4 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:48:36.20 ID:ETkeZZFBO
てるてるぼうず てるぼうず

此岸の三晩に雨ふらせ

てるてるぼうず てるぼうず

彼岸のお空を染め上げれ



──赤い雨、のようです──
9 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:51:16.85 ID:ETkeZZFBO
【前日 内藤ホライズン 22:27:38 国道398号線 荒郷方面】

──それ、うるさいから止めてくれます?

助手席からの不機嫌極まりない声色に、僕はカーステレオのスイッチを渋々切った。車体を叩く雨の音が、余計に強くなった。

( ^ω^)「The Buster!は名曲なのに……」

ζ(゚、゚*ζ「あんなうるさいだけの曲、何がいいんですか。あんなの、歌ですらないです」

後輩の物言いに異を唱えようとして思いとどまる。これ以上、空気を重くするのは好ましくないと思った。

( ^ω^)「……」

ζ(゚、゚*ζ「……」

どちらかが口を噤めば、沈黙。ここ一時間近く、何度も繰り返されたパターンだった。

ζ(゚、゚*ζ「本当に、こっちの道であってるんですか?」

( ^ω^)「さっきのコンビニの兄ちゃんが嘘をついたんじゃなかったら、ね」

ζ(゚、゚*ζ「ブーン先輩が間違えた可能性は無いんですか?」

( ^ω^)「さあ?」

ζ(゚、゚#ζ「……」

ヘッドライトに照らし出されているアスファルトは、蛇のように曲がりくねっている。
両脇を崖で挟まれた山道は、夜中ということも相俟って不安を煽るには充分過ぎた。

10 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:53:12.55 ID:ETkeZZFBO
ζ(゚ー゚*ζ「……こんなとこに住んでる人って、どんな神経してるんですかね」

少しでも空気を変えようと思ったのか。
窓の外をぼうっと眺めながら、デレが呟いた。

( ^ω^)「うーん……少なくとも、みんなが住みたくて住んでるわけじゃないと思うお」

そう返しながら、僕はぼんやりとこれから訪れるだろう「荒郷村(あらさとむら)」について思いを巡らせた。

人口約2000人強。秋田県南、周りを山岳に囲まれた、所謂陸の孤島。
これといった特産品や伝統工芸があるわけでもない、文明に置いてけぼりをくった村。

ζ(゚ー゚*ζ「ショボ君も大したもんですよ。そんなに司書になりたかったんですかね?」

( ^ω^)「いや、ショボン先輩にとっては逆に天地だったんじゃないかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしてです?」

視線を窓から僕に移してデレが尋ねる。
僕はブラックコーヒーを啜りながら、ハンドルを切った。

( ^ω^)「研究室に居たときから、先輩は荒郷村のことにご執心だったからさ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふーん……民俗学って、そんなに楽しいものですか?」

( ^ω^)「僕に聞いたって、デレちゃんの望んでる答えは返ってこないお」

ちぇっ、と呟きデレは視線を逸らす。
僕が苦笑を漏らした時、その看板がヘッドライトに照らし出された。
12 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:55:37.72 ID:ETkeZZFBO
“荒郷村 これより15km先”

( ^ω^)「ほら、やっぱりこっちであってた」

ζ(゚、゚*ζ「でも、こんな時間じゃショボ君起きてるわけないです」

( ^ω^)「そこはデレちゃんのラブコールで起こしてあげてくれお」

ζ(゚ー゚*ζ「ええぇー」

頬を膨らませながらも、デレは心なしか嬉しそうにケイタイを取り出す。
スライド式のそれを開いてディスプレイを覗き込んだ所で、彼女の眉間が険しくなった。

ζ(゚、゚;ζ「圏外ですけど」

( ^ω^)「あれ?おっかしいなぁ……先輩とはこないだも電話で話したから、こっちに電波棟が立ってないって事は無いはずなんだおけど……」

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、寝てても無理矢理起こしちゃうんですけどね」

あっけらかんとした表情でうそぶくデレ。
何時も何時も、天真爛漫というか、マイペースというか。
確かにこの子の恋人はショボン先輩ぐらいにしかつとまらないかもしれないな。

13 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:56:42.62 ID:ETkeZZFBO
なんて、思った時だった。

ζ(゚д゚;ζ「先輩!前!前!」

( ;^ω^)「!?」

前触れなく響き渡ったデレの頓狂な叫び声。
考えるよりも先に、足がブレーキを踏み込む。
耳をつんざくタイヤの悲鳴。急な減速による凄まじい慣性。
一瞬が数時間に感じられる体験を経て、車は雨粒を蒸発させながら止まった。

14 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:01:57.63 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「……」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

何があったのか、と僕は尋ねない。

雨に煙る夜の峠道。

ヘッドライトの明かりの中。
荒郷村へ向かうであろう筈の道路の先は、崖崩れでもあったのか土砂で埋まっていた。

( ;^ω^)「……これは…」

ζ(゚、゚;ζ「……」

左右には切り立った山肌。目の前には、右手側の山から崩れた土砂。言うまでもなく通行止めだ。
迂回路の心当たりなど無い。八方塞がりを絵に描いたような状況だった。

( ;^ω^)「まいったもんだお……」

額をハンドルにつけてうなだれる。こうなったら引き返す他はない。

15 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:03:45.01 ID:ETkeZZFBO
最後にコンビニでトイレ休憩をとったのが三時間前。最後に対向車とすれ違ったのは五時間前。
デレの眉間のしわが増えるのは、免れそうも無かった。

( ;^ω^)「あの…デレちゃん……」

鉛の沈んだ胸中で隣を窺う。
恨み言の大洪水が待っているかと思うと、自然と声は尻切れトンボになる。

ζ(゚、゚ζ「……」

無言。
前を睨みつけるよう見開いた目に、真一文字に引かれた口。
ああ、だんまりか。勘弁してくれ。いっそ怒鳴ってもらった方がいい。

16 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:05:34.89 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「えーと……」

どう切り出したらいいものか。
言葉を探してあーでもないこーでもない、と一人で葛藤していると、デレがぽつりと呟いた。

ζ(゚、゚ζ「……鐘」

( ^ω^)「え?」

ζ(゚、゚ζ「鐘…聞こえる……」

譫言のように呟く彼女の表情に色はない。
鐘って何のことだ?そう聞こうとした時にはもう、彼女は助手席のドアを開けていた。

( ;^ω^)「ちょっ!デレちゃん!」

大きくなる雨音。
ふりそぼる雨と夜の闇の中へ、デレはふらふらとまろびいでる。
慌ててその後を追うように、僕も運転席から飛び出した。
大粒の雨がパーカーを濡らす。
軽四の反対側に向かうと、デレは既に暗闇の先へと歩き出していた。

ζ(゚、゚ζ「この鐘…」

夢見心地のように洩らしながら彼女は目の前の土砂の山へと向かうと、それを登り始める。

( ;^ω^)「デレちゃん!デレちゃん!どうしたんだお!何があったんだお!」

僕の問いかけにも彼女は振り返る事は無い。
憑かれたように土砂の山を登るその背中は、何だか別人のようにも思えた。
19 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:08:30.33 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「……」

兎に角、追わない訳にもいかない。
パーカーについたフードを被ると、土砂の山へと小走りに向かう。
僕の身長のゆうに三倍はあろうか。既に登り終えたのか、見上げれどもデレの姿は見えなかった。

雨で崩れ易くなった土塊にしがみつくと、危うげにもそれを登っていく。
真っ黒な空に月は無く、無限とも思える雨粒だけがそこを支配していた。

( ;^ω^)「まったく…とんだ厄日だお」

ぼやきながらもがむしゃらに手足を動かしていると、やがて土砂山の頂に辿り着く。
見下ろせど何一つ見えない闇に、この結果を予想出来なかった事を後悔した。

( ;^ω^)「……」

デレの姿も、無論見えない。
既に降りきったのか。だとしたら、凄まじい体力だ。
このまま追い掛けたところで、追い付ける自信はなかった。一旦引き返して、車から懐中電灯を持って来るべきか。

( ;^ω^)「なんだってんだお…」

焦りに足を滑らせながらも、土砂山を下り愛車の元まで引き返す。

濡れ鼠のままに運転席の足元を漁っている時だ。

“その音”が響き渡ったのは。
22 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:12:36.49 ID:ETkeZZFBO
“かぁーん”

    “かぁーん”

  “かぁーん”

         “かぁーん”

 “かぁーん”
25 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:17:51.09 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「な、なんだお?」

突然のことに、思わず背筋が震える。鐘楼か何かだろうか。
乾いた金属音が、遠くの方から響いてきた。

( ;^ω^)「鐘…?」

学校のチャイムとはまた違った、単調なそれ。
聞き慣れない響きに妙な気持ち悪さを覚えながらも、僕は懐中電灯の明かりを点け、振り返った。

瞬間。

( ;゚ω゚)「ひっ!」

目の前に広がった、真紅の世界に、悲鳴を上げる。

( ;゚ω゚)「え…あ…お…」

赤い。アスファルトが、山肌が、そこに生える木々が、赤い。
愛車が、そのドアが、まるで血にまみれたように赤い。

( ;゚ω゚)「うあ…あ…」

どうして。どうして。わからない。わからない。どうなってる。どうなってる。わからない。

答えを求めて仰ぐ空。

赤い雨が、降り注いでいた。

26 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:20:04.57 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブに、「内藤ホライズンの学生証」が追加されました】

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