296 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 17:58:43 ID:gmcKMzrA0

 その夜も酒を飲んでいた。
冷遇し過ぎたためか、人と会う約束があると言ってドクオが逃げ出してしまったために、
酒樽を居間に置いて飲み続けた。


 既に夜は深く、静まりかえった町から夜の気配が流れ込んでくる。
一人で飲んでいてもつまらないので、モララーでも誘おうと、家の中を探した。


 モララーはシャキンと一緒に、縁側に座っていた。


( ´_ゝ`)「何してんだ?」


 二人は顔を見合わせないまま、無表情に月を見上げていた。
近寄りがたい感じではあったが、二人のちょうど真中に兄者も腰を下ろした。
300 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 18:03:56 ID:gmcKMzrA0

 しばらく無言のまま、三人は月を見上げた。
詩や俳句をたしなむような三人ではなかった。


( ・∀・)「実を言うと、俺は怖い」


 始めに口を開いたのはモララーで、心なしか声に気力が無かった。


( ・∀・)「奴に出会ったとき、俺は絶望を感じた。
     何年、何百年努力しても、足下にも及ばないような壁を感じた。
     元々迷いがあったのだ。何の為に剣を振るうのか、わからなかった。
     奴のように何の躊躇もなく人を斬れるのが、俺には理解できん」

(`・ω・´)「闇は闇だ。理解するものではない」

301 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 18:07:02 ID:gmcKMzrA0

 シャキンの話は、いつも曖昧さがあったが、その実的を射ているような気もした。


(`・ω・´)「真剣で立ち会うようになってから、闇というものが何なのか、ますますわからなくなった。
      理解できるまで、人を斬ろうと思った。自分よりも強い者と立ち会えば、その片鱗が
      浮かび上がるかもしれないと考えた」


 今日のシャキンは、普段では考えられないほど饒舌だった。


(`・ω・´)「挑戦は誰からでも受けた。強い者には自分から向かった。
      長年の間世話になった師匠でさえ、俺は斬った」

( ・∀・)「師を、斬っただと?」

302 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 18:12:25 ID:gmcKMzrA0

(`・ω・´)「そうして俺は、墜ちていった。闇など理解せずとも、闇に墜ちればいいのだ。
      でなければ、奴と同じ土俵には立てん」


 シャキンを見るモララーの顔が微妙なものになった。
彼の並々ならぬ克己心は、闇に墜ちる覚悟の裏返しでもある。
どうしても、モララーには理解ができない部分だ。


( ´_ゝ`)「闇なんざ、夜になれば何処にでも転がってるがね」


 とっくりが空になったので、庭の植木辺りに投げ捨てた。
割れる音が小さく聞こえただけで、夜の静寂はすぐに辺りを呑み込んだ。

303 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 18:15:16 ID:gmcKMzrA0

( ´_ゝ`)「夜猿に弟を殺された」


 隣にいたシャキンが、ぴくりと眉を動かした。


( ´_ゝ`)「だからまあ、これは仇討ちになるのかもしれん。
      しかし人はいつか死ぬ。あれが弟の寿命だったというだけで、大して気にはしていない」

( ・∀・)「ではどうしてお前は夜猿を追う。命の危険まで犯して」

( ´_ゝ`)「運命さ」


 静寂がさらに色濃くなった気がした。
音が、空気が重くなる感覚を覚える。
305 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 18:18:31 ID:gmcKMzrA0

( ´_ゝ`)「弟は死に、俺は生き残った。双子の弟でな。顔はそっくりだ。よく間違えられる。
      おそらくそのとき、俺も死んだ。だが生きている。
      もしかすると、辻褄を合わせようとしているのかもしれん」

( ・∀・)「死ぬつもりなのか」

( ´_ゝ`)「冗談はよせ。そこのお侍さんと違って、勝てぬ戦はしない主義でね」


 モララーは何となく、兄者が嘘をついている気がした。
だが追求する気は無かった。
運命という陳腐な言葉に、妙な共感も覚えた。


( ´_ゝ`)「あんたは何で夜猿を? まさか数百両ぽっちの金のためじゃないよな」

(`・ω・´)「朝日だ」

306 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 18:23:45 ID:gmcKMzrA0

 何処からか、鈴虫の鳴く声が聞こえる。


(`・ω・´)「俺がもう一度朝日を浴びるには、奴を斬らねばならんのだ」


 それ以上シャキンは喋らなかった。
相変わらず兄者は薄笑いを浮かべ、モララーは満ちる直前の月を見上げている。


( ・∀・)「俺はわからないんだ」


 モララーは、迷うな、というハインの言葉を再び思い出していた。
今は迷うことこそが自分なのではないかと考え出している。

307 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/11(月) 18:27:26 ID:gmcKMzrA0

( ・∀・)「確かに、約束をした。夜猿を討つと誓った。
      でもどうして自分が、命を賭して約束を護ろうとしているのか、わからない」

(`・ω・´)「明日、答えが出る」


 三人は結局、顔を見合わせないまま、ちりぢりに散っていった。


 シャキンだけが、いつまでも夜空を見上げていた。
手の届かない何かを、睨み付けているようでもあった。


十八輪「前夜」 終わり

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