162 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:22:21 ID:R8VTn.ik0

(;'A`)「俺の金なんですよ。あんまり張り切らないで下さいよ旦那」


 居酒屋でとっくりごと酒を飲む兄者に、呆れたドクオが声を上げた。
既にかなりの量を飲んでいるはずだが、兄者の表情は普段と全く変わっていない。


( ´_ゝ`)「それより、目星はつけたのか」

('A`)「まあ。浪人程度だったら十人は集められる」


 ドクオが言い終わるよりも先に兄者の裏拳が頬を叩いた。


(;'A`)「何するんですか」

( ´_ゝ`)「木偶など何万人いようが数には入らん」
164 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:26:55 ID:R8VTn.ik0

(;'A`)「旦那が仲間を集めるっていうから、方々を探し回ってるんですよ。
    文句を言うなら少しは自分も足を動かして……」


 今度は一本拳を人中に打ち込まれ、顔を押さえて悶える。
このところドクオは災難ばかりであった。


( ´_ゝ`)「相手は夜猿だぞ。俺と同じ程度の剣の遣い手を三人、最低でも二人は欲しい」


 ドクオと向かい合って机に座っているものの、先ほどから兄者は店内の一点を見ていた。


('A`)「そういえば、通ってた道場に他流の人間が来まして、そいつはかなりの腕を持ってますよ」

( ´_ゝ`)「お前、もう帰っていいぞ」

165 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:29:51 ID:R8VTn.ik0

(;'A`)「はい?」

( ´_ゝ`)「金だけ置いていけ」


 苦虫をかみつぶしたような顔をしたドクオだが、兄者には逆らえない。
命を助けてもらった借りがあるし、気圧される迫力がこの男にはあった。


 ドクオが店から出て行ってから、兄者はとっくりを持って席を移った。


( ´_ゝ`)「よう。一緒に飲まないか」


 歳は三十、くらいの刀を差した男が、子供を連れて酒をあおっていた。
男は表情を変えず兄者を見返す。

166 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:34:22 ID:R8VTn.ik0

( ・∀・)「今夜はすぐに帰るんだ。悪いが、絡むなら別の相手にしてくれ」


 兄者は、男が机の下で刀の鞘に手を伸ばしたのを感じ取った。
はっきりと見えた訳ではないが、いくつもの修羅場をくぐった勘が教えてくれる。
この男はただ者では無い。


( ´_ゝ`)「お嬢ちゃん。刺身が好きなのかい?」


 兄者が来たことに関心を示さず、刺身を口に運び続けていた子供に声をかけた。


(*゚∀゚)「好き」

( ´_ゝ`)「海沿いの町だからな。いい魚が捕れるんだ」

167 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:37:41 ID:R8VTn.ik0

(*゚∀゚)「海」


 子供は男の方を振り返ってぱっと笑った。
この男には不釣り合いな連れだと兄者は思った。


(*゚∀゚)「海って、やっぱ臭いのか?」

( ・∀・)「潮の臭いはあるが、慣れればそうでもない。見てみたいか?」

(*゚∀゚)「うん」

( ・∀・)「明日は用事があるんだ。明後日、連れていってやる」


 仲はいいようだ。
兄妹だと目星をつけた。
そういえば自分にも妹がいたなと兄者は思い出す。

168 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:40:38 ID:R8VTn.ik0

( ´_ゝ`)「妹かい?」

( ・∀・)「お前には関係ない」

( ´_ゝ`)「つれないねえ」


 兄者が机についてから、男の片腕はずっと机の下だ。
警戒されていた。


 男は即座に兄者が相当な遣い手だと悟っていた。
それも、血の気配をたぎらせる、人斬りであるということまで察している。


( ´_ゝ`)「暗殺かい?」


 男の動きが一瞬だけ止まったのを兄者は見逃さなかった。

169 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:45:59 ID:R8VTn.ik0

( ・∀・)「何のことだ」

( ´_ゝ`)「こめかみに面ずれの痕がある。身のこなしから見ても、道場剣法を学んだ者だ。
      上等ではないが、職人の袴を着ている。商人ではないのに身なりを整えている。
      藩士だろう。だがこの町には住んでいない。藩士がこんな不味い酒を出す居酒屋には来ない。
      どこか遠く、別の藩から何かの目的があってやってきた。
      それもお忍びだ。あらかじめ通達があるのなら町を案内する付き人がいるはずだ。
      他人には明かせない用事でわざわざ藩士が……それも、相当な剣の遣い手が寄こされた。
      十中八九、そりゃ暗殺だ」


 男の剣気が兄者に向けられた。
肌を凍てつかせる冷たい殺気だった。


( ´_ゝ`)「なあに、俺はただの浪人。興味本位で言ってみただけだ。そう睨むな」

170 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:49:00 ID:R8VTn.ik0

( ・∀・)「ただの浪人には見えんな。お前から血の臭いがする。
      今まで何人の人間を斬った」

( ´_ゝ`)「どうでもいいことは覚えられないたちでなあ」


 不穏な空気を察したつーは、刺身を食べる手を止めて二人を交互に見やった。


( ・∀・)「表に出よう」

( ´_ゝ`)「あんたと斬り合うつもりはない」

( ・∀・)「道を踏み外した外道相手に斬る理由が必要か?」

( ´_ゝ`)「踏み外した? 馬鹿言え。俺が歩けばそこが道だ」
172 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:51:14 ID:R8VTn.ik0

 兄者は席を立ったが、男の殺気には反応を返さなかった。
斬り合うつもりが無いというのは本当だった。


( ´_ゝ`)「ん?」


 突然、顔をつーの方へ伸ばし、くんくんと鼻を鳴らした。


( ´_ゝ`)「男か」


 兄者は意味ありげな目線を男に向ける。
男は静かににらみ返した。

173 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 18:54:24 ID:R8VTn.ik0

( ´_ゝ`)「世の中、色んなやつがいるからね」


 ドクオからもらった金を店主に渡し、残りの金を男がいる机の上に置いた。


( ´_ゝ`)「俺は兄者。名は」

( ・∀・)「モララー」

( ´_ゝ`)「夜猿を殺すために仲間を集めてる。
      気が向いたらドクオという男がやってる薬屋に来い。
      どうしても俺と立ち会いたいなら、ついてるこぶは置いてくることだな」


 店を出ると、外は薄暗くなっていた。
少し前までは人で賑わっていたが、夜猿の件があってから人が減ったように思える。

174 名前: ◆hb8Q6YeeDk:2012/06/08(金) 19:01:18 ID:R8VTn.ik0

 ドクオの家に帰ろうと足を踏み出したとき、自分のあごから汗がしたたり落ちたのを感じた。


( ´_ゝ`)(お坊ちゃん剣法も馬鹿にはできないね)


 あの子供に顔を近づけたとき、モララーから一際大きい剣気をぶつけられた。
一瞬、刀を抜きそうになったが、何とかこらえた。


 ここで殺してしまっては、いつまでも仲間など集められない。


 全てが終わったあとに、全員殺せばいいだけの話だ。
夕焼けが町を染めていた。
兄者にとって、赤は気持ちが安らぐ色だった。


十一輪「邂逅」 終わり

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