30 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:44:58.15 ID:fbeacQhE0
【第1日目 五柳ギコ 03:07:43 落人地区 敦杜岳中腹】



――額に纏わりつく前髪を左手の甲で拭う。
赤い雨を吸ってぐしょぐしょになった髪は、どこか粘ついたような感触がした。

(,, ゚Д゚)「はぁ…!はぁ…!」

一体、どれくらいの時間を走っただろうか。
目の前を行く白い背中との距離は一向に縮まらない。

明かり一つ無い夜の山道の中で、その背中だけはぼんやりとだが確かに見える。
自分の目が暗順応したと考えれば普通の事だろうが、少し違和感があった。

(,, ゚Д゚)「モララーさん!モララーさんなんだべ!?」

再三の呼びかけにも、相手が止まる事は無い。
最初はモララーさんだと思って追いかけてきたのだが、ここに来て自信が無くなってきた。

もし、相手がモララーさんを襲った犯人だとしたら……。

その時、俺はどうなるのだろう。

(,, ゚Д゚)「モララーさん!モララーさん!」

嫌な考えを振り払うように叫ぶ。
どうせ止まるわけ無い。
そんな俺の予想は、あっけなく外れた。


31 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:47:40.14 ID:fbeacQhE0
(  )「……」

闇の中で止まる白い背中。
唐突な相手の行動に、俺の脚も本能的に止まる。
警戒心がふいに蘇った。

(,, ゚Д゚)「モララー…さん……?」

用心深く呼び掛ける。
相手の反応を窺う間も、俺は腰を落として直ぐに逃げ出せるように身構えていた。

(  )「……」

白い背中は、赤黒い夜の中に立ち尽くしている。
山の木々が、風に吹かれて小さな軋みを上げる。
不意に、嫌な予感めいたものを感じた。

白い背中が、ゆっくりと振り返る。
白い横顔が、徐々にこちらを向いていく。

(=( ∵)「……」

白い仮面が、俺の眼前に現れた。

(,,;゚Д゚)「な……」

石膏製のたまご型に、ボーリングの玉に空いているような穴が三つ。
赤い闇に縁取られて浮かぶそれに、俺はどこか不吉な印象を覚えた。
35 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:50:30.88 ID:fbeacQhE0
モララーさんじゃない。
脳がそう認識した直後に、本能が警鐘を上げる。

こいつは何だ。
もしかして、こいつがモララーさんを襲った犯人なのか。

(=( ∵)「お前は……」

白い仮面が、苦々しく呟く。
石膏の下ではどんな表情を浮かべているのかは窺い知れないが、その言葉には「憎しみ」にも似た響きが込められていた。

(,,;゚Д゚)「お、おめえ…だ、誰だ……!」

(=( ∵)「……」

仮面は答えない。
じっとこちらを見据えたまま――最も、どこを見ているのかなど、仮面の上からでは窺い知れないが――立ち尽くしている。

(,,;゚Д゚)「……っ」

どうするべきか、俺が迷い始めた時だ。

(∵ )=)「……」

奴は唐突に背中を向けると、濃い闇の中に向かって再び走り出した。

(,,;゚Д゚)「お、おい待て!」

咄嗟に追いかけようと伸ばした手が、空を掴む。

37 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:52:51.28 ID:fbeacQhE0
(,,;゚Д゚)「え……?」

白い背中は、何処にも見当たらない。
気がつけば、俺の目の前には何も無い暗闇だけが広がっていた。

(,,;゚Д゚)「消え…た…?」

目を擦り、もう一度闇の向うに目を凝らす。
暗闇に慣れた目は、木々の細長いシルエットは映すものの、その間を往く白い人影を認める事は無かった。

(,,;゚Д゚)「俺は、幻でも見ていたのか…?」

不透明な膜の中に浮いているような、現実感の欠如した感覚。
冷たい雨に身を打たれながら、俺は暫くの間その場に立ち尽くしていた。

(,, ゚Д゚)「……」

遠くの方で鐘が鳴るような音がして、我に返る。
このままここに突っ立っていた所でどうしようもない。

(,, ゚Д゚)「戻るか……」

釈然としない気持ちを抱えたまま歩き出す。
落ち葉を踏みしだきながら木々の間を進んでいる時だ。
右手の方から、自分以外の足音が聞こえてきた。


38 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:55:11.34 ID:fbeacQhE0
(,,;゚Д゚)「――っ!」

背筋に緊張が走る。
先の白い仮面だろうか。
敏感になった耳は、落ち葉を踏む湿った音が近づいてくるのを捉えた。
体中の筋肉は引きつり、拳が自然と胸の前で構えられる。

一歩。また一歩。
徐々に近づいてくる、その足音。
首だけを動かしそちらを睨む。
闇の中に浮かぶ人型の輪郭が、ぼんやりとだが視認できた。

目測で約10メートル。
ゆっくりとした足取りで、相手はその距離を縮めてくる。

一歩。また一歩。
もう、目の前にまで、その輪郭は迫っている。

生唾を飲み込む。
下半身に力を入れる。
拳を強く握り込む。

来るなら来い。

臨戦態勢を整えた俺の緊張感が、今にも爆発するかしないかの瀬戸際。
40 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:57:52.27 ID:fbeacQhE0
ζ( ー *ζ「てーるてーる…ぼーず…てるぼーず……」

人影は。

(,,;゚Д゚)「デ…レちゃん…なのか……?」

予想外の正体を露わにした。
42 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 22:01:36.27 ID:fbeacQhE0



【アーカイブに「サンカ 〜知られざる山の民〜」が追加されました】




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