2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:37:56.87 ID:ZIDzUW1E0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:39:09.88 ID:ZIDzUW1E0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヒトヒラ城・南東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
9 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:40:21.46 ID:ZIDzUW1E0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:N
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城・南東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
12 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:41:32.21 ID:ZIDzUW1E0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
14 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:42:57.87 ID:ZIDzUW1E0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:
N:ロマネスク
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ
T:ニダー/ギルバード
U:ジョルジュ/モララー
V:シャイツー
W:ミルナ
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
19 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:44:19.89 ID:ZIDzUW1E0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

28 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:47:16.08 ID:ZIDzUW1E0
【第106話 : Monster】


――ミーナ城近郊――

 M隊、二十人のうち、十七人がWに射抜かれていた。
 残りの三人は、Wから逃れるべく櫓から飛び降りたのだ。
 しかし、二人は全身を強く打って死亡し、残る一人も重体だった。

 事実上の、M隊全滅。

(´・ω・`)「…………」

 報告を受けても何も言わなかった。
 いや、言えなかった。

 クラウンが、何年もの時を費やし、手塩にかけて育て上げた部隊だった。
 それぞれがMという高ランクアルファベットを扱いながら、隊員として一部隊に組み込まれていた。
 正に異例で、そして、前例のない精強さを誇っていたのだ。

 しかし、ミルナ=クォッチたった一人に、壊滅させられた。

(; ̄⊥ ̄)「信じられません」

 ファルロが、まるで自分の心境を代弁するかのように、呟いた。
35 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:49:52.61 ID:ZIDzUW1E0
(´・ω・`)「……ミルナがVを使っていたことは、知っていたんだ。
      可能性として、Wを使えることも考慮しなければならなかった」

(; ̄⊥ ̄)「いえ、そこに大将は責任を求めるべきではありません。
     ミルナがVを使い始めたのは、先の戦です。ありえないことです」

(´・ω・`)「そうだ、普通に考えれば、ありえないことだ」

 フェイト城とミーナ城の中間点で野戦をやった。
 あのときから、まだ半年も経過していない。
 Vを通過するペースとしては、異例中の異例だった。

 ミルナはもう五十に近い。
 アルファベットを易々と成長させられる歳ではなくなっているのだ。
 なのに、だった。

(´・ω・`)「……考えられるのは」

( ̄⊥ ̄)「はい?」

(´・ω・`)「Uを使っていた期間が、やけに長かったことによる、貯金だ」

( ̄⊥ ̄)「……貯金、ですか?」

(´・ω・`)「普通、あまりやらないことだがな」

 城から一里以上遠ざかった。
 半里まで詰めたものを後退させるのは、決断しづらかったが、致し方ない。
 ミルナが間断なくWを射てきており、兵の間に恐怖が蔓延してしまったためだ。
38 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:52:22.79 ID:ZIDzUW1E0
 ミルナのWを防げるのは、自分しかいない。
 しかし、自分ひとりで東西南北をカバーするのは不可能だ。
 兵卒の心が折れる前に、Wの射程距離外まで後退せざるを得なかった。

(´・ω・`)「ミルナは数年といった年月、Uを扱っていた。
      恐らく、本来ならとうにUを超えていたにも関わらず、だ」

( ̄⊥ ̄)「……そこで、貯金ができたわけですか」

(´・ω・`)「あぁ。だから、Vを短期間で超えることができた」

 考えられないこともない。
 普通は、ひとつでも上のアルファベットを使おうとする。
 そのほうが一騎打ちで有利に立てるためだ。

 しかし、形状が特異なVより、扱いやすいUを好む将は多い。
 恐らくミルナも、そうだったろう。
 だからUを長く使っていた、という可能性も、なくはない。

 あるいは、オオカミでの大将任務に忙殺され、新しいアルファベットを頼む暇もなかったか。
 それも考えられる。オオカミは、実質ミルナひとりで保たれていた国だ。
 暇がなかった、あるいは忘れていた。いずれの可能性もありえた。

(´・ω・`)「しかし、S以降のアルファベットで一段飛ばしは不可能だ」

( ̄⊥ ̄)「ショボン大将がそう仰るのなら、不可能でしょう」

(´・ω・`)「あぁ。俺にできなかったことが、ミルナにできるとは思えない」
42 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:54:46.99 ID:ZIDzUW1E0
 多少は、Uのときの貯金があったはずだ。
 しかし、ミルナはVに上がったあと、死に物狂いで鍛練したのだろう。
 だからこそ、異例の速さでVを突破することができたのだ。

 元よりアルファベットの才は全土でも指折りだ。
 今まで軍人としての務めが忙しく、アルファベットのみを集中して鍛えることは難しかっただろう。
 しかし、他国の将となった今は、それが実現できたはずだ。

 M隊を潰す策として、Vの早期突破をミルナは考えていた。
 Wを使ってくるかもしれない、とラウンジに思われないための早期突破だ。
 単純で、誰にでも思いつくが、誰にでも実行できる策ではなかった。

(´・ω・`)「相手がブーンなら、多少は警戒もしたが」

( ̄⊥ ̄)「ミルナ相手には、Wのことはまったく想定していませんでしたね……」

(´・ω・`)「その隙を、上手く狙われてしまった」

 唇を噛んだが、今さら自分を責めてもM隊は蘇らない。
 素早く今後のことに頭を切り替えるべきだった。

(´・ω・`)「西の戦が終わるまでに、ここを落としたいところだ」

( ̄⊥ ̄)「既に五日が経過しましたが」

(´・ω・`)「これからはまた、徐々に距離を詰めていくことになる」

( ̄⊥ ̄)「ミルナのWは、いかが致しますか」
48 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 11:57:01.85 ID:ZIDzUW1E0
(´・ω・`)「常に気を配って、躱していくしかない。
      分厚い鉄の盾でも用意すれば防げるかも知れんが、かえって邪魔になる」

( ̄⊥ ̄)「そうですね……多少の犠牲は厭わずに進んでいくしかありませんか」

(´・ω・`)「ミルナもずっとWを射ているわけにはいかないだろう。
      将校が討ち取られないよう気を配れば、さほど問題にならないはずだ」

( ̄⊥ ̄)「城壁に迫ったあとは?」

(´・ω・`)「城内を牽制して、城門を破る。内部侵攻だ」

( ̄⊥ ̄)「城門、ですか……」

(´・ω・`)「破壊槌を遣えば、やってやれんことはない」

( ̄⊥ ̄)「大事なのは、相手の妨害をいかに防ぐか、ですね」

(´・ω・`)「もし相手に何らかの備えがあるようだったら――――」

( ̄⊥ ̄)「はい」

(´・ω・`)「――――そのときは、そのときで、策がある」

 あまり使いたくはない策だった。
 あくまで、最終手段だ。
 しかし、常に隠し持っておく必要はある。

 城を巡る攻防で大事なのは、兵糧と、根気と、切り札の枚数だ。
59 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:00:45.89 ID:ZIDzUW1E0
(´・ω・`)「慎重に進もう。この戦でしくじるわけにはいかない」

( ̄⊥ ̄)「はい、なんとしても」

 ファルロの言葉は、この戦を通して力強い。
 カルリナ、そしてアルタイムといった、かつての盟友を立て続けに失ったためだろう。
 何も言葉にはしないが、器は決して浅くない男だ。

 上手く舵を切ってやれば、持てる力を余すことなく発揮してくれるだろう。

(´・ω・`)「城壁の動きに注意しろ。警戒網を張ることも忘れるな」

 グレスウェンやアルバーナなどに次々と下知を下して、攻城戦を仕切りなおした。



――ギフト城付近――

 猛然とシャイツーの部隊に襲いかかる、モララー。
 その進路を遮るものは、何もない。

(;><)「モララー中将!!」

 慌てて追走しようとした。
 しかし、これ以上堅陣を崩しては、撤退さえままならない。

 被害を、最小限に抑える。
 そのためには、ここで、引き下がらなければならない。

 ――――つまり――――
62 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:03:19.89 ID:ZIDzUW1E0
<;`∀´>「……モララー隊は切り離すニダ!!」

 苦境から放たれた、ニダーの、冷酷な一言。
 本人が決して望んだものではない、と、分かってはいるが。

 しかし、ニダーの発言は、事実上『モララーを見捨てる』という意味だった。

(;><)「ニダー中将!」

<;`∀´>「ここでウリたちまで攻めに転じたら、何万もの兵が死ぬニダ!!」

(;><)「でも……!!」

 遠ざかるモララーの背中。
 ただひたすら、シャイツーの許へと最高速で駆けていく。

 モララーは、完全に我を忘れていた。

(;><)「……ニダー中将、やっぱり僕はモララー中将を」

<#;`∀´>「聞きわけるニダ!! ビロード!!」

 言葉は全て、遮られる。
 当然のことだった。

 ニダーの対応は、指揮官としてはこれ以上ないものだった。
 行動に何ら非はない。
 しかし、だからこそ、やり場のない思いを抱えてしまってもいるのだ。

 やがて、自分たちにはどうすることもできないままに。
67 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:05:53.28 ID:ZIDzUW1E0
(;><)「ッ……!!」

 モララーと、シャイツーの部隊が、衝突した。

 ニダーは、賭けた。
 モララーが自力で生き残る可能性に。

 そして自分ももう、信じることしかできない。

 モララーの部隊はおよそ七千。
 対するシャイツーが、二万。

 仮に一騎打ちとなった場合は、VとUの戦いだ。
 大差はない。ないが、モララーが下回っているのは厳然たる事実だ。

 ここで、ここで死んでしまうなど。
 そんなことが、ありえるのか。
 ありえて、いいのか。

(;><)(何のために……!!)

 何のために、ここまで来たのだ。
 ブーンに無理を言って、北東の戦に参加させてもらったのだ。

 モララーの、助けになるためではなかったのか。

 やはり自分は行かなければ。
 モララーを、助けなければ。

 あの人は、ここで果てていい人ではないのだから。
71 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:08:34.67 ID:ZIDzUW1E0
( ><)「ッ……!?」

 モララーの背に向かって、駆けだした。
 いや、駆けだそうとした。

 呼応するように、道が広く開かれた。
 先ほどまで、息苦しいほどラウンジの圧力を受けていたのに。

 ラウンジの本隊、八万が、後退している。

<;`∀´>「これはっ……!?」

(;ФωФ)「撤退、でありますか?」

 しかもまるで、事前に予定されていたような撤退だ。
 迷いがなく、迅速だった。

 最初から、一定の被害を与えたあとは撤退する予定だったのか。
 いや、今のヴィップは明らかに、対応が後手に回っていた。
 普通ならば、事前の予定を崩してでも、被害を拡大させることを決断するはずだ。

 指揮官の頭が固いのか。
 それとも、何か、他の理由があるのか。

 やがてシャイツーの部隊も、本隊に合流した。
 そのまま更に、三里ほど下がっていく。

 後退の隙に乗じて攻めることは、しなかった。
 優勢だったにも関わらず、ラウンジは下がったのだ。
 何か策がある、ということを真っ先に疑って当然だった。
76 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:11:35.01 ID:ZIDzUW1E0
 しかし、ラウンジは尚も大きく後退を続けた。

<ヽ`∀´>「……今日の戦は、終わりニダね」

 ニダーの呟きで、兵卒の緊張が一様に解けた。


――ギフト城――

 止んでいた雪が、また、降り始めたようだった。

( ><)(……ラウンジが戻ってくる気配は、ないんです)

 城塔から遠景を眺めたあとは、屋内に戻った。
 外套を羽織っていても、体が震える。やはり北部は寒かった。
 ラウンジ最奥の地など、いったいどれほど冷え込んでいるのだろう。

( ФωФ)「ビロード少将、軍議が始まります」

( ><)「あ、了解なんです」

 監視を終えた自分を、わざわざ呼びに来てくれた。
 ロマネスク=リティット。
 付き合いが長いわけではないが、東塔時代から知り合っている男だった。

( ФωФ)「……厳しい戦、でありました」

( ><)「はいなんです……危なかったんです」
84 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:14:13.21 ID:ZIDzUW1E0
 確かに兵力差は、絶望的なほどにあった。
 相手は、十万の大軍。さすがに、想像を絶した。
 それでも、将の質の差を考えれば、敗北確定の戦ではなかったはずなのだ。

 しかし、負けた。
 ニダーやモララーといった将を抱えていたにも関わらず、敗北を喫してしまった。

( ФωФ)「隙がなく、それでいて力強い戦でした」

( ><)「オワタの戦じゃないんです。あれは、たぶん新将校の指揮なんです」

( ФωФ)「ヴィル=クールという、正体不明の輩でありますか」

( ><)「そうなんです。やっぱりあれは、不思議なんです。今日戦って、尚更に深まったんです」

( ФωФ)「……不思議、とは」

( ><)「多分……ロマネスク中尉も同じことを感じ取ってるはずなんです」

 ロマネスクの顔が、一瞬強張った。
 やはりそうなのか、と思った。

( ><)「大胆なのに、突け入る隙がない。ある意味では、無敵の戦法」

( ><)「……そんな戦ができるのは、あの人しか、いないんです」

 そうだ、一人しか思い当たらない。
 こんなところに居るはずはないのに、と思いつつ、他の名前を挙げることができないのだ。
88 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:17:00.54 ID:ZIDzUW1E0
( ФωФ)「……ショボン=ルージアル、でありますか」

 小さく、頷いた。
 それ以上、二人の間で言葉が交わされることはなかった。

( ・∀・)「あっちが本隊だったみたいですね」

 軍議室の窓を通過していく雪を眺めながら、モララーは言った。
 ニダーも、同じように降雪を見つめていた。

<ヽ`∀´>「……シャイツーの部隊、ニカ?」

( ・∀・)「えぇ」

 戦を終えたあとは、ギフト城内に戻っていた。
 城外には兵を残していない。
 ラウンジが、三十里ほど後退したためだった。

( ・∀・)「八万のほうを誰でも本隊だと思う、常識の裏を突いた攻めだったみたいです」

<ヽ`∀´>「八万の大軍は、一度圧力をかけたあと、最初から下がるつもりだったニカ」

( ・∀・)「ですね。ヴィップが意地になって反撃していた場合、本隊は攻められなかったでしょう。
     そして、空振りしたところをシャイツーの部隊にやられていたはずです」

 モララーにしては珍しく、目の前の茶や菓子に手を付けていない。
 口調も、いつもの軽快さはどことなく陰っているように思えた。
92 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:19:39.80 ID:ZIDzUW1E0
<ヽ`∀´>「仮にあのまま守っていた場合、あるいは撤退していた場合は」

( ・∀・)「余計に被害が大きかった。だから、シャイツーの部隊を、形振り構わず潰しに行く必要がありました」

 理路整然とした、主張。
 モララーらしい言葉。

 そう感じていないのは、果たして、自分だけだろうか。

( ФωФ)「全てに気づいてシャイツーの部隊を狙いに行ったわけでありますか。流石です」

( ・∀・)「はは」

<ヽ`∀´>「モララー中将」

 乾いた笑いに乗る、ニダーの濁声。
 普段はもう少し、澄んだ声を発する人なのに、だ。

<ヽ`∀´>「ウリはこの戦で、ブーン大将から指揮権を預かってるニダ」

( ・∀・)「…………」

<ヽ`∀´>「軍令違反は軍を崩壊させる危険性を孕んでるニダ。
      易々と看過できる話じゃないニダよ」
96 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:21:55.40 ID:ZIDzUW1E0
 モララーは、何も、言わなかった。
 表情さえ、変わることはない。

<ヽ`∀´>「敵の狙いに気づいて即座に潰す。その行為は、実に素晴らしいニダ。
      実際、今回の戦はモララー中将がいなかったら大敗してたと思うニダ。
      だから、それに関しては責めるつもりはないニダよ」

<ヽ`∀´>「――――あくまで、本当に気付いていたのなら、ニダ」

 ニダーとモララーは、体格的には、ほぼ同等だ。
 しかし今、はっきりと、ニダーのほうが大きく見える。

 モララーの様子は、何も変わらないのに。
 何故か、小さな背中だった。

<ヽ`∀´>「モララー中将、今回の件は経緯に関わらず不問にするニダ。
      だけど、今後は『結果的にそうなった』という行動を、認めるわけにはいかないニダよ」

( ・∀・)「…………」

<ヽ`∀´>「ウリからは、以上ニダ」

 張り詰めた軍議室内の空気は、そのあと、ニダーが退室するまで弛緩することがなかった。
106 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:24:47.89 ID:ZIDzUW1E0
――ヒトヒラ城周辺――

(#`゚ e ゚)「ぬううううぅぅぅん!!」

 依然として、雪は降り続いていた。
 視界不良は、ラウンジも、ヴィップも、同条件だ。

 だから、言い訳にはならない。

( `゚ e ゚)「散らばるな! 城から離れるな!」

 単純な指令しか、全体には行き届かない。
 鉦の音も風声で霞んでしまうのだ。
 しかしそれさえも、条件はヴィップと同じだった。

 やはり、言い訳にはできない。
 ヴィップに押されていることの理由には、ならない。

( `゚ e ゚)「プギャー少将! 無茶は打つな!」

( ^Д^)「分かってる!!」

 歩兵隊と共に飛び出すプギャー。
 率いるのは一万五千。

 ヴィップの陣を端から削ろうとした。
 自分も、プギャーだけに圧力がかからないよう、前に出ていく。
110 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:27:09.22 ID:ZIDzUW1E0
 両端からの挟撃。
 並の相手なら、堪え切れなくなって陣を崩すはずだ。
 しかし、大将ブーンは何度も鉦を鳴らして、巧みに配下を動かす。

 陣を崩すわけではない。
 一時的に相手の攻撃を凌いでいるのだ。
 そして、ラウンジが下がったあと、また同じ陣形に戻る。

 ヴィップ軍の陣形は単純だった。
 ブーン、ジョルジュ、ヒッキーがそれぞれ一万ずつを率い、横に並んでいる。
 どれか一隊が攻撃を受ければ、他が補いに向かう形だ。

 最初は各個撃破しようとしたが、他隊の邪魔立てを喰らった。
 そのあとは数を恃みにした攻めで全体を囲もうとしたが、それも一点突破されてしまった。
 やはり、個々の兵卒の力で、ヴィップには劣ってしまっている。

 それに、何よりも、ヴィップは冷静だった。
 ラウンジの攻め全てを想定していたかのように、軽く受け流してくる。
 こちらも多彩な攻めを見せているつもりだが、ヴィップには、読み切られてしまっていた。

 だが、屈するわけにはいかない。

( `゚ e ゚)「ヒッキーとジョルジュを牽制しろ!」

 それぞれ、一万ずつでいい。
 同数の戦いなら、勝てはしないが、時間は稼げる。
 そして、その間に――――

( `゚ e ゚)「俺がブーン隊を潰してやるわ! ぬはははは!」
121 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:29:55.41 ID:ZIDzUW1E0
 颯爽と駆けだした。

 プギャーとアクセリトが、ヒッキーとジョルジュを封じに向かってくれた。
 二人とも野戦は上手い。牽制はこなしてくれるだろう。
 後は、自分次第だった。

 五万の兵で、一万のブーンを潰す。
 できないはずがない。
 数歩先の的を射るよりも簡単なことだ。

( `゚ e ゚)「やってみせようぞ!」

 アルファベットTを豪快に振り回し、突撃した。
 正確に言えば、ほぼ圧し掛かるような攻撃だった。

 厚みを失わない程度に五万の兵を広げ、襲いかかった。
 これなら一点突破も叶わないはずだ。

( `゚ e ゚)(さぁ、どう出てくる?)

 無闇に反撃してくるか、それとも守りに入ってジョルジュとヒッキーの助けを待つか。
 どちらでもいい。自分は強圧的な態度のままでいればいい。

 他に何かあるとすれば、せいぜい、後方に逃げだすくらいだが――――

(;`゚ e ゚)「ぬぁに?」

 冗談のつもりで考えたことだった。
 後方に、逃げ出してしまうなど。
131 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:32:35.36 ID:ZIDzUW1E0
 しかし、ブーンは逃げた。
 遮蔽物など何もない後方へと。

 バカな、まだジョルジュもヒッキーもいる。
 二人と二万の兵を、見捨てたとでもいうのか。
 そんなはずは――――

(;`゚ e ゚)(……そうか!!)

 これは防衛戦だ。
 本隊である自分が、城から離れすぎるわけにはいかない。
 つまり、ブーンを追いかけることができないのだ。

 ならばその隙に、ジョルジュとヒッキーを。
 そう考えるのは当然だが、無意味なことだった。
 今度はブーンの部隊が即座に引き返してきて、背後を突かれる。

 多少、博打になるが、ブーンの部隊を追いかけるか。
 背後を取っている。こちらは五万の兵だ。
 まともに戦えば、いくらでも潰しようはある。

 だが、機動力では劣っている。
 追い切れない可能性も、ある。

(;`゚ e ゚)「ぐっ……!!」

 駄目だ、逡巡している間に全てが遠ざかる。
 ブーンの背中も、勝利も。
 迷ってしまった時点で、既に負けていた。
136 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:34:59.89 ID:ZIDzUW1E0
 やがてブーンは反転した。
 しかし、正面きって戦おうとはしていない。
 潰そうとすれば、また逃げられるだけだろう。

 これ以上は城から離れられない。
 ジョルジュとヒッキーは、プギャーとアクセリトを圧倒しているはずだ。
 放っておけば城まで危うい。

 大人しく引き下がるしかなかった。

(#;`゚ e ゚)「くおおおぉぉぉっ……」

 怒りが激しい波のように、全身に広がっていく。
 誰に対するものでもない。自分の不甲斐なさゆえに、だ。
 このように、唇を噛んだまま引き下がらなければならないとは――――

 そう、思っていた、瞬間。

(;`゚ e ゚)「ぬぅ!?」

 しま、った。
 僅かな、隙を――――

 完全に、無防備な背中を、ブーンに見せてしまった。

(;`゚ e ゚)「ぬおおぉぉぉッ!」

 相当の距離があったはずだ。
 なのに、瞬きの間でブーンは背後にまで迫っていた。
 統率された動き。一点の、乱れもない。
143 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:37:36.16 ID:ZIDzUW1E0
 怒涛の、荒波。
 抗う術なく、ただ、飲み込まれていく。

 馬鹿な。
 相手はたったの一万、なのに。

 しかし、先頭に立つ男、ブーン=トロッソ。
 アルファベットXが、一薙ぎで数人の兵を斬り伏せる。
 ブーンに、誰も抗えていない。

 自分もアルファベットTに上がった。
 少しは、まともに戦えると思っていた。

 なんという、思い上がりだ。

 抉られている。
 アルファベットも、兵も。

 将兵の、心さえも。

 指示さえ出せなかった。
 その場にただ、立ち尽くしてしまっていた。
 何故、足が震えているのかも分からないままに。

 やがて、部隊は崩壊した。
 戦の継続は、不可能なほどに。

 僅か一万のブーンに、完膚なきまでに、打ちのめされていた。

( ` e )(……なんということだ……)
149 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:40:08.03 ID:ZIDzUW1E0
 悟ってしまった。
 隔たりを、知ってしまった。

 自分は、ブーンに、勝てない。

 判断力、戦局眼、指揮力。
 あらゆる面で、劣っている。

 もはや、超えているのか。
 自分どころではない。
 知将として知られたカルリナや、歴戦の将ジョルジュなども。

 アルファベットを振るう様を見ていると、そう思わされた。
 そして恐らく、間違っていないだろうとも。

 ブーンの戦は、はっきりと、自分のなかに恐怖心を植え付けていった。


――ヒトヒラ城――

 三刻ほど経ってから、ヒトヒラ城に戻った。
 ヴィップの追撃を振り切るのに、時間がかかってしまったのだ。

 逃れられたのは、思ったよりも、プギャーとアクセリトが奮戦してくれていたためだった。

( ^Д^)「ジョルジュはまだ本調子じゃないな。指揮にキレがねぇ」

(アクセ~゚ー゚)「ヒッキーはやはり攻めが得手ではないようでした」
157 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:42:34.30 ID:ZIDzUW1E0
 二人とも、期待以上の働きだった。
 だからこそ、尚更、自分の無力さが際立つ。

( `゚ e ゚)「……すまん、次は必ず失態を取り返す」

 敵の三倍の被害を受けた。
 ベルが常々言っていたことだ。三倍の被害は、大敗だと。
 何もできずに完敗したのと同義だと。

 それが今の実力差だ。
 事実は、真摯に受け止めなければならない。

( ^Д^)「ギルバード中将」

( `゚ e ゚)「ぬ?」

 プギャーは自分より低位で、年齢もひとつ下だ。
 しかし、自分に敬語を使うことはしない。

 気にしているわけではなかった。
 そういう男なのだろう、と思っただけだ。

( ^Д^)「ムカつく事実だが、今のブーンはバケモンだ。
     まともに戦っちゃ兵力差があってもキツイ」

( `゚ e ゚)「それは、実感させられた。
     あの男、武力のみと思っていたが、抜群の判断力を持っている」

( `゚ e ゚)「……正直に言って……勝てる気がしない」
165 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:45:08.07 ID:ZIDzUW1E0
 悔しいが、本音を語ればそうなる。
 将としての器が、違う。

 モララー、ジョルジュ、ミルナ、ニダーといった、名将との誉れ高い中将たち。
 その、真上に立つ男なのだ。
 分かっていたはずの事実、なのに。

 どこかで、侮っていた。
 去年はブーンとの戦で完勝した。そんな過去にも邪魔はされた。
 しかしそれ以上に、不適格な大将と捉えてしまっていた面のほうが大きいのだ。

 実際、つい先頃までは、およそ大将らしくない戦を展開していた。
 ショボンは不調と言っていたが、あれが実力なのではないか、と心のどこかで思っていたのだ。

 しかし、復調したと言われる今。
 ブーンは、復調どころではなく、壁をひとつ乗り越えて成長したのだ。
 手がつけられないほどに。

 そんな相手と、また戦わなければならない。
 逃げるわけにも、いかない。

( ^Д^)「ギルバード中将、提案がある」

( `゚ e ゚)「なんだ?」

( ^Д^)「ブーンは、無視しよう」

 突然、よく分からないことを言うときがある。
 それも、そういう男なのだろう、と今までは思っていた。
 しかし、いったいどういう意味なのか。
173 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:47:50.97 ID:ZIDzUW1E0
( `゚ e ゚)「無視しようがない。ブーンは、大将だ」

( ^Д^)「完全無視は不可能だ。でも、狙う対象は絞れる」

( `゚ e ゚)「ぬっ……」

( ^Д^)「ジョルジュ=ラダビノードだ」

 歴戦の将の名を、プギャーは挙げた。
 数年前なら、ありえるはずもない選択肢。

 だが、今のジョルジュは、戦列復帰して間もない。
 そしてプギャーは、はっきりと本調子でないと言っていた。

( `゚ e ゚)「……しかし、ジョルジュだ。戦の才は、図抜けているぞ」

( ^Д^)「だからこそ、勘の戻ってない今が好機だ」

 それは、確かにそうだった。
 ジョルジュを討ち取れる機など、そうそう訪れるものではない。

( ^Д^)「スパっと刎ねてやろうぜ。ジョルジュ=ラダビノードの首をよ」

 プギャーは不敵に笑っていた。
 それは決して、不遜から来るものではないようだった。

( `゚ e ゚)「……やってみよう」

 次の戦までは、恐らく、数日の間が空く。
 それまでに、あらゆる状況を想定しておいてから、戦に臨もう。
181 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:51:03.39 ID:ZIDzUW1E0
 恐怖を抱いていても戦はやってくる。
 やはり、果敢に、目標を見据えながら、立ち向かわなければならない。

 次の戦では、必ず、ジョルジュを討ってみせる。
 そう誓って、すぐさま居室に戻った。



――ミーナ城周辺――

 朝、日の出と共に、掛け声が遠来する。
 正午頃になると、今度は城壁からアルファベットFが放たれる。
 それも、毎回本数は二十本と決まっていた。

 夜は大袈裟なほど火が焚かれ、やがて火矢が射られる。
 これも本数は決まっていて、必ず二十本ずつだ。

 深更の頃合いには、またも掛け声。
 しかし、朝とは違って、低く唸るような声だ。
 獣の威嚇に似ている。

 それが、三日繰り返されていた。

(´・ω・`)「無意味な行動だ」

 呟くと、ファルロは深く頷いた。
 暁更、またしてもミーナ城からは大声が響く。
 天頂にいる登山者が発するような声だ。
189 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:53:31.11 ID:ZIDzUW1E0
( ̄⊥ ̄)「何の意味もない、と。
     私も、そう思います、が……」

(´・ω・`)「……が、しかし。だな」

 何の意味もないはずだが、ヴィップは毎日繰り返している。
 そして他の動きは見受けられない。

 牽制にしては距離がありすぎる。
 そして、毎日Fを無駄にしている、というのも愚行と言えた。
 無論、この行動が無意味ならば、だ。

 ヴィップが射てきたFは、実はただの模造アルファベットなのではないか。
 そんな意見が、軍内にもあった。

 ヴィップの狙いは、城の周りに大量の模造アルファベットを置くこと。
 そうやって攻城兵器の進路を阻むつもりなのではないか、と。
 誰でも考えることだった。

 しかし、Fは本物だった。
 三日経った今日、城壁から射られたFは消滅したのだ。
 模造アルファベットではありえないことだった。

(´・ω・`)「単なる惑わしだろう、とは思う。こうやって悩ませることこそ目的なのだろうと」

( ̄⊥ ̄)「はい。それ以外、具体的な狙いは見えてきません」

(´・ω・`)「あぁ……」
196 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:55:56.42 ID:ZIDzUW1E0
 だが、相手はミルナ=クォッチだ。
 あの人材難に喘いでいたオオカミを、たった一人で支えてきた男だ。
 決めつけてかかると痛撃を喰らいかねない。

 進軍することに怯える必要はなかった。
 アルファベットFの射程距離は、せいぜい四半里だ。
 そこまでは躊躇なく進んでいい。

 問題になるとすれば、ミルナのW。
 あれは一里までを射程距離内に収める。

 だが、それもない。
 毎日同じ行動が繰り返されるようになってから、ミルナのWも止んでいる。

 尚更、不可解だった。

 ミルナがWを射ているだけで、ラウンジにとっては厄介だった。
 甚大な被害にはなりえないが、それでも兵の命は奪われていったのだ。
 しかし、それさえも中止している。

 そこまでして、何故、毎日同じ行動を取るのか。
 分からない。何か、深謀遠慮を抱えているのか。
 仮にそうだとした場合は、狙いを見抜けないと敗北確定か。

 堂々巡りを、繰り返していた。
207 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 12:59:44.26 ID:ZIDzUW1E0
(´・ω・`)「……いつからかな」

( ̄⊥ ̄)「はい?」

(´・ω・`)「いや……」

 随分と、臆病になったものだ。
 ふと、そう思った。

 ラウンジに来てから、既に何度も戦を重ねた。
 初戦は、カノン城攻防戦。勝っていた戦だが、天災に襲われて撤退せざるを得なかった。

 そのあとのシャッフル城攻防戦でも、ベルベットを討ち取るなどの戦功があった。
 しかし、結局城は奪えず、またもや撤退することとなった。

 だが、カノン城はそのあと再度攻め込んで、奪取した。
 フェイト城攻防戦でも、ヴィップの攻めは退けた。
 実質、自分が赴いた戦では、まだ一度も負けていないのだ。

 だが、アルタイムやギルバードらの敗北により、領土は減退している。
 その責任が、自分にないとは言わない。言わないが、自分なら失わなかった、という思いもある。

(´・ω・`)(必要なんて、ないな)

 自信を失う必要など、どこにもない。
 自分は、ショボン=ルージアルだ。
 その事実だけが存在していればいい。
214 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:02:32.39 ID:ZIDzUW1E0
(´・ω・`)「果敢に進もう、ファルロ。四半里の範囲内に入るぞ」

( ̄⊥ ̄)「はい」

 雨のようなFが降り注ぐかもしれない。
 あるいは、毎日の定型行動を崩さないかもしれない。
 どちらにせよ、やってみないことには分からないのだ。

 進軍命令を下した。
 ミーナ城を取り囲む十万の軍が、一斉に動き出す。

 陽は頭上で燦々と輝いている。
 いつも通りなら、そろそろ、二十本のFが射られる頃だ。

 果たして、ラウンジ兵が射程距離内に入っても、二十本で終わるのか。
 それとも――――

(´・ω・`)「ッ……」

 城壁から、Fが放たれた。
 まるで、鳥の群れだった。

 だが、空の色を塗り替えるような数ではない。

(´・ω・`)「崩さないか、ヴィップは」

( ̄⊥ ̄)「また、二十本ですね」

 二十本のFは、全て防いだ。
 DからのFならば、Gで何度でも防御できる。
223 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:05:12.21 ID:ZIDzUW1E0
 気をつけなければいけないのは、WとMだけだ。
 不意にDと混じって射込まれる可能性があった。
 それが狙いかも知れない、とファルロとの間でも意見が一致している。

(´・ω・`)「やはり不可解だな。一応、警戒は続けよう」

( ̄⊥ ̄)「はい」

 ヴィップの狙いは、まだ読み切れない。
 が、着実に前進は重ねていた。

 後は、数的優位を存分に活かすことを考えればいい。



――ギフト城周辺――

 『次の仕事が決まった』。
 最初は、淡々と、そんなことを思った。

 記憶の最下層まで潜ってみても、親の顔は見当たらない。
 他の誰かと比較して、初めて気づいたのだ。親がいないことなど。
 人は、誰かに育ててもらえるのだ、という事実など。

 名さえも、なかった。

 本能的に、空腹に襲われれば食糧を求めた。
 眠気で瞼が重くなれば、快適に眠れる場所を探した。
229 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:09:13.18 ID:ZIDzUW1E0
 あるときは、街に出て、乞食の真似をして物を乞うた。
 またあるときは、人懐っこい笑顔を見せて、誰かの家に世話になった。

 廃棄物を拾っては洗って、場合によっては細工を施して、売り歩いた。
 物々交換を持ちかけては、必ず自分が得するように交渉した。
 それを、大人は仕事と呼ぶのだと、当時から把握はしていた。
 
 誰から教えてもらうこともなく、いつしか、自然と身についていったことだった。

 何のために生きるのか、などは考えなかった。
 ただ、そうやって生きていくのが当たり前だったのだ。
 生死について深い思考を抱いたことはない。

 だからこそ、だった。
 ラウンジの役人に保護されて、ラウンジ城に連れて行かれたとき。
 国王である、クラウン=ジェスターの言葉を聞いたとき。

 初めて、誰かから与えられたものではあったが。
 しかし、心の中に現れた言葉は淡泊だったのだ。
 次の仕事が決まった、と。

( ´ノ`)「ヴィルという男だ。似顔絵は、ここにある」

川 ゚ -゚)「はい」

( ´ノ`)「この男に会って、働きを、補佐してやってほしい」

 たった、それだけ。
 具体性など何もない指示だった。
237 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:11:38.92 ID:ZIDzUW1E0
 今にして思えば、あのときクラウンは、分かっていたのだろう。
 私が、その一言だけで全てを把握できることが。

川 ゚ -゚)「分かりました」

 生きるのに必要なだけの金銭は得られることになった。
 あとは、仕事を確実にこなすだけだった。

 ヴィルの居場所は、おおまかに知らされていた。
 ヴィップ領内で孤児を殺して、ヴィップ国民に成り済ましているという。
 仕事とは言え、人命に手を掛けることまでは、私にはできないとそのとき思った。

(´・ω・`)「一応、話は聞いている」

川 ゚ -゚)「そうですか」

 南方の山中の小屋は、この人が建てたとは思えないほど頑丈な作りだった。
 木の一本一本を丁寧に削って、形を整え、組み上げているのだ。
 多少の雨なら屋内に漏れてくることもないだろう。

(´・ω・`)「名は?」

川 ゚ -゚)「ありません。好きにお呼び下さい」

(´・ω・`)「そうか。じゃあ、クーだな」

川 ゚ -゚)「……クー、ですか」

(´・ω・`)「短くて、呼びやすい。そのほうがいいだろう」
243 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:14:06.00 ID:ZIDzUW1E0
 理由は、ただそれだけ。
 しかし、整然とした理由があるのは悪くない、と感じた。

 この男が、私より年上か年下かは分からなかった。
 自分の年齢を、知らないからだ。
 恐らくは、年上。それにしても、随分と、落ち着き払っている。

 並の境遇なら、まだ親に養ってもらっている年齢のはずだ。
 しかし、この男もクラウンからの命令で働いている。
 やはり生きるためなのだろうか。それとも、他に理由を有しているのだろうか。

(´・ω・`)「最近は、発覚防止のためにあまり連絡を取っていないが……クラウン国王は」

川 ゚ -゚)「お元気でした」

 そういう答えを求めているのだろう、と思った。
 だからこそ言葉を遮って、伝えた。

 思えば、ショボンの無邪気な微笑みを見たのは、このときが唯一だったかも知れない。
 無味乾燥な私の心の、深い場所に残留したのも、それゆえにだろう。

川 ゚ -゚)「ヴィル様、私に」

(´・ω・`)「ヴィルじゃない。今はもう、ショボンだ」

川 ゚ -゚)「申し訳ありません。ショボン様、私に仕事をお与えください」

 クラウンから言い渡されたのは、ショボンの補佐を務めてくれ、だった。
 ならばショボンから直接、仕事を貰うより他ない。
 国軍の偵察でも、部下の調達でも、何でもこなせる自信はった。
248 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:17:08.82 ID:ZIDzUW1E0
 そう、単純に考えていたからこそ。
 ショボンの一言は、私に、新鮮な驚きを与えてくれたのだ。

(´・ω・`)「俺のために生きろ。それが、お前の役割だ」

川 ゚ -゚)「ッ……!」

 何のために、と、考えたことさえなかった。
 ただ漫然と、生を全うするつもりだった。

 しかし、ショボンは、言ってくれた。
 俺のために生きろ、と。

(´・ω・`)「俺の許可なく死ぬな。全てが終わるまでは、必ず生きろ」

川 ゚ -゚)「……はい」

(´・ω・`)「それを踏まえたうえで、俺を補佐してくれればいい」

 ショボン=ルージアルは、私にとっての、全てとなった。
 彼の言葉に従い、彼のために行動することが、私の役割だった。

 そこに、使命感以外のものが存在したことも、否定はできない。
 だが、決して我を通してはならない、と自分を戒めることはできていた。
 だからこそショボンとの関係も、綻ぶことなく続いたのだろう。

 ショボンはラウンジの天下を望んでいる。
 クラウンが、天下を統べる王となることを、心から望んでいるのだ。
 それは同時に、私にとっての願いともなった。
253 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:19:50.34 ID:ZIDzUW1E0
 軍学を学んだ。
 男を蠱惑する術も身につけた。
 潜入術や暗殺術を得ることにも躊躇いはなかった。

 此度の戦で、十万の軍を指揮執ることにも。

\(^o^)/「クーさん」

 外套を羽織ったオワタが、自分に歩み寄ってきた。
 幕舎内には火が焚かれている。それでも、寒気は完全に遮ることができない。
 しかし、何故かまったく寒さを感じなかった。昔から、そうだ。

川 ゚ -゚)「オワタ様、陣内は」

\(^o^)/「何も問題ありませんよ」

 戦には勝ったが、当初の狙いをすべて果たせたわけではなかった。
 だからこそ、陣内の雰囲気が気がかりだったが、士気が下がっているということもないようだ。

\(^o^)/「見事な指揮でした。あのモララーやニダーを相手に、圧勝で」

川 ゚ -゚)「いえ、それは兵力差がありますから」

 いかにモララーやニダーといったヴィップの中将たちが有能とはいえ、所詮ひとりの人間なのだ。
 数百、あるいは数千の兵を斬ることができたとしても、万を超える兵には敵わない。
 兵力差を埋めるだけの力がヴィップにあることも知っているが、今回の戦は、順当な結果と言えた。

 しかし本当は、いずれかの将校を討ち取るつもりだったのだ。
 そのためにシャイツーの二万があった。
 モララーの果断な行動がなければ、ビロードかロマネスクあたりは討ち取れていたはずだ。
258 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:22:43.62 ID:ZIDzUW1E0
 加えて、シャイツーは二つの命令を与えても、実行することができない。
 ひとつの単純な命令なら、誰よりも強烈な実行力を発揮する。
 今回の戦では、『八万が下がったら敵を潰せ』とだけ命令を与えていたのだ。

 モララーがいなければ、シャイツーは抜群の破壊力で敵将を討ち取っていただろう。
 しかし、攻め込む前に攻撃を受けては、シャイツーに打つ手はない。
 使いどころが難しい、と言わざるをえなかった。

 他の将校を使う手も無論あるが、騎馬隊を率いているときのシャイツーはショボンに次ぐ。
 先頭で高位アルファベットを振るうからこそ、敵軍は怯んで、自軍には勢いがつくのだ。
 戦では決して無視してはならない要素。ショボンにも、そう教えられていた。

 シャイツーが持てる力を発揮できなかったのは、自分の作戦に穴があったということだ。
 次は、盤石の体勢を築き上げたいものだった。

\(^o^)/「いかに兵力差があったとしても、それで決まらないのが戦です。見事でした」

川 ゚ -゚)「オワタ様の働きあってこそです」

\(*^o^)/「いや、そんな」

 実際、先陣きって敵軍とぶつかったオワタは、見事だった。
 守りのニダーが敷いた堅陣なのに、臆することなく突撃していったのだ。

 昔は、ヴィップが有利になりすぎないようにと、力を抑えているところがあった。
 ラウンジの将となった今は、何の気兼ねもなく、伸び伸びと戦をやっている。
 野戦での攻撃力だけならば、恐らく全土でも有数だろう。
267 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:25:37.89 ID:ZIDzUW1E0
 そして、不意に戦場に立つことになった私に対しても、謙虚なままでいてくれる。
 昔から何かと世話をしてきたことも、関係はしているのだろうが、それにしてもありがたいことだった。
 普通ならば、戦場で指揮執ったことのない女の言葉など、耳を傾ける気になれないはずだ。

 そんなオワタのためにも、是が非でも勝たなければならない戦だった。
 少しだけ、肩の荷が下りたような気分だった。

川 ゚ -゚)「オワタ様、次の戦で、ヴィップは必ず劣勢を覆そうとしてくるはずです」

\(^o^)/「はい、そう思います」

川 ゚ -゚)「ですから、判断が非常に難しいところです。
    冷静に受け止めるか、圧倒してしまうか」

\(^o^)/「ここは、いったん守ったほうがいいと僕は思います。
      攻めは博打ですから」

川 ゚ -゚)「はい。しかし、時間がかかります」

\(^o^)/「それは、確かにそうですが……」

 戦が長引けば兵糧の問題に直面する。
 元より、あまり兵糧を浪費してはならない状態なのだ。
 戦の長期化は、できることなら避けたかった。

 ただ、ラウンジのそんな思惑を、ヴィップが読み取っていた場合。
 こちらの攻めを予測されていた場合は、苦しくなるだろう。
 判断が難しいとは、そういう意味だった。
277 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:28:23.31 ID:ZIDzUW1E0
(・∀ ・)「暇だぞー。戦はまだかー」

川 ゚ -゚)「シャイツー」

 幕舎の片隅で眠っていたシャイツーが、目を覚ました。
 戦場でアルファベットを振るうようになってから、昔よりは随分と大人しくなった。

(・∀ ・)「ひーまーだーぞー」

川 ゚ -゚)「次の戦は、また明日」

(・∀ ・)「明日か―、しゃーねーなー。ガマンしてやるかー」

川 ゚ -゚)「眠れるように、おまじないしてあげるから」

 毛布の上に座っているシャイツーの、瞼を閉じさせた。
 そのまま耳元で言葉を囁く。
 やがて、軽く額を押してやると、倒れこむようにシャイツーは眠った。

\(;^o^)/「戦は、明日ですか?」

川 ゚ -゚)「いえ、数日後でしょう。それまで眠らせる、ということです」

\(^o^)/「あ、なるほど……」

 手にアルファベットさえ握らせていれば、問題はなかった。
 シャイツーに戦場以外での仕事はない。
282 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:31:39.34 ID:ZIDzUW1E0
川 ゚ -゚)「とりあえず、またヴィップが出てくるまで、情報収集に努めます」

\(^o^)/「はい。僕も、軍内の引き締めを継続します」

 ヴィップはまた城外に出てくるだろう。
 ギフト城は、城内の排水や貯水の設備が乏しい城だ。
 数万の兵が長きにわたって籠城すれば、必ず衛生面から崩れる。

 また、常にギフト城の後方には目を光らせていた。
 兵力に物を言わせて、兵站を乱すことができるからだ。
 輸送隊を完全に潰すことはできないが、運搬量を低下させる役割は果たせているはずだった。

 パニポニ城と違って、ギフト城は防備に優れた城とも言えない。
 アルタイムがこの城を守り切れなかったことには、そんな事実も背景にあった。

 ヴィップは、また必ず城を出てくる。
 野戦でラウンジを破らない限り、ギフト城の死守は叶わないと知っているはずだ。

 ここはラウンジ城に近い。
 いつまでもヴィップに居座られるわけには、いかないのだ。
 誰よりも、ショボンが、憂慮しているためだった。

 ――――そんな、折に。

\(;^o^)/「……え?」

 急報。
 幕舎に、飛び込んでくる。
288 :第106話 ◆azwd/t2EpE :2008/09/07(日) 13:34:29.46 ID:ZIDzUW1E0
 ここは、ラウンジ城に近い。
 だからこそ、迅速な、情報伝達が行われた。

 そんなことは分かっている。
 しかし――――

川;゚ -゚)「……クラウン国王が……?」

 できることならば、ショボンに、伝わってほしくない。
 そう思ってしまった、報せだった。















 第106話 終わり

     〜to be continued

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