3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:10:22.73 ID:1gYR05Z+0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城・北東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オリンシス城近辺

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城・北東

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:10:55.57 ID:1gYR05Z+0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・北東

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・北東

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
9 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:11:30.10 ID:1gYR05Z+0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ミーナ城・北東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城
13 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:12:18.05 ID:1gYR05Z+0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
18 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:13:12.36 ID:1gYR05Z+0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー
U:アルタイム
V:ジョルジュ/ミルナ/シャイツー
W:ブーン
X:
Y:
Z:ショボン
20 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:14:00.66 ID:1gYR05Z+0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

22 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:14:57.71 ID:1gYR05Z+0
【第102話 : Interval】


――フェイト城・南西の幕舎内――

 両手で、手紙の真ん中を摘む。
 そして右手だけに力を込めて、ゆっくりと、左手から離れさせてゆく。

 真っ白な手紙は、いとも容易く二つに別れた。

川 ゚ -゚)「ショボン様」

(´・ω・`)「クーか」

 破いた手紙を投げ出す。
 元より何の価値もなかったものだ。何も問題はない。
 クーの顔色も、変わることはない。

(´・ω・`)「ちゃんと聞いていたか?」

川 ゚ -゚)「はい」

(´・ω・`)「お前のことじゃないぞ」

川 ゚ -゚)「分かっています」

(´・ω・`)「そうか。それならいい」

 戦が始まるまで、あと四刻といったところか。
 ヴィップが不測の行動を取ってこない限りは、もう少し落ち着いた時間を満喫できる。
31 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:17:16.76 ID:1gYR05Z+0
( ^Д^)「ショボン大将、お話が」

(´・ω・`)「ん?」

 皆が退出してから、さほど時間は経っていない。
 なのに、プギャーが幕舎に戻ってきた。

 そして、破かれた手紙を見て、驚くでもなく、むしろ納得した表情を浮かべている。

( ^Д^)「やはり、偽物でしたか」

(´・ω・`)「気付いていたのか?」

( ^Д^)「手紙に刻印がありませんでしたから」

 自分もプギャーも、以前はヴィップ国に身を置いていた。
 当然、軍で使用されている手紙など何度も目にしている。

 実物を見たことのある者なら、当然、気付くのだ。
 本物には小さな刻印がある。それは、ヴィップ軍内にのみ存在する判によるものだ。
 努力次第ではそれに近いものを偽造することも、できなくはないが、今は無意味だった。

( ^Д^)「しかし、いったい何のためだったのですか?」

 プギャーが分からないのも、今回ばかりは、無理からぬことだ。
 責めるつもりはなかった。

( ^Д^)「内部の士気向上のためですか?」

(´・ω・`)「いや、そんなことは目的じゃない。別段、士気が低いというわけでもないしな」
34 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:19:14.97 ID:1gYR05Z+0
( ^Д^)「では……」

(´・ω・`)「どうやらブーンが間者を送り込んできているらしくてな」

 プギャーの眉が微かに上下した。
 ブーンという言葉に反応したのか。それとも、間者という言葉に反応したのか。

(´・ω・`)「まぁ、間者が入り込んでいることは何らおかしくない。
      しかし、これが思った以上に有能だったんだ。絶対に尻尾を出さない。
      さっきの軍議、幕舎の外を何人かの兵士に守らせていたが、その中の一人が間者だ」

(;^Д^)「そんなに近くまで……?」

(´・ω・`)「あぁ。だが、どれが間者かはクーでも突き止められなかった。
      あるいは全員、間者かも知れん。疑わしき者を集めて、幕舎の外を護衛させたんだが」

( ^Д^)「なるほど。つまり、先ほどの内通者がどうの、という話は、流言なのですね?」

(´・ω・`)「そうだ」

 珍しく、プギャーにしては理解が早い。
 逐一説明して、戦の前に疲れたくはなかった。ありがたいことだ。

(´・ω・`)「有能である、という部分を利用させてもらうことにした。
      間者は能力が高ければ高いほど、得た情報全てを客観的に伝える。
      つまり、さっき俺が喋ったことも確実にブーンに伝わるんだ」

( ^Д^)「……!」
37 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:21:09.92 ID:1gYR05Z+0
(´・ω・`)「疑わしい者の中から誰かが動いて、ヴィップ軍に戻るはずだ。
      そこでクーに間者を捕らえさせることも、不可能ではないと思うが……。
      今回は、あえて逃がして、ブーンを動揺させる。疑心暗鬼にさせる」

 自分が裏切ったときの衝撃は、ブーンの心のどこかに、必ず残っている。
 今は無理やり封じ込めているかも知れないが、些細なことで蘇る可能性は充分にあるのだ。
 試してみる価値が、ないはずもない。

 特に、最近のブーンは、孤独な戦をしているように見受けられる。
 何がブーンを変えたのかは知らないが、好機と言えた。
 今はまだまともな戦ができている段階かも知れないが、いずれは箍が外れるだろう。

 その箍を、自分が外しに行ってみるのも悪くない。

( ^Д^)「でしたら、先ほど『ヴィップが逆転の策を練っているらしい』と仰ったのは?」

(´・ω・`)「空言さ。ヴィップがこちらの隙を狙って動こうとしているかどうかなど、知ったことじゃない」

(´・ω・`)「大事なのは、俺の言葉を事実に仕立てあげることさ」

( ^Д^)「……先ほど仰った内容を……ヴィップに実行させるおつもりですか?」

(´・ω・`)「そうだ」

 ヴィップが何を狙っているのか、は関係ない。
 こちらが隙を見せれば、逆転したがっているヴィップは必ず食いついてくる。
 自分が先ほど吐いた虚言と、同じことが起きる。

 そうすれば間者は、本当に情報が漏れたのだと信じてブーンに報告を入れる。
 ブーンの猜疑心を、煽ることができるのだ。
41 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:23:26.21 ID:1gYR05Z+0
 冷静に考えれば、こんなもの、ラウンジ側の策だと気付ける。
 ありもしない情報は、どうやっても漏れるはずがないからだ。
 ただ、今のブーンに、果たしてラウンジの目論見を看破できるか。

 ブーンの疑念を湧きあがらせることができずとも、ブーンの様子を窺うことはできる。
 こちらに損害はない。

 それに、もし本当にヴィップがこちらの隙を狙うような策を立てているとすれば、面白くなる。
 やるだけやってみる価値は、充分にある策だった。

(´・ω・`)「懐を大きく開けておくつもりだ。無論、刃は忍ばせておくがな」

(´・ω・`)「その刃の役目、お前に任せたいと思っているんだが、いいか?」

( ^Д^)「やり遂せてみせます」

 今日のプギャーは珍しく、頭が回っている。
 得意の野戦であり、調子がいいとなれば、プギャーに期待するのも悪くはない。

(´・ω・`)「胸が躍るな」

 アルファベットZを、握り締める。
 手入れに不行き届きはない。

 年を跨いで続けてきたフェイト城を巡る戦も、直に終わりだ。
 勢いを持続させたまま、カウンターでミーナ城を奪い取る。

 奪い取ってみせる。
43 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:25:12.56 ID:1gYR05Z+0
――ミーナ城・北東――

 投入兵力数を見ても、布陣を見ても。
 四方八方から確認し、そのどこにも疑う余地はない。

 ラウンジは、大攻勢を仕掛けてくるつもりだ。

( ゚д゚)「とりあえずは、こちらの定めた道筋を辿れそうだが」

 敵陣を遠望したまま、ミルナは呟いた。
 あえて、声を大きくしなかったようにも感じられる。

( ^ω^)「大攻勢に対する不安、ですかお?」

( ゚д゚)「ないとは言わんが……大将殿の考えを、お聞かせ願おうか」

( ^ω^)「単純な大攻勢に終わるはずがない、とは思ってますお」

 純粋な力押しは、他の何にも劣らない無敵の策だ。
 それが成功するのであれば、何の苦労も要らない。
 しかし、綻んでしまうと他に打つ手がなくなる作戦でもある。

( ゚д゚)「ショボンは知勇を兼ね備えた将だ。安直に迎え撃つべきではないな」

( ^ω^)「骨身に沁みてますお」

( ゚д゚)「そうだろうとは思うが」
47 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:26:52.63 ID:1gYR05Z+0
 ミルナの言葉には、近頃、歯切れの悪さがあった。
 何か思うところがあるのだろう。しかし、詮索することはなかった。

 自分とミルナを繋ぐものが太くなるとすれば、それは恐ろしいことだからだ。

( ゚д゚)「まずは、引きつけるか?」

( ^ω^)「ですお」

( ゚д゚)「思い出すな。512年にエヴァ城を奪った戦を」

( ^ω^)「ショボンを引きつけて、一気打通した戦ですかお?」

( ゚д゚)「あぁ。あのときと状況が似ている」

( ^ω^)「でも、兵力に違いがありすぎますお」

( ゚д゚)「そうだな。あのときは、オオカミのほうが大軍だったからな」

( ^ω^)「寡兵でやるのは多少の不安がありますお。
     でも、ブーンたちが不安を露わにしてたら、配下の兵はきっと敵に背中を向けちゃいますお」

( ゚д゚)「あぁ」

 何かを言いたげで、しかし言葉にはしない。
 それが最近のミルナだ。
 やはり、言葉の続きを待とうという気にはなれない。
52 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:28:43.70 ID:1gYR05Z+0
( ^ω^)「行きましょうお。果敢な戦を」

( ゚д゚)「尽力しよう」

 ミルナと軽くアルファベットを交わせ、馬に跨る。
 見据えるは、七万に達するラウンジ軍。

 ヴィップ軍は四万五千。
 二万五千の差がついたが、兵の錬度では優っているはずだ。
 それでも多少の不利は否めない。だからこそ、果敢に戦う必要がある。

( ^ω^)(初戦で、負けてるんだお……だから……)

 その負けを取り返し、そして、一気に畳み掛けなければ。
 昨年末の夜襲は見事に打ち払ったが、依然として劣勢に立たされているのはヴィップ側だ。

 ここで躓けば、逆転の策が成らなくなる。
 最後まで順調さを保たなければ。
 誰も失わずに、進まなければ。

 少しだけ重みを感じるアルファベットVを、天高く掲げた。

 従える、四万五千の兵。
 二つに分けて陣を構えさせた。

 口から漏れるは白濁した息。
 視界を微かに霞ませる。

 原野の土に、馬蹄を、刻み込んだ。
 駆け出した。
57 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:30:46.28 ID:1gYR05Z+0
( ^ω^)「手筈どおりに動くんだお!!」

 ヴィップが動き出すと同時にラウンジも動いてきた。
 陣を大きく広げている。鶴翼か。
 いや、単純にこちらを押し包もうとしている。

 防衛線を押し下げようという気さえない。
 ヴィップの全滅を狙っているのだ。

 ただ、それにしては動きが緩慢だった。

( ^ω^)「…………」

 引きつけなければ。
 ヴィップの狙いは、一気打通。一撃による逆転だ。
 そのためには、ラウンジを油断させる必要がある。

 だが、鈍々しいラウンジの挙動。
 単純な大攻勢で終わるはずはない、と思っていたが、やはりそうなのか。
 何か別の狙いも抱えているのか。

( ^ω^)(……それとも、ただの様子見かお……?)

 ヴィップの出方を窺おうとしている可能性も充分にある。
 しかし、事態は常に最悪を想定しておくべきだ。
 でなければ、また、失わずに済むものを失いかねない。

( ^ω^)(……作戦は変えられないお)
64 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:32:28.59 ID:1gYR05Z+0
 臨機応変に動く必要もあるが、今は戦前に決めた作戦を遂行しなければ。
 唐突に指令を変えれば配下に混乱を与えかねない。

 一里程度進んだところで、進軍を停止した。
 ラウンジは地を揺らしながら接近してくる。

 腰を落として、迎撃する。
 耐えに耐えて、力を溜め込んで、突き破る。
 そして城を奪い取るのだ。

 ラウンジの先陣と、ヴィップの先陣が、触れた。

( `ω´)「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 まずは自分が敵陣を裂く。
 突き崩す。

 出鼻を挫かれれば、ラウンジは躍起になって進んでくるはずだ。
 前のめりになって、実に脆い体勢となり、容易に突き破ることができる。
 だからまずは、先陣に恐怖を与える必要があった。

 アルファベットVを突き出した。
 敵兵の首を貫き、そのまま力任せに振り払って、更に一人。
 崩れ落ちてくるラウンジ兵を一瞥することもなく、次々に後方の兵を討ち取っていく。

 馬の扱い、アルファベットの扱い。
 いずれもヴィップのほうが優っている。間違いない。
 血と汗を滲ませた鍛練の成果が出ていた。
72 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:34:35.23 ID:1gYR05Z+0
 ラウンジの先陣はおよそ五千。
 こちらは、四千を使った。
 まずは、完勝を収めることができた。

 勢いに任せて進軍することはせず、一度体勢を整える。
 そういう風に、見せかける。
 慎重な戦いぶりだ、というぐらいに思ってくれれば儲けものだった。

 ラウンジは、留まることなく第二陣、第三陣を繰り出してきた。
 鶴翼の陣は崩れつつある。もちろん、ショボンはあえて陣形を崩しているのだろう。
 最初の陣形に拘る必要はない、と考えたか。

 ラウンジは、こちらの想定どおりに動いてくれている。
 ここまでは、順調に事を運べている。

 ――――いや、順調すぎる。

( ^ω^)(……こんな男じゃないんだお……ショボンは……)

 こうも易々と狙いどおりに動かせてくれるはずがない。
 常に最悪の想定を。それが、今回の戦が始まる前、肝に銘じておいたことだ。

 読まれていると考えたほうがいい。
 敵軍を引きつけた後に突き破り、城を奪い取るという作戦そのものを、だ。

 読んだ上で行動しているとしたら。
 していると、したら――――

( ^ω^)(……突き破る直前、あるいは突き破った直後に、ラウンジは仕掛けを発動させてくるはずだお)
79 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:36:26.52 ID:1gYR05Z+0
 その対策さえ講じておけば、この戦には負けない。
 負けてはならない戦なのだ。是が非でも、勝利を収めなければ。
 フェイト城を、奪わなければ。

 ラウンジの進軍を待ち構えたのち、迎え撃った。
 やはり大軍の圧力は、凄まじい。
 演技でも何でもなく、純粋に、気圧されてしまう。

(;^ω^)「押し返すんだお!!」

 偽りの指令を出して、奮起を促す。
 押し返す必要はない。このまま、少しずつ押し込まれていけばいい。
 然るのちに一点突破を成せばいいのだ。

 しかし、それさえ実現させられるかどうか。
 ラウンジは、大攻勢を仕掛けてくる際、必ず隙を生じさせると見ていたが、ない。
 その隙が、存在しないのだ。

 いや、いずれは必ずどこかが綻ぶ。
 これほどの大攻勢だ。一気呵成の攻めだ。
 緩みが生じなければおかしい。

 見極めろ。
 それが、大将の仕事だ。
 指揮官の責務なのだ。

 ラウンジの攻撃を必死に凌ぎながら、図り続けた。
 反撃の機を、だ。
85 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:38:20.56 ID:1gYR05Z+0
( ^ω^)(左翼は厚いお、出足が揃ってるのは中央で、右翼は……)

 目と頭が急速に回る。
 状況を、的確に判断できているつもりだった。

 少しずつ押し込まれていけばいい、とは言ったが、陣が崩されてはどうしようもない。
 敵の勢いを削ぐべく、自らアルファベットを振るっていた。
 大将が先頭に立てば、配下の兵は必然的に奮起する。過去の経験から、それは分かっている。

 陽は天高く昇って、冬の寒さを僅かに和らげる。
 そして、戦の熱が完全に寒気を奪う。

 温血を浴びた体は尚も動いていた。
 止まることなく、留まることなく、ずっと。

 やがて、出足の揃いすぎた中央が、突出してきた。

( ^ω^)「鉦を!!」

 即座に甲高い音が響き渡る。
 二度、そして三度。

 全体の足並みが揃っていない。
 これなら、中央を堂々と突破していける。
 突き破れる。

 兵を小さく固めて、反撃に出た。
 敵の攻撃を凌ぎ続けた甲斐あって、まずは大きく踏み込めた。
 弓と同じだ。強く引き絞れば、威力は増して、遠方まで届くようになる。
94 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:40:15.70 ID:1gYR05Z+0
 一点突破のみを目指して、突き進んだ。
 中央は、決して薄くはないが、両翼との連携が取れていない。
 いける。これなら、ラウンジを破ることができる。

 そう断じるのは、早計だった。
 無論、分かっていたことだった。

( ^ω^)「……!」

 前方を塞いできたのは、ラウンジ軍少将、ファルロ=リミナリー。
 その手に握り締めるは、アルファベットS。

 ショボンが裏切った直後の、一騎打ち以来だった。
 あのときは自分の完勝だった。アルファベットに、今と同じだけの差があったのだ。
 しかし、今回も勝てるだろうと楽観してはならない。

( ̄⊥ ̄)「…………」

( ^ω^)「来るなら、受けて立つお」

 何人たりとも斬り伏せる。
 皆の命を、預かる者として。

 ファルロとの距離が、詰まる。
 間合いが、詰まっていく。

 が、しかし。
103 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:42:04.12 ID:1gYR05Z+0
 ファルロは、一騎打ちには臨んでこなかった。
 隊の指揮に専念し、ヴィップ軍の進撃を食い止めることにのみ心を砕いている。

( ^ω^)(……それなら、それでもいいお)

 アルファベットを振るって、敵軍を押し倒す。
 道はあっという間に切り開かれていった。
 ファルロの隊など、まるで問題にならなかった。

 そう感じた直後の、視界の先に、捉えたもの。

 ラウンジ軍が誇る遠距離攻撃部隊。
 M隊だ。
 後方で、プギャー=アリストが指揮している。

( ^ω^)「進軍停止ッ!!」

 即座に指令を下して、下馬した。
 軽く跳躍し、そして、M隊の前に立ちはだかる。

 たった、一人きり。
 配下の兵が追い付かないような速さで、M隊の前に立っていた。

 そして、次々に射こまれるFを、叩き落とす。

(#`ω´)「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」

 間断などない。それでも、確実に。
 一度に射られるのは十から十五。全て、アルファベットVで防いでいた。
109 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:44:19.45 ID:1gYR05Z+0
 M隊の怯みは、遠くにまで伝わってくる。
 Fを射る速度が、落ちていた。

 それは当然、間隙であり、ヴィップの兵が見逃すはずはなかった。
 M隊を蹴散らすべく、騎馬隊が猛然と駆け出していく。

 事前に、何らかの仕掛けがあることは予測していた。
 だからこそ、冷静に対処することができたのだ。

 ラウンジの刃は、砕いた。
 あとはもう、フェイト城に到達するだけだ。

 しかし、今度こそ楽観だったのだと気付かされるまでに、時間は必要なかった。

(;^ω^)「ッ!!」

 M隊を狙いにいった騎馬隊が、崩される。
 Fによってではない。側方を突く攻撃によって、だ。
 遠くに、ほくそ笑むプギャーの顔がはっきりと見える。

 中央は、前のめりになって突出していた。
 それによって空いたスペースには、このための部隊が待ち構えていたのだ。
 騎馬兵I隊だった。

 次々に討ち取られていくヴィップの騎馬隊。
 そして、波は自分の足元にまで、打ち寄せる。
 ヴィップ軍の進撃は、完全に止まっていた。

 M隊は、ただの囮だったのか。
 ヴィップ軍の頭を叩くための伏線に過ぎなかったのか。
118 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:46:12.40 ID:1gYR05Z+0
(;^ω^)「うぐっ……」

 後方からはファルロの部隊。
 更に、ギルバードまでが迫ってきている。
 M隊からの射撃も、再びヴィップ兵を襲い始めていた。

 ファルロにはビロードが、ギルバードにはミルナが当たってくれている。
 さすがに二人とも、判断と行動が素早い。

 が、肝心の男を、防げる人間がいなかった。

(´・ω・`)「そこで大人しく待っていれば、綺麗に首を刎ねてやるさ」

 静かに、しかし確実に、迫り来る。
 ショボン=ルージアル。

 ルシファーとヒッキーが圧力をかけてくれているが、通じない。
 ショボンの近衛騎兵隊には抗えない。

 プギャーも接近してきている。
 ショボンの側には、シャイツーまでいる。

 絶体、絶命。
 それ以外の言葉は、思いつかない。

(;^ω^)「前に出るんだお!! 目標はプギャー=アリスト!!」

 左方のショボンを防ぐより、進路を塞いでいるプギャーを破ったほうが早い。
 難易の観点からも、プギャーを討ち崩すべきというのは適切な判断だった。
127 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:48:02.64 ID:1gYR05Z+0
 しかし、そのプギャー隊が、想像以上に固かった。
 精兵を与えられている。最近の戦では、概ねプギャー隊は脆かったのに、だ。
 役割が役割なだけあって、ショボンは編成に工夫を加えてきたようだった。

 ヴィップにとっては、当然、苦しい展開となってしまった。

 それでも強引に、攻め立てる。
 プギャーの部隊は五千ほど。破れない数では決してないのだ。
 現に、少しずつ陣は崩れはじめている。

 が、着実に迫りつつあるショボン隊の脅威が、肌に突き刺さっていた。
 空気が、痛い。体の芯が、震わされる。
 側に寄ってくるだけで、戦慄してしまう。

 早く、早く破らなければ。
 プギャーの部隊を突き破らなければ。

 そう逸れば逸るほど、動きは鈍化していく。

(;^ω^)「くおおぉぉぉッ!!」

 血に塗れたアルファベットVが、新たな血に体を染めさせて、動き回る。
 その刃の向こうに見えるのは、裏切りの将、プギャーだ。
 卑屈な笑みを浮かべて、自分の首を狙いに来ている。

 モララーを散々に虐げられた怒りが、込み上げてくる。
 あまりに身勝手で、矮小な男、プギャー。
 こんなやつに騙されていた自分が悔しくて堪らない。

 だからこそ、こいつは、討ち取ってしまいたい。
137 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:50:14.30 ID:1gYR05Z+0
 右手に更なる力を込めた。
 プギャーが徐々に近づいてくる。一騎打ちまで、そう遠くはない。

 間に、数人の敵兵が存在していた。
 その敵兵を討ち取るべく、アルファベットを振り上げた、そのときだ。

(;^ω^)「……え……?」

 力を込めすぎたアルファベットが、砕けた。
 いや、砕けたような気がした。

 手中から、消失したのだ。
 アルファベットVが。

 正確には、力を込めすぎて、血で滑った。
 アルファベットが、僅かに宙に浮いた。
 手から、離れていた。

 あってはならないことが、起きてしまった。

 眼前に迫るは、ラウンジ兵のI。
 遮るものは、なにもない。

 自分の息が、白いせいだろうか。
 刃の光で、目が眩んだせいだろうか。

 視界が、白く、染まっていくのは。
150 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:52:58.85 ID:1gYR05Z+0
 そしてその視界に、色を与える音。
 軍に入ってから、幾度となく耳にした音。

 しかし――――何故、と思う光景が、目の前には広がっていた。

「際どいとこだったか。悪いな」

 そう言葉を発したのが、誰だったのかさえ、最初は分からなかった。
 顔が見えなかった。だからだ、と自分では思えた。
 しかし、声を聞けば判別はできる。

 無心で、宙に浮いたアルファベットを掴んでいた。
 そして、しっかりと確かめるように、その男の顔を見た。

( ゚∀゚)「とりあえず、この状況を打破するぞ、ブーン」

 声を聞いた時点で、分かっていたのだ。
 自分を助けてくれたのが、ジョルジュであることは。

 しかし、何の報せもなかった。
 もう戦える状態になったのだと、大将である自分さえ知らなかったのだ。
 だから、声を聞いた瞬間には、錯乱してしまった。

(;^ω^)「ジョルジュさん!」

( ゚∀゚)「全部、後にしてくれ。先にやるべきことが呆れるくらいあるだろ」

 ジョルジュは、構えていた。
 刀身の長いアルファベット、Uを。
166 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:55:02.25 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「俺はお前に合わせる。行こうぜ、大将」

 もう、病魔に苦しんでいたときの面影もない。
 軽く笑ったその表情。

( ^ω^)「……はいですお」

 自分を、奮い立たせてくれた。

 体を大きく捻って、見据えた。
 迫り来る男、ショボン=ルージアル。
 ジョルジュが現れたことに対する感情の変化は、見受けられない。

 だが、進軍速度は鈍っていた。
 間違いなく、だ。

 手綱を引いて、迫った。
 近衛騎兵隊。そして、率いるショボンとシャイツー。

 正面からの衝突。

(#`ω´)「おおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!! うおおおおおおぉぉぉぉッ!!」

 我武者羅に、ただただ猛然と、振るった。
 精錬されたショボンの近衛騎兵隊。しかし、怯むことはない。
 こちらは倍数の一千を使っているが、戦いはほぼ互角だった。

 混乱した戦場の中でも機敏に動けた。
 鍔迫り合いのように拮抗したあと、互いが離反する。
 しかし、そこからのもう一手がある。
180 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:57:07.45 ID:1gYR05Z+0
 ジョルジュの部隊が、近衛騎兵隊にぶつかっていた。
 同じように衝突したあとは弾けるように離れて、再び自分がつっかける。
 ショボンの近衛騎兵隊を、完全に封じ込めていた。

 ショボンかシャイツーが、単独で前に出てくる可能性もある。
 可能性が高いのはシャイツーだ。特に、ジョルジュが狙われかねない。
 だから、常に動向には気を配っていた。

 ラウンジの将が前に出て来ないよう、常に圧力をかけつづけた。
 しかし、状況を打破すべく単身で飛び出してくるとしたら、頃合いだ。
 緊張は体の自由こそ奪わないが、異常に喉を乾かしていく。

 戦場の流れは、少しずつ変動していた。
 まるで小さな支流が生じたかのように。

( ^ω^)「……!」

 ショボン隊を封じ込める自分とジョルジュに、迫る影。
 名は確か、ウィットランド=レンフェロー。
 年末の夜襲でルシファーに打ち破られた男だ。

 汚名を雪ぎに来たのか。
 気概は思わず慄くほどのものだ。
 目が血走っている。

 戦場の流れと照らし合わせても、悪くない動きだった。
 中核とも言えるショボン隊が自由に動き回れない今、外側から包囲を解いてやる必要がある。
 ウィットランドの考え方に、ショボンも文句はつけられないだろう。
186 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 22:59:09.35 ID:1gYR05Z+0
 ひとつだけ、ウィットランドに難点があったとすれば。
 あったと、すれば。

 自己の力量を、正確に把握しきれていなかった点だろう。

( ゚∀゚)「無謀が過ぎるだろうよ」

 ウィットランドは、アルファベットPを振り回してきた。
 ジョルジュはそれを瞬時に躱し、低い位置から、穿つようにウィットランドにアルファベットを突きたてた。

 瞬間、ラウンジ側から鉦が鳴らされた。
 恐らくは、撤退だろう。ウィットランドの戦死が手痛かったはずだ。

 徐々に陣が収束し、ゆっくりと後退していく。
 深追いはしなかった。余力がない。
 戦に勝てただけで、良しとすべきだった。

 防衛線を、押し戻した。
 五里。これで、戦が始まったときの状態に戻ったことになる。
 苦しい戦いだったが、勝利を収めることができた。

 最大の功労者は無論、流星のように現れた元大将だった。

( ゚∀゚)「連絡できなくて悪かった。こっちも急でな」

(;^ω^)「それはいいんですお。御身体は、もう平気なんですかお?」

( ゚∀゚)「まーったく問題ねぇ」
193 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:01:06.70 ID:1gYR05Z+0
 ジョルジュの視線が、何故かミルナを捉えたようだった。
 そのミルナは、眉ひとつ動かさずに、じっとジョルジュの顔を見つめている。

( ゚∀゚)「ブーン、わりぃが一千ほどオリンシス城に戻してやってくれ。
     滞陣で疲れてるやつを選んだほうがいいだろうな」

( ゚д゚)「オリンシス城から連れてきたのか、お前の騎馬隊は」

( ゚∀゚)「あぁ。みんな戦いたくて体が疼いてたみたいなんでな」

 本当に、以前のジョルジュだ。
 病魔に侵される前の、ジョルジュ=ラダビノード。

 戻ってきてくれた。
 帰ってきてくれた。

 二度と戦場には立てないかも知れない、と言われた病床から、復活してくれた。

( ゚∀゚)「とりあえず、押し返せた。戦況は悪くないものになったな」

( ^ω^)「本当に、ありがとうございますお」

( ゚∀゚)「国のために戦うことこそが俺の存在意義だ。
     窓の外を四六時中眺めてるだけなんて、やっぱ耐えらんねぇよ。
     戻ってこれてよかった。心から、そう思う」

( ゚∀゚)「つっても戦場から離れてた期間は長い。
     まだ勘が戻りきってねぇから、しばらくは迷惑かけるかも知れんが……。
     尽き果てるまで全力を出し切ることだけは、約束できる」
201 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:03:27.31 ID:1gYR05Z+0
( ^ω^)「頼もしく思いますお、ジョルジュさん」

( ゚∀゚)「……本当に、か?」

 一瞬、この空間には水が打たれたような静けさが生まれた。
 ジョルジュを見つめていたミルナとヒッキー、軽い笑みを浮かべていたビロードやルシファーも、言葉を絶っている。

(;^ω^)「……え……?」

( ゚∀゚)「ずっと、考えてたんだ。治療中に。
     前にお前と会ったとき、感じた違和の正体を」

( ゚д゚)「ッ……」

 何も、言葉を返せない。
 ただずっと、ジョルジュの瞳を見つめ続けることしかできない。

( ゚∀゚)「やがて一つの結論に辿り着いた。
     お前に投げるべき言葉は一つだと分かったんだ、ブーン」

(;^ω^)「……?」

( ゚∀゚)「『そのへんにしとけ』、さ」

 ジョルジュから投げかけられたその一言は、耳にではなく、心に届いていた。

( ゚∀゚)「俺が治療に向かってからずっと、お前は俺に詳報を送ってくれてたよな」

(;^ω^)「……はいですお」
208 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:05:19.14 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「お前からの手紙を読むたびに、あれやこれやと考えて、結論に至ったんだ。
     お前は、自分を追い込みすぎてる」

 顔を上げることも、俯けることもできなかった。
 次第に周囲の視線は、自分に集まりはじめている。

( ゚∀゚)「どこに端を発したかは明確じゃねぇが……多分、ベルベットだろ」

(;^ω^)「…………」

(;><)「ベルベット……?」

( ゚∀゚)「ブーンにとっちゃ、初めての経験だったはずだ。
     自分より年下で、階級も低い将校が戦死するってのは」

( ゚∀゚)「つまりブーンのほうが完全に先輩だった。
     だからこそ、ベルベットの死に責任を感じて、自分を追い詰めちまった。
     ……そんな気がしたんだ」

(  ω )「…………」

 自分では、深く意識していないつもりだった。
 しかし、ジョルジュの発言を否定する言葉もない。

( ゚∀゚)「お前が大将になったあと、初めての主だった戦死者だったしな……。
     自分を追い込んじまったのも無理はねぇ、と思う」

( ゚∀゚)「……でも、そのへんにしとけ」
217 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:07:51.71 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「じゃないともう、取り返しがつかなくなるぞ、ブーン。
     ベルベットが戦死した直後は、戦も上手くいってたみてぇだが……。
     フェイト城戦に入ってからは、明らかに箍が外れ始めてただろ?」

( ゚д゚)「そうかも知れん……」

( ゚∀゚)「ミルナからも手紙を受け取ってたんだが、一騎打ちも精彩を欠いてたらしいしな……。
     自分を追い詰めすぎて、いつの間にか、お前らしさが消えてたんだ」

(  ω )「……だけど、ブーンは大将ですお」

 ジョルジュの言葉を、否定はしない。できない。
 だが、自分の進んできた道を、違えていたとは思えないのだ。
 自分は、大将なのだから。

(  ω )「大将は全ての責を負わなきゃいけないんですお。
      ジョルジュさんもミルナさんも、そうやって生きてきたはずですお」

(  ω )「ベルベットが死んだことだって……突き詰めれば、原因はブーンにあるんですお。
      だから、ブーンが強くなって、強くなって……できる限りもう、仲間を失わないように……」

(  ω )「そうやって戦わなきゃいけない。そう思ったんですお」

( ゚∀゚)「……間違っちゃいない。お前の考え方は、理想そのものさ。
     だが、やっぱりそれは理想の域を出ることはない」

 ジョルジュは何故か、悲しげな目で自分を見ていた。

( ゚∀゚)「戦が起きれば誰かは死ぬ。近しい人間かどうかは別としてな。
     お前がどれだけ強くなっても、避けようがないんだ、それは」
222 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:09:48.96 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「俺やミルナは何年も大将をやってきた。だからこそ、それがよく分かってる」

( ゚д゚)「…………」

 ミルナは、頷くでもなく、視線を動かすでもなく、ずっとジョルジュを見つめている。
 ただ、どことなく遠い眼をしているようにも思えた。

( ゚∀゚)「ブーン、俺がお前に言ったことを覚えてるか?」

(  ω )「……?」

( ゚∀゚)「お前が入軍したときさ。お前ら新兵の前で、俺は大将としての言葉を述べた。
     『命を惜しむな。ヴィップ国の未来のために、自分こそが犠牲になる、という気概を持ってくれ』と」

(  ω )「それが……どうかしたんですかお?」

( ゚∀゚)「あんときは、お前らに向けた言葉だったが……今は、俺自身がそう強く思ってる。
     命なんざ惜しくはねぇ。ヴィップの未来のためなら、いくらでも犠牲になってやる、ってな」

( ゚∀゚)「俺だけじゃねぇさ。ブーン、お前自身もそうだろ?
     多分、ビロードもルシファーも同じさ。
     無気力に見えるヒッキーさえ、どこかにそんな気持ちを抱いてるはずだ」

(-_-)「…………」

( ゚∀゚)「自分の未来、あるいは我が子や我が孫の未来を期待できるような、そんな国に。
     それが、アラマキ皇帝とハンナバル総大将が国に込めた願いだ。
     俺達は国家の軍人として、追い求めなきゃいけねぇ。確たる願いを」

( ゚∀゚)「だから、命を賭せるんだ。国のためなら、犠牲になれるんだ」
233 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:11:52.25 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「……ブーン、失うことを恐れた戦じゃこの国に未来はない。
     お前はもう、踏み出すことを惑うな。惑っている余裕はどこにもない。
     失うことを覚悟したうえで、アルファベットを握ってくれ」

( ゚∀゚)「俺達の中で、最後まで生き残るやつはほとんどいねぇかも知れねぇ。
     でも、それを怖がってちゃ先には進めない。そうだろ?」

(  ω )「……でも……」

( ゚∀゚)「揺れ動いたっていいんだ。お前はまだ、成長途上なんだから。
     でも、踏み出すことを恐れるのだけは、やめてくれ。
     お前が停滞しちまったら、俺たちは成す術なしだ」

( ゚∀゚)「だから、俺達を信じて、戦場に立ってくれ。
     個々人の結末は分からない。でも、みんなヴィップのために戦いたいんだ。
     お前が周りを信じて先頭に立ってくれねぇと、それも叶わない。ヴィップの天下も叶わないんだ」

( ゚∀゚)「俺が言いたいのは……そういうことだ」

 ひとつ、小さく息を吐いて、ジョルジュは天を仰いだ。
 自分は、顔を上げられない。空の色さえ分からない。

( ゚∀゚)「……悪いな。中将のくせして、偉そうなことを……」

(  ω )「いえ、それは……」

( ゚∀゚)「あとは、お前が考えてくれ。俺たちはお前に従うから。
     いつだって支えになれる。お前が頼ってくれりゃ、無限大の力を発揮できる。
     それだけは忘れないでくれ」
242 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:14:02.11 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「それと……これは、お前に渡しとくよ」

(  ω )「……!!」

 ジョルジュから胸に押し付けられた冊子を、受け取った。
 黄ばんで、紙の端々は欠けており、それでも冊子の正体は分かる。

( ゚∀゚)「俺はちょっと野暮用があるから、悪いけど城に戻らしてもらう。
     ヒッキー、一緒に来てくれるか?」

(-_-)「……? はい……」

( ゚∀゚)「ブーン、構わねぇか?」

 小さく頭を下げると、すぐさまジョルジュはその場を後にした。
 配下の兵と共に、城へと向かって行く。

( ゚д゚)「……ブーン、その冊子は……」

(  ω )「……モナーさんが編纂したもの、ですお……」



――フェイト城・南西――

 例えば、最初からの参戦であったとしたら、これほどの衝撃に襲われることはなかっただろう。
 途中、ヴィップの危機時に参じたからこそ、ラウンジにとっては痛打となってしまったのだ。
250 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:16:01.70 ID:1gYR05Z+0
(´・ω・`)「損害は、大したことないか?」

川 ゚ -゚)「ヴィップと同数程度では、と」

 割合的に、被害が大きいのはヴィップのほうだ。
 しかし、結果は敗戦だった。

 やはり、ジョルジュの存在が大きかった。
 斥候からの情報が入るよりも早く、ジョルジュは戦場に達し、ラウンジ軍に攻撃を加えたのだ。
 戦の開始当初から戦場に居れば、もっと違った展開になっていたはずなのに、歯噛みさせられた。

(´・ω・`)「せっかく押した防衛線を、押し戻されたのが辛い」

川 ゚ -゚)「ブーン=トロッソも、いささか調子を取り戻したように見えましたが」

(´・ω・`)「まだ分からんが、しかし、お前の言うとおりだ」

 ジョルジュと二人で自分の騎馬隊を抑えに来たときの動きは、見事だった。
 自分のなかに多少なり動揺があったことは否定しないが、それにしても、上回られてしまっていた。
 兵数で劣っていたためだが、以前ならば寡兵でも容易く打ち破れていたはずなのだ。

 ジョルジュは、病から完全に復活したようだった。
 モララーも復帰している。ヴィップの戦力は、完全に整ったと見ていい。

(´・ω・`)「元々の兵数に大差がある。それほど不利にはならんだろうが」

川 ゚ -゚)「御憂慮なさっているのは、兵の士気ですか?」

(´・ω・`)「あぁ」
258 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:17:56.25 ID:1gYR05Z+0
 数十年もの間、戦場に身を置いている男、ジョルジュ=ラダビノード。
 昔からだが、戦の巧さでは誰にも引けを取らない。
 大国ラウンジに西塔のみで互角に戦い、時には凌駕していたことをラウンジ兵なら誰もが知っている。

 そのジョルジュが、再びアルファベットを振るうのだ。
 ラウンジの兵が委縮してしまっても無理はない。

(´・ω・`)「対策を打たねばな」

川 ゚ -゚)「しかし、謀計は難しい状況です」

(´・ω・`)「分かっている。やるべきことは、将兵の補充だろう」

 多少なり士気が落ちてしまったとしても、それを埋められるだけの人力があればいい。
 形としては不格好でも、戦にさえ勝てば、また士気は戻ってくるだろう。
 一時でも良かった。将なり兵なりを、この戦場に呼び寄せたい。

(´・ω・`)「アルタイムを呼ぼうか」

 呟くように言った。
 他に選択肢はなかった。

 アルタイムはギフト城戦でヴィップに敗れ、城を失ったばかりだ。
 敗戦の傷は、あるかも知れない。しかし、配慮してやる余裕はない。

 ギフト城を失ったことは国力に響いてくるのだ。
 アルタイムには、失態を取り返してもらいたい気持ちがあった。
264 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:19:52.38 ID:1gYR05Z+0
川 ゚ -゚)「実はもう、こちらに向かっているとのことです」

(´・ω・`)「ん? そうなのか。お前に連絡が入っていたのか?」

川 ゚ -゚)「はい。今日の戦が始まる直前に」

(´・ω・`)「求めてはいなかったんだがな。また北東で戦が起きる可能性もある」

川 ゚ -゚)「都合としては、良かったのかも知れませんが……」

(´・ω・`)「多少、不可解だな」

 情勢を考え、独断でこちらに向かったのだろう、とは思う。
 元よりアルタイムは、フェイト城戦に参加する予定だったからだ。
 ヴィップが突然、ギフト城を攻めてきたため北に向かってもらったが、本来の任務地はこちらだった。

 しかし、普通なら自分に許可を取る。
 必ず大将の判断を仰いでくる。
 アルタイムも戦の経験は長い。独断で動くことは、あまり考えられない。

 アルタイムらしからぬ行動。
 一言で言えば、そういうことだ。

(´・ω・`)「……まぁいい。アルタイムの到着を待とう」

川 ゚ -゚)「はい」

(´・ω・`)「ヴィップもすぐには攻めてこないだろう。待てるだけの時間はある」

川 ゚ -゚)「到着予定は、数日後とのことです」
270 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:21:53.43 ID:1gYR05Z+0
 戦に敗れたあと、絶対に抱えてはならないもの。
 それは、焦燥だ。

 焦りは万物の元凶となりえる。
 無理に敗戦を取り戻そうとすれば、愚かな選択肢に手を伸ばしてしまうこともあるのだ。
 冷静になって物事を処理しなければならない。

 そんなことを考えたときに、何故か頭に浮かんできたのは、アルタイムの顔だった。



――夜――

――ミーナ城とフェイト城の中間点――

 寝所に身を投げていた自分に、注進が入った。
 ラウンジに送り込んでいた、間者からだった。

(_/ * /_)「大将! 内応者です!」

 クレナイド=カーネギーという名の間者は、普段、決して冷静さを忘れない。
 その男が取り乱しているのだ。よほどの情報を得たのだろう、と幕舎内に入ってきた時点で分かった。

(_/ * /_)「此度の戦の戦術が事前に漏洩しておりました!」

( ^ω^)「……そうかお」
276 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:23:44.51 ID:1gYR05Z+0
(_/ * /_)「大攻勢をかけてくるラウンジの隙を突くという策が失敗に終わったのは、恐らく将校陣のどなたかが」

( ^ω^)「ありがとだお、クレナイド。でももう、いいんだお」

(_;/ * /_)「は……」

 クレナイドの言葉を無理に遮り、呆ける顔に向かって、ささやかな笑みを投げかけた。

( ^ω^)「それはきっと、ショボンの策だお」

(_;/ * /_)「……さ、策ですか?」

( ^ω^)「そんな気がするお」

 確かに、ラウンジはこちらの動きを読んでいたかのようだった。
 大攻勢に生じた隙を突いたが、その先にプギャーが待ち構えていたのだ。
 だから、クレナイドの報告には信憑性も無論ある。

 しかし、だからこそ、ショボンの魔手が伸ばされているように思えるのだ。
 ヴィップの誰かが裏切ったように、思えないのだ。

 ラウンジが大攻勢をかけてくるであろうことは予測されていた。
 だとすれば、ラウンジは、こちらが隙を突きに行くことも予測できたはずなのだ。
 つまり、ショボンは大将としてラウンジの行動を先導し、結果、ヴィップの行動さえ操ることができた。

 ならば、ショボンがヴィップの内部を乱すため、あえて間者に情報を握らせた可能性がある。
 そのために嘘と欺瞞を並べたて、後から事実に仕立て上げることで、クレナイドに漏洩の報を流させたのだ。
 根拠はないが、恐らく間違ってはいないだろう。
285 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:26:07.67 ID:1gYR05Z+0
( ^ω^)「ブーンは信じるお。ミルナさんやビロードさん、ルシファーたちを信じるお」

(_;/ * /_)「し、しかし……」

( ^ω^)「もし内応者が居たら、こんな小さなことだけを漏らすはずないんだお。
      ブーンが考えた、ヴィップ逆転の策を真っ先に流すはずだお」

(_/ * /_)「あ……そういえば、確かに……」

 本当に内応者がいて、それをヴィップに報せ疑心暗鬼にさせる作戦であれば、必ずそうする。
 しかし、クレナイドが掴んだ情報は、此度の戦についてのみだ。

 ショボンに、逆転の策が伝わらず、今日の戦についての情報のみ伝わった、という可能性もないだろう。
 内応者は必ず、自分の価値を高めるために、最大限の情報を提供する。
 ひとつの戦のみの情報に留まるはずはない。

 将校陣にはもう、逆転の策を伝えてある。
 誰もが、今後ヴィップが目指す道を知っている。

 それをラウンジに流していないというのは、どう考えても不自然だった。

( ^ω^)「だからブーンは、みんなを信じるんだお」

 だから、と頭につけたが、将校たちを信じた理由は別のところにもあった。
 無論、先ほどジョルジュから向けられた言葉の数々だ。

 ベルベットが戦死してから、ずっと、臆病になっていた。
 近しい誰かを失うことに、だ。
291 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:27:57.20 ID:1gYR05Z+0
 今や、皆が自分の配下となっている。
 皆の死が、突き詰めれば、自分の責任となっているのだ。

 耐えられない、というような我が儘な主張を通すつもりはなかった。
 大将ならば当然、負うべき責なのだ。
 だからこそ、全うしたかった。自らに架せられた、重責をだ。

 誰も失いたくはなかった。
 悲しみたくは、なかった。

 ミルナとの間柄が深まることも、怖かった。
 もしミルナが討ち死にするようなことがあれば、きっと、ベルベットのときと同じ悲しみが襲い来る。
 仲間を失う辛さをもう、味わいたくはない。そう思ってしまったのだ。

 独善的だった。
 自分のことしか、考えていなかった。
 だから、大将の責務を勘違いしてしまっていたのだ。

 配下の皆を、信じて戦わなければならなかった。
 分かっていたはずなのだ。最初から。そうしなければならない、と。
 しかし、失うことを恐れた結果、不信に陥ってしまっていた。

 自分の中では信じていたつもりだったが、表面には不信が現れていたのだ。
 誰かの死を恐れるというのは、そういうことだった。
 皆の力を、信じていなかったということなのだ。

 そしてその結果、国よりも個人を優先していたのであれば、背信以外の何事でもなかった。
 もちろん、自覚はない。しかし、命を預かる者としての自覚も、足りていなかった。
305 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:29:52.63 ID:1gYR05Z+0
 無理に成長しようとしたこと自体が、間違いだった。
 きっと、そうだ。

 ジョルジュの言ったとおり、行きすぎていた。
 ベルベットを失った当初は、皆を守りたいとする気持ちだったのに、いつのまにか恐れに変わっていたのだ。
 迷走してしまっていたのだ。

(  ω )(もう……迷わないお)

 皆と共に天下を目指す。
 ラウンジを、討ち滅ぼす。

 最後まで、という言葉が先頭に付くことはないだろう。
 誰かが欠ける可能性はある。明日にでも、明後日にでも、だ。
 しかし、大将である自分は、信じて戦わなければならない。

 皆を守りたいとする気持ちに変動はない。
 何かが変わるとすれば、戦に対する恐怖だけだ。

 ならば、臆せず踏み出してゆける。

 モララーにも、かつて言われたことだ。
 信じることに惑ったときは、志を思い出せ、と。

 ヴィップの天下を望むのであれば、信じることを恐れているわけにはいかない。
 そんな当たり前のことに、気づけていなかったのだ。

 気づかせてくれたのは、モナーが昔に編纂したという冊子だった。

(  ω )「…………」
316 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:32:14.39 ID:1gYR05Z+0
 枚数は百に満たないだろう。
 しかし、一頁あたりの情報量は非常に多い。
 文字は詰まっていないが、簡潔に、重要な部分のみが記されているのだ。

 内容としては、どれも軍に生きるうえで役立ちそうなものだった。
 戦略や戦術、謀略はもちろんのこと、平時の将校としての振舞い方も記載されている。
 さすがに、計算高さで知られたモナーらしい中身だった。

 そして、ところどころにドクオの書き込みがあった。

(  ω )(……ドクオ……)

 ドクオは、ショボンに嵌められて殺される直前、オリンシス城を守っていた。
 ジョルジュも今回の戦に参加するにあたって、オリンシス城から兵を借りてきたという。
 この冊子がジョルジュの手に渡った理由は、単に城を同じくしたからだが、冊子がまだ残されているとは知らなかった。

 モナーがドクオに授けた、という話はドクオから聞いていた。
 モナーは既に内容を諳んじれるほど記憶していたため、同じく知略型のドクオに渡されたのだ。
 ドクオがマリミテ城をミルナの攻撃から守ったときも、この冊子に書かれている士気維持の方法が役立ったという。

 既存のモナーの記述だけでも濃密すぎるほどの冊子だが、そこに、ドクオの書き込みが加わっていた。
 気づいたことなどを思いつきでメモしていたようだ。体裁などは整えられていない。
 字も非常に雑だった。

 しかし、量としては非常に膨大。
 元々、余白の少ない冊子であるのに、そこに捻じ込むようにドクオの字が書かれているのだ。
 紙面が黒く染まっているようにさえ見える。

 そこに、二人の思いが窺えた。
325 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:33:56.48 ID:1gYR05Z+0
(  ω )(二人とも、こんなに……)

 これほどまでに、強かったのだ。
 国にかける想いが。

 いずれも夢半ばで息絶えた。
 国の天下を目指し、全力で追い求めたからこそ、死に果てたのだ。

 それは、大将として理解していなければならなかったことだ。

 二度、自分の頬を叩いた。
 そしてアルファベットWを握り締める。

(_/ * /_)「どちらへ……?」

( ^ω^)「訓練だお。ちょっと、すっきりしたいんだお」

 まだ戦は終わらない。
 まだ、自分は成長しなければならない。

 紆余曲折を経てもいい。
 自分が大将として果たすべきは、自国の天下統一だ。
 それを大前提から外してはならないのだ。

 訓練室でアルファベットの訓練を続けながら、戦の構想を考え始めた。
 フェイト城戦は五分に戻したが、決して有利ではない。
 漫然と戦を続ければいつか士気も落ちるだろう。

 違った動きを、次からは見せる必要がありそうだ。
 もっと大きく動かしてもいい。
332 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:36:08.12 ID:1gYR05Z+0
 モナーの冊子を読んでいる最中に思いついた作戦もある。
 留まってはならない。ヴィップはずっと、進まなければ。
 一度でも動きを止めれば、即座にラウンジに押し込まれてしまう。

 恐らく、この地の戦は、あと一年と続かない。
 自分の作戦通りに事が進めば、今年中には終わるはずだ。
 数十年にわたった戦いに、決着が訪れるはずだ。

 そんなことを考えたとき、ふと、胸と喉元のあたりが苦しくなった。

(;^ω^)「……?」

 胸騒ぎだろうか。
 それに近い。しかし、もっと漠然としている。
 思わず、胸を押さえてしまった。

 瞬間、何故か思い出してしまったのは、先般のジョルジュの顔だった。



――ミーナ城・東――

 薄雲が、夜空に広がり出した。
 心許ない月光が作り出す影は、あまりに淡い。

 その影が、重なりかけている。
 実に、十三年ぶりのことだった。
337 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:38:03.84 ID:1gYR05Z+0
(`・ι・´)「病魔を取り払うことには、成功したようだな」

 少しだけ、間合いを詰めてきた。
 まだ、敵意は感じられない。
 ラウンジ軍中将、アルタイム=フェイクファー。

( ゚∀゚)「おかげさんでな」

 まだ、アルファベットUは構えていなかった。
 今更、不意を突いてくることはないだろう。
 アルタイムの人間性について、ヴィップでは最も把握した人間のつもりだった。

(`・ι・´)「しかし、もって数ヶ月か」

( ゚∀゚)「ベルより病状は良かった。放っておいても、あと数年は生きられたらしい」

(`・ι・´)「だが、あえて命を削った」

( ゚∀゚)「全部、ヴィップのためさ」

 自分よりやや大きい程度の身長だったアルタイムだが、昔よりも大きくなっているように見えた。
 最近になって、また鍛えたのだろう。アルファベットもUに上がっている。
 しかし、理由はそれだけではない気がした。

( ゚∀゚)「あの老医は本物だな。ベルを蘇らせたことにも、納得がいく」

(`・ι・´)「長期間、アルファベットには触れていなかったはずだ。それでもUか」

( ゚∀゚)「ひとつ落ちただけに留まったのは、まさしく老医のおかげさ。頼って良かった。
     しかし、俺の動きをお前に読まれていたのは計算外だった」
351 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:40:25.59 ID:1gYR05Z+0
(`・ι・´)「ただの勘さ。そんな気がしただけだ。
      老医の居場所は、俺も知っていた。手紙を送るだけなら損害はない」

( ゚∀゚)「だが、急かしすぎだろうよ。今日戦列に復帰したばっかだぞ、俺は」

(`・ι・´)「余裕がないんだ。もう、俺には」

 月の光が陰り、アルタイムの表情を闇で覆い隠す。
 その身体の前で突き立てられた、アルファベットUだけが光を放っている。

(`・ι・´)「お前を討ち取って、俺は戦場に戻ろう。ギフト城を奪われた失態を、取り返そう」

( ゚∀゚)「……そうかよ」

 嘘をつくのは下手な男だ、と感じた。
 アルタイムと話したことなど、何度もなかったが、分かるのだ。
 ラウンジには珍しい、実直な軍人なのだと。

 そして今は、武人としてのアルタイムが目の前に立っている。

(`・ι・´)「後ろに立っているヒッキー=ヘンダーソンは」

( ゚∀゚)「ん?」

(`・ι・´)「ヒッキーは、何のために連れてきた?」

 振り向くことはしなかった。
 ヒッキーはきっと、いつもと同じ表情で、そこに立っているのだろう。
355 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:42:18.53 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「ここに来る途中で倒れちゃマズイだろ? だから、一緒に来てもらっただけさ」

(`・ι・´)「手出しは」

( ゚∀゚)「心配すんな。ヒッキーはそんな男じゃねぇよ」

 じっと、見守ってくれるだろう。
 例え自分が死に瀕したとしても。

(`・ι・´)「そうか、ヒッキーがお前の最後を見取るわけか」

( ゚∀゚)「ハッ、虚勢を張るとは必死だな、アルタイムよ」

(`・ι・´)「しかし、お前がこれほど素直に一騎打ちを受けてくれるとは思わなかった」

( ゚∀゚)「…………」

 老医の許から、去る直前だった。
 アルタイムから、一騎打ちを申し入れる手紙が来たのは。

 十三年前の、続きをやろう。
 簡潔化させれば、手紙の内容は、そういったものだった。

 515年、ベルが死んだとの報せが入った直後に、自分はヒグラシ城を攻めた。
 しかし、それはベルによる偽計であり、愚かにも自分は策に嵌められてしまったのだ。
 そのとき、せめて壁を突破しているアルタイムだけは討ち取りたい、と思ったが故に、あのとき一騎打ちは起きた。

 結局、フサギコの奮戦のおかげで、自分は命拾いした。
 一騎打ちは中断され、そのあとも何度かアルタイムと戦うことはあったが、一騎打ちは発生しなかった。
 互いに、大将。軽々しく一騎打ちに踏み切れるような立場でなかったことが大きい。
364 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:44:12.35 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)(十三年前の一騎打ちの決着、か)

 迷うことなく、ここに来ることを決断できた。
 そう言えば、やはり、嘘になってしまう。

 いくらでも避けられた一騎打ちだ。
 アルタイムのアルファベットはU。自分と、同等。
 どちらが勝つのかは、自分にも全く分からない。

 まだ、自分は戦場に立たなければならない。
 命が果てるときは近いが、それまでは、尽力しなければならないのだ。
 ヴィップのために。

 しかし――――

( ゚∀゚)「……昔、お前と一騎打ちしたときは、正直言って最悪だった。
     お前なんかが最後の相手になっちまうのか、と」

(`・ι・´)「まぁ、そうだろうな」

 苦味の混じった笑みを浮かべるアルタイム。
 その所作にさえ、どことなく、貫禄が滲み出ているように思えた。

(`・ι・´)「あの時の俺は、Sの壁を突破していたこと以外、お前に相応しい相手と言える男ではなかった」

( ゚∀゚)「あぁ。でも――――」
372 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:46:49.08 ID:1gYR05Z+0
( ゚∀゚)「――――今なら、お前が最後の相手でも悪くない。
     そう思えたからこそ、ここに来たんだ」

(`・ι・´)「……!」

 閑寂が二人の間を、ゆっくりと通り過ぎて行った。

(`・ι・´)「……俺も、お前が最後の相手であれば、末代までの誇りとなるだろう」

( ゚∀゚)「ありがとよ」

(`・ι・´)「だが無論、ここで終わるつもりはない」

 地面からUを引き抜き、アルタイムはアルファベットを構えた。

( ゚∀゚)「俺もだ。お前に討ち取られるつもりはねーよ」

 自分も、アルファベットUを抜いた。

 冬の寒気が身を包み、しかし不思議と体は熱い。
 体の芯から、熱が溢れ出すかのようだった。
375 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:48:23.62 ID:1gYR05Z+0
 一歩踏み出して、アルファベットを振るえば、届く。
 しかし、アルタイムから放たれる威圧、殺気。
 容易に踏み出すことはできない。

 穏やかな風に雲は流されている。
 ゆっくり、しかし確実に、月の光を遮っていく。

 ただ、寂々と。
 無情さを、忍ばせながら。

 そして、自分とアルタイムに――――

 ――――月光が、届かなくなった、その瞬間。

376 :第102話 ◆azwd/t2EpE :2008/06/02(月) 23:48:54.15 ID:1gYR05Z+0



(#`・ι・´)「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!」

 _
(#゚∀゚)「ハアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!」


 二人、同時に動き出した。













 第102話 終わり

     〜to be continued

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