81 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:07:55 ID:nnSfn1Gg0

 商店通りを歩いていたツンは、見覚えのある顔に目を留めた。
向こうもツンに気がついたようで、小さく頭を下げるのが見えた。


ξ゚ー゚)ξ「久しぶりね」

(`・ω・´)「お久しぶりです」


 相変わらず隙の無い男だと思った。
自分と話しているときも、周りへの注意を全く怠っていない。


 例え後ろから剣を振り下ろされても、難なくかわしてみせるだろうという迫力があった。
今までどういう修羅場をくぐり抜けてきたのか、想像は難かった。

82 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:13:09 ID:nnSfn1Gg0

ξ゚听)ξ「少しお茶でも」


 無表情なシャキンの目が少しだけ泳いだ。
もしかすると、女には免疫の無い方なのかもしれない。


ξ゚听)ξ「斬らねばならない者、そのお話を聞きたい」


 シャキンは考えているようだったが、やがて微かに頷いた。

 二人が並んで歩くと、周りの視線が集まった。
若くして剣の才を持つシャキンは、端正な面立ちと女を惹きつける眼光を持っていた。


 茶屋が近くにあったので、団子と茶を買い、道ばたに直接敷かれたござに腰を下ろした。

83 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:15:23 ID:nnSfn1Gg0

ξ゚听)ξ「荒巻先生は、まだお元気で?」

(`・ω・´)「わかりません」

ξ゚听)ξ「わからない?」

(`・ω・´)「旅に出て五年近くになります。三年前に一度、立ち寄りました。
      そのときは元気でしたが、最近はわかりません」

ξ゚听)ξ「そう。お歳でもあるだろうしね」

(`・ω・´)「先生が病気になる姿など、想像も出来ませんが」


 ツンは上品に茶をすすった。
良家のお嬢様らしい気品を持った動作だった。

84 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:18:03 ID:nnSfn1Gg0

ξ゚听)ξ「最近、道場破りの噂をよく聞く」

(`・ω・´)「私です」

ξ゚听)ξ「やめた方がいい。逆恨みも少なくない」

(`・ω・´)「向かってくるなら、好都合だ」

ξ゚听)ξ「なぜ?」

(`・ω・´)「遠慮無く真剣で立ち会える」


 シャキンは串団子を掴み、一度に全部口に含んだ。


ξ゚听)ξ「殺し合いがしたいのか?」

85 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:21:24 ID:nnSfn1Gg0

(`・ω・´)「命の取り合いでなければ、上達はできません」


 口をもごもごさせながらの台詞ではあったが、言い切り方が力強かった。
ツンが口に手を当てて笑う。


ξ゚ー゚)ξ「たれがついてる」

(`・ω・´)「え?」


 シャキンの口元に手を持っていき、たれで汚れた場所を指で拭った。


(`・ω・´)「すみません」


 無表情だが、どことなく恥ずかしそうな感じがした。

86 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:25:09 ID:nnSfn1Gg0

ξ゚听)ξ「殺したい者とは、誰?」

(`・ω・´)「兄弟子です」

ξ゚听)ξ「同門同士で争っているのか?」

(`・ω・´)「私の実の兄を殺した者です」


 ツンの表情から笑みが消えた。
まずいことを聞いたという顔になった。


(`・ω・´)「それに、奴は生き続ける限り人を斬り続ける。そういう人間です」

ξ;゚听)ξ「その者は、今どこにいるかわかってるのか?」

87 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:31:43 ID:nnSfn1Gg0

(`・ω・´)「奴の足取りを追って、この町に来ました。おそらく、今この町にいるはずです」


 言い切ってから、茶を一気に飲み干し、シャキンは立ち上がった。


(`・ω・´)「九州で斬鬼と呼ばれた辻斬り。
     この地域では、人喰い夜猿(ひとぐいよざる)と呼ばれてる。
     私はあれを斬らねばならんのです」


 人喰い夜猿の噂は、いやでも耳に入る。
幕府が全国に通達を出している辻斬りで、三百両の懸賞金がかけられていた。


 姿を見た者はほとんどおらず、一人なのか、それとも複数なのかすらわかっていない。

88 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:36:47 ID:nnSfn1Gg0

 わかっているのは、夜猿は全て一撃で殺しているということだけだ。


(`・ω・´)「ご馳走になりました。では」

ξ゚听)ξ「ああ。気をつけて」


 猿のように笑うから、人喰い夜猿。
半ば伝承の魔物のようになっている存在だが、それ故に恐ろしくもある。


 人間業では無い斬撃を放つ。
もしかすると、本当に人間をやめたのだろうか。


 想像すると、膣辺りが冷えそうだった。

89 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:42:36 ID:nnSfn1Gg0

ξ゚听)ξ「あっ」


 茶を飲み干し、ござから腰を上げたとき、通行人の男と肩がぶつかった。


ξ゚听)ξ「すまん」


 編み笠を深く被り、黒一色の羽織に長い刀を一本だけ差していた。


(  ω^)「いえ……」


 片目だけ覗かせて微笑んできた男に一礼を返し、通りを歩き出した。
夜猿のことは既に忘れていて、夕餉の材料に何を買うか考え始めていた。


六輪「夜猿」 終わり

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