20 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:28:37.34 ID:fSa/jN+60
【第1日目 内藤ホライズン 01:14:23 国道398号線 荒郷橋周辺】



――酔っ払いの歩き方に、それはとても似ている。

( ;^ω^)「あ……の……」

手を前に突き出して歩く様は、ホラーゲームに出てくる「ゾンビ」にもよく似ている。

( ;^ω^)「だい…じょ……」

口に出しかけた言葉が、途中で途切れる。
果たして、「これ」に対して僕は言葉を掛けていいのか、戸惑った。

爪先から頭のてっぺんまで赤く染まった体。それはいい。
赤い雨が降り注ぐ中だ。僕だって、同じように血染めのような格好に違いない。

ふらふらとした足取り。それもいい。
重傷人なら、何もおかしい事は無い。

「あ…ぁお…えっ…けっ……」

重要なのは、「それ」の本来目が有る場所に、ぽっかりと黒い穴が空いているという事実だ。


21 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:30:13.89 ID:fSa/jN+60
「あ…あ…あ…」

「それ」は、虚ろな声で唸りながら、ふらふらと近づいてくる。
「それ」の足が地面を踏む度に、腐った肉が潰れたような湿った音がする。

「あぁ…こん…ばんわ……」

途切れ途切れの声を漏らしながら、「それ」がこちらに手を伸ばす。
赤く染まった腕は、異様に長い。
肌の表面は、ゴムのようにぶよぶよしていて、粘液のようなものが、その上を糸を引きながら流れていた。

( ;^ω^)「あ…あぁ…」

「割烹着姿の中年女性」の恰好をした「なにか」。
目の前まで迫るそいつに、僕の足は竦む。

ξ;゚听)ξ「逃げて!」

少女の声に我に帰る。
目の前の「それ」は、今にも僕に掴みかかろうと腕を伸ばしていた。

「あだ…あだ…あああああ」

( ;゚ω゚)「うわあああああああ」

身を反転させると、弾かれたように走り出す。
怖い。その時、初めて僕は恐怖を感じた。


22 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:32:25.48 ID:fSa/jN+60
ξ;゚听)ξ「こっち!早く!」

暗闇の向うから、少女の声が聞こえる。
遠のいていく彼女の足音を、必死になって追いかけた。

( ;゚ω゚)「うああ!ああ!ああ!」

後ろから、泥を跳ね上げる音が間隔をおいて聞こえてくる。
よたよたと追いかけてくる「あれ」の姿を想像して、足の回転が一段と速くなった。

「おおお…ああああ……」

捕まったら殺される。
理性では無く、本能がそう叫んでいた。

ξ;゚听)ξ「早く!早く!」

前方の闇の中を行く、赤いワンピースの後ろ姿。
足を踏ん張り、その隣になんとか並ぶ。
慣れない運動に、僕の息はもう上がりかけていた。

橋を越えて、剥き出しの地面を蹴って、闇の中を何処までも走る。
背後の足音は、まだ消えない。

一体どこまで走ればいい。
口にしようとしたところで、隣の少女が急に立ち止った。
24 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:34:22.90 ID:fSa/jN+60
( ;^ω^)「どうしたんだお!?早く逃げなきゃ、あいつが……」

ξ;゚听)ξ「……」

僕の言葉を無視して、彼女は首を左右させる。
――と。

ξ゚听)ξ「こっち!」

僕を振り返らず、再び走り出した。

( ;^ω^)「ちょ!待って……!」

膝に手を着いて休憩していた僕は、慌てて後を追う。
赤いワンピースは、そのまま藪の中へと吸い込まれるように消えていく。
現状での唯一の希望を見失う事を恐れて、僕もその後に続いた。

( ;^ω^)「うわっぷ!」

藪の中に飛び込んだ瞬間、大量のクマザサが顔面を引っかいた。
顔面を走る痛みを我慢して、草いきれの中を赤い背中を追って走る。
生い茂るクマザサに顔中を擦り剥きながら進むと、やがて開けた空間に飛び出した。

( ;^ω^)「あの子は……!?」

懐中電灯を振り、赤いワンピースを探す。

26 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:37:08.27 ID:fSa/jN+60
ξ゚听)ξ「こっちこっち!」

遥か向うで手を振る華奢な姿が、直ぐに見つかった。

( ;^ω^)「足、速すぎ……」

一息ついた所で、再び走る。
彼女の背後に見えるぼんやりとした明りに、僕たちはあそこを目指しているんだな、と察しがついた。

ξ;゚听)ξ「教会の中なら……」

並んで走る少女の息が乱れている事は無い。
あれだけのペースで走ってきたのに、大した体力だ。

藪を出てからこっち、背後からの足音は聞こえない。
やがて薄ぼんやりとした明りの正体が見えてくると、僕の口から安堵のため息が漏れた。

ξ゚听)ξ「取りあえず、ここに隠れましょう。建物の中なら大丈夫な筈よ」

赤く染まった教会の壁を見上げて言う少女。
ステンドグラスの向うには、煌々とした明りが灯っている。
中に人が居るのだろうか。
兎に角今は落ち着きたい。

( ;^ω^)「はぁ…はぁ……」

縋るような気持ちで、僕は扉に手をかけた。
28 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:39:34.81 ID:fSa/jN+60



【アーカイブに「内藤ホライズンの論文」が追加されました】




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