第 J 話 閑話 そして少年は踵を返す。
あの日から、あの日までは、地獄だった。
ただ生きる事だけを、
ただただ連れてきてしまった妹を守る事だけを考えて、
ギリギリの中を、
生きた。
裏切られ、
妹以外誰も信用できなくなり、
自分達の力だけでは逃げ出すこともできない街に囚われ、
人におびえながら、
何とか確保できる食料を得るために、
木の下にいた。
あの日。
変わらない、絶望しかない毎日の続いたあの日。
僕達は、あの人達に会えた。
*(‘‘)*「お兄ちゃん、今日はどこに行く予定なんですか?」
(=゚ω゚)「今日はブーンさんとドクオさんと狩りに行ってくるよう」
.
四人掛けのテーブルで、
妹の作ってくれた朝食を食べる。
(=゚ω゚)「ヘリカルはどうするんだよう」
*(‘‘)*「しぃさんが納品に来てくれて、
その後はしぃさんとギコさん、あとモララーさんと合流して狩りの予定なんですよ」
道具屋を任されているヘリカル。
この家は低層で中央からは少し外れた位置にあるけれど、
店舗と倉庫が付いて、ダイニングと個室が五つ付いた少し大きめの家だ。
もちろん自分が買ったわけじゃなくて、
ギルドVIPが買った建物を使わせてもらっている。
道具屋で売っている物もヘリカルの鑑定スキルが上がるまでは買取はしないで、
ブーンさんが道具屋で仕入れたアイテム、
兄者さんの作った武器、
弟者さんの作った防具、
クーさんの作った薬、
ツンさんの作った服、
モララーさんの作ったアクセサリー、
フサギコさんの作ったお菓子なんかを扱っている。
品のレベルは低層に合わせたものだけだけど、
質の良い物が揃っていると、
この先にあるレベル上げに向いた森に向かうプレイヤーの間では、
評判になっているみたいだ。
あと、よくわからないけど『偽装は完璧!』らしい。
ニヤリと笑った六人の笑顔が怖かったのは内緒。
*(‘‘)*「あと、ブーンさんにこの前許可をもらったので、
鑑定での買取を開始するんですよ!」
(=゚ω゚)「!大丈夫なのかよう」
*(‘‘)*「ちゃんとテストに合格したんですよ!
ブーンさんから太鼓判を貰ったのです!」
.
(=゚ω゚)「でも心配だよう」
*(‘‘)*「これも貰ったんです!」
ヘリカルが胸を張りながら少し大きめのボードを出す。
そこには
『アインクラッド道具屋協会認定店』
と書かれており、その下には
『鑑定に問題があった場合は、協会もしくは下記道具屋まで連絡してください』
と記載があり、二人の人物の名前が記載されていた。
(=゚ω゚)「これは!」
*(‘‘)*「ブーンさんに特訓してもらって、
ちゃんと認定試験にも受かったんですよう!」
道具屋協会とはプレイヤーの道具屋が集まって作っているシステム外ギルドで、
道具屋同士で価格の調整や情報の共有をおこなっていると聞いていた。
ほとんどが中層、上の方の中層に店を構える人達の集まりで、
もしかするとこの店が一番低層かもしれない。
*(‘‘)*「ブーンさんの口利きでマイヤーさんにも推薦を貰えたんですよ!」
そう、驚いたのはその下にある二人の名前。
ロッペンマイヤーさんは眼鏡をかけた痩せた男の人で、
一見商売人には見えないが、おそらくはアインクラッドで一番の『商店』のオーナー。
ショボンさんが苦笑いを浮かべながら『あの人は凄い』って言っていたのを覚えている。
エギルさんは攻略組のトップを走りながら道具屋を営む男性で、
スキンヘッドで体が大きくてちょっと怖かったけど、
話してみるとすごくいい人で良くしてもらっている。
こちらはドクオさんが『道具屋やりながらなんで攻略組に居られるんだ』と不思議がっていた。
そして、エギルさんからは一つ依頼を受けていて、
ヘリカルはそのためのアイテムを常に身に付けていた。
.
*(‘‘)*「マイヤーさんはもともとエギルさんの活動に協賛していて、
ここにも何回か視察に来ているんですよう」
『エギルさんの活動』
それは中層プレイヤーの育成・強化。
「攻略組は凄いと思うし、尊敬してるよ。
でもね、彼等がどんなにレベルを上げて強くなったとしても、
それを支えるためには生産組が必要なんだよ。
激レアのドロップ品ならともかく、
今は既にプレイヤーメイドの武器や防具の方がNPC売りや通常ドロップよりも高性能だ。
もちろん衣服やアクセサリー、POTなんかもね。
でも、生産組が生産したものは流通させなければ意味が無いし、
根本的に生産するためには素材が必要で、素材の流通が必要なんだ。
そして、攻略組以外にも流通した商品を買う者がいないと、
経済は滞る。
需要があるから供給するけど、
供給を継続するためにはそれ以上の需要が無いとだめなんだ。
だから『攻略組以外の生活に余裕があるプレイヤー』がいてくれないとまずい。
あとこの世界では生きたいと願う者が自分の力で生きる為には『強さ』が必要だからね、
低層から中層で戦っているプレイヤーに、
戦い方を教えたり有用なアイテムを安価で供給できるシステムはあった方が良いんだ。
低層プレイヤーへの戦い方の教授や中層プレイヤーのレベルの底上げは、
攻略組の層を厚くすることだけが目的じゃないんだよ」
ショボンさんから仕事としてエギルさんの活動の手伝いを依頼されたときに言われたことを思い出す。
そしてヘリカルのツインテールの結び目に目をやると、
リボンに隠れてアイテムが少しだけ見えた。
*(‘‘)*「マイヤーさんからレベル確認のアイテムも精度の高いモノを渡されたんですよ」
その視線を感じたのか、ヘリカルが答えた。
.
『レベル鑑定アイテム』
レアアイテムだけど、
それほど有用でもないので重用はされていないアイテム。
付けている自分と比較して相手のレベルが上か下かを知るアイテム。
今までヘリカルが付けていたのは上か下かを知るだけだけど、
今付けているのはプラスマイナス5以上か以下かも知ることが出来るらしい。
それを使ってお客さんがレベル詐称をしていないかどうかを確認している。
ここではやっていない戦闘訓練はともかく、
アイテムを安価で販売したりするにはレベルを指標の一つにしているから。
*(‘‘)*「このリボンもマイヤーさんから頂いたんですよ。
時々やってきた時はいつもプレゼントしてくれて、
髪に結んでくれたりするんですよ」
あ、……うん。
要注意人物だった。
気を付けよう。
お店には常連さんもいる。
もう奥の森には用事が無いはずなのに、
わざわざうちの店に来てくれるお客さん。
中にはヘリカル目当ての危険な人もいるけれど、
ほとんどは良い人。
今の段階で奥の森に自力で挑戦できる人は、
それなりの意識を持っている人だからそれほど変な人は来ないはずと聞いていたけれど、
本当にそんな感じだった。
というか、ヘリカル目当ての人も良い人ではある。
店の隅に作られた休憩スペースの一部にローテーションで二人くらいいて、
ヘリカル目当ての本当にやばい人や、
たまにいる気性の荒い人なんかを抑えてくれたりする。
ヘリカルも仲良くなってお茶とか出している。
.
だから心配は心配だけど、
この世界ではエリアからでなければほとんどの事はシステムが守ってくれるから、
まあ大丈夫だと思っている。
少し話がそれた。
それで、何が言いたいかというと、
あの人も、うちの常連さんだった。
と、いうことを、言いたかった。
(=゚ω゚)「(……あれは、イーユウさんだよう)」
隠密スキルと装備の実験もかねてギルドVIPの影をコソコソしている時に、
フラワーガーデンで女性と仲良さそうにしている『常連さん』を見つけた。
E(YoU)「ぃょぅ君っていうんだ!綴りだけ見ると僕の方が『いよう』だね」
『e−YOU』さん。
僕の『Hiyou』と比べると、
確かにそうかもなんてことを思って、
それから仲良くなった。
E(YoU)「攻略組は無理だけど、強くなりてぇな。
美味しいモノいっぱい食べられるくらい!
なあ、『バーボンハウス』って知ってるか?
コル貯めて時々行くんだけど、うまいんだあの店!」
少し大きな耳が特徴的な、気のいいお兄さん。
うちの店がVIPの人達と関わりがあるのは一応秘密だから、
愛想笑いしかできなかった。
E(YoU)「おれ、リアルで弟と妹がいるんだよ。
早く帰って会いたいなー」
.
三日おきくらいにやってきて、買い物をしつつお菓子や食べ物をくれて、
休憩スペースでお茶をして去っていくお兄さん。
E(YoU)「彼女が出来たんだよ!今度連れてくるぜっ!」
そういえばそんなことを言っていたなと思いつつ、
意識をフサギコさん達に戻した。
イーユウさんを見たのは、
その現場を見てしまったのは、
それからひと月以上あとのことだった。
二人の歩く少し後方の森の中を、
僕も歩いた。
森でイーユウさんと女の人を見かけた時に、
隠蔽の訓練もかねて街までついて行ってみようと思ったからだった。
ヘリカルも会いたがっていたし、
街に付いたら声をかけてみようとも思っていた。
手を繋いだりはしていないけど、
距離感とか、
笑顔とか、
恋人みたいだった。
後でからかおうと思って、使い捨てじゃない記録結晶を作動させた。
二人は、凄く仲良さそうに歩いていた。
だから、理解できなかった。
.
最初は目の前に三人の男が出てきた。
今でも、思う。
あの時僕はどうすればよかったのか。
どうすれば、あの人を助けられたのか。
三人の男が出てきた時か、
女の人を守るようにイーユウさんが前に出た時か、
その背後に更に人が出てきた時か、
男たちがイーユウさんに攻撃をしてきた時か。
僕はいつ、何をすればよかったのか。
女が、後ろからイーユウさんを攻撃したのを、
驚いたように振り返ったイーユウさんを、
男たちが攻撃するのを、
イーユウさんがポリゴンになって消え去るのを。
僕は見ていることしかできなかった。
.
どうやって戻ったのか分からない。
渡されていた転移結晶が減っていたから、
多分それで逃げたのだとは思うけど、
減っていたのは一つじゃなかったから、
闇雲にいくつも使ったのかもしれない。
それでも最初にヘリカルの所に戻らなかったのは、
ヘリカルにそんなことを言えるわけがないこと以上に、
僕は縋りたかったんだと思う。
フサギコさんのいるはずのバーボンハウスに行ったとき、
既に店は閉店していて、
店にはフサギコさんとショボンさんがいた。
閉店していても店のドアを開けることが出来たのは
フサギコさんが僕とヘリカルをそういう設定にしてくれていたからだけど、
その時の僕はそんなことは何も考えずただドアを開けて、
転がり込んで、
フサギコさんの顔を見たとたん。
泣き出した。
次に覚えているのは、
僕から訳の分からない説明をちゃんと聞きだしてくれたショボンさんの怖い顔と、
僕を抱きしめてくれたフサギコさんの今にも泣きだしそうな表情。
二人の顔を見て、
僕は何故か安心して、
大泣きして、
意識を手放した。
.
目を開けると、
着物姿のフサギコさんがいて、
奥ではフォーマルなコート姿のショボンさん。
それに青い軽鎧を装備したブーンさんと、
いつもの黒いコートを装備したドクオさんが話しているのが目に入った。
(=゚ω゚)「ここは……」
ミ,,゚Д゚彡「まだ寝てるといいから」
僕が目を開けた事に気付いたフサギコさんが覗き込んでくる。
僕は長椅子に横になっていて、
身体には布がかけられていた。
バーボンハウスには、他にも何人かいて静かに話をしているようだった。
(=゚ω゚)「……僕」
川 ゚ -゚)「ヘリカルちゃんの所にはしぃとギコに行ってもらっている。
君は奥の部屋で休むと良い」
ξ゚听)ξ「とりあえず、休みなさい」
川 ゚ -゚)「後でギコはこっちに戻しておくから」
袴姿のクーさんと、
ゴスロリ姿のツンさん。
店の中に視線を走らせると、
ちぐはぐな姿のギルドVIPのメンバーだ。
知らない人は分からないと思うけれど、
VIPの影に付いたことがある僕は知っている。
それが、みんなの完全武装だということを
そして、何をしようとしているのかもうっすらと理解した。
(=゚ω゚)「……僕も、連れて行って欲しいょぅ」
.
ミ,,゚Д゚彡!
川 ゚ -゚)!
ξ゚听)ξ!
思わずこぼれ出た言葉
怖くて怖くて仕方ないけど、
でもどこか夢の中のような、
現実的ではないような。
だからきっと、こんなことを言えたんだと思う。
(=゚ω゚)「イーユウさんの敵を討つなら、僕も行きたいんだょぅ」
僕はもっと、弱虫なのに。
ミ,,゚Д゚彡「……ぃょぅ君」
(´・ω・`)「相手を倒すつもりはないよ。
捕まえて、黒鉄宮の牢獄に送る」
(=゚ω゚)「……牢獄」
川 ゚ -゚)「本来ならシステムで違反されていることを行った者達が一定の期間入れられる牢獄だが、
今はPKを行った者達を永久に入れることが出来るようになっている。
君が見た者達を、そこに入れるつもりだ」
('A`)「記録結晶の映像があるから証拠もバッチリだしな」
(=゚ω゚)「あっ」
ミ,,゚Д゚彡「……あれが決め手だから」
(=゚ω゚)「練習用に、渡されていたから……」
ξ゚听)ξ「もういいから。休んでいなさい」
ツンさんが僕の頭を撫でる。
出そうになった涙を必死に我慢した。
.
(=゚ω゚)「僕が……助けられなかったから」
( ^ω^)「悪いのはそいつらで、君は悪くないお」
(=゚ω゚)「見ていることしか、出来なかったから」
(´・ω・`)「それが正解だよ。
君まで被害にあっていたかもしれない」
(=゚ω゚)「僕が……弱いから」
ミ,,゚Д゚彡「強いとか弱いとかの問題じゃないから」
(=゚ω゚)「僕は、ちゃんと戦いたいんだょぅ」
ミ,,゚Д゚彡!
(´・ω・`)!
( ^ω^)!
(=゚ω゚)「逃げるのが最善の時があるのは分かっているょぅ。
でも、戦う道を選べる状態で逃げる事を選択するのと、
ただ逃げる事しかできないのは違うと思うんだょぅ」
ミ,,゚Д゚彡「ぃょぅ君……」
('A`)「分かった。
一緒に行こう」
(´・ω・‘)「ドクオ!?」
('A`)「男が腹くくったんだから連れてってやらなきゃダメだろ。
男として」
ξ゚听)ξ「男とか女とか関係ないわよ。
バカなこと言ってんじゃないの。
……でも、そうね……一緒に行きましょう」
.
( ^ω^)「ツン!?」
ξ゚听)ξ「だって、絶対忘れる事なんてできないもの。
望むなら圏内から出ない生活を送る手助けをしてあげられるけど、
ヘリカルちゃんを守るためにもこの子はそれを望まないでしょ。
なら、乗り越えるチャンスは多い方が良いのよ」
川 ゚ -゚)「ツン……。
そうだな。
私とツンが無理はさせない。
ショボン、サブマスターとして承認する。
彼を連れて行こう」
( ^ω^)「ツン……クー……」
(´・ω・`)「ほんと、クーはサブマスターなのを都合よく使うよね」
川 ゚ -゚)「ふっ。
それくらいしかこの役職にうま味は無いからな」
(´・ω・`)「わかった。
ぃょぅ君、一緒に行こう。
でも、こちらの指示には従ってもらうよ」
(=゚ω゚)ノ「!はいだょぅ!」
勢い良く手を上げた僕を、
皆はそれぞれに複雑な顔で見ていた。
.
向かった先は12層の森の中。
低層で、うまみも少ない今は人気のないエリア。
何故そこなのか、
何故あいつらがそこにいる事がわかったのか聞くと、
(´・ω・`)「……情報屋さんって、怖いよね」
と、ショボンさんが困ったように呟いたのでそれ以上は聞けなかった。
後でカップルの個人情報を集めている情報屋さんがいて、
そこからイーユウの彼女の情報を得たことを知った。
そんな情報集めてどうするのか不思議だったけど、
皆も聞いてほしくなさそうだったから聞かなかった。
そして目の前には、
あの女と男たちがいた。
あの光景を思い出し、恐怖で体が震えた。
すると、肩に手を回された。
ξ゚听)ξ「大丈夫よ」
左にいたツンさんが、
肩に手を回してくれた。
川 ゚ -゚)「ああ、大丈夫だ」
右にいるクーさんが、
僕の震えている手をやさしく握ってくれた。
(=゚ω゚)「……ありがとうだょぅ」
前を向きながら呟くと、
同じように前を向いている二人が優しく微笑んだ気がした。
.
(´・ω・`)「……今の記録映像より、
貴方達はPKを行っているギルドとみなしました」
ショボンさんとドクオさん、
ブーンさんがあの人達の前で話をしているのを、
僕は横の茂みに隠れて見ていた。
(´・ω・`)「大人しく黒鉄宮の牢獄へ向かってください。
逃げるのならば、この映像を情報屋を通じて全プレイヤーに公開します」
(ヘイシャオ)「……ちっ」
(ショウロン)「だからあんな手使わないで普通にやっちまえばよかったんだ」
(ヘイシャオ)「ショウロン。
だってあいつが本当にプロテクトリングプラスをドロップしてたかどうかわからなかったし」
(ショウロン)「どうせ殺すんだからおなじだったろ」
(ヘイシャオ)「だって、私達はPKギルドじゃなくて、
お宝ハンター、だって言ってたじゃない。
殺してでも欲しいものは奪うけどさ。
だから本当に持っているか調べるために付き合ってるふりまでしたのに。
だいたいあいつがもっと早く私にプレゼントしてくれれば殺すことも無かったのよ」
イーユウさんの彼女が、
大剣を担いだ鎧姿の男の人に寄り添う。
その後ろには男の人が5人と女の人が1人いる。
.
(餃)「おいおい、どうすんだよ」
(焼)「逃げたら全プレイヤーに公開するってよ」
(餡)「やだー。
もう街を歩けなーい」
(津)「なら、まあ、やることは一つだな」
8人の男女がショボンさん達に武器を向けた。
(ショウロン)「ああ、殺るだけだ」
男がニヤリと笑ってショボンさんに向かって駆けだそうとする。
(=゚ω゚)「!」
思わず立ち上がったその時には、
男の喉元にブーンさんが片手剣の切っ先を当てていた。
( ^ω^)「ちょっとでも動いたら切るお」
.
(ショウロン)「!」
(ヘイシャオ)「な、なんなのよ……」
川 ゚ -゚)「黙っていろ」
ξ゚听)ξ「ムカつくから」
(#ヘイシャオ)「!」
('A`)「お前達も動くなよ」
ミ,,゚Д゚彡「本気だから」
( ´∀`)「おいたはダメもなよ」
( ゚∋゚)))
( ´_ゝ`)「PKの何が楽しいやら」
(´<_` )「レアアイテムが欲しいねぇ」
_
( ゚∀゚)「……少しでも動いたら切る」
( ・∀・)「人殺ししてまで欲しいとか異常だな」
僕の隣にいたはずの二人と、
周囲に散らばって様子を伺っていた全員が現れ、
八人の急所に武器を当てていた。
(=゚ω゚)「!(……びっくりだょぅ)」
(ショウロン)「ふっ。お前達におれ達を殺すことが出来るのか?」
(´・ω・`)
ショボンさんが一番前の男に近寄り、
そして男の持つ剣先を、自分の腕を突き刺した。
.
(=゚ω゚)!
(ショウロン)!
(ヘイシャオ)!
男の頭の上のカーソルがオレンジに変わり、
一つドットが点滅し始めたショボンさんのHPバー。
ショボンさんは男に武器を当てていたブーンさんに何か話すとすぐに次の男に向かった。
そして同じように相手の持つ武器で自分の身体を傷付けて全員のカーソルをオレンジに変えた。
(´・ω・`)「これで貴方達は全員オレンジです。
オレンジプレーヤーを攻撃しても僕達はオレンジプレーヤーになりません」
男たちの目の前でクリスタルを使ってHPを回復させたショボンさんが再び話し始める。
前にいる男と女以外はおびえた顔をしていた。
(´・ω・`)「ここにいるのは僕達と貴方達だけ。
何も証拠は残らない」
(;ヘイシャオ)「だ、だからなんだっていうのよ」
男の右目に突き刺さる針。
ショボンさんの投げた投擲武器だ。
(;ショウロン)!!
男のHPが2メモリ欠けた。
(´・ω・`)「僕は、僕の仲間たちが危険に晒される可能性を残すのは嫌いなんです。
このまま逃がして逆恨みされて狙われるくらいなら、殺します」
無表情に話すショボンさんを見て、
背筋が凍るような寒気を感じた。
「あの言葉は本気」
.
優し気な女性の声がして、思わず声をあげそうになったけど、何とか抑えた。
ミセ*゚ー゚)リ「驚かせちゃった?ごめんごめん」
隣で僕を見て微笑む女の人。
黒尽くめで、映画で見たくノ一のような格好だ。
(=゚ω゚)「あ、あなたは」
ミセ*゚ー゚)リ「今日は頼まれて周囲の警戒してたんだけど、
あんなの見せたら誤解されちゃうじゃんね。
だからちょっとおせっかいをね……。
でも、見せたという事は君の事も信頼しているのかな」
(=゚ω゚)「え?あ?」
ミセ*゚ー゚)リ「確かにね、あの言葉はショボンの本気。
だから真実の重みがある。
ちょっと、怖いよね。
でも、それだけじゃない」
微笑みながら前を向いたその動きに釣られて、
僕もまた前を向いた。
(;ショウロン)「そ、そんな脅しに」
(´・ω・`)「……ドクオ」
('A`)「ん」
ドクオさんの片手剣が動き、
刃を当てていた男の腕を切り落とした。
(餃)「ひぃ!」
武器を持っていた腕を切り落とされ声を上げる男。
HPバーは一度で赤に変わる。
.
(´・ω・`)「このメンバーのリーダーは僕です。
だから、人殺しの汚名は僕だけが背負えばいい」
そう言いながら大き目のナイフを飛ばす。
(餃)!!
額に刺さるナイフ。
さらにHPバーは光を無くし、残りが1ドットと点滅している1ドットになった。
(´・ω・`)「投擲だと少し落ちるか」
ショボンさんがナイフを片手に男に向かう。
(;餃)「や、やめてくれ!
俺は牢屋に入る!」
(´・ω・`)「おや」
残念そうに首をかしげるショボンさん。
(´・ω・`)「それでは……」
そしてその横の男を見る。
(焼)「お、俺もだ!」
(;餡)「わ、私も!」
前の二人以外が一斉に声を上げた。
それはそうだろう。
あんなことをされたら誰だって……。
ミセ*゚ー゚)リ「ショボンは、殺さないよ」
僕の心の中を読んだのかのように、
隣から声が聞こえた。
.
ミセ*゚ー゚)リ「最初に自分の身体を傷付けたのは、
あいつらをオレンジにするのともう一つ理由がある」
(=゚ω゚)「え?」
思わず横を向いた僕だったけど、
彼女は前を向いたままだった。
ミセ*゚ー゚)リ「あいつの頭の中には武器のデータが全部入ってる。
あとあの眼鏡。
レアアイテムで、
自分と比べて範囲内レベルなら、
相手のレベルが分かるみたい」
(=゚ω゚)「はぁ?」
ミセ*゚ー゚)リ「そして攻撃を受ける事によって自分のHPがどれだけ減ったかを見て、
相手の攻撃力を計算してる」
(=゚ω゚)「……」
ミセ*゚ー゚)リ「想定されるレベルとそれによる相手のHP、武器と防具の種類と能力とレア度、
そこからどれくらいの攻撃なら相手を殺さないで済むか算出しているのよ」
(=゚ω゚)「そんなことが」
ミセ*゚ー゚)リ「それがまた出来ちゃってるのよねー。
もちろんギルメンとか協力者に依頼してアイテムの真偽と、
自分の計算の答え合わせは続けているみたい。
……ほんと、努力する天才ってムカつくわよね。
あ、もちろん見えてない装備やアイテムによる底上げはあるだろうけど、
それは『殺さない』ことにはプラスに働くだけだから。
それに三回くらい攻撃してHPの減りを確認できれば、
その誤差も修正するでしょうね」
(=゚ω゚)「……凄いょぅ」
.
ミセ*゚ー゚)リ「ショボンは自分だけが凄いように見せて、
注目を出来るだけ『自分』に向けてるけど、
おそらく兄者辺りもできるんじゃないかな。
まぁショボンみたいにメンバー全員の攻撃力と防御力、
戦闘時のHPの管理なんて離れ業まではできないかもだけど」
(=゚ω゚)!
ミセ*゚ー゚)リ「あと、……ねえ、ぃょぅ君は自分の攻撃が相手のHPをどれだけ削るか分かる?」
(=゚ω゚)「そ、それは相手の防御力とかによって変わるから……」
ミセ*゚ー゚)リ「そうよね。
でも、あそこにいるメンバーはそれがある程度全員出来るのよ。
ショボンとは違ってドットをどれくらい削れそうかレベルの計算だけどね。
最初の一撃でどこまで相手の戦意を奪えるかは大事だし、
その一撃で相手を……なんてことが無いようにね。
対人戦もメンバー同士で練習してる。
ギコとしぃはそれがまだ出来ないから今日は連れてこなかったのかな」
(=゚ω゚)!
ミセ*゚ー゚)リ「あいつらはね、誰も殺したくないの。
そして本当なら傷付けたくもないって思ってる。
だから、まず自分の強さを見つめている。
そこから始めている。
助けることは出来なくても、
せめてもう誰も死ぬところを見たくないって思ってる。
その為に、ゲームの攻略とはまた違うところで、頑張ってる。
それは、知っていてあげてほしいかな」
(=゚ω゚)「……僕は、……僕と妹は、助けてもらったんだょぅ」
ミセ*゚ー゚)リ「そっか」
(=゚ω゚)「だから……。
僕は……。
……僕も……」
ミセ*゚ー゚)リ「……そろそろ終わるかな」
.
知らず知らずのうちに俯いていたけど、
その言葉で顔を上げて前を向いたら、
ショボンさんの後ろには回廊が開いていた。
(´・ω・`)「この先は黒鉄宮の牢獄です。
先には僕らの仲間が待機していますから、
進んでください」
(;ヘイシャオ)「な、なあ、あたしは行かなくていいよな?
女だしさ」
(;餡)「あ、ずるい!」
(;ヘイシャオ)「色仕掛けも出来ないブスは黙ってな!
ほ、ほら、あたしはほら、そんなブスより良い女だし!」
(;ショウロン)「ケッ。ビッチが」
男たちは大人しく……でもないけれど、
特に一番前にいた鎧の男はHPが赤くなって睨んでいるけれど、
両手も肘から先は切り落とされて無くなっているけれど、
それでも回廊に向かって歩いて、
中に入っていった。
女、特にイーユウさんを後ろから攻撃した女が喚いていた。
(;ヘイシャオ)「い、いっそのことわたしをあんたの女に」
川 ゚ -゚)「おばさん、黙って進みなさい」
(#ヘイシャオ)「はあ!?」
確かに一般的におばさんと呼ばれる年齢には見えないが、
クーさんやツンさんとは5歳以上は年上だろう。
(#ヘイシャオ)「誰がおばさんだって!」
ξ゚听)ξ「あんたしかいないでしょ。
まったく変なこと言いだして眠れる獅子を起こさないでよ」
.
反対側からツンさんが話しかける。
ξ゚听)ξ「うちでも回廊結晶は簡単に手に入れてるわけじゃないの。
さっさと動いて。おばさん」
(#ヘイシャオ)「はぁ!?」
川 ゚ -゚)「しかし品が無い」
(#ヘイシャオ)「品!?品でこんな世界を生き残れると」
川 ゚ -゚)「それは生き方次第だ。
おばさんには出来ないことかもしれないが」
(#ヘイシャオ)「この小娘が。
あんたにはいい女の魅力ってもんが」
ξ゚听)ξ「その程度で『良い女』とか言われても、
笑うしかないっていうか笑いも苦笑いってやつしか出ないわよ」
(#ヘイシャオ)「はぁ!?その程度!?」
ツンさんが、西洋人形のような整った顔立ちで女の人を冷たく見つめている。
自分との違いに気付いた女の人がクーさんに目を向ける。
(#ヘイシャオ)「……ちっ。……!」
今風の雛人形と言えるだろうか。
涼やかなまなざしで女の人を見るクーさんに向かって何も言えないでいるおば、
……女の人。
女の人も別に不細工ではないと思うけど、
ツンさんやクーさんと比べるのは可哀想だ。
もちろんヘリカルとは雲泥の差。
月とスッポンの差があるけど。
.
川 ゚ -゚)「さっさと歩くんだ。おばさん」
ξ゚听)ξ「そうよ。おばさん」
(#ヘイシャオ)「チッ」
舌打ちしながら回廊に向かう女の人。
下品さではツンさんクーさんの言葉もやばいと思うし、
ヘリカルにはああなってほしくないなって思ったのは内緒だ。
そんなことを思っているうちに、VIP以外の全員が回廊に入った。
ミ,,゚Д゚彡
フサギコさんが心配そうにこちらを見ているのに気付いて、
恐る恐る茂みを出る。
皆が優しく、けれどどこか悲し気に微笑んでくれている。
ミ,,゚Д゚彡「ぃょぅ君……」
(=゚ω゚)「僕も、戦えるようになりたいんだょぅ」
ミ,,゚Д゚彡!
(=゚ω゚)「皆さんみたいには無理でも、
もう、誰かが死ぬところは見たくないんだょぅ。
それに、ヘリカルを守れるようになりたいんだょぅ」
ミ,,゚Д゚彡「ぃょぅ君……」
(=゚ω゚)「それに、きっとあの時の僕達のような人はまだどこかにいるんだょぅ。
だから、そういう人を見つけた時に手助けできるだけの力が欲しいんだょぅ」
.
('A`)「ぃょぅ……」
( ^ω^)「ぃょぅ君……」
ミ,,゚Д゚彡「……」
皆の視線が僕からショボンさんに移る。
そして僕もショボンさんを見た。
(´・ω・`)「んー。
ドクオ、ブーン、ぃょぅ君の戦闘はどんな感じ?」
('A`)「安全マージン取ったフロアならソロでもまぁまぁいける」
( ^ω^)「タイミングの掴み方も走り方もうまいお」
(´・ω・`)「対人戦闘はまだだよね?」
( ^ω^)「おー。それはまだだおね」
('A`)「練習で手合わせするくらいか」
(´・ω・`)「じゃあ決闘はまだ?」
(=゚ω゚)「はいですょぅ」
('A`)「そりゃまあ、普通はなぁ」
(´・ω・`)「まずはそれが出来るかどうかだよね」
後押ししてくれたブーンさんとドクオさん。
フサギコさんは心配そうに見ているけど、
ショボンさんはとりあえずやってみようかと言ってくれた。
.
結論から言うと、不合格だった。
僕は、人に刃を向けるのが怖い。
例え後で全快するとわかっていても、
自分の実力では相手をしてくれているVIPのメンバーが死ぬ事なんてないと分かっていても。
怖い。
僕が攻撃で誰かを傷付ける事が、
僕の攻撃で誰かが死ぬ可能性があることが、
怖い。
(´・ω・`)「うん。それが普通だと思うから気にしないで」
モナーさんとクックルさんが管理している農場の一角で、
僕はテストを受けた。
目の前にはショボンさんとドクオさん、そしてブーンさんがいる。
('A`)「ブーンとツン、クックルにモララーも最初はダメだったもんな」
(;^ω^)「おー。仕方ないお」
(´・ω・`)「フサも無理してたよ」
('A`)「そういやそうだったな。
それが今では……」
( ^ω^)「刀を装備し始めてから変わったおね」
(´・ω・`)「そういえばそうか」
('A`)「そういえば、確か最初に装備したのは……」
( ^ω^)「『村正』だおね」
(´・ω・`)「『妖刀』とかではないはずだけど」
.
('A`)「レアだったやつだよな」
(´・ω・`)「クエストで一番レアな奴を引き当てちゃったんだよね」
( ^ω^)「おっお。そうだお。そうだお。
たしかあの時本当に欲しかったのは……」
('A`)「『壬走りの草履』」
(´・ω・`)「だったねー」
( ^ω^)「出るまで何回かやったおね」
('A`)「予備も含めて六回だな」
( ^ω^)「珍しく欲しいのが出なかったのは覚えてるお」
(´・ω・`)「……確か、その代わりにドロップしたアイテムでフサの刀系和装備が揃ったような」
('A`)「……そういえば」
( ^ω^)「だお……ね」
(=゚ω゚)「あのう……」
(;´・ω・`)「あ、ごめん」
VIPの皆さんが最初対人戦闘慣れしていなかったというのは正直びっくりしたけれど、
知り合う前の事を知れて少しうれしい。
でも、そんなことは今は関係ないと頭を振った。
(=゚ω゚)「でも、僕は……」
(´・ω・`)「正直対人戦闘に積極的に参加してほしくは無かったから、
ちょっとホッとしたかな」
(=゚ω゚)「え?」
( ^ω^)「でも、ぃょぅ君は戦えるようになりたいんだおね?」
.
(=゚ω゚)「はいだょぅ!」
('A`)「んじゃ今まで通り隠密系で情報収集したり、
時々陰からおれ達のサポートに入ってもらう感じで良いんじゃないか?
無理に何かをしようとしなくても」
(´・ω・`)「かなぁ」
(=゚ω゚)「……」
( ^ω^)「納得いかないかお?」
(=゚ω゚)「……はいだょぅ」
('A`)「んー。とは言ってもなぁ」
(´・ω・`)「強くなるには地道に努力を続けるくらいしか……だしね」
('A`)「決闘とか対人戦の訓練も付き合うし」
ミセ*゚ー゚)リ「そんな悠長なことを言ってられないかもよ」
(;^ω^)「おっ」
('A`)「おう」
(´・ω・`)「どうしたの?」
ミセ*゚ー゚)リ「うー。ショボンの目は反則だからともかくとして、
ドクオにも気付かれていたのは悔しいなぁ」
(;=゚ω゚)「びっくりしたょぅ」
いきなりショボンさんの隣に現れた女性。
さっきよりもビックリした。
ミセ*゚ー゚)リノノ
僕が驚いたのを見て、嬉しそうにこちらに手を振っている。
.
ミセ*゚ー゚)リ「いいねぇその新鮮な感じ。
ブーンも驚きが少なくてつまらないし」
( ^ω^)「毎回毎回流石にそろそろ慣れたお」
ミセ*゚3゚)リ「ちぇー」
(´・ω・`)「で?悠長なことって?
メッセージじゃなく直接来るってことは至急対応が必要と考えたんでしょ?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん」
ショボンさんの問いかけに表情を引き締めて頷き、
そして僕を見た。
(=゚ω゚)?
ミセ*゚ー゚)リ「ぃょぅ君を使った作戦をヒッキーが立案した」
(´・ω・`)!
( ^ω^)!
('A`)!
(=゚ω゚)?
(´・ω・`)「どういうこと?」
ミセ*゚ー゚)リ「簡単なことよ。
VIPに関わりの深い人間で一番弱いのはぃょぅ君とヘリカルちゃん。
マッシロの子達はうまく隠せてるけど、
二人と知り合った時は後手にまわったからね」
('A`)「ああ。まぁな」
(;^ω^)「思わず一緒に来ちゃったんだおね」
(´・ω・`)「あの時はあれがベストだったと思うよ。
そのあとは隠れてやったりしたし、
マッシロにはフォックスがいるからそこら辺は打ち合わせできてるってだけで」
.
ミセ*゚ー゚)リ「で、弱い二人を拉致して、
優位な状況であんた達を殺そうって算段。
とはいえ表向きヘリカルちゃんは店からほぼ出てないから、
狙われるのはぃょぅ君になる。
ショボンが危惧してた最悪パターンの中のまだ軽い方の一つね」
(´・ω・`)
( ^ω^)
('A`)
三人が僕を見た。
(=゚ω゚)「……ょぅ……」
('A`)「一人であいつらから逃げるだけの強さ……」
( ^ω^)「隠密系でスピード重視にしてはあるけど難しいおね」
(´・ω・`)「やっぱり事が済むまで圏内から出ない生活を」
(=゚ω゚)!
('A`)「完全にVIPに入ってホームで一緒に暮らすか」
(´・ω・`)「ここでモナーやクックルの手伝いをしてもらうってのも」
(=゚ω゚)「わがままなのは分かってるょぅ!」
(´・ω・`)!
('A`)!
( ^ω^)!
ミセ*゚ー゚)リ
(=゚ω゚)「わがままを言うのは分かっているょぅ。
でも、出来ればヘリカルはあそこに居させてあげたいんだょぅ。
常連さんとかできて、色々な人と知り合って、
笑顔が自然になってきたんだょぅ……」
.
( ^ω^)「ぃょぅ君……」
(´・ω・`)「……」
('A`)「……」
(=゚ω゚)「だから…だから……」
ミセ*゚ー゚)リ「んー。
じゃあ一つ手が無いことも無いけど、
やってみる?」
( ^ω^)「お?」
('A`)「ん?」
(´・ω・`)「ミセリ?」
ミセ*゚ー゚)リ「ねえぃょぅ君」
僕に向かってにっこりとほほ笑み、
ミセ*゚ー゚)リ「一回死んでみる?」
と、言った。
.
僕は、『e−YOU』として、死んだことになった。
イーユウさんはソロプレイヤーで、
ギルドもだけど決まったパーティーに所属することも無く、
一人で中層まで登ってきたプレイヤーだったそうだ。
実際にイーユウさんの知り合いとVIPや僕達との接点はほとんどなく、
騙るのは可能だという結論になった。
通常のプレイヤーならこんな情報は掴めなかったそうだけど、
彼女持ちのプレイヤーの情報はそれなりに調べられているらしい。
一部の情報屋さんって怖いなと本気で思った。
ヘリカルとは、一回会って話をした。
お腹に正拳突きをもらった。
圏内だから衝撃だけだったけど、
でもやっぱり体術スキルを覚えさせたのは失敗だと思ったあとに、
護身としてはいいのかなと改めた。
そしてその後、頑張ってと言ってもらえた。
僕の戦闘スタイルはドクオさんベースのブーンさん風味だったけど、
そこにミセリ師匠が加わった。
ミセ*゚ー゚)リ「忍者仲間だ」
ツンさんが作った黒装束とマント、
そして防具と武器を渡された時にミセリさんが呟いたのは忘れない。
その時、笑っていたのに、少しだけ悲しげに見えたのは、何故だろう。
.
浮遊城アインクラッド。
第一層 はじまりの街。
初めてこのゲーム、『Sword Art Online』の世界にログインした人は、
設定をこなした後、このはじまりの街に立つ。
ゲームを始めた人にとっての、『始まりの場所』
そして、ゲームの中の死が本当の死と繋がったこのデスゲームの中で、
この街には『終わりを記す』物がある。
巨大な建造物。『黒鉄宮』。
その中にある、『生命の碑』。
それはこのデスゲームに囚われたプレイヤー全員の名前が刻まれた巨大な碑。
そしてゲーム内で死亡すると、名前に横線が引かれ、その原因が刻まれる。
ゲーム内の死。
それは現実世界でナーヴギアによって脳を焼かれ、死んでしまう事を意味する。
.
そして、今日は、生命の碑の前で、ヘリカルが、泣き叫んでいた。
冷たい、黒い床に膝をつき、碑に向かって土下座をするかのような姿で。
涙が、床を濡らしている。
両手が、床を、自らの身体を、叩く。
それまで、ただ見守ることしかできなかった横に立つ和装の武装をしたフサギコさんが、
ヘリカルを横から抱きしめるように支えた。
「……ぼくはそばにいるから」
その泣き叫ぶ姿と、声は、同じように生命の碑を見に来た者の心を、重く、黒くする。
僕は少し遠めの柱の陰に隠れ、
ヘリカルを見守りつつ、
ヘリカルを見張る黒い影を監視している。
『 e-YOU 』
『floor 43 Player kill』
ヘリカルの視線の先の名前。
横線の引かれた、名前。
ヘリカルの泣き声が、黒鉄宮の中をいつまでも響いていた。
(=゚ω゚)「……ヘリカルは凄い女優さんになるんだょぅ」
.
ヘリカルを見張る黒い影が動き出す。
僕はその影を視界の中に入れ続けるために少しだけ身体を動かす。
影が外に出ようとするのを見て、
柱の影の中で身支度を整える。
そして少しだけ未練を残しつつ、ヘリカルに背中を向けた。
あとで、フサギコさんにメッセージ入れないと。
ヘリカルを、お願いしますって。
でも、今日はくっつきすぎだと思うから、注意もしなきゃ。
終
.
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