2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:03:00.36 ID:zJ1NbGMi0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
32歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城・北東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
47歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オオカミ城近辺

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
37歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
48歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城・北東

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
48歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:03:32.85 ID:zJ1NbGMi0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
51歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
44歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
35歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・北東

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
46歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:04:25.51 ID:zJ1NbGMi0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
25歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ギフト城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
25歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ミーナ城・北東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
30歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城

15 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:05:48.69 ID:zJ1NbGMi0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー/ビロード

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
22 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:07:52.23 ID:zJ1NbGMi0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー/アルタイム
U:
V:ジョルジュ/ミルナ/シャイツー
W:ブーン
X:
Y:
Z:ショボン
32 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:09:35.51 ID:zJ1NbGMi0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

46 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:11:58.81 ID:zJ1NbGMi0
【第100話 : Sacrifice】


――世界歴・528年――

――ヴァイアラス城・北――

 雪に閉ざされた山中は、一面白銀のように見えて、思ったより彩り深かった。

 じぐざぐに足跡を残し、山の中腹を進み続ける。
 冬枯れも乗り越え、葉を残した木々から、雪の塊が落とされた。
 自分からは遠い位置だが、音が鮮明に届く。それほど山の中は静謐に満ちていた。

 顔以外をすべて覆い隠すように、衣服を着こんでいた。
 普段なら絶対にしない手袋まで嵌めている。
 が、いつでも脱げるようにと準備はしていた。

 山中に唯一の足跡を残し始めてから、もう四刻は経っただろうか。
 一度も休まずに歩いているが、疲労はない。

 途中、一部分だけ樹木の抜けた場所があった。
 不自然なほどに、そこだけが純白だったのだ。

 過去に雪崩があったのかも知れない。
 今日は昨日と比べて気温が高い、というわけでもないが、多少なり不安はあった。
 雪崩は温度だけでなく、他の外的要因でも発生する。

 足早に、不自然な白銀を通り過ぎた。
 例えアルファベットを使っても、天災には抗いようがない。
 やはり人間は、まだまだ矮小な存在だ。
63 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:15:11.48 ID:zJ1NbGMi0
 ふいと頭を上げた。
 木の葉の間から幾つも千切れた空が見える。
 赤く染まるにはまだ早い、と思っていたが、日は相当に短くなっていた。

 雪の載った草花は、か細い茎だけを露わにしている。
 黄緑色で、様々な方向に分岐しているが、折れることなく元気にしているようだ。
 息を吹きかけると、黄色く色づいた花が見えた。オキザリスだろうか。

 深呼吸して、もう一度景色を見回してみた。
 木々が林立し、枝葉は空を覆い隠している。
 斜面からは多様な植物が、恥じらうように一部だけを見せていた。

 大木には、虫か小動物が開けたと思われる穴や、熊のものととれる爪痕が残されている。
 熊に襲われたとしても然したる問題はないが、無用な殺生はもうしたくなかった。
 今までに奪った命だけでも、積み上げれば首が痛くなる。

 それは、直接的であれ、間接的であれ、だった。

( ’ t ’ )(……もうすぐ抜けられるだろうか)

 陽の傾きで時間を計るが、なにぶん山中であるため難しい。
 できれば、陽が落ちるまでには山を抜けたいところだった。

 山に、深い思い出がある。
 あるいは、この先に、故郷がある。

 そんな理由を抱えて、山に入ったわけではなかった。
 ただ何となく、大陸の北端に向かってみたいと思っただけだ。
 自分の故郷は、もっと東にある。
72 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:17:39.89 ID:zJ1NbGMi0
 ラウンジ軍を抜けて、最初に考えたことがあった。
 郷里にだけは絶対帰らない、だ。

 幼いころから軍人を志した自分の頭を、両親は強く押さえつけた。
 特に、父親だ。
 自分が役人になれなかったからと言って、子供の自分に夢を押しつけてきた。

 ラウンジ国の文官になれ、と再三言ってきたのだ。
 自分は、ベルに憧れていた。稀代の英傑のようになりたいと思った。
 文官として働くことなど、想像もできなかったのだ。

 それでも親はしつこく反対した。
 自分が学校で常に首席だったから、尚更、文官に育て上げたかったのだろう。
 ベルを支えたいなら文官で充分ではないか、とも言われた。

 支えたい、という言葉を前に押し出してきたのが、そもそもの間違いだ。
 確かに支えたい気持ちも強かった。ベルの許で働きたいと願った。
 が、やはり根底にあったのは憧憬だったのだ。ベルのように、という思いだったのだ。

 結局、親は最後まで同意してくれなかった。
 十八になってから半ば強引に家を出て、入軍試験を受けたのだ。
 それ以来、一度も連絡を取っていない。今どうしているのかも、皆目分からない。

( ’ t ’ )「…………」

 故郷には帰らないと決断したが、当てのある旅ではなかった。
 とりあえず、北へ向かおうと思っただけなのだ。
 自分が戦場とした地を見て回りたい、と一言で言っても、数ヶ月で回れるほど狭くはない。
87 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:20:08.49 ID:zJ1NbGMi0
 ラウンジ領を巡るだけでも一苦労だ。
 いずれはヴィップ領も訪れたいと思っているが、果たしていつになるか。
 戦の終焉が、先だろうか。

( ’ t ’ )(……戦は……いつ終わるかな……)

 軍人をやっていたときから感じていたが、自由に歩き始めて確信した。
 やはり、民は戦乱に疲弊している。

 ニューソクが建ち、戦が始まったころは、みな活発だったという。
 民は自国の勝利を願い、戦への協力は惜しまなかった。
 ベルがいつしか語ってくれたことだ。

 が、既に四十五年。
 ニューソクに対抗する形でラウンジが建てられ、人々が争うようになってから、四十五年だ。
 これほどまでに長引くと予想していた者は少ないだろう。

 勝利のために、国は血税を絞り取る。
 そして大地は痩せ細っていく。
 生態系が崩れている地もあると聞く。

 確実に、戦はこの地を蝕んでいるのだ。
 もう、長く戦える力が、大地に残されていないのだ。

 人口も減りつつある。
 近年、新兵を募集しても予想を下回る数であったことが多かった。
 単純に、人口そのものの減少が影響していたのだ。

( ’ t ’ )(……だから、なのだろうか……)
95 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:22:25.79 ID:zJ1NbGMi0
 軍を去った身でも、ときどき、自然と戦について考えてしまっているときがある。
 この癖は、しばらく抜けそうになかった。

 最近、ヴィップはやたらと戦を仕掛けてくるようになった。
 今はフェイト城とギフト城を巡る争いが繰り広げられているはずだ。
 あるいは、もう終わったかも知れない。

 ともかく、ヴィップは無謀とも思えるほど何度も仕掛けている。
 それは、この地にもう、長く戦をやる力が残っていないからなのだろうか。
 ブーン=トロッソは、全体という全体を見通して策を立てているのだろうか。

 当たっている気もするが、外れている気もする。
 恐らく、一部は正解しているが、それだけではないのだろう。
 いくらなんでも、ヴィップは攻め急ぎすぎている。

 何か、先々まで見据えた策を立てているのだ。
 そうとしか思えない。
 局地的に城を奪うことだけが目的ではないはずだ。

 が、読めない。
 ヴィップの策は、まったく読めない。

 突拍子もないようなことも考えられるが、王道を進んでくる予感もある。
 見当さえつかない、というのが正直なところだ。

( ’ t ’ )(……ん……)

 山を、抜けた。
 既に夕闇が降りていたが、山からの景観にはまだ色が残っている。
105 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:24:49.41 ID:zJ1NbGMi0
 山間の、小さな村。
 中央の広場に大勢の人が集まっていた。

( ’ t ’ )(……新年祝いかな……?)

 炊煙が体をくねらせ、天へと昇る途中で消えている。
 その火の元には数人が居り、大きな鍋を火にかけて、中身をかき混ぜていた。

(;’ t ’ )(変な儀式とかじゃ……ないよな?)

 例えば、天災が起きるとそれを「神の怒り」として、生贄を捧げ鎮めようとする、というようなことをやっている地域はあるらしい。
 噂に聞いただけで、少なくとも自分の生まれた地ではおかしな風習はなかったが、このような辺境では分からない。
 何が行われていても不思議はなかった。

( ’ t ’ )(まぁ……多分、ただの新年祝いだ……)

 昨晩は、せっかくの新年を洞窟の中で迎えることになった。
 せめて今日くらいは、屋根の下で眠りたい。

 山を降りて、村に近づいた。
 一刻もあれば全てを把握できそうな、小さな農村だ。
 広場に集まっている人間は、恐らく全村民だろう。

 一尺は積もっていそうな雪の上を歩いた。
 人の足跡が多い。雪は止んでいて、新しく積もっていないためだ。
 ほとんどの足跡は、村の中央へと続いていた。

 ゆっくり歩き、中央へ近づいていくと、途中で人に気づかれた。
 まだ二十に達していないであろう、若い娘だ。
126 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:27:26.88 ID:zJ1NbGMi0
 目元が薄く色づいている。アズライトを砕いて液体にしたものを塗っているようだ。
 唇が赤いのは、紅花を発酵させ、乾燥させたものによるのだろう。
 以前、女性の化粧に関する書物で見たことがある。

从 ・_・从「あの……どちらさまでしょうか?」

 低い姿勢のまま、尋ねられた。
 自分の顔が知られているとは思えないが、一応、隠しておく。
 元軍人がいないとも限らない。

( ’ t ’ )「北へ向かって旅をしている者です。今しがた、山を越えてきたところで」

从 ・_・从「旅のお方ですか。この村に、御用は?」

( ’ t ’ )「いえ、特には。通りがかっただけなのですが」

从 ・_・从「……そうですか……」

 何故か、娘は顔を伏せた。
 そう言えば最初から、あまり顔色が優れないようだ。

( ’ t ’ )「……この村ではいま、新年祝いを?」

从 ・_・从「え……えぇ、そうですね」

( ’ t ’ )「厚かましいお願いなのですが……よろしければ、一晩お泊めいただけませんか?
     多少の銭はあります。足りると良いのですが」
139 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:30:11.49 ID:zJ1NbGMi0
 足りないなどと思ってはいなかった。
 その気になれば村ごと、あるいは周囲の山ごと、買い取ってしまえる。
 大国ラウンジの中将であれば、金銭には一生困らないだけの額を貰えるのだ。

从 ・_・从「いえ、金銭など……私の家でしたら、構いませんよ。空いていますから」

( ’ t ’ )「ありがとうございます。では一晩だけ、お世話になります」

从 ・_・从「こちらへどうぞ」

 娘は踵を返し、数歩の距離にあった家の戸を開けた。
 外から見た限りでは、ラウンジ城の兵卒用の部屋よりも小さい。
 家というより、小屋と言ったほうが適切かも知れなかった。

 後について屋内を見させてもらったが、やはりだ。
 とても二人が寝られる広さではない。

( ’ t ’ )「空いている、という話でしたが……」

从 ・_・从「えぇ、空いています」

( ’ t ’ )「無理をすれば確かに、二人が寝られないこともないと思いますが」

从 ・_・从「いえ……私は、この家を使わないので」

( ’ t ’ )「え?」

从 ・_・从「私、ユイカと言います。あなたは?」

( ’ t ’ )「名前、ですか? アルタイムと申します」
155 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:33:23.99 ID:zJ1NbGMi0
 名乗る必要に迫られたときは、いつも適当に偽名を使っていた。
 先日までは、ギルバードだった。さらにその前は、ファルロだった。
 ベルの名前だけは、恐れ多くて使うことができない。

从 ・_・从「素敵な名ですね。ラウンジ軍の中将と同じだなんて」

( ’ t ’ )「はい。僕も誇りに思います」

从 ・_・从「アルタイムさん、広場に参りましょう。皆に紹介します」

 手を引かれ、外に出た。
 寒さだけが要因とは思えないほど冷たい手だった。

 聞きたいことは何点かあるが、何となく、聞けない雰囲気だった。
 ユイカが語りたがっていないからだ。
 会ったばかりの人間の心理を深く探ろうという気にも、今はなれなかった。

 広場で、数十人の村人に迎えられた。
 皆、一様に好意的で、突然の旅人である自分を受け入れてくれた。

U´_`)「ゆっくりしていってください、何もありませんが……」

( ’ t ’ )「ありがとうございます」

 大きな耳たぶが特徴的な男は、どうやら村長らしかった。
 友好を示すためか、手を握られる。
 やはりユイカと同じように、どことなく冷たい。
168 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:35:56.89 ID:zJ1NbGMi0
 そして、視線が幾度となく、自分の頭上に向く。
 今は頭巾を被っていた。髪を見られている、というわけではなさそうだ。
 どうやら、背負っているアルファベットPに意識が注がれたらしい。

U´_`)「……つかぬことを、お伺いしますが……」

( ’ t ’ )「はい」

 村人たちが、自分に注目したのを感じた。
 何故か、緊迫感のようなものさえ覚える。

 村長に何を聞かれるのかは、分かっていた。
 答えも、自分のなかではとうに用意してある。

U´_`)「……背中のものですが……もしや、それは……」

( ’ t ’ )「アルファベットの、模造品です」

 軍を離れてから、既に両手では足りないほど、同じ嘘をついた。
 一瞬驚いたあと、がっかりしたような反応をされるのも、今までと同じだ。

 が、その落ち込み加減だけが、いつもと違った。
 こちらのほうが驚かされたほど、異様なまでの落ち込みぶりだったのだ。

( ’ t ’ )「一人旅には、危険が伴いますから」

U´_`)「……えぇ、そうでしょうね……」

( ’ t ’ )「アルファベットの模造品でも、見かけでは判断がつきませんので、軍人と思って逃げていく賊は多いです」
180 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:38:28.09 ID:zJ1NbGMi0
 この説明もいつもどおりだが、やはり反応は特異だった。
 端的に言えば、アルファベットが本物であることを、心から望んでいるように思えたのだ。

U´_`)「軍人の方かとも思いましたが……そのような体格でもありませんしね……」

( ’ t ’ )「そうですね」

 苦笑が漏れそうだった。
 これでも一応、中将として幾度となく戦場に立ってきたのだが、確かに体格は良くない。

 ベルやアルタイムにもよく、線が細すぎると言われた。
 特にベルには、Jの壁を越えられるかどうかよく心配されたものだ。

 当時は何の根拠もなく越えられると思った。
 実際越えたが、今は何故越えられたのだろうと思う。
 周りの兵のほうがよほど越えられそうな体つきをしていた。

( ’ t ’ )(……しかし……)

 やはり、何かがおかしい。
 村そのものの、様子が変だ。
 村長の案内で、大鍋の近くに行くまで、気にかけさせられた。

 鍋の周囲は雪が掻かれており、固い地面が露わになっていた。
 雪に水をかけて凍らせたらしく、積雪部までに小さな階段が作られている。
 滑らないよう慎重に降りた。

( ’ t ’ )「この鍋は……」
199 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:41:12.61 ID:zJ1NbGMi0
 野菜や肉の放り込まれた鍋の中身は、煮えたぎっていた。
 もう火にかけずともいいのではないか、と進言したくなったほどだ。

U´_`)「……捧げなければならないのですよ」

(;’ t ’ )「え……」

 まさか、生贄だろうか。
 そんな馬鹿なことを、一瞬考えた。

U´_`)「冬になる前に、村民で必死に蓄えたのですがね……」

( ’ t ’ )「…………」

 ずっと口を閉ざしていれば、平穏な夜を過ごし、明朝には北へ出発できるだろう。
 見て見ぬふりをすれば。我関せずの態度を貫けば。

 しかし、どうやらそこまで淡泊になることは、できないようだった。

( ’ t ’ )「何が、あるのですか?」

 俯いた村長に、聞いた。
 その眼から流れ落ちる涙が、明るい地面に沁み込む。

从´・_・从「……実は……三ヶ月ほど前から、おかしな連中が山に棲むようになってしまったのです」

( ’ t ’ )「おかしな連中?」

从´・_・从「いわゆる、山賊ですが……まるで為政者のように、この村から税を絞り取るのです」
208 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:43:27.05 ID:zJ1NbGMi0
( ’ t ’ )「……元々、ラウンジに対する税は?」

从´・_・从「納めています。年に一度……」

( ’ t ’ )「それは……辛いところですね」

 二つの課税があれば、普通は生活していけなくなる。
 特にこのような小規模な農村であれば、致命的だろう。

从´・_・从「自由気ままに作物などを奪われ……餓死者も出ている状態です」

( ’ t ’ )「…………」

从´・_・从「今日も、新年を祝うべく皆で鍋を煮ていたのですが……。
     先ほど山賊の一人がやってきて……それを、寄越せと……」

( ’ t ’ )「それで、先ほど『捧げる』と……」

 ユイカは、唇を噛んでいた。
 口の紅が流れたのか、それとも噛み切ってしまったのか。
 顎に向かって、赤く細い道が作られている。
226 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:46:29.19 ID:zJ1NbGMi0
从´・_・从「……皆で蓄えた食糧を……こうも奪われたのでは、冬を越えることができません……」

( ’ t ’ )「立ち向かったことは、ないのですか?」

从´・_・从「もちろんあります。大人が十人ほどで、それぞれ鍬などを持って……」

从´・_・从「……でも……一人も帰ってきませんでした……」

( ’ t ’ )「ッ……相手の人数は?」

从´・_・从「はっきりとは、分かりません。いつも数人で来るので、十人ほどで挑めば大丈夫と思ったのですが……」

 しかし、十人以上を全員討ったとなると、相当の手錬が揃っているのだろう。
 村ひとつを占拠するだけのことはある。

 送った十人ほどというのも、極力屈強な男を選んだはずだ。
 それを、返り討ちにした賊。
 もしや数十人から数百人といった規模なのだろうか。

从´・_・从「それ以来、私たちはただ従うしかなく――――」

( ’ t ’ )「ッ……!!」

 ユイカが、不自然に言葉を切った瞬間。
 自分も、感じ取った。

 北からやってきた男たち。
 二の腕は太く、胸板は厚く、そして面構えは凶悪。
 山賊に、間違いなかった。
250 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:48:50.07 ID:zJ1NbGMi0
(メ`ム´)「おうおう、美味そうじゃねぇか」

 十二人。
 それぞれ、剣や斧などを携えている。
 農民の鍬で立ち向かえるはずはない装備だ。

 先頭に立つ男は、見るからに腕が立ちそうだった。
 歩き方ひとつとっても、隙がない。
 傲然とした振舞いだが、常に周囲を警戒している。

 十二人が、鍋を囲みはじめた。
 村人から器を受け取り、中身を掬ってかきこんでいる。

 談笑しながら、非常に、穏やかな空気に包まれながら。
 山賊たちは、我がもの顔で、村の食糧を胃袋に収めていく。

( ’ t ’ )(……くそっ……)

 山賊がどの程度の腕前かは分からない。
 分からないが、関係ないのだ。
 自分がアルファベットを使えば、負けるはずはない。

 が、ここで十二人を斬ってしまっていいのか。
 その判断が、まだつかない。

 仮にこの十二人が、総員でなかった場合。
 まだ山賊が数十人といた場合。
 非常にまずいことになる。
275 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:51:31.64 ID:zJ1NbGMi0
 十二人が山賊たちの本営に戻らなかったとき、他の山賊は村に来るだろう。
 死体を隠したとしても、村人が十二人をどうにかしたのは必ず発覚する。

 そこで自分が出ていって、強さを誇示したとしても、解決にならないのだ。
 一度は諦めて逃げるかも知れないが、自分がいなくなった途端に、また村を襲うだろう。
 それでは根本的な解決に至らない。いや、むしろ山賊の行為が加熱する恐れもある。

 自分がずっとこの村に留まるのなら話は別だが、そんなわけにもいかない。
 まだ回っていない地は多い。多すぎる。
 村の危機を完全に、そしてすぐに打ち消す策を考えなければ。

 いずれにせよ、この場では討てない。
 我慢するしかない。

 震える拳は、押さえつけるしかない。

(メ`ム´)「あぁ、食った食った」

 一滴残らず鍋の中身を救い取った山賊たちが、腰を上げた。
 相変わらず、不細工な薄ら笑いを浮かべている。
 耐えがたい怒りが、心臓で唸っていた。

(メ`ム´)「おい、忘れんなよ」

 ひときわ体の大きい、隙のない男は、去り際にそう言った。
 明らかに、ユイカに向けて。

 ユイカは、じっと顔を伏せていた。

( ’ t ’ )「……何が、なのですか?」
296 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:54:00.58 ID:zJ1NbGMi0
 皆が鍋を片付けはじめた頃、ユイカに聞いた。
 ユイカは先ほどからずっと、顔を上げていない。

( ’ t ’ )「山賊は……忘れるな、と言いましたが……」

从´・_・从「……簡単な、話です。捧げなければならないのです」

(;’ t ’ )「えっ……今度こそ生贄?」

从´・_・从「いえ……私の体です」

 ユイカの手が、目元に伸びたようだった。
 横に動かし、目を擦っている。
 衣服の袖が、群青色に染まっていた。

( ’ t ’ )「女を捧げろ……という命令も、あるのですか……」

从´・_・从「はい……」

( ’ t ’ )「それで、家を使わないと仰ったのですね……」

从´・_・从「……女は、一晩で帰されますが……その一晩の間は……」

 ユイカも、今日初めて山賊のところへ行く、というわけではなさそうだ。
 既に何度か、経験させられているのだろう。

从´・_・从「……家へご案内します」
317 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:56:41.58 ID:zJ1NbGMi0
 一度訪れた家だが、ユイカは丁寧に案内してくれた。
 優しい娘だ。顔立ちも整っている。
 山賊も、だからこそ目をつけたのだろう。

从´・_・从「すみません。村のいざござを、お話してしまって……」

( ’ t ’ )「いえ……それは、僕が聞いたことですから」

从´・_・从「せっかくのお客様なのに、食べ物もお出しできず……」

 それは、求めてもいない。
 先ほどからユイカの空腹も音となって伝わってきている。

从´・_・从「実は、先日……山賊に知られないよう、こっそり南のヴァイアラス城付近に貼り紙を出したのです」

( ’ t ’ )「どういった内容のものを、ですか?」

从´・_・从「村を、助けてほしいと……」

 最初の反応は、自分がその貼り紙を見て村にやってきた者だと思ったからなのか。
 自分のせいではないとは言え、悪いことをしてしまった気分だった。

从´・_・从「でも、満足な報酬は用意できず……やはり、見向きもされていないようです……」

( ’ t ’ )「……全村民で、他の地へ移住するという選択は?」

从´・_・从「考えましたが……ご先祖様のお墓もありますし……ここを離れたくない気持ちが、みな強くて……」

 軽率な発言だったかもしれない。
 自分が、故郷というものに愛着を持っていないためだ。
332 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 21:59:13.47 ID:zJ1NbGMi0
 やはり、山賊を討たなければ解決には至らないようだ。
 それも一部ではなく、頭を含めた全員を、だ。

 弱者を甚振ってのさばる下賤な男どもを、見過ごすわけにはいかない。
 元を辿れば、治安の維持を満足に行えなかった国に責任があるのだ。
 そして自分は、国家の軍人だった。

 自分が、討つしかない。

( ’ t ’ )「お教えいただけますか?」

从´・_・从「え?」

( ’ t ’ )「山賊たちの本営です」

 ユイカは一瞬、突然の大音声を聞いたかのような顔になった。
 そしてすぐに、狼狽を見せる。

从;・_・从「な、何を仰るのですか!? まさか……!!」

( ’ t ’ )「僕が山賊たちを討ってきます。無償で泊めていただくわけにもまいりませんし」

从;・_・从「殺されます! 絶対に!」

( ’ t ’ )「分かりません、やってみなければ」

从;・_・从「そんな……!! 無茶です!!」
360 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:01:23.07 ID:zJ1NbGMi0
 絶対の保証があるとは、言いきれなかった。
 五十人までなら、自信はある。所詮、ただの剣や斧だ。
 しかし、百人以上なら危険かも知れない。

 それでも、あの山賊たちを野放しにはできない。

( ’ t ’ )「大丈夫です。こう見えても、腕には自信があります」

从;´・_・从「……ダメなんです、本当に……ダメです……」

( ’ t ’ )「僕は村人じゃないんですから、そう引き止めることも」

从;´・_・从「アルファベットなんです」

 思わず、目を見開いてしまった。
 硬直する指先。
 いや、全身にまで及んでいる。

从;´・_・从「山賊は……正規のアルファベットを持っているんです」

 ユイカはまた、涙を流し始めた。
 目元の群青色は涙と共に落ち、頬に青い筋を残していた。



――ギフト城――

( ・∀・)「改めまして、お疲れ様でした」
384 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:03:51.37 ID:zJ1NbGMi0
 パニポニ城から、モララーが移ってきた。
 相変わらず飄々とした様子だ。
 怪我をほとんど感じさせない。

 城の勝手は、以前ヴィップ領だったときの経験から、把握しきっている。
 モララーを軍議室へと案内した。
 ニダーと共に、だ。

 軍議室には、ささやかだが酒が用意されていた。

( ・∀・)「アルタイムは、やっぱ手強かったそうですね」

<ヽ`∀´>「ニダね」

 ギフト城の守将は、ニダー=ラングラー。
 パニポニ城にはダイオードが戻った。
 あの堅城が前線でないのなら、誰が守将をやってもさほど問題はない。

(-_-)「以前より……遥かに、戦は上手くなっていました……」

<ヽ`∀´>「ニダニダ」

 ニダーは、嬉しさを隠そうともしなかった。
 一度奪い、そして一度は取り返された城。
 それを再度奪還できたのが、嬉しいのだろう。

( ・∀・)「これからもーっと、アルタイムの力を考えて作戦立てる必要がありますね」

<ヽ`∀´>「ニダね。これからもアルタイムとは戦わなきゃいけないニダ」
402 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:06:34.25 ID:zJ1NbGMi0
(-_-)「粘り強く、戦いづらい相手ですが……奮戦せねばなりませんね……」

( ・∀・)「ま、とりあえず……」

<ヽ`∀´>「新年、チュカハムニダ」

( ・∀・)「おめでとうございます」

(-_-)「……おめでとう……」

 三人で、杯を傾けた。

 味の薄い酒だ。戦中なら、こんなものだろう。
 美酒を求めるほうではないが、できれば美味い酒がいいとは思う。

 モララーもニダーも酒には強いほうだ。
 杯を片手に談笑しているが、恐らく夜更けまで続くだろう。
 自分が先に退出することとなりそうだった。

 四刻ほど過ぎて、二人に頭を下げ部屋を去った。
 まだ飲もうと思えば飲めたが、さほど高揚してはいない。
 飲みたい気分では、あまりない。

 ギフト城は奪えたが、まだ南西の戦は終わっていなかった。
 聞くところによれば、状況不利だという。
 早めにジョルジュの復帰が叶うことを祈るしかなかった。

(-_-)「…………」
422 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:09:19.38 ID:zJ1NbGMi0
 自分は、このまま北の方面に留められるのだろうか。
 ジョルジュは、南西で戦うことになるのだろうか。

 できればジョルジュの指揮下に入りたい、とはずっと思っているが、果たして叶うか。
 無理を通そうというつもりはない。ブーンが決断したのであれば、逆らう気など更々ない。

 しかしまたいずれ、心から美味い酒を飲みたい、と思う。

(-_-)「……ん……?」

 居室に戻った際、書簡が投函されているのを見つけた。
 この白い封筒は、国家から発行されているものだ。
 見慣れている者なら、軍人より宛てられた手紙と一目で分かる。

 差出人は、ブーン。
 どうやら、先日の戦勝報告に対する返信らしい。

 戦勝を嬉しく思う気持ちが、文面から溢れていた。
 感謝の言葉も、苦笑するほど綴られている。
 自分は特に何もしていないが、それでも感謝を述べるのがブーンという大将だ。

 ただ、どこか以前のような無邪気さを感じられなくなった。
 手紙から、大将の威厳のようなものさえ、覚えさせられた。

(-_-)(……こういう男だったか……?)

 三十を過ぎて尚、人間性を変えられるとは大したものだ。
 まだ将としての伸び代を残しているのだろう。
437 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:12:00.17 ID:zJ1NbGMi0
 自分が知っているブーンを感じられなかったのは残念だが、それもいい。
 大事なのは、戦に勝てるかどうかだ。

 それよりも衝撃だった一文が、自分にはあった。
 最後の、最後。追伸のような形で記されている。

 思わず椅子から立ち上がってしまった一文だった。



――フェイト城・南――

 報復がてら、ヴィップが攻め込んでくるかも知れない。
 そう言ったのはギルバードだった。

 だから警戒は怠らなかった。
 新年を祝うときになっても気が抜けないのは、やはり戦場ならではだ。
 尤も、年末に攻め込んだ自分たちのせいでもある。

(´・ω・`)「まぁ、軽くなら構わんだろう」

 新年から数日過ぎた日、幕舎に、二人の男を招き入れた。
 ひとりは中将、ギルバード=インダストル。
 もうひとりは、少将のファルロ=リミナリーだ。

 少量だが、酒を用意させた。
 深酒して突然の戦に出られなくなるとまずい。
 だから、少しだけだ。
461 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:14:25.57 ID:zJ1NbGMi0
( ̄⊥ ̄)「プギャー少将は」

(´・ω・`)「ん?」

( ̄⊥ ̄)「少将は、お呼びしないのですか?」

 相変わらず朴訥とした話し方だった。
 父親のような、誰もが畏れるほどの覇気は欠片もない。
 が、将としては悪くない男だった。

(´・ω・`)「あいつはいい。酒癖が悪いからな」

( `゚ e ゚)「ぬぅ、少し話でもしたかったのですがな」

(´・ω・`)「いつでも話せるが、得られるものは何もないぞ」

 この幕舎にいるのは、あとはクーだけだった。
 今日は女らしい格好だ。
 ただし、素顔ではなく、多少の変装を施している。

( `゚ e ゚)「女は、フェイト城から呼んだのですかな?」

(´・ω・`)「まぁ、そんなところだ」

( `゚ e ゚)「瞠目させられるほどの美人ですな」

 クーは、何の反応も示さなかった。
 いつものことだ。
481 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:16:47.57 ID:zJ1NbGMi0
 クーのことは、ギルバードもファルロも知らない。
 教えてしまっても構わないが、なんとなく秘密にしていた。
 ラウンジ軍内で知っているのは、自分とプギャー、オワタとアルタイム、そしてクラウンだけだ。

川 ゚ -゚)「焼酎ですが、割りますか?」

( `゚ e ゚)「お主の涙で割ってくれ。ハハハ」

川 ゚ -゚)「…………」

 笑っているのは、ギルバードのみ。
 あとは皆、冬の寒さが骨身に沁みていた。

(´・ω・`)「とりあえず、新年に祝うとしようか。乾杯」

 三人が杯を掲げ、そのまま縁を口につけた。
 自分もギルバードも一気に飲み干したが、ファルロは一口程度に留めたようだ。

( `゚ e ゚)「しかし、ギフト城は残念でしたな」

 クーがギルバードに酌をおこなっていた。
 凛としていて、何をやらせても様になる女だ。

( `゚ e ゚)「というよりも、手痛い損失ですか」

(´・ω・`)「あぁ、そうだ」

( ̄⊥ ̄)「守らなければならない城が、増えましたね」

(´・ω・`)「だからギフト城は奪われたくない城だった」
502 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:19:01.92 ID:zJ1NbGMi0
( `゚ e ゚)「手強いですな。ニダーやヒッキーは」

(´・ω・`)「誤算は、モララーだ。あいつが策を講じなければ、ギフト城は守れただろう」

( ̄⊥ ̄)「アルタイム中将は、奮戦したと聞きましたが」

(´・ω・`)「アルタイムからもオワタからも報告は受けている。
      犠牲は大きかったが、アルタイムに落ち度はなかったようだ。
      城を諦めず攻め込んだのも、理解できる」

( `゚ e ゚)「相手の策が、完璧でしたか」

(´・ω・`)「完璧とまでは言わんが、予想外だったんだな」

( ̄⊥ ̄)「……それよりも、自分が気になるのは」

(´・ω・`)「ん?」

( ̄⊥ ̄)「今のヴィップの攻め方です」

 ファルロは、まだ一杯目を空けていなかった。
 多くを飲むと、ブーンにやられた傷が痛むのかも知れない。

( ̄⊥ ̄)「特にギフト城の奪取は……ラウンジにとっては痛撃ですが、しかし」

( `゚ e ゚)「ヴィップは活かしきれないだろう、か?」

( ̄⊥ ̄)「そうです」

(´・ω・`)「まぁ、確かにな」
525 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:21:22.53 ID:zJ1NbGMi0
( ̄⊥ ̄)「どうするつもりなのでしょうか。このまま奥地へ侵攻しても、ヴィップは兵站を保てません」

(´・ω・`)「兵糧狙いで城を奪う、というのも考えにくいな。不確実だ」

( ̄⊥ ̄)「ラウンジに兵糧が足りていないのはヴィップも分かっているはずですし」

( `゚ e ゚)「それに、ずっと攻め続けられるだけの兵糧がヴィップにあるとも思えませんな」

(´・ω・`)「いずれ、どこかで停止するんだろう。この調子では、そのうち兵が戦えなくなる」

( ̄⊥ ̄)「今はまだ体力が保たれているようですが……いずれ、ですか」

(´・ω・`)「あぁ。ずっと今のペースを保てるはずがない」

( `゚ e ゚)「では、ラウンジとしては、今後は」

(´・ω・`)「兵糧を切らさないように、ヴィップのペースが落ちるのを待つ。
      ヴィップの攻勢が止んだら、反撃に出るとしよう」

( ̄⊥ ̄)「今は兵糧を得たばかりで、潤沢なのはヴィップのほうですから、主導権を握られるのは致し方ありませんね」

(´・ω・`)「耐えるしかない」

 自分とギルバードは、既に四合ほど飲んだ。
 ファルロはまだ一合程度だが、無理に勧めるつもりはなかった。
 あまり酒に強いほうではないのかも知れないからだ。

(´・ω・`)「兵力はこちらのほうが多いというのに、厄介なものだな」

( `゚ e ゚)「ヴィップの攻勢が終わったときこそ、存分に攻め込んでやりましょうぞ」
537 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:23:38.22 ID:zJ1NbGMi0
( ̄⊥ ̄)「大軍の利が活かせるとしたら、そのときですね」

(´・ω・`)「胸のすくような戦がしたいものだな」

 とりあえず、今はこの戦に集中すべきだ。
 ミーナ城は取り返したい。
 フェイト城を守るだけで終わらせたくはない。

 北東ではモララーが復活しかけている。
 いずれジョルジュも戦場に戻るだろう。

 ブーンとミルナが頂点に立ち、指揮を執っているうちに、今の戦は終わらせてしまいたかった。

(´・ω・`)「明日から、また戦だ」

 そう言うと、二人は杯を置いて立ち上がった。
 軽く頭を下げ、自分とクーに背を向ける。
 幕舎内には、まるで一人きりであるかのような閑寂さが生まれた。

川 ゚ -゚)「ショボン様も、お早めにお休みになられたほうが」

(´・ω・`)「あぁ、そうだな」

 プギャーと話すよりは、随分と有意義だった。
 だからだろうか、話していて少し疲労を覚えた。
 昔、モララーと会話すると、似たような感覚によく襲われたものだ。

(´・ω・`)「シャイツーはどうしている?」
552 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:25:46.54 ID:zJ1NbGMi0
川 ゚ -゚)「よく眠っています」

(´・ω・`)「そうか。それならいいんだ」

 突然暴れ出したり、逃げ出そうとしたり、といったことはなかったらしい。
 あればすぐ報告してくるのは分かっているが、何となく確かめておきたくなったのだ。
 これで心置きなく眠れる、というわけでもないが、少しだけ肩が軽くなった気がした。

(´・ω・`)「寝る前に、クー」

川 ゚ -゚)「はい」

(´・ω・`)「相手をしろ」

 クーは、小さく頷いた。
 疲労が溜まっているからこそ、情欲を発散したくなった。ただそれだけだ。
 自分の単純な思いを、クーは理解しているだろう。上手く相手を務めてくれるはずだ。

 後で体を揉ませよう、と思いながら、クーを寝床に押し倒した。



――山間の村――

从;´・_・从「村の人は皆、知っています。軽々と大木を斬り裂いた、あれは……間違いなく……」

(;’ t ’ )「……アルファベット……でしたか」

 思ったよりも、事態は深刻だった。
 よもや、山賊がアルファベットを所持していようとは。
577 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:28:08.12 ID:zJ1NbGMi0
 間違いなく、元軍人だ。
 恐らく、戦中の騒乱に紛れて、戦場を脱したのだろう。
 そして山に身を潜めた。

 アルファベットを新しく補充できるはずはない。
 つまり、山賊たちが軍を去ったのは最近のことのはずだ。

 普通に使っていれば、アルファベットはそう何年も持たない。
 先ほど山賊たちがアルファベットを持ってきていなかったのは、寿命に近づかせないためだろう。
 村人に奪われてしまう危険性も考慮したのかも知れない。

 戦場では、組織戦が今は主となっているが、少人数であれば、逃げだせた可能性はある。
 後で編成表を確かめたとしても、居なければ戦死として扱われるためだ。

 ラウンジの兵だろうか。ヴィップの兵だろうか。
 オオカミが滅んでからも、そう時間は経っていない。

 いずれにせよ、民間の手に落ちているのは由々しき事態だった。
 民に反乱を起こされないよう、一般人の手にアルファベットを渡してはならない、と各国が考えている。
 鉱山を塞いでいるだけでも効果はあるが、金銭に目の眩んだ者が民間に横流ししないとも限らないのだ。

 だからアルファベットの管理は厳重に行っていた。
 アルファベット保管庫は常に施錠してあり、入退室も厳密に確認させている。
 戦が終わったあとも、戦場に落ちたアルファベットは可能な限り回収する。

 戦場で使われるアルファベットは、最低でDだが、単体で使えるものとなると今はFだ。
 そのFを、AからEに触れてもいないのにいきなり扱える者は滅多に居ない。居たら文句なしの天才だ。
 だから戦場に落ちたアルファベットはどのみち三日で消滅する。しかし、拾っておくに越したことはない。
591 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:30:24.63 ID:zJ1NbGMi0
 アルファベットが民間に流れることはまずないのだが、こういった状況こそが最悪だった。
 戦場から逃げ出した兵が、軍に戻らず隠れ潜む状況だ。
 敵前逃亡しても戻りやすいよう、罰則は緩くしてあるが、それも絶対ではない。

 しかし、数は多くないだろう。
 戦場から逃げだせたとしても、せいぜい数人。
 大人数が上部に気づかれず逃げ出すことは、かつてないほどの混戦でなければ不可能だからだ。

 少なくとも、自分がラウンジの将校だったときは、そのような事態は検知されなかった。
 ヴィップとオオカミは分からない。が、もし大人数が不自然に姿を消していれば、必ず捜索している。
 そして、両軍が山狩りのようなことをおこなった、という話も聞いたことはなかった。

 ひとつだけ懸念されるのは、オオカミ軍の亡国兵だ。
 後で編成を確認し、特に異常がないことは確認したが、なにぶん滅亡時は混戦だった。
 大人数が逃げ出したことを見逃した可能性も、ないわけではない。

 オオカミの兵がこんな北端の地にまで流れてくるとは考えにくいが、頭には入れておく必要がある。
 しかし、場合によっては人数よりも深刻となる可能性を秘めた問題がある。

 山賊たちが持つ、アルファベットのランクだ。

( ’ t ’ )「アルファベット……ご覧になったそうですが」

从;´・_・从「自信を持って言い切れるわけではないのですが……恐らく、あれはHだと思います」

 アルファベットH。
 斧のような形状で、攻撃力に優れたアルファベットだ。

 H程度なら、自分のPは負けない。
 一撃で粉砕することも可能だろう。
620 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:33:27.02 ID:zJ1NbGMi0
( ’ t ’ )「……Hひとつだけでしたか? 他には?」

从;´・_・从「もうひとつ、本営で見たことがあるのですが……
      すみません、私には判別がつかなくて……他の実物を見たことがないので……」

 一般人、しかもこれほど山奥の村の娘であれば、それが普通だ。
 しかし判別がつかなかった、ということは、形状が分かりづらいアルファベットだろうか。
 盾状のGや、分離された状態でのNなどが当てはまりそうだった。

从´・_・从「全部でいくつあるのかは、分かりません。ひとつふたつではないと思います」

 しかし、Sの壁を越えているような相手でなければ、勝てるはずだ。
 そして壁突破者が不意に居なくなったという話は聞いたことがない。

 だが、Jの壁突破者である可能性は、充分にある。
 それが二人以上存在し、同時に狙われた場合は、危険だ。
 ランクにもよるが、防ぎきれるとは限らない。

 それでもやはり、行くしかない。

( ’ t ’ )「情報ありがとうございました。助かりました」

从´・_・从「……え?」

( ’ t ’ )「アルファベットを持っていると、事前に知っておけて良かった。心構えが必要ですからね」

从;´・_・从「ア、アルタイムさん! 何を聞いてたんですか!? 相手はアルファベット使いですよ!?」

( ’ t ’ )「だからこそ、僕が行くんです」
646 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:35:44.63 ID:zJ1NbGMi0
 背から、アルファベットを外した。
 布に包まれている。人に見せるのは、久方ぶりだった。

从´・_・从「それは……模造品ですよね?」

从´・_・从「そんなのに怯えるほど、山賊たちは単純じゃないですよ……アルタイムさん……」

从´・_・从「……だから……アルタイムさん、お願いです。どうか、私が帰ってくるまで、ここで静かに」

( ’ t ’ )「昔は、あまり嘘が得意ではなかったのですが」

 布の結び目を、解いた。
 柄を軽く持って布を引っ張ってやると、アルファベットが舞うように回転する。
 布が、取り払われていく。

( ’ t ’ )「最近、嘘をつき続けたせいか、少しばかり上手くなってしまったようで」

从´・_・从「……?」

( ’ t ’ )「申し訳ありません。僕の本当の名は、アルタイムではないんです」

从´・_・从「……えっ……?」

( ’ t ’ )「カルリナ=ラーラスと申します」

 アルファベットPの刃が、月光を浴びた。
 その照り返しで、ユイカの呆けた顔が、鮮明に見えた。

从;・_・从「……はい?」
680 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:38:24.59 ID:zJ1NbGMi0
( ’ t ’ )「誰にも言わないでください。絶対に」

 腰袋から、銭を取り出した。
 硬貨であり、一枚出せば芋が二つほど買える程度の価値だ。

 人差指の上に置いて、親指で硬貨を跳ね上げた。
 高音が耳に届き、硬貨は回転しながら宙を翔ける。

 アルファベットPを、座ったまま構えた。
 左手で柄の先を持ち、右手で根元を持つ。

 右手に力を込め、左手は微動だにさせなかった。
 Pの刃だけが、鋭く空気を裂く。

 何の音もしなかった。
 硬貨が床に落ちたときになって、やっと二つの音が響いたのだ。

 ユイカはずっと、口を半開きにさせてアルファベットを見ていた。

( ’ t ’ )「嘘をついたのは、身分を明かしたくなかったからなんです。
     『カルリナが放浪している』なんて知られると、変な輩に狙われかねないですし……。
     国軍にも、知られるとまずいんです」

从;・_・从「あ、あなた……本当に……カ、カルリナ中将……!?」

( ’ t ’ )「どうか、秘密にしていてください。お願いします」

 荷袋から、干し肉を取り出して、齧りついた。
 少しでも腹を満たしておく必要がある。
 満腹の相手に、空腹で挑むのは辛いところだからだ。
696 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:40:09.93 ID:zJ1NbGMi0
 ユイカにも干し肉を勧めたが、大きく首を横に振られた。

从;・_・从「お、恐れ多いです! 今までのご無礼も……!」

(;’ t ’ )(無礼なんてあったっけ……?)

从;・_・从「何のお持て成しもできず、本当に申し訳ありません!
     中将ほどのお方と知っていれば、隠し倉庫からお食事をお出し致しましたのに……」

( ’ t ’ )「いや、それは必要ありません。
     出したときに山賊が来て発覚すると最悪ですし、何より数少ない食料を頂くわけにまいりません」

从;・_・从「で、ですが……」

( ’ t ’ )「泊めていただくお礼ですから」

 安心させるために、笑顔を見せた。
 何故か頬に固さを感じる。
 そういえば、最近笑っていなかっただろうか。

 ぎこちない笑みだったかも知れない。
 それでも、ユイカは頬を赤くして、少しばかり不安が払われたようだった。

( ’ t ’ )「教えてください。山賊たちの本営を」

 ユイカは、それでもまだ多少の躊躇いを見せた。
 自分の身を、案じてくれているようだ。
 ありがたいことだった。
714 :第100話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/28(金) 22:41:59.39 ID:zJ1NbGMi0
 月の光が、瞳に宿ったのだろうか。
 それとも、決意だろうか。

 ユイカの目に、力強い光があった。
 そして、静かに頷いた。

 本当に、申し訳ありません。
 どうか、お願いします。

 村を、助けて下さい。

 そう言いながら、涙を流しながら、ユイカは本営の場所を口頭で伝えてくれた。















 第100話 終わり

     〜to be continued

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