2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 10:48:36.51 ID:VNcr7YkK0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヒトヒラ城・南東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 10:49:50.30 ID:VNcr7YkK0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヒトヒラ城・南東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
10 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 10:51:40.01 ID:VNcr7YkK0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヒトヒラ城・南東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
14 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 10:53:09.51 ID:VNcr7YkK0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
18 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 10:54:32.27 ID:VNcr7YkK0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー
U:ジョルジュ
V:ミルナ/シャイツー
W:
X:ブーン
Y:
Z:ショボン
20 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 10:56:01.20 ID:VNcr7YkK0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

 

29 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 10:58:42.91 ID:VNcr7YkK0
【第105話 : Reckless】


――ギフト城――

 軍議室の片隅には、火が灯されていた。
 ヴィップ内では北部であり、寒さに慣れていない兵が多い。
 暖を取るための方策は至るところで取られていた。

 そして、最も火に近い席に、座った将。
 だからなのか、それとも、要因は違うところにあるのか。
 少しだが、頬に汗が浮いていた。

( ・∀・)「Vの使い手ですか、厄介ですね」

<ヽ`∀´>「ニダね。ウリよりモララー中将より、上ニダ」

( ・∀・)「僕はUまで下がっちゃいましたからね……骨が折れるのは、けっこうランクダウン激しいみたいです」

( ・∀・)「しかし、僕に顔が似てるってのも奇妙なもんですね」

<ヽ`∀´>「まぁ、本家の力を見せてやってほしいとこニダ」

( ・∀・)「ははは」

( ><)(……あれ……?)
35 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:01:00.27 ID:VNcr7YkK0
 何故だろうか。
 先ほど、モララーはシャイツーの名を『初めて聞いた』と言った。
 しかし何故、顔が似ていることを知っているのか。

 やはり、何かがおかしい。

( ・∀・)「敵軍は十万ですか、大軍勢ですね」

<ヽ`∀´>「指揮は引き続きオワタが執るみたいニダ」

( ・∀・)「オワタ……同兵数ならまず負けはありませんが、兵力差が大きいですからね」

<ヽ`∀´>「それと、新しい将校が一人加わってるらしいニダ。
      名前はヴィル=クール」

( ФωФ)「聞き慣れぬ名ですが」

<ヽ`∀´>「ウリもニダよ。でも、少将ニダ」

( ・∀・)「そんなやつ居ましたっけね」

<ヽ`∀´>「突然現れたニダ。完全に未知数の将ニダ」

( ФωФ)「シャイツーのような隠し玉でありましょうか?」

<ヽ`∀´>「そのへんも全部ひっくるめて、分かんないニダ。
      でも、少将ってことはオワタより地位が上ニダよ。
      つまり、北東では総指揮を執ることになるニダ」
41 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:03:39.82 ID:VNcr7YkK0
( ・∀・)「……撹乱ですかね。ヴィップに情報のない将をぶつけてくる、というのは」

<ヽ`∀´>「何とも言えないニダ。戦ってみるまで、分かりそうもないニダ」

 ニダーは繰り返し、分からないという言葉を使った。
 恐らく本当に、何の情報も得ていないのだろう。
 焦燥さえ言葉の端から感じ取ることができた。

( ・∀・)「こっちは今……三万ですか。三倍以上の兵数を相手にするのは、辛いとこですが」

( ФωФ)「パニポニ城を使うのも難しくなったとなれば、真価が試される戦ですな」

<ヽ`∀´>「調練と防備強化に励むニダよ。ギフト城は、絶対に渡せないニダ」

( ФωФ)「はっ」

( ・∀・)「ま、頑張りましょう」

 軍議が終わると、モララーはいつも真っ先に席を立つ。
 それは今回においても変わりなかった。
 すぐに後ろについていく。

( ><)「モララー中将、お話が」

( ・∀・)「ビロード、行軍の疲れはないか?」

(;><)「……え?」

 切り出そうとした話を、強引に、遮られた。
46 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:06:08.65 ID:VNcr7YkK0
( ・∀・)「疲れがあるなら、まずはそれを抜くことに専念したほうがいい。
     ギフト城防衛戦は多分、長丁場だぞ」

( ・∀・)「こっからは兵糧も切り詰めなきゃいけない。相手が全兵力を注ぎ込んできたからこそ、尚更だ。
     おまけに兵は連戦で疲れが出てきてる。将校がしっかりしねーといけない時期だ」

(;><)「……は、はい」

 モララーは、きっと、自分が何を言いたいのかが分かっている。
 分かっているからこそ、遮っているのだ。

 自分に言えることは、何もなくなってしまった。

(;><)「……失礼するんです」

( ・∀・)「おう」

 慌てて頭を下げて、廊下を駆け抜けた。
 呼吸が乱れて、胸が苦しい。
 そして、頭のなかが揺れている。

 モララーらしくないモララー。
 そんな彼が、今後どう動いていくのか。
 分からない。だからこその、苦しみなのか。

 曲がり角、体を捻った。
 その先に、影があった。

 ニダーだった。
50 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:08:45.72 ID:VNcr7YkK0
(;><)「ニダー中将?」

<ヽ`∀´>「モララー中将、お腹でも痛いニカね」

 角張った顔に手を当てていた。
 首を捻ると、顔の端がまるで顎のように見える。

(;><)「ニダー中将、次の戦は」

<ヽ`∀´>「ケンチャナヨ。問題ないニダ」

 そう言いながらも、ニダーは、また首を捻った。
 内外に、不安。単純ながらも、抱えている憂いは大きい。

<ヽ`∀´>「調練に励むニダ。この城は何としても守り切るニダよ」

( ><)「……はいなんです」

 ニダーは、努めて軽やかに振舞っているようだった。
 しかし、だからこそ、自分には憂慮している様が透けて見える気がした。

 冬の風と雪が窓を叩く。
 城外に広がるは白銀の世界。

 白く、深い、戦場だった。
55 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:11:28.05 ID:VNcr7YkK0
――ヒトヒラ城周辺――

(;゚∀゚)(……参ったな……)

 雪の粒が、肌の熱で溶けているのではなかった。
 全身に生じているのは、冷や汗だ。

 要因は、二つ。

 行軍中、後背を突いてきたラウンジ軍。
 先頭に立っていたのは、中将、ギルバード=インダストル。

 即座に反転して迎え撃った。
 ラウンジの攻めは強烈だったが、体勢充分で受け止められた。
 敵軍は、二万。こちらの三万より、寡兵だった。

 そこに隙がなかったとは言わない。
 自分の、心のなかに、だ。

 ただ、心の間隙を排除したとしても、無様だった。
 自分の戦が、だ。

(  ∀ )(しばらく離れてたのは……やっぱ、辛いか……)

 前回、戦列に復帰したときの戦は、手応えがあった。
 それも今にして思えば、敵の不意を突けたからこそだったのか。

 二万のラウンジ軍を、一万の兵でもって撹乱しにいった。
 隊を分けて、挟み撃ち。頭のなかでは、一刻もすれば敵軍を潰走させられるはずだったのだ。
 実際には、こちらが後退することとなった。
60 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:14:53.22 ID:VNcr7YkK0
 雪上での戦である、ということを、考慮しきれていなかった。
 移動速度は鈍り、後退の際にも被害を受けた。

 単純な見落とし。
 しかし、それで失われた命が、あった。
 易々と自分を許してはならない事実だった。

 それが、冷や汗の要因としては、ひとつ。

 もう一つは、自分が後退した直後。
 勢いに乗って追い討とうとしたラウンジを、素早く突き崩した一撃。
 大将、ブーン=トロッソだった。

 ギルバードが冷静に受けて立ったにも関わらず、力で押し込んだ。
 部隊を小さくまとめた一点突破は、見事というより他ない。
 雪に視界を塞がれていたが、戦場をしっかりと把握できていたようだった。

 アルファベットがXに上がったことも大きい。
 Vよりリーチが長くなって、乱戦向きになった。
 縦横無尽に動き回って、一度に幾つも首を飛ばす姿は、猛将と呼ぶに相応しかった。

 先の戦で、ブーンは不調に喘いでいたようだったが、壁を越えた。
 またひとつ、大きく成長したようだった。

 それが、二つ目の要因だ。

 ブーンが、将として成長していくことを、嬉しく思う一方。
 自分のなかには、焦燥が生まれる。

61 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:17:27.84 ID:VNcr7YkK0
 追い抜かれることに対して、ではなかった。
 ブーンの足を引っ張ってしまうのではないか、という焦りだ。

 気弱になる必要はない、と思う。
 しかし、気弱の一言で片づけてはならない問題かも知れない。

 ラウンジ軍は撤退した。
 どうやら二万の後ろに、五万の兵がいたらしく、そちらがヒトヒラ城へ先行したようだ。
 二万の急襲は、言わば足止めだろう。となれば、ラウンジも本気ではなかったのかも知れない。

(  ∀ )「…………」

 ブーンはラウンジが撤退したあと、すぐに兵をまとめて、行軍を再開させた。
 指揮官として、戦以外の面でも、成長しているようだ。

 自分に伸び代はもう、ないだろう。
 体の具合はいい。アルファベットUを軽く感じるほどだ。
 しかし、戦場での指揮は、自分でどうにかするしかない問題だった。

 果たして、勘を取り戻すのが先か、死が自分に触れてくるのが先か。

 ヒトヒラ城から二十里ほど離れた地点で陣を構えた。
 平地だが、雪のせいで見通しが悪い。あまり、不用意には近づけない。
 火も使いにくいため、夜襲には充分、気を払わなければならなかった。

 薄い積雪の上に張られた幕舎のなかには、ブーンと、ヒッキーと、ルシファー。
 将校が勢揃いして、火を囲んでいた。
67 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:20:03.32 ID:VNcr7YkK0
( ^ω^)「雪はそんなに長続きしないと思いますお。戦の邪魔には、多分なりませんお」

(;个△个)「そうであってほしいです」

 ルシファーは歯を小刻みに震わせて、音を立たせていた。
 あまり寒さが得意なほうではないらしい。

 自分は、元オオカミ領のなかでも、寒冷地と呼ばれる地域に住んでいた。
 寒さには強く、雪での移動も苦にはならない。
 だからこそ、今日の戦を不甲斐なく感じている、という面もあった。

( ^ω^)「敵軍は七万五千。ヴィップは三万で、不利は否めない状況ですお」

( ゚∀゚)「……あぁ、城攻めでの寡兵は辛いな……」

( ^ω^)「でも、籠城するだけの兵糧はないはずですお。だから必ず、打って出てきますお」

(-_-)「……仮に、籠城された場合は……」

( ^ω^)「極力、締め上げますお。兵糧を浪費させられるようであれば、ヴィップとしてはありがたいですお」

( ゚∀゚)「ま、そんなヘマをやるような奴らじゃねーな」

( ^ω^)「ギルバードはそこらへん、甘くない男だと思いますお」

(-_-)「……ただ、ミーナ城は目が離せない……気を、抜けない……。
    野戦にせよ城攻めにせよ、ギルバードだけを気にしているわけにもいかない……」

( ^ω^)「ですお。だから、とりあえずは、ヒトヒラ城を全力で狙いますお」
72 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:22:30.96 ID:VNcr7YkK0
 そのブーンの言葉から、真意を汲み取るのは、やや難しかった。
 そして、本当に汲み取れたのか、もあまり自信がない。

( ^ω^)「ギルバードとプギャー以外だと、将校ではパルメイロやギーガスが居るそうですお」

( ゚∀゚)「どっちも大したことないな」

(-_-)「……アクセリトが入っているという情報もあるが……」

( ^ω^)「どうやら、もともと守将としてヒトヒラ城に居たらしいですお」

( ゚∀゚)「アクセリトか、プギャーよりはマシかもな」

( ^ω^)「いずれにせよ、ギルバードには及びませんお」

( ゚∀゚)「ラウンジでギルバードを超えてるのは、ショボンだけだろうよ」

 そしてそのショボンは、今、ミルナと相対している。
 因縁といっていい対決だ。およそ二十年、鎬を削ってきた。
 おまけに、今はミルナが浅からぬ怨念を抱いている。

 ミルナのためにも、こちらで、無様な戦をしてはならない。
 特に、自分が、だ。

 最終決戦まで、ここから、留まらずに進む。
 躓きは、許されないのだ。
76 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:25:01.54 ID:VNcr7YkK0
( ^ω^)「明朝、敵の出方を窺って動きますお」

 決然としていて、揺らぎのない、ブーンの声。
 頼もしいその背中を、呆然と見つめているわけにはいかなかった。
 自分は、ジョルジュ=ラダビノードなのだから。

( ゚∀゚)「ヒッキー」

(-_-)「……?」

( ゚∀゚)「この戦で俺は、雪に消えるかも知れねぇ。でも、最後まで戦い抜くつもりだ」

( ゚∀゚)「見守っていてくれ、ヒッキー=ヘンダーソン」

 ブーンとルシファーが退出した後に、そう告げた。
 自分の気を引き締めるためにも。

 そのとき、ヒッキーが自分にどんな視線を送っていたのかは、分からなかった。
 直感は、確かめろと囁いていたが、そうしてはならない、という考えも何故か生まれた。

 だからこそ――――だった。



――ミーナ城周辺――

 緩やかな傾斜。
 しかし、あれだけで雲梯は使えなくなる。
 城を攻める手は、他に考えなければならなくなった。
80 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:27:40.45 ID:VNcr7YkK0
(´・ω・`)「城壁の外に盛られた土は、崩せんか」

( ̄⊥ ̄)「恐らく、一斉攻撃を受けるかと」

(´・ω・`)「しかし、梯子では城内に攻め込めん」

( ̄⊥ ̄)「雲梯が使えないのは、いかにも苦しいですね」

 主だった将は各地に散らばっている。
 ミーナ城攻めの主要武将は、自分と、ファルロ=リミナリーだけだった。

(´・ω・`)「ただの土に手を拱かされるとはな」

( ̄⊥ ̄)「それは、ミルナ=クォッチだからこそでしょう」

(´・ω・`)「あぁ」

 陣内を二人で視察していた。
 指揮官が直接、見回ることで、兵の気が引き締まる。
 弛みを敵に突かれては、敗戦必至だ。隙は絶対に許さない。

 とはいえ、十万の大軍だ。
 布陣は長大であり、とても全てには目が行き届かない。
 配下の将の働きが重要になってくるだろう。

(´・ω・`)「グレスウェンやアルバーナらを一つにまとめても、ミルナには及ばんだろうな」

( ̄⊥ ̄)「それほど都合の良い計算が成り立つのであれば、苦労は致しません」

(´・ω・`)「お前の言うとおりだ」
85 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:30:05.62 ID:VNcr7YkK0
( ̄⊥ ̄)「しかし、そう考えたくもなる気持ちは、分かります」

 ファルロ自身、ミルナには及ばない自覚があるのだろう。
 その歯がゆさは、口にしたところでどうしようもない。
 だからこそファルロは、いつもと変わらぬ平調さで物を語っているのだ。

 単独でミルナと覇を競えるのは自分しかいない。
 そういった状況は、嘆かわしいとさえ思えるが、しかし。

 悪くない、とも思える。

( ̄⊥ ̄)「ミーナ城には、全力傾注でよろしいのですか?」

(´・ω・`)「あぁ。それ以外、道はない」

( ̄⊥ ̄)「素知らぬ顔でオリンシス城へ進むという策は」

(´・ω・`)「それが、ラウンジにとっては最善策だ。だからこそ、危険だろう」

( ̄⊥ ̄)「……なるほど……」

 あえて、道を開けているのだと思える。
 無人の荒野を駆けるように、オリンシス城に到達できるこの状況は、だからこそ危険なのだ。

 ミーナ城さえ奪ってしまえば、相手の小細工を気にする必要はない。
 西のブーンやジョルジュも一緒に潰せる。
 大軍で囲み、締め上げ、確実に奪うべき城だった。

(´・ω・`)「陣を動かすぞ。ミーナ城を、包囲する」
89 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:32:24.49 ID:VNcr7YkK0
 片腕を挙げただけで、兵は呼応した。
 素早く陣が動き、ミーナ城は人の森に囲まれる。

 長い包囲戦が、始まった。



――ミーナ城――

 さすがに、身が震えた。

 歓喜などという、格好のつくものではない。
 純粋な、強圧的な、恐怖だ。

(;゚д゚)(凄まじいな……)

 十万の大軍。
 兎や栗鼠さえ包囲を抜けることはできないだろう。
 一点の隙もなく、城を包みこんでいる。

 見渡す限りのラウンジ兵。
 平然としていられるはずはなかった。

( ゚д゚)(これを超える軍も、かつては相手にしたのだがな……)

 忘れはしない、オオカミを滅ぼされた戦。
 ヴィップとラウンジの連合軍が、十万など軽く超える兵数で押し寄せてきた。
95 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:34:51.00 ID:VNcr7YkK0
 あのときは、恐怖を覚えなかった。
 どうやって敵勢を跳ね返すか、それだけを考えていた。
 だからこそ、だろう。

 此度のように、ある程度冷静な気持ちで、見据えてみれば。
 これほどだとは思わなかった、という本音が脳内を駆け巡るのも、致し方ないことだと思えた。

 将校は他に誰ひとりとして居ない。
 自分ひとりで、一万の軍を束ねていかなければならないのだ。

 兵糧に不足はない。
 勝負がそこに持ち込まれるのであれば、ラウンジに負ける道理はなかった。
 しかし、恐らくは兵糧勝負には移らないだろう。

 相手は十倍の兵数を有している。
 強引な城攻めが下策ではない状況だ。

( ゚д゚)(……一ヶ月か……)

 西の戦は、一ヶ月ほどで決着がつくだろう。
 勝敗は無論、分からない。恐らく五分だろう。
 しかし、ヒトヒラ城を奪ってくれれば、こちらの戦も終わる。

 ヒトヒラ城から、ブーンとジョルジュはフェイト城を攻められる。
 側面を突かれる形になるラウンジは、ミーナ城を囲んでいられなくなるはずだ。
 だからこの戦は、完全なる防衛戦だった。

 一ヶ月、守り切ればいい。
 言葉にするだけなら、実に単純な戦だった。
104 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:37:30.90 ID:VNcr7YkK0
 しかし、困難を極めると言っていい。

( ゚д゚)(俺が俺を相手に攻め込むなら、十日で落とせるな)

 自分で自分を攻める、という状況はありえないが、そう仮定した場合。
 多少の兵を犠牲にして、強引に内部へ侵攻し、攻め落とせる。
 最初にまず、それを想定した。

 戦の始まりは、そこからだった。
 ショボンは自分を上回る将だ。自分が十日なら、五日で城を落としてくるだろう。
 オオカミ時代、ショボンにまともに勝てたのは一度だけだった。そこからも、力量の差は自覚させられている。

 自分を仮想敵とした場合、ショボンは自分の半分の日数で落としてくる。
 つまり、自分を相手に二ヶ月は持ち堪えられる防備でなければならないのだ。

 城壁の外に盛った土も、そのための策だった。
 これで数日は稼げる。新たな道も開ける。
 他にもいくつか策は用意していた。

 しかし、ショボンに通じるかどうか。

( ゚д゚)「フィッティル」

|`-∪-´|「え?」

 城壁に積もった雪を、懸命に掻き集める。
 そしてそれを、躊躇いなく口に入れる男。
108 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:40:43.88 ID:VNcr7YkK0
( ゚д゚)「『龍』を、早く仕上げてくれ。いつかは使いたい」

|;`-∪-´|「えぇっ? それを僕に言います?」

( ゚д゚)「お前以外の誰に言えばいいんだ」

|;`-∪-´|「オールシンでいいでしょ」

( ゚д゚)「あいつは『ルーティン』の実行準備で忙しいんだ」

|`-∪-´|「……へいへい、分かりましたよ。あーあ、メンドくさい」

( ゚д゚)「聞こえてるぞ」

|`-∪-´|「そのつもりで言ってんですよ」

 わざとらしく溜息をついて、傍から離れる。
 フィッティル=ギンドレストン。
 言葉づかいは乱暴で、横柄な男だが、自分の命令に反することは決してない。

 オオカミ時代から連れ添っている二人の副官。その一人だった。
 モララーを助けたときも、シブサワの居宅を訪ったときも、常に隣にいた。
 無駄な脂肪をつけすぎているのが難点だが、外見からは想像もつかないほど機敏に動ける男だった。

 もう一人は、オールシン=クルーピング。
 仕事を自分で見つけ、誰よりも手早く着手するが、丁寧すぎるところがあり、完成は遅い。
 フィッティルとは違って、真面目の腹から生まれてきたような男だった。

 互いに一長一短を抱えている。
 それを補い合って、自分を補佐してくれているのだ。
113 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:43:58.12 ID:VNcr7YkK0
( ゚д゚)(四中将も、こうであったら……)

 時折、そんなことも考えてみるが、胸の隙間を風が通り抜ける感覚に襲われるだけだった。

 今一度、城壁からラウンジ軍を眺めた。
 まだ五里は離れている。この距離で、隙間なく囲んでいるのだから、やはり凄まじい兵数だ。

 大事なのは、距離を詰めさせないこと。
 いずれは確実に詰めてくる。しかし、それを極力遅らせることだ。
 一ヶ月間、凌ぎ切ることだ。

< `ζ´ >「ミルナ様」

( ゚д゚)「オールシンか、どうした?」

< `ζ´ >「櫓が」

 言葉が短いのは、いつものことだ。
 無駄な言葉を一切発さない。

 オールシンが注進を入れてきたのは、ラウンジの動向だった。
 取っ手を回すことでせり上がる、可動式の櫓が、発動している。

 M隊を使ってくる気だ。

( ゚д゚)「厄介だな」

 まだ距離は遠い。
 アルファベットMは、五里先の敵を狙える性能を備えていない。
 だからあれは、予行演習か、牽制だろう。

114 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:46:37.18 ID:VNcr7YkK0
( ゚д゚)「いつでもM隊が狙っているぞ、と。そう言いたいらしいな」

< `ζ´ >「はい」

 予測済みのことではあった。
 ショボンの戦には、常にM隊が伴われている。
 特に、M隊は城での攻防戦で本領を発揮するのだ。今回の戦で使わないはずがない。

( ゚д゚)「まずは、M隊を封じることを考えたほうが良さそうだな」

< `ζ´ >「何か策が?」

( ゚д゚)「ある」

 相当前から、入念な準備を行なってきた。
 誰もが考え付く策だが、誰にでも実行できる策ではない。
 それを実現させるための準備だ。

 誰にも知らせていないし、誰も知らなくていい。
 直前まで秘匿しておくのが得策だ。

( ゚д゚)「オールシン、『ルーティン』の実行は延期だ」

< `ζ´ >「いつ頃に?」

( ゚д゚)「五日後。そこで戦局は動くはずだからな」

< `ζ´ >「承知しました」
122 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:49:07.81 ID:VNcr7YkK0
 オールシンは、自分の言葉に『何故』を返さない。
 絶大な信頼を寄せてくれているのだ。
 だからこそ自分も、応えたくなる。

 ショボンは、愚直に進んでくるだろうか。
 それとも警戒を払ってくるか。
 そこまでは読み切れないが、どちらであれ対応策はあった。

 二十日間までは、確実に粘れる。
 しかし、そのあとの十日間は、綱の上を歩くことになりそうだ。
 常に、そう考えていた。

( ゚д゚)「オールシン、気を緩めるなよ。
    ここから先は、生きたいと思ったやつが死ぬ世界だ」

< `ζ´ >「はい」

 短い返答が、心地よい。
 ちょうど今日の、吹き荒ぶ寒風のように。

 粉雪が戦場を霞ませはじめた。
 鈍色の空は今にも落ちてきそうで、視界を圧迫している。
 目を背けるように、踵を返した。

 長すぎるほどの防衛戦が、始まっていた。
125 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:51:53.73 ID:VNcr7YkK0
――ギフト城周辺――

 まずは、野戦で。
 ニダーとモララーの間で一致した意見が、それだった。

( ><)「ロマネスク中尉、騎馬隊の様子をニダー中将が報告してほしいそうなんです」

( ФωФ)「了解致しました」

 戦前だが、既に準備は整っている。
 今は気持ちを落ち着かせることに専念していた。

( ><)「ダイオード中尉は斥候からの情報を取りまとめてモララー中将に報告を」

/ ゚、。 /「分かってます」

 直前にロマネスクと話したせいか、ダイオードの頷きは気だるそうに見えた。
 元々、あまり覇気のない顔をしているせいもあるのだろうか。
 もっとも、自分も人のことは言えない。

 ギフト城防衛戦が始まろうとしていた。
 押し寄せるラウンジ軍、およそ十万。
 ここだけではなく、南西にも十数万を用いているのだ。総力戦だった。

 兵糧の枯渇は秋ごろに訪れるだろう、と言われている。
 ラウンジの思惑としては、一気呵成に攻め込むことで、ヴィップの兵糧を奪取、だろう。
 それを許してはならない。
128 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:55:01.53 ID:VNcr7YkK0
 北東方面においてギフト城の働きも肝要だった。
 ラウンジの腹に打ち込んだ楔と言っていい。
 引き抜かれてしまうと、また腹を探らなければならなくなる。

 多少の犠牲を払ってでも、落とせない城。
 その認識は各将校、いや、全兵共通のものだった。

 しかし――――

( ・∀・)「いつまで続くんだろうな」

( ><)「モララー中将」

 ひと一倍寒がりのモララーだが、今日は比較的軽装だった。
 熾烈な戦いになることが予想される。だからこそ、だろうか。
 いや、激戦が想定されていれば、普通は多少、装備も強化するはずだ。

 もっとも、アルファベットの前では防具など意味をなさない。
 だからこそ動きやすいように軽装なのだ。
 そう言われてしまえば、自分も首肯するより他なかった。

( ><)「いつまで続くのか、とは……」

( ・∀・)「この戦のことだ。初めてだろ?」

( ><)「何が、ですか?」

( ・∀・)「終わりの見えない戦、さ」
135 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 11:59:15.57 ID:VNcr7YkK0
 さすがに、全兵共通とまではいかない。
 しかし、将校の間では、口に出さないまでも認識された問題だった。

 この戦が、いつまで続くのか。

( ・∀・)「ここはラウンジ城に近いからな。敵軍の完全撤退は考えにくい」

( ><)「例え完勝したとしても、ですか」

( ・∀・)「あぁ。だからこそ、終わりが見えねーんだ」

( ><)「兵糧切れは、どうでしょうか」

( ・∀・)「そこまでやってたら、先にこっちの兵が潰れるだろ。
     ただでさえ連戦で疲労が蓄積されてきてんだから」

 それは、自分も懸念していることだった。
 ショボンの謀反が発生したあと、ヴィップ軍は戦に次ぐ戦で、領土を取り返した。
 しかし、何の代償も支払わずに、というわけではない。

 兵の体力には限界がある。
 必ず全力を発揮できなくなるときが訪れる。
 無論、ブーンも分かっているはずのことだった。

( ・∀・)「攻め込まれた以上は、守らなきゃいけない。
     でも、城の陥落以外に終焉が見えないってのは、深刻な問題だ」

( ><)「……兵の士気、ですか?」

( ・∀・)「そうだ。勝利の形が見えねーから、兵の士気が保てない」
138 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:01:50.23 ID:VNcr7YkK0
 ラウンジ軍とは、二十里を挟んで向かい合っていた。
 広大な原野での野戦。小細工を用いることは、お互いにない。

 対峙するラウンジ軍は、八万を用いてくるようだった。
 残りの二万は後詰だ。
 盤石の形と言っていい。

 そのラウンジが、鉦を鳴らした。
 事実上、開戦の合図だ。

( ・∀・)「……難題は多いが、とにかく、この野戦には勝つしかねーな」

( ><)「……はいなんです」

 動き出したラウンジは、距離を詰めてくるだけだろう。
 まだ二十里ある。
 一気に攻め込むには、遠すぎる。

 そう考えていたヴィップの、不意を突く動き。

( ・∀・)「一気に来るか!」

 二万を超える騎馬隊が、怒涛の勢いで攻め込んできた。
 いつ止まる、いつ止まる、と考えていたヴィップは、体勢不充分。
 それでも指揮官はモララーとニダーだ。決して不利ではなかった。

 しかし、ラウンジの先鋭化された初撃。
 道をこじ開けるようにして、ヴィップの堅陣へと食い込んできた。

(;><)「I隊が前に出るんです! 騎馬を潰すんです!」
142 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:04:58.11 ID:VNcr7YkK0
 必死で声を張るが、後手に回っていた。
 敵将はオワタ=ライフ。見知った顔だった。

 しかし、ヴィップにいたころより明らかに、戦は上手くなっている。
 というよりは、ヴィップ軍ではまだ本気を出していなかったのだろう。
 ヴィップの僅かな緩みを見つけて付け込んでくる攻め方に、隙はない。

 オワタの指揮による攻撃が止んだ。
 堅陣は崩れてはいない。しかし、陣を立て直す必要はある。
 ここに追撃を受ければ、崩壊に直結してしまうだろう。

 そこに、後方からの追撃だった。

(;><)「ッ……!」

 堅陣は、動かすことができない。
 動かないからこその堅陣だ。

 だから、と言っていい。
 モララーやニダーといった名だたる将が、何もできないでいる。

 採用した陣が失敗だったのか。
 いや、圧倒的大軍に対する陣としては、実に無難な選択だ。

 あるいは、だからこそ、ラウンジに読み切られていたのだろうか。
 対策を講じられてしまったのか。

 ラウンジは更に深く陣を抉ろうとしている。
 しかし、絶対に無茶はしない。
 ニダーは、ラウンジの騎馬隊が前傾姿勢になる瞬間を狙っているようだが、読み切られていた。
147 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:07:42.48 ID:VNcr7YkK0
 モララーも反撃の糸口を掴もうとしている。
 しきりに鉦を鳴らしていることからも、それは分かる。
 が、頻繁な命令は却って配下を混乱させてしまっていた。

 噛みあわない。
 ラウンジに上手く攻められていることもあるが、ヴィップの守りも本調子ではなかった。

 これは、撤退すべきだ。
 緒戦の勝利に拘りすぎれば、後々への影響が大きい。
 モララーならきっと、そう考えてくれているだろう。

 ――――しかし、希望は希望で終わることになる。

(;><)「モララー中将!?」

 鉦は止んだ。
 モララーは、陣を動かした。

 撤退のためではない。
 敵軍へと、攻め込むために、だ。

 ヴィップの堅陣を破ろうとしているのは四万の軍。
 側面を固めているのが、左右の二万。併せて四万。

 そして、後詰の二万。
 モララーの意識は、はっきりと、そちらへ向いていた。
151 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:10:22.10 ID:VNcr7YkK0
<;`∀´>「撤退ニダ!! 防衛線を下げるニダ!!」

 ニダーの濁声が戦場に響き渡る。
 鉦もまた、しきりに鳴らされはじめた。
 しかし、敵軍のものと入り混じって、上手く指令が届かない。

 モララーは尚も、後詰の二万を攻め立てようとしている。
 完全なる、暴走だった。

<#`∀´>「戻れニダ!! モララー!!」

 声を荒げる、中将、ニダー=ラングラー。
 しかし、モララーの耳に届くはずもない。

 後詰の二万を攻める意味は、まったくないはずだった。
 堅陣を自ら崩した、というだけで既に愚挙だが、仮に攻めるならオワタの騎馬隊だ。
 騎馬隊を何らかの理由で避けたとしても、側面を固める歩兵を潰すべき状況だった。

 後詰を狙う理由は何もない。
 何も、ない――――が。

 後詰の指揮官は、シャイツー=マタンキだった。
163 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:13:19.70 ID:VNcr7YkK0
――ミーナ城周辺――

 毎日、徐々に距離を詰めていった。
 一日に、一里。それで、ヴィップの様子を窺った。

 しかし、ミーナ城からはFの一本も飛んでこない。

(´・ω・`)「櫓からの報告は?」

( ̄⊥ ̄)「ヴィップは延々、城外のラウンジを監視しているとのことです」

 二刻前と、同じ報告。
 いや、正確には、五日前からずっと、同様の報告がなされていた。
 ヴィップは、ただひたすらに、こちらを眺め続けている。

 籠城戦なら、敵軍の動向を監視するのは当然だ。
 しかし、延々監視されるというのも気味が悪い。
 また、監視にしてはやけに兵の数も多いという。

(´・ω・`)「……万難を排するのは、厳しいな」

( ̄⊥ ̄)「どんな手を打つのであれ、賭けの要素は含まれます」

(´・ω・`)「大事なのは、果断さか」

 ヴィップは、何らかの作戦を実行しようとしているのか。
 あるいはもう、実行しているのか。

 いずれにせよ、敵兵の監視を潰しておくのは、悪くなかった。
168 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:16:12.82 ID:VNcr7YkK0
(´・ω・`)「蹴散らしてやれ」

 ミーナ城まで半里ほどの距離に、迫った。
 これがM隊のFが届く、際々の距離だ。

 監視隊は、城壁から離れて奥へと逃げるだろう。
 それで良かった。とにかく、一度蹴散らしておいたほうがいい。
 ヴィップが何を狙っているのか、分からないからこそ。

(´・ω・`)「…………」

 何を狙っているのか、分からない。
 だからM隊を使うことを決めたが、しかし。
 軽率だったのではないか、と一瞬考えた。

 だがもう、命令は下したあとだった。

 ――――だから、雨が降り出す前に。
 晴天から、生暖かい雨粒が落ちてくる前に。

 自分は、即座に頭を切り替えることができたのだ。

(´・ω・`)「櫓を下ろせ!!」

( ̄⊥ ̄)「えっ――――」

(´・ω・`)「早くしろ!!」

 誰よりも、自分が早く、事態に気づいた。
 まだ音もないときに、目だけで全てを理解した。
172 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:19:03.43 ID:VNcr7YkK0
 やがて、周囲のラウンジ兵も、事態を把握した。
 冷静に、ではない。しかし、何かが起きたことは、分かったようだった。

 当然だ。
 櫓のうえにいたM隊の、首が落ちてきたのだから。

 十万の軍に、混乱が広がる。
 半里離れた、絶対的安全領域での、M隊の討ち死に。
 起きてはならないことが、起きてしまったのだ。

 全ては、ミルナ=クォッチの手によって。

(´・ω・`)「Wに達していたとは……!!」

 予想していなかった。
 完全に、想定から抜けていた。

 ミーナ城の城壁から、M隊の首だけを、確実に狙ってくる。
 M隊にはOを持たせてあるが、Wの前では意味を成さなかった。
 防げても一撃。大抵は、Oを前に出しても、アルファベットごと粉砕されていた。

 やがて、ミルナの姿が消えた。
 東の城壁に向かったようだ。
 そちらからも、鈍い悲鳴が聞こえてきた。

 櫓上、たった一人のM隊は、格好の的だった。
 取っ手を回すことでせり上がるラウンジ特製の櫓は、当然降ろすこともできるが、動作は鈍重だ。
 飛び降りても無事な高さに戻すのには、半刻近い時間を要する。

 その間にミルナは、全てのM隊を潰せてしまうだろう。
180 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:21:46.29 ID:VNcr7YkK0
(´・ω・`)「くっ……」

 唇を噛んだところで、どうしようもない。
 自分のWなら、ミルナのところまで届くが、命中するはずがなかった。
 狭い櫓の上のM隊と違って、ミルナには逃げ場がある。

 M隊も反撃のFは射ているだろう。
 しかし、MはWより射程が短い。
 ミルナ=クォッチなら、M隊のFが届かない位置から攻撃しているはずだ。

 何もできない。
 今まで、相手に何もさせなかったM隊の戦法が、仇になった。

 やがて全ての櫓を下ろし終わる頃には、もう、ミルナからの攻撃は止んでいた。
 それは即ち、M隊の全滅を意味していた。

(´・ω・`)(くそっ……!)

181 :第105話 ◆azwd/t2EpE :2008/08/17(日) 12:22:28.24 ID:VNcr7YkK0
 クラウンが、何年もかけてようやく、揃えてくれた部隊だった。
 かつてない遠距離攻撃を可能とし、ラウンジの戦術を大きく広げる役割を果たしてくれていた。

 それを、ミルナたったひとりに、潰されてしまった。

 ミーナ城攻略戦は、いきなり出鼻を挫かれた形になった。

















 第105話 終わり

     〜to be continued

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