- 86
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 22:53:58 ID:oGAfG2hk0
( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです。
第二十一話
旅路 〜それぞれの戦い〜
.
- 87
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 22:55:44 ID:oGAfG2hk0
日本某都市
2024年8月 本城総合病院 別館
J( 'ー`)し「あら姉者さん、こんにちは。
まずはお見舞いですか?」
乳白色の廊下。
ヒールの音を響かせて歩いていた女性に、
ナース服のドクオの母が声をかけた。
∬´_ゝ`)「徳永さん。こんにちは。
はい、先にアホ面を拝んでおこうかと思いまして」
J( 'ー`)し「あらあら」
会釈を交わす二人。
∬´_ゝ`)「ところで徳永さん。
私には一応『流石市香』という名前があるんですが」
J( 'ー`)し「あらあら」
∬´_ゝ`)「いやあの、『あらあら』じゃなくてですね」
l从・∀・ノ!リ人「姉者は姉者なのじゃ!」
J( 'ー`)し「あら妹者ちゃん。
こんにちは」
徳永の足に抱きつく幼女。
∬´_ゝ`)「未花……」
l从・∀・ノ!リ人「こんにちはなのじゃ!」
J( 'ー`)し「妹者ちゃんもお見舞い?」
l从・∀・ノ!リ人「そうなのじゃ!」
.
- 88
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 22:57:48 ID:oGAfG2hk0
∬´_ゝ`)「はぁ……もう」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者とちっちゃい兄者に会いにきたのじゃ!」
∬´_ゝ`)「兄者と弟者でしょ」
l从・∀・ノ!リ人「妹者にとっては二人とも『兄者』なのじゃ」
∬´_ゝ`)「はいはい」
l从・∀・ノ!リ人「姉者からみたら二人とも『弟者』なのに『兄者』って呼んでる方がおかしいのじゃ!」
∬´_ゝ`)「……この二年で知恵を付けたわね。
良いのよこれは。あだ名なんだから」
l从・∀・ノ!リ人「成長しているのじゃ!」
J( 'ー`)し「それじゃあ妹者ちゃん、一緒に行こうか」
l从・∀・ノ!リ人「行くのじゃ!」
手をつなぎ歩き出す徳永と妹者。
顔見知りの看護師と小学生低学年の実妹が仲良さそうに歩いて行く後姿を見た姉者、
いや『流石市香』は、一度肩をすくめた後その後ろに続いた。
三人が入った部屋には、四つのベッドがあり四人の患者が横たわっていた。
本来ならベッドが六つくらい入りそうな大きな部屋だが、
各ベッドの横にはそれぞれ大掛かりな装置が設置してあるため、
それほど広くは感じない。
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者もちっちゃい兄者も元気そうなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「元気……ねぇ……」
J( 'ー`)し「ふふふ」
.
- 89
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 22:59:11 ID:oGAfG2hk0
∬´_ゝ`)「ま、こいつらなら向こうの世界を楽しんではいるでしょうね。
こっちでこんなに心配しているのも知らずに」
少しだけこめかみに青筋を立て、
けれどすぐに優しげな表情で弟たちの口元を見る姉者。
ヘルメットのように頭を覆うナーヴギアは顔も鼻まで覆っているため、
口元しか見えない。
その口元には管が差し込んであり、
ほんの少し開かれている。
徳永は兄者と弟者とは別の患者に近寄り、
横のシステムを作動させていた。
l从・∀・ノ!リ人「何をしてるのじゃ!」
J( 'ー`)し「これはね、みんなが目を覚ました時に、
ちゃんと起き上がることが出来るようにするために、
眠ったまま体を動かしてあげてるんだよ」
l从・∀・ノ!リ人「???」
J( 'ー`)し「妹者ちゃんが風邪ひいていっぱい眠ったあと、
起き上がった時になんか体が動かしづらかったことない?」
l从・∀・ノ!リ人「!あるのじゃ!」
J( 'ー`)し「みんないっぱい眠ってるでしょ?
だからその時よりもいっぱいいっぱい体が動かすのが大変なの。
でもこの機械を使うと、起きた時に身体を動かすことが出来るようになるのよ」
l从・∀・ノ!リ人「すごいのじゃ!」
J( 'ー`)し「起きたらお兄ちゃんたちにいっぱい遊んでもらえるね」
l从*・∀・*ノ!リ人「遊ぶのじゃ!」
兄者と弟者のベッドの間に駆け寄る妹者。
そして二人の顔を交互に見ている。
.
- 90
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:02:31 ID:oGAfG2hk0
J( 'ー`)し「ふふふ」
∬´_ゝ`)「ほんと、凄いですよね」
J( 'ー`)し「文明の利器ですからね」
∬´_ゝ`)「徳永さん、また古い言い方を」
J( 'ー`)し「私は古い女ですから」
∬´_ゝ`)「そんなこと言ってるとうちの母親に怒られますよ。
あの人まだまだ現役のつもりだから」
J( 'ー`)し「苺さんは元気だもの。
子供四人も産んで、まだまだ活躍ね」
∬´_ゝ`)「……じつは五人目が」
J( 'ー`)し「!それはそれは!
おめでたいことで!」
∬´_ゝ`)「来年の頭ぐらいには生まれる予定なので、
それまでには解決するといいんですけど……」
J( 'ー`)し「五人目と六人目をいっぺんにってことはないの?」
∬´_ゝ`)「……怖いこと言うのやめてくださいよ」
J( 'ー`)し「ふふふ。
あらもうこんな時間。
そろそろ会議室に行きましょうか。
今日は交さんと苺さんは来られるの?」
∬´_ゝ`)「いえ、今日は二人とも仕事の都合で」
J( 'ー`)し「そうなの。
じゃあ今日は二人の代わりに宜しくね」
.
- 91
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:03:38 ID:oGAfG2hk0
∬´_ゝ`)「もう大丈夫ですよ。
凄く荒れたのは最初の頃くらいで、
ここ半年以上は落ち着いていますし。
今なんてほぼ座談会じゃないですか」
J( 'ー`)し「そうなら良いんですけどね。
あの荒れた時期はお二人が居なかったら……」
∬´_ゝ`)「皆さんやり場のない思いを病院にぶつけていましたから。
特にここは設備が整っている分、何とかならないのかっていう思いがあったみたいで」
J( 'ー`)し「そうね。ここは他よりも進んでいるから」
∬´_ゝ`)「他の病院ではこんな設備は無いんですよね?」
J( 'ー`)し「無いわけじゃないのよ。
ただ全員分無いとか、少し型が古いとか。
だから私みたいにタイマーセットしてボタンをポチって訳にはいかないみたいね。
ここは事件が明るみに出た日の夜には院長が動いて最新の……違うわね、
実験段階の物もあったみたいだから、
世界最新鋭の機器を手に入れたみたい」
∬;´_ゝ`)「凄いですね。
やはり息子さんの為ってこともあってでしょうか」
J( 'ー`)し「そうねぇ。
そういう思いも無いとは思わないけど、
僅かでしょうね」
∬´_ゝ`)「そうなんですか?」
J( 'ー`)し「ええ。多分あれは医療機器マニアなだけよ」
∬;´_ゝ`)「へ?」
J( 'ー`)し「だって業者の人と話したり説明受けたりしてるときの表情ったらもう」
∬´_ゝ`)「聞きたくなかったです」
J( 'ー`)し「あらあら。
誰にも言っちゃだめよ」
.
- 92
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:04:37 ID:oGAfG2hk0
∬´_ゝ`)「言えませんから安心してください」
J( 'ー`)し「ふふふ。
さてほんとに遅れちゃうわね。
行きましょうか」
∬´_ゝ`)「はい。
未花、行くわよ」
l从・∀・ノ!リ人「分かったのじゃ。
おっきい兄者、ちっちゃい兄者、またくるのじゃ!」
二人の手を一回ずつ握って姉者に駆け寄る妹者。
その瞳が少しだけ潤んでいることに姉者は気付いていないふりをしながら、
彼女の頭をやさしく撫でた。
会議室のドアを徳永が開け、姉者と妹者が部屋に入ると、
すでに席はほぼ埋まっていた。
とはいっても机の配置は会議らしくなく、
座っている人間も和気あいあいと話している。
∬´_ゝ`)「えっと……」
姉者が座る席を探すと、三人が入ってきたことに気付いた一人の男が立ち上がった。
|(●), 、(●)、|「未花ちゃん!市香ちゃん!こっちこっち!」
∬´_ゝ`)「あっ」
l从・∀・ノ!リ人「ダディのおじちゃんなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「ちょ、こら未花、ダディじゃなくて伊達さんだって何度ってこら待ちなさい!」
五十代後半程に見える、いかつい顔をした男が、
笑顔で妹者に手招きしていた。
.
- 93
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:05:36 ID:oGAfG2hk0
l从・∀・ノ!リ人「久しぶりなのじゃ!」
|(●), 、(●)、|「二ヶ月ぶりだなぁ。未花ちゃんは元気だったか?」
l从・∀・ノ!リ人「元気なのじゃ!
ダディのおじちゃんはどうだったのじゃ?」
駆け寄って伊達に抱きついた未花。
伊達は未花の両脇に手を添えると、
頭より高く持ち上げた。
|(●), 、(●)、|「おじちゃんは未花ちゃんに会えなくて寂しかったよー」
l从・∀・ノ!リ人「それじゃあ今日いっぱい遊ぶのじゃ!」
嬉しそうにあしをバタバタさせる未花と、
それをみてさらに顔をほころばせる伊達。
|(●), 、(●)、|「そうだなそうだな。そうしような」
∬´_ゝ`)「ちょ、未花、失礼でしょ。
すみません伊達さん」
|(●), 、(●)、|「なんだ、市香ちゃんは『ダディ』って呼んでくれないのか」
慌てた市香が近寄ると、伊達が未花を下ろす。
未花は「あとで遊ぶのじゃといって空いている椅子に座った。
∬´_ゝ`)「……呼びません」
ため息交じり、呆れたように伊達を見る市香。
|(●), 、(●)、|「呼んでほしいな〜。
年寄りの頼みを聞いてくれないのか〜」
∬´_ゝ`)「泣く子も黙る大番長、『伊達涼一』がそんなしおらしいことを言っても駄目です」
|(●), 、(●)、|「ちぇーっ。
……ところでその『大番長』って誰に聞いた?」
.
- 94
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:06:52 ID:oGAfG2hk0
∬´_ゝ`)「みなさんから」
不思議そうに周囲を見る市香。
事の成り行きを面白そうに見守っていた周囲の者たちが、
慌てて視線を逸らす。
|(●), 、(●)、|「お前たち……」
_、_
( ,_ノ` )y━・「だめですよ伊達さん。
それなりな年齢の人間はみんな知ってますから」
未花の隣に座っていた男が口に白い棒を銜えながら揶揄した。
|(●), 、(●)、|「おまえと苺だってすごいだろうが。
渋澤苺と隆一の歩いた後は雑草も生えないとか」
_、_
( ,_ノ` )y━・「昔の話ですね」
|(●), 、(●)、|「お、れ、も、昔の話だろうが」
_、_
( ,_ノ` )y━・「その後一念発起して、
防衛大に入学してある程度まで上り詰めたあなたはまだまだ現役でしょう?」
|(●), 、(●)、|「残念ながらもう現役じゃないぞ」
_、_
( ,_ノ` )y━・「私が何も知らないと?」
|(●), 、(●)、|「ほお、何を知っているというんだ?」
_、_
( ,_ノ` )y━・「言っても良いのならば言いますが?」
どこか余裕のある渋澤と、
目の座った伊達が互いを見る。
J( 'ー`)し
その異様な空気に徳永がそばに近寄ろうとした時だった。
.
- 95
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:08:03 ID:oGAfG2hk0
「おじさん、その口に銜えているものは何ですか?
この部屋は禁煙ですよ」
_、_
( ,_ノ` )y━・「ん?これは……」
パイプ椅子に浅く腰かけていた渋澤が姿勢を正し、
銜えていた電子タバコを置いた。
_、_
( ,_ノ` )y━・「煙も出ないし電子タバコだからいいかなって」
∬´_ゝ`)「未花に悪影響なので止めてください」
_、_
( ,_ノ` )「はい」
∬´_ゝ`)「伊達さんも」
|(●), 、(●)、|「は、はい」
無表情に伊達を見る市香。
自分の子供と同じ年頃の女性に見つめられ、
直立不動になった伊達。
∬´_ゝ`)「私のした失言からではありますが、
もう少し場所と立場をわきまえていただけますか」
|(●), 、(●)、|「はい!」
∬´_ゝ`)「よろしくお願いします」
黙って未花の隣、
先ほどまで伊達の座っていたパイプ椅子に座る市香。
未花の隣を取られ悲しそうな顔をした伊達だったが、
大人しくその横のパイプ椅子に座った。
大人しくオレンジジュースをストローで飲んでいた未花だったが、
そんな大人達の行動を見てから、
ボソッと呟いた。
l从・∀・ノ!リ人「最近姉者は母者によく似てきたのじゃ」
.
- 96
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:10:30 ID:oGAfG2hk0
先程から市香を通して流石苺、
流石家の女帝こと『母者』を思い出していた一同は、
心の中で大きくうなずいた。
J( 'ー`)し「(さすが、苺さんの娘って言ったら怒られるかしら)」
徳永は、入り口のそばに立ってその様子を微笑みながら見ていた。
するとドアが開き、一人の女性が入ってきた。
|゚ノ ^∀^)「すみません、遅れました」
J( 'ー`)し「大丈夫ですよ。まだこれからですから」
|゚ノ ^∀^)「みたいですね。良かった」
J( 'ー`)し「怜奈ちゃんも皆勤賞ね」
|゚ノ ^∀^)「……やっぱり、気になりますから。
私がナーヴギアなんて買っておかなければ、
郁弥がやることなんてなかったから……」
J( 'ー`)し「怜奈ちゃん……」
悲しげに微笑んだ怜奈。
徳永も、その微笑みに困ったような微笑みで返すことしかできなかった。
.
- 97
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:11:46 ID:oGAfG2hk0
アインクラッド
プギャーの持つ片手剣が身の丈2メートルを超える猿人を切り裂いた。
自身のHPバーを黄色に変えられた猿人は、
雄叫びをあげつつ闇雲に曲刀を振り回す。
それを危なげなくすべて避けてから、
追撃の突きを与え、バックステップで離脱した。
( ^Д^)「よし!あとは頼む!」
プギャーの声に合わせて向かう剣士と槍使い。
( ^Д^)「前にも言ったけど間合いに気を付けろよ!
深追いせずにスイッチしろ!」
剣士「はい!」
槍使い「はい!」
( ^Д^)「よし!任せたぞ!」
( ´ー`)「こっちは間もなく終わるから大丈夫だーよ!」
| ^o^ |「任せてほしいです!」
( ^Д^)「そっちは最初から任せてる!」
それぞれに一体ずつ猿人を相手に戦っているシラネーヨとブーム。
自分の背後で戦っている二人に、
振り返らずに声をかけるプギャー。
そんなプギャーに近寄る一人の男。
爪'ー`)「お疲れ」
.
- 98
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:13:35 ID:oGAfG2hk0
( ^Д^)「お前も戦えよ」
爪'ー`)「一体くらい、あの二人で大丈夫だろ」
そう言いながら、プギャーの見守る先で戦う剣士達を同じように見る。
爪'ー`)y‐
片手に装着された銀の爪が陽光に煌めく。
( ^Д^)「(いつでも駆けつけられるように準備はしてるか)」
爪'ー`)y‐「ん?なんだ?」
( ^Д^)「いや、何でもない」
爪'ー`)y‐「……これでもリーダーだからな」
照れくさそうに頭を掻いた男を横目で見てから、
プギャーは少しだけ笑みを見せた。
夕方。
無事にクエストを終了させた六人は、
50層に来ていた。
爪'ー`)「おまえらはしゃぎ過ぎて変なもの買うなよ!」
「「はーい!」」
喧騒に包まれた街を駆けていく剣士と槍使い。
爪'ー`)「まったく……」
それを見送った男は小さくため息をついた。
( ^Д^)「すっかり引率の先生だな」
.
- 99
: ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:14:43 ID:oGAfG2hk0
爪;'ー`)「やめてくれ」
| ^o^ |「二人はフォックスをとても慕っているから」
( ´ー`)「『狐ヶ崎の狐』もあの二人には形無しだーよ」
爪;'ー`)「ホントにやめてくれ。
ちょっと助けただけなのに、ずっと後ろを付いてきやがる」
項垂れるにフォックスを見て笑う三人。
| ^o^ |「この世界で命を助けられたら慕いますよ」
( ´ー`)「諦めてリーダーやるだーよ」
爪;'ー`)「はぁ……。タバコ吸いてえ……」
更に笑う三人。
( ^Д^)「今日はこの後どうすんだ?」
爪'ー`)「この後?あいつらも自分達だけで帰られるだろうから、
おれも少しぶらつくつもりだけど」
( ^Д^)「おれらは道具屋に一件寄った後、
バーボンハウスに行くつもりだけど、行くか?」
爪'ー`)「バーボンハウス……。若様の所か」
( ^Д^)「若様って」
爪'ー`)「マシロの跡継ぎ、若殿様だろ?
だから若様」
( ´ー`)「ショボンがそうだってフォックスに聞いた時には驚いただーよ」
爪'ー`)「しらなかったお前らにおれがびっくりした」
| ^o^ |「普通は知らないですよ」
.
- 100 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:15:49 ID:oGAfG2hk0
爪'ー`)「まあなー。おれは伯父さんに聞いてたから知ってたってのはあるけど。
でも本城病院がマシログループってことは知ってただろ?」
| ^o^ |「まあそれは知っていましたが」
( ´ー`)「だからってその息子がマシロの跡継ぎだとか、
更に言えばショボンが本城病院の関係者だなんて知らないだーよ」
爪'ー`)「もうちょっと街の事に目を向けろよ。
マシロが栄えれば街も栄えるぞ?」
| ^o^ |「!そこまで考えていたのですか?」
爪'ー`)「いや、おれはただのゴシップ好き」
( ´ー`)「勝手にするだーよ」
( ^Д^)「でもそうなると、あの人もそうなるってことだよな。
姉ちゃんの話では、頭は良いらしいし」
( ´ー`)「プギャー?」
( ^Д^)「あ、いや、何でもない」
( ´ー`)?
爪'ー`)「そうだな。ちょっと聞きたいこともあるしおれも行くか」
( ^Д^)「そうか。じゃあ先に道具屋も付き合ってくれ」
爪'ー`)「分かった」
プギャーとシラネーヨを先頭に歩き始める四人。
意味ある戦闘、やり遂げたクエストの充足感から、
心地よい疲労が四人に満ちていた。
.
- 101 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:17:46 ID:oGAfG2hk0
某都市
本城総合病院 会議室
(-@∀@)「以上が現時点で使用されているシステムです。
大きくは前回と変わりませんが、
何か質問はございますか?」
本城総合病院病院長、
つまりショボンの父親である本城朝日が合図をすると、
部屋の明かりが点いた。
朝日を見つめる無数の目。
自分の子供や親族がアインクラッドに囚われてから、
その体の管理は彼に任されている。
『向こうの世界で死ぬ事により、
ナーヴギアによって脳を焼かれる前に、
身体が耐え切れずに死んでしまう可能性もある』
『栄養失調
筋肉の劣化
例え外側から無理矢理栄養を入れ、
最新の設備で筋肉を守ったとしても、
身体が先に命の火を消してしまうかもしれない』
事件が起きてから行われた、
国主催の説明会ではそんなことも告げられた。
全国の被害者で作られている『被害者の会』からの情報では、
最初のうちは床擦れ防止や筋肉の保持のために、
身内の者がかなりの労力を使っていた所もあったらしい。
早い段階から、
というよりも『最初』からほとんど体力的な労力を使わないでいられたのは、
この病院の、
この院長のおかげだということを、
いまはここにいる誰もが分かっていた。
.
- 102 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:20:33 ID:oGAfG2hk0
(-@∀@)「ございませんか?」
大き目な厚い眼鏡をかけた優男で学者然とした目の前の男が、
実はかなりのやり手だったのは、
嬉しい誤算というよりも、
意外過ぎて「驚いた」などという言葉では言い表せないほどだった。
特に伊達や流石家の夫婦、
そして実子ではないが甥の為にその場にいた渋澤といった、
一部の地域の一部の者の中では有名人な者達と対等に、
時には上回って渡り合うその姿は一部の者には驚きを隠せないほどだった。
<(' _'<人ノ「あ、あの。よろしいでしょうか」
(-@∀@)「はい。高崎さん。どうぞ」
<(' _'<人ノ「あ、その、前もお聞きしたんですが、
本当に、その、費用の方は宜しいんでしょうか」
(-@∀@)「はい。大丈夫ですよ。
すべて国からのお金で賄っております。
あとで皆さんに請求するようなことはありませんので、
ご安心ください」
<(' _'<人ノ「あ、で、でも、他の病院の方からお話を聞くと、
こちらほどの看護は受けていないようなので」
(-@∀@)「皆さんのご家族に使用している機器や諸々のものは、
私のつてで仕入れた最新鋭の物です。
平たく言えば、日本以外では実用化されていたり、
研究室の中では問題なく動作が確認できているものを、
特別に使用させていただいています。
もちろん最初は私の愚息やご家族に承認をしていただいた何名かでテストをしてからですが。
ここまでは、よろしいですか」
<(' _'<人ノ「は、はい。お聞きしておりますので」
(-@∀@)「重複した内容で申し訳ありません。
そこでですが、ここで得たデータ。
つまり機器を使うことによってどのような変化が起きているかというデータを、
研究室や開発会社に送ることになっています」
.
- 103 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:24:32 ID:oGAfG2hk0
<(' _'<人ノ「え、そ、それは!」
朝日の言葉でざわつく会議室。
しかし彼は、室内を微笑みながら見回す。
次第に波が引くように静かになった。
(-@∀@)「もちろん、送るデータも私の愚息と、
先にご家族に了承をいただいている数名の方の分だけです」
全体的に安堵の吐息が漏れた中、
朝日は続ける。
(-@∀@)「データを渡すことにより、
『研究』や『試験』という意味合いを持たせることが出来、
費用を抑えることが出来ております。
これは余談ですが、そのデータを活用することにより日本での認可が早まったり、
他の病院に広めることも可能になるかもしれません」
朝日は続ける。
(-@∀@)「と、言うわけで、費用に関してはお気になさらないでください」
<(' _'<人ノ「は、はい。ありがとうございます」
|(●), 、(●)、|「ま、足りない分はマシログループが出してくれているんだろうけどな」
伊達の呟きは朝日の耳にも届いたが、
質問とは受け取らなかったため表立ったの反応はしなかった。
∬´_ゝ`)「あの、よろしいですか?」
(-@∀@)「はい、流石さん」
∬´_ゝ`)「送るデータには、個人情報は含まれているのでしょうか?」
.
- 104 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:25:43 ID:oGAfG2hk0
(-@∀@)「名前や外観、写真等ですね。
そういった物は送りません。
あとは機器の種類によって違います。
例えば筋肉量を減らさないための装置ならば、
性別、年齢、血液型。体重や筋肉量、血流のデータなどを送ります。
ご要望なら表にしてお見せしますが中には極秘の内容もありますのでお渡しすることは……」
∬´_ゝ`)「もしよろしければ、うちの二人のデータも利用していただければと思いまして」
(-@∀@)「!よろしいのですか?」
∬´_ゝ`)「この病院にはよくしていただいておりますから、
それくらいはご協力できればと思いまして。
それに、一人はそういうのが好きでしたから、喜んで協力しそうでして」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者はまっどさいえんてぃすとってのになりたいって言ってたのじゃ!」
∬;´_ゝ`)「ちょ、未花、変なこと言わないの!」
l从・∀・ノ!リ人「だってほんとなのじゃ!」
∬;´_ゝ`)「小学校の文集に書いてあった夢だから!
高三にもなってそんなこと言ってたら色々危険だから!」
慌てて未花の口を押える市香。
笑いに包まれる会議室。
∬;´_ゝ`)「と、とにかく、一度詳しくお話を聞かせてくださいますか」
(-@∀@)「そうですね。
本日は準備が整っておりませんので、
早急に資料を用意いたします。
準備が出来ましたらまたご連絡をさせていただきます」
∬´_ゝ`)「はい、よろしくお願いします」
|゚ノ ^∀^)「あ、宜しければこちらもお願いします」
.
- 105 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:27:58 ID:oGAfG2hk0
(-@∀@)「森本さん。はい。わかりました」
市香の発言に怜奈が追従すると、
参加者のほとんどが同じように説明を求めた。
<(' _'<人ノ「あ、あの、私もお願いいたします」
(-@∀@)「皆さんありがとうございます」
深く頭を下げる朝日。
(-@∀@)「それでは準備が出来次第ご連絡させていただきます。
先程も申しました通り極秘としている内容もありますので、
個別、もしくは幾つかのグループに分けて説明をさせていただきます。
皆様同士でご相談していただくのは問題ありませんが、
外には漏らさぬようお願いいたします。
また、データの提供はもちろん強制ではありませんので、
少しでも納得のできない点がありましたらお申し出ください。
説明は、説明。
データ提供の有無は説明を聞いた後にゆっくりと判断してください。
もちろんデータ提供の有無で看護に優劣なども付けませんので、
その点についてはご安心ください」
流れるように話す朝日。
その淀みない口調にほぼ全員が大きく頷いた。
_、_
( ,_ノ` )「一つ、聞いていいか?」
(-@∀@)「はい。渋澤さん」
_、_
( ,_ノ` )「今のあいつらの状態で、何年生かすことが出来る算段を立ててる?」
渋澤の質問に、部屋の空気が凍った。
しかし朝日は全く気にせず、
先程と同じように滑らかに話し始めた。
(-@∀@)「『生かせる』という言葉に沿うかわかりませんが、
『生きている』だけならば老衰まで、寿命まで可能です」
.
- 106 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:29:02 ID:oGAfG2hk0
朝日の言葉に息をのむ会議室の面々。
(-@∀@)「しかし、それは『生命活動を行っている』だけです。
目が覚めたその日に手を握り、上半身を起き上がらせ、
膝を曲げることが出来るようにするのは、
今の技術では……。
もともとの筋肉量にも寄りますが、最長で五年。
それが、限度だと私は考えます」
今までどこか優しげだった朝日が、
表情を引き締め、
声すらもきつめに断言した。
驚きを隠せないでいる者たちの中で、
声をかけたのはやはりこの男だった。
|(●), 、(●)、|「五年。たった五年なのか?」
(-@∀@)「はい。これでも長くなった方だと思いますが、
『今の技術』では、限度です」
_、_
( ,_ノ` )y━・「『今の技術』ってことは」
∬´_ゝ`)「おじさん、タバコ」
思わず手にしたタバコを見咎める市香。
渋澤は口にする前にテーブルに置いた。
(-@∀@)「はい。技術が進歩すればもっと長くできると思います」
再び表情と口調を緩める朝日。
室内の雰囲気も穏やかになった。
(-@∀@)「ですが、実は私はそれほど心配しておりません」
朝日を除く、
いや、前々から聞いている徳永を除いた全員が不思議そうに朝日を見た。
.
- 107 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:31:23 ID:oGAfG2hk0
(-@∀@)「あと四年、いや、あと二・三年で全員起きると思っていますので」
ニッコリとほほ笑んだ朝日。
驚愕の中、再びこの男が口にした。
|(●), 、(●)、|「何故、そう思う?」
(-@∀@)「それだけあれば、
うちの馬鹿息子とその大事な仲間がゲームをクリアしますから」
先程とは違った意味で空気が凍った室内。
J( 'ー`)し「あらあら。
医院長ったら言っちゃった。
あれでいて親バカなのよねぇ」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者とちっさい兄者もクリアするのじゃ!」
呆れたように呟いた徳永と、
元気よく叫んだ未花以外が、
唖然として朝日を見ていたのは致し方無いことだろう。
.
- 108 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:33:52 ID:oGAfG2hk0
アインクラッド
バーボンハウスを目指して歩いている四人。
爪'ー`)「『バーボンハウス』、か……」
| ^o^ |「どうしたのですか?」
爪'ー`)「いや、最初見た時には同じ名前だなって思っただけだったけどよ」
( ´ー`)「おれは向こうの店には行ったことないだーよ」
爪'ー`)「お、そうなのか?」
| ^o^ |「私も入ったことはないです」
爪'ー`)「そうだったのか」
| ^o^ |「フォックスは常連だったのですか?」
爪'ー`)「いや、常連って程通っては無いな。
シャキンとちゃんと会ったことなかったし」
( ´ー`)「プギャーはシャキンと面識があっただーよ」
爪'ー`)「そうなのか?」
( ^Д^)「……ああ、まあな」
| ^o^ |?
( ´ー`)?
爪'ー`)「どうした、口淀んで」
( ^Д^)「ホント空気読まないなお前は」
.
- 109 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:35:09 ID:oGAfG2hk0
爪'ー`)「読んで聞かなくって勝手な想像されるのとどっちが良い?」
( ^Д^)「はいはい」
爪'ー`)「で?」
( ^Д^)「……姉貴が働いてるからよ、その関係で何回か会ったことがあるってだけだ」
| ^o^ |「え!?」
( ´ー`)「え!?」
爪'ー`)「ほう。って、なんだ、
ブームとシラネーヨも知らなかったのか」
( ´ー`)「初耳だーよ」
| ^o^ |「初めて会った時に親し気に話しかけられていたから知り合いだとは思っていましたが」
( ^Д^)「まあな」
爪'ー`)「ギルド名を学校名のあだ名、
店の名前を『バーボンハウス』にして、
知り合いや関係者、地域からこの世界に来た奴を集めたみたいだしな」
| ^o^ |「それはなんとなく分かっていました」
( ´ー`)「でも何でそんなことをしているのかは知らないだーよ」
爪'ー`)「『みんなで帰るため』だってよ」
( ^Д^)!
( ´ー`)!
| ^o^ |!
( ^Д^)「それはいったい?」
.
- 110 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:38:23 ID:oGAfG2hk0
爪'ー`)「そのまんまの意味だよ。
ショボンいわく、『全員で帰りたい』んだってさ。
でも、自分の手は小さいから、
せめてかかわりのある人だけでも無事に一緒に帰りたいって」
( ^Д^)「そんなことを……」
爪'ー`)「だから学校名や店名で集まってきたやつらを、
片っ端からまとめ上げてチームにしている。
部屋を作り、そこに住まわせ、希望者には店をやらせてる。
けれど、ギルドに入れない。
そして何故か、戦闘にはそれほど力を入れていなかった」
( ^Д^)「ああ……。
何度かVIPに入れてほしいって言ったけど、
入れてもらえなかった。
ギコの時だって、あとで散々怒られた。
渡されている『攻略可能クエストリスト』以外のクエストを何故やったって」
| ^o^ |「あのクエストをちゃんとクリアできれば、
ショボンに認めてもらえるって思ったから……。
今思えば、短慮極まりないことです」
( ´ー`)「でもあの時は、認められたくて必死だっただーよ」
爪'ー`)「けれど、今は?」
( ^Д^)「ん?」
爪'ー`)「おれ等よりかなり強いだろ?」
( ^Д^)「まあな……。
ショボンがカリキュラム組んでくれたから」
爪'ー`)「こちらもだ。
生産組は今まで以上に生産を、
戦闘組には能力や技を伸ばすような流れになっている。
今までは『楽しく戦う』ことがメインだったのに、
素質とやる気がありそうな奴には『より強くなる戦い方』を与えられ始めた」
.
- 111 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:40:55 ID:oGAfG2hk0
( ^Д^)「どういうことだ?」
爪'ー`)「わからん。だから、今日はそれを聞こうと思ってる」
( ´ー`)「ショボンが答えてくれるとは思えないだーよ」
爪'ー`)「いや、答えてくれるさ。
答えに対するちゃんとした質問を、
今話したような実例を示せば、
あいつは答える。
そういうやつだよ」
| ^o^ |「……よくわかってますね」
爪'ー`)「おじさんから色々聞いてたしな。
若様の事も、摂政のことも」
| ^o^ |「摂政?何のことですか?」
爪'ー`)「居るだろ?
ショボンに真っ向意見できる『年上』が」
( ^Д^)「まさか、シャキン?」
爪'ー`)「大人にならないと分からないこともあるからな。
そんな汚い面や『経験』をサポートするのがシャキンだって話だ」
( ´ー`)「ショボンの血縁ってことは、
シャキンだってマシログループなんじゃねーの?」
爪'ー`)「ああ、そのはずだ」
( ´ー`)「ならシャキンが継げばいいんじゃねーのかよ?」
| ^o^ |「そうですね。
マシロは『一族』で継いでいるだけで、
『一家』で直系が継いでいるわけではなかったはずです」
爪'ー`)「ああ、それはおれも気になって伯父さんに聞いたんだけどよ、
伯父さんも知らないらしい」
.
- 112 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:41:56 ID:oGAfG2hk0
肩をすくめたフォックス。
彼を挟んで歩くシラネーヨとブームも眉間に皺をよせた。
爪'ー`)「それで、プギャーは何で青ざめてんだ?」
フォックスが立ち止まって振り返る。
二人も同じ様に振り返ると、
数メートル後ろに立ち止まって何かしらを呟いているプギャーがいた。
( ´ー`)?
| ^o^ |?
爪'ー`)
( ^Д^)「あいつが……ましろの……。
姉ちゃんの……あいつが……」
(`・ω・´)「お、なんだなんだ?
四人お揃いで何してる?」
(´・ω・`)「お疲れさま。
お願いしておいた件かな?」
そんなプギャーの後ろから、
シャキンとショボンが声をかけたのは、
タイミングが良かったのか、悪かったのか。
( Д )「……シャキン、聞きたいことがある……」
ゆっくりと振り返ったプギャーが、
睨むようにシャキンを見た。
(`・ω・´)「お!なんだなんだ?」
( Д )「おまえ、本当に童貞か?」
(;`・ω・´)「ど、どどどどどどど童貞ちゃうわ!」
.
- 113 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:42:59 ID:oGAfG2hk0
(´・ω・`)
突然の質問に慌てるシャキンと硬直するショボン。
( Д )「本当か?」
(;`・ω・´)「あ、ああ当たり前だろうが!
元の世界じゃやりまくってたぞこのやろう!」
(;´・ω・`)「ね、ねえ、何の話をして。
というか、こんなところでする会話じゃないからさ、二人とも」
( Д )「じゃあ姉さんともやったのか!!?」
(;`・ω・´)「はあ?」
(;´・ω・`)「ね、ねえ二人とも!」
( Д )「やったのか!!!!」
(`・ω・´)「やるわけねえだろ!」
(;´・ω・`)「二人とも!
そっちの三人も見てないで止めて!」
( Д )「嘘をつけー!!
あんなに可愛いのにやらないわけないだろうが!」
(`・ω・´)「やらねえよ!」
( Д )「やってるに決まってる!」
(`・ω・´)「おまえはおれとあいつを、
やらせたいのかやらせたくないのかどっちだ!」
( Д )「しるかー!」
(`・ω・´)「なんだお前は!」
.
- 114 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:44:29 ID:oGAfG2hk0
( Д )「でもあんなに可愛い姉ちゃんと付き合ってるのに
やらないわけないだろうが!!」
(`・ω・´)「付き合ってないし!」
( Д )「……え?」
(`・ω・´)「付き合ってないし、そんな関係でもない!」
( Д )「……え?」
(`・ω・´)「なんだプギャー。
おまえおれとあいつが付き合ってると思ってたのか?」
( ^Д^)「……付き合ってないのか?」
(`・ω・´)「付き合ってない」
( ^Д^)「やっても、ない?」
(`・ω・´)「やってない」
(;´・ω・`)「だから二人とも、ね」
( ^Д^)「マジで?」
(`・ω・´)「マジマジ大マジ」
( ^Д^)「ホントに?」
(`・ω・´)「ホントホント。神に誓って付き合ってないしやってない」
( ^Д^)「……なんだ……」
.
- 115 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:46:10 ID:oGAfG2hk0
緊張の糸が解けたように座り込むプギャー。
いつの間にかその後ろに移動していたシラネーヨとブームが、
慌ててその体を支えた。
( ^Д^)「だってシャキンがマシロの跡継ぎ関係とか言われたら、
姉ちゃん絶対捨てられると思って……。
おれの家、あんまり良い家じゃないし……。
姉ちゃんだって頭は良いし見た目も良いけど、
そういうところの嫁が務まるとは思えないし……。
そっか……違うのか……。
良かった……」
( ´ー`)「シス……」
| ^o^ |「……コン?」
それほど多くは無いが、
道を行き交うプレイヤーの視線を集めた六人だった。
.
- 116 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:50:14 ID:oGAfG2hk0
某都市
本城総合病院。
別館の入院病棟に、誰かのくしゃみがこだました。
l从・∀・ノ!リ人「風邪なのじゃ!」
∬´_ゝ`)「大丈夫ですか?」
流石兄弟が眠る部屋。
兄弟のベッドにはそれぞれ市香と美香がそばに立っており、
向かいのベッドの枕元にもそれぞれに人がいた。
|゚ノ ^∀^)「す、すみません。
なんか急に鼻がムズムズして」
l从・∀・ノ!リ人「お大事になのじゃ!」
|゚ノ ^∀^)「ありがと、未花ちゃん」
<(' _'<人ノ「気を付けてくださいね」
|゚ノ ^∀^)「す、すみません。
ちゃんと手は口に当てましたから」
<(' _'<人ノ「そういう事じゃなくて、
この子たちが目を覚ました時に私達が元気じゃないと、
リハビリとかちゃんと手伝ってあげられませんから。ね」
|゚ノ ^∀^)「あ、……そう……ですね。
はい、そうですね。
うん。気を付けなきゃ」
∬´_ゝ`)「そうですね。
こいつらが起きた時に、
私達が病気してたらこいつらだったら……。
うわっ……想像したらムカついた」
.
- 117 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:51:13 ID:oGAfG2hk0
|゚ノ;^∀^)「い、市香さん」
∬´_ゝ`)「いや、こいつらの事だから、
多分私を指さしながら笑うんだろうなって思ったら……。
あとで手の甲つねっておこう」
|゚ノ ^∀^)「ちょ、ちょ、それは止めた方が」
l从・∀・ノ!リ人「大丈夫なのじゃ!
徳永のおばちゃんもそれくらいなら良いって言ってたのじゃ!」
|゚ノ;^∀^)「確認して遂行済みだった!」
<(' _'<人ノ「私もあとでやろうかな」
|゚ノ;^∀^)「高崎さんまで!」
<(' _'<人ノ「だって、絶対この子向こうの世界で思う存分遊んでますもの。
こちらでこんなに心配してるなんて、あんまり考えないで」
∬´_ゝ`)「うちもです」
l从・∀・ノ!リ人「遊んでるのじゃ!」
|゚ノ ^∀^)「……うちの弟も、遊んでると思います」
じっと目の前に横たわる血縁者の手を見る女性三人。
未花はすでに悌悟の手で遊んでいる。
|゚ノ ^∀^)「(そういえばさっき、
何故だかなんかものすごくムカついたのよね)」
三人の手が、それぞれの手の甲に向かった。
.
- 118 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:53:54 ID:oGAfG2hk0
アインクラッド
(;`・ω・´)
(;^Д^)
(;´ー`)
|; ^o^ |
爪;'ー`)
ギルドVIPホームのリビングルーム。
疲れた顔をした男五人が、
床に正座していた。
川 ゚ -゚)「このバカ者共が」
ξ゚听)ξ「往来で何叫んでるのよ」
(;^Д^)「それはその……」
(`・ω・´)「おれは被害者だ」
爪;'ー`)「何でおれまで……」
(;´ー`)「本当だーよ」
|; ^o^ |「ショボンに叱られるのは一度で懲りたのですが」
川 ゚ -゚)「それほど人通りがなかったのが救いだが……」
眉間に皺を寄せるクー。
その言葉にかぶさるようにドアが開き、
ドクオが現れた。
.
- 119 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:55:04 ID:oGAfG2hk0
('A`)「とりあえず大丈夫っぽい。
時間的に帰る奴も多かったみたいで、
それほど注目されてなかったみたいだ」
川 ゚ -゚)「ふむ。
しかし往来で女とやったとかやってないとか言うべきではないからな」
ξ*゚听)ξ「クー、さすがにそこまで言ってないみたいだから」
川 ゚ -゚)「そうなのか?」
( ^Д^)「そこまであからさまには言ってない……。多分」
( ^ω^)「おっおっ。ショボンの方はなだめたお」
続いて入ってきたのはブーン。
('A`)「ご苦労。
あいつは下ネタにもう少し寛容になるべきだな」
( ^ω^)「ショボンはあんまり……」
(`・ω・´)「箱入り息子だからな!」
ξ゚听)ξ「あんたは反省してなさい」
(`・ω・´)「はーい」
( ^ω^)「おっお。
フォックス、ショボンが呼んでたお。
話があるんだおね?」
爪'ー`)「あ、ああ」
正座したままブーンを見上げるフォックス。
.
- 120 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:55:52 ID:oGAfG2hk0
( ^ω^)「エギルさんにお願いしてたアイテムに関しては僕が受け取るお。
プギャーで良いかお?」
( ´ー`)「今日はおれが持ってるだーよ」
( ^ω^)「了解だお」
自分のウインドウを開くブーン。
シラネーヨも立ち上がり、自分のウインドウを開く。
| ^o^ |「?フォックス、行かないのですか?」
爪;'ー`)「……」
( ^Д^)「フォックス?」
爪;'ー`)「……足がしびれて立てない」
『アインクラッドでも正座をすると足がしびれる』
その情報は瞬く間に全フロアに広がった。
.
- 121 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:57:09 ID:oGAfG2hk0
某都市
本城総合病院 別館院長室。
院長室はもともと本館にあるのだが、
事件以来別館に詰めることが多くなったため、
こちらにも院長室が作られた。
本館の院長室とは院内の独立回線で繋げてあり、
基本的にはどちらに居ても院長としての仕事が出来るようになっている。
(-@∀@)「さて、お二人ともお話とは?」
『院長 本城朝日』
と書かれたプレートの置かれた大きな机。
エンターキーを跳ねるように押した朝日が、
目の前のソファーに座る二人の男を見ながら専用の椅子から立ち上がった。
|(●), 、(●)、|「……」
_、_
( ,_ノ` )y━「……」
細長いローテーブル。
それを挟んで長辺には三人掛けのソファー。
短辺の片方には一人掛けのソファー。
三人掛けにはそれぞれ伊達と渋澤が一人で座っている。
一人掛けに座る朝日。
(-@∀@)「伊達さん?渋澤さん?」
|(●), 、(●)、|「……」
_、_
( ,_ノ` )y━「ふむ。それでは私からにしましょうか」
.
- 122 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/04(日) 23:58:17 ID:oGAfG2hk0
(-@∀@)「はいはい。どうぞどうぞ」
_、_
( ,_ノ` )y━「まずは、今日は内藤さんと宇佐木さん、
そして来島さんが来られていなかったようだが?」
(-@∀@)「内藤さんと宇佐木さんはお時間の都合がつかなかったようで、
連絡をもらっています。
後日今日の議事録は送らせていただきますよ」
_、_
( ,_ノ` )y━「来島の女傑は?」
(-@∀@)「……プライバシーにかかわることですが、
お二方ならば良いでしょうかね。
実は昨日から本館に入院されています」
|(●), 、(●)、|!
_、_
( ,_ノ` )y━「おい、それは」
(-@∀@)「昨日浅間神社の境内で転んだそうで、
骨折などはしておりませんし頭も打っていませんでしたが、
打ち身と打撲はありましたので、
念のため精密検査の為に入院していただきました」
|(●), 、(●)、|
_、_
( ,_ノ` )y━
あからさまに安堵の吐息を漏らす二人。
それを見て朝日の口元が緩む。
(-@∀@)「精密検査の方が問題なければすぐにでも退院できるほどの軽傷ですが、
仕事で海外にいるご家族が戻るのが2週間後との事でしたので、
打撲の方の様子も見て、もう少し入院していただこうかと思っています。
本館にいた方が、ここにいる久美子ちゃんのお見舞いにも来やすいですから」
|(●), 、(●)、|「ああ、そうしてくれ」
_、_
( ,_ノ` )y━「よろしく頼む」
.
- 123 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:00:02 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「はい」
_、_
( ,_ノ` )y━「それでだな、さっきの話に出た『協力している家族』というのは」
(-@∀@)「徳永さん、内藤さん、宇佐木さん、来島さんです」
_、_
( ,_ノ` )y━「やはりそうか」
(-@∀@)「うちの愚息で試した後、親類、俊雄君、武君、
そして朋美ちゃんや久美子ちゃんに付けさせてもらい、
その後随時皆さんに広めています。
もちろんその中には途中で止めて、
誰にも使用していないモノもあります」
_、_
( ,_ノ` )y━「ふむ……」
(-@∀@)「最先端機器ですので数をそろえるのも難しいものがあります。
基本的には各人の状況をもとに、それが有益な方にまずいくようにしております。
ただテストや効果を試さないといけないモノもありますので、
その辺に関しては……」
_、_
( ,_ノ` )y━「ああいや、それは良い。
あんたが『公明正大』だってのは、
ここ一年でよく知っているつもりだ。
だから甥っ子の身体を、完全に任せている」
(-@∀@)「ありがとうございます」
_、_
( ,_ノ` )y━「欲を言えばもっと早く言って欲しかったと思うが、
あんたのやっていることは、
違う角度から見れば自分の息子やその友人たちを、
家族の許可のもと試験の検体にしていると言われかねない内容だからな。
あんたを信頼し、落ち着いて聞けるようになった今で、
ちょうど良いだろう」
(-@∀@)「……ありがとうございます」
_、_
( ,_ノ` )y━「それで……だな……」
.
- 125 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:01:17 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「はい」
_、_
( ,_ノ` )y━「おれが情報を集めるのは、ただの好奇心だ。
大事なものを守るために使うことはあっても、
金や名誉なんてものにつなげようとは思わない」
(-@∀@)「はあ」
_、_
( ,_ノ` )y━「だからいつも結果だけでいいと思ってる。
そこに至る理由や情なんてのは、気にしない。
想像することはあっても、そこまでは正解を知ろうとは思わない」
(-@∀@)「……」
_、_
( ,_ノ` )y━「だからこれは、おれにとってはかなりのイレギュラーだ。
単刀直入に聞く。
あんたの息子のかぶっているナーヴギアはテスト品で、
バッテリー、補助電源が組み込まれていない。
だから今すぐ電源を切れば、助けることが出来る」
|(●), 、(●)、|!?
_、_
( ,_ノ` )y━「そうだな?」
(-@∀@)「……はい」
|(●), 、(●)、|「!な、なぜすぐ助けない!?」
_、_
( ,_ノ` )y━「おれもそれが知りたい」
(-@∀@)「妻とも相談はしましたが、
二人して同じ意見でした。
自然に目を覚ますまで、このままにしよう。と」
|(●), 、(●)、|!?
_、_
( ,_ノ` )y━!?
.
- 126 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:04:35 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「息子は一人で仮想世界に行ったのではありません。
友人たちと行きました。
身内ももう一人、行っています。
その仲間を残して一人で帰ることを、
息子はよしとしないでしょう。
何とかして、全員で帰る道を探しているはずです」
_、_
( ,_ノ` )y━「だが、もう二年経つんだぞ?」
(-@∀@)「この事件では、数千人の人が亡くなっています」
_、_
( ,_ノ` )y━「ならば!」
(-@∀@)「ほとんどの病院で、何名かの方がお亡くなりになっています」
_、_
( ,_ノ` )y━「?」
(-@∀@)「当院では、この地域で事件に巻き込まれた方、
ほぼ全員を預からせていただいております」
_、_
( ,_ノ` )y━「ああ。で、それが?」
(-@∀@)「ですが、当院では亡くなった方はいません。
収容人数の規模から考えれば、全国で見ても珍しい。
もしかすると、当院だけかもしれません」
_、_
( ,_ノ` )y━「お、おい、おまえまさか?」
(-@∀@)「私は確信しています。
息子は、それに何かしら関わっていると」
_、_
( ,_ノ` )y━!
|(●), 、(●)、|!
(-@∀@)「ま、さすがに親バカ発言なので大っぴらには言えませんけどね」
_、_
( ,_ノ` )y━「……いやはや……」
.
- 127 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:06:02 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「うちの息子は、良くも悪くも「そういう風に」育てられています。
もし一人だとしても、まずは地域の人間がいないか探しているでしょう。
ましてや今は、友人がそばにいる。
一人で帰ることなんて微塵も考えていないはずです。
その状態で息子一人助けたら、私達が息子に何をされるかわかったもんじゃ……」
_、_
( ,_ノ` )y━「何をされるっていうんだ?」
(-@∀@)「……頭が良い人間を、敵に回したらいけない」
|(●), 、(●)、|「……おいおい」
_、_
( ,_ノ` )y━「……」
言葉を濁す朝日。
引きつった彼の笑顔を見て、
同じように表情筋を引きつらせる二人だった。
.
- 128 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:08:11 ID:m6v2ZR4Y0
アインクラッド
ギルドVIPホームの執務室を出たフォックスは、
数歩歩いた後にうずくまった。
爪;'ー`)「まじかー」
そしてそのまま頭を抱える。
爪;'ー`)「あいつ頭良いくせしてばかじゃねーの。
んなこと考えるよりもっと考えることあるだろうが。
もしもの時にはおれがギルドを作ってみんなを?
むりむりむりむりむりむりむりむり」
床に向かって話しかける。
爪;'ー`)「VIPはともかく、
あいつがいなくなったら
確かにこっちは色々と不安定になるだろうけどよ。
だからっておれ?
おれ?
おれ?
おれじゃないだろおれじゃ。
他にいるだろ。
……
……
……
……
……いないのか。
三バカも生産者のいるギルドのギルマスって器じゃないし、
生産者組の奴らの中にもギルマスのできそうな奴はいない……か。
……
……
いやいやいやいや。
だからっておれじゃないだろおれじゃ。
確かにこっちのグループで一番冷静に見てるのはおれかもしれないけどよ、
それだってあいつに誘導されて色々とやってるだけだろうが。
……もしかして最初からそのつもりだったのか?
……
……
あーもうだからおれより頭のいい奴と話すの嫌なんだよ。
結局丸め込まれるし。
つーか『もし』なんて起きてくれるなよこんちくしょう」
.
- 129 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:09:24 ID:m6v2ZR4Y0
大きくため息をつくフォックス。
|; ^o^ |「どうしたのですか?」
爪;'ー`)「うをっ」
頭の上から声をかけられ、
驚いて立ち上がったフォックス。
声をかけた方も驚いていた。
|; ^o^ |「ど、どうしたのですか?」
爪;'ー`)「ブームか。いや、なんでもない。
ちょっと色々考えてただけだ。
おまえはどうしたんだ?」
|; ^o^ |「そろそろ帰ろうかと思ったので、
フォックスに声かけとショボンにも挨拶をと思いまして」
爪'ー`)「お前ひとりで?」
.
- 130 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:10:27 ID:m6v2ZR4Y0
|; ^o^ |「……プギャーとシラネーヨは止めておくと言っていまして」
爪'ー`)「ははは。
……ま、帰るときにはショボンも顔を出すだろうからな。
今ならまだそこの部屋にいるはずだぞ」
| ^o^ |「はい、わかりました。
ありがとうございます」
フォックスの横を通って執務室のドアをノックするブーム。
『開いてるよー』
ドアノブに手をかけたブームが、フォックスを見る。
爪'ー`)?
| ^o^ |「フォックス、
あなたがギルマスをやるのならば、
協力しますので安心してください」
爪;'ー`)!
ドアを開けて部屋に入るブーム。
爪'ー`)「……とぼけた面していても、
あいつもあの人の息子ってことか」
その姿を固まった状態で見つめていたフォックスだったが、
ため息交じりに呟くと応接室に向かって歩き出した。
.
- 131 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:13:01 ID:m6v2ZR4Y0
某都市
本城総合病院 別館院長室
(-@∀@)「それで、伊達さんのお話というのは?」
|(●), 、(●)、|「こちらの話は……」
ちらっと渋澤を見る伊達。
その視線を受けて、渋澤はにっこりとほほ笑んだ。
|(●), 、(●)、|「……はぁ。どうせ知ってることだな」
その笑顔を見て、心底嫌そうに顔をゆがめた伊達だったが、
諦めて一呼吸置くと、朝日に身体を向けた。
|(●), 、(●)、|「先日、ここから出ていくスーツの男を見た」
(-@∀@)「はい。
病院にはスーツの男性は患者さん、
関係者の方といっぱいいらっしゃいますから」
|(●), 、(●)、|「名前は菊岡という男だ」
(-@∀@)
伊達を見ながら薄く口元に笑みを浮かべる朝日。
その顔を見て、渋澤は少しだけ驚いた顔をした。
_、_
( ,_ノ` )y━「(こんな風に笑うのは初めて見たな)」
|(●), 、(●)、|「知っているな?」
(-@∀@)「『菊岡誠二郎』さんのことですか?
総務省、SAO事件被害者救出対策本部の」
.
- 132 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:14:39 ID:m6v2ZR4Y0
|(●), 、(●)、|「そうだ、菊岡だ。
だが、総務省?今総務省って言ったか?」
(-@∀@)「ええ。総務省です。
今回の事件での対応は総務省の管轄ですから」
|(●), 、(●)、|「おいおい、どういうことだ……」
_、_
( ,_ノ` )y━「伊達さんの顔がいくら大きいと言っても、
自衛隊畑の伊達さんが総務省の役人さんの顔を知っている。
それは、それは……」
|(●), 、(●)、|「おい、誰にも言うなよ」
_、_
( ,_ノ` )y━「言いませんよ。
いや、『言えませんよ』の方が正しいですが」
|(●), 、(●)、|「院長、あいつはいったい何をしているんだ?」
(-@∀@)「今回の事件の本当の責任者……だと思われます。
肩書はありませんでしたし、明言もされていませんが」
|(●), 、(●)、|「なんだと」
(-@∀@)「解決に向けて尽力を注いでいらっしゃいますよ」
|(●), 、(●)、|「ちょっとまて!」
(-@∀@)「こちらとしても、解決に向けて協力を惜しまないでいく」
|(●), 、(●)、|「やめろ!
あいつには関わらない方が良い!」
(-@∀@)「そう言われましても、
彼の持つ情報はこちらにも有益なものが多いので」
_、_
( ,_ノ` )y━「!伊達さん、もうそれくらいで」
.
- 133 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:17:29 ID:m6v2ZR4Y0
|(●), 、(●)、|「渋澤は黙っていてくれ。
院長、悪いことは言わない。
あいつとは関わらない方が良い。
あいつは……」
(-@∀@)「防衛省、自衛隊、キャリア……」
|(●), 、(●)、|!
_、_
( ,_ノ` )y━「……あー」
(-@∀@)「私は、彼が『どういった方』かを知っています。
そして彼は、『私が彼の事を知っていること』を知っています。
伊達さん、渋澤さん、正直なところ、日本で認可されていないモノや、
実務ベースまで持ってきているとはいえまだ研究段階の物を実際に使用するのは、
色々と大変なんですよ。
集めることは私のコネで出来ても、
そこから先の役所仕事の点ではなかなかね。
しかし彼は、そのあたりを可能にしてくれる力をもっています」
表情筋だけで笑う朝日。
その笑っていない目を見て、
渋澤が顔をひきつらせた。
(-@∀@)「ウィンウィンの関係には、対価が必要です。
うちの息子を含めた六名には、
脳波の採取を目的とした電極を数多く着けています。
ナーブギアをかぶった後に付けた方に比べて、
より多くの情報を得ることが出来ます。
アインクラッドに囚われた方の中で、
このような状態の方は多くない」
|;(●), 、(●)、|「おい、おまえは……」
.
- 134 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:18:25 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「もちろんご家族の方には了承を得ています。
そして私の妻をはじめ、
来島のご夫婦、マシロの会長といった顔のきく方には、
それなりのご協力もお願いし、
万全の体制を作っているつもりです」
_、_
( ,_ノ` )y━「……あ」
ぽかんと口を開けた渋澤。
電子タバコが口からこぼれる。
それを横目で見た伊達が怪訝な顔をした。
そんな二人を視界に収めた朝日が、
心の底からの笑顔を見せた。
(-@∀@)「いやしかし、お二方から水を向けていただいてよかったです。
正直、いつ巻き込むいえ、相談しようか時期を探していましたので」
|(●), 、(●)、|「……!」
_、_
( ,_ノ` )「い、嫌おれは別に!」
(-@∀@)「渋澤さんが『外に言えないこと』を知ってしまったことを、
私は知っています」
_、_
(;,_ノ` )y「!」
(-@∀@)「お二方の人脈と情報力をもって、
ご協力をお願いします」
立ち上がり、腰を折って頭を下げる朝日。
官僚の謝罪のような心の感じないお辞儀だが、
その姿は綺麗だった。
言葉をなくす二人の目の前で、朝日が体を起こした。
.
- 135 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:19:25 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「伊達さん、渋澤さん。
正直に言いましょう。
私は、息子はもちろんこの別館にいる全ての方が、
無事に目を覚ますために尽力を尽くすつもりです。
中で息子が頑張っている以上、
こちら側は私がどうにかするのが、
私の使命だとおもっております。
目を覚めた後に、出来るだけ早く今までに戻るための、
考え得る全てを行うつもりです。
ギリギリの事もするつもりです。
その為には、清濁飲み干すつもりです。
でも最後には、絶対に笑います。
みんなで、笑ってみせます
伊達さん、渋澤さん。
その為に、ぜひ、ご協力をお願いします」
|(●), 、(●)、|「本城院長……」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「……吸わせてもらうよ」
(-@∀@)「どうぞ」
ローテーブルの上の、
今まで一度も使われていないガラスの灰皿を、
渋澤の前に置く朝日。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「こんなのは、本物を吸わなきゃやってられない」
(-@∀@)「渋澤さん」
_、_
( ,_ノ` )y━・~「伊達さんも、腹を括った方が良いぞ。
知っちまった以上、逃げられない処におれ達は連れてこられたみたいだ」
|(●), 、(●)、|!
.
- 136 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:20:24 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「人聞きが悪いですね。
まるで私が企んだみたいじゃないですか。
今日、この場を作ってほしいと言われたのはお二方ですよ」
困惑した表情で二人を見る朝日。
そんな彼を、
疲れた表情で見返す伊達と渋澤。
|(●), 、(●)、|「……ああ。腹を決めるとしよう。
首を突っ込んだ以上仕方ない。
息子の為にも、それが最善だろうからな」
(-@∀@)「ありがとうございます。伊達さん」
伊達が差し出した手を握る朝日。
それを冷めた目で見ていた渋澤が、
ぼそりと呟いた。
_、_
( ,_ノ` )y━・~「だから自分より頭のいい奴と話すのは嫌なんだ」
.
- 137 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:22:35 ID:m6v2ZR4Y0
アインクラッド
バーボンハウスを出た四人は、
とぼとぼと転移門に向かって歩いていた。
( ^Д^)「はぁ……」
爪'ー`)「ふぅ……」
( ´ー`)「二人してため息とか気持ち悪いだーよ」
| ^o^ |「ホントですよ」
( ^Д^)「うるさい」
爪'ー`)「そっとしておいてくれ」
前を歩く二人の肩が極限まで落ちており、
猫背気味に歩いているため声をかける後ろの二人。
しかし無下にされてしまった。
('A`)「心配してくれてる仲間にそれはないだろ」
(;^Д^)「うをっ」
|; ^o^ |「わっ」
(;´ー`)「ドクオ!?」
爪'ー`)「今日はもう何も考えたくないだけだ」
突然前の二人の横に現れて普通に歩きながら話しかけたドクオ。
それに驚いた三人は思わず立ち止まってしまうが、
気にしなかったフォックスは数歩そのまま歩いた。
.
- 138 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:25:21 ID:m6v2ZR4Y0
('A`)「だめだぞお前ら。
ちゃんと鍛えたんだから街でもスキル使っておかないと」
( ^Д^)「ちょっと見てなかっただけだ」
('A`)「ま、そういう事にしておいてやるよ。
フォックスは驚かなかったな」
爪'ー`)「驚いた。
でも今日はもう何も考えたくない」
('A`)「多分そういうところをショボンは認めてるんだと思うけどな」
爪'ー`)「……止めてくれ」
| ^o^ |「そ、それで突然どうしたんですか?」
('A`)「ん、いや転移門までの周辺警戒のつもりだったんだけど、
店を出てからここまで歩いても特に誰もいなかったからもういいかなって」
ドクオが身振りで促し、
再び転移門まで歩き始める五人。
( ´ー`)「そういえば、今回は隠れて出入りしなくて良かったのかーよ」
('A`)「おれ等がつながっているのは知られているからな。
知られたくないことに関わらない所は別にいいだろ」
| ^o^ |「そういうものですか」
('A`)「らしい」
( ´ー`)「お前の意見じゃねーのかよ」
( ^Д^)「なにをばかな」
爪'ー`)「こいつの意見であるわけないだろうが」
('A`)「……事実だけど人に言われるとムカつくな」
.
- 139 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:26:44 ID:m6v2ZR4Y0
| ^o^ |「まあまあ」
( ´ー`)「しかたないだーよ」
眉間に皺を寄せたドクオを見て、
ブームとシラネーヨが笑う。
('A`)「まったく……」
ドクオは笑っていないプギャーとフォックスを見て肩をすくめた。
爪'ー`)「ドクオ、ショボンはどこまで本気なんだ?」
('A`)「ん?どれに関してだ?」
爪'ー`)「『みんなで帰る』ってやつだよ」
('A`)「100パーセント本気だ。
実際いまのところ誰も死んでないだろ?」
( ^Д^)「……だが……」
('A`)「ま、最初は目標程度だったけどな。
プギャー、シラネーヨ、ブーム、あいつが本気になったのはあの後だよ」
( ^Д^)?
( ´ー`)?
| ^o^ |?……!
('A`)「そ、ギコと一緒にお前らが死ぬかもしれなかったあのクエストの時だ」
( ^ω^)「ショボンはあの時、自分の甘さを痛感したんだお」
.
- 140 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:27:41 ID:m6v2ZR4Y0
ξ゚听)ξ「甘さ?」
雑貨屋Booon店内。
カウンターの中にブーン。
鑑定待ちをする人用に設置されている、
カウンター沿いの長椅子にツンが座っている。
( ^ω^)「そうだお。
『これだけやっておけば大丈夫だろう』って思っていたことが、
あの時あの三人が死にそうになったことで、
『今のままじゃダメなんだ』に変わったんだお」
ξ゚听)ξ「あれって、あの三人の独断行動でしょ。
ショボンは止めていた内容なわけだから」
( ^ω^)「だお。でも、ショボンはそう思わなかったんだお。
『それを想定しなかった自分』を責めたんだお」
ξ゚听)ξ「……ほんと馬鹿ね」
( ^ω^)「ギコとしぃをギルドにいれたのも、
そんな自分を忘れないため、
戒めるためってのもあったかもしれないおね」
ξ゚听)ξ「え、ちょっとそれって」
( ^ω^)「もちろん二人が優しい人間だったから。
っていうのが誘った一番の理由だお。
でも、あの二人ならVIPに入らなくても生きて行けたと思うから、
あの時すぐに入れなくても良かったと思うお」
ξ゚听)ξ「……そうね」
( ^ω^)「まだ話すかお?」
ξ゚听)ξ「……うん。
あ、そうだ。
お茶入れるね」
.
- 141 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:28:41 ID:m6v2ZR4Y0
( ^ω^)「お……?」
ツンがウインドウを操作してティーポットとカップを二つ取り出した。
ξ゚听)ξ「この前アシュレイとコラボしてワンセット作った時に、
お客さんからもらったのよ。
誰でも淹れることのできる茶葉だって」
(;^ω^)「それはこの前飲まされた謎の実とは……」
ξ*゚听)ξ「ば、ばか、コカオの実とは関係ないわよ。
えっと、ここをタップして……」
誰でもお茶を淹れることのできる『トライアのティーポット』に、
水色の小さなたわしのような形をした茶葉を入れ、
ティーポットの蓋を二回タップするツン。
途端にティーポットの中がお湯で満たされ、
きっかり25秒後にさわやかな香りが漂った。
ξ゚听)ξ「よし、出来上がり」
そしてテーブルの上に三つのカップに注ぐ。
ξ゚听)ξ「ん?三つ?」
川 ゚ -゚)「私には淹れてくれないのか?」
ξ゚听)ξ「ってクー!いつの間に!」
ツンの隣に腰かけているクー。
川 ゚ -゚)「?ちゃんと声はかけたぞ?」
(;^ω^)「返事をしないなーとは思ったけど、
気付いていなかったとは」
川 ゚ -゚)「初めての手料理ごちそうだからな。
緊張して当然だ」
.
- 142 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:29:50 ID:m6v2ZR4Y0
ξ*゚听)ξ「ば、な、なに言ってるのよ!
それに手料理は今迄にだって食べてもらってるし!
おにぎりとか、家庭科で作ったパウンドケーキとか!
だしまき玉子焼きとか!
ね、ブーン!」
(;^ω^)「おー。具がドンパッチのおにぎりとか、
噛めないくらい堅いケーキとか、
おもちゃの山車が一緒に焼かれた味のないスクランブルエッグの事かお?」
川 ゚ -゚)「訂正しよう。
『初めて美味しいと言ってもらえるかもしれない』手料理の披露だからな。
緊張して当然だ」
ξ#゚听)ξ「うるさい!」
( ^Д^)「あの時?」
('A`)「ああ」
転移門広場までもう少しということころで立ち止まったプギャー。
ドクオはそのまま数歩進んだが、
自分以外は立ち止まったことに気付いて振り返った。
('A`)「……最初から話すか。
フサギコのバーボンハウスに行こう。
今日はフサギコはいないはずだし、
あそこならゆっくり話せる」
( ^ω^)「もともと『バーボンハウス』はシャキンのやってるお店ってことはしってるおね?」
.
- 143 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:30:47 ID:m6v2ZR4Y0
ξ゚听)ξ「うん。聞いた」
川 ゚ -゚)「ああ。実際に行ったことは無いが」
ξ゚听)ξ「というか、お店の存在も知らなかった」
( ^ω^)「おっお。でもゲーマーの間では結構有名なんだお」
('A`)「スタッフにゲーマーがいたらしくて、
小規模な交流会とかやってたから」
| ^o^ |「一度行きたいと思っていました」
( ´ー`)「同じくだーよ」
爪'ー`)「おれはそっちも二回くらい参加した。
プギャーも一回あったよな」
( ^Д^)「ああ。一回だけ参加したことある」
('A`)「そっちはシャキンは出てないみたいだけど、
地域の大人のゲーマーにとっては静かに遊べるところだって
噂になっていたって話だ」
ξ゚听)ξ「へー」
( ^ω^)「だからショボンは『バーボンハウス』にしたんだお。
『ホンジョー』でもなく、『マシロ』でもなく、
『バーボンハウス』に」
川 ゚ -゚)「地域のナーヴギアを買うくらいの大人でゲーム好きなら、
『バーボンハウス』という名に反応すると考えたわけだな」
( ^ω^)「だおだお」
.
- 144 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:32:54 ID:m6v2ZR4Y0
ξ゚听)ξ「そして高校生から下くらいは『VIP』、
『ビップ』で反応するかもと」
川 ゚ -゚)「うちの学校は良くも悪くもそれなりに有名だからな」
( ^ω^)「いや、ギルド名は決める相談をしてる時に
『学校名でいいじゃない。メンドクサイ』って言ったからだおね。
二人が」
ξ゚听)ξ「あらそうだったかしら」
川 ゚ -゚)「覚えてないな」
(;^ω^)「(この二人、こういう時は更に息がぴったりだおね)」
爪'ー`)「それでも、病院の名前やマシロの方が人は寄ってきたんじゃないか?」
('A`)「……最初の頃は、そこまで人を集めるつもりは無かったから。
もともとは、シャキンがプギャーを見かけて、
探し始めてからだよ」
( ^Д^)「は?」
('A`)「お前を見かけたシャキンが、
お前を探し始めてから『NS』がすこしギクシャクしたんだ。
「後輩の弟が来てる!」って言って、それに集中しだして」
( ^Д^)「おれを……探して?」
('A`)「シャキンとショボンは一度見た人の顔は忘れない。
シャキンは今までの学校生活はもちろん、
店にやってきた客は全員覚えているらしい」
| ^o^ |「それは……」
.
- 145 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:33:53 ID:m6v2ZR4Y0
('A`)「で、その事態を危険視したショボンが、
他にもいるかもしれない地域の人達を探そうって言いだした。
まああいつのことだから、早い段階で思ってはいただろうけど、
そのことを皆に言いだしたのはその時が始めてだ。
ギルドが出来て、仲間も増えて少し経った頃だな」
ξ゚听)ξ「兄者と弟者が入ったころよね。
バーボンハウスの屋台を引き始めたの」
川 ゚ -゚)「ああ。最初から『屋台』に拘っていたのを覚えてる」
( ^ω^)「食べ物を下に置くのは嫌だってショボンが言ったんだおね」
ξ゚听)ξ「……おぼっちゃまね」
川 ゚ -゚)「おぼっちゃまだな」
(;^ω^)「否定はしないお」
('A`)「この世界の人を探すのは、名前が分かるかよほどの特徴がないと難しい。
そこで『バーボンハウス』を餌にして、これに反応する人を探そうってことになったんだ」
( ^Д^)「おれを探すため……」
爪'ー`)「で、おれ達がわらわらと集まってきたわけか」
('A`;)「言葉は悪いけど、そういうことだな」
( ´ー`)「でも、なんでVIPには入れてくれないんだーよ」
| ^o^ |「はい。それが不思議です」
('A`)「……VIPは……」
.
- 146 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:35:01 ID:m6v2ZR4Y0
爪'ー`)「『友達』の集まりが、VIPってことだろ?」
('A`)「フォックス……」
爪'ー`)「地域とか関係なくつながっている仲間。
ってことじゃないのか?
若様……ショボンがそう思ってるメンバー。
実際半数以上は出身バラバラだよな」
('A`)「……友達だし、仲間だけど、ちょっと違うかな」
爪'ー`)「なにがだ?
あ、別に非難はしてないぞ。
ここでの戦闘は命のやり取りだ。
信頼できる仲間で固めた方が良い」
('A`)「それはそうだけど……。
……いまVIPにいるやつらは……さ、
身近にこの世界での死を実感したり、
人の黒い部分を見てしまったりして、
この世界でうまいこと生きていくことが出来なかったん……だよな。
もし、一人だったら、自ら死を選んでしまったかもしれない奴ら……なんだよ」
( ^Д^)「それは……」
爪'ー`)「おまえ達五人もか?」
('A`)「……おれは、さ、結構冷めてるから、
正直最初はホントにブーンとショボンとツンとクー、
んでシャキンが無事ならそれで良いって思ってたかな。
一人でいても、まあ、大丈夫だったかもしれない。
けれど色々あって、今は全員大事だって思えるようになった。
でもツンとクーは、一時期はホントに危うかった。
ブーンはそうだな……。多分、おれ達がいたから大丈夫だったけど、
一人だったらやばかったな。
ショボンは……もしかすると、一人にしたら一番やばかったかもしれない」
( ´ー`)「……しんじられないだーよ」
.
- 147 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:36:04 ID:m6v2ZR4Y0
('A`)「ま、おれ達にも色々あったってことさ。
それで、何故かおれ達の作ったギルドはそういう思いを抱えた奴と次々と出会っていって、
いつの間にかこんなギルドに成長していた」
| ^o^ |「みなさんが……」
('A`)「それなりに有名になった分、
うちのギルドは注目されている。
攻略組からのスカウトはもちろん、
中層プレイヤーからは嫉妬みたいな負の感情をぶつけられることもある。
ショボンも最初はギルドに入ってもらおうかと思っていたみたいだけど、
ギルドに入ることのメリットとデメリットを考えると、
VIPに入ることは断ることにしたみたいだ。
ただ、同じ地域から来た者の繋がりとして、
出来る限りのバックアップはさせてもらうって言っていた」
爪'ー`)「無償で部屋の提供。
生産組にはそのノウハウや儲けの仕組み。
戦闘組にはスキルの組み立てやレベル上げのやり方。
他のギルドに入るのならば共同体から抜けるっていうルールと、
指定されている『危険』には近寄らないっていう約束以外は完全自由。
……この世界を楽しむ余裕を作ってくれたのはお前たちなんだよな」
('A`)「……ショボンの考えさ」
爪'ー`)「けれどここにきて、
戦闘組はより実践的な戦いを教えられるようになった。
そしておれはあんなことを言われた。
……何があったんだ?」
('A`)「……自分が居なくなった時のことを考えたのさ」
( ^ω^)「ショボンの言う『みんなで帰る』の『みんな』には、
自分が含まれてないんだおね」
ξ゚听)ξ「ほんと馬鹿よね……。ほんとに……」
.
- 148 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:37:00 ID:m6v2ZR4Y0
川 ゚ -゚)「もっと自分を大事にしてほしいが……」
ξ゚听)ξ「今日フォックスに言ったんでしょ。
自分がいなくなったらそっちはフォックスがギルマスのギルドを作ってどうにかしてほしいって」
川 ゚ -゚)「フォックスがギルマスのギルド自体はまあ何とかなるだろうが、
その前提が……。ショボンめ……」
( ^ω^)「僕達で、ショボンを助けるんだお。
この前は何もできなかったけど、
もしもの時は、僕達が……」
川 ゚ -゚)「そんなことがもう無いよう、
ショボンの監視ももっとちゃんとしないとだな」
.
- 149 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:38:16 ID:m6v2ZR4Y0
ξ゚听)ξ「ホントよね。
頭脳系のギルマスなんだから、
ずっと部屋に閉じ込めてドアを固めるか」
川 ゚ -゚)「いやそれは……」
ξ゚听)ξ「いや、もちろん冗談だからね」
川 ゚ -゚)「転移結晶ですぐ外に」
ξ゚听)ξ「だから、冗談です」
川 ゚ -゚)「ギルマス権限でドアとか開きそうだし」
ξ゚听)ξ「だから冗談だってば!」
( ^ω^)「おっおっお」
( ^Д^)「なんだよ……それ……」
('A`)「あいつは、自分が生きて帰ることには執着していない。
『みんな』が帰ることに尽力を惜しまないけれど、
そのなかに自分は含まれていないんだ。
だから、自分が居なくなった時のことを考えて、
フォックスにそんなことを言ったんだろう」
爪'ー`)「……流石若殿さま……」
| ^o^ |「フォックス……」
爪'ー`)「民草の事が一番だってか……クソが」
,
- 150 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:39:07 ID:m6v2ZR4Y0
( ´ー`)「フォックスが怒ってるとこ初めて見ただよ」
爪'ー`)「別に怒っちゃいねーよ。
ただムカついているだけだ」
( ^Д^)「それを怒ってるって言うんだけどな」
爪'ー‘)「これくらいで怒ったりしねーよ」
('A`)「……『キレてないですよ』……」
( ^Д^)
| ^o^ |
( ´ー`)
爪'ー`)「お前にキレる」
('A`)「ごめん」
.
- 151 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:40:12 ID:m6v2ZR4Y0
某都市
本城総合病院
本館と別館をつなぐ渡り廊下。
二つのセキュリティチェックを通り過ぎ、
車いすの女性を押した看護師が通り過ぎた。
来島「……こんな時間にすみません」
J( 'ー`)し「いいえ。基本別館はお見舞い24時間可能ですから。
でも来島さんの自由時間は消灯までですから、
それまでには戻りますからね」
看護師はドクオの母。
車いすに座っているのはクーの祖母であった。
来島「ふふふ」
J( 'ー`)し「笑っても駄目ですよー。
伊達さんや渋澤さんと違って、
わたしはルールを守りますからね」
来島「あのイタズラ坊主がいまや地元の有力者ですから。
ほんと、年を取るというのは不思議なものですね」
J( 'ー`)し「まだ来島さんはお若いですよ」
来島「徳永さんに言われてもねぇ」
J( 'ー`)し「あら、私じゃ不満ですか?」
来島「私より年齢がかなり若く、
さらに年より若く見える方に言われても、
お世辞か嫌味にしか聞こえませんから」
.
- 152 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:41:06 ID:m6v2ZR4Y0
J( 'ー`)し「ダメですよ。
褒め殺しをされても消灯前には戻りますからね」
来島「あら残念」
二人はくすくす笑いながら、
病室に辿り着いた。
クーの手を握る来島。
細く皺だらけの手だが、
その手は生気に満ちて優しく孫娘の手を握っている。
来島「息子さんの所に行ってあげてくださいな」
J( 'ー`)し「……はい。
ありがとうございます」
.
- 153 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:42:03 ID:m6v2ZR4Y0
ゆっくりと車いすから離れ、
気にしつつドクオのそばに向かう。
来島「私は……間違っていたのでしょうか」
J( 'ー`)し「来島さん?」
来島「久美子には、清く正しく生きることを教えてきたつもりです」
来島の呟きは、誰に対する者でもなく、
けれど一人で呟くのは苦しい呟きだった。
来島「間違えず、間違わず。
間違えた時には正しき道に戻れるよう。
時に厳しく、けれど愛情は持って、接してきたつもりです。
けれど、久美子は、違う世界に行ってしまった。
自分ではない自分になるために、
こんなものをかぶって、行ってしまった。
私がもっと違う風に接していたら、
久美子は、こんなものを被らずに済んだのでは……」
J( 'ー`)し「来島さん……」
来島「花も、踊りも、長刀も、
その心を強くするための物でした。
凛々しく、一人でも立てるように。
何事にも負けない心を持つように……」
J( 'ー`)し「うちの息子は、
コンプレックスの塊でしてね」
来島「え?」
J( 'ー`)し「身長も低いし、顔もたいしたことない。
頭も悪くはないけど決して良くはない。
運動も苦手ってことは無いけど得意では決してない。
女の子と話すのは苦手だし、
男の友達もすごく多いわけじゃない。
自分のとりえって何だろうって、悩んでいました」
.
- 154 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:43:01 ID:m6v2ZR4Y0
来島「徳永さん?」
J( 'ー`)し「でも、一個だけ自信があって、
そしてそれを守るために、必死に頑張ってました」
来島「……それは?」
J( 'ー`)し「ブーンくんとショボンくん、そしてツンちゃん。
内藤武君と、本城祥大君と、宇佐木朋美ちゃんと友達だってことです。
そして、最近はそこに来島久美子ちゃんも加わっていました」
来島「!」
J( 'ー`)し「私は、自分の息子を信じます。
その友達と一緒にいるんだから、
うちの子は絶対に友達を守るし、
四人と友達だって胸を張るために、
頑張っているって」
来島「徳永さん……」
J( 'ー`)し「そして、きっとこの子たちは、
別人になりたいからこれを被ったんじゃない。
面白そうなゲームだから、やってみただけなんですよ。
子供なんて、そんなもんです。
多分、うちの子はゲームの中では背の高い筋肉隆々のマッチョマンにでも変身して、
遊んでいるんだと思います。
小さいときにちゃんと牛乳飲めば大きくなれたかもしれないのに。
好き嫌いしてたから身長が伸びなかったんです。
帰ってきたら、今からでも飲ませないとですね」
ニッコリとほほ笑んだ徳永。
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- 155 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:45:26 ID:m6v2ZR4Y0
J( 'ー`)し「今はこの子たちが帰ってくるのを待ちましょう。
帰ってきたら、がっつり叱りましょう。
子どもが親に心配かけさせるのはしょうがないけど、
これはひどいってね。
そして、抱きしめてやりましょう」
来島「……ええ……ええ……ええ……」
来島の嗚咽が部屋に響く。
それを聞こえないふりをして、
じっとわが子の口元を見る徳永。
J( 'ー`)し「(俊雄、信じてるからね。
ちゃんと帰ってくるんだよ)」
浮かんだ涙を気づかれないようにぬぐい、
そっと息子の手の甲をつねってから来島に向かう。
J( 'ー`)し「さて、そろそろ消灯ですね。
戻りましょうか」
来島「……はい。
久美子、また明日来るからね」
もう一度ぎゅっと孫娘の手を握る来島だった。
(-@∀@)「ああ。うん。分かってる。
もちろんだよ。……ああ、ああ。
会長には昨日お願いをしておいた。
うん。伊達さんと渋澤さんも引き入れたよ。
……分かってる。ああ。
ああ、祥大の為になんとしても……うん。
…………おれも愛してるよ……」
別館院長室。
電話を切った朝日は一度大きく深呼吸をしてから席を立った。
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- 156 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:46:54 ID:m6v2ZR4Y0
アインクラッド
執務室の自分の席に座るショボン。
目の前の応接セットには、シャキンが座っている。
(`・ω・´)「で、準備は万端なのか?」
(´・ω・`)「僕が想像できる状況に対しての、
出来る限りの対策という話でなら、
ほぼ終了しているよ。
はい、これ」
シャキンの目の前にウインドウが現れ、
一つのアイテムが表示された。
(`・ω・´)「おれが確認するの?」
(´・ω・`)「他に誰がするの?」
(`・ω・´)「ですよねー」
アイテムをクリックすると、
見ただけでゆうに100ページを超えているであろうことが分かる、
A4サイズの本が現れた。
(`・ω・´)「前の時からどれくらい増えた?」
(´・ω・`)「指摘された分と、そこから派生する流れとか諸々。
50は無いと思うけど、
細かい点の修正はしてあるから全部に目を通してみて」
(`・ω・´)「はいはい」
ローテーブルの上に現れたその本の表紙をめくるシャキン。
するとかなりのスピードでページを捲っていく。
とても『読んで内容を把握している』様には見えないのだが、
ショボンは気にすることなく別の作業をしていた。
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- 157 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:48:16 ID:m6v2ZR4Y0
十数分後全てのページを捲り終えたシャキンが聞こえるように息を吐いた。
(´・ω・`)「どう?」
(`・ω・´)「こんなもんだろ。
ただ34と167の前回と変えた個所はもう少し検討してみてもいいかもしれん。
あと、54と132はほぼ同じように思えた」
(´・ω・`)「分かった」
(`・ω・´)「これ、他の奴らにも見せるのか?」
(´・ω・`)「もちろん。
といっても各人に必要な部分を抜き出したのも渡すけどね。
とりあえずクーとモナーには全体図の把握をお願いしたいから、
二人には全部目を通してもらうつもり。
出来れば兄者とツンにも全体の流れは見てもらいたいけど、
二人は嫌っていうだろうからなー」
(`・ω・´)「ブーンとジョルは?」
(´・ω・`)「ブーンは本能で動いてもらった方が事態は好転しそうだから、
とりあえず話して渡すけど、まあ渡すだけかな。
問題はジョルジュだけど……」
(`・ω・´)「……おれが言うか?」
(´・ω・`)「いや、これは僕が話すよ。
それにこれは僕の杞憂で終わる話かもしれない内容だからね」
(`・ω・´)「そうか……」
(´・ω・`)「それよりも、そっちの事をお願いしたいんだけど」
(`・ω・´)「こちらはサポートだからな。
その時に誰の指示に従うかだけ間違わなければ大丈夫じゃないか?」
(´・ω・`)「そう……かな」
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- 159 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:51:20 ID:m6v2ZR4Y0
(`・ω・´)「ミルナとデミタスは言わなくても、
ハインだってそうだな。
エクストとトソンもお前の信者だから問題ないだろ」
(´・ω・`)「そうかなー」
(`・ω・´)「大丈夫大丈夫。
他の奴らは?」
(´・ω・`)「プギャー達三人には話してある。
もしもの時は力を貸してほしいって」
(`・ω・´)「喜んでただろ」
(´・ω・`)「……うん。
あの三人も不思議だよね」
(`・ω・´)「あの三人を含め、チームマッシロの奴らはみんなお前に感謝してるからな」
(´・ω・`)「その『チームマッシロ』も止めてって言ったんだけどなー」
(`・ω・´)「『チームマシロ』を却下されたからだから、諦めろ」
(´・ω・`)「まったく……」
(`・ω・´)「フォックスがギルド作ったら、
名前は決定だな」
(´・ω・`)「やーめーてー」
机に顔をうずめるショボンとそれを見て笑うシャキン。
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- 160 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:52:21 ID:m6v2ZR4Y0
すると二人の視界の隅にランプがともり、
自分にしか聞こえないチャイムが鳴った。
(`・ω・´)「おっ」
(´・ω・`)「ああ。ブーンからだね。
時間だからドアを開けてくれたみたい」
(`・ω・´)「了解」
立ち上がり、執務室のドアを開けるシャキン。
(´・ω・`)「ありがと」
すると数分後、ショボンが視界に空間の歪みをかすかに感じると、
自然にドアが閉まった。
(`・ω・´)「おれの耳でもかろうじて足音のような音が聞こえるくらいか」
(´・ω・`)「来てくれてありがとう」
(`・ω・´)「久しぶりだな」
『おひさしぶり』
マントを脱ぐ電子音が、二回二人の耳に聞こえた。
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- 161 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:53:52 ID:m6v2ZR4Y0
某都市
本城総合病院 別館
24時間体制で看護はしているが、
基本的には全て医療機器に任せているため、
別館に常駐する看護師は少ない。
今日も詰め所にいた二人の看護師に声をかけた後に、
朝日は病室に向かった。
息子の眠るベッドの横に立つ朝日。
タブレットを開いてわが子の脳波を確認する。
(-@∀@)「祥大。今日はいっぱい笑ったみたいだな」
そう言いながら、ナーヴギアを撫でる。
慈しむようなその手つきから、愛情がうかがえた。
(-@∀@)「祥大。
とうとうだ。
そっちで死んだ時に起きる脳波の波形を完全に解明できた。
そして、その脳波を測定してからナーブギアが脳を焼くまでの時間もわかった。
俊雄君が報告してくれていたデータと、
亡くなられた方が残してくれたデータのおかげでな。
あとは、その電磁波を無効化する為のシステム作りだ。
そっちも見通しは立っている。
一番は水没法だが、ナーブギアの持つ電力を考えるとプールが必要かもしれん。
……本当に、このナーブギアは、様々な意味で完璧だよ」
悲しげに、けれどしっかりと呟く。
それは息子に語り掛けるようでもあり、
自身に向けての決意のようでもあった。
そして電源ケーブルに目をやる。
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- 162 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:56:36 ID:m6v2ZR4Y0
(-@∀@)「本当は、今すぐにでも切りたい。
システムの実用化はまだかかりそうだ。
もしも明日、いや、今、目の前で、
お前が死ぬかもしれないなんて、
考えたくもない。
でも、電源切ったら、お前は怒るんだろうな。
それでも、何度も、何度も、切ろうと思った。
でも、お前に怒られるのは、嫌だからな。
お前は、お前を助けてくれた内藤君と徳永君と、
離れたくないだろうからな。
……だから、父さんはこっちで頑張るから、
お前も頑張るんだぞ。
そして、ちゃんと帰って来い。
分かったか。祥大」
タブレットを仕舞い、
眼鏡をはずして目頭を押さえる朝日。
その目は、ショボンとよく似ていた。
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- 163 : ◆dKWWLKB7io:2016/09/05(月) 00:57:22 ID:m6v2ZR4Y0
第二十一話
終
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