27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 21:52:32.63 ID:YFKrH/cs0

  ※  ※  ※


僕が家について三十分ほどで、雨が降り出した。
学校で友達から聞いたとおり、その勢いは強く、しばらくやみそうにない。

(´・ω・`)「……なんなんだ、今日は」

僕は部屋にいた。
制服を着替えるのも忘れて、膝を抱えていた。

(´・ω・`)「あれは、なんだよ……」

呟きながら、ついさっきの夢を思い出す。

それはいつもと変わらないパターンだった。
僕はつまらないことを理由に腹を立て、暴力をふるい……結果、相手が死ぬ。
相手の死に何も感じていていないのも同じだ。僕は平気で人を殺す。

――――そして、目が覚めて初めて後悔する。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 21:54:39.43 ID:YFKrH/cs0

(´・ω・`)「……頭、痛い」

さっきから頭痛がおさまらない。
今までにない激しい頭痛が僕を襲う。
学校を出るときのことも、本当はよく覚えていない。

僕は気付くと生徒玄関に立っていて、それから逃げるように美術室に戻り、制服の上着とカバンを持って学校を出た。家についてからは、ずっと部屋にいた。自分自身に対する恐怖からか、悪寒がいつまでたっても消えなかった。

(´・ω・`)「嫌いなわけ……ないのに」

僕は必死に呟く。
今にも否定され、失ってしまいそうな気持ちを言葉にのせる。

こんな夢をツンが知ったら……きっと、その時こそ、別れが来る。現実の、別れが。

( ゚∀゚)「兄貴」

(´・ω・`)「……えっ?」

ドアの向こうから、僕を呼ぶジョルジュの声が聞こえた。

時計を見ると、もう七時を過ぎていた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 21:55:45.67 ID:YFKrH/cs0

( ゚∀゚)「開けていいか?」

(´・ω・`)「あ、うん」

僕は慌てて立ち上がり、勉強机の椅子に腰を下ろす。
直後、ドアの開く音が聞こえ、

( ゚∀゚)「なに? もしかして勉強中?」

部屋に入ってきたジョルジュは、つまらなさそうにそう言った。

( ゚∀゚)「偉いねー。さっすが受験生だねー。俺には真似できねーや」

(´・ω・`)「別に……ちょっと考え事してただけだよ」

( ゚∀゚)「そうなん? まー、俺にはどーでもいいけど」

(´・ω・`)「どうでもいい、かな……」

棘のあるその言葉に苦笑する。
昔はもっと仲の良い兄弟だったはずなのに、と思いながら。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 21:57:27.29 ID:YFKrH/cs0

( ゚∀゚)「飯は?」

ジョルジュは苛立ったような口調で言う。

( ゚∀゚)「母親、今日は遅いのか?」

(´・ω・`)「あぁ……そうだ。ごめん、忘れてた」

( ゚∀゚)「腹減ってんだよね。さっさと作ってくれないかな」

(´・ω・`)「……今、やるよ」

僕の心がまた少し震える。

いつも思う……ジョルジュが抱くこの感情は、僕にぶつけられるべきものなのだろうかって。
言うまでもないことだけど、僕はジョルジュの受験に、何一つ口を出したことはない。
全てはジョルジュと両親の間でのことであって、僕には何ら関係ないはずだった。

( ゚∀゚)「早くしてくれよ」

(´・ω・`)「……」

僕を急かすその言葉に、無言で立ち上がる。

制服のまま階段を下り、キッチンに立つ。
父親の単身赴任の関係もあって、僕は料理には慣れていた。
家庭科の調理実習でも、よく驚かれる。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 21:59:27.30 ID:YFKrH/cs0

( ゚∀゚)「偉いねー、兄貴は」

すぐ自分の部屋に戻ると思っていたジョルジュは、しかし居間のドアの前で足を止めた。
見下すような視線を僕にぶつけながら、

( ゚∀゚)「勉強も出来る、家事もこなせる。いやー、立派な息子さんだこと」

(´・ω・`)「……何が言いたいんだよ」

僕は振り向く。

(´・ω・`)「僕がジョルジュに何か言ったか? 全部父さんと母さんの――」

( ゚∀゚)「うざいんだよ」

ジョルジュは冷たい声で言い放った。

( ゚∀゚)「兄貴がそんな優等生だから、俺まで高望みされるんだろーが。
     比較される俺の気持ちがあんたにわかるか? わからんだろーが。
     ……わかって欲しくもないけどね」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:02:43.11 ID:YFKrH/cs0

(´・ω・`)「じゃあ突っかかってくるなよ。僕は僕で普通にしてるだけだ」

( ゚∀゚)「そーだよね、兄貴は生まれながらの出来る人だもんね」

(´・ω・`)「……そういうことは努力してから言ってよ」

( ゚∀゚)「はん? 説教? やめてくれよ。
     兄貴からの説教なんて、一番聞きたくねーよ」

(´・ω・`)「……」

( ゚∀゚)「早めに頼むぜー、晩飯。
     俺、寝てるかもしんねーからさ、そん時は起こしてな、お兄ちゃん」

言って、ジョルジュは居間を出た。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:03:21.90 ID:YFKrH/cs0

僕はキッチンに向き直り、鍋に水を入れてコンロにかける。
火がはぜる低い音を聞きながら、冷蔵庫の中から豆腐をとりだす。

(´・ω・`)「……」

流し台の上にまな板と包丁を用意し、そこで少し迷う。

どっちから先に済ませるか……夕食の準備か、苛立ちの解消か。

(´・ω・`)「そうだな……そっちの方が効率いいし」

僕は包丁を持ち、コンロの火を止めた。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:06:04.62 ID:YFKrH/cs0

ノックもせずに、ジョルジュの部屋のドアを開ける。
マンガを読んでいたらしいジョルジュが、緩慢な動作で後ろを振り向く。

僕の顔を見、心底苛立ったというように顔をしかめ、

( ゚∀゚)「おい、なに勝手に――」

その声が止まった。
僕の手に握られた包丁を見たのだろう。

(;゚∀゚)「あ、兄貴? ど、どうしたんだよ、そんな危ねーもん持って……」

(´・ω・`)「僕がずっと誉められるだけだったとでも思ってるの?」

(;゚∀゚)「な、なに?」

(´・ω・`)「自分だけ自分だけ……ってね。
      駄々をこねるなら相手が違うんじゃない?」

言いながら、僕はジョルジュとの距離を詰める。
慌ててジョルジュは立ち上がった。その顔から血の気が引いていく。
普段の、不遜なほどに余裕の溢れたジョルジュにはない、本気の表情。

本気で僕を怖れる……そんな顔。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:09:56.38 ID:YFKrH/cs0

(;゚∀゚)「や、やめろよ! なんなんだよいきなり!」

(´・ω・`)「僕が傷つかないとでも思ってるなら、大間違いだよ。
      これでも色々大変なんだ……本当に、いろんなことがどうでもよくなるくらいに」

(;゚∀゚)「落ち着けって! なぁっ! こんなコトしたら、受験とか――」

(´・ω・`)「うるさいよ」

僕は包丁をふるう。
ジョルジュの着ていたシャツの胸元が切れ、そこから血が飛び散る。
僕の着る真っ白なワイシャツに、どす黒い血が染みこんでいく。

(;゚∀゚)「あ……あに、き……」

(´・ω・`)「もう聞きたくないよ、そんな言葉。
      全部自分のせいだって、本当はわかってるんだろ?」

(;゚∀゚)「わ、悪かったよ! 謝るから――」

(´・ω・`)「随分調子いいじゃない」

(;゚∀゚)「あっ……」

ジョルジュの左腕に新しく赤い筋が走る。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:11:46.99 ID:YFKrH/cs0

(´・ω・`)「どうしたの? 自分の美学守る根性もないの?」

問いかけながら、僕は手についたジョルジュの血を舐める。
空気に触れたせいか、少し粘り気を帯びたそれは、舌先に強烈な快感を与え、消えていく。

(  ∀ )「……兄貴、てめぇ」

ジョルジュの視線が僕の顔に定まった。
戸惑いはゆっくりと姿を消し、やがて純粋な怒りがその表情を彩る。

(;゚∀゚)「やってくれんじゃん……兄貴も」

(´・ω・`)「なに? やっと本気になった?」

(#゚∀゚)「黙れこらぁっ!」

ジョルジュが殴りかかってきた。
僕のワイシャツの胸ぐらを掴み、拳を振り上げ……

そして、動きを止めた。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:13:12.91 ID:YFKrH/cs0


(´・ω・`)「……」

(  ∀ )「あ……あに、き……」


苦しそうにしゃべるジョルジュの喉元に、包丁が深々と刺さっていた。
今際の淵でジョルジュが見たのは、たぶん僕の微笑みだっただろう。


(  ∀ )「な、ん……で、だよ……」


徐々に光を失っていくジョルジュの目から、涙がこぼれ落ちた。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:15:46.51 ID:YFKrH/cs0

  ※  ※  ※


外から響く雨音が、いよいよ強さを増してくる。
気付くと、僕は真っ暗な居間の隅にいた。

(´・ω・`)「……夢、だよ。……夢に決まってる」

さっきから呪文のように僕は呟いていた。
体が震える。こんな感情を味わうのは初めてじゃないはずなのに……怖い。

静まりかえった家、消えたままの電気、作りかけの夕食……。
全てが、一つの結論を指し示しているようで、例えようもなく。

――怖い。

(;´・ω・`)「じ、時間、は……」

ふるえる声で呟いて、僕は居間の時計に目を向ける。
蛍光塗料の塗られた長針と短針が、ちょうど午後の十一時を指す。

(´・ω・`)「……母さん?」

僕は呟く。
誰かの存在が欲しい。笑って否定して欲しい。
悪い夢を、見ただけだと。

僕は立ち上がる。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:17:17.33 ID:YFKrH/cs0

その時、

(´・ω・`)「あ……」

玄関が開いた。

(´・ω・`)「母さんっ」

ほとんど叫ぶように言って、僕は居間を出る。
明るい電気のついた玄関に、母親はいた。

でも、

J( 'ー`)し「……なに? 何か用でもあるの?」

僕を見る母親の視線に、優しさなんて微塵も含まれていなかった。

酔っているのだろう、ふらつく体を壁に手をついて支えながら、

J( 'ー`)し「用があるなら明日にして……今、気分悪いの。
      晩ご飯もいらない。……お母さん、寝るから」

(´・ω・`)「あ、母さん、僕、話が――」

J(#'ー`)し「明日にしてって言ってるでしょ!」

母親は叫んだ。
長い髪の毛をぐしゃぐしゃにかきむしって。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:18:45.10 ID:YFKrH/cs0

J(#'ー`)し「わたしの何が悪かったって言うの!?
      プレゼンの前まではヘラヘラ笑ってたくせに……落ちたら全部わたしの責任!?
      ふざけないでよっ、昨日まであんなに持ち上げといて!」

(´・ω・`)「……母さん、僕、聞いて――」

J(#'ー`)し「あんたは勉強でもしてればいいのよっ!」

(´・ω・`)「……」

僕はやっと思いだした。
機嫌が悪いときの母親を。

J(#'ー`)し「あんたは勉強してればいいのよ……そうよ!
      そしていい大学に入りなさい。どうせ社会は学歴なのよ。
      そうじゃなきゃわたしがあんな俗物に負けるはずがない……。
      ショボン、わかってるの!? ジョルジュはもうダメなんだから、あなたしかいないのよ!」
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:22:16.21 ID:YFKrH/cs0

母親は僕のことを見ようともせず、階段を上がり、自分の部屋へ向かった。
悲しみや後悔がすごい勢いで僕の心に広がっていく。

こんないびつな家族が他にあるだろうか。
言葉通りの仲良し家族ごっこ。
出演者の機嫌が悪くなれば、そこで芝居はおしまい。

仮初めの刹那に見せるそれは……まさに夢。
どれだけ僕が頑張ったところで、簡単に終わりは来る。
いつか消えるとわかっていたら、そんなもの、僕は望んだだろうか。

こんなにもくだらない、虚像……虚ろに象られた幻。

(´・ω・`)「……じゃあ」


――――壊そうか。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:24:11.47 ID:YFKrH/cs0

(´・ω・`)「聞いて欲しいことがあったんだ」

J( 'ー`)し「――えっ!?」

背後から声をかけると、よほど驚いたらしく、母親は勢いよく振り向いた。
驚きのせいか、それともアルコールのせいか、母親は口元を押さえ、目を見開いて僕を見る。

J( 'ー`)し「ショボン! あなた、ビックリするでしょ!
     いきなり声かけるなんて――」

(´・ω・`)「聞いて欲しかったんだ、僕」

J(;'ー`)し「な、なんなの? あなた……どうかしたの?」

(´・ω・`)「もう遅いよ」

僕は呟く。
だって僕には見えてしまった。

母親だから愛してくれるはず? くだらない理想論だよ、それは。
人が何を愛し、何を大切にするかなんて、そんなの本当に十人十色なんだから。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:25:19.05 ID:YFKrH/cs0

母親は僕を求めていない。
求めるのは、社会に対する自分の憂さを晴らしてくれる、誰か。
別に僕でなくてもかまわないということ。

求める条件を満たすことが重要で、求められた条件以外のものは、全て無価値。

そんな人に、僕が何を求められるだろう。

そんな人のために、何を耐える必要があるだろう。

(´・ω・`)「僕のこと、サンドバッグか何かだと思ってたのかな、母さんは」

J(;'ー`)し「ショボン……なに言ってるの? あなた――」

(´・ω・`)「僕はなに?」

J(;'ー`)し「えっ……」

(´・ω・`)「母さんにとって、僕はなんなの?」

J(;'ー`)し「……」

母親は沈黙した。
しばらく待っても、答えは返ってこなかった。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:28:49.35 ID:YFKrH/cs0

(´・ω・`)「……無言が答え?」

J(;'ー`)し「えっ……」

(´・ω・`)「答えられない、か……」

どうしようもなく笑えた。
無回答という解答、最高じゃないか。

(´・ω・`)「ははっ! よくわかったよ!」

J( 'ー`)し「しょ、ショボンっ――」

僕は両腕をつきだした。母親の喉元を狙って。

J(;'ー`)し「あっ……な、たっ、なにを――」

(´・ω・`)「答えられないんだね。
      せめて一言くらい、僕の存在を肯定する何かが欲しかったけど、それさえも高望みだったんだね」

J(;'ー`)し「や、めなさ――」

(´・ω・`)「もういらないよ、親としての言葉なんて」

僕は腕に力を込める。
強い力で押されたせいか、母親が背にしていたドアが開いた。
僕達は折り重なるように倒れ込む。それでも手は放さない。
馬乗りになり、さらに体重をかける。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:32:20.12 ID:YFKrH/cs0

(´・ω・`)「これでも必死に頑張ってきたつもりだった……。
      見てくれてると思ってたんだよ。甘いよね、僕は。
      でも……たぶん僕は、信じてたんだよ。母親なら、ちゃんと見ていてくれてるって」

J(;'ー`)し「……しょぼ、んっ」

(´・ω・`)「必死だったんだ。ここが僕の限界だった。
      わからなかったかな? ……わからないか。
      自分の代用品を求めていたあなたには」

J(;'ー`)し「は、はなしっ、て……」

(´・ω・`)「最後にもう一回聞くよ。僕って、母さんにとってなんだった?」

問いかけて、僕は手を放す。
母親は真っ赤な目で僕を睨みつけ……、


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/03(水) 22:32:49.02 ID:YFKrH/cs0

(´・ω・`)「やっぱり答えられない?」

J(;'ー`)し「……」

(´・ω・`)「じゃあもう――」

J( 'ー`)し「じ……」

(´・ω・`)「……えっ?」

母親の口が動いた。
苦しみに歪んでいたはずの表情が、何故か微笑みを形作って――――


J(;'ー`)し「きまっ、てる……で、しょ。じま……ん、の……息子、よ」


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