3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 21:58:06.03 ID:cIYBRy+k0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城・北東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ミーナ城・東

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城・北東

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 21:59:34.70 ID:cIYBRy+k0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・北東

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ギフト城
19 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:01:02.96 ID:cIYBRy+k0
●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ミーナ城・北東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
25 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:02:05.05 ID:cIYBRy+k0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
28 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:03:09.62 ID:cIYBRy+k0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー
U:ジョルジュ/アルタイム
V:ミルナ/シャイツー
W:ブーン
X:
Y:
Z:ショボン
30 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:04:05.67 ID:cIYBRy+k0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

35 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:05:38.36 ID:cIYBRy+k0
【第103話 : You】


――ミーナ城・東――

 例えここで果てたとしても、悔いはない。
 それだけの言葉を、ブーンには残してきた。

 躊躇いなく、全力が出せる。
 _
(#゚∀゚)「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 大きく踏み込んで、背中に回したアルファベットを、振り下ろした。
 アルタイムは地面に接しそうなほど低い位置から、Uを振り上げてくる。

 重力の助けを借りているのは自分だ。
 だから、この衝突には打ち勝てるはずだった。
 しかし互角。二人の中間点で、アルファベットは止まっている。

 一瞬、夜の空間に光が生まれるほどの火花が散った。
  _
( ゚∀゚)(力はアルタイムのほうが上か……!)

 筋肉隆々の体からアルファベットに力が伝わっているらしい。
 十三年前の一騎打ちのときより、明らかに逞しい体つきとなっていた。

 背丈は、決して大きいほうではないが、不思議と見上げさせられる。
 これもやはり、肩幅の広さや胸板の厚さなどが影響しているのだろう。

 しかし、技術で負けているつもりはなかった。
42 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:07:39.57 ID:cIYBRy+k0
 _
(#゚∀゚)「うらぁ!!」

 Uを突き出し、アルタイムが躱したところで素早く引き、また突き出した。
 繰り返す。二度、そして三度。
 四度目、躱しきれなくなったアルタイムが、アルファベットで受け止めてくる。

 大剣のような形状であるUの場合、相手からの突きを受け止めるならば、刃の腹を相手に向ける必要がある。
 そして、刀身の真ん中には穴が開いている。
 狙いどおりだった。

 Uの刃を捻って、アルタイムのUの穴に、アルファベットを捩じ込んだ。

(;`・ι・´)「ッ!!」

 そのまま、一直線。
 アルタイムの心臓までを、最短距離で駆け抜ける。

 これで終わりだ。
 と、楽観的に考えることはしなかった。

(#`・ι・´)「ふんッ!!」

 アルタイムは二の腕を膨らませ、アルファベットを振った。
 真横に、振るった。

 引っ張られるように、自分の体が動く。
 手からUは離さなかった。そして、アルファベットが折られることもないよう留意した。
 アルタイムに、動かされたのではなく、自分が跳躍したのだ。
52 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:10:17.36 ID:cIYBRy+k0
 素早くアルファベットを引き抜いた。
 やるだけやってみたが、やはり、この程度の攻撃では討ち取られてくれない。
 アルタイム=フェイクファー。歴戦のラウンジ軍中将は、確かな実力を有していた。

(`・ι・´)「病床で得た錆びは、しっかりと落としてきたようだな、ジョルジュ=ラダビノード」

 アルタイムの間合いは、自分より広い。
 初撃で分かったが、あまり自分から踏み込んで攻めるべきではないようだった。
 つまり、アルタイムが声を発しているからと言って、隙を突くような真似はできない。
  _
( ゚∀゚)「勘はすぐ戻るさ。何十年アルファベットに触れてきたと思ってんだ」

(`・ι・´)「そうだな。俺たちは、アルファベットと共に生きてきた」
  _
( ゚∀゚)「戦が終わるまでは、ずっとそうさ」

(`・ι・´)「あぁ」

 不意を打ってくる気配はない。
 足の爪先が微動するということも、ない。

(`・ι・´)「しかし、ここでどちらかが、アルファベットを握らない時代を経験することなく終わる」
  _
( ゚∀゚)「だろうな。負けたほうは、今後の平和を味わえねぇ」

(`・ι・´)「あるいは、終戦までに双方朽ち果てるかも知れん」
  _
( ゚∀゚)「それも戦だ、アルタイム」

(`・ι・´)「無論、分かっていて臨んだ世界だ」
60 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:12:34.69 ID:cIYBRy+k0
 ゆっくりと、しかし絶妙な位置に、アルタイムが踏み込んできた。
 瞬時にUを引いて、体の前で構える。
 多少、勢いをつけ、アルタイムのUを弾き返した。

(`・ι・´)「しかし俺は、平和を謳歌したい。ラウンジの世を、体感したい」
  _
( ゚∀゚)「そう思ってんのは、お前だけじゃねぇよ。戦場に立つ誰しもが考えてることだ」

(`・ι・´)「あぁ。だからこそ、俺達は全力をぶつけ合うのだな」
  _
( ゚∀゚)「そういうことさ。いちいち確認しなきゃ分かんねぇか?」

(`・ι・´)「いや。理解できていたはずのことだ」

(`・ι・´)「――――しかし、どこかに逡巡もあったのだろうな」

 言葉を繋ぎながら、アルタイムはアルファベットを繰り出してきていた。
 横に鋭く薙がれる。後方に体を引いて回避し、反動を利用して、アルタイムの肩口を狙った。
 だが、それは地面に切り込みを加えただけに終わる。

(`・ι・´)「随分と、身勝手な行動を取ってしまった。ショボンに了解も取らず」

(`・ι・´)「これでは、かつてカルリナを叱責していた自分が愚かに思えてくる」
  _
( ゚∀゚)「知らねぇよ、そんなこと。今さら悔やむことか?」

(`・ι・´)「いや、悔やんではいない。ただ、決意を改めただけだ」
65 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:14:46.33 ID:cIYBRy+k0
 左足を大きく踏み出してきた。
 体が、開いている。体重をかけた方向とは、逆からの攻撃。
 力が乗っていなかったおかげで防げたが、一瞬の焦りが自分にあったのは事実だった。

(`・ι・´)「俺は、何がなんでもお前を討ち取る。そうすれば、身勝手な自分を打ち消せる」
  _
( ゚∀゚)「ハッ、らしくねぇ答えだな、アルタイム」

(`・ι・´)「言っただろう。俺には、余裕がないと」

 そして一転、大振りから小刻みな突き出しに切り替えてきた。
 ときどき不意を打って横払いを加えてきたりもする。
 これほどの器用さがアルタイムにあったとは。

(#`・ι・´)「オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!」
 _
(;゚∀゚)「ッ……!」

 反撃に、出られない。
 残像さえ見えるような攻撃をただ受け止め、じっと隙を窺うしかない。

 勘が完全に戻ったと言えば嘘になる。
 衰えた筋力も、復活させるだけの時間はなかった。

 アルタイムの手紙を無言で破いていれば。
 あるいは、しばらくの後に承諾していれば。
 今とは違った未来が見えていただろう。
71 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:17:02.95 ID:cIYBRy+k0
 主導権は自分にあった。
 しかし、あえてアルタイム有利な状況で一騎打ちに挑んだのだ。
 それは、何故か。

 自分にもよく分からない。
 驕りがなかったとも言わない。

 だが、恐らくは、自らに試練を課したかったのだ。

 およそ一年、自分は戦場から離れていた。
 ただの一年ではない。ヴィップが最も困窮し、存亡の危機にさえ瀕した一年だ。
 その期間中、自分はただ寝床から空を見上げるだけの日々を送っていた。

 誰からも責められることはなかった。
 長年の過労が祟ったのだ、致し方ない、などと同情的な言葉を多く寄せられた。
 そんな言葉を聞くたびに、自分自身を斬り殺したくなったものだ。

 ショボンは、どうだ。
 同情的な意見に対し、もし言葉を返すとしたら、自分はそう言っただろう。

 ショボン=ルージアルは何年も大将として戦場に立ち続けた。
 今も大国ラウンジの大将を務めあげている。
 しかし、無様に病床の毛布を被ったことなど一度もないではないか。

 激務であろうと体調管理を怠らなければ、危急の事態に迷惑を掛けることもなかったのだ。
 ヴィップが押し込まれることさえなかったのかも知れない。
 不遜でもいいが、自分の存在は、国にとって小さなものではないのだ。
83 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:19:57.21 ID:cIYBRy+k0
 ブーンには謝っても謝り切れない迷惑をかけた。
 ショボンらが裏切り、ヴィップが危地に立たされたとき、ブーンは大将位に就いた。
 限りない重圧と果てしない恐怖が伴うと知っていて、だ。

 本来であれば、自分が支えてやらなければならなかった。
 大将を何年も務めてきた自分が、ブーンの足元の泥濘を固めてやる必要があった。
 自分が本分さえ果たしていれば、ブーンが不調に陥ることもなかったかも知れないのだ。

(  ∀ )(……こんなことで……償いになるなんて、思ってねぇけどよ……)

 それでも、自分は最大限、取り戻さなければ。
 病床に伏していた間に、失ってしまった時間を。

 まだ戦は終わらない。
 だからきっと、取り返せるはずなのだ。
 失態も、戦場での勘も、本来得なければならなかった戦功も。

 尊厳も。

(#`・ι・´)「オオオオォォォッ!! オオオォォォッ!! オオォッ!!」

 留まることなく、アルタイムから見舞われる攻撃。
 確実に、防ぎ続けていた。

 最小限の動きで、だ。
  _
( ゚∀゚)(焦るな……必ず、機は来る……!)
90 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:22:16.88 ID:cIYBRy+k0
 疲労が溜まるのはアルタイムのほうが先だ。
 攻め続けるほうが辛いに決まっている。
 対する自分は、最小限の動きで体力の消耗を抑えていた。

 しかし、自分の体力は戻り切っていないだろう。
 アルタイムとの根競べに勝てるかどうかは、分からない。

 今は、自分を信じるしかなかった。
  _
( ゚∀゚)(信じられるだけのことはやってきたんだ……!)

 二十年以上に及んだ大将歴。
 三十年以上に及んだ戦争歴。

 そのいずれもが、自分を支えている。
 戦場に立つ力を与えてくれている。
 確たる柱となって。

 二十代で死ぬ人間も、まるで路傍の石のように多い世界だ。
 そのなかで、自分は四十七まで生き延びている。
 様々な困難に打ち勝ってきたからこそだ。

 自分を信じるには、充分すぎるだけの時間を経てきた。

(#`・ι・´)「ふんッ!!」

 まるで空から落ちてきたかのような一撃。
 全身を揺さぶられる。
98 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:24:37.50 ID:cIYBRy+k0
 しかし、受け止めることができた。
 力は衰えきってはいない。アルタイムに勝てるだけの実力は、失っていない。

 アルタイムは徐々に詰め寄ってきていた。
 それに伴い、自分は後退する。次第に二人の位置が動いていく。
 後方に壁があるわけではなかった。押し込まれたとしても、問題はない。

 アルタイムの前進は、今の方向性、そして気持ちを表していると見ていいだろう。
 攻撃的な姿勢に傾き始めているのだ。
 それは単純に、守りへの注意が払われなくなることを意味している。

 まだ、まだアルタイムは守備を捨てていない。
 自分が攻撃に転じれば、即座に防がれ、そして瞬時に自分の首を狙ってくるだろう。
 その攻撃を受け止められる保証はない。

 絶対に負けてはならない勝負だ。
 求めるべきは、確実な勝利なのだ。

 だから今は、アルタイムのアルファベットを防ぎつづけるより他ない。
 隙を窺って、一瞬の弛みも見逃さず、機に応じてアルファベットを振るうしか、ないのだ。

 そう、分かっている。
 分かっている、が――――

 ふと、思ってしまった。

(  ∀ )(……なんだ、これ……)
102 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:26:38.68 ID:cIYBRy+k0
 自らの全てを賭し、歴戦の猛将にも匹敵するほどの一撃を、何度も繰り出してきている。
 そんな男が、目の前にいる。

 なのに自分は、せせこましくアルファベットを動かして、身震いするほどの一撃を殺している。
 本気でアルファベットをぶつけ合おうとせず、ただ隙だけを狙っている。

 なんだ、これは。
 自分は、これほどに臆病な人間だったのか。

 この一騎打ちに勝たなければならないのは、事実だ。
 アルタイムを討ち取り、明朝には何事もなかったかのような顔で、城に戻らねばならない。
 それはもはや、自分に課せられた義務だった。

 しかし――――

(  ∀ )(……つまんねぇ……)

(  ∀ )(なんだ、俺……アルタイムがこんなスゲェ力見せてんのに……。
    相手の疲労狙って、無情な一撃にのみ集中してる……)

(  ∀ )(こんなしょうもねぇ一騎打ちする男だったのか、俺は……?)

 十三年前の一騎打ちも、死を覚悟していた。
 あのときも、今と同じように、不利な状況だった。

 しかし、違う。
 胸の熱さが、違う。

 こんな一騎打ちを望んでいたわけではなかった。
111 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:28:41.24 ID:cIYBRy+k0
 _
(#゚∀゚)「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

(;`・ι・´)「ッ!!」

 渾身の力でアルタイムのUを弾き返して、即時追撃を加えた。
 しかし、アルタイムも反撃に出てくる。

 閃光が、迸った。

 強烈な一撃と一撃は、接し続けることがない。
 しかし、また引かれ合う。何度も、何度も。
 そうやって本当の一騎打ちは続いていくのだ。

 軍人らしさが求められる将校職において、唯一、武人らしさを発揮できるとき。
 それが、敵将との一騎打ちだった。

 だが、自分はあまりに軍人的すぎた。
 一騎打ちの本質を、忘れてしまっていたのだ。

 これでは、アルタイムの全力に敵うはずもなかった。
 _
(#゚∀゚)「おおおおおおッ!!」

 体力の消耗など、知ったことか。
 尽きれば負ける。それで充分だ。
 尽きるまでにアルタイムを討ち取ればいい。

 頭上高く掲げてからの振り下ろし。
 空振った後、間髪入れずに振り上げ。
114 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:30:52.69 ID:cIYBRy+k0
 更には突き出し、横に薙ぎ、もう一度振り下ろす。
 夜の闇を銀の刃が幾度も裂いていく。

 アルタイムには決して、負けていない。
 何度も振るっているうちに戻ってきた感覚もある。
  _
( ゚∀゚)「勝負はこっからだ、アルタイム!」

(`・ι・´)「望むところだ、ジョルジュ=ラダビノード」

 少しだけ、アルタイムが笑ったように思えた。
 しかしその顔も、自分が首を狙った一撃により、刃で隠れて見えなくなった。


――ミーナ城・東――

 ジョルジュの意図が、読めない。
 そんな、弱音に近い思いを、昔から幾度となく抱かされてきた。

(-_-)「…………」

 今回も、同じだ。
 ジョルジュが何のために自分を伴ったのか。
 分からない。考えても、答えは浮かばない。

 ただ、二人の死闘を見守ることしかできないのだ。
 _
(#゚∀゚)「うらぁ!!」

(#`・ι・´)「ぬんッ!!」
123 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:33:06.66 ID:cIYBRy+k0
 互いに、懐に隙を抱えた一撃。
 それを狙うことのない、一撃。

 勝負は、移ろった。
 どちらかのアルファベットが壊れるまで続く戦いに。

 先ほどまでは、技術をぶつけ合う一騎打ちだった。
 状況不利と見たジョルジュが、アルタイムの隙のみを狙っていたのだ。
 それは、間違った選択ではなかったのだろうが、ジョルジュからかつての鋭さは消えていた。

 しかし、突如としてジョルジュは死力を尽くし始めた。
 体力の温存や空隙を渇望する様など、一切見せなくなったのだ。

 そのとき今日初めて、ジョルジュの真価が発揮されたような気がした。
 _
(#゚∀゚)「ハァッ!!」

 ジョルジュの金髪が、大きく乱れ始めた。
 髪の端は月明かりに透けて、汗の粒を宙に放っている。
 
 そこにいるのが二人でなければ、まるで、剣舞のようだ。
 ジョルジュがアルファベットを振るう様は、見惚れてしまうほど、美しかった。

(#`・ι・´)「クオオオォォッ!!」

 そしてアルタイムも、負けず劣らずのアルファベット捌きを披露している。
 これほど繊細な男だとは知らなかった。アルタイムとは、何年も戦ってきたのに、だ。
 ある意味では、悩みさえなさそうな、磊落な男に見えていたのだ。
129 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:35:23.32 ID:cIYBRy+k0
 アルタイムの境遇には、同情せざるを得ない。
 ベルの後継など、誰が務めても見劣りするに決まっている。
 内外からの批判は、ありすぎるほどにあっただろう。

 アルタイムにとっては、苦痛だったはずだ。
 しかし、その時間が最もアルタイムを成長させた。
 将として。いや、男として、だ。

 その事実に、アルタイムは気付いていない。
 本当は、将として全土でも指折りの存在となっていることに。

 だから、焦燥が生まれたのだろう。
 過日の失態を、このような形で、取り戻しに来たのだろう。

(-_-)「…………」

 どちらが勝利を収めるのか、見えない。
 まったく見えてこない。

 自分の心情としては、当然、ジョルジュに勝ってほしかった。
 長年、大将として仰いできた、拠り所のような存在だ。
 失われるときなど、想像したくもない。

 しかし、そのときは必ずやってくる。

 今日、ここに来るまで、知らなかった。
 ジョルジュが、ベルと同じ治療を受けたのだと。
 命を削って、戦場に立つ力を取り戻したのだと。
139 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:37:45.03 ID:cIYBRy+k0
 あまりに当然のように言われ、反応することもできなかった。
 ただ、呆然としてしまった。

 ジョルジュが、居なくなる。

 生ある者はいつか必ず終焉を迎える。
 遅速に差はあろうと、必ず。
 しかし、まさか、自分が目の当たりにするとは思わなかった。

 自分のほうがジョルジュより、いくらか歳を重ねている。
 だから、という理由もつけられるが、それだけではない。
 何故か、ジョルジュより自分のほうが先に逝くだろう、と思っていたのだ。

 実力的に劣っているのは明らかだ。
 生への執着もあまりない。
 だから、ジョルジュの死を見ることはないだろう、と無意識に感じていたのだ。

 その無意識から、無という文字が取り払われた瞬間、自分に襲いかかってきたのは恐怖だった。

(;-_-)「…………」

 いま思い返せば、今日の戦が終わったあと、ブーンに投げかけた言葉。
 あれも、どことなく不自然なものだったように思える。

 ブーンにかけるべき言葉としては最良だった。
 しかし、まるで伝えるべきこと全てを伝えたがっているように見えたのだ。

 もう二度と言葉を交わすことがなくとも、悔いはない、というふうに見えたのだ。
147 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:40:37.86 ID:cIYBRy+k0
 一方のアルタイムも、今回の一騎打ちは明らかに独断専行。
 勝利して軍に戻る以外の道はない。
 敗北は、どのような形であろうと、死だ。

 こんな考え方を、したくはないが――――

(-_-)「…………」

 ――――どちらも、ここで果てておかしくない。
 そう思える状況だった。

 それでも自分は、ジョルジュの勝利を願い続けた。



――ミーナ城とフェイト城の中間点――

 深更の月は身動ぎせずに、ただ下界を見つめ続けている。
 数多なる人々の営みを、見守っている。

 大多数の民はもう夢の世界へと旅立っているだろう。
 人によっては、狩猟や漁業に精を出しているかも知れない。

 そしてヴィップ軍は、ラウンジ軍の動向に気を配っている。
 歩哨に立つ兵や、斥候として陣を離れた兵。
 自分のように、アルファベットの訓練に励んでいる兵も、中にはいるかも知れない。

(;^ω^)「ふぅ……」
153 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:42:53.62 ID:cIYBRy+k0
 何度も呼吸を繰り返し、少しだけ体を休めた。
 すかさず冬の寒風は自分の身を切っていく。
 汗ばんでいるせいで、余計に風の冷たさを感じ取れてしまうのだ。

 誰何の声が聞こえた。
 呼応の声も聞こえた。
 あと何か耳に入ってくるとすれば、甲高い風声だけだ。

 その風を、斬り裂くようにアルファベットWでFを放った。
 無暗には射れない。味方の誰かに当たってしまう可能性がある。
 近距離の草木や小さな石などを標的にしていた。

 途中で、何人か、アルファベットの教えを乞う兵がやってきた。
 いずれもJの壁に挑戦している兵だった。

 自分はJの壁に苦しんだ記憶があまりない。
 時間こそ要したが、いつもどおりの鍛錬を続けているうちに、越えていたのだ。
 Sの壁を突破したときのような感慨深さもなかった。

 Sの壁には苦しまされた。
 自力で鍛練を続けても越えられず、歳月だけが過ぎていった。
 ドラル=オクボーンとの一騎打ちの最中にSを掴めたことは、恐らく一生忘れないだろう。

 あのとき、何故自分は壁を越えられたのだろうか。
 ときどき、そんな風に思い返すことがあった。

( ^ω^)「このくらいにしとくお」
163 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:46:05.04 ID:cIYBRy+k0
 数人の兵に一刻ほど手解きしたところで、終了を告げた。
 もう日付が変わってから三刻は経っているはずだ。長引かせると、今後に響きかねない。

 ただ、自分はもう少しだけ、訓練を続けるつもりだった。

( ^ω^)(早くXに……)

 Wに到達してからまだ日は浅い。
 浅いが、弓系は総じて突破が早いと言われているのだ。
 近々のうちにXを掴んでみせるつもりだった。

 TやUやV、Wもそうだが、大きく躓くことなく次のアルファベットに進めている。
 S以降はひとつごとに壁があるようなものだ、と言われているが、困難さを表すのではなく、要する時間を表しているらしい。
 確かに、壁を越える前よりはひとつひとつに時間がかかっている。

 ただ、ニダーやギルバードのように、壁を越えたものの更なる上位には達せないでいる将もいた。
 加齢と共にランク上昇が鈍ることは知られているが、恐らくはニダーもギルバードも同じだろう。
 自分はまだ三十二。Yへの到達も、そう遠くないうちに成し遂げられるはずだ。

 無論、アルファベットのランクアップには、年齢以外の要素も絡んでくる。
 単純な努力、そして本人のモチベーション。
 感情的な面も非常に大きい。

 Sの壁を越えたときなど、正にそうだった。
 ドラルに勝ちたい気持ちのみで越えたようなものだ。
 アルファベットは人間に呼応すると言われている。懸ける思いも、汲み取ってくれるのだろう。

 力が拮抗している際などは、気持ちで優ったほうが勝つ。
 そんな単純な構図も出来上がる。
171 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:48:26.80 ID:cIYBRy+k0
( ^ω^)「…………」

 一瞬だけ、悪寒が去来した。
 振り払うようにアルファベットWを、近傍の岩に向け放つ。
 破片の飛び散る様は闇に混じってしまい、確かめにくい。

 最初は巨大なWの扱いに手間取ったが、徐々に馴染んできた。
 Xに触れられる日は遠くない、と実感できている。

( ><)「ブーン大将?」

 何度かWを掴み、手を離し、また掴む。
 そんなことを繰り返していたとき、闇から現れたのはビロードだった。

( ^ω^)「ビロードさん、どうしたんですかお?」

( ^ω^)「お散歩ですかお? もう遅い時間なのに……」

( ><)「いえ……ブーン大将を探してたんです」

( ^ω^)「……お……?」

 アルファベットを収め、何もない地面に腰を下ろした。
 ビロードも並ぶ。一国の大将と少将が座る場としては、あまりに粗末だ。
 しかし、不思議と心が落ち着いた。

( ^ω^)「何か、お話でも……?」

( ><)「お話というか……お願いなんです」
179 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:50:41.11 ID:cIYBRy+k0
 ビロードは、基本的に、誰かに対し意見をすることがない。
 時には意志薄弱とも取られるほど、協調性を重んじている。
 だから、ビロードから何かを頼まれるというのも、珍しいことだった。

( ><)「あの……」

( ^ω^)「はいですお」

( ><)「実は……僕を、この戦場から外してほしいんです」

(;^ω^)「……えっ?」

 言葉にしづらそうな表情を見た時点で、嫌な予感はしていた。
 しかし、むしろ言葉は斜め上を向いており、真っ先に自分の中に困惑が生まれた。

(;^ω^)「どういうことですお? 戦が、嫌になっちゃったんですかお?」

(;><)「そ、そうじゃないんです! 違うんです!」

(;^ω^)「だったら、なんで……?」

( ><)「……僕は……北東の戦場に行きたいんです」

 今、北東ではニダーとモララーを中心に、主に防衛戦が繰り広げられている。
 大きな動きはないが、ラウンジ城が近いとあって、常に気の抜けない情勢だ。
 しかし、何故ビロードが、と思わずにはいられなかった。
185 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:52:54.90 ID:cIYBRy+k0
( ^ω^)「……今は北東よりもこっちのほうが逼迫してますお。
      だから先日、ヒッキーさんにも来てもらって……」

(;><)「ワガママだってことは分かってるんです。ごめんなさいなんです。
     でも、どうしてもあっちで戦いたいんです」

 本当に、本当に珍しいことだった。
 ビロードの、力強い言葉。

 記憶を辿っても、ほとんど見つからない。
 どこまでも探るのであれば、514年のエヴァ城戦まで遡及することになるだろう。
 あのとき、ビロードの怒りを買ってしまったのは自分だった。

( ^ω^)「……どうして、北東に拘るんですかお?
      ギフト城に何か思い入れが……?」

 ないことは、分かっていた。
 ギフト城など、ビロードは一度も入城したことのない城のはずだ。

 理由の察しはついている。
 が、ビロードの口から、直接聞きたかった。

( ><)「城じゃなくて……僕は、モララー中将の力になりたいんです」

( ^ω^)「ッ……」

 やはり、そうだった。
 北東を望んだ理由は、モララーの存在だった。
192 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:55:19.84 ID:cIYBRy+k0
( ><)「ショボンたちが裏切ったとき……僕は、プギャーに捕えられて、人質にされたんです。
     モララー中将を追い詰めるための道具に……」

( ><)「そのせいでモララー中将は、大怪我を負って……。
     復帰までに一年もかかっちゃったんです……。
     僕のせいなんです……」

( ^ω^)「……いや、それは……」

 違う、と否定しかけたが、口を噤んだ。
 ここで自分が否定しても、ビロードは更に自分を追い詰めるだけだろう。
 モララーが負傷して以来、ずっと思い詰めていたはずだからだ。

( ><)「……過ぎたことはもう、どうしようもないんです……失われた一年は、戻らないんです。
     でも――――僕がモララー中将の支えになって、少しでも、取り返せるような働きができたら……。
     そうすれば、僕にとっても、モララー中将にとっても、ヴィップにとっても、最上の結果だと思うんです」

(;><)「もちろん、こっちの戦況が逼迫してることは重々承知なんです。
     ショボンもギルバードもいるし、ファルロだって……。
     だけど、僕はここにいるより、北東のほうが」

( ^ω^)「ビロードさん」

 周章しはじめたビロードを、宥めるように声を出した。
 そして力強い視線を送った。

( ^ω^)「ブーンは、ヴィップ軍の大将として、一個人の我が侭を許すわけにはいきませんお」

(;><)「ッ……!!」
203 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 22:58:24.10 ID:cIYBRy+k0
 当然の、ことだった。
 それぞれの思惑を優先させていれば、国軍は瞬く間に崩壊してしまう。
 兵の命を預かる者として、決して許してはならないのだ。

 あくまで、我が侭は、だった。

(;><)「……ごめんなさいなんです……将官としての自覚が、足りてなかったんです……」

(;><)「今の話は……もう、忘れて――――」

( ^ω^)「ビロードさん、北東に行ってくださいお」

(;><)「も、もちろんそのつもりで……」


(;><)「……え?」


( ^ω^)「国益を勘案して、判断しましたお。確かに、そのほうがいいですお」

(;><)「で、でも……!」

( ^ω^)「北東は今後、防衛戦が主となるはずですお。
     だったら、ビロードさんの守備力は必要ですお」

( ><)「……ブーン大将……」

( ^ω^)「北東にて、ギフト城の死守。務めてくれますかお?」
211 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:00:36.21 ID:cIYBRy+k0
 真っ直ぐに瞳を見つめていた。
 ビロードの奥底に、光が見えた。

( ><)「……はいなんです!」

 微笑むと、ビロードは、満面の笑みを返してきた。
 そして何度もお礼の言葉を述べられた。

 北東のギフト城は現在、多数の城に接しており、非常に守りにくくなっている。
 おまけに、守戦で力を発揮するヒッキーを呼び寄せてしまったため、人員は手薄になっているはずなのだ。
 だったら、ビロードに赴いてもらうのは悪くない。

 何より、ビロードの気持ちが北東に傾いているのであれば、そのまま背中を押してやるべきだ。
 そう思えたのが、大きかった。
 気が漫ろになったまま、こちらで戦うよりは余程いいだろう。

( ^ω^)「お願いしますお」

 立ち上がり、急いで準備を整えに行くビロードの背中を見送ってから、自分も臀部の土を払った。
 普通は、将が移動するとなると役割の分担などが行われるが、今回は必要ない。
 新たにジョルジュが加わっているためだ。そっくりそのまま引き継いでもらえばいい。

 そうやって、またジョルジュのことを思うと、胸が締め付けられるようだった。

 何が締め付けているのかは、分からない。
 しかし、彩色が施されているとすれば、漆黒だろう。
 外に染みだすような、混じり気のない、嗚咽するような黒。
216 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:03:43.07 ID:cIYBRy+k0
 何もないはずの夜闇を見つめた。
 何も見えない空間を。

 しばらくずっと、眺め続けてしまっていた。



――ミーナ城・東――

 一騎打ちが始まってから、もう一刻は経ったか。
 留まらずに動きつづけるのも、体力的に辛くなってきた。

 それでも、この一騎打ちは、先に手を緩めたほうが地面に転がる。
 頭と体の、永遠の離別を余儀なくされる。

(#`・ι・´)(負けられん!!)

 武人としての矜持。
 軍人としての本分。
 いずれも、勝利あってこそだ。

 この一騎打ち、決して不利ではない。
 いや、それどころか、終始圧倒しているのは自分のほうだ。
 特に序盤は完全にジョルジュを封じ込めていた。

 何か、策を抱えているかも知れない。
 そんな臆病な考えを抱いたりもしたが、思い直した。
 ジョルジュが、途中から突如、全力と思われる一撃を放ち始めたからだ。
220 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:07:02.96 ID:cIYBRy+k0
 それでこそ、ジョルジュ。
 長年、ヴィップの大将を務めた男に相応しい姿だ。
 そう思って、胸が躍った。

 ジョルジュが全力を見せ始めてからも、押し込まれることはなかった。
 衝突は、互角。技術でも、大差はない。
 ならば、先に全力を出せなくなったほうが、負ける道理だった。
 _
(#゚∀゚)「うるぁ!!」

 体を捻り、大きな反動の助けを借りたジョルジュの一撃。
 隙は、突こうと思えば突けたかも知れない。
 しかし、そんな終焉はどちらも望んでいない。

 純粋な、力比べだ。
 勝敗を分ける要素はたった一つ。
 根気。

 その根気を成すものは、何か。
 努力、精神力、踏んできた場数。
 いずれも欠かせない。

 しかし最後は、アルファベットにどれだけの思いを込められるか、だ。

(#`・ι・´)「おおぉぉッ!!」

 ジョルジュの一撃を弾いて、矢を引くときのように、柄を後方へ引っ張った。
 そして、思いきりよく突き出す。
 斬り裂いたものは、ジョルジュの流れるような金髪数本のみだった。
230 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:09:51.19 ID:cIYBRy+k0
 巨大な刀身を持するUは、上位では珍しいほど扱いやすいアルファベットだ。
 Sの壁以降は一癖も二癖もあるアルファベットが多く、SやTにも長年苦しまされた。
 この一騎打ちも、自分のアルファベットがTのままであれば、恐らく既に首はないだろう。

 ギフト城を失ってから、自分への怒りを発散させるように、アルファベットの鍛錬に励んだ。
 もう何年もTから上がっていない。心の中では、半ば、諦念さえ抱いていた。
 しかし、ジョルジュと戦いたいと思う気持ちが、向上心を蘇らせてくれたのだ。

 アルファベットも、自分の想いに呼応してくれた。
 四十九になってようやく、Uに達することができたのだ。
 互角の戦い、いや、それ以上の一騎打ちとなっているのは、正にアルファベットのおかげだった。
 _
(#゚∀゚)「らぁ!!」

 体を反らせて攻撃を躱したジョルジュは、また体を捻るようにして、反動をつける。
 低い位置から、頭上へ。そして、自分へと接近する。
 強烈だった。

(;`・ι・´)「ぐっ……!」

 まずい。握り続けた主導権を、奪われた。
 強烈な一撃は防いだが、守勢に回ってしまい、反撃に転じられない。
 ジョルジュはまだ、体力を余しているようだった。

 自分もまだ、戦える。
 しかし、限界は近い。

 もって、あと数撃。
234 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:12:27.31 ID:cIYBRy+k0
(;`・ι・´)(ジョルジュは……!?)

 余裕さを見せつけているが、顎から滴り落ちる汗は隠せないだろう。
 肩も微かに上下している。
 多少の体力は残しているが、しかし、限界が近いことを物語っていた。
 _
(;゚∀゚)「決着は近いな、アルタイム……」

 息継ぎで言葉が途切れるのも、隠そうとしなくなったジョルジュ。
 いや、もはや隠せないのか。

(;`・ι・´)「……死に行く覚悟はできたか?」
 _
(;゚∀゚)「言ってろ」

 同時に踏み込んだ。
 右後方からの、振り下ろし。
 互いに同じ動作だ。

 やはり互角。
 鍔迫り合いになることはなく、素早く身を引いて、もう一撃。
 ジョルジュは回避し、Uを突き出してくるが、自分も躱した。

 そしてまた、アルファベットは触れ合う。

 限界が、足音を忍ばせて近づいてくる。
 もう、あと四撃は持つまい。
 三撃。互いの限界線が、はっきりと見えた。
242 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:15:19.81 ID:cIYBRy+k0
 ジョルジュが、身を屈めて、穿つようにアルファベットを向けてきた。
 薙ぎ払って弾き、距離を取る。
 あと、二撃。

 今度は、自分から踏み込んだ。
 間合いは、絶妙。渾身の一撃を繰り出せる。
 ジョルジュの体勢も、万全だ。

 大地さえ揺れた。
 そう思うような衝撃が、二人の間に生じた。

 しかし、決着はつかなかった。

(;`・ι・´)「ハァ、ハァ、ハァ……!!」
 _
(;゚∀゚)「グッ……ハァ、ハァ……」

 あと、一撃。
 これが、どちらかにとって、最後の一撃だ。

 半歩踏み出すだけで、刃が届く。
 それが互いを隔てる距離だ。

 生死を分ける三歩半だ。

 今まで実に、何百、あるいは何千という数の命を奪ってきた。
 そのいずれの一撃よりも、重い。
 重すぎる。

 まるで、かつて自分に課せられていた責務のようだった。
251 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:17:51.70 ID:cIYBRy+k0
(;`・ι・´)「…………」
 _
(;゚∀゚)「…………」

 互いに機を図りつづけている。
 先に踏み出し、勢いの優ったほうが有利なはずなのに、動けない。

 臆してしまっているのか。
 違う。緊張しているのだ。
 最後の一撃だからこそ。

 ジョルジュにとってなのか、自分にとってなのか。
 いずれでも、緊張を抱かされてしまうのだ。
 これほどの好敵手であるからこそ。

 それでも、勝者が二人生まれることはない。

 アルファベットはまだ、地面に接していた。
 やろうと思えば、一瞬で振り上げ、そして振り下ろせる。
 そしてそれは、ジョルジュも同じだろう。

 ジョルジュの瞳を、また、見つめた。

 全てを、覚悟した目だった。


 ――――そのとき、一陣の風が二人の間を通り抜けた。


 瞬間、自分もジョルジュも、動いていた。
263 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:20:29.98 ID:cIYBRy+k0
 _
(#゚∀゚)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

(#`・ι・´)「ぬああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」





 それはまるで、全てが鈍重化した世界。
 等しい動作で、等しい速度で、互いのUは相手のUへと向かっていく。

 そして、接した。

 物体と物体が高速で衝突したことによる光が、はっきりと見て取れた。
 そしてその光が、アルファベットの刀身にさえ食い込んでいったことも。
268 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:22:40.81 ID:cIYBRy+k0
 ジョルジュのアルファベットに、走ったのだ。
 不安定な軌道で、しかし確実に線を描いた。
 亀裂が、走った。

 巨大な刀身を持つアルファベットUに、ヒビが入っていた。

 瞬間、自分は勝利を確信した。


(`・ι・´)(勝っ――――!!)

(`・ι・´)(…………った……)


 アルファベットの重みは、手から消えていた。
 柄をもう、力の限り握り締める必要はない。

 ジョルジュに、ジョルジュに、勝った。
 あのジョルジュを相手に、勝利を収めた。

 全身から熱が抜けていく。
 心地よい開放感に、包まれる。
287 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:25:48.92 ID:cIYBRy+k0
 本当に、勝ったのか。
 歴戦の大将、ジョルジュ=ラダビノードに。

 才のない大将と批判されつづけた、自分が――――

(`・ι・´)「…………」

( ゚∀゚)「……アルタイム」

 ジョルジュの、顔が見えた。
 しかし、視界の端々は霞んでいる。

 後方の光が、眩しい。
 憎らしいほどに星が輝いている。

 自分は、空を見上げていた。
 背中に冷たい土の支えを受けながら。

 勝者であるジョルジュを、仰いでいた。

(`・ι・´)「……アルファベットの限界は……俺のほうに来たか……」

 ジョルジュのアルファベットに、ヒビが入った。
 それだけを見ていた。

 実際には、そのとき、自分のアルファベットUは砕け散っていたのだ。
 二つに割れて、破片を撒きながら、地面に突き刺さっていたのだ。

 そして、自分の胴体をジョルジュのアルファベットが抉っていた。
313 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:29:17.77 ID:cIYBRy+k0
 不思議と痛みはない。
 だが、まだ命を繋いでいることが異常に思えるほどの深手だ。
 もう、あと幾許も生きてはいられまい。

 終わった。
 全てが、終わった。

 悔いはなかった。
 生涯最後の相手は、自分にとって、最高の相手だった。
 何も悔しがる必要はない。

 全力を出し切った。
 その上で、及ばなかったのであれば、致し方ない結末だ。
 自分には過ぎた帰結とさえ思える。

( ゚∀゚)「……アルタイム、俺は」

(`・ι・´)「よせ、ジョルジュ=ラダビノード」

 声を出すのも、不思議と苦しくない。
 ただ、体から熱の失われていく感覚があるだけだ。

(`・ι・´)「俺たちは、最後の言葉を交わすような間柄じゃない。そうだろう?」

( ゚∀゚)「……あぁ……」

 争い合う国の、大将同士だった。
 そして偶然にも、今は中将同士となって一騎打ちが行われた。
 運命などという言葉を信じる性分はないが、数奇なものだ、とは思う。
327 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:32:19.85 ID:cIYBRy+k0
 ジョルジュは、最後の相手としては、充分すぎるほどの将だった。
 だが、やはり二人を繋いでいるものは、敵愾心だ。
 感慨に浸りあうような仲ではない。

 敵将を、討ち取った。
 存在する事実は、それだけでいいのだ。

( ゚∀゚)「……酷なようだが……ひとつだけ、言わせてもらうぜ」

(`・ι・´)「……?」

( ゚∀゚)「この地の戦、最後に勝つのはヴィップだ。それだけは、揺るがねぇ。
     アルタイム、お前がラウンジに懸けた想いは知ってるが」

 この状況だからこそ、あえて。
 あえて、ジョルジュは言葉にしたのだろう。

 自分が思っていたより、ずっと、芯は熱い男のようだった。
 そして、情にも厚い男だ。
 最後の最後で知っても、どうしようもないことだった。

(`・ι・´)「……この身で言うのも、締まらんが……それでも俺は、ラウンジの天下を望もう」

( ゚∀゚)「……そうか」

 ジョルジュが、亀裂の走ったアルファベットを、掲げた。
 あれが垂直に降りてくれば、自分の心臓を貫くだろう。
 どうやら、首を取るつもりはないらしい。
338 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:35:02.97 ID:cIYBRy+k0
 敗者をどうしようが、勝者の勝手だ。
 どこを斬ってとどめを刺されようが、どうでもよかった。

(`・ι・´)(……長かったな……)

 四十九年の時を、生きた。
 奇しくも、ベル=リミナリーと同じだけの年齢を重ねた。
 そして、ベルが死んだのも確か、年が明けてすぐのことだった。

 ただの、偶然だ。
 運命などという言葉は信じていない。
 だがそれでも、多少の嬉しさは抑えきれなかった。

 これから死に行くとは思えないほど、心は穏やかだ。
 過去をゆっくりと思い出せている。
 初陣のこと、将校になった日のこと、ベルの右腕になった日のこと。

 ベルの棺を、運びだした日のこと。
 ショボンを討ち取れずに果てたと報せを受けた日のこと。
348 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:37:29.55 ID:cIYBRy+k0
 ベルには散々迷惑をかけた。
 命令を忠実に遂行することしかできない中将だったからだ。
 今更、遅すぎるが、向こうで会えたら謝りたい。

(`・ι・´)(……ベル大将、は……)

 星の輝きが眩しくなって、目を閉じた。
 夜空よりも、はるかに暗い世界だ。

(`-ι-´)(……ベル大将は……何と、仰ってくださるかな……)

 怒られるだろうか。
 叱られるだろうか。

 それとも、少しくらいは、褒めてくださるだろうか。

 答えは、向こうで知ることにしよう。
354 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:40:16.62 ID:cIYBRy+k0
(`-ι-´)(……カルリナ、すまない……できればもう一度だけ、お前に会いたかった……)

 かけがえのない友に、ちゃんとした別れを告げられなかった。
 それが、心残りと言えば心残りだ。
 だが、もはやどうしようもない。

 俺はここで逝く。
 しかし、お前は最後まで、この地の戦を見届けろ。
 戦場に生きた者として。

 それが、かつてお前の上官だった俺からの、最後の命令だ。

 心の中で、それだけを告げた。
 カルリナに、届くはずはないと知っていながら。

 ファルロやギルバードにも、何も言えなかった。
 ずっと、自分を支えてきてくれた将なのに、だ。
 すまない。自分は結局、いつまでも迷惑をかける男だった。

 ショボンやプギャーやオワタにも、ラウンジを頼む、と伝えたかった。
 何もかもが、実現不可能な状態でも、そう思ってしまった。

(`-ι-´)「…………」

 最後の言葉は、残すまい。
 力なき将は、ただ、戦場の土に埋もれていくだけでいいのだ。

 それが、相応しい結末なのだ。
360 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:42:21.20 ID:cIYBRy+k0
 目を閉じているが、瞼の向こう側で、何かが動いたと確認できた。
 そしてそれが、少しずつ、近づいてきていることも。


 ――――さらば、ジョルジュ=ラダビノード。

 さらば、ラウンジ国。


 さらば、戦場よ。



 言葉にならない言葉が、胸を駆け巡る。
 僅かながらでも、離別を惜しむかのように。

 その、胸に、何かが入り込んできた。



(`-ι-´)(……さらば……)



 疲弊に満ちた体の、安まるときが来た。
 常に苦しみを抱えていた、心さえも。

 後はゆっくり、戦の結末を見守らせてもらうことにしよう。
370 :第103話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/18(水) 23:44:20.00 ID:cIYBRy+k0
 ――――やがて、自分の体を、一本の線が通り抜けた。

 瞬間、暗闇に染まっていたはずの視界が、何故か白んだ。


 そして、自分の意識は確実に、天へと向かっていった。












 第103話 終わり

     〜to be continued

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