- 34 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木)
21:56:25.53 ID:iWa4jYkm0
- 【第1日目 内藤ホライズン 00:58:49 国道398号線
荒郷橋周辺】
――傘を持ってくればよかったかな。
ぼんやりとそんな事を考えながら、赤い雨の中を一人歩く。
懐中電灯が照らす闇の中に浮かぶのは、両脇に広がる杉林。
湿った土の感触をスニーカー越しに感じながら往く夜の闇は、とても静かだった。
( ;^ω^)「デレ…ちゃん…何処に……」
赤い闇の中をふらふらと、彷徨うように歩く。
何が起きているのかは分らないが、とにかく彼女を見つけ出さなければ、どうしようも無かった。
懐中電灯を左右させ、声を張り上げて彼女の名を呼ぶ。
聞こえてくるのは、降りつづける雨の音。
返事は何処からも返ってこない。
( ^ω^)「デレちゃーん!デレちゃーん!」
赤い林の中を、どれくらいの時間そうやって歩き続けただろうか。
雨以外の音が、微かに聞こえ始めた。
( ^ω^)「……ん?」
雨とはまた違う水音。
流れるそれに、近くに川がある事を知った。
誘われるようにそちらへ足を向けると、予想通り直ぐに石造りの小さな橋が目の前に見えてきた。
一本の街灯に照らされ、赤黒い世界にぼんやりと浮かぶ石橋。
その上、橋の中央。
赤い傘をさした人影が立っていた。
- 37 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木)
21:58:51.42 ID:iWa4jYkm0
- こんな時間に、誰が?
田舎の夜は早いと聞くけど…なんて、思った時、その人影がこちらを振り返った。
( ;^ω^)「デレちゃん!?」
白い肌に栗色のツインテール、猫のような目をした彼女は間違いなくデレだ。
駆けよってその肩に手をかけるまで、僕はそう思っていた。
ξ゚听)ξ「……え?」
( ;^ω^)「あ…と……」
違う。とてもよく似ているけど、その顔はデレのものではない。
目の前の彼女はもうすぐ秋も終わるというのに赤いワンピースを着ている。
デレはピンクのセーターを着ていた筈だ。
( ;^ω^)「すいません……人違いでしたお」
近くで見るとわかる。とてもよく似た彼女は、それでもどこかデレとは違った雰囲気がある。
どこが違うのかは自分でもよくわからない。
分らないが、彼女がデレでないという事だけは断言できた。
ξ゚听)ξ「そうですか」
訝しげに眉を顰め、目の前の少女は呟く。
デレじゃないとはいえ、この異常事態の中で初め出会った人だ。
内心で安心しながら、改めて彼女に向き直った。
- 39 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木)
22:01:06.60 ID:iWa4jYkm0
- ( ^ω^)「あの、僕…人を捜して……」
待て、と。そこでやっと理性が警鐘を鳴らした。
ξ゚听)ξ「……?」
何故、こんな真夜中に彼女はこんな所に一人で立っているのだ?
それ以前に、赤い雨が降るという異常事態の中、どうして彼女はこんなにも冷静でいられるのだ?
ξ゚听)ξ「人探し、と言いましたか?」
( ;^ω^)「え…と……」
赤いワンピースと、赤い傘。
古典的な幽霊像そのままの彼女が、こちらに近づいてくる。
ノースリーブのワンピースから伸びる妙に青白い腕が、僕に向かって伸ばされる。
ξ゚听)ξ「今、人探しと言ったんですか?」
赤く薄い彼女の唇が、別の生き物のように動いて言葉を紡ぐ。
ξ )ξ「それは……」
足が、震える。
動けない。魅入られたように、僕はその場に釘づけになって――。
- 40 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木)
22:03:19.40 ID:iWa4jYkm0
- ξ )ξ「……それは奇遇ですね。私も、人を捜してるんです」
からからになった口を開いて、僕はたどたどしく訊く。
( ; ω )「それは、どんな…人…ですかお……?」
彼女は、僕の顔を覗き込み――。
ξ゚听)ξ「私の、妹です」
( ^ω^)「い…もうと……?」
ξ゚听)ξ「ええ、妹です」
――いもうと。妹。ああ、妹か。
( ;^ω^)「ああ、はぁ……」
張り詰めていた背筋が、じんわりと弛緩する。
「お前だ!」と指を突き付けられるのではないかと身構えていたが、取り越し苦労に終わった。
緩んだ緊張の糸は、それでも元に戻さなければいけない。
目の前の少女が異質な存在である事に変わりは無いのだ。
( ;^ω^)「それで、その……」
何と質問したらいいものか。
頭を捻っていると、背後で足音がした。
- 42 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木)
22:05:23.00 ID:iWa4jYkm0
- 反射的に振り返る。
街灯の明かりが届かない赤黒い闇の先。
ぼんやりとした人影が、こちらにゆっくりと近づいてくるのが見えた。
こんな時間に、“こんな雨の中を”歩いているのは、これで二人目になった。
もしかしたら、荒郷村では赤い雨が降るのは珍しい事じゃないのかもしれない、などと考える。
黄砂の影響が強すぎる地域なのかもしれない、などと考える。
人影は、妙にぎこちない足取りで近づいてくる。
怪我人なのかな、などと考える。
だとしたら早く手当てをしなきゃ、などと考える。
人影は、よろけながらも街灯の光の中に入ってこようとしている。
( ^ω^)「あの、だいじょ――」
ξ;゚听)ξ「逃げて!」
背後で、件の少女が頓狂な叫びを上げた時、その人影が光の下に歩み出た。
- 43 : ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木)
22:07:06.52 ID:iWa4jYkm0
【アーカイブに「月刊ヌ― 創刊記念号」が追加されました】
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