117 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 19:57:24 ID:CxWS4TYQ0

 美府でも評判の高い料亭に、芸者が集められた。
つい最近、旗本となった男、あさぴーは、人生の最盛を満喫していた。


(-@∀@)「おい。もう歌はよい」


 隣の部屋に移動し、芸者たちを一斉に脱がせた。
複数の女を相手するのがあさぴーの愉悦の瞬間であった。


 およそ一刻ほど、女たちを相手にした後、料亭を出た。
外に数人の部下と、一人の商人を待たせていた。


(-@∀@)「待ったか?」

(;'A`)「いえ、とんでもございません。あたしら、待つのも仕事の内です」
118 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:02:40 ID:CxWS4TYQ0

 平身低頭で返事をしたのは、長岡道場へ通っている商人のドクオであった。
ドクオはあさぴーに懇意にされている。


 というのも、ドクオが扱っているのが主に薬関連で、
彼の横流しする違法な薬物を使った儲けであさぴーは潤ったのだ。


 時折、町にやってきてはドクオを連れ回す。
小ずるい男を傍に置くのも面白いとあさぴーは考えている。


(;'A`)「あさぴー様。大変恐縮なんですが、町に辻斬りがいるという噂があります。
    先日も、私の通っている道場の師範が殺されてしまいました。
    今夜はこの辺にして、そろそろお開きとはいきませんか?」

119 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:05:23 ID:CxWS4TYQ0

(-@∀@)「辻斬りなど、俺が斬り捨てる」

(;'A`)「はあ……」

(-@∀@)「それに、これだけの人数と、今日は用心棒も雇っている。
      何をびくつく。商人よ」


 用心棒。
ドクオはその男が本当に頼りになるのかを心配していた。


 ドクオの視線に気がついたのか、用心棒の男は笑みを返した。


( ´_ゝ`)「どこの町にも辻斬りはいるだろう」

120 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:07:59 ID:CxWS4TYQ0

(;'A`)「そうかもしれませんが。夜猿の噂もありますし」


 夜猿の名を聞いて、あさぴーの部下たちは一瞬顔を曇らせた。
しかし、用心棒の男だけは笑みを崩さなかった。



 それからもう一軒、あさぴーは遊女屋を回った。
いい歳して精力旺盛だと、心の中で笑った。


 あさぴーが出てきた頃には、既に月が傾き始めていた。
いくら遊び人のあさぴーでも、流石に遅すぎたと思ったのか、足が帰路に向かった。

121 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:11:32 ID:CxWS4TYQ0

 ただ待つだけのドクオはくたくただった。
さっさと家に帰って、酒を一杯あおってから寝よう。
先に帰らせてもらいやす、そう言う機を計った。


 夜の闇がいっそう濃くなり始める。
生ぬるい風が肌を撫でた。


 何かがおかしい。
最初に気がついたのは、用心棒の男だった。


 続いて、あさぴーの部下たち、そしてドクオ。
最後に、あさぴー。
全員が足を止めた。

122 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:15:59 ID:CxWS4TYQ0

(-@∀@)「何だ?」


 何がおかしいか、というのは誰も具体的に言えなかった。
ただ、足下がふわふわするような、夢見心地の感覚だ。


 用心棒一人だけが、静かな剣気に身を包み、襲い来る闇の中心にいる者を待った。



 男は一人で現れた。
まるで陽炎のように、いつの間にか目の前にいた。


(-;@∀@)「何だ、こいつ」



 殺気に似た、何か別の、悪意を伴った、だが表す言葉が見つけられない、気配を放っていた。
根拠など何一つ無かったが、全員の心中に人喰い夜猿のことが浮かんだ。

123 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:19:56 ID:CxWS4TYQ0

 月がちょうど雲に隠れ、深淵の闇が彼らを襲った。
現れた男の黒の羽織が、ちょうど闇に溶け込んだ。



 血と悲鳴が闇の中を飛び交った。
首が、胴体が、下半身が、半身が、空を飛び、地に横たわる。


 あさぴーの部下たちが、瞬く間に肉塊となった。
技というにはあまりにも荒々しく、だが反応すらできない剣技は間違いなく一流だ。



(-;@∀@)「よ……ざ……る……」

124 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:24:09 ID:CxWS4TYQ0

 あさぴーは刀を抜き、構えていたが、ただ震えているだけで動けなかった。
踏み出そうが、下がろうが、追おうが、逃げようが、何をしても死ぬ気がした。


(;゚A゚)「鬼……人じゃない、鬼だ」


 見慣れた町が著しく様相を変えていた。
地獄だと言われれば信じることができた。


(-;@∀@)「よ……用心棒! 俺を」


 あさぴーの目の前で剣閃が光った、気がした。
事実、縦に半分に割れたあさぴーが、ぬらりと地面に横たわった。

125 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:27:22 ID:CxWS4TYQ0

 ドクオは死ぬ覚悟を決めざるを得なかった。
相打ちなど望む気にも、ましてや生き残るかもしれないという希望など、生まれるはずもなく。


 夜猿は、刀を抜いていた。
体の動きは緩慢で、病人が歩いているみたいに見えた。
ドクオは目を瞑った。


 刀の交わる音がした。
今夜、初めて聞こえた、普段の剣での戦いの音だ。


 用心棒、兄者の二刀流が、夜猿の一撃を弾いたのだ。


(;'A`)「あんた……」

126 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:34:14 ID:CxWS4TYQ0

 兄者は二刀流は見事なものだった。
片方の刀で斬撃を弾き、もう片方の刀で瞬時に攻撃を始めていた。
手首の返しのみで放った斬撃だった。


 夜猿は背中を逆に反らせて兄者の斬撃を躱した。
と同時に、片足で水月を蹴り、兄者の体を突く。


 弾かれたように両者が距離を取った。
向かい合ったとき、夜猿が被っていた編み笠が外れていた。


( 塔ヨ^)「斬れんお…それじゃあ。俺の、体は」


 夜猿の右目は、上下をまたいで刀傷が走っており、眼球が割れていた。
傷跡は赤く染まり、割れた眼球の奥で闇がこちらをのぞき込んだ。

127 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:37:26 ID:CxWS4TYQ0

( ;´_ゝ`)「走るぞ!」

(;'A`)「え?」


 ドクオは片手で兄者に掴み上げられ、肩に担がれた。
踵を返して全速力で町を駆ける。


 敵前逃亡は初めてのことではないが、たった一人に負けた経験はなかった。
剣気をはじき返されるならまだしも、呑み込まれたのも初めてのことだ。


( ;´_ゝ`)(なるほど。一筋縄にはいかないか)

128 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/07(木) 20:39:18 ID:CxWS4TYQ0

 夜猿は、逃げてゆく兄者の背中を見ながら、薄笑いを浮かべた。
また向かってくるのがわかっていたから、わざと逃がした。


( ´_ゝ`)「しばらくお前の家に厄介になる。命を助けた借りは返せよ」

(;'A`)「あ……ああ」


 ドクオはまだ体を動かせないでいた。
師範も亡くなったし、もう剣を取るのはやめようと決意した。


九輪「闇」

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