8 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:30:01.08 ID:/4xv1z210
【第1話 : Road】


――世界暦514年・夏――

――ヴィップ国・アロプス町――

('A`)「見ろよブーン、来たぜ」

 空は白みきって、快い朝風が木々の葉を揺らす。
 乾いた空気を吸い込んで、空を見上げ、息を吐く。

 街の中央にある広場、更にその中央にある朽ちかけた掲示板。
 そこに貼り出された一枚の紙は、風にさらわれることもなく、その場に佇んでいた。

('A`)「新兵急募……一週間後の正午から、ヴィップ城下町の国立公園で入軍テストか……」

( ^ω^)「随分急だお。いつもなら一ヶ月前には告知するはずだお」

('A`)「ラウンジの南進の影響だろうな……本格的な戦いになるらしい」

( ^ω^)「兵糧が貯まる秋には……ってことかお……」

('A`)「あぁ……かなりの犠牲が出るだろうしな……。
   その穴埋めか、もしくは、ラウンジ戦での新戦力か――――」

 新戦力。
 胸が、高鳴った。
 いきなり、戦争に出られるかも知れない。"アレ"を手にして、戦場を駆け巡れるかも知れない。
 抱えたいくつかの目的を達成する日が、大きく近付いた気がした。
10 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:32:29.77 ID:/4xv1z210
('A`)「行くよな、ブーン?」

( ^ω^)「当たり前だお! 18歳になってからずっと待ってたんだお!」

('A`)「俺もだ。入軍テストがどんなのかは分からねぇが……。
   ずっと訓練してきた俺たちなら、きっと大丈夫さ」

( ^ω^)「絶対入軍するお……そして、ヴィップ国の天下統一に貢献するお!」

('A`)「あぁ……そして……」

 ドクオは懐から一つの封筒を取りだし、併設された投書箱に入れた。
 侘びしげな表情を浮かべながら。

( ^ω^)「妹さんへの手紙かお……?」

('A`)「あぁ……だが、こんな世の中だ……配達屋が襲撃される事件も起きてる……。
   オオカミ国まで届く可能性は高くないな……」

( ^ω^)「……戦争は色んなものを引き裂くお……肉体と魂だけじゃなく、大切な人との絆さえ……」

('A`)「……お前も、親父さんの仇、討たなきゃいけないもんな……」

( ^ω^)「だお……だからヴィップ国のために戦うお! とーちゃんもきっとそれを望んでるお!」

('A`)「……俺も、また妹と一緒に暮らすためにも……ヴィップ国を天下に導くぜ」

 互いの拳を突き合わせ、軽く笑った。
 陽の姿が東の彼方に確認できた。

11 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:34:47.64 ID:/4xv1z210
 足早に過ぎる日々は記憶にもほとんど残らず、気付けば、一週間が経過していた。
 晴天ではないが、雨は降っていない。テストは行われそうだ。

 ブーンとドクオが住むアロプス町から、歩いて二時間程度。
 ヴィップ城下町は、それほど離れた場所ではない。
 この日は臨時で輸送屋が町に多く集まっていたので、尚更移動は苦にならなかった。

 普段は子供の遊び場、老人の憩いの場として機能している国立公園だが、この日は殺伐としていた。
 ガタイの良い男たちが、闘志を漲らせている。
 鋭い双眸を光らせ、荒い吐息を振り撒く。
 まだ三十にもなっていない青年ばかりだが、みな血気は盛んだった。

 公園の東側出入り口に設けられた受付で身分証明をし、受験番号を割り振られた。
 ドクオは0863、そしてブーンは0864。到着が遅かったせいもあり、番号はかなり大きかった。

(兵`Д´)「全員志願者だな? 迷子ではないな?」

 反対側の出入り口から入って来たらしい10人ほどの兵士が、公園の中央で固まっていた。
 公園の入口で待っていた志願者たちが、中央へと歩み寄る。
 その数は、千を超えているだろう、とブーンは思った。

(兵`Д´)「これよりヴィップ国軍の入軍テストを行う。
     入口の受付で付けられた受験番号の若い順に前に来い。
     10人同時に行うから、0001番から0010番までが試験対象だ。早くしろ」

 志願者の固まりの中から、慌てて青年たちが飛び出してきた。
 筋肉隆々の男から幼い顔つきの男まで、風貌は様々だった。

12 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:37:48.89 ID:/4xv1z210
('A`)「一番前に行こうぜ。こっからじゃ試験が見えねぇ」

 ドクオに引っ張られ、前に歩み出る。
 他の受験者も思考は同じだったようで、皆が続々と試験の見やすい位置へ移動する。
 やがて、受験者を取り囲む円が出来上がった。

 円の中心では、緊張した面持ちの10人の受験者が、それぞれ、木製の台の前に立っていた。

 そして、異彩を放つ、台上。
 麗美とも、禍々しいとも思える、鉄。
 明らかに、特異だった。

 滲み出る汗を、抑えきれない。
 ドクオの顔は、興奮からか、緊張からか、赤く見えた。

 皆の視線が、ただ台上に。
 そこに置かれた、アルファベット、Aに、注がれていた。

 先鋭な刃が頂点から山のふもとへと広がり、冠雪を頂いたかのように光り輝いている。
 両端の刃を繋ぐ柄は、布で巻きつけられて太みを僅かに増していた。
 シンプルな形が、かえってその典麗さを引き立たせている。
 存在感溢れる佇みに、受験者たち皆が息を呑んでいた。

(兵`Д´)「試験は簡単だ」

 一番背が高く、威圧感を持した兵士が、台の前に立つ。
 アルファベットの柄を掴み、掲げ上げた。

(兵`Д´)「このように、アルファベットを、持つだけだ。それができれば、合格だ」
16 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:40:11.86 ID:/4xv1z210
 場が、騒然となった。
 たった、それだけ? 今まで訓練して体を鍛えた意味は?
 錯乱が思考を襲う。
 皆から疑問が噴出していた。

(兵#`Д´)「静かにしろ!」

 兵士が恫喝して、静まり返る円形。
 空気まで、震えているように思えた。

(兵`Д´)「では、試験を開始する」

 台の前に立った10人の緊張は、更に深まったようだった。
 誰も、アルファベットに触れようとしない。

 アルファベットを持つくらい、誰でもできる。そのはずだ。
 なのに、それだけで合格とは、一体どういうことだ。
 わけが分からず、駆り立てられる恐怖心。
 それが、10人の腕を固めていた。

(兵#`Д´)「早くしろ」

 先程の恫喝に比べれば、はるかに静かな声。
 しかし、込められた苛立ちは、誰しもが感じただろう。
 その声に突き動かされるかのように、慌ててアルファベットを握る受験者たち。

 一番右端の気弱そうな男が、アルファベットを、持ち上げた。
 陽光を照り返すAの刃。
 布に包まれた柄をしっかり握り締めた男が、安心と戸惑いを同時に表現した。
21 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:42:44.25 ID:/4xv1z210
(兵`Д´)「0010、合格」

 アルファベットを台に置いて、たまらないほど嬉しそうな顔で右手でガッツポーズを見せた。
 その姿を見て、他の受験者たちも次々にアルファベットを手に取る。
 全員が、それを高々と掲げた。

(兵`Д´)「0001から0009、全員合格。次、0011から0020だ。早くしろ」

 それから試験はハイペースで進んでいく。
 台の前に立った瞬間、アルファベットを持ち上げて、合格していく。
 100人を突破しても不合格者は現れず、皆から緊張が消えた。
 薄笑いを隠そうともせず試験に臨む者すらいた。

 300人、500人、700人。
 全て、合格していく。

('A`)「なんだ、こんなもんか……案外楽なんだな」

( ^ω^)「きっと一人でも兵が欲しい状況なんだお。
     アルファベットを持てるだけの腕力があればとりあえずオッケー、ってとこだお」

('A`)「あんなもん、年齢一桁の子供でも持てるだろ」

( ^ω^)「油断しちゃダメだお。もしかしたらみんな凄い力持ちなのかも知れないお」

('A`)「なわけねーって……おっと、もうすぐ俺らの番だな」

 0851から0860も、全員合格。
 0863と0864のドクオとブーンが、台の前に立った。
24 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:45:13.17 ID:/4xv1z210
(兵`Д´)「始めろ」

 言われた瞬間、皆が続々とアルファベットを掲げる。
 次々と合格を告げられ、台から離れていった。

('A`)「そんじゃ俺も」

 ドクオの左手が、アルファベットを掴み、持ち上げた。
 0863、合格、と兵士が告げ、ドクオが笑顔になった。

( ^ω^)「やっぱ余裕なのかお」

 独り言を発しながら、アルファベットの柄を、握ったブーン。


 瞬時に、伝わる熱。


(;゚ω゚)「あつっ!!!」


 思わずアルファベットから手を離してしまい、勢いで放り投げてしまった。
 台から数メートルの場所で、地面に突き刺さったアルファベット。
 周りが、騒然とし、困惑していた。

(;゚ω゚)「なななな……な、なんでこんなに熱いんだお……」

(;'A`)「お、おい、ブーン……!」

 はっとして、すぐに兵士を見た。
29 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/11/26(日) 22:47:30.62 ID:/4xv1z210
 冷徹な瞳で、動じることもなく、ただブーンを見ている。
 半ば、睨みつけるように、蔑むように。

(兵`Д´)「0864、不合格」

 言葉を聞いても、ブーンは身動き一つ取れなかった。





















 第1話 終わり

     〜to be continued

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