21 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:30:41.92 ID:fbeacQhE0
【第1日目 鬱田ドクオ 00:53:51 蛇ノ目坂地区 荒郷教会】



――壁に背中を預けて座り込む。
ひんやりとしたコンクリートの感触は、昂ぶっていた胸の動悸を幾らか沈静させた。

('A`)「……暫くは、ここに居た方がいいな」

雨に濡れた頭をがしがしとかき、ワイシャツを脱ぐ。
真っ赤に濡れたそれは、何も赤い雨のせいだけでは無い。

('A`)「……俺、人を殺したんだな」

赤く染まった自らの掌を見つめる。
あの瞬間の感触は、今でもはっきりと思い出せる。

傘を突き刺した時の、柔らかい手応え。
肉を突き破るぶちぶちという音。
どさり、と相手が後ろに倒れる様。

初めての殺人を終えての俺の感想は、「人って案外脆いんだな」という非常にドライなものだった。
正当防衛の感想にしては、我ながら最悪だと思う。
あれが、人だったらの話だが。

24 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:34:47.91 ID:fbeacQhE0
もしかしたら、俺には「殺人の才能」があるんじゃないか。
昔から自分の人格に欠陥があるのは自覚していたが、そう考えると成程しっくりとくる。
俺は、元々、“人の間で生きる”ように創られていないのだ。

(;'A`)「…バカバカしい」

厨二病じゃないんだ。そんな事があってたまるか。
俺はただのネクラで、人づきあいの苦手な凡人でしかない。

背筋を冷たい感触が這う。

“俺は、根っからの人各異常者で、人を殺しても何とも思いません”

(;'A`)「違う!」

気付けば、俺は大声で叫んでいた。

静謐とした教会内に、俺の声が反響して木霊す。
直ぐに声は消え、再び教会内には静寂が戻ってきた。

('A`)「……」

思えば皮肉なものだ。
人を殺して一番最初に逃げ込んできたのが、あろうことか神の家だ。
自分でも、無意識のうちに許しを求めていたのだろうか。


25 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:37:31.33 ID:fbeacQhE0
いや、そうじゃない。
あれは、人なんかじゃない。
そう、俺は人なんか殺していない。
俺が教会に転がり込んできたのは、救いを求めていたからだ。
そうに、違いない。

('A`)「……何を考えてるんだか」

右往左往する思考に溜息が洩れる。
これ以上言い訳を考えるのは億劫だ。
壁に預けていた背を放し立ち上がる。
ワイシャツをはおると、ズボンのポケットから煙草を取り出した。

('A`)y-~「ふう……」

ニコチンでぼんやりとしていく頭の中で、これからの事について考える。
先ずは武器になるようなものを探さないと、危なくて外に出られない。
まさかあんなに傘が早く壊れるとは予想もしていなかった。

何処か。この教会から近い場所で、武器になりそうな物がある場所。

('A`)y-~「……あそこか」

適当に目星を点けたところで、俺は立ち上がる。
同時、ホールの奥から物音がした。


26 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:40:04.23 ID:fbeacQhE0
('A`)「誰か居るのか…?」

声をかけるが返事は無い。

('A`)「…気のせいか?」

ホールの奥、宣教台の後ろの壁にはドアが一つある。
物音は、その向うから聞こえたような気がする。

('A`)「……これ…」

ふと足元を見ると、空になったワインボトルが床に転がっていた。
神のおひざ元で飲酒とは、中々罰あたりな奴も居たものだ、とどうでもいい事を考える。
先の物音は、やはり誰かがここに居る事を示しているのだろうか。

('A`)「……」

気にはなったが、確かめている時間は無い。
俺は踵を返すと、ベンチの間を歩き、教会を後にした。

28 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/07(日) 21:42:16.34 ID:fbeacQhE0



【アーカイブに「空のワインボトル」が追加されました】




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