- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:01:34.96 ID:T9QdBisC0
- ドクオは車を発進させる。
腕時計を見るともうすぐ12時になる頃だった。
スーパーにつくと、ドクオに車で待っていてもらい、氷を大量に買い込んだ。
カートに乗せて車まで運ぶとドクオに、
ξ゚听)ξ「ねえ、ちょっと車で着替えたいんだけど、どっかで待ててもらっていいかな?」
と伝えた。
(*'A`)「え? ああ、わかった。じゃあ俺あそこのミスドにいるから終わったら来てね」
ドクオは耳を真っ赤にさせると、そそくさと出て行った。
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:02:51.49 ID:T9QdBisC0
- ξ゚听)ξ「さあて・・・」
ドクオが店内に入ったのを見届け、わたしはブーンの入ったスーツケースを開ける。
ξ゚听)ξ「ちょっと冷たいかもしれないけど、我慢してね」
スーツケースの隙間に氷を詰め込んでいく。
全部詰め終わった後、一応上のシャツだけ着替えて、今度はホームセンターへ行き、スコップを買って、車の中のスーツケースの下に隠した。
ξ゚听)ξ「さぁて・・・これでいっか」
ドクオを呼びにミスドへ行く。
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:05:02.09 ID:T9QdBisC0
- ('A`)「あのさ、さっきの島の行き方調べてたんだけどさ、車ごと運んでくれるフェリーが一日一便しかないらしくて」
ξ゚听)ξ「まだ間に合う?」
('A`)「まあ、迷わなければたぶん間に合うと思う」
ξ゚听)ξ「じゃあ、すぐ行きましょう」
(*'A`)「いや・・・あのさ、一日一便ってことはさ、その島に泊まんなきゃいけないってことで・・・」
ξ゚听)ξ「あ、うんお金なら出すし、フェリー代も払うわ」
(*'A`)「いや、まあそのくらいの金なら俺にもあるからいいんだけど・・・」
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:07:01.24 ID:T9QdBisC0
- ξ゚听)ξ「え? 明日用事とかあるの?」
(*'A`)「あ、用事なんてないない俺NEETだし。うーんまっいいか!」
ξ゚听)ξ「?」
(*'A`)「行こうぜ! フェリー乗り場まで1時間ちょいだし」
ドクオはそう言って立ち上がると会計を済まし、車へ戻っていった。
車へ戻る途中、
(*'A`)「フラグ立ったかコレ!」
とかボソボソ言っていたけど、わたしには何のことだかよくわからなかった。
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:09:03.61 ID:T9QdBisC0
- フェリー乗り場にはちょうと1時間ほどでついた。
フェリーに車を入れた後、船内の待合室に座る。
しばらくブーンともお別れだ。ほんのしばらくだけど。
('A`)「もう出発すると思うよ。だいたい一時間ちょいかかるって」
ドクオがわたしに三ツ矢サイダーを手渡しながら言った。
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:11:24.22 ID:T9QdBisC0
- それにしてもなんでこの男は、炭酸ばかり買いたがるんだろう。
ξ゚听)ξ「あ、ちょっと風に当たってきていい?」
('A`)「ああ、いいよ。俺はここでウイイレしてるわ」
ドクオはカバンから携帯ゲーム機を取り出すと、険しい顔で画面をにらみ始めた。
ちょうどそのとき船の出港を告げるアナウンスが聞こえた。
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:16:41.38 ID:T9QdBisC0
- わたしは海が好きだ。ブーンとも何回か海には行った。
ブーンも海が好きで、夏になるとよく二人で泳ぎに行った。
真っ黒に日焼けしたブーンが、焼きとうもろこしにかぶりついている光景を思い出す。
確かものすごく暑い日で、わたしも真っ黒に日焼けしてブーンの隣で笑っていた。
生ぬるい潮風に吹かれながら、甲板のベンチに座る。
船は波をしゃあしゃあと削りながら、進んでいく。
ときおり波しぶきが顔にかかる。
太陽の光がキラキラと海面に反射している。
その海を見ていると、なぜだかわたしは泣きたくなった。
風はびゅんびゅんと吹き抜けて、わたしの涙を吹き飛ばしてくれた。
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:21:56.52 ID:T9QdBisC0
- その島は日本海にポツンと浮かぶ、人口3000人ほどの小さな島だった。
わたし達が車に乗って一周してしまうのに、それほど時間はかからなそうだった。
とりあえず船着場で聞いたホテルに向かうことにした。
(*'A`)「ああ・・部屋は1つしか空いてないんですか・・?」
受付に立ったドクオがわたしの方を困ったような目で見る。でも口元はなぜかにやけていた。
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:23:48.36 ID:T9QdBisC0
ξ゚听)ξ「じゃあ、一緒の部屋でいいよ」
(*'A`)「う、うひょっ・・・あ・・うん、おう、じゃあ2名その部屋でお願いします」
ξ゚听)ξ「・・・・」
部屋へ向かう途中、ドクオが
(*'A`)「おちつけ俺おちつけ俺おちつけ俺」
とブツブツ言っていた。
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:26:26.10 ID:T9QdBisC0
- 部屋はなんの変哲もない、どこにでもありそうなホテルの部屋だった。
清潔で整ってはいるんだけれども、どこか味気ない部屋。
わたしは荷物を置くと、窓の外を見た。
遠くにわたしたちが降りた船着場が見える。船はもう戻っていったようだ。
車に置いてきたブーンが気がかりだった。
(*'A`)「さあて・・・・・と、とりあえず昼飯でも食いに行く?」
ドクオがなんだか落ち着かなさそうに、そわそわしている。
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:29:03.45 ID:T9QdBisC0
- ξ゚听)ξ「うん・・いこっか」
相変わらず食欲はなかったけど、このまま部屋にいるわけにもいかない。
('A`)「じゃ、いこうぜ」
ホテルの外へでる。
太陽の光がまぶしくてわたしは思わず目を細める。
さて、これからわたしはどうすればいいんだろう・・・。
空は青く、雲はこんなに白いのに、わたしの心は灰色だった。
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:30:07.28 ID:T9QdBisC0
- 無愛想な茶髪の店員が注文を取って言ってしまうと、店内はわたしとドクオだけになった。
備え付けのテレビの音量がやけにうるさい。
('A`)「へー金色クジラか、すげーな。だれかがペンキでも塗ったんじゃねーの」
テレビのリポーターは興奮した声で、現場を実況していた。
彼女によると、クジラの救出作業はずいぶんと難航しているらしい。
- 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:34:04.86 ID:T9QdBisC0
- ('A`)「なんか海ん中じゃ生態系のトップにいるクジラも、陸の上じゃ無力だな」
テレビに映し出されたクジラの姿は、どこか場違いで、もの悲しい違和感に包まれていた。
やはり物や生物は、あるべきところにあり、いるべきところにいるべきなのだ。
ξ゚听)ξ「このクジラ、死んじゃうのかな・・・」
('A`)「さあ・・・でもだいぶ弱ってるしな・・・」
そんなことを話していると、店員が料理を運んできた。
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:36:07.00 ID:T9QdBisC0
- 割り箸をパキリと割り、しばらく二人とも無言で食べる。
ニュースキャスターの緊張した声と、皿を洗うカチャカチャという音だけが店内に響いた。
地元の第一発見者のサーファーへのインタビュー。
海洋生物の第一人者へのインタビュー。
その間にも確実に死に近づいていく金色クジラ。
- 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 21:38:06.71 ID:T9QdBisC0
- わたしはあまり食べれず、半分ほど残す。
('A`)「・・・・・・・・」
ドクオはセブンスターに火をつけて、ゆっくりと煙を吐き出した。
楕円形の灰がポトン、と灰皿に落ちて崩れていくのを眺めながら、わたしはもう一度クジラを見た。
ちょうどクジラがアップで映し出されていた。クジラは優しい目をしていた。本当に優しい目だった。
わたしはまた泣きたくなった。
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