11 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:11:04.15 ID:fNCFUmtr0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城・北東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ミーナ城・東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城・北東

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
13 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:11:49.22 ID:fNCFUmtr0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・北東

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
19 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:12:49.16 ID:fNCFUmtr0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ミーナ城・北東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
24 名前:階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:13:34.89 ID:fNCFUmtr0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
26 名前:使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:14:26.97 ID:fNCFUmtr0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー
U:ジョルジュ
V:ミルナ/シャイツー
W:ブーン
X:
Y:
Z:ショボン
31 名前:この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:15:18.18 ID:fNCFUmtr0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

37 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:16:14.56 ID:fNCFUmtr0
【第104話 : Fatigue】


――ミーナ城・東――

( ゚∀゚)「手伝ってくれ」

 雷のような亀裂が走ったアルファベットUを地面に突き立てて、ジョルジュは言った。
 そのアルファベットを、引き抜く。そしてまた突き立てる。
 そうやって、地面に穴が掘られていった。

 自分もOを使って、アルタイムの亡骸の側にある穴を広げていった。
 まだ足の踝ぐらいまでしか深さがない。人を埋めるには、深度が足りない。

( ゚∀゚)「……すまなかったな」

 ジョルジュの呟きが、自分に対して漏らされたことに、一瞬気づけなかった。
 まるでアルタイムに言ったかのように、こちらを見ていなかったためだ。

(-_-)「……何が、ですか……?」

( ゚∀゚)「俺の復帰の経緯を、黙っていたことだ。
     悪かった。お前に、何も相談せずに」

(-_-)「……私は……相談を受けるに値する男ではありません……」

 一瞬、悔やんだ。
 醜い言葉を吐いてしまったことに。
47 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:18:15.93 ID:fNCFUmtr0
 しかし、ジョルジュはまた眼を伏せて謝罪の言葉を投げかけてきた。
 悪かった、と。

( ゚∀゚)「今のヴィップじゃお前との付き合いが最も長い。
     もう三十年近いはずだ」

(-_-)「……そうですね……」

( ゚∀゚)「だから本当は、お前を信じるべきだったんだ、俺は」

 唇を噛みながら動かす手は血に塗れている。
 そんなジョルジュを見ても、自分は動じずにいた。

( ゚∀゚)「長い付き合いを根拠にして、最初からお前を全部信じるべきだった。
     ショボンを疑ってたことも話して、復帰のための考えも話して……。
     どう考えても、背信だ、俺のやってきたことは」

(-_-)「……だからこそ、私をここに連れてきたのですか……?」

( ゚∀゚)「それもある」

 穴の広さは充分に確保できた。
 あとはもう少し、深く掘るだけでいい。

( ゚∀゚)「だが、それ以上に、お前に見てもらいたかったんだ」

(-_-)「……何を、ですか……?」

( ゚∀゚)「俺の、生き様を」
49 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:20:19.71 ID:fNCFUmtr0
 ジョルジュのアルファベットからは、性能が失われている気がした。
 アルファベットは形状の変化に敏感だ。亀裂が入っただけでも、威力を発さなくなるのかも知れない。

( ゚∀゚)「この戦いが俺の最後になるかも知れなかった。
     だから、お前に見てもらいたかったんだ。
     他ならぬ、ヒッキー=ヘンダーソンに」

(-_-)「…………」

( ゚∀゚)「俺を一番長く見てきてくれたお前にこそ、だ」

(-_-)「……それほどの価値がある将ではありません、私は……」

( ゚∀゚)「自分への評価が低すぎるのは、相変わらずいただけないところだな」

 穴を掘り終えたジョルジュは、少しだけ笑ったようだった。
 だが、魂の抜けたアルタイムの体に触れた途端、また悲壮な顔つきに戻っている。

( ゚∀゚)「俺の命はもう、長くない。
     恐らく、ヴィップの天下を見ることなく果てるだろう。
     ……だからヒッキー、お前に頼みがある」

(-_-)「……なんですか……?」

( ゚∀゚)「俺の代わりに、お前が見てくれ。
     平和を得たヴィップが繁栄する様を。
     ずっとずっと、その命が続く限り」
52 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:22:32.18 ID:fNCFUmtr0
 アルタイムの体を、二人で抱えた。
 見かけほど重くはない。生前からだったのか、それとも、血が抜けたからなのか。
 よくよく見てみれば、浅黒い皮膚には無数の傷痕が刻まれていた。

( ゚∀゚)「これこそ、三十年近いときを共に過ごしてきたお前にしか頼めねぇことだ」

(-_-)「……約束は、致しかねます……」

( ゚∀゚)「いいさ。世の中に確実なものなんてねぇ。
     ただ、心の片隅に留めておいてくれればいい」

(-_-)「……そうですか……」

 アルタイムの亡骸を穴の中に置いたあと、土を被せた。
 指先、傷痕、折れたアルファベット。
 全て、漆黒の土に隠されていく。

 そして最後に、目の閉じられた顔が、静かに土の中へと消えていった。

( ゚∀゚)「帰ろう」

 地面が平らに均され、そこは、戦場ではなくなった。
 ただし、戦場を駆け続けてきた男が眠っている。

 いつまでも、眠り続ける。
 穏やかな心のままで。
56 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:24:40.68 ID:fNCFUmtr0
――翌朝――

 ミーナ城に帰還した際、まず最初に遭遇した将は、慌ただしく動き回るビロード=フィラデルフィアだった。

(;><)「ヒッキーさん、どうしたんですか?」

 外から帰ってくるところを、見られた。
 別段、問題になるわけではないが、言い訳をしなければならないことに煩雑感を覚えた。

(-_-)「……早くに目が覚めた……散歩していただけだ……」

(;><)「そうだったんですか」

 まだ陽は昇り切っておらず、空気中には冷たい氷の粒が含まれているような感覚さえある。
 しかし、ビロードは額と頬に汗を浮かばせていた。

(-_-)「……どうしたんだ……何か、危急の事態でも……?」

(;><)「そうじゃないんです。実は、北東の戦場に行くことになったんです」

(-_-)「……ギフト城に、か……?」

 不思議はなかった。
 先日、フェイト城戦が駒不足で困窮していると言われ、北東からやってきたのは自分だ。
 その穴を埋める形だろう。

 こちらにはジョルジュ=ラダビノードが新しく加わっている。
 ビロードが抜けても、問題はなかった。
59 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:27:01.11 ID:fNCFUmtr0
 だが、唐突さには違和感を覚えた。
 相変わらずラウンジの主力が揃っているのは、フェイト城方面なのだ。

(-_-)「……何か、理由がありそうだな……」

( ><)「……はいなんです」

 そして、ビロードは語り始めた。
 プギャーが裏切った際、自分のせいでモララーが重傷を負ったこと。
 それを償いたいこと。

 つまりは、モララーのために、モララーの側で戦いたがっているのだ。

( ><)「僕の力なんて微々たるものなんです……でも、きっと何かの力にはなれるはずなんです」

( ><)「……そのためなら、例え命だって惜しくはないんです」

(-_-)「ッ……」

 平素は、穏やかな将で、誰かと衝突したところを見たことがない。
 配下の兵にも優しく、まるで戦場に遊びに来た子供のようだ、と思ったこともある。

 しかし、覇気があった。
 初めて、この男から感じ取れた。

 瞬間、自分の胸の奥で、何かが動いた。

(-_-)「……誰かのための戦、か……」

( ><)「そうなるんです」
64 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:29:03.71 ID:fNCFUmtr0
 今までの自分なら、きっと理解できなかった。
 戦は、ただそこにあるだけのもので、自分の深淵に触れることはない。
 ずっと、そう感じてきたからだ。

 だが、決意を露わにしたビロードの表情が、やけに眩しく見える。

( ><)「準備がまだ残ってるから、失礼するんです」

(-_-)「……あぁ……」

 深々と頭を下げたビロードに、手で別れを告げる。
 遠ざかる背中に期するものを感じながら。

 ジョルジュは新しいアルファベットを受け取るために、オリンシス城へ一度戻った。
 恐らく今頃は前線へと向かっているだろう。
 自分も、陽が角度をつけ始める頃には、城を離れるつもりだ。

 戦場は恐らく変化を見せるだろう。
 そこで自分が為すべきことは、いったい、なんだ。

 しばらく、腰を落ち着けて考えてみよう、と思った。

65 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:30:51.65 ID:fNCFUmtr0
――三日後――

――フェイト城・南西――

 アルタイム、消息不明。
 既に死亡している可能性あり。

 三日かけてクーが出した結論は、それだった。

(´・ω・`)「何の連絡もなく居なくなる男じゃない。
      だから、お前の結論は正しいのだろうと思うが……」

川 ゚ -゚)「はい……」

 確かにそうだな、と軽く返事をすることはできなかった。
 アルタイム=フェイクファー。もはや、自分を除けばラウンジ最重要と言ってもいい将だった。
 が、消えた。何の前触れもなく、戦場から姿を消した。

 いや、前触れが完全になかったとは言わない。
 北東で重要地とされていたギフト城を失う失態を演じたばかりだ。
 自分はアルタイムを咎めなかったが、根っからの軍人であるアルタイムが自分を責めなかったはずもない。

 自分を追い込みすぎて、自刃したのか。
 あるいは、朦朧とした意識のまま川や崖にでも突っ込んだのか。

 いずれにせよ、アルタイムは死に場所を求めた。
 そんな気がした。
69 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:32:55.31 ID:fNCFUmtr0
川 ゚ -゚)「途中まで同行していた部隊長によると、三日前の朝になって突然、姿を消していたとのことで」

(´・ω・`)「……やはり、もう死んでいると見るべきか……」

 カルリナの下野に次ぐ損失だった。
 経験豊富で老練なアルタイムが軍から消えたのだ。
 いつしか帰ってくる可能性もあるが、期待はできなかった。

 しかしアルタイムは、どこへ、何をしにいったのか。
 誰もそれを知らない。

 誰の目も届かない場所で、静かに自分の腹をアルファベットで貫いた。
 順当に考えれば、そんなところだろうとは思う。
 しかし、戦場に生きた者であれば、誰もが戦いのなかで果てたいと思うものだ。

 だとすれば――――

(´・ω・`)「……三日前の晩、ジョルジュはどうしていた?」

川 ゚ -゚)「ジョルジュ=ラダビノード、ですか?」

 言葉を聞き返すのは、有能なクーらしくなかった。
 しかしそれも、自分の質問が突飛だったせいだろう。

川 ゚ -゚)「何故、ジョルジュなのですか?」

(´・ω・`)「分からん。何となく、ジョルジュの顔が思い浮かんだ」

川 ゚ -゚)「……ジョルジュについての情報は、何も入っておりません。
     ミーナ城で体を休めていたものと思われますが、外出していたとしても、察知はできません」

70 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:34:54.55 ID:fNCFUmtr0
 敵将が城から一晩抜け出したかどうかなど、分かるはずはなかった。
 特に一戦を終えたあとで、両軍とも体勢を整えている途中であったため、尚更だ。
 人の出入りは激しかった。兵卒の身なりで抜けだされた場合は分かるはずもない。

 何より、そんなことに情報網を張り巡らせるぐらいなら、他に得るべき情報はいくらでもある。
 ミーナ城は前線だが、探るべきは最前線であるブーンのいる本営なのだ。
 後方の城の動向まで調べる余力はなかった。

(´・ω・`)「ジョルジュとアルタイムは、過去に一騎打ちをやったことがあったな」

川 ゚ -゚)「はい」

(´・ω・`)「あれが、ふと思い出された。アルタイムのことを考えていたら、何故か」

川 ゚ -゚)「……かつての続きを行なった、と……?」

(´・ω・`)「だとすれば……現状、ジョルジュが最前線で元気に動き回っているところを見ると……」

川 ゚ -゚)「…………」

 答えは出ない。
 恐らく、アルタイムが姿を見せない限りは、今度もずっとだ。

 しかしもう、あの低く渋みのある声を聞くことはないだろう。
 長年、戦場に立ち続けてきて、数多なる生と死に触れてきた自分だからこそ、分かることだった。

(´・ω・`)「仕方がない……居ないものとして考えよう」

川 ゚ -゚)「はい」
76 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:37:52.98 ID:fNCFUmtr0
(´・ω・`)「将の層の薄さが、深刻になってきた。
      カルリナとアルタイムが抜けたのはやはり痛い」

川 ゚ -゚)「期待されていたウィットランドも、ジョルジュに討ち取られましたね」

(´・ω・`)「将校だけを見れば、ヴィップに負けているな」

川 ゚ -゚)「あちらは、中将の層が特に厚いですね」

(´・ω・`)「オオカミの四中将とは比べものにならん。
      恐らく、史上最強の四中将だろう」

川 ゚ -゚)「いずれも、大将として胸を張っていておかしくない将ですね」

(´・ω・`)「だが依然として兵力数では大きく上回っている。
      領土もまだラウンジのほうが広い」

川 ゚ -゚)「でしたら、それを存分に活かした戦が必要ですね、今後は」

(´・ω・`)「あぁ。だから俺は、慎重さを捨てる」

 足と腕を組んだ。
 不遜さが滲み出るだろうが、クーと二人きりであれば問題はない。
 楽な姿勢だった。

(´・ω・`)「全軍を動員する。全土中に戦乱を広げる」

川 ゚ -゚)「それは――――!」

(´・ω・`)「兵糧なら奪えばいい。城を奪って、領土を奪って、秋の収穫を待てばいい」
82 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:40:27.14 ID:fNCFUmtr0
(´・ω・`)「今まで、現在ある兵糧のみを見すぎていた。
      相手から奪って戦を続ける、という視点が抜けていた」

(´・ω・`)「領土が減少しているのは俺の責任だ。だから、俺の決断を以って取り返す」

川 ゚ -゚)「……そうですか……」

(´・ω・`)「ヴィップも動いてきたことだしな」

 アルタイムの消息を探っていた三日間で、ヴィップは大きく動いてきた。
 まず、ビロードが北東に移動。そしてブーンとルシファーが西のヒトヒラ城目指して行軍を開始した。

 更に、驚くべきことに、ヴィップはジョルジュとヒッキーまでも西の戦に当てようとしている。
 つまり、ミーナ城をミルナ一人に守らせるつもりなのだ。
 攻守に優れたミルナ=クォッチといえど、ラウンジから見ても大博打だった。

 主要な城ではフサギコ、サスガ兄弟などの経験豊富な将が双眸を光らせている。
 しかしそれにしても、中央は手薄だ。
 どこまでも攻めの姿勢を貫くつもりらしい。

 ならばラウンジは当然、中央に大兵団を当てることになる。

(´・ω・`)「真っ先に奪うべきはやはり、ミーナ城か」

川 ゚ -゚)「ミーナ城を大軍で封じておいて、オリンシス城を攻める手もあります」

(´・ω・`)「だが、それでは西の方面に不安を残すだろう」

川 ゚ -゚)「ショボン様のお考えは、ミーナ城を奪うことでヴィップの攻め手も封じることですか?」
87 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:42:46.19 ID:fNCFUmtr0
(´・ω・`)「そうだな。帰る場所がなければ攻められない」

川 ゚ -゚)「オオカミ城ではミーナ城からの圧力を受けすぎ、ウタワレ城では遠すぎる。
     ヴィップはヒトヒラ城を攻めるためには、ミーナ城が不可欠ですね」

(´・ω・`)「だからこそ、奪いたいが」

 しかし、編成は難しい。
 仮にヒトヒラ城をヴィップに奪われても、すぐさまミーナ城を攻め落とせば取り返せる。
 だがヒトヒラ城を安易に奪取されるようでは作戦も根底から崩れることとなる。

 多くの兵を割く必要はない。
 指揮官さえ優秀であれば、ある程度は持ちこたえてくれるだろう。
 その『ある程度』の間に、ラウンジはヴィップ軍を思う存分、攻められるのだ。

 だからこそ、西の方面を安心して任せられる将を選ばなければならない。

(´・ω・`)「ギルバードかな、やはり」

 自然と口から漏れた名は、何度か頭の中で反芻してみても、やはり適任と思えた。

川 ゚ -゚)「はい。ギルバード様が適役であると思います」

(´・ω・`)「あとはプギャーでも送っておくか。ギルバードとは仲も悪くないようだしな」

川 ゚ -゚)「野戦になるのであれば、プギャー様も遺憾なく実力を発揮されることと思います」

(´・ω・`)「まぁ、それ以外に能のない男だからな」

川 ゚ -゚)「こちらにはショボン様とファルロ様ですか」
96 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:45:02.84 ID:fNCFUmtr0
(´・ω・`)「将校は八人くらいになるな。期待のグレスウェン=バーナーもいる。
      場数を踏んできたアルバーナやリュオン、新鋭のクレスターも悪くはない」

川 ゚ -゚)「では……北東は?」

 クーが、まるで他人事のような口ぶりで言った。
 声もどことなく上ずっているように聞こえた。

 はっきりと、平調ではなかった。

(´・ω・`)「……悩ましいところだな」

川 ゚ -゚)「はい」

 今、北東にいる主だった将はオワタ=ライフだけだ。
 あとは経験の乏しい若い将か、ピークを過ぎた老将だけで、将の層は非常に薄い。

(´・ω・`)「兵数は、確か十万を超えているな?」

川 ゚ -゚)「はい。ラウンジ城の近郊ですから、すぐに兵数は補充させてあります」

 十万を超える軍が北東に当てられている。
 この数が減ることはないだろう。

 モララーやニダーといった名将でも、十万の軍は破れないはずだ。
 ラウンジ城からさほど離れていないため、兵や兵糧の補充には苦労しない。
 それを分かっていて攻め込んでくるほど愚かではないだろう。
105 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:47:11.74 ID:fNCFUmtr0
 逆に、ラウンジとしてはギフト城を奪還する必要がある。
 あの城がヴィップ領である限りは、南へ一歩も進めない。
 前線も増えてしまい、無用に兵力と兵糧を消費させられるのだ。

 いずれはギフト城に攻め込むが、実質的な指揮官がオワタだけでは心許ない。
 オワタ自身は、ヴィップ時代よりも攻守に優れた将として成長しているが、十万の指揮は不可能だろう。
 恐らく、両手を挙げて将の補充を求めてくるはずだ。

 しかし、北東に回せる将が、いない。
 自分もギルバードも、ファルロもプギャーも、南西で手一杯だ。

 アルタイムがいれば無論、アルタイムを北東に送るところだが、居ないものは仕方がなかった。
 現有戦力で、何とかするしかない。

 そう考えたとき、やはり、思い浮かんでしまうのは――――

川 ゚ -゚)「…………」

 クー=ミリシア。
 自分にとっても、クラウンにとっても、そしてラウンジにとっても。
 欠かせない秘密兵器だ。

 クーは間諜だけでなく、軍学も勉強している。
 人の心を掴むのも得手だ。
 アルファベットもMまで扱える。もしクーが男だったら、迷うことなく将として起用しているだろう。

 だが、所詮は女だった。
 戦場で指揮執った経験もない。
 指揮官として北東に送るには、不安要素が多すぎるのだ。
111 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:49:21.18 ID:fNCFUmtr0
 それでもクーを送らざるを得ない状態が、層の薄さを如実に表していた。

(´・ω・`)「……クー」

川 ゚ -゚)「はい」

(´・ω・`)「……死ぬなよ」

 それだけを言って、目を伏せた。
 クーが、瞼の向こう側で、深々と頭を下げたような気がした。

川 ゚ -゚)「準備を、進めます」

 クーの声が大気中に霧散した頃には、もう、クーの気配は消えていた。

(´・ω・`)(……くそっ……)

 できれば、クーを戦で使いたくはなかった。
 戦場でアルファベットを振るうことは、さほど難しくない。
 しかし、敵軍に忍び込む技術は誰しもが持ち合わせているものではないのだ。

 簡単に死ぬような女ではない。
 が、誰しもが無情なほど容易く死に果てるのが、戦場だ。
 絶対などない。

 クーが北東に向かう際には当然、シャイツーも伴うことになる。
 これで将の不安は解消されるだろう。

 だが、自分のなかの不安は消えることがなかった。
116 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:51:50.44 ID:fNCFUmtr0
――ミーナ城・西――

 季節は仲冬に差し掛かり、寒気は一層厳しさを増している。
 風上からは風花が送り込まれてきていた。

( ゚∀゚)「ふーん。オオカミ時代から、随分と様変わりしたみてぇだな」

( ^ω^)「ですかお?」

( ゚∀゚)「あぁ、俺がいたころは……もっと草木があったんだが」

 雪渓から一里ほど離れた道を進軍していた。
 あと十里ほど進めば、西へ渡る橋が見えてくるはずだ。
 ただし、視界は雪に塞がれていた。

 年が明けてから、およそ一ヶ月が経過している。
 年号を前年と言い間違えることもなくなった。
 528年。自分の見立てが正しければ、恐らく記念すべき年になる。

( ゚∀゚)「大地が枯れてるって話は何度も聞いたことあったが、事実なんだとしみじみ思うな」

( ^ω^)「明らかに生産能力は落ちてますお」

( ゚∀゚)「七百年ほど前の戦も、五十年くらいで終わったんだよな、確か。
     そんぐらいが戦を続けられる限度ってことだろ」

( ^ω^)「早めに戦を終わらせて、土地を豊かにしないと、民まで枯れちゃいますお」

( ゚∀゚)「あぁ。それは多分、ラウンジも分かってることだろ」
118 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:54:11.52 ID:fNCFUmtr0
 五十年という単語を聞いたとき、ふと、ジョルジュは何歳だっただろうかと考えた。
 確か、四十七。この地の戦以上の年数を、その身に重ねている。
 しかし、まるで新兵のような溌剌さが、戦場に復帰して以来、ジョルジュの表情から横溢していた。

 特に、再起を誇示した初戦の夜以降が、顕著だった。
 全力で調練をこなし、行軍中も厳しく配下を指導している。
 つい先日まで病床に横たわりつづけていたとは思えないほどだ。

 初戦の夜に、何かがあったのだろう。
 その翌日以降のジョルジュには、どことなく切迫感さえ覚えるのだ。
 ただ、何かあったのかと聞くことはなかった。

 ジョルジュも、語ろうとはしない。
 しかし、ラウンジの情報が入るたびに、確信は深まりつつあった。
 ラウンジ軍から、アルタイム=フェイクファーが姿を消しているのだ。

( ^ω^)「…………」

 急病で寝込んでいる可能性もある。
 何らかの秘匿作戦によって動いている可能性もある。

 ただ、ジョルジュの変貌と無関係とはどうしても思えなかったのだ。
 ちょうど、二つの事柄は時期が一致しているためだった。

 ジョルジュの口から直接聞かずとも、今は、アルタイムが軍に存在しないものとして考えていた。
 戦略も戦術も、アルタイムが戦場に出てこないことを前提としている。
 そして、ジョルジュもそれを容認しているということは、恐らく自分の憶測に間違いはないのだろう。

( ゚∀゚)「……伝令か」
120 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:56:49.21 ID:fNCFUmtr0
 瞼を薄く開かせながら、ジョルジュは言った。
 白銀の世界に浮かび上がる人影を、その瞳に捉えているようだった。

 自分は、ジョルジュがそう言ったことでようやく気付かされた。
 元より感性の鋭い将だが、病が快気してから更に鋭敏となった気がする。
 そこに、何らかの違和感を覚えないわけはなかった。

 伝令章を掲げた兵が、東にいるミルナからの言葉を伝えてくる。
 ラウンジ軍の動向について、だった。

( ゚∀゚)「こっちに来るのは、ギルバードとプギャーか……」

( ^ω^)「ギルバードは手強いですお」

( ゚∀゚)「あぁ、知ってるさ。西塔大将だった頃に、何度も戦った」

( ゚∀゚)「カルリナの影に潜んでた印象が強いが、戦は上手い男だったな。
     アクの強い顔とふざけたマントのせいで、最初は色物武将だと思ったんだが」

( ^ω^)「確かに、見た目はちょっと中将らしくないですお」

( ゚∀゚)「だが、戦巧者だ。全てにおいて平均を上回ってる。
     特に型にはまったときは無類の強さを発揮する男だな。
     あっちが大軍なら、俺とお前でも難しい相手だ」

( ^ω^)「……気を引き締めますお」

( ゚∀゚)「敵兵数も一気に増えるみてーだしな」
127 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 18:59:15.36 ID:fNCFUmtr0
 ヴィップがフェイト城攻防戦に動きを見せたことで、ラウンジも大きく動いてきた。
 北部から十万以上の兵が発ち、南進しているというのだ。

 更に、ギフト城の近辺にも十万を超える兵が駐屯しているという。
 ラウンジは遂に全兵力を挙げて、総力戦に臨んできたのだ。

( ^ω^)「できれば、兵糧の枯渇に怯えたままで居てほしかったですお」

( ゚∀゚)「そーもいかねぇさ。ラウンジには、焦りがあるだろうしな」

( ^ω^)「連敗の、ですかお?」

( ゚∀゚)「あぁ」

( ^ω^)「……だけど、ヴィップはこのままずっと、押していけるわけじゃありませんお」

( ゚∀゚)「それをショボンが分かってないとは思えねぇな。
     ただ、何十万といった兵の全てが理解しているか? というと……」

( ^ω^)「……そういうわけでもない、ってことですかお……」

( ゚∀゚)「冷静に考えりゃ分かるさ。
     兵力で劣るヴィップが今、ラウンジを押せてるのは、一時に全てを賭けてるからだ。
     もしこのまま何年も戦い続けたとしたら、必ず限界が訪れて、ラウンジに潰される」

( ^ω^)「確かに……同じ十万どうしの戦いでも、ラウンジは兵を入れ替えて戦えますお。でもヴィップは……」

( ゚∀゚)「ずっと同じ兵が戦いつづけることになる。この差はデカイ。
     が、ラウンジの兵には感じ取れないことだろう。だから、不満が噴出しはじめてるはずだ」
129 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:01:23.30 ID:fNCFUmtr0
( ^ω^)「不協和音が生じるのであれば、ヴィップにとっては悪くないですお。
     でも、その不満が力に変わるようだったら……」

( ゚∀゚)「ま、それは戦ってみねーと分かんねぇな」

 ジョルジュは遠景に目をやったようだった。
 視界にはただ、降りしきる雪のみが映し出されるが、遥か彼方に何か見えるのだろうか。
 その何かを、ジョルジュは見ようとしているように思えた。

( ゚∀゚)「雪に消えた、か……」

( ^ω^)「え?」

( ゚∀゚)「いや、なんでもない」

 ジョルジュが、僅かに首を傾かせながら、目を伏せた。
 そしてすぐに見開かれる。

 険しくなったその顔が、何を感じ取ったからなのか、今度ははっきりと分かった。

(;个△个)「後方より二万のラウンジ軍!!」

 ルシファーの声が響いた。
 雪原に走る戦慄。
  _
( ゚∀゚)「敵襲だぜ、大将」

 手袋を脱いだジョルジュが、アルファベットを抜いた。
137 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:04:32.15 ID:fNCFUmtr0
 雪の粒がアルファベットに触れた瞬間、消えている。
 まるで人の命であるかのように。

( ^ω^)「騎馬兵I隊は散らばらずに前へ! 歩兵は側面を固めるお!」

 突如として襲いかかってきたラウンジ軍。
 どうやらこの雪中での衝突が、ラウンジとの総力戦の、緒戦になりそうだった。



――雪中――

 闇の道を、歩いていた。

 何のために、と自分に問う。
 誰のために、と誰かが問う。

 答えはあるが、声にならない。

 時折、光は射した。
 闇を削り取って、自分の足元を照らし出す。
 注視してみれば、道の凹凸にも気づけた。

 ただし、遮るものは何もない。
 全方位に、道は広がっていた。

 このまま愚直に進むこともできる。
 光を求めて歩くこともできる。

 引き返すことも、できる。
145 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:06:48.60 ID:fNCFUmtr0
 しかし、自然と両足は踏み出していく。
 前へ、前へと。
 ひたすらに。

 だが、先は見えない。
 いったいどこまで進めばいいのか。
 進んだ先に存在するものの正体も、知れない。

 それでも、自分で選んだ道だった。

 何故選んだ、とどこからか声が聞こえる。
 何故進んだ、と彼方から声が聞こえる。

 もはや、答えを返す気にはなれなかった。

 誰にも理解されなくとも良かった。
 後ろから指を差されながら、それでも平然と歩いていける自信はあった。

 しかし、受け入れてくれる人も、いた。

 いつも自由気ままに進んできた。
 その道程で、傷つけたものは数知れない。
 後悔はないが、振り返らないこともない。

 支えを受けて進んできた身の肩は、不意に軽くなった。
 自由に生きてきたはずが、制約に固められていたのだと気づいた。

 そして今度こそ真の自由を得たが、空しさと共に、奈落へと突き進むことになった。
151 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:09:19.39 ID:fNCFUmtr0
 もういっそ、このまま瞼を閉じようか。
 地に伏せたまま時が過ぎるのを待とうか。

 そんな思いに駆られたことを、否定はできない。

 自分で選んだ道を、半ばで自ら諦めようとした。
 やはり、未熟さだけはいつまで経っても変わらない。
 いつも、誰かに迷惑をかけてきた。

 だからこそ、やはり、受け入れてくれた人の手は、温かかったのだ。
 そして声も。

 お前は最後まで、この地の戦を見届けろ。
 戦場に生きた者として。

 そう言われた気がした。

 気づけば、周囲の闇は消え去っていた。

从;・_・从「カルリナ様!!」

 闇が消えても光はなかった。
 薄暗い空間に、空と思えぬ空が広がっている。
 よくよく見てみれば、見覚えのある低い天井だった。
157 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:11:42.18 ID:fNCFUmtr0
 頭上から甲高い声が響いて、少し頭が痛くなった。
 もっとも、心配してくれていたであろうユイカを責めることはできない。

( ’ t ’ )「何日ですか?」

从;・_・从「え?」

( ’ t ’ )「僕が賊の討伐に行ってから、何日が経ってます?」

 今まで感じたことのない疲労がある。
 体を何日も動かさなかったためだろう。
 となれば、数日は意識を失っていたはずだ。

从;・_・从「十日です。カルリナ様は、十日間もずっと……」

( ’ t ’ )「そんなにですか……」

 よく死ななかったものだ。
 そう思う。

 出血で体温が奪われたうえ、極寒の雪中で意識を失った。
 数刻放置されていただけで、絶命していたはずだ。

从;´・_・从「申し訳ありません」

( ’ t ’ )「え?」

从;´・_・从「家にいるようにと言われたのに、カルリナ様を探しに行ってしまいました……」

( ’ t ’ )「……あぁ……」
161 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:14:34.53 ID:fNCFUmtr0
 もはや記憶も薄れかかっている。
 しかし、確かにユイカにはそう言った。

 賊を討伐したあと、そのまま村を去るつもりだったからだ。
 誰にも見つからないまま、また、旅を続けようと思っていたからだ。
 そんな計画も今となっては虚しい。

( ’ t ’ )「僕が倒れていたことは、村の誰かに伝えましたか?」

从;´・_・从「あの……怪我が酷かったので、村医に……」

 それもそうか、と感じた。
 痛みはあるが体の傷は塞がっているようだ。
 医者の手当てがあったからこそだろう。

从;´・_・从「なるべく隠そうとはしたのですが、申し訳ありません、狭い村で」

( ’ t ’ )「隠し通すのは、無理だったでしょうね」

 小さな村は人と人の繋がりが強い。
 誰かを黙って匿うことなど、できはしないだろう。
 致し方ないことだった。

 話を聞いてみると、やはりもう、全村民が知ってしまったようだ。
 自分が賊を全滅させたこと、本物のアルファベットを持っていること。
 そして、カルリナ=ラーラスであること。

 説明の途中、何度もユイカは頭を下げたが、気にはしなかった。
 恐らく、ごまかしきれなかっただろう。
 ただの流浪人に十数人の賊を討てるはずはない。
167 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:17:31.45 ID:fNCFUmtr0
 説明が終わった頃にちょうど、村医がユイカの家にやってきた。
 自分が目を覚ましたことに驚き、こちらが声を掛けるよりも早く、家を飛び出して行った。
 どうやら村中に知らせ回ったらしい。家の周りを全村民が囲んだ。

(D○=○)「カルリナ様! もう大丈夫なのですか!?」

('>|_|)「お食事の用意をしてあります、今すぐお持ちします!」

(;’ t ’ )「……いや、あの……」

(" / 〜/)「お水です、カルリナ様!」

从 ・_・从「お身体お拭きします、カルリナ様!」

(;’ t ’ )(なんでユイカさんまで流されてるんだろ……)

 慌ただしく回りが世話をしてくれるのを、無抵抗に受け入れた。
 誰もが感謝の気持ちを込めて触れてくれている。
 それを感じたからこそ、拒絶はできなかった。

 いや、したくなかったのだ。

U´_`)「本当に、本当にありがとうございました、カルリナ様。
     村民を代表して、お礼を申し上げさせていただきます」

( ’ t ’ )「いや、これはやはり、ラウンジ時代の不始末ですから」

 村長のみならず、皆から次々に感謝を述べられても、素直に頷けなかった。
 この村を苦しめていたのは、元ラウンジの兵だ。自分の部下だ。
 上官の自分に責任がないはずもない。
172 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:20:39.64 ID:fNCFUmtr0
 ただ、村民にとっては、どうでもよいことのようだった。
 苦難から解放された、解放してくれた人には感謝の念がある。
 そんな単純極まりない構造で、皆は手を叩き合って喜んでいるのだ。

 過度とも思える持て成しにも、屈託なく笑える気分ではなかったが、受け入れた。
 きっとそうしなければ、村民は納得してくれないと思えたからだ。

( ’ t ’ )(美味しいな……)

 口に入れやすい大きさに刻まれた野菜が、半透明のスープに浮かんでいた。
 鶏のガラを出汁にしているようだ。啜ると、濃厚な味わいが口内に広がった。

 村の広場に並べられた器の多くには、村の作物が載っていた。
 しかし、中には貴重と思われる豚の肉や羊の肉もある。
 夜空にまで届きそうな炎の光を受けて、脂が輝いていた。

( ’ t ’ )「肉は、あまり量がないのでは」

从*・_・从「いえ、カルリナ様が賊を討ってくださいましたから」

( ’ t ’ )「……あ、そうか……」

 賊が蓄えていた食糧を取り戻せたらしい。
 昨秋の収穫は、賊が大方奪っていったとのことだが、まだほとんど消費されていなかったのだろう。

 肉にも遠慮なく箸をつけた。
 元より、ユイカが器をほとんど自分の前に持ってきて勧めるため、食べずにはいられなかったのだ。

 料理はどれも素朴な味だが、箸が進んだ。
 ずっと食べ物を口にしていなかったせいもあるが、自然と口に運びたくなる味だった。
174 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:23:49.88 ID:fNCFUmtr0
 少量だが、酒も注がれた。
 今まで呑んだどの酒よりも、味は薄い。
 しかし、心は温まって、高揚した。

从 ・_・从「カルリナ様、ずっとこの村に居ていただけませんか?」

 宴が終わって、片付けが始まりだした頃、ユイカは静かに言った。
 恐らく、他の誰にも聞かれていないであろう、小さな声で。

从 ・_・从「皆、カルリナ様にはまだ恩を返しきれていないと感じています。
     貴方がしてくださったことは、それほどに大きいのです」

( ’ t ’ )「……また賊に狙われたら、と案じているのですか?」

 あえて、意地の悪いことを言った。
 ユイカの反応を、窺ってみたかった。
 恐らくは、必死になって否定するだろう、と考えながら。

从 ・_・从「そういう気持ちがあることも、事実です」

 自分の予想に反して、ユイカは素直に認めた。
 いや、ユイカ自身がそう思っている、というわけではないのだろう。
 村民の奥底にある気持ちを代弁している、と言ったほうが適切かも知れない。

从 ・_・从「同じような事態を招かぬよう、村としても努力する所存ですが……」

( ’ t ’ )「限界はあるでしょうね。アルファベットが消滅しない限りは」
180 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:27:59.59 ID:fNCFUmtr0
 無論それは、アルファベットが一般に落ちないようにする努力が足りなかった、軍の責任だ。
 そしてこの村は一度襲われているため、また狙われる可能性が低くない。
 ならば、自分はラウンジ軍に生きた者として、責任を取る必要があった。

 ――――しかし。

从 ・_・从「何もない村は、カルリナ様のような方には、ご不満もきっとあることと思いますが……」

( ’ t ’ )「いや、それは望んでいません。贅の限りを尽くしたがるような男ではありませんので」

从 ・_・从「……でしたら……」

( ’ t ’ )「申し訳ありません」

 深々と、頭を下げた。
 言葉どおり、申し訳ない気持ちに満ちた心のままで。

( ’ t ’ )「僕は、見届けなければならないのです。この地の戦を」

从´・_・从「……戦……?」

( ’ t ’ )「戦場に生きた者として、最後まで見届ける義務があるのです」

从´・_・从「何故……何故ですか?」

( ’ t ’ )「……何故かな」

 自分にも分からない。
 だが、そうしなければならない、と思ったのだ。
 誰かが、耳元で囁いたような気がしたのだ。
187 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:29:54.21 ID:fNCFUmtr0
 義務という言葉を使ったが、決して義務ではない。
 しかし、義務というべきだ。
 矛盾のような思考にも襲われたが、間違ってはいない、と思った。

( ’ t ’ )「村にこのまま留まることは、できないのです。申し訳ありませんが……」

从´・_・从「……そうですか……残念です……」

 ユイカは、心の底から、落ち込んでいるようだった。
 本当に自分に残ってほしかったのだ、と分かった。

 だから、というわけではないが、自然と出てきた言葉があった。

( ’ t ’ )「ユイカさん」

从´・_・从「……はい……?」

( ’ t ’ )「また戻ってきます」

 半分ほど閉じられていた瞼が、大きく開いた。
 ユイカは恐らく意識していないだろうが、体も大きく前に乗り出してきている。

( ’ t ’ )「戦が終わったら、必ずこの村に戻ってきます。
    村に永住するかどうかは、まだ分かりませんが、しかし必ず」

( ’ t ’ )「必ず、戻ってきます」

 言った瞬間、思わず身を引いてしまった。
 ユイカが身を寄せて、手を掴んできたためだ。
200 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:35:41.44 ID:fNCFUmtr0
从*・_・从「ありがとうございます! 嬉しいです!」

( ’ t ’ )「いや、これも元軍人としての責務です」

从*・_・从「本当にありがとうございます!」

(;’ t ’ )(……聞いてないな、多分)

 その後、ユイカは村の皆に自分の言葉を伝え回った。
 村民は皆、一様に喜びを露わにしたという。
 それは、当然のことだが、悪い気はしなかった。

 夜はユイカの家に泊めてもらった。
 目覚めたときは気付かなかったが、アルファベットPは形を保って、家の片隅に置いてある。
 聞けば、どうやらアルファベットは何らかの理由で自然消滅することを知っていたようだ。

从 ・_・从「とりあえず、カルリナ様の手に当てていれば問題ないのかな、と……」

( ’ t ’ )「三日触れないと、消滅しますね。何故なのか、は分かっていないんですが」

( ’ t ’ )「でも、熱かったでしょう」

从;・_・从「素手で触ったときは、驚きました。何枚も布を重ねて持ちあげました」

( ’ t ’ )「しかし、助かりました。もう予備がないので」

从 ・_・从「でも、これもいつかは消える……んですよね?」

( ’ t ’ )「消えます。そのときが、アルファベットとの永遠の別れですね」
204 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:37:12.94 ID:fNCFUmtr0
( ’ t ’ )「しかし……それよりも早く、戦が終わるだろう、と思っています。
    だから、不要になるでしょう」

从 ・_・从「何故ですか?」

( ’ t ’ )「そのときには、他のアルファベットも失われているでしょうから」

 それは、予感であり、確信でもあった。
 しかし、可能性として考えられることは、それだけだ。

 無茶攻めを繰り返すヴィップ。
 いずれ兵の体力が尽きて、押し返されると分かっていて尚、突き進むヴィップ。
 その大将、ブーン=トロッソ。

 恐らく、ブーン=トロッソは――――

( ’ t ’ )「……まぁ、この地に平穏が訪れるのであれば、こんなものはないほうがいいでしょう」

从 ・_・从「……はい」

 疲労からか、寝床に入るとすぐ眠りに落ちた。
 夢は、見なかった。

 目覚めると、ユイカは食み出しそうなほどの食糧を鞄に詰めていた。
 優に二十日は満腹のまま過ごせそうな量だ。

从 ・_・从「金銭を、という話も出たのですが、村中からかき集めても、カルリナ様の手銭に届きそうになくて……」

( ’ t ’ )「食糧だけで充分です、ありがとうございます」
210 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:39:26.53 ID:fNCFUmtr0
 軽く微笑んで礼を言うと、何故かユイカは髪で顔を隠した。
 理由は分からず、しかし聞くこともできず、自然と首を捻らされた。

( ’ t ’ )「……よし」

 やがて、出立の準備は整った。

 外に出ると村民は、盛大に送別会を開いていた。
 そこで初めて気づいたが、どうやら宴が好きらしい。
 微笑ましいと思える光景だった。

从 ・_・从「またお会いできる日を、心待ちにしております」

( ’ t ’ )「僕もです。必ずまた、会いましょう」

 握られた手を握り返して、やがて離す。
 ゆっくりと皆に背を向けて、歩き出した。

 一度別れがあったとしても、きっとまたいつか、会える。
 例え死が訪れようとも。

 何故か、そう考えられるようになっていた。
 理由は、今後ずっと、分かることはないだろう。

 ただ、歩幅は広く、そして、足取りは軽やかだった。
214 名前:第104話 ◆azwd/t2EpE :2008/07/21(月) 19:41:43.88 ID:fNCFUmtr0
――ギフト城――

( ・∀・)「シャイツー=マタンキ?」

( ・∀・)「……それが、昨日こっちに来たやつの名前ですか?」

<ヽ`∀´>「そうニダよ。それが、どうかしたニカ?」

( ・∀・)「いや……初めて聞く名だな、と」


( ><)(……モララー中将……?)

 恐らく、モララーから違和を感じ取ったのは、自分だけだろう。
 そう思って、胸の奥には、ざわめきが広がっていった。












 第104話 終わり

     〜to be continued

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