることはある。
 知っておくべきことは、ある。
32 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:41:53.55 ID:9jA+QYFf0
( ’ t ’ )(……ん、安いな……)

 露店が立ち並ぶ通りを歩いていたとき、目と足が止まった。
 塩と氷に漬けられた魚を売っている店だ。

 肩幅ほどの寒鰤が、特化で販売されている。
 ラウンジの城下町の、半値さえ下回っていた。
 恐らく、店主が自ら釣って店に並べているため、余計な費用がかかっていないのだろう。

( ’ t ’ )「いつ、釣られたのですか?」

( ◇+◇)「今朝方でごぜぇます」

 俯き加減で発された声は、少し聞き取りづらかった。
 あまり商売には慣れていないのだろうか。

( ’ t ’ )「いい寒鰤ですね」

( ◇+◇)「へぇ、店に並べても恥ずかしくないものが、獲れやした」

( ’ t ’ )「半身、いただきます」

 食糧には困っていなかったが、値段に相応しくないほどの、いい寒鰤だ。
 食べたくなってしまった。

( ◇+◇)「ありがとうごぜぇやす」

 手際よく捌かれ、氷と塩を敷き詰めた箱に放り込まれる。
 銭を渡して、魚を受け取った。
35 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:45:01.04 ID:9jA+QYFf0
( ’ t ’ )(いい寒鰤が手に入ったことだし……)

 次は昆布と鰹節を買い求めた。
 その他、白菜や椎茸、大根や人参、葱などを次々に銭と引き換えて袋に入れていく。
 最後に、小振りの銅鍋を手に入れてから、町を離れた。

 町から五十里ほど、馬で駆ける。
 雪化粧を施し終えた森に入って、雪の積もっていない場所に腰を下ろした。

 風除けを作ってから火を熾し、鍋を掛けた。
 水と昆布をまず煮込んでから、鰹節を投入する。

 煮立つのを待つ間に、野菜を細かく切り分けて、寒鰤を捌いた。
 火が通りやすいよう、寒鰤は薄めに切る。
 少量の酒を混ぜ込み、十分に出汁の取れたところで、野菜と寒鰤を鍋に落とした。

 鍋からは湯気が放たれ、ぐつぐつと音が立っている。
 昆布と鰹節の匂いが鼻を満たした。

( ’ t ’ )(……よし)

 寒鰤と野菜が煮えたところで、鍋から引き上げて食した。
 出汁がよく取れていて、食材に味がしみ込んでいる。
 特に寒鰤はやはり、見こんだとおり、脂が乗っていて旨かった。

 料理は、ベルの従者だった頃に毎日やっていた。
 本来は給仕の仕事だが、とにかくベルのために働きたい一心で、無理やり仕事を貰っていた。
 味付けの好みは今でも思い出すことができる。
43 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:48:46.23 ID:9jA+QYFf0
 最初は酷評されたが、次第に何も言われなくなったのを覚えている。
 褒められたことはなかった。ベルが戦死するまで、一度たりとも、だ。
 淡々と、客観的な評価しか下してはくれなかった。

 ベルは長年、若手育成に注力してこなかったことを悔いたという。
 だからあまり、育てることが得手ではなかったのだろう。
 自分に対する接し方も、どこか不器用さを感じた。

 だが、ベルは国への忠誠心のみで、自分を中将に上り詰められるだけの男にしてくれた。
 感謝の念が尽きることは、死ぬまでないだろう。

 出汁を啜ると、胸のあたりから全身に熱が広がった。
 また野菜と寒鰤を投入して、火が通るのを待つ。
 一人で食べるには少し多かったか、などと、考えていた。

 そのとき。

( ’ t ’ )「ッ……!!」

 アルファベットを構える。
 薄暗い森のなか、光の中心は自分の鍋だ。
 広範囲には行き届かない。姿形までは、確認できなかった。

 だが、誰かが居る。
 この森に、自分の側に。
46 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:51:17.73 ID:9jA+QYFf0
从;´ヮ`)「す、すみません……」

 恐る恐る木蔭から顔を出したのは、女だった。
 まだ成人もしてないであろう、若年の女だ。
 小さな荷物を抱えていた。

( ’ t ’ )「……ここで、何を?」

 自分が聞くようなことでもないが、尋ねてみた。
 衣服は端々が欠けており、手先も少し汚れている。
 近隣に住む平民、ではないようだった。

从;´ヮ`)「旅の途中で……寒さを凌ぐため、森に入ったのですが……匂いにつられて……」

 顔がやつれていた。
 容姿そのものは美しいが、そのせいで貧相に見えてしまう。
 栄養をつければ、元の美しさを取り戻すのだろう。

 そして、視線は自分にではなく、煮立つ鍋のほうへと向いていた。

( ’ t ’ )「……食べますか?」

从*´ヮ`)「いいんですか!?」

 遠慮する余裕もないのだろう。
 すぐさま鍋の側に座って、箸で寒鰤を掴んだ。
 素早く口に運び入れていく。
53 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:53:44.93 ID:9jA+QYFf0
从*´ヮ`)「すみません、おいしいです」

( ’ t ’ )「そうですか、それは良かった」

 一人では少し多い、と思っていた量だ。
 分け与えても、何ら問題はなかった。

 半刻もしない間に、食材は全て無くなっていた。
 残り汁のなかに鶏卵と太麺を投入する。
 彼女は再び目を輝かせた。

从*´ヮ`)「おいしいです、おいしいです」

(;’ t ’ )「そ、そうですか……それは、良かった……」

 七割ほどを彼女が胃に収めてしまった。
 一人では多い量だと思っていたものの、これほど食べられては、満腹感が得られない。
 しかし、彼女の幸せそうな表情を見ると、何も言えなかった。

从*´ヮ`)「ありがとうございます! おなかいっぱいです!」

(;’ t ’ )「でしょうね……」

从*´ヮ`)「助かりました……お金がなくて、何も食べられなくて……」

( ’ t ’ )「どこへ行こうとしていたのですか?」

从*´ヮ`)「故郷に帰るんです。出稼ぎに出てたんですけど」
55 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:56:15.61 ID:9jA+QYFf0
 鍋を火から降ろしたあとは、毛布をかぶりながら、二人で火を囲んだ。
 北部の夜は、冷える。充分に暖を取らないと、凍死しかねなかった。

从;´ヮ`)「でも途中でお金が……せっかく出稼ぎに出たのに……」

(;’ t ’ )「……それは……」

从*´ヮ`)「でも問題ないです、いい経験になりましたから」

( ’ t ’ )「何の仕事をなさっていたのですか?」

从*´ヮ`)「ラウンジ城で、掃除婦を」

 ――――数瞬、体が固まった。

(;’ t ’ )「……ラウンジ城で?」

从*´ヮ`)「はい、とっても大きなお城なんですよ!」

 この口ぶりからするに、自分のことは知らないようだ。
 単に顔を見たことがないだけなのか、それとも自分が軍を去ったあとに城で働きだしたのか。

从;´ヮ`)「まぁ、実はミスばっかりで……たった三ヶ月で、クビになっちゃったんですけど……」

( ’ t ’ )「……そうなのですか……」

 自分が、軍を去ったあとのようだった。
 そういえば前にも、同じようなことがあったな、などと思っていたとき。
 ふと、懐かしい匂いがした。
60 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 22:59:14.04 ID:9jA+QYFf0
( ’ t ’ )(……もしかして……)

从*´ヮ`)「故郷はここから西のほうにあるんです。山のなかにあって、田舎なんですけど」

( ’ t ’ )「……数十人くらいが暮らしてる村ですか」

从*´ヮ`)「そーですねぇ〜」

 食事を取って、表情に輝きが宿ったところで、感じた。
 雰囲気が、どことなく似ていることに。

从*´ヮ`)「今日のお礼、今はできないんですけど……でも、村まで来てくだされば!」

( ’ t ’ )「いや、それはちょっとできないんです、すみません」

从;´ヮ`)「えー!!」

 性格は、正反対だった。
 仮に姉妹だとすれば、だ。
 しかし、顔立ちや髪質に、共通点があるように思えた。

从;´ヮ`)「じゃあどうすればいいんですか? ここに住んでる人でしたら、また戻ってきますけど……」

(;’ t ’ )「いや、僕も旅の途中なので……」

( ’ t ’ )「……でも、気にしないでください。些細なことですし、それにいずれは――――」

从*´ヮ`)「じゃあー……とっておきの軍事情報、教えちゃいます」

( ’ t ’ )「……え?」
69 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:01:53.70 ID:9jA+QYFf0
 いずれは村に行くことになる、と言いかけたところを、遮られた。
 そしてその、遮った言葉。

 軍事情報、と彼女は言った。

从*´ヮ`)「あ、ナイショですよ? それに、あんまりいい話じゃないですし」

( ’ t ’ )「……どこから得た情報ですか?」

从*´ヮ`)「なんか、私のこと気に入ってくれた将校さんがいて、その人に教えてもらいました」

 しまったな、と最初に思った。
 こういうところから漏れることは、考慮していたが、それにしても容易い。
 もう自分は軍とは関係ないが、しかし、過誤を恥じなければならない、と思った。

 アルファベットが民間に降りていたこともそうだが、軍の体系が芳しくなかった。
 規律が緩んでいる、とも言える。
 恐らく、ショボンはそこまで手が回らないのだろう。

 ベルから軍を引き継いだ、自分やアルタイムなどが、引き締めるべきだったのだ。
 散々ショボンに迷惑を掛けておいて、今また更に迷惑を掛けてしまっているのは、心苦しかった。
 しかし、軍に戻って対策を打つわけにもいかない。

 結局もう、自分にはどうすることもできないのだった。
 やはり、戦の行方を見守ることしか。

( ’ t ’ )「情報は、どのようなものでしょうか」
103 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:16:37.12 ID:9jA+QYFf0
 だからこそ、聞いておきたかった。
 軍事情報は確実に、戦況に影響を及ぼすもののはずだ。
 大小に違いはあれど、確実に。

从 ´ヮ`)「実は……ラウンジの国王、クラウンさんが、倒れちゃったそうで……」

( ’ t ’ )「ッ!!」

从 ´ヮ`)「喀血して、意識不明の状態が続いて……今は意識あるみたいなんですけど……」

从 ´ヮ`)「でも……もう一年はもたない、って言ってました……」

( ’ t ’ )「……それ、は……」

 クラウン=ジェスターが。
 国王が、倒れた。

 何十年も執政に携わってきた王だった。
 王でありながら、昔は戦場に立ち、近年は誰よりも優秀な文官として、働き続けていた。
 そのクラウンが、倒れた。

( ’ t ’ )「……そう、なのですか……」

 ショボンは、ショボンはどうなる。
 クラウンの命令で、実に三十年以上も埋伏の毒を続けていたショボンは。
 ラウンジへの忠誠のみならず、クラウンへの忠誠があったからこそ、ショボンは無類の強さを発揮していたはずだ。

 しかし、クラウンは倒れた。
 しかももう、永くはもたないという。
115 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:19:56.81 ID:9jA+QYFf0
 これからラウンジは、いったい、どうなってしまうのか。
 分からないままに、夜は深々と更けていった。



――ヒトヒラ城周辺――

 二度目の戦だった。

 今度は、ラウンジのほうから仕掛けてきた。
 前回の戦とは違い、数的優位を活かした攻めだ。
 城門の前に一万のG隊を置いてから、心置きなく攻め込んできている。

 それに加え、どこか兵の動きにも切れがあった。
 はっきりとした目的意識を持っているように見える。

 恐らくは、単純明快な指令を与えられているのだろう。
 そのほうが、兵卒は動きやすい。
 単純であればあるほど、アルファベットを振るうことのみに集中できる。

 間者からの情報は入っていない。
 潜入させることも難しい、潜入させても戻って来られない、とブーンは言っていた。
 内部情報を得ることに期待はしないほうが良さそうだった。

(-_-)「……鉦を……」

 守勢に回るべく、陣を組み換えた。
 最初は、攻勢をもって迎え撃つつもりだったが、あまり無理はしないほうがいい、と判断したためだ。
 ブーンも、突っ込みすぎないように警戒しながら、敵を牽制している。
120 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:22:24.61 ID:9jA+QYFf0
 ラウンジは、六万を半分に分けて、二隊で陣を展開していた。
 動きそのものは鈍重だが、簡単に翻弄されない数の厚みを活かしている。
 巨体がそのまま圧し掛かってくるような感覚があった。

 対するヴィップは、ブーンが騎馬隊を率いて、敵の狙いを一点に絞らせない。
 後ろに控えている自分やジョルジュ、ルシファーは、ブーンに守ってもらっている形だ。
 今のうちに、多少の攻撃で崩されないような体勢を整えなければならない。

 手早く陣を固めた。
 ラウンジからの圧力は、ほぼない。
 ブーンが忙しく動いて、ラウンジの動きを限定してくれているおかげだった。

 いつの間に、と思うほど、ブーンは戦が上手くなった。
 特に、咄嗟の判断力はショボンにも引けを取らないだろう。

 それでいて、慎重さも持ち合わせている。
 敵に勢いがあるときは無理をせず、僅かな隙を窺って、反撃に出る。
 戦局眼も、度重なる戦を経てきたおかげで、養われたようだった。

 ギルバード、プギャー、アクセリトと将校は揃っているが、比較にならない。
 もはや、ブーンに敵う将校たちではなかった。

(-_-)(……しかし……)

 だからこそ、不可解でもあったのだ。
 先の戦で、ブーンに完敗を喫したにも関わらず、逆に攻め込んできたことが。
 これからは大人しく完全守勢に回るものと考えていたが、まるで違った。正反対の行動だった。
130 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:25:16.16 ID:9jA+QYFf0
 愚行にも思える。
 しかし、プギャーならまだしも、ギルバードに限ってそれはないはずだ。
 何度も干戈を交えた相手。力量は、知り尽くしているつもりだった。

 かつて大将だったアルタイムよりも、将としての才覚は、上だった。
 実質、カルリナに次ぐ位置の男だったのだ。

 今もショボンに次いでいる。
 特段、不調に陥ったとも思えない。
 ならばやはり、何かあると見るべき状況だった。

( ゚∀゚)「ヒッキー、ラウンジの左翼、陣が緩んでるぞ」

 ジョルジュが駆け寄ってきた。
 指さした先には、プギャー率いる歩兵隊。
 確かに、ブーンに翻弄されているプギャーは、陣を固めることが疎かになっている。

( ゚∀゚)「今のうちにプギャーを潰しちまうのが、得策だ」

 ジョルジュは、そう言った。
 が、しかし。

 本当にそうすべきか、独断では決められない。
 いや、決めるべきではない、と思えた。

 ジョルジュの言うとおり、プギャーの守りは緩んでいる。
 いつも通りのプギャーだ、と思える。
 しかし、本当にそうなのか。
136 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:27:47.37 ID:9jA+QYFf0
 あえて攻め込んできたラウンジ。
 誂えたような、守備の、隙。

 一歩踏み出した先は、泥沼なのではないか。
 自分は、そう思った。

 しかし、ジョルジュが潰そうと言っている。
 自分よりも遥かに、戦巧者であるジョルジュ=ラダビノードが。

( ゚∀゚)「もたついてたら、機を逃しちまう。行くぞ、ヒッキー」

(;-_-)「……お待ちください、ジョルジュ中将」

 ジョルジュのUを、掴んで引き留めようとした。
 熱が発することに気づいて手を止める。
 ジョルジュの動きも、止まった。

( ゚∀゚)「……なんだ?」

(-_-)「……ここは、独断で動くべきではありません……ブーン大将の認可を」

( ゚∀゚)「それじゃあ遅ぇよ」

 確かに、ジョルジュの言うとおりではあるのだ。
 今からブーンに確認を求めていては、好機を逃しかねない。

 自分も、本気でブーンに許可を取ろうと思っているわけではなかった。
 ただ、今この時機に、動くべきかどうか、判断がつかないのだ。
 踏みとどまるべきだ、と心のどこかで、誰かが、囁いているのだった。
141 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:30:55.75 ID:9jA+QYFf0
( ゚∀゚)「いつまでも留まってるわけにゃいかねぇ、行くぞ」

 ジョルジュは、駆けだした。
 もう、抗いようがなかった。

 しかし、今度はブーンの猛攻が止まらなかった。
 プギャーの隙に気づいたのは、ジョルジュだけではなかったのだ。
 一穴を広げるようにして、見る見るうちに、プギャーの部隊は崩壊していく。

(;゚∀゚)「……おいおい、ブーン……」

(;-_-)「……これは……」

 知らない間に、自分の全身は、粟立っていた。
 ひたすら呆然としてしまうような、圧倒的な戦。
 プギャーとて何十年も戦ってきた将だ。なのに、なにもできないでいる。

 縦横無尽に振るわれるアルファベットX。
 留まらずに動き続ける、配下の騎馬隊。
 全てが、圧倒的だった。

 慌ててギルバードが、ブーンを牽制しにいく。
 しかしそのときこそが、自分たちの出番だった。

 ギルバードの部隊に、真横から当たった。
 寡兵であるのはこちらだが、状況は悪くない。

 その間に、ブーンは、凄まじい勢いでラウンジ軍を削り取っていく。
149 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:33:54.42 ID:9jA+QYFf0
 ここからでも、はっきり見えた。
 アルファベットXが、振り下ろされると、いくつもの首が飛ぶ。
 降り注ぐ雪に、朱が混じる。

( ゚∀゚)「……いつの間にか、だな……」

 ジョルジュは、自分と同じ感想を、呟いていた。

 ラウンジは素早く撤退した。
 これも、まるで予定通りのような速やかさだったが、勘繰り過ぎているのかも知れない。
 事実、プギャーはジョルジュの言うとおり、単に守りの脆さを露呈していただけだった。

( ^ω^)「……思ったより、討ちとれませんでしたお」

(-_-)「……?」

 戦が終わったあと、戦勝に沸く陣内で、ブーンは淡々と述べた。
 中央に構えられた幕舎内。
 自分と、ブーンと、ジョルジュと、ルシファーが火の周りに座している。

( ^ω^)「プギャーは攻めばかり考えて、明らかに守りへの意識が薄れてましたお」

( ゚∀゚)「だな。俺もそう思ったから、攻めようとした」

 その言葉のなかに、自分への批判は、込められているのだろうか。
 分からなかった。器は大きい男だと知っているが、今のジョルジュには、多少の焦りもあるはずだ。
158 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:36:33.48 ID:9jA+QYFf0
( ^ω^)「だけど、プギャーはすぐに下がって、なかなか討ち取らせてくれませんでしたお」

( ゚∀゚)「直前で気づいて回避行動を取ったってことか?」

( ^ω^)「だと思いますお。でも、ある程度は予測していた、という動きにも見えたんですお」

 自分やジョルジュの位置からは、よく見えなかった。
 ただ、撤退が驚くほど滑らかだったことには、違和感を覚えさせられた。

( ゚∀゚)「プギャーにそこまでの予見力があるかどうか」

( ^ω^)「それは確かに、微妙ですお。でも」

(-_-)「近頃は、悪くない戦いをしている……引っかかっているのは、そこか……」

( ^ω^)「ですお、ヒッキーさん」

 しかし、現段階で答えを出すことはできなかった。
 もう一度戦ってみないことには、分からない。

 が、次で答えを得ればいい、という姿勢が災いする可能性も、あるにはあるのだ。

( ゚∀゚)「しかし、強くなったな、ブーン」

 ジョルジュは、表情を微かに動かすこともなく、言った。
 だが、喜色はどうやら、声のほうに込められていたようだ。
168 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:40:13.56 ID:9jA+QYFf0
(;^ω^)「いやいやいやいや、それはありえないですお」

( ゚∀゚)「本音さ。周りに支えられて強くなる、と思ってはいたが……ここまでになるとは」

( ^ω^)「ジョルジュさんもヒッキーさんも、もちろんルシファーも……。
     みんなが頑張ってくれるから、ブーンは心置きなく戦えるんですお」

 それにしても、盤石の戦を展開するようになった。
 揺れ動くことも多かっただろう。苦悩や煩悶もあっただろう。
 しかしブーンは、それらを乗り越えて成長を重ねてきたのだ。

 そして何より、ヴィップが最も苦しかった時期に、大将に就任したことが、大きかったはずだ。
 ショボンに裏切られ、西塔の面々には怪しまれ、それでもブーンはヴィップを想いつづけた。
 ショボンを討ち取るべく、奮戦しつづけてきたのだ。

 誰よりも苦労してきた男だ。
 報われた、と言っていいだろう。

 だから、ブーンに対する心配は、何もない。
 自分ごときが心配するというのも、おこがましい話になっている。

 微かな不安を抱いてしまうのは、やはり、ジョルジュ=ラダビノードだった。

( ゚∀゚)「これで二連勝だ、次で完全に主導権を握りたいとこだな」

( ^ω^)「ですお。散々に打ちのめせば、城を放棄させることも可能だと思いますお」

 この戦、おそらく攻城戦にはならない。
 遠隔地で七万が篭れるだけの余力があるとは、思えないからだ。
177 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:43:03.97 ID:9jA+QYFf0
 野戦で完勝を収めれば、ラウンジは城を放棄する可能性がある。
 ヴィップの狙いとしては、そういったところだ。

 だからこそ、次の戦が大事になってくる。
 戦全体の帰趨を占うと言っても、過言ではない戦だ。

 それら全てを踏まえたうえで、胸騒ぎが収まらないからこそ、不安なのだった。

(;-_-)「…………」

 ブーンと、話がしたかった。
 昨今、目覚ましいまでの活躍を見せている、大将ブーン=トロッソと。

 しかし、近頃は戦場以外でも忙しく働いている。
 いつ寝ているのか、自分もルシファーも知らない。
 恐らく睡眠時間を削って下知を下したり、訓練したりしているのだろう。

 その懸命さには、ただただ頭が下がる思いだ。
 だからこそ今は、声を掛けづらい状況だった。

(;个△个)「うわぁー、Fが足りないよー」

(;个△个)「どこにあるんだー。おなかすいたー」

 戦が終わったあとは、次の戦のための準備が必要になる。
 装備を整えなければならない。討ち取られた兵数を考慮して、再編成しなければならない。
 将校全員でやっていることだが、近頃はルシファーの役割が増えている。
184 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:45:41.69 ID:9jA+QYFf0
 ルシファーも、ルシファーなりに頑張っていた。
 自分も、できることはやっているつもりだが、充分ではないかも知れない。
 しかし、汗水垂らして動き回るというのも、自分らしくないと思っていた。

 自分らしさを大切にしているわけでは、無論ない。
 しかし、慣れないことをやろうという気にはなれない。
 この人間性が今さら変わるとは、どうしても思えなかった。

 これからも恐らく、皆から一歩引いたところで、見守りつづけるのだろう。
 戦場を、人の生き様を、この地の未来を。

 そう、思う。

(-_-)「……誰何は忘れるな……」

 配下の兵の気を引き締めるべく、陣中を視察していた。
 本来ならば、大将がやるのが最も効果的だが、ブーンは他の仕事で手一杯だろう。
 仮にそうでなかったとしても、ゆっくりと休んでもらいたい気持ちがあった。

(-_-)「……ん……」

 月影を引きつれて陣内を歩き回っていたところ、ふとブーンの姿を見つけた。
 大将としての任務中ではない。表情は、朗らかだ。
 戦場の中央に立つ男のものとしては、相応しくないとさえ思えるような。

( ^ω^)「だおだお。今でこそ何でも食べられるようになったけど、昔は人参が嫌いだったお。
      だからカーチャンにバレないように、こっそり弟に食べてもらってたんだお」
189 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:49:10.81 ID:9jA+QYFf0
(*+ロ+)「僕も人参キライです。食べられなくてもSの壁は越えられますか?」

( ^ω^)「うーん、もしかしたら越えられないかも知れないお」

(;+ロ+)「そ、そんな……」

( ^ω^)「頑張って食べるんだお! 案外甘い味がするんだお!」

(*+ロ+)「はい! 大将がそう仰るなら!」

 誰かと、話をしている。
 火の側で、腰を下ろして。

 誰かと、としか言えなかったのは、相手が誰か分からなかったためだ。
 戦場に立っているということは、新兵ではないだろう。
 しかし、将校にまで名の知れるような戦功を挙げた兵でもないようだった。

 言い方は悪いが、ただの兵卒だ。
 背に見えるアルファベットは、G。
 特段、才気ある兵というわけでもなさそうだった。

(*+ロ+)「でも大将は、やっぱりたくさん訓練したからXまで到達できた……んですよね?」

( ^ω^)「うーん……同じ世代で、ブーンよりたくさん訓練してたって人は、見たことないお」

( ^ω^)「……あ、一人だけ居たかも知れないお……」

(*+ロ+)「どなたですか?」

( ^ω^)「もう居ないお。かけがえのない親友だったけど、戦死しちゃったんだお……」
202 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:52:16.80 ID:9jA+QYFf0
( +ロ+)「……そうなんですか……」

( ^ω^)「多分、才能は人並みだったけど、努力でRまで到達したんだお」

 ブーンと話している兵は、恐らく入軍して数年といったところだろう。
 となれば、無論、ドクオ=オルルッドの存在は知っているはずだ。
 それなのに、あえて個人名を出さないのは、やはり友の死は未だ、心を突くからだろうか。

( +ロ+)「僕は、こう……なんというか……反応が鈍くて、ダメなんです。
     頑張ってるつもりなんですけど、身を守るのが精一杯で……」

( ^ω^)「反応の良さは、センスじゃないんだお。才能がモノを言うんだお」

( +ロ+)「な、なるほどー……」

(;+ロ+)「……って、あれ? センスと才能はほとんど同じ意味じゃ……」

(;^ω^)「……か、軽い冗談だお。言い間違いなんかじゃ、決してないお。
      反応は経験がモノを言うんだお」

(*+ロ+)「あはは……はい、そうですよね」

( ^ω^)「だおだお」

 自分は、大将に恵まれた男だ。
 ハンナバル、ジョルジュ、そしてブーン。
 いずれも、大将として仰ぐに相応しい男たちだった。
213 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:55:24.43 ID:9jA+QYFf0
 自分自身は、大将などという器ではない。
 命じられたことを忠実に遂行する程度が精々だ。
 だから、自分が生きるのも死ぬのも、大将次第なところがある、と考えていた。

 ハンナバルとの接点はあまりなかった。
 しかし、ジョルジュやブーンは、別だ。

 大将が優れた人物であるから、自分は活かされている。
 だから命令には忠実に従う。

 しかし、大将の器とはまた、別の理由もあるにはあるのだ。
 自分でもあまり意識はしてないが、確実に。

( ^ω^)「あれ? ヒッキーさん、どうかしたんですかお?」

 呆然と思考を続けていたところ、不意にブーンの視線がこちらへ向いた。
 自分は、影の薄いほうだ。暗闇に紛れると、ほとんど察知されない自信がある。
 しかし、さすがはブーンといったところだろうか。

( ^ω^)「何かありましたかお?」

(-_-)「……何もないから、一人でふらふらしていた……」

( ^ω^)「それなら、良かったですお」

 良さだけが、昔と変わらない。
 苦境、窮境を経てきたにも関わらず。
222 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/22(月) 23:58:18.44 ID:9jA+QYFf0
 やはり、芯があったためだろう。
 ブーンは常に、ヴィップの天下を望みつづけていた。
 中軸は、志は、揺らぐことがなかったのだ。

( ^ω^)「今晩は警戒態勢も盤石ですお。休んでいただいても、全然問題ないですお」

(-_-)「……そうか……老体には、ありがたいことだ……」

(;^ω^)「老体なんて……まだまだお若いですお」

(-_-)「生きすぎたくらいだ……俺より長く生きられたはずの男は、多い……」

 先ほどブーンが語った、ドクオもそうだ。
 ギコもいた。ベルベットもいた。
 過去を思い出せば、イヨウやフィレンクトといった男もいた。

 彼らと自分を隔てたものは、いったいなんだろうか。
 ふと、そんなことを考えた。

(-_-)「……ありがたく、休ませてもらうこととする……」

( ^ω^)「はいですお、おやすみなさいですお」

 朗らかなブーンの笑顔には、思わず頬が緩む。
 生まれてから五十一年、自分には一度もできなかったような笑顔だ。

 この笑顔だけは、ハンナバルにもジョルジュにもなかった。
 誰しもを和ませるような、戦場に咲いたとは思えないような、向日葵。
233 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:00:58.13 ID:79yFMVVP0
 やはり、いい国なのだな。
 そう思いながら、また月影を引き連れて歩き出した。



――ミーナ城周辺――

 耳から入り込んだ音は、心臓を、握り潰した。
 一瞬、視界は眩んだ。

 何も見えない、聞こえない。
 急報を、信じられない。

 クラウンの、危篤など。

(; ̄⊥ ̄)「重篤ですか? クラウン国王は、もう……」

(伝;&〜&)「……侍医の話では……恐らく、もって一年だと……」

 ずっと側に居られたわけではなかった。
 それでも、自分の心には常に、クラウンの存在があった。

 クラウンが、居てくれたからこそ。
 親に捨てられた自分にとっての、父親であってくれたからこそ。

 自分は、三十一年もの間、ヴィップに潜伏することができた。
 途方もない策。何度も何度も、挫折しかけた。
 不可能という言葉が圧し掛かってくることもあった。
243 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:03:43.47 ID:79yFMVVP0
 それでも、成し遂げたのだ。
 ジョルジュを欺き、ギコを討ち取り、いくつもの城を奪った。
 クラウンの目論見どおりの働きだったと自負できた。

 全ては、クラウン=ジェスターのためだった。

(; ̄⊥ ̄)「……ショボン大将……」

 確かに、クラウンも老いてはきていた。
 最後に会ったときは、並べられた料理にほとんど手をつけていなかった。
 今にして思えば、兆候がなかったわけではないのだ。

 ただ、信じられなかった。
 心のどこかで、思うこともなかった。
 クラウンの生命が、危ぶまれるようなことが起きるなどと。

 ラウンジは天下を得る。
 そして、自分はクラウンとともに、ラウンジの世を謳歌する。
 そんな単純な道程を、思い浮かべることしかしなかった。

 夢寐にも思わなかったのだ。
 クラウンが、この世から居なくなることなど。
 幾多もの命を奪ってきた自分が、想像もしなかったことだった。

( ̄⊥ ̄)「……大将、お気持ちは分かりますが、ここは……」

(´・ω・`)「すまない……少し、時間をくれ」

 そう言うのが、精一杯だった。
 ファルロと伝令は、軽く頭を下げて、幕舎から退出していく。
263 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:07:11.52 ID:79yFMVVP0
 何のために。
 何のために、戦えばいいのだ。

 クラウンが全てだった。
 クラウンが建てた国だからこそ、ラウンジへの忠誠があった。
 中心に存在していたのは、いつもクラウン=ジェスターだったのだ。

 父だった。
 口にしたことはないが、自分にとって、唯一の父親だった。

 何故、何故だ。
 確かに歳は重ねていた。日々、激務をこなしてもいた。
 しかし何故、病魔はクラウンを狙ったのだ。

 もって一年。
 あまりに、短すぎる期間だった。
 現時点から一年で、ヴィップを滅亡せしめるのは、困難を極める。

 叶わないのか。
 クラウンに、ラウンジの世を満喫してもらうことは。

 せめて一目だけでも、見てもらいたかった。
 敵などどこを見回しても居ない、充足した世界を。
 誰もがクラウンを崇める天下を。

 しかし、それももう、叶わないことなのか。
271 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:10:07.24 ID:79yFMVVP0
(´・ω・`)(……いや……)

 そんなことはない。
 世の中に、やってやれないことなど、ありはしない。

 天下を、得る。
 残された一年で。

 ヴィップを、滅ぼしてみせる。
 絶対に、何があろうともだ。

 全身全霊をかけて。

(´・ω・`)「ファルロ」

 声を掛けると、すぐにファルロは幕舎内に戻ってきた。
 すぐ側で、待機していたようだ。

(´・ω・`)「ミーナ城に接近するぞ。攻め込んでから既に十日だ、あまり長引かせたくはない」

( ̄⊥ ̄)「はい。今すぐにでも、落としたいところです」

(´・ω・`)「意図の分からない、規則的な行動についてだが、あれは無視する。
      数日間、様子を見てきたがやはり、何の意味もない行動だ」

( ̄⊥ ̄)「はい」

(´・ω・`)「今後はFに気を付けて前進、城門に近づき次第、内部侵攻だ」
285 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:13:42.07 ID:79yFMVVP0
( ̄⊥ ̄)「基本線は、そういったところですね」

(´・ω・`)「あぁ、あくまで基本は、だ」

 ミルナを相手に、一筋縄でいくとは最初から思っていない。
 しかしもう、踏みとどまっていられる余裕はないのだ。

 相手の行動は、よく見ていく。
 周りを見ない攻めで、大敗を喫しては元も子もないのだ。

 大切なのは、これまでの慎重さに、果断さを加えていくことだ。

(´・ω・`)「行くぞ。まずは、半里進む」

( ̄⊥ ̄)「はい」

 目標は、あと十日でのミーナ城奪取だった。



――五日後――

――ミーナ城内――

 曇天を一度仰ぎ、それから城外へと視線を向けた。

 五日前から、ラウンジは留まらずに前進を続けてきた。
 さすがに、『ルーティーン』を継続しているわけにはいかなくなった。

( ゚д゚)(確かに効果はあったが……)
290 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:16:46.62 ID:79yFMVVP0
 毎日、規則的に叫んだり、Fを射たりした。
 その行動には、何の意味もなかった。

 ただ、ラウンジは疑念を抱いただろう。
 明らかに出足は鈍っていた。
 何の意味もないと思えるからこそ、却って不安になるということもある。

 大した足止めの効果はない。
 それは、最初から分かっていた。
 五日間、多少なり進軍を遅らせただけでも、充分だった。

 オールシンは上手くやってくれた。
 あとは、フィッティルの働きに期待したいところだ。

( ゚д゚)「間断なく射続けろ!」

 ルーティーンを諦めたあとは、ひたすらにFを放ちつづけた。
 途中、Dに混じって自分がWから射ち込むこともあった。
 DからのFであれば、Gで防げるが、WならG程度は一撃で破壊する。

 できれば将校を討ち取りたいところだったが、思うようにはいかない。
 さすがに、側近が守りを固めている。

 城内から次々にFを運び出してきて、城外へと放っている。
 戦の前に、集められるだけは集めた。しかし、敵軍から射込まれるFがない。
 本数は、減っていく一方だ。

 それでも、手を緩めれば即座に付け込まれる。
 雨のように降らせるしかないのだ。
294 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:19:48.24 ID:79yFMVVP0
 D隊は適宜入れ替えていた。
 さすがに何十本も連続で放てば、腕が疲労し飛距離が落ちる。
 敵軍が密集している状態なら精度はどうでもいい。肝心なのは、飛距離だ。

 しかし、城壁からの射ち下ろしと言えど、Dでは限界もある。
 Wのような飛距離が、望めるはずもない。
 離れれば離れるほど、威力も落ちるのだ。

(;゚д゚)(……くそっ……)

 全力で、ラウンジの進軍速度を鈍らせている。
 しかしそれでも、兵力数は圧倒的だ。
 多少の犠牲を物ともせずに突き進んでくる。

 先ごろまでは、怯えているとさえ思えたWにも、お構いなしだ。
 ヴィップ側の予測を、上回られている。

 何かあったのか、と思うほどの強引な進軍だが、ヴィップにとっては不都合だった。
 城壁や城門に、完全に取りつかれてしまった場合は、太刀打ちできない。

 いずれはFも尽きる。
 そしてラウンジは、思ったよりも早く、城に迫ろうとしている。

 ならばもう、手持ちの札を切っていくしかない。
 できれば、一日でも遅く使いたかったがしかし、そんなことも言っていられない状況だ。

( ゚д゚)「フィッティル、『龍』の準備は万端だな?」
301 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:22:38.46 ID:79yFMVVP0
|`-∪-´|「龍ですか、まぁ一応」

( ゚д゚)「一応じゃ困る」

|`-∪-´|「じゃあ、万端ってことで」

 手抜きの仕事など、絶対にしない男だ。
 本当は、できうる限りのことやったのだ、と分かっている。

( ゚д゚)「よし」

 ラウンジ軍との距離は、既に一里。
 これ以上、接近されては、ラウンジ側からFを一斉射撃されてしまう。

 それよりも、前に。

( ゚д゚)「全兵、準備を整えろ。陽が落ちてから、龍を使うぞ」

 下知は瞬時に全軍へ伝わるよう、体制を整えてある。
 皆、いよいよか、といった表情になった。

 予定より早いが、やるしかない。
308 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:25:14.68 ID:79yFMVVP0
 いったん攻勢を停止した。
 ラウンジは大軍のため、遅々とした進軍だが、確実に距離を詰めてくる。
 突然、Fの雨が止んだことに、戸惑いもあるようだ。

 そして、天を覆う鈍色の雲から、今度は本物の雨が降ってきた。
 恵みの雨、だった。

 やがて、陽も落ちた。

( ゚д゚)「今をおいて機はあるまい。フィッティル、オールシン」

 オールシンは機敏に、フィッティルは気だるそうに頷いた。
 共通しているのは、暗い雨中でも輝く、瞳の力だけだ。

( ゚д゚)「行くぞ」

 全員、龍を掴んだ。
 強い決意、そして勇気とともに。

309 :第107話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/23(火) 00:26:12.77 ID:79yFMVVP0
 
 
 ――――お前の力、少し借りるぞ。

 ドクオ=オルルッド。


 心の中だけで呟いて、立ちあがった。













 第107話 終わり

     〜to be continued

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