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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 19:39:46 ID:XeEvIbEM0
道場の入口に、数人の人だかりが出来ていた。
('A`)「どうした?」
ドクオが尋ねると、野次馬の一人が嬉々とした表情で中を指さした。
話を聞いてみると、道場破りが現れたとのことだった。
門下生でない者が集まるほどのことではないと思ったが、
今時道場破りなんてしている男がいるというのは、確かに興味をそそられるかもしれない。
しかもそれが、美府でも名門であるとされる長岡道場であれば、より一層に期待は高まる。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 19:43:19 ID:XeEvIbEM0
期待とはもちろん、道場破りが無様に負けている姿を拝むことである。
ドクオは長岡道場の門下生の一人だが、本業は商人である。
自分に剣の才能が無いとわかってから、剣術は趣味の一環となった。
自分とは違い、上を目指して剣技を高める者たちもいる。
ドクオは密かにそういう人間たちを馬鹿にしていた。
剣の腕だけで出世できる者など、今時いないからだ。
野次馬の間をすり抜け、門をくぐり道場を目指す。
開け放していた扉から中を覗くと、信じられない光景を前に、ドクオの体は固まった。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 19:48:28 ID:XeEvIbEM0
道場の中央で、素面のまま竹刀を持っている男がいる。
かなり若い。
歳は自分とあまり変わらないか、むしろ自分よりも若いと思えた。
二十、二十一、二十二、その辺りだ。
彼の視線の先に、羽目板に寄りかかって、のど笛を押さえ苦悶の表情を浮かべる、
師範、長岡の姿があった。
(;'A`)(何が起こった?)
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 19:51:12 ID:XeEvIbEM0
そう思ったが、容易に想像はついた。
一撃の突きで師範を羽目板まで吹き飛ばしたのだろう。
(;'A`)「先生!」
ドクオが声を上げたのをきっかけに、あっけにとられていた周りの門下生たちが
一斉に立ち上がった。
師範を突き飛ばした道場破りに襲いかかろうとする勢いだ。
口々に野次が飛び交う中、済んだ声が一際目立って聞こえた。
「やめんか!」
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 19:54:20 ID:XeEvIbEM0
声のした方を全員が振り向く。
ξ;゚听)ξ「その者は正々堂々と闘った! 長岡道場の名をさらに汚す気かお前ら!」
しんと静まりかえった。
彼女の言うことには一寸の曇りもなかった。
女は長岡道場の師範代で、ジョルジュ長岡の娘でもある。
名をツンという。
女でありながら、父親の才を受け継ぎ、剣の技巧だけなら父親を凌ぐとも言われている。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 19:57:31 ID:XeEvIbEM0
ξ゚听)ξ「奥に案内しよう。他の者は父上の手当を」
ツンの一言で、固まっていた門下生たちはぞろぞろと動き出した。
ξ゚听)ξ「ドクオさん。この方にお茶を」
(;'A`)「は、はい!」
台所で湯を沸かし、やや高級な茶葉を使い、二人分の茶をいれた。
居間で向かい合って頓挫しているツンと道場破りの元へ、茶を運んでいく。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 19:59:48 ID:XeEvIbEM0
ξ゚听)ξ「ありがとう」
(`・ω・´)「わざわざすみません」
間近で見る道場破りの男は、やはりかなり若く見えた。
体格もそこまで大きいようには見えない。
しかし、近くに立ってみてわかることがある。
体の軸を微動だに動かさず、かつ隙のない身のこなし方をするのだ。
男に興味が沸いたドクオは、部屋から出ずに部屋の隅に腰を下ろした。
何か言われれば部屋を出るつもりでいたが、ツンは何も言ってこなかった。
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 20:03:09 ID:XeEvIbEM0
ξ゚听)ξ「素晴らしい技だった」
(`・ω・´)「ありがとうございます」
ξ゚听)ξ「流派は?」
(`・ω・´)「荒巻一刀流です」
ドクオには聞き覚えのない流派であったが、ツンは知っているようだった。
ξ゚听)ξ「我流を極め、一つの技を伸ばすという、変わった実戦剣法を取る流派だな。
荒巻先生とお会いしたことはないけど、その門下生の方と剣を交えたことはあるわ。
とても強かった」
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 20:05:49 ID:XeEvIbEM0
(`・ω・´)「そうですか」
ξ゚听)ξ「お主も強かった。私では相手にならんだろうな」
(`・ω・´)「足りないのです。今のままでは」
(;'A`)(あの野郎!)
挑発に取れる言葉であった。
ツンの表情に焦眉が漂う。
(`・ω・´)「斬らねばならん者がいます。奴に届く太刀でなければ、意味がないのです」
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 20:08:47 ID:XeEvIbEM0
しばし見つめ合っていた二人だったが、ツンの表情から殺気が消えると、
その場に漂っていた緊迫していた空気が徐々に薄まっていった。
ξ゚听)ξ「長岡道場の師範代、ツンといいます。名を聞いても」
(`・ω・´)「荒巻一刀流のシャキンです」
ツンは立ち上がり、部屋を出て行った。
すぐに戻ってきた彼女の手には、懐紙が握られていた。
ξ゚听)ξ「どうぞ」
(`・ω・´)「有り難く頂戴いたします」
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名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/05(火) 20:12:06 ID:XeEvIbEM0
受け取ると、シャキンはすぐにその場を立ち去ろうとした。
彼の背中に向かって、
ξ゚听)ξ「行き場が見つからなければうちの道場に来なさい。寝床だけは貸せる」
(`・ω・´)「お気持ちだけ頂きます。では」
振り返ることなくシャキンは部屋を出て行った。
ただ歩くだけで圧倒されそうな雰囲気だった。
ξ゚听)ξ「さあ、稽古に戻ろう」
ドクオは商人の道を選んで正解だと感じた。
斬らねばならん者というのが誰なのか見当はつかないが、少なくとも
自分のような人間が生きていける世界の話ではないことだけは、理解することができた。
三輪「道場破り」 終わり
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