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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:07:55 ID:nnSfn1Gg0
商店通りを歩いていたツンは、見覚えのある顔に目を留めた。
向こうもツンに気がついたようで、小さく頭を下げるのが見えた。
ξ゚ー゚)ξ「久しぶりね」
(`・ω・´)「お久しぶりです」
相変わらず隙の無い男だと思った。
自分と話しているときも、周りへの注意を全く怠っていない。
例え後ろから剣を振り下ろされても、難なくかわしてみせるだろうという迫力があった。
今までどういう修羅場をくぐり抜けてきたのか、想像は難かった。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:13:09 ID:nnSfn1Gg0
ξ゚听)ξ「少しお茶でも」
無表情なシャキンの目が少しだけ泳いだ。
もしかすると、女には免疫の無い方なのかもしれない。
ξ゚听)ξ「斬らねばならない者、そのお話を聞きたい」
シャキンは考えているようだったが、やがて微かに頷いた。
二人が並んで歩くと、周りの視線が集まった。
若くして剣の才を持つシャキンは、端正な面立ちと女を惹きつける眼光を持っていた。
茶屋が近くにあったので、団子と茶を買い、道ばたに直接敷かれたござに腰を下ろした。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:15:23 ID:nnSfn1Gg0
ξ゚听)ξ「荒巻先生は、まだお元気で?」
(`・ω・´)「わかりません」
ξ゚听)ξ「わからない?」
(`・ω・´)「旅に出て五年近くになります。三年前に一度、立ち寄りました。
そのときは元気でしたが、最近はわかりません」
ξ゚听)ξ「そう。お歳でもあるだろうしね」
(`・ω・´)「先生が病気になる姿など、想像も出来ませんが」
ツンは上品に茶をすすった。
良家のお嬢様らしい気品を持った動作だった。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:18:03 ID:nnSfn1Gg0
ξ゚听)ξ「最近、道場破りの噂をよく聞く」
(`・ω・´)「私です」
ξ゚听)ξ「やめた方がいい。逆恨みも少なくない」
(`・ω・´)「向かってくるなら、好都合だ」
ξ゚听)ξ「なぜ?」
(`・ω・´)「遠慮無く真剣で立ち会える」
シャキンは串団子を掴み、一度に全部口に含んだ。
ξ゚听)ξ「殺し合いがしたいのか?」
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:21:24 ID:nnSfn1Gg0
(`・ω・´)「命の取り合いでなければ、上達はできません」
口をもごもごさせながらの台詞ではあったが、言い切り方が力強かった。
ツンが口に手を当てて笑う。
ξ゚ー゚)ξ「たれがついてる」
(`・ω・´)「え?」
シャキンの口元に手を持っていき、たれで汚れた場所を指で拭った。
(`・ω・´)「すみません」
無表情だが、どことなく恥ずかしそうな感じがした。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:25:09 ID:nnSfn1Gg0
ξ゚听)ξ「殺したい者とは、誰?」
(`・ω・´)「兄弟子です」
ξ゚听)ξ「同門同士で争っているのか?」
(`・ω・´)「私の実の兄を殺した者です」
ツンの表情から笑みが消えた。
まずいことを聞いたという顔になった。
(`・ω・´)「それに、奴は生き続ける限り人を斬り続ける。そういう人間です」
ξ;゚听)ξ「その者は、今どこにいるかわかってるのか?」
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:31:43 ID:nnSfn1Gg0
(`・ω・´)「奴の足取りを追って、この町に来ました。おそらく、今この町にいるはずです」
言い切ってから、茶を一気に飲み干し、シャキンは立ち上がった。
(`・ω・´)「九州で斬鬼と呼ばれた辻斬り。
この地域では、人喰い夜猿(ひとぐいよざる)と呼ばれてる。
私はあれを斬らねばならんのです」
人喰い夜猿の噂は、いやでも耳に入る。
幕府が全国に通達を出している辻斬りで、三百両の懸賞金がかけられていた。
姿を見た者はほとんどおらず、一人なのか、それとも複数なのかすらわかっていない。
- 88
名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:36:47 ID:nnSfn1Gg0
わかっているのは、夜猿は全て一撃で殺しているということだけだ。
(`・ω・´)「ご馳走になりました。では」
ξ゚听)ξ「ああ。気をつけて」
猿のように笑うから、人喰い夜猿。
半ば伝承の魔物のようになっている存在だが、それ故に恐ろしくもある。
人間業では無い斬撃を放つ。
もしかすると、本当に人間をやめたのだろうか。
想像すると、膣辺りが冷えそうだった。
- 89
名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/06(水) 19:42:36 ID:nnSfn1Gg0
ξ゚听)ξ「あっ」
茶を飲み干し、ござから腰を上げたとき、通行人の男と肩がぶつかった。
ξ゚听)ξ「すまん」
編み笠を深く被り、黒一色の羽織に長い刀を一本だけ差していた。
( ω^)「いえ……」
片目だけ覗かせて微笑んできた男に一礼を返し、通りを歩き出した。
夜猿のことは既に忘れていて、夕餉の材料に何を買うか考え始めていた。
六輪「夜猿」 終わり
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