46 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:50:02.70 ID:ETkeZZFBO
【第1日目 鬱田ドクオ 00:27:46 猿傘地区 戸夜川下流】



──走る、走る、走る。

(;'A`)「はっ、はっ、はっ……」

下草を踏みわけ、砂利を蹴散らし、泥を跳ね上げ、全速力でもって走る。闇の中を照らす、懐中電灯の頼りない明かり。
光の輪の中に見える河川敷は、血のような赤に染まっていた。

(;'A`)「一体…どういう…ことなんだ…」

常軌を逸した光景に、頭がパンクしそうになる。何故こうなった?何が起こっている?
理性は答えを求めて沈思黙考を要求するが、本能が足を動かせと絶叫していた。

(;'A`)「くそっ…!」

降りしきる赤い雨。一時間前までさしていた傘は、既に閉じられ右手に握られている。
おそらく、自分の体も奴らのように血でまみれたような有り様になっているだろう。

(;'A`)「……」

ぬかるむ足元に、体力が奪われていく。日頃から運動は怠っていないとはいえ、もう限界が近かった。

ここで止まるわけにはいかない。

本能の警鐘が、もつれそうになる足をぎりぎりで持ち直す。どこか、身を隠せる場所が必要だった。

47 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:55:04.10 ID:ETkeZZFBO
走りながら首を巡らす。
黒と赤の闇の中、右手前方にうっすらと背の高い木立を見つけた。

(;'A`)「!」

ライトを消して方向転換。
持てる体力の全てを動員して、転がり込むように木の陰に飛び込んだ。

(;'A`)「……ふぅ…ふぅ…ふぅ…」

息を押し殺し、身を縮こめて、木の幹に背を預けへたり込む。
耳をそばだてれば、雨音に混じって“奴”のぬかるみを走る粘着質な足音が微かに聞き取れた。

近付いてきては遠ざかり、遠ざかっては近付いて。

どうやら、俺を見失ったらしい。
うろうろとそこらを歩き回る気配に、俺は溜め息をつきたい衝動を抑えた。

どうしてこうなった?

緊張の糸が緩んだことで、理性が主導権を握る。

少なくとも数時間前までは何時もの夜だった筈だ。
静寂と闇が支配する、田舎の夜だった筈だ。
それが、どういう経緯でこうなった?

48 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:00:36.04 ID:ETkeZZFBO
認められない。こんなもの、現実として認められる訳がない。
だが、現にこうして俺は“奴”に追われている。
現実と認めない訳にはいかなかった。
差し迫った生命の危機を前にただ泣き叫んでいるばかりでは生き残れない。
多くのホラー映画が、そう教えてくれた。実際、これがホラー映画の収録か何かだったらどれほど良かったことか。

('A`)「はは…は…」

生き残る、か。
自分がこれほどまでに「生命」に執着しているとは意外だ。
やはり、どんな思考を繰ろうと所詮は人間も動物でしかないということか。

('A`)「…だが、神はそれを許してくれるだろうか」

多分、駄目だろう。どこの宗教のどの神かはこの際どうでもいい。
神には、俺のような汚物よりももっと他に救うべき人間が沢山居て忙しいに違いない。
ならば、少しでもその負担を減らしてやるべきだろう。

('A`)「ビロード……」

そっと、その名前を呟いた時だ。
木の陰で、あの足音がした。

唾を飲む。

上着を脱ぐと、俺は傘を構えた。

49 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:04:16.05 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブに、「血塗れの背広」が追加されました】

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