141 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:39:39 ID:qvVRjSJI0

第二話 聖なる夜のキャロル


0.ゆるぎない歌


西暦2023年 12月中旬

( ^ω^)「…」

ξ゚听)ξ「珍しいじゃない。難しい顔しちゃって。買取価格決めるときぐらいでしょ、そんな顔するの」

( ^ω^)「あんまり褒めるなお」

ξ゚听)ξ「いや、褒めてない」

( ^ω^)「僕もそれくらいは分かってる」

ξ゚听)ξ「なら言うな」

( ^ω^)「いやなんとなく」

ξ゚听)ξ「あんたそれ多いわよね。で、なんなのよ」

( ^ω^)「いや、考えてみれば、そろそろ半分なんだおね」

ξ゚听)ξ「なにが?」

( ^ω^)「ここだお。百層から成る浮遊城、『アインクラッド』」

ξ゚听)ξ「そうね……。って、49層に来た時に散々盛り上がったじゃない。もうすぐ半分だって」

( ^ω^)「それはそれで」

ξ゚听)ξ「約一年で半分来れてるからね。うまくいけばあと一年くらいで開放されるかも」

( ^ω^)「だおね」

ξ゚听)ξ「それまで、なんとしても生き残らないとね」

( ^ω^)「だおだお」

(*゚ー゚)「あ、あの……」

ξ゚听)ξ「なに?しぃ」

(,,゚Д゚)「だったらもっと真剣に戦え!」

142 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:40:49 ID:qvVRjSJI0

それぞれに武器を振るうギルド『V.I.P.』の四人。
だがその姿勢は二種類に分かれていた。

(;*゚ー゚)「二人とも余裕過ぎます」

(#,,゚Д゚)「二人が強いのは知ってるが、そんなことじゃ足下すくわれるぞゴルァ」

ξ゚听)ξ「そんなこと言ってもさ」

( ^ω^)「おっおっ」

余裕のある二人と、いっぱいいっぱいの二人。
それが現実だった。

早朝の陽光の中、四人がいるのは第32層渓谷。
別名『さそりの谷』。
四方を土壁に囲まれたこの谷には、巨大なサソリ型モンスター【スクループ】が出現する。
両手の巨大な鋏と尾の先に付いた針で攻撃してくるプレイヤーよりも二まわりほど大きなモンスターだが、レベルはそれほど高くない。
更にこの谷の中には最大3匹しか出てこないため、ソロとしては辛いがパーティーで戦うには対処しやすく、ポップ数も多いため経験値稼ぎの人気スポットになっている。
そういった人気スポットは使用希望者の列が作られるのがほとんどで、紳士協定として各グループは一回最大一時間と決められていた。
ここは四方の土壁が階段のようになっているので見学もしやすく、早朝ゆえそれほどギャラリーは多く無いが、四人が戦う姿を見て野次を飛ばす者もいた。
144 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:41:44 ID:qvVRjSJI0

( ^ω^)「はっ」

ξ゚听)ξ「はっ」

その中で、ブーンとツンの戦い方は見ている者を感嘆させるものだった。
二人とも一人が一体を相手にしているがその戦いに危なげなど一切なく、緩急を混ぜてサソリを攻撃している。
鋏による攻撃を剣で受け流すことはあるが、頭上から来る尾の針による攻撃は完全に避けきっており、レベル差もあるとはいえまったくヒットポイントを減らさない戦い方はそう簡単には真似出来ないお手本といったところだろう。

そしてスイッチ。

交代である。

このスイッチには大きく二つのメリットがある。

一つには戦術。
一人が同じ武器で戦えばどうしても同じような戦いをしてしまい、簡易とはいえAIで戦っているモンスターに動きを読まれてしまうようになる。
しかし交代をすれば同じ武器でも違う相手が、更に違う武器なら尚更敵のAIを混乱させ、隙を突いた戦い方が出来るのだ。

145 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:42:31 ID:qvVRjSJI0

ブーンとツンは、恐ろしいほどのコンビネーションでのスイッチを見せていた。

同タイミングでの剣技。
属性は突進技。
自分の敵をノックバックさせつつ相手の敵を射程に捕らえる位置に移動し、自分の硬直が解けると同時にさっきまで相手が戦っていたモンスターを攻撃する。
位置取り、タイミング、ほんの少しでもずれれば出来ない舞うような動きにギャラリーからは感嘆の声も漏れていた。

そして先ほどまでとは全く違う剣の流れ二匹のサソリは翻弄されている。

スイッチのもう一つのメリットに、剣技後のフォローがある。
一人が剣技を放った後の硬直時に合わせれば、隙を無くすことが出来るからだ。

146 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:43:38 ID:qvVRjSJI0

(*゚ー゚)「はっ!」

小刀を赤く光らせて突進するしぃ。
死角を利用し、尚且つ剣技のサポートを使ってすばやく近寄る上手い接近だったが、三連撃の最後を外してしまう。

(;*゚ー゚)「あっ」

(,,゚Д゚)「しぃ!」

剣技後の硬直を起こしたしぃを狙うサソリの尾。
後ろでしぃの突撃を見ていたギコが慌てて走るが間に合いそうにもなく、尾の針が陽光を反射させた。

(;,,゚Д゚)「防御だ!」

ヒットポイントにも余裕があり、レベルから言えば会心の一撃を受けたとしても死ぬことは無いだろう。
だがやはり『攻撃を受ける』という行為は心に傷を負う。
防御の姿勢をとって相手の攻撃を受けるのならまだしも、無抵抗に攻撃を受けるのはどうしても恐怖を覚えてしまう。

(;*゚ー゚)「!」

息を呑み目を見開いて自分を襲う尾の針から視線を外せなかったしぃの目の前を覆う影。

( ^ω^)「ギコ!もっとよく見るんだお!」

尻尾を剣で一閃。
切り裂かれて部位破壊されるサソリの尾。

(*゚ー゚)「ブーンさん!」

(,,゚Д゚)「ブーン!」

そしてすぐに踵を返す。

( ^ω^)「しっかりやれお」

向かう先はツンが戦っていたサソリ。

147 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:44:39 ID:qvVRjSJI0

ブーンが戦っていたサソリは別方向へ走り出したブーンを追って行こうとした。
そのまま行けば三人が後方から襲われてしまうため、ツンは強引に自分前の敵をノックバックさせてから、ブーンを追おうと動き始めたサソリに渾身の一撃を放つ。
もちろん今度はツンが二匹に狙われてしまう上、さっきまで自分が戦っていたサソリには背を向けてしまった。

そこにブーンが戻り、ツンの背に自分の背を合わせて呼吸を整える。

ξ゚听)ξ「まだ向こうにいても良いのに」

( ^ω^)「ここで二匹も離される訳には行かないお」

ξ゚听)ξ「ちっ」

そして軽口を叩きつつ自分の前にいる敵をポリゴンに変える二人。

ξ゚听)ξ「さぁ次こい!あと15分!」

( ^ω^)「負けないお!」

148 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:45:41 ID:qvVRjSJI0

ギャラリーの歓声を聞きながら、それが自分たちに向けられているものでないことを実感しつつ何とか目の前の敵をポリゴンに変えるギコとしぃ。

アバターはしていないはずの呼吸を整えつつ、次のサソリが出現するであろう場所を見つめる。

(*゚ー゚)「ギコ君」

(,,゚Д゚)「何だゴルァ」

(*゚ー゚)「……がんばろう。あの二人を、ギルドの皆を目指して」

(,,゚Д゚)「もちろんだゴラァ!」

壁面の巣穴から現れたサソリに向かって剣を向ける二人だった。

149 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:51:58 ID:qvVRjSJI0

1.はじまりの歌



(´・ω・`)「早朝特訓お疲れさま」

バーボンハウスに戻ると、ショボンが朝食の準備をしているところだった。

ξ゚听)ξ「一回部屋に戻るけどすぐ来るから」

(*゚ー゚)「あ、私も一回戻って着替えてきます」

(´・ω・`)「二人ともいってらっしゃい。二人は良いの?」

奥のドアから自室に向かったツンとしぃを見送りながら武装のみ解除するブーン。
遅れてギコもウインドウを操作して武装を解除する。

( ^ω^)「汗をかいてるわけじゃないし、このままで良いお」

(,,゚Д゚)「お、俺も」

そう言いながらブーンはいつも座っている席に座った。
所在なさげに立つギコを見て少し笑みをこぼしながら視線でショボンが着席を促す。
それをうけて頭をかきながら座るギコ。

150 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:52:51 ID:qvVRjSJI0

(´・ω・`)「どうだった?」

( ^ω^)「今日も引き分けだお」

(´・ω・`)「二人の賭けなんか聞いてないよ。ギコとしぃの特訓はどうだったのかってこと」

( ^ω^)「まだスイッチのタイミングが甘いお。ギコは早すぎてしぃちゃんは遅い。あとしぃちゃんはまだダガーの扱いに慣れてないところがあるから、そこからだおね」

(,,゚Д゚)「お、おう。…あれじゃあ早いのか…」

(  ^ω^)「早すぎって程じゃないお。でも相手や使うソードスキルによってはタイミングが悪くて当たらなかったり二人とも危険になる可能性もあるからもう ちょっと良く見ることが大事だおね。そうすれば、あの時しぃが三連撃の最後を外したのを見て最良の対処がちゃんと出来たはずだお」

(,,゚Д゚)「…わかった。気をつけるぞゴラァ」

ξ゚听)ξ「しぃが遅れるのは観察しすぎて動くのが遅くなる感じね」

151 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 23:07:29 ID:qvVRjSJI0

着替えたツンが店内に戻り、席に着く。
ショボンがその前に湯気が立ち上るティーカップを置くと、お礼を言ってから口をつけた。

ξ゚听)ξ「美味しい」

(,,゚Д゚)「観察しすぎる?」

ξ゚听)ξ「うん。怖気づいてるとか恐怖からによる動きの遅さじゃなくて、敵とギコの動きを見すぎて動けてない感じ。もしかすると自分の判断に自信がもててないのかも。どう?しぃ」

(*゚ー゚)「正直自身は無いです」

遅れて戻ってきたしぃが戸惑いつつもギコの隣に座り、頷いた。

(*゚ー゚)「このタイミングで良いのかとか、この攻撃で良いのかとか。色々考えてしまって」

152 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 23:10:40 ID:qvVRjSJI0

ξ゚听)ξ「ダガーの扱いはだいぶ慣れてきてるみたいだから、そっちに自信が付けばどうにかなるのかなと思ったけど、やっぱり後は経験ね」

(*゚ー゚)「はい。頑張ります」

(´・ω・`)「そうか。そろそろ採取とか低層の素材クエストをやってもらおうかと思ったけど、まずしぃはダガーの訓練からだね。モララーかモナーに訓練を頼むかな」

(*゚ー゚)「あのお二人も短刀使いなんですか?」

(´・ω・`)「モララーはね。今は爪使いだけど、元は短刀使いだからいいんじゃないかな」

ξ゚听)ξ「モナーの方が良くない?本人は槍使いだけど、短刀使いを動かすの上手いし」

(´・ω・`)「技術はモララー。対モンスター用の実戦形式はモナーかな」

153 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 23:11:26 ID:qvVRjSJI0

(;^ω^)「モナーが短刀使いを動かすの上手いって…っていうかあれは短刀じゃなくて爪じゃ」

ξ゚听)ξ「モララーだって爪使いじゃない」

(;^ω^)「いや、だから、そういうもんじゃないんじゃないかと思うお」

三人の会話を不思議そうに聞いているギコとしぃに気付き、ショボンが首をかしげる。

(´・ω・`)「あれ?二人ともモララーもモナーもあったことあるよね」

(,,゚Д゚)「ああ、あるぞゴラァ」

(*゚ー゚)「入団したあとに皆さんに挨拶しにショボンさんに連れていってもらって、その後も何度か」

(,,゚Д゚)「喋ってはいるけどまだ戦ってるところは見たこと無いぞ」

(´・ω・`)「そっか。まぁ二人とも自分絡みの素材集めとクエストくらいしか出てこないからね。モララー辺りはそろそろ素材集めに行かないとだろうから、素材のレベルによっては一緒に行こう」

(,,゚Д゚)「おう!」

(*゚ー゚)「はい!」

154 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 23:12:15 ID:qvVRjSJI0

('A`)「おはよ〜。つかれた〜。めし〜」
 _
( ゚∀゚)「めしー!おはー!」

外に繋がる扉が開き、ドクオとジョルジュが入ってくる。
ドクオは疲労困憊しているように見え、逆にジョルジュは活力に溢れているようだ。
ふらふらと席に着くドクオと、どっかりと擬音をたてつつ座るジョルジュ。

(´・ω・`)「お帰り。首尾はどう?」
 _
( ゚∀゚)「とりあえず一つクリアして持ってきた」

('A`)「飯食って一眠りしたら細かいところを報告する。とりあえず飯をくれ、飯を」

(´・ω・`)「はいはい。あとはクーだけど、朝食の時間は過ぎてるし、先に食べようか」

( ^ω^)「おっおっ食べよう食べよう」

ξ゚听)ξ「意地汚いわねぇ」

('A`)「はやく〜」
 _
( ゚∀゚)o彡°「めーし!めーし!」

(*゚ー゚)「あはは」

(,,゚Д゚)「これでおれとは比べ物にならない強さなんだよな…」

ギコの呟きは隣にいるしぃにさえ聞こえず、ギルド『V.I.P.』の朝が今日も平和に始まった。
162 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:24:37 ID:yoNxKQgo0

2.こんとんの歌


レストラン『バーボンハウス』の二階にある部屋。
主に会議に使われるこの部屋はギルドメンバーなら誰でも入ることが出来る。
そしていま、中央に置かれた長机の端には四人の男女がいた。

川 ゚ -゚)「なるほどな」

目の前に置かれた野草を突付きながらクーが呟いた。
四人の視線が野草に集中し、漂う雰囲気も決して明るくは無い。

川 ゚ -゚)「これが季節によるものなのか、そうではないのか…」

('A`)「クックルも気にしてた」

川 ゚ -゚)「農園がやられたら大惨事だからな」
 _
( ゚∀゚)「魚の釣れる難易度は変わってないけどよ、なんとなく違和感はあるな」

('A`)「モナーの方の牧場は大丈夫みたいだ。ただ餌の牧草が足りなくなったら困るとはいってたな」

(´・ω・`)「なんにせよ、調査続行だね。アルゴさんや信頼できる情報屋には連絡を入れて、情報の共有化をするよ」

('A`)「それがいいだろうな」

163 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:25:37 ID:yoNxKQgo0

(´・ω・`)「さて、もう一つの件だけど、どう?なんか情報は集まった?」

('A`)「そっちは何も無い」

話題が変わった途端に雰囲気が変わり、和やかになった。

('A`)「っていうか、本当にあるのかよ」

(´・ω・`)「あると思うよ。『クリスマス限定クエスト』」

川 ゚ -゚)「だが、あれはあるんだろ?あれはやらないのか?」
 _
( ゚∀゚)「あれ?」

(´・ω・`)「『背教者ニコラス』のことだよね」

川 ゚ -゚)「ああ」

('A`)「蘇生アイテムをドロップしてくれるとかいう」
 _
( ゚∀゚)「…眉唾もんだな」

(´・ω・`)「これだけほとんどの層で話が出ている以上、イベント自体はあるんだろうけどね。蘇生アイテムはさ…」

川 ゚ -゚)「それを抜きにしても、年に一回のイベントならそれ相応のドロップ品が出るんじゃないか?」

(´・ω・`)「命の危険が高い戦いに赴くほど魅力的ではないよ」

('A`)「だな」
 _
( ゚∀゚)「どこに出るかも分からないんだろ?」

(´・ω・`)「うん。それこそアルゴさんの方から情報を求めた連絡が来たくらいだから、色々錯綜してるんじゃないかな」

('A`)「もみの木ねぇ…」
165 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:26:47 ID:yoNxKQgo0

(´・ω・`)「でも、サンタクロースがニコラス一人だけだとしたら、確かに他のイベントは無いかもね」
 _
( ゚∀゚)「サンタクロース?」

(´・ω・`)「ニコラスってのは、サンタクロースの……別名?元の名前?ニコラスって聖人が、サンタクロースの元…とでもいうのかな」
 _
( ゚∀゚)「……サンタってほんとにいたんだ」

ジョルジュの漏らした言葉に顔をこわばらせる三人。

('A`;)「じょ、ジョルジュ?」

川 ;゚ -゚)「おい、ジョルジュ?」

(;´・ω・`)「あれ?地雷踏んじゃった?もしかして」
  _
( *゚∀゚)「そっか、いたんだ」

166 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:28:47 ID:yoNxKQgo0

顔を上気させるジョルジュ。
変わりに三人の顔が青白くなる。

川 ;゚ -゚)「…ショボン、説明は任せたぞ」

('A`;)「ちゃんと説明してやれよ」

ジョルジュの言葉に慌てて席を立つドクオとクー。

(;´・ω・`)「あ、いや、二人とも、ちょっと待ってよ」
  _
(*゚∀゚)「なあなあショボン、そういことだろ?」

(;´・ω・`)「い、いやそうというか違うというか…」

('A`)「じゃ、おれは調査を続けるから」

川 ゚ -゚)「私はブーンに頼まれた薬の在庫作りがあるから。後は任せたぞ。ショボン」

そそくさと部屋を出て行く二人。

(;´・ω・`)「いやいやいやいや二人とも?」
  _
(*゚∀゚)「そっかぁ。サンタクロースってほんとにいたんだな。いや、もちろん空飛ぶそりとかもう信じてないけどよ。そっかぁ。いるんだ。そうなんだよな、な、ショボン。そういうことだろ?ちゃんと教えろよショボン。な、な」

(´・ω・`)「どうしよう……これ」

部屋を出た二人を恨めしげに見つつ、頭を抱えるショボンだった。

.
167 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:31:28 ID:yoNxKQgo0

26層主街区
メインストリートの片隅にある小さなレストラン『バーボンハウス26層店』
昔のギルド『V.I.P.』の本拠地であり、今はショボンが名ばかりの店長を務めつつ、副店長であるギルメンの一人が切り盛りしていた。

(*゚ー゚)「こんにちは、フサさん」

ミ,,゚Д゚彡「こんにちは。しぃちゃん。あれ?今日は手伝いの日だっけ」

しぃが扉を開けたときは昼時もだいぶ過ぎており、店内にお客は一組しかおらず、カウンターではフサと呼ばれたウエイター姿の男がウインドウを弄っているところだった。

(*゚ー゚)「いえ、モララーさんの工房に行ってきた帰りなんですけど、ちょっと時間が出来たのでよっちゃいました」

ミ,,゚Д゚彡「そっかそっか。なんか飲む?」

(*゚ー゚)「はい。ありがとうございます」

ウインドウを消し、カウンターに座るしぃの前に湯飲みを置いて、急須から水色の液体を注ぐ。

(*゚ー゚)「これは?」

ミ,,゚Д゚彡「緑茶っぽい飲物」

(;*゚ー゚)「大丈夫ですか?この前いただいたの、凄く美味しく無かったですよ」

ミ;,,゚Д゚彡「だいじょうぶだから!それはちゃんと味見したから!」

(*゚ー゚)「『それは』?」

ミ,,゚Д゚彡「あっ」

(#゚ー゚)「…確か新作はまず自分で味見がルールですよね。あとでショボンさんに報告しておきますね」

ミ;,,゚Д゚彡「だめだから!それだけはゆるしてほしいから!」

(#゚ー゚)「……」

ミ;,,゚Д゚彡「……」

右手を振ってウインドウを出すしぃ。

ミ;,,゚Д゚彡「く、クルタ豆を使った新作スイーツでいかがでしょうか」

再度右手を振ってウインドウを消すしぃ

(*゚ー゚)「ごちそうさまです」

満面の笑顔に情けない笑顔で返すフサギコだった。

.

168 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:32:55 ID:yoNxKQgo0

(*゚ー゚)「おいしい!」

ミ*,,゚Д゚彡「それは良かった」

湯飲みのお茶を飲みつつ丸いケーキにフォークを刺すしぃ。
白く柔らかい生地の中に黒い豆が詰まっており、更に刺すと中から黄色いクリームが零れる。

(*゚ー゚)「これ、フサさんのオリジナルですよね」

ミ*,,゚Д゚彡「今度の新作会議でショボンに見てもらうつもりだから」

自分の作った物を褒められ、顔を上気させて喜ぶフサギコ。
更に切り取って、口に運ぶ。
もっちりとしたスポンジ生地と、小豆に似た味のする豆。そしてカスタードクリームと生クリームが混ざったような味のするクリームが合わさり、口の中にやわらかい甘みが広がる。

(*゚ー゚)「ほんとに美味しいです。これ、名物になりますよ!フサギコさん、凄いです!」

ミ*,,゚Д゚彡「あんまり褒められると照れちゃうから」

(A)「マスターごちそう様」

(凵j「美味しかったよ」

ミ,,゚Д゚彡「ありがとうだから!あとあの話、なんか続報出たら教えてほしいから!」

(A)「分かった」

(凵j「報酬は夕飯一食な」

挨拶をして出て行く一組の客。
フサギコはそれを確認してからドアに向かい、『準備中』の札を扉にかけて戻ってきた。

169 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:34:55 ID:yoNxKQgo0

(*゚ー゚)「情報って何かあったんですか?」

ミ,,゚Д゚彡「今からショボンに送るから」

ウインドウを出したフサギコが、メールを打ち始める。

ミ,,゚Д゚彡「『18層主街区外れの豪邸にて、クリスマス絡みと思われるイベントフラグらしき現象の情報あり。現在情報集積中』…と。これでいいかな。送信」

(*゚ー゚)「クリスマスイベントですか」

ミ,,゚Д゚彡「『背教者ニコラス』以外で何か無いのか探してるから」

(*゚ー゚)「…みたいですよね。モララーさんもお客さんに聞いてました。でもなんか、ショボンさんのイメージじゃないですよね。ショボンさん、あんまり限定イベントとか興味なさそうなのに」

ミ,,゚Д゚彡「……いろいろあるから」

(*゚ー゚)「探してるアイテムとかですか?」

ミ,,゚Д゚彡「そ、そうそう。そうらしいから」

(*゚ー゚)「ふーん。あ、でもフサギコさんが聞かれたのは18層なんですよね。もしそれがクエストだったら私達も参加できるかな」

ミ,,゚Д゚彡「た、多分」

(*゚ー゚)「じゃあ連れて行ってもらえるように頑張らないとですね」

ケーキを食べ終わりお茶を飲み干すと、手を合わせてごちそうさまと言って席を立つ。

(*゚ー゚)「これからモナーさんのところで特訓なので、行ってきます」

ミ,,゚Д゚彡「いってらっしゃい」

店を飛び出していくしぃを見送ったフサギコは、再びウインドウを呼び出してメッセージを打ち始めた。

.

170 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:38:52 ID:yoNxKQgo0

( ・∀・)「いらっしゃいませ!って、なんだギコか」

同じく26層主街区。
バーボンハウスと同じくメインストリート上にはあるが、逆の方向にあるモララーの細工工房。

(,,゚Д゚)「何だとは何だゴラァ」

( ・∀・)「ちゃんと客として扱って欲しかったら、指輪の代金耳そろえて払いやがれ」

(;,,゚Д゚)「もうちょっと待ってくれ」

( ・∀・)「まったく」

それほど広くは無いが、壁に据え付けられた棚には革小物、木工小物、金属小物、硝子小物が並べられており、カップルのお客が二組ほどいる。
モララーの工房は低層にあるがこの品揃えから人気が高く、普段は下りてこない攻略組の中にも上得意が存在していた。

( ・∀・)「そんなんでクリスマスに間に合うのか?今は特訓で低層での戦闘ばかりなんだろ?」

(,,゚Д゚)「な、なんとかする」

カウンターに立つギコの前に、音を立てて置かれる小さな箱。

( ・∀・)「もってっていいぞ。金は後で良いから」

(,,゚Д゚)「いや、それは駄目だゴラァ」

( ・∀・)「なんでだよ。別にただでやろうって訳じゃないんだぜ」

(,,゚Д゚)「ちゃんと金を払った後じゃなければ真実おれの物じゃない。そんなものを貰っても、しぃは喜ばない」

(: ・∀・)「変なところでまじめだな」

(,,゚Д゚)「変じゃないぞゴラァ。指輪は預かっていてくれ」

( ・∀・)「はいはい」

カウンターの上の指輪を取り、店に備えられた倉庫のタグに放り込む。

171 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:44:05 ID:yoNxKQgo0

( ・∀・)「で?今日はどうしたよ?」

(,,゚Д゚)「ショボンにこれを持って行ってくれって頼まれたぞゴラァ」

( ・∀・)「?手紙?ショボンから?メッセージ飛ばせば良いだろうに」

ギコが差し出した巻物を受け取るモララー。
そのまま読み始めてから、ちらちらとギコの顔を見る。

(;,,゚Д゚)「何だゴラァ」

( ・∀・)「うちのギルドマスターは細かいことにも気が付くねぇ」

巻物をしまいつつ自分の右手の甲をギコに見せるモララー。

( ・∀・)「これ、なんだか分かるか?」

(,,゚Д゚)「右手」

(# ・∀・)「じゃなくて指輪だ指輪!見えてんだろう」

(,,゚Д゚)「ああ、あるな」

( ・∀・)「まったく。これはギルド全員付けてる指輪なんだよ」

(,,゚Д゚)「え?」

( ・∀・)「やっぱり気付いてなかったか。しぃは気付いて聞いてきたぞ」

(;,,゚Д゚)「アクセサリーはつけないから」

( ・∀・)「まぁいいけどよ。で、今お前達の分も作ってるところなんだけどよ、どうするよ」

(,,゚Д゚)「なにがだ?」

( ・∀・)「SAOじゃ片手に一つずつしか指輪が付けられないだろ」

(,,゚Д゚)「そうなのか!?」

(; ・∀・)「知らないのかよ」

(,,゚Д゚)「だから」

( ・∀・)「アクセサリーはつけなくても、装備に関しては知っておけ」

(,,゚Д゚)「……ゴルァ」

172 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:44:53 ID:yoNxKQgo0

( ・ ∀・)「で、うちの気が利くギルドマスターさんは、ギコがしぃにあげる指輪が婚約指輪なのか、結婚指輪なのかを気にしていらっしゃるってわけ。婚約指輪な ら、結婚指輪もあげるんだろ。ならギルメンの指輪は付けられなくなるかもしれないからな。それならそれで、何か他にギルドの証的な装身具を考えようかって 連絡をしてきたわけだ。で、ギコの意向も聞いておけってさ。分かったか」

(,,゚Д゚)「そ、そんなことまで気にしてくれるのか?しかも入ったばかりのおれ達のことで」

(: ・∀・)「ひとつだけ忠告しておく。うちのギルドマスターを甘く見ちゃ駄目だぞ。色々と」

(;,,゚Д゚)「あ、ああ」

やる気のなさそうな表情で説明していたモララーだったが、最後にショボンについて語るときは表情が引き締まったため、その変化に釣られてギコも表情を引き締めた。
しかしモララーはすぐに表情を緩め、気だるそうに問いかける。

( ・∀・)「それで、どうする?」

(,,゚Д゚)「いや、気にしなくていいぞ。それは結婚指輪のつもりだし、右手にギルドのリングを付けても、左手は空いているし」

( ・∀・)「OK。ショボンにも伝えておく」

(;,,゚Д゚)「……」

( ・∀・)「…どうした?」

何かを思い出したかように一瞬悩むよな表情を見せたギコ。しかしそのすぐ後にあからさまに呆然とした表情をしたため、モララーも眉間に皺を寄せつつ問いかけた。

(,,゚Д゚)「おれ、モララーには指輪のオーダーしたときに結婚指輪だからって話したけど、他のやつには一言も言ってない」

(; -∀-)「あーまぁ、それがショボンってことだ(ツンにはなした事は黙っておこう)」

(;,,゚Д゚)「い、色々と気をつけるぞゴルァ」

それぞれにショボンの顔を思い出しつつ、男二人は黙り込んだ。

.

173 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:49:13 ID:yoNxKQgo0
.
3.こうしんの歌


西暦2023年12月 クリスマスイブ前日。


( ´∀`)「だいぶ短刀にも慣れてきたもなね」

▼・ェ・▼「キャンキャン!」

第22層草原。
朝焼けが眩しいその一画で、しぃが短刀を振るう。
そしてその後ろには指示を出す長身の男がいた。
長い三叉の矛を持っていつでも援護できるように気を張りつつも、悠然とした風体で見守っている。
その足下には青みがかった銀色の毛並みをした子犬がくるくると男の周囲を走り回っていた。

( ´∀`)「ビーグル!伏せ!」

▼・ェ・▼「くぅ〜ん」

男の声によってうずくまる子犬。

(*゚ー゚)「モナーさん!」

巨大な蛾をポリゴンに変えたしぃが駆け寄ってくる。

▼・ェ・▼「きゃんきゃん!」

(*゚ー゚)「ビーグル君!」

飛びついてきた子犬を抱き締めながら、上気した顔で男を見るしぃ。

( ´∀`)「合格もなよ。飛ぶ敵相手に的確に短刀を当てれるようになれば、だいたいの敵への距離感が掴める様になっている筈だからもなね」

▼・ェ・▼「きゃんきゃん!」

174 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:50:47 ID:yoNxKQgo0

男の名はモナー。
牧場主で色々な動物を飼育しており、レストラン『バーボンハウス』への畜産物の供給を行っているギルドメンバーである。
そして彼は『ビーストテイマー』と呼ばれることもある。

▼・ェ・▼「ぐぅるりゅるぅるぅ〜」

突然威嚇音を鳴らす子犬。
何も無い方向を睨むが、その視線の先の空に、ポリゴンが集まり始めた。

( ´∀`)「しぃ!もう一本!」

(*゚ー゚)「はい!」

姿を現した蛾に向かって短刀を構えて走るしぃ。

子犬の名はビーグル。
子犬のような姿をしているがれっきとしたモンスターであり、しかもクラスとしてはレアに属している。
モナーが呼ばれる『ビーストテイマー』とはこういったモンスターを使役しているプレイヤーを指す言葉であり、ほぼ運とされる使役の条件をクリアした者に対する、その幸運をやっかみつつも賞賛した呼び名である。

175 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:52:53 ID:yoNxKQgo0

ちなみにビーグルは分類的には狼種の『シルブリュールフ』という名なのだが、モナーによって『ビーグル』という名が付けられているためか、ギルメン全員に子犬扱いされていた。
しかしモンスターであるビーグルは特殊能力をいくつか有しており、今行った敵の察知などは最たるものであるが、それ以外にもランダムでモナーへのヒーリングや敵への麻痺攻撃などを戦闘中に行うことがあった。

モナーとビーグルの見守る先で短刀を閃かせるしぃ。
その安定した戦いぶりに頬を綻ばせていると、メッセージの到着を知らせるチャイムがモナーの耳にだけ届く。

( ´∀`)「誰もなね〜」

右手を振ってウインドウを出すモナー。

( ´∀`)「もなもな…」

しぃに気を配りつつメッセージを読む。

▼・ェ・▼「きゃんきゃん!」

( ´∀`)「ギコの方も仕上がったみたいモナよ」

しぃが再び巨大蛾をポリゴンに変えると同時に、モナーが撤収を告げた。

.

176 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:54:05 ID:yoNxKQgo0

第35層迷いの森

早朝の朝靄が白く染める森の中を歩く三人の男。

(,,゚Д゚)「よし、次!」

先頭を歩くのはギコ。
片手剣を構えて周囲に気を配りつつ次のエリアに向かう。

('A`)「あんまり気負いすぎるなよ〜」

その後ろにドクオ。
片手剣を持ち備えてはいるが、どこかのんびりとしている。

( ゚∋゚)「……」

そのドクオの横を歩く大男。
名はクックル。
その高い身長よりも更に長い鍬を肩に担ぎ、悠然と歩く。

('A`)「そうだな。もともとスキルレベルは高かったから、後は戦い方だけだったから」

( ゚∋゚)「………」

('A`)「んなことはねぇって。あいつの努力の賜物だよ」

( ゚∋゚)「…」

('A`)「そうだなぁ。ま、ある程度実践積んだらクックルの農場の手伝いももっと行ける様になるだろうから、適当に栽培スキルでも覚えさせてやってくれよ」

( ゚∋゚)「………」

('A`)「そう言うなって」

あまりにも声が小さくドクオにしか聞こえていないがちゃんと喋っているようだ。
決してドクオが独りで喋っている訳ではないので誤解してはいけない。

177 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:56:21 ID:yoNxKQgo0

クックルはモナーの牧場の隣で農場を拓いており、レストランで使う野菜は勿論のこと、POTなどに使用する薬草なども栽培している。
ドクオやジョルジュといった戦闘職のみのギルメンは牧場や農場の手伝いに行くこともあるため、その仲間にギコが加わるのは好ましいことだった。
もちろん栽培スキルや飼育スキルを持たない者がやれることといえば、物の運搬や雑用だけなのだが。

三人が隣のエリアに移ると、同時にモンスターがポップした。

(,,゚Д゚)「ゴルァ!」

索敵スキルで感知したギコは小さく気合を入れて、構えながら様子を伺う。

('A`)「よし、ちゃんと突進しなくなったな」

その後ろでギコよりも先に二個のカーソルを確認するドクオ。

( ゚∋゚)「……」

('A`)「分かってるって」

遅れてギコも確認し、まずは自分に近いモンスターに狙いを定めた。

(,,゚Д゚)「ドクオ、クックル、行くぞ」

('A`)「おう」

( ゚∋゚)「 」

駆け出す三人。

手前にいた猿人がギコに気付く前に、ギコの片手剣が胴体を切る。
防御も何もないその一撃で大きくHPを減らす猿人。
反撃で曲刀を振り上げた猿人を見て、バックステップで距離を取る。
振り下ろされた曲刀を確認してからの追撃。
今度は刀身を赤く光らせ、剣技のサポートを受けて素早く間を詰めて流れるような三連撃。

(,,゚Д゚)「スイッチ!」

178 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 22:58:53 ID:yoNxKQgo0

硬直を起こしたギコをサポートするようにドクオが距離を詰め、重い一撃で猿人をノックバックさせた。

クックルは二人が手前の猿人の相手をしている隙に横を回った。後ろにいるもう一匹の猿人に剣技を使わない一撃を浴びせ、自分を狙わせてから距離を取る。
守りを主とした攻撃により自分を狙わせて仲間を守り、尚且つ少しずつ猿人のHPを削っていく。

手前の猿人が曲刀を青く光らせて剣技を発動させる。
それに合わせてドクオも剣技を発動させた。

('A`)「はっ!」

出足はドクオの方が早く、猿人の持つ曲刀の柄を狙う。
袈裟懸けに振り下ろされた曲刀はドクオの剣技によって相殺され、衝撃でうしろにあとずさる。

(,,゚Д゚)「スイッチ!」

姿勢を崩したドクオがそのまま横にずれるとギコが流れるようにその場に到着し、煌かせた剣によって猿人に三連撃を与えた。
ポリゴンと化す猿人には目もくれず、クックルが戦っている猿人に目を向けるギコ。
剣技後の硬直が終わると同時に剣を構えつつ、クックルの動きと猿人の動きを観察する。

(,,゚Д゚)「スイッチ!」

絶妙なタイミングでギコが叫び、走り出す。

('A`)「…特訓は終了かな」

クックルと共に猿人を追い詰めるギコ。
それを見つつドクオはウインドウを開き、メールを打ち始めた。

.

179 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 23:00:23 ID:yoNxKQgo0

第40層ギルド『V.I.P』本部(バーボンハウス二階)

(´・ω・`)
( ^ω^)
ξ゚听)ξ
('A`)
川 ゚ -゚)
 _
( ゚∀゚)

( ´_ゝ`)
(´<_` )

( ´∀`)
▼・ェ・▼

( ゚∋゚)

( ・∀・)
ミ,,゚Д゚彡

(*゚ー゚)
(,,゚Д゚)


夕食を済まし、バーボンハウスの二階に集合したギルメンたち。

(´・ω・`)「みんなお疲れ様」

180 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 23:01:35 ID:yoNxKQgo0

ショボンの言葉にそれぞれに返事をする。

(´・ω・`)「定例会じゃないけど集まってもらったのは、二つ報告があるからです」

全員がショボンに注目し、その言葉を待つ。

(´・ω・`)「まずはギコとしぃ、起立」

(,,゚Д゚)「おう!」

(*゚ー゚)「はい!」

(´・ω・`)「もう皆知ってると思うけど、二人が新たにギルドに入りました。拍手!」

「おー!」
誰ともなしに歓声が上がり、拍手が鳴る。

(´・ω・`)「挨拶〜」

(,,゚Д゚)「よろしくだゴラァ!」

(*゚ー゚)「よろしくお願いします」

181 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 23:02:36 ID:yoNxKQgo0

(´・ ω・`)「ギコは戦闘職としてドクオとジョルジュの下についてクエストや採取関係をしつつモナーとクックルのサポートを中心に。しぃは料理スキルと裁縫ス キルを活かしてバーボンハウスとツンの手伝いをしてもらって、ゆくゆくは店長を目指してもらう予定です。バーボンハウスに関しては、フサとしぃと僕で回し つつクーに時々サポートで入ってもらう形で当分行くので、フサ、しぃ、クー、後でまたローテーションや担当に関しては相談します」

ミ,,゚Д゚彡「了解だから」

(*゚ー゚)「はい」

川 ゚ -゚)「分かった」

('A`)「こっちはどうすればよい?」

(´・ω・`)「…どうしよっか」
  _
(; ゚∀゚)「おいこら」

( ´∀`)「手伝いがほしいときは三人にメッセージを送るモナよ」

▼・ェ・▼「キャンキャン!」

(´・ω・`)「クックルもそれでよいかな?」

( ゚∋゚)「  」
  _
(; ゚∀゚)「おいおいクックル、そりゃないって」

('A`)「それはないわ〜」

(;,,゚Д゚)(聞こえない…)

(;*゚ー゚)(聞こえない…でも皆笑ってる)

(;,,゚Д゚)(もっと仲良くなれば聞こえるのか…)

(;*゚ー゚)(もっとがんばろう)

182 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 23:03:40 ID:yoNxKQgo0

(´・ω・`)「じゃあそこら辺は五人で話して」

▼・ェ・▼「きゃん!」

(*´・ω・`)「ごめんごめん、六人で話し合ってだね」

▼*・ェ・*▼「きゃん!」

(´・ω・`)「さて、もう一つですが」

再び静まり返る室内。

(´・ω・`)「明日、未知のクエストに挑戦します」

どよめく室内。
  _
(; ゚∀゚)「お、おいショボン」

(; ´_ゝ`)「まさか『背教者ニコラス』か!?」

(; ・∀・)「違うよな?あれは話を聞くだけでもやばいぞ」

(´<_` ;)「どちらにせよ未知のクエストをやるなんて、お前らしくないが」

(;´・ω・`)「もちろんあんなのはやらないよ」

部屋の全員が息をつく。

183 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/24(日) 23:04:58 ID:yoNxKQgo0

(; ^ω^)「じゃあどんなのだお?」

ξ;゚听)ξ「あんたのことだから、少しは情報集めてあるんでしょ」

(´・ω・`)「多少はね」

川 ゚ -゚)「情報を集めてたクリスマス限定クエストか?」

(´・ω・`)「うん」

もう一度どよめきが起こり、そして静かになってショボンの言葉を待つ。

(´・ω・`)「スタート位置は18層主街区外れ、クエストボスは無しのお使いクエスト」

概要を聞いて安心の笑いを漏らすギルメン達。

(´・ω・`)「でも結構シビアみたいだから、本気出していくよ」

歓声を上げるメンバー。

(´・ω・`)「今回チャレンジするのはクリスマス限定クエストで、クエスト名は『聖なる夜のキャロル』!目標クエストクリアアイテムは、ギルドアイテム『サンタの袋』!頑張ろう!」
 _
( ゚∀゚)( ^ω^)ξ゚听)ξ川 ゚ -゚)
( ´_ゝ`)( ´∀`)▼・ェ・▼
( ・∀・)ミ,,゚Д゚彡( ゚∋゚)
(,,゚Д゚)(*゚ー゚)

          「おー!!」

                ('A`)(´<_` )
188 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:11:03 ID:9HKi61YI0
4、せいなるよるの歌


西暦2023年12月 クリスマスイブ。

PM3:45

18層主街区外れ。
森に囲まれた街の外れにある大きな敷地の中にぽつんと立つ屋敷。
いままでは固く閉ざされていた門の錠前が外されており、まだ開いてはいないが、数組のパーティーが周りをけん制しつつ中を覗いている。

(,,゚Д゚)「四時頃にスタートなのかゴラァ」

('A`)「みたいだな」

(*゚ー゚)「『ゆうやみせまる かげぼうし』でしたっけ。クエストを告げる歌の文句って。今の時期はそれくらいの時間に暗くなる設定ですよね」

しぃがウインドウを開き、ショボンから貰ったメッセージを見る。

ξ゚听)ξ「今も微かに聞こえてきてるこれでしょ。クリスマスっぽいといえば、クリスマスっぽいのかな」

川 ゚ -゚)「少し賛美歌のような曲調だな」
 _
( ゚∀゚)「とりあえずおれ達だけで進めていいんだろ」

('A`)「ああ。他の面子は遅れて登場だからな。とりあえず4時になったら、並んでた他のパーティーに続いてフラグ立てに行こうぜ」

VIPのメンバーは6人。戦闘職の三人と、店を持たない三人である。

(´・ ω・`)『先発は6人で。フラグ立てと設定よろしく。18層だしお使いクエストみたいだから大丈夫だと思うけど、もし迷宮や他の町に行くとかで戦闘の可能 性があるときは一回連絡入れてね。街の中の圏内イベントはサクサク進めちゃって。他のメンバーは自分の仕事が終わり次第随時合流ってことで。情報の取りま とめはクーよろしく。多分僕とフサが一番遅くなると思うけど、気にせず進めちゃってよいから』

昼過ぎにショボンから送られた一斉送信のメールを読むクー。

('A`)「18層ならそれほど難しくもないだろうしな」
 _
( ゚∀゚)「戦闘も無いだろうし、他のやつらが来る前に終わらせちまおうぜ」

川 ゚ -゚)「そううまく進めばよいがな」

ξ゚听)ξ「そろそろ始まるみたいよ。門が少しずつ開いてる」

少しずつ開かれる門。
どよめきが牽制しあっていた者達から起こり、人が一人通れるほどの広さに開くと、最初に並んでいた男達が我先ににと中に入っていく。

('A`)「おれ達も行こうぜ」

それが、クリスマスイブの始まりだった。

.

189 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:13:15 ID:9HKi61YI0

PM4:40

クエストスタート地『郊外に一人住む孤独な老人 エベネ・ルージ』邸宅の門内敷地の片隅で車座になってミーティングをする六人。

川 ゚ -゚)「まずは整理しよう。クエストフラグはこの屋敷の主人、『エベネ・ルージ』氏。クエスト内容はお使いだな。依頼は四つ」


.

190 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:14:46 ID:9HKi61YI0

クエストネーム:『聖なる夜のキャロル』
クエスト開始:18層 外れにあるエベネ・ルージ邸宅で老主人エベネ氏に話しかけることでスタート。
エベネ氏より渡されたイベントコルや物品を渡すお使いイベント。
制限時間:本日中

依頼内容
18層:主街区逆側外れ『クラリ』家の病気の子供にヒールクリスタルを使ってパラメーターを回復させる
18層:主街区で黒パンを買い、隣の村の路上に寝ているNPC8人にそのパンを渡す。
18層:主街区隣の少迷宮『夕闇の墓地』にてジェコブの墓を探し、花を供える。
18層:主街区のどこかにいる『マレイ氏』を探し出し、エベネ氏からの手紙を渡す。

.

191 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:18:04 ID:9HKi61YI0

川 ゚ -゚)「一つ一つはたいしたことないが、さすがに四つは辛いな」

('A`)「順番も考えてやらないとかなり無駄足を踏みそうな気配もあるが…」
 _
( ゚∀゚)「とにかく上からやってみようぜ」

ξ゚听)ξ「そうね。考えていてもしょうがないし」

(*゚ー゚)「……」

(,,゚Д゚)「どうかしたのか。しぃ」

(*゚ー゚)「うん……ううん。なんでもない」

川 ゚ -゚)「ショボンから返信が来た。まずは上二つを進めてほしいそうだ。割り振りはどうする?全員で動くか?」
 _
( ゚∀゚)「ここから次の村は結構近いし、レベル的にも問題ないから分かれて大丈夫だろ」

('A`)「そうだな。おれとジョルジュとギコで隣の町に行って来るよ」

(,,゚Д゚)「おう!」

川 ゚ -゚)「それが良いかな。私たちは『マレイ氏』の情報を集めつつクラリさんの家を探して少年を助けてこよう」

ξ゚听)ξ「おっけい。ヒールクリスタルはさっき預かった袋の中?」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだ。ギルドタブに入れておく。黒パンを買うときもこの中のコルを使うようにしてくれ」

('A`)「りょーかい」

192 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:19:42 ID:9HKi61YI0

ξ゚听)ξ「じゃ行こうかクー、しぃ」

(*゚ー゚)「あ、あの」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

(*゚ー゚)「ちょっと気になることがあるので、屋敷を調査したいです」

(;,,゚Д゚)「お、おい、しぃ」

川 ゚ -゚)「そうか。わかった。じゃあしぃは屋敷の調査をしてくれ」

(,,゚Д゚)「え?」

ξ゚听)ξ「何かあったらすぐ連絡。私たちは終わったらここに戻ってくるから、それまではメッセージで連絡取り合う前に動かないようにしてね」

(*゚ー゚)「わかりました」

(,,゚Д゚)「個人行動していいのかゴラァ」

('A`)「圏内だからな。ダンジョンと違って犯罪防止コードに守られて身の危険は無いはずだ」
 _
( ゚∀゚)「なんでもかんでも団体行動ってわけじゃないんだぞ」

川 ゚ -゚)「クエスト実行時は、ちょっとしたことが近道や攻略に繋がるからな。もっと屋敷の中を探せばマレイ氏の居所のヒントがあるかもしれん」

ξ゚听)ξ「話は終了!さ、いこいこ!頑張って終わらせよう!」
 _
( ゚∀゚)川 ゚ -゚)(,,゚Д゚)(*゚ー゚)「おー!」('A`)


.

193 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:22:18 ID:9HKi61YI0

PM7:30

(´・ω・`)「で、ゲットしたのがこの『サンタのズタ袋』ってわけ?」

川 ゚ -゚)「ああ」

ξ゚听)ξ「ちゃんと依頼はクリアしたのよ」

(´・ω・`)「これだけ…かぁ。事前情報のアイテムと、効果も違ってるんだよね」

(´<_` )「どんな風に違うんだ?」

(´・ω・`)「事前だと、『サンタの袋』自体にはギルドタブの容量をメンバー数に応じて広げる機能があって、さらに貰って時にはランダムでアイテムが中にいくつか入っているって話だったんだよ」

( ´∀`)「それはお得もなね」

( ´_ゝ`)「で?それは?」

(´・ω・`)「使用してから三日間だけ容量拡張だって。しかも中には何も入ってない」

('A`)「全部お使い終わらせて、エベネ氏に会って、話をした。でも、くれたのはそれだけだったぜ」
 _
( ゚∀゚)「クリア報酬のアイテム名が違ってただけじゃないのか?」

.

194 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:23:24 ID:9HKi61YI0

川 ゚ -゚)「周辺のNPCから貰う情報があやふやだったか」

ギルドメンバーが全員揃い、敷地内の芝生の上で状況確認をしていた。
既に日は落ち暗闇が周囲を支配していたが、屋敷から零れるひかりが敷地を照らしており、充分にメンバーの顔を見つつミーティングが出来ている。

(´・ω・`)「そうなのかなぁ」

ウインドウを出し、一つのメッセージを表示させるショボン。

( ・∀・)「?」

可視状態にして少し自分から離すと、隣に座っていたモララーが覗き込んだ。

( ・∀・)「昼に送ってきたやつだよな。それ」

(´・ω・`)「ああ、ここから流れ出ている歌の歌詞らしい。聞こえてきたのを起こしたから、多少間違いがあるかもしれないって話だけどね」



.

195 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:24:28 ID:9HKi61YI0

せいなるよるに みるゆめは
きぼうのひかりに みちている
ようせいつむぐ みちしるべ
ひかれるわたし ゆめをみる

ゆうやみせまる かげぼうし
あなたがくるのを まっている
おもいのたけを はなせたら
みっつのねがい ときはなつ

わたしのねがい かなうとき
おもいのこころ わたすとき
せいなるよるに ゆめわたす
ようせいみたび やってくる

ようせいがもつ そのこころ
あなたのこころ ひろげよう
こころのなかに もつゆめは
あすのひかりに なるでしょう

せいなるよるに みるゆめは
きぼうのひかりに みちている
あなたのゆめを かなえるは
こころのひかりを しるひとぞ

.

196 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:26:07 ID:9HKi61YI0

( ´_ゝ`)「今も流れてるこれだろ?」

(´<_` )「賛美歌とか言われたら信じそうな曲調だよな。声小さすぎでなに歌ってんのか聞こえないけど」

( ^ω^)「この声をよく聞き取れたおね」

( ・∀・)「で?これが?」

(´・ω・`)「今回のクエストのヒントのはずなんだけどね」

何人かがウインドウを出し、同じようにメッセージを読み始め、他の面子はそれを覗き込んで放し始めた。

▼*・ェ・*▼「きゃん!」

(*´∀`)「ビーグル!待つもなよ!」

(*゚∋゚)「  」

芝生を走り始めたビーグル。それを追ってモナーが腰を上げ、更に後ろをクックルが続く。

('A`)「にげたな」

( ´_ゝ`)「にげたな」

(,,゚Д゚)「いいのかゴラァ」

同じように腰を上げようとした三人だったが、

(´・ω・`)「逃げるの出遅れたんだから、ちゃんと考えるように」

ショボンの一言で座りなおした。

( ´_ゝ`)(,,゚Д゚)「はい」('A`)

.

197 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:27:25 ID:9HKi61YI0

(´<_` )「しかしショボンが考えて分からないのに、おれ達が考えて分かるとは思えんが」

川 ゚ -゚)「突拍子もないことは普段ものを考えてないような奴の方が出てくる可能性があるからな。期待するぞ、兄者、ギコ、ジョルジュ」

(;´_ゝ`)「うわ…ひどい言われよう」
 _
(;゚∀゚)「ひでえなおい」

(,,゚Д゚)「頑張るぞゴラァ」

ξ;゚听)ξ「一人は普通に受けてるし」

(´<_` )「あれ?しぃは?ギコネタならいつもここで彼女の突っ込みという名の追い討ちが入るのに」

川 ゚ -゚)「屋敷を調べてる。何か気になることがあるそうだ」

( ^ω^)「さっきツンと見に行ったら、浴槽の前でじっと何かを見ていたからそっとしておいたお」

ξ゚听)ξ「あのこも結構不思議ちゃんよね」

.

198 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:29:41 ID:9HKi61YI0

( ´_ゝ`)「……おまえがいうな」

(´<_` )「……おまえがいうか」

( ・∀・)「いやまて二人とも。別にツンは不思議ちゃんじゃない。傍若無人なだけだ」

ξ#゚听)ξ「よし分かったそこの三人。決闘ならいつでも受けるぞ。方法はどれにする、おい」

( ^ω^)「まあまあ」

(,,゚Д゚)「ふさはどうしたんだゴラァ」

(´・ω・`)「両方の店の片づけをしてもらってる。今日は忙しかったよ。クリスマスメニューも作ったしね」

川 ゚ -゚)「気になるといえば、ここだな『みっつのねがい』。実際は四件のお使いがあったわけだし。……あの四つのうち、実は三つだけやればいいということか?」

(´<_` )「あとはクエストの始まる時間帯と、もらえるアイテムのことだよな。この『ようせいがもつこのこころ』が袋で、『あなたのこころひろげよう』が容量アップってことか」

( ・∀・)「『ようせいみたびあいにくる』ってのはなんだ?おれ達が三回会いに行けば良いのか?」

(;´・ω・`)「う〜ん」

.

199 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:31:11 ID:9HKi61YI0

川 ゚ -゚)「他にもクエストをやってるパーティーがいただろ?そいつらはどうだったんだ」

(´・ω・`)「さっき連絡したら、アルゴさんの所にもズタ袋ゲットの話しか来ていないって。向こうも調査中らしい。なにか…決定的に何か足りていないような…」

( ´∀`)「ところでジョルジュはなんでそんな格好もな?」
 _
(*゚∀゚)「おっ」

ξ゚听)ξ「あー」

川 ゚ -゚)「モナー…」

さんざん走り回った二人と一匹が戻ってきて芝生に座り、たまたまジョルジュのそばに座ったモナーが何の気なしになく口にした

(;´・ω・`)「言っちゃった」

( ´∀`)「もなもな?」
 _
(*゚∀゚)「似合うだろ!」

.

200 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:32:13 ID:9HKi61YI0

全身をサンタの格好で決めたジョルジュ。
誰もが突っ込みたかったが、突っ込んだが最後調子に乗ることは目に見えていたので突っ込まなかったその姿。

( ´∀`)「サンタさんもな」
 _
(*゚∀゚)「なっ!なっ!実在すると知ったからにはやっぱりこの時期はこの格好をするべき他と思うわけさ、おれは」

('A`;)「ショボン?」

川;゚ -゚)「いったいどんな説明をしたんだおまえは」

(;´-ω-`)「ごめん」

一人盛り上がるジョルジュとそれを見守るギルメン。モナーだけは笑顔で喋っているが、他の面子はあからさまにひいている。
 _
(*゚∀゚)「みんなこの格好良さが分からないんだよ。せっかく外に出てた露天で買ったのに、誰も何も言わないし」

( ´∀`)「妖精さんも来るもな」

(´・ω・`)「え?」

.

201 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:33:32 ID:9HKi61YI0

川 ゚ -゚)「モナー。どういうことだ?」

( ´∀`)「サンタさんがおもちゃを作ったり配達をしたりするときにお手伝いをするのは妖精さんもなよ。だからサンタさんの格好をしていれば、妖精さんが寄って来るかもしれないもな。あと、サンタさんの住む村も妖精の世界にあるという話もあるもなね」

(´・ω・`)「サンタが…ようせい…」

考え込む頭脳班をよそにまだ喋り続けるジョルジュ。
さすがのモナーも顔をこわばらせ始めた頃、ギルメンたちの名前を呼ぶ声が聞こえた。

(;*゚ー゚)「みな…さん……、しょぼん……さん」

息絶え絶えに駆け寄ってくるしぃ。
よほど必死に走ったのか、アバターはしていないはずの呼吸を大きくして、肩を上下させている。

(;,,゚Д゚)「しぃ!」

ξ;゚听)ξ「大丈夫?どうしたの急いで」

川 ゚ -゚)「何か見つけたのか?」

(;*゚ー゚)「歌が、変わってます」

(´・ω・`)「え?」

(*゚ー゚)「流れてる歌が、前と歌詞が変わってるんです!」


.

202 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:35:17 ID:9HKi61YI0

PM8:20

(*゚ー゚)「クエストが始まったときに、曲は一緒だし歌っている人の声も同じなんですが、なんとなく歌詞が違うような気がしたので、屋敷の中で聞いていたんです」

しぃから送られる一斉メッセージ。
各自が開き、読み始める。

( ・∀・)「なんだこりゃ」

(;^ω^)「ぜんぜん違うお」

川 ゚ -゚)「よく気付いたな」

(,,゚Д゚)「すごいぞしぃ」

(*゚ー゚)「えへへ」

ξ゚听)ξ「屋敷の風呂でずっと一つの場所を見ていたのは」

(;*゚ー゚)「あ、みられちゃいました。あそこが一番よく聞こえたのでずっとあそこにいたんです」


.

203 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:36:37 ID:9HKi61YI0

せいなるよるに みるゆめは
あすのひかりに みちている
ようせいつむぐ みちしるべ
ひかれるわたし ゆめをみる

ひとりのようせい かこをみる
かがやくゆめを みたかこを
あなたはわたし わたしはあなた
かがみのまえで なみだする

ひとりのようせい いまをしる
かがやくゆめを みるゆめを
あなたはあなた ひとりだけ
じぶんのあしで ゆめをみる

ひとりのようせい あすをみる
ゆめみるあすを ゆめとしる
あなたがいない あのゆめを
かえるだれかを まっている

せいなるよるに みるゆめは
きぼうのひかりに みちている
あなたのゆめを かなえるは
きぼうのすずを ならすひと
こころのひかりを しるひとぞ

.

204 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:39:17 ID:9HKi61YI0

(*゚ー゚)「あと、思ったんですけど、この歌もこのクエストも、『クリスマス・キャロル』によく似てませんか」

ξ゚听)ξ「ああ!」

川 ゚ -゚)「なるほど」

( ´∀`)「似てるもなね」

( ゚∋゚)「   」

( ・∀・)「そういや、そうだな」

(´・ω・`)「そうだね。よく似ている」

( ^ω^)「なんだお?それ」

( ´_ゝ`)「クリスマスキャロル?」

(´<_` )「家の本棚にあっただろうが」
 _
( ゚∀゚)「歌のことだろ?」

('A`)「聞いた覚えはあるけどよくはしらねえ」

.

205 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:40:48 ID:9HKi61YI0

(´・ω・`)「『クリスマス・キャロル』自体はクリスマスの歌、賛美歌とかそういった歌や曲をさすんだけど、僕らが言っているのは物語のことなんだ」

(,,゚Д゚)「ものがたり?」

(´・ω・`)「ああ。クリスマスの奇跡…とでもいうのかな。簡単に話すと、強欲で他人のことなど何も考えないで生きてきた老人が、クリスマスイブに現れた三人の妖精と一人の幽霊によって人の心を取り戻し、その後の人生を本当に豊かなものとした……ていう感じの話」
 _
(*゚∀゚)「へー。おもしろいな。で、サンタはどこに出て来るんだ?」

(;´・ω・`)「いや、出てこないけどね」
 _
(#゚∀゚)「クリスマスの話なのに?」

(;´・ω・`)「いや、うん。クリスマスの話といえば話だけどね」

川 ゚ -゚)「だが、だとしても」

( ^ω^)「それが関係してるのかお?やってることは、さっきやった依頼と同じなんだおね?」

(´・ω・`)「思いついたことはある。制限時間まであと少しだ。まずは中に入ろう」


.

206 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:41:58 ID:9HKi61YI0

PM8:40

木製の玄関を大きく開けると、扉に付けられた鈴が鳴った。
老人はロッキングチェアに座っており、そばの暖炉では赤々と炎が燃えている。
ギルド全員が中に入ると扉が自動的に閉まり、もう一度鈴が鳴る。
すると部屋の奥に座る老人がこちらを見た。

(´・ω・`)「ジョルジュ。彼に話しかけてくれ」
 _
( ゚∀゚)「わかった」

老人に近寄るサンタの衣装を着たジョルジュ。
 _
( ゚∀゚)「おう、爺さん」

エベネ「おまえさんは……?」
 _
( ゚∀゚)「おれは」

エベネ「わしはわしの人生を後悔などしておらん。負け犬にも興味は無い。だが、もしそれで傷ついた者がいるというのなら、償いはしてやろう」
 _
( ゚∀゚)「……じじいのツンデレ?」

.

207 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:43:02 ID:9HKi61YI0

(´<_`;)「ジョルジュ…」

ジョルジュがエベネに話しかけると同時に周囲を観察し始めるショボン。

川 ゚ -゚)「どうしたショボン?」

(;´・ω・`)「あれ?ない?」

( ´_ゝ`)「あの武器いいなぁ。貰えないかなぁ。多分鉱石に戻したらサクラルストーンだと思うんだよな」

(,,゚Д゚)「あの盾もよさげだぞゴラァ」

( ´_ゝ`)「あれは木だからいらない」

( ´∀`)「何か探し物もな?」

キョロキョロと周囲を見るショボンに釣られて同じように周囲を見回す。

ξ゚听)ξ「広いし高そうなものばかりだけど、品はないはね。ザ・成金っていうところかしら」

( ^ω^)「あれ?あの暖炉のそばの置物ってカルム鉱石じゃないかお?」

(´<_`;)「なに?あの希少石か!?」

(;´・ω・`)「鏡が無い…だと」

.

208 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:44:24 ID:9HKi61YI0

エベネ「さあ、この紙を受け取るがいい。そこにやるべきことが書いてある。必要なものはこの袋の中だ」
 _
( ゚∀゚)「ショボン、フラグ立ったぞ!貰えば良いのか?」

(´・ω・`)「だめ!鏡を見せないと!」

('A`)「鏡なんか無いぞ。この部屋」

(;´・ω・`)「おかしい。さっき屋敷の中を見たときに、自分の姿を見たような気がしたんだけど」

( ゚∋゚)「  」

(;´・ω・`)「そうかもしれない。もう暗かったから、窓ガラスに映る自分を見て……。ツン!クー!しぃ!誰か!鏡持ってない?!」

ショボンの問い掛けに顔を見合わせるギルメンたち。
しかし誰も鏡は持っておらず、手を振ったり顔を横に振ったりしている。

(;´・ω・`)「モララー!」

( ・∀・)「なんだよ」

(;´・ω・`)「今持ってる工具と材料で鏡作れないかな?」

( ・∀・)「ちょっとまて」

.

209 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:45:30 ID:9HKi61YI0

ウインドウを出して持ち物を確認するモララー。
そしていくつかの欄をタップして、目の前に工具と数個の材料を出現させる。

( ・∀・)「手鏡なら出来るな」

(´・ω・`)「作ってくれ!」

( ・∀・)「了解」

数種の材料を迷いの無い手さばきでタップすると全てがまとまった一つの塊になった。そして右手に持った工具でリズミカルに材料を数回叩く。すると澄んだ金属音が最後に一回響き、光り輝いたかと思うと手鏡が現れた。

( ・∀・)「出来たぞ」

(´・ω・`)「ジョルジュ!これでエベネさんの顔を映すんだ」
 _
( ゚∀゚)「わかった」

受け取ったジョルジュが鏡を差し出すと、エベネが覗き込む。

エベネ「これが……わしの顔か……。なんと醜い。自分のことしか考えん、しわくちゃで、汚い顔だ…。ああ……なんという……」
 _
( ゚∀゚)「おっ!進んだぞショボン!どうすればいい!」

(´・ω・`)「服脱いで!」
 _
(*゚∀゚)「えっ」

.

210 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:47:39 ID:9HKi61YI0

(´・ω・`)「妖精が三人必要だから、服を切り替えるんだよ」
 _
( ゚∀゚)「わかった……あれ?」

ウインドウを出して操作するジョルジュだが、何度タップしても着替えのメニューが反応しない。

(´・ω・`)「どうした?」
 _
(;゚∀゚)「反応しない。着替えのメニューが何一つ動かねえぞ」

(;´・ω・`)「服の固定!?」

着替えのために出していた自分のウインドウを操作しようとするショボン。しかし自分のウインドウは反応をした。

(´・ω・`)「僕は大丈夫だ。みんなはどう?」

全員が確認すると、動かせないのはジョルジュだけだった。

(,,゚Д゚)「こんなクエストもあるんだなゴルァ」

川 ゚ -゚)「お祭りクエストだが、結構シビアのようだ」
 _
(;゚∀゚)「おい、ショボン、どうすりゃあいいんだ?」

.

211 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:49:23 ID:9HKi61YI0

(;´・ω・`)「………フラグを立て終わるかクエストキャンセルをしないと扉は開かないだろうし……!ツン!」

ξ゚听)ξ「そうくると思って持ち物を確認中。二着できればいいのよね………なんとかできそう。ちょっと待って」

(´・ω・`)「頼む」

ウインドウを次々にタップして布や携帯用ソーイングセットを実体化させていくツン。

ξ゚听)ξ「しぃ、あなたも針を準備しておいて」

(*゚ー゚)「はい!」

しぃが裁縫道具を出しているうちにもツンのタップは止まらず、足下には白色の反物と白いファーが山積になる。

(´<_` )「白い布しかないようだが」

ξ゚听)ξ「裁縫スキルの派生スキルにはね、こんなのもあるのよ」

白い反物を左手に持つ。そしてそれに重ねるように右手に持った筆のようなものを一振りすると、白い反物が赤くなった。

( ´∀`)「すごいもな!」

▼*・ェ・▼「っきゃん!」

(´<_` )「ほぉ。凄いな。防具もこれくらいの色変えとかあればいいのに」

ξ゚听)ξ「しぃ、これと足下のファーを使ってサンタの三角帽子を作って!今ジョルジュがかぶってるみたいなやつ!二つね!」

(*゚ー゚)「はい!」

.

212 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:50:59 ID:9HKi61YI0

そこからのツンは早かった。
こちらもモララーと同じく迷うことなく間違えることなく部材をタップしていき、あっという間に上下組のサンタ衣装を作ってしまう。
そしてそれに続くようにしぃも帽子を完成させた。

(;*゚ー゚)「ツンさん、早すぎですよ」

ξ゚听)ξ「慣れよ慣れ。ショボン、誰が着るの?」

(´・ω・`)「一着は僕が着るよ。もう一着はドクオかギコ…。ギコ、着ておいてくれ」

(,,゚Д゚)「お、おう!」

ツンから渡された衣装に着替えるショボンとギコ。
着替えといっても受け取った服を自分のアイテムにしてからコマンド操作をするだけなのだが、一度はインナー姿になるため普段なら躊躇する場面だが、今日はそんなことをいっている余裕も無いため気にしないで着替え終わった。

川*゚ -゚)「なるほど」

ξ;゚听)ξ「え?なにが?」

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213 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:52:26 ID:9HKi61YI0

(´・ω・`)「エベネさん、後悔していますね?」

着替えると同時にエベネに離しかけるショボン。
ただ泣いていたエベネが泣くのを止め、ゆっくりとショボンを見る。

エベネ「……はい」

(´・ω・`)「では、あなた自身の手で後悔を消しましょう」

エベネ「私自身の手で?」

(´・ω・`)「そうです。あなた自身の手で人々を助けましょう。そして、これからの未来を豊かなものにしましょう」

エベネ「未来を…」

(´・ω・`)「さあ、行きましょう」

エベネ「……はい」

(´・ω・`)「残り時間、あとどれくらい!?」

(*゚ー゚)「もうすぐ10時です!」

('A`)「あと二時間!」

(;´_ゝ`)「間に合うのか?」

川 ゚ -゚)「まずはやるだけだ!」

(´・ω・`)「行きましょうエベネさん!」

立ち上がるエベネを追い立てるように部屋を出るショボンたち。
時計はまもなくPM10:00になろうとしていた。

.

214 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:54:19 ID:9HKi61YI0

PM10:10

18層街外れ『クラリ家』
ベッドに横たわるこの家の子供ティムに跪き、その手を握るエベネ。

(;´・ω・`)「ヒールクリスタルが効かない」

川;゚ -゚)「さっき私が来たときには効いたぞ」

部屋に入っているのはエベネ老人とショボンとクーとジョルジュ。他のメンバーは外で待機をしている。

エベネ「私が無茶な仕事をさせたばっかりに…こんな子供に毒の沼地に落ちた宝石を探させるなんてことをさせるんじゃなかった」

泣き崩れるエベネ。

川 ゚ -゚)「毒か!」

ウインドウを出して毒消しPOTを取り出すクー。

川 ゚ -゚)「これを」

( ´∀`)「クー、待つもなよ」

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215 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:56:08 ID:9HKi61YI0

(´・ω・`)「モナー?」

( ´∀`)「外でその子の友達がいたから話を聞いたもな。どうもその子は沼でクツツク虫に咬まれたらしいもな」
 _
( ゚∀゚)「クツツク虫ってあれだろ?魚の餌に使う」

( ´∀`)「家畜に付く害虫でもあるもな。そして、クツツク虫に咬まれてほっておくと、麻痺して死んじゃうもな。顔についてる四角形の赤い点が、咬まれた証拠もな」

川 ゚ -゚)「麻痺も起きているということか!」

( ´∀`)「もちろんその時に麻痺除去薬も飲んだし、毒消し薬も使ったって言っていたもな。だからおそらく、二つが交じり合って薬が単独では効かないもな」

川 ゚ -゚)「治すには同時に治す混合薬が必要ということか。……成功率は低いが、おもしろい。作ってみせる」

再びウインドウを開いたクーが空瓶と麻痺除去POTと回復POTを取り出す。

川 ゚ -゚)「毒消しと麻痺除去を直接混ぜるのはかなり難しいが、各薬をレベルの高いものにして、回復を媒体にすればおそらく……」

空瓶に回復POTを半分ほど入れ、その上から同じタイミング同じ流量で毒消しPOTと麻痺除去POTを注ぎ、溢れるギリギリの高さまで注いだ。
三種の液体が瓶の中で混じり始め、一瞬ぼんやり光ると完全に混ざりきる。

川 ゚ -゚)「よし」
216 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:57:19 ID:9HKi61YI0

そして自分の作った薬をタップして情報を読み、思わず微笑む。

川 ゚ -゚)「ショボン、出来たぞ」

(´・ω・`)「ありがとう!」

ショボンが瓶を受け取り、それをエベネに渡す。

(´・ω・`)「さ、それを彼に飲ませてあげてください」

エベネ「ありがとうございます」

エベネが薬を受け取り、上半身を持ち上げた少年に薬を飲ませる。
すると見る見るうちに少年の顔色がよくなり、呼吸も緩やかになった。

母「ティム!」

父「ティム!」

母「ありがとうございます!ありがとうございます!」

子供を抱きかかえつつエベネに感謝の言葉を繰り返す母親と父親。
エベネの表情が、少しだけ和らいだ。


.

217 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:59:13 ID:9HKi61YI0

PM10:40
18層 主街区の隣の村

(;´・ω・`)「え?」

('A`;)「黒パンがどこにも売ってない!」

(;,,゚Д゚)「さっきはそこの露天でも売ってたぞ!」

(´<_` )「おい、もうすぐパンを渡すやつらを集め終わるぞ」

( ´_ゝ`)「黒パンは結構旨いからな。売り切れることもあるさ」

ξ;゚听)ξ「そういうことじゃない」

( ^ω^)「ショボンが作れば良いお」

川 ゚ -゚)「そうだな」

(;´・ω・`)「むりむりむりむり!包丁とか調味料は持ってるけど、刺身とかならともかくパンは窯の設備がないと焼けないって」

(;´∀`)「どうするもな?」

(;´・ω・`)「今からバーボンハウスに戻ってパンを焼いて…」

.

218 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 19:59:57 ID:9HKi61YI0

ピロリン

メッセージ音に反応し、無意識にウインドウを開くショボン。

(;´・ω・`)「あーもう、こんなときに誰だよ」

『ミ,,゚Д゚彡「片付け終わったから。18層に向かうから」』

(*´・ω・`)「ふさーーー!!!」

▼;・ェ・▼「きゃんっ」

(;゚∋゚)「!」

川;゚ -゚)「いきなり叫ぶな、ショボン」

( ´_ゝ`)「おお、そういえば」

(´<_` )「まだバーボンハウスにいるんだろ。あいつ」

(*´・ω・`)「『至急黒パンを10個作ってギルドタブに入れてくれ』っと。送信!」
 _
( ゚∀゚)「こういうショボンも珍しいな」

(*゚ー゚)「初めて見ました。こんなテンションのショボンさん」

(;´・ω・`)「ふーさー。はーやーくー」

自分のことを言われていることに気付かず、ただウインドウを見つめるショボン。

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219 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:04:51 ID:9HKi61YI0

( ^ω^)「ショボンは面白いやつだお」

('A`)「ギルマスになってからは冷戦沈着に見られがちだけどな」

( ´∀`)「時々ビーグルと遊ぶために牧場に遊びに来るもな」

( ゚∋゚)「    」

(;・∀・)「本当かよ」

( ´∀`)「本当もなよ。泥だらけになって遊んだりしてるもな」

(*゚ー゚)「…うわぁ」

川 ゚ -゚)「よく視察とか仕入れとか言って出かけてると思ったら」

ピロリン

『ミ,,゚Д゚彡「焼けたから」』

(*´・ω・`)「キター!ふさ偉い!」

ウインドウをタップして黒パンの入った袋を出し、エベネに渡す。

(´・ω・`)「さ、これをあの方たちに渡しましょう」

エベネ「ああ、分かった」

220 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:06:56 ID:9HKi61YI0

路上に座り込んでいるみすぼらしい格好のNPC達に黒パンを一つずつ渡していくエベネ。
NPCは渡されると感謝の言葉を継げ、涙を流して喜ぶものもいる。

ξ゚听)ξ「この村、攻略の時には素通りで特にこれといった店も無かったよね。確か」

( ^ω^)「みんなパンをもらえて嬉しそうだお」

(;,,゚Д゚)「なんか人増えてないか?」

川 ゚ -゚)「袋の大きさからみて、フサがいっぱい作って送ったみたいだから、いいんじゃないか」

('A`)「小さい村だしなぁ」

( ・∀・)「なんか名産品があれば良いけど、この地域じゃあ難しそうだな」

( ´_ゝ`)「すぐそばが岩山だから、鉱石でも出れば鍛冶屋が来そうだが」

(´<_` )「あの山でレア鉱石の噂は聞かないな」

( ゚∋゚)「   」

( ´∀`)「そうもなね。土地もやせていて、野菜も牧草も栽培は難しそうもな」

メンバーが話している間もエベネは袋の中の黒パンを分け与え、少しずつ表情を明るくさせた。

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221 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:08:07 ID:9HKi61YI0

PM:11:25
18層『夕闇の墓地』ジェコブの墓の前

エベネ「すまなかった…ジェコブ」

墓の前で懺悔するかのように膝を付き祈りを捧げるエベネ。
そして一つの花束を墓の前に置く。

エベネ「すまないな。お前の好きだったライララライラの花を持ってくることが出来なかった。せめて、種だけでもここに置いておく。そっちで咲かせてくれ」

(;´・ω・`)「エベネさん、その種貰いますよ。クックル!」

ウインドウを出したクックルが左手に土の入った植木鉢を取り出し、種を受け取る。
数粒を植木鉢に蒔き、取り出した青い象さんじょうろで水をかけると芽が出た。
そして今度は黄色いひまわりじょうろで水をかけるとみるみるうちに成長して紫色の花を咲かせる。

(,,゚Д゚)「おお!」

(*゚ー゚)「凄い!」

( ´∀`)「いつみても見事もなね」

(*゚∋゚)「   」

モララーに植木鉢を差し出すクックル。

( ・∀・)「りょうかい」

植木鉢を足下におき、既に取り出しておいた小さい鋏で花をタップすると切花が現れる。
その花を、鋏と一緒に取り出しておいた紙束とリボンの上に重ねて置き、その上からタップすると花束となった。

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222 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:09:28 ID:9HKi61YI0

( ・∀・)「ショボン!」

(´・ω・`)「二人ともありがと!」

モララーから受け取った花束をエベネに渡す。

エベネ「これはライララライラの花束!ジェコブが喜びます。ありがとう!」

エベネが墓前に花束を置き、再び膝を付く。
一筋涙を流したが、その表情は穏やかで安らぎに満ちていた。


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223 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:11:26 ID:9HKi61YI0

PM11:45
エベネ邸 門前

川 ゚ -゚)「これで真のクエストは終了か?」

(´・ω・`)「依頼リストは三つで空欄とかも無いから増えたりはしないと思うけど」

エベネを先頭に門をぬけ、屋敷に向かうメンバー。
途中で合流したフサギコもおり、ギルドメンバーが全員でぞろぞろと歩いていた。

( ・∀・)「歌の歌詞もこれで終わりか?」

(´・ω・`)「一つ終わってない。三人目の妖精のくだりがまだ未消化だと思う」

( ^ω^)「残り時間はあと10分ちょっとだお」

ξ゚听)ξ「まずは一回屋敷に戻ってからね」

屋敷の扉を開け、全員が中に入る。
扉を閉めるとエベネは再び暖炉の前のロッキングチェアに座った。

エベネ「妖精よ。私はあなたに感謝をしてもしきれない。一つだけ心残りはあるが、最後に人の役に立てたことを誇りに思う。さぁ、私を死の世界に連れて行ってくれ」

(´・ω・`)「え?」
 _
( ゚∀゚)「え?」

▼・ェ・▼「きゃんっ」

エベネの言葉に絶句するメンバー。

224 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:12:23 ID:9HKi61YI0

(;´・ω・`)「いやいやいやいや違うって。そうじゃなくて、エベネさん?」

エベネ「最後に幸せなクリスマスを迎えて幸せだった」
 _
(;゚∀゚)「おいおいじいさん、それは違うんじゃ」

(,,゚Д゚)「物語の『クリスマス・キャロル』だと、死ぬのか?」

(;*゚ー゚)「死なないよ。死ぬ運命を回避して、充実した老後を送る設定」

川 ゚ -゚)「何が足りないんだ」

ξ゚听)ξ「歌の歌詞にヒントがあるのよね。あとは最後のところ…」

エベネ「さあ、二人目の妖精よ、三人目の妖精を呼んでくれ」

(;´・ω・`)「え〜〜。か、考えろ、考えるんだ、ショボン。みんな!なんか思いつかない!?」

('A`)「こっちに振るの早くないか?」

(;´・ω・`)「そういうのはいいから!」

ミ,,゚Д゚彡「状況があんまりよく分かってないから!」

ξ゚听)ξ「フサはしょうがないわよ。来たばっかりだし」

川 ゚ -゚)「でも、さっきのパンは見事だったな。よくあれだけの短時間でいっぱいの黒パンを作ってくれた」

ミ*,,゚Д゚彡「照れるから」

(#´・ω・`)「だーかーらー」

225 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:13:30 ID:9HKi61YI0

( ・∀・)「残ってるのは三人目の妖精なんだろ、サンタコスしたギコがなんかやりゃいいんじゃないのか?」

(´・ω・`)「何だと思う?」

( ・∀・)「しらん」

(#´・ω・`)

(;*゚ー゚)「の、残ってるのは『かえるあなた』とか、『きぼうのすず』とかのくだりですよね」

( ^ω^)「鈴かお?」

( ´∀`)「鈴を鳴らせばよいもなか?」

(´<_` )「じゃあどの鈴かってことか?」

( ´_ゝ`)「この部屋にある鈴といえば…」

▼・ェ・▼「きゃんっ!」

全員が扉の上部に付いている鈴を見る。

川 ゚ -゚)「そういえばさっきこの部屋に入った時は鳴らなかったような」

(´・ω・`)「それだ!ギコ!あの鈴を鳴らすんだ!」

(,,゚Д゚)「分かったぞゴラァ!」

扉に向かい、扉を開けようとするがびくともしない。
諦めてジャンプするが全く届かない。
というよりも、ジャンプが出来ていない。

(;,,゚Д゚)「あ、あれ?跳べないぞゴルァ」

(;^ω^)「クエスト中の補正が働いているのかお?」

(;´・ω・`)「武器は出せる?みんなも試してみて」

(;,,゚Д゚)「だせねぇ」

('A`)「おれもだめだ」

ξ;゚听)ξ「みんな駄目みたいね」

(;´・ω・`)「な、なにか長い棒とかない?」

226 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:15:41 ID:9HKi61YI0

自分のアイテム欄や部屋の中を見回すメンバー。
ひとり兄者だけがウインドウをタップし、鍛治用のハンマーとシートを取り出して足下に置く。

( ´_ゝ`)「ふむ。これはだせるのか。弟者!」

(´<_` )「なんだ?兄者も探せよ」

( ´_ゝ`)「あれ、木に戻せるか?」

兄者が指差した方向にあるのは木の盾。

(´<_` )「?戻せるが……なるほど。流石だな」

兄者が盾を取る間に弟者は自分用のハンマーとシートを出してコマンド操作をしている。
流石兄弟二人以外が何をしているのかと凝視する中、兄者が盾を弟者のシートの上に置くと、弟者は躊躇なくハンマーを振り下ろした。

輝く盾。
そして形が変わり、丸太になった。

そして今度はそれを兄者は自分のシートに置き、既にコマンド操作を終わらせていたのか愛用のハンマーを振り下ろす。

川 ゚ -゚)「残り5分だぞ!」

227 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:17:10 ID:9HKi61YI0

五回ハンマーを振り下ろすと形が変わり始め、一本の長い棒に姿を変えた。

( ´_ゝ`)「一番簡単な棍だ。ほれ、ギコ、これを使え」

そして自分の作った棍を放り投げてギコに渡す。

(*´・ω・`)「兄者ナイス!」

( ´_ゝ`)「流石だろ!」

(´<_` )「おれ達!」
 _
(;゚∀゚)「いちいち決めポーズするなよ」

川 ゚ -゚)「残り二分!」

(,,゚Д゚)「ゴラァ!」

棍を受け取ったギコがドアに取り付けられた鈴を鳴らした。


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228 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:18:16 ID:9HKi61YI0

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229 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:19:41 ID:9HKi61YI0

……
………

( ゚∋゚)「    」

( ・∀・)「ああ。なにも起こらないな」

(;´・ω・`)「え?」

全員が硬直し、ショボンを見る。

(;´・ω・`)「マジで?」

川 ゚ -゚)「十二時だ」

非情にクーが呟くと、12時を告げる大きな鐘の音が響き渡る。

(´・ω・`)「しっぱい?」

(;^ω^)「っぽいおね」

('A`)「疲れた」

(;´∀`)「もなもな」

(;,,゚Д゚)「え?おれのせい?」

(;*゚ー゚)「違うと思うけど…」

全員が溜息を漏らそうとした瞬間扉が開き、来客を告げる鈴が鳴った。

(;,,゚Д゚)「おっと。……あれ?あんたは最初のクエストの最後に手紙を渡した…」

扉の前でしゃがみこんでいたギコが慌てて退くと、一人のNPCが入ってくる。

(,,゚Д゚)「マレイ?だよなゴルァ」


.

230 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:20:31 ID:9HKi61YI0

マレイ「……父さん」

エベネ「マレイ!マレイなのか!」

柔らかい微笑を浮かべた青年『マレイ』がエベネに近付き、そっとしわくちゃの手を握る。

エベネ「おまえ……今までどこに」

マレイ「この街と、近隣の村を渡り歩いていたんだ」

エベネ「何故…」

マレイ「僕は、父さんの行動が許せなかった。商売のためなら何でもして、他の人の人生や心など全く気にしない父さんが、許せなかったんだ」

エベネ「……そうか」

マレイ「僕は、この街や隣の村みんなで幸せになりたいと思った。だから最初は頑張って商売をしたり農地開拓をしようとした。でも、こんな寂れた土地には何も出来ないんじゃないかって…思ってしまったんだ。だから、ここ数年は色んな街を彷徨っていた」

エベネ「マレイ」

マレイ「そんな時、父さんを見かけた。子供を助け、町の人にパンをあげている父さんを。そして、……ジェコブおじさんのお墓の前で泣いている父さんを」

ぽろぽろと涙を流すマレイ。
そのまま自分の父親を見つめながら、膝を折る。

マレイ「僕が何も知らなかっただけなんだね。ごめんなさい。僕、これから父さんの力になりたい。教えてほしいんだ。色んなことを。父さんみたいな、立派な人になりたいから」

エベネ「違うんだ、マレイ。わたしは…わたしは…」

エベネも大粒の涙を瞳から溢れさせ、息子であるマレイの手を強く握る。

エベネ「わたしも、やっと分かったんだ。金だけが全てじゃない、本当の豊かさを。心の、豊かさを。マレイ、思えばお前は小さい頃から優しい子だった。わたしこそ、教えてもらいたい。心の豊かさを、本当の、優しさを」

マレイ「父さん…」

抱き合い、涙する二人。

エベネ「力を貸してくれ、マレイ。この街を、あの村を、豊かにするために」

マレイ「うん。父さん。僕、頑張るよ」

.

231 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 20:21:52 ID:9HKi61YI0

ミ,,;Д;彡「良い話だから」

(*;ー;)「泣けちゃいますね」

ξ゚听)ξ「お、お話よ、クエストのイベントだし」

( ;ω;)「ツンも無理しないで泣くと良いんだお。目、真っ赤だお」

( ´∀`)「家族の雪解けもなね」

▼*・ェ・▼「くぅ〜ん」
 _
( ;∀;)「ちくしょう、良い話だ」

( ・∀・)「みんな涙もろいねぇ。ね、ショボン。……ショボン?」

親子を見て涙する何人かのメンバー。
しかしショボンは視線を斜め上にして硬直していた。

(´<_` )「どうした?ショボン」

(*´・ω・`)「クエストクリア!」

親子が抱き合うとほぼ同時に、全員の視界の上部に現れた『QUEST CLEAR』の文字。
一人ショボンはそれをかみ締め、そして叫び、ガッツポーズをする。

(*´・ω・`)「おっけーーー!!!」

川;゚ -゚)「うわぁ」

(; ´_ゝ`)「…流石のおれも、今のお前にはひく」

(; ゚∋゚)「    」

('A`;)「こいつはこういうところがあるんだよな」

(;,,゚Д゚)「…ゴルァ」

抱き合い涙する親子の周りで三様の姿を見せるギルド『V.I.P.』メンバーだった。


.
236 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:23:24 ID:b6yq5RR.0

5.かんきの歌


(´・ω・`)「さっきはお見苦しいところをお見せしました」

エベネ邸前。
扉の外側でミーティングを始めるメンバー。

('A`)「そんなことより目当てのものはもらえたのか?」

(´・ ω・`)「うん。さっきエベネさんがくれた袋が『サンタの袋』だったよ。中には鉱石とかPOTとかクリスタルとか色々入ってた。とりあえず今リストを送る から、欲しい物があるか調べておいて。物はギルドタブに入れておくけど、次の定例会で分配するまで勝手に出さないようにね。効果とかを調べたかったらタッ プはしてくれていいよ」

ショボンがウインドウを操作すると、全員にメッセージ到着を知らせるチャイムが鳴り、各自が確認を始めた。

(´・ω・`)「『サンタの袋』はこの状態で保管しても仕方が無いので、使っちゃいます」

中身を空にした白い袋をタップして、ギルドタブにスライドさせる。

(*´・ω・`)「よし、容量アップ!」

.

237 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:26:42 ID:b6yq5RR.0

川 ゚ -゚)「それでは夜も遅いし、解散だな」

(´・ω・`)「いや、もう一つあるんだ。報酬」

( ^ω^)「これ以外に?」

(´・ω・`)「これ以外に」

紙を一枚取り出すショボン。
 _
( ゚∀゚)「とっとと帰ろうぜ。何か知らないけど、さっさと分配しちまおう」

(´・ω・`)「これは今日一日の期間限定、分配不可アイテムなんだ。だから使ってしまうつもりなんだけど、良いかな?」

( ´_ゝ`)「いいんじゃないのか?」

(´<_` )「お前がやることなら間違いは無いだろうし」

( ・∀・)「さっさと済ませて帰ろうぜ」

ミ,,゚Д゚彡「明日もレストラン早いから」

(´・ω・`)「……多分これを使うと帰れなくなると思うんだけどね」

(,,゚Д゚)「え? どういうこと」

みんなの顔を見て反対者がいないのを確認し、ぼそりと呟いてから紙をタップして実行した。

.
239 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:29:03 ID:b6yq5RR.0

その瞬間、光り輝くエネベ邸の敷地。
クリスマスイルミネーションである。
邸宅もひかりに彩られ、大きく聳え立つ一本の樹や周囲の植木、そして外界と遮断する門や壁までがライトで彩られた。

(*゚ー゚)「凄い」

(* ´∀`)「キレイもな」

▼*・ェ・*▼「きゃんきゃんっ」

(* ゚∋゚)「!」

走り出すビーグルとそれを追うモナーとクックル。ジョルジュやフサギコも周囲を見ながら歩き出す。

川*゚ -゚)「ショボン、これは?」

(*´・ω・`)「庭をクリスマスイルミネーションで装飾して、クエストクリアしたギルドに今日いっぱい貸し出すっていうアイテムなんだけど、思っていたより凄いしキレイだ」

(* ・∀・)「おい、これも演出か?」

(* ´_ゝ`)「雪まで降るとは」

(´<_` *)「ホワイトクリスマスだな」

川* ゚ -゚)「ビーグルが更に喜んで駆け回ってるぞ」

ミ*,,゚Д゚彡「凄いキレイだから」

(*´・ω・`)「ね。帰れなくなるでしょ」

(*,,゚Д゚)「凄いぞゴラァ」

それぞれに動き出し、庭を楽しむメンバー。
.

240 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:30:05 ID:b6yq5RR.0

(* ^ω^)「きれいだおね」

ξ*゚听)ξ「うん。きれい」

(* ^ω^)「寒くないかお?雪まで降ってきたし」

ξ*゚听)ξ「……こうしてれば、大丈夫。……あったかい」

手を繋ぐ二人。
そっと近くにより、肩が触れ合う。

(* ^ω^)「おっおっ」

.

241 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:32:39 ID:b6yq5RR.0

大きな樅ノ木。
雪とイルミネーションに彩られ、淡く優しく輝いている。

(*゚ー゚)「きれい…」

ミ*,,゚Д゚彡「凄くきれいだから」

見上げてうっとりとしているしぃとフサギコ。
その後ろにギコが立ち、イルミネーションのひかりで光り輝いているしぃを見ている。

そんな彼の肩を叩く男。

(,,゚Д゚)「モララー」

( ・∀・)「ほらよ」

指輪を差し出すモララー。

(,,゚Д゚)「な、なんだ」

( ・∀・)「プロポーズしちまえよ。良いシチュエーションだろ」

(,,゚Д゚)「お、おう。だが指輪は…」

(# ・∀・)「まだそんなこと言ってるのか!」

242 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:34:14 ID:b6yq5RR.0

( ´_ゝ`)「金なら貸してやるぞ。勿論無利子で」

(´<_` )「一ヶ月くらい頑張れば返せる額だろ」

(,,゚Д゚)「そういう問題じゃねぇんだゴルァ。これは男としての」

(# ・∀・)「プライドで飯が食えるか!女を幸せに出来るのか!?」

(;,,゚Д゚)「ゴ…ゴルァ」

川 ゚ -゚)「つまりは、正当な金ならば良いわけだな」

(,,゚Д゚)「あ、ああ。勿論だゴルァ」

川 ゚ -゚)「この前サソリ谷で特訓したんだろ?大サソリの毒針はドロップしなかったか?あるなら一本50コルで買おう。あれは毒にも毒消しにも使えるからな」

(´<_` )「サソリならこっちも買えるものがあるぞ。赤サソリの甲殻とサソリの大爪ならそれぞれ30コルで帰う。二つとも強化用アイテムとしてはレベルがそれなりにあるからな」

( ´_ゝ`)「あの谷に一時間いたなら、一回くらいコープ石はドロップしなかったか?あの石なら100まで出すぞ」

( ・∀・)「赤サソリの眼、大サソリの薄膜があるならおれも買う。あの谷で特訓したなら早く言えよ」

(,,゚Д゚)「みんな……ありがとうだゴルァ」

川 ゚ -゚)「まじめにあるなら売って欲しいから、あるなら早く出してくれ」

(;,,゚Д゚)「お、おう」

ギコ達が金の話をしているとは露知らず、ぼんやりと樅ノ木を見上げてうっとりとしているしぃ。
いつしかフサギコもその場を離れ、ひとり佇む

,

243 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:36:10 ID:b6yq5RR.0

(,,゚Д゚)「し、しぃ」

(*゚ー゚)「ギコ君」

後ろから声をかけ、振り返って微笑むしぃを見ながら隣に立ち、樅ノ木を見上げる。
それを見て、再び見上げるしぃ。

(,,゚Д゚)「きれいだな」

(*゚ー゚)「ね」

(,,゚Д゚)「しぃ、お前もきれいだ」

(*゚ー゚)「やだ、なに言ってるのよギコ君」

思いもよらぬ言葉を受け、照れてギコを見るしぃ。
その視線の先には真剣な顔で自分を見るギコの顔。
そして差し出された右手に、小さな箱を持っていた。

(*゚ー゚)「ギコ君?」

(,,゚Д゚)「プレゼントだ。貰ってくれ」

(*゚ー゚)「あ、ありがとう」

箱を受け取って、蓋を開けるしぃ。
すると中にはぼんやりと輝く小さな透明な石を使った指輪が入っていた。

(*゚ー゚)「ギコ君…これ…」



244 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:37:21 ID:b6yq5RR.0

(,,゚Д゚)「しぃ、結婚してくれ」

(*゚ー゚)「!」

(,,゚Д゚)「お前が好きだ。一生、そばに居たい」

(*゚ー゚)「…ギコ君」

呆然とギコの顔を見るしぃ。
そしてギコの真剣な眼差しをみて、自分の瞳を潤ませる。

(*゚ー;)「ありがとう、ギコ君。わたし、嬉しいよ」

大粒の涙を左目からこぼしながら、受け取った小箱を両手で大事に持って、胸に当てる。

(*,,゚Д゚)「じゃあ、しぃ、おれと」

(*゚ー゚)「凄く嬉しいよ!私もギコ君のこと大好き!」

(*,,゚Д゚)「しぃ!」

(*゚ー゚)「ギコ君!」

(*,,゚Д゚)「しぃ!!」

.

245 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:38:40 ID:b6yq5RR.0




(*゚ー゚)「でも結婚は出来ない」




.

246 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:40:35 ID:b6yq5RR.0




(,,゚Д゚)「…………え?」




.

247 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:41:40 ID:b6yq5RR.0

(*゚ー゚)「だって私達まだ半人前もいいところだよ。二人で支えあうとか聞こえはいいけど、下手したら共倒れだよ」

(,,゚Д゚)「……え?」

(*゚ー゚)「だから、ちゃんと自分の足で立てるようになるまで、結婚とかは出来ない。ギコ君のことは大好きだし、ずっとそばにいたいけど、その前にまずは一人で歩けるようにならないといけないって思うの。だから、ごめんなさい」

(,,゚Д゚)「………ゴルァ」

(*゚ー゚)「でも、嬉しいから婚約ってことで指輪は貰うね。ありがとうギコ君。大好きだよ」

(,,゚Д゚)「…………はい」

(*゚ー゚)「じゃあイルミネーション一緒に見よっ。きれいだよ」

ギコの腕に自分の手を回し、壁や植木のイルミネーションを指差すしぃ。
ギコはただ頷くことしか出来なかった。

.

248 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:43:22 ID:b6yq5RR.0

少し離れた植木の裏。

(; ・∀・)「……」

(; ´_ゝ`)「……」

(´<_` ;)「……」

川; ゚ -゚)「……。私たちがやったことは、間違ってないよな」

(; ・∀・)「た、多分」

(´<_` ;)「だ、大丈夫だ。間違ってない」

(; ´_ゝ`)「しぃちゃんすげえな」

植木の後ろから移動して、息を付く四人。

川; ゚ -゚)「ギコが甘かったということで」

(; ・∀・)「結婚指輪は安くしてやろう」

(´<_` ;)「ああ、そうしてやってくれ」

(; ´_ゝ`)「今度ただで武器の強化をしてやるか」

(´・ω・`)「ギコのプロポーズは終わった?」

( ´_ゝ`)「ああ終わったけど……って、なんだお前らそれ」

.

249 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:44:29 ID:b6yq5RR.0

ミ,,゚Д゚彡「屋台だから!」

あまりの出来事にこちらもギコほどではなくても呆然としていた四人だったが、ショボンとフサギコを見て違う意味で言葉を無くす。

川 ゚ -゚)「いや、そういう意味ではなく」

(´・ω・`)「屋台『バーボンハウス』一号店」

ミ,,゚Д゚彡「屋台『バーボンハウス』二号店」

川 ゚ -゚)「いやだから、昔使っていたのは覚えているが、何故それが今ここにあるんのかを聞きたい」

(´<_` )「あーなるほどな」

( ´_ゝ`)「そういうことか」

川 ゚ -゚)「ん?」

(´<_` )「門のほうを見てみろよ、クー」

弟者の指差す門を見ると、他のプレイヤーたちが大挙として押し寄せていた。

川; ゚ -゚)「なんだあれは?」

.

250 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:46:56 ID:b6yq5RR.0

( ´∀`)「これだけきれいなら、みんな寄って来るもなよ」

▼・ェ・▼「きゃんきゃん!」

( ゚∋゚)「   」

ξ゚听)ξ「ほんとね、凄い人の数。この層にこんなに人がいるとも思えないし、わざわざ聞きつけて来たのかしら」

ばらばらに見ていたメンバーだったが、異変を感じて集まってくる。

( ^ω^)「中に入れてあげてみんなで見るお」

(; ・∀・)「おいおい、ショボン、もしかして」

(´・ω・`)「入場料とかは取らないから、安心して。せっかくだから、みんなで楽しまないとね。で、楽しむためには食事や飲物があるともっと良いと思うんだ」

川; ゚ -゚)「なるほどな」

ミ,,゚Д゚彡「皆がクエストやってる間、準備を頑張ったから!」

.

251 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:48:26 ID:b6yq5RR.0

(´・ω・`)「しぃ、クー、屋台の方は任せるよ。僕とふさはバーボンハウスに戻って調理に専念するから」

('A`)「それでどうするんだ?」

(´・ω・`)「ギルドタブに料理を入れていくから、料理はそこから出して売ってくれ。それなら各自で売れるからね。サンタの袋を使って拡張したからいっぱい入るよ」

(; ・∀・)「もしかして」

(´<_` ;)「お前最初から」

(´・ω・`)「出来たらいいなとは思っていたけど、こんなに上手くいくとは思わなかったよ」

ミ*,,゚Д゚彡「それじゃあお願いだから!」

(´・ω・`)「みんな!頼むね!ギルドの金庫を潤すために!がんばっていこう!」

テレポートクリスタルを使ってそれぞれのバーボンハウスのある層に帰る二人。

あとに残されるは呆然と立ち尽くす残りのメンバー。

.

252 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:50:43 ID:b6yq5RR.0

( ・∀・)「これ、絶対最初から企んでたよな」

( ´∀`)「さすがショボンもなね」

▼・ェ・▼「きゃんっっっ!」

('A`)「しゃーない。やるか」

ξ゚听)ξ「ブーン、ジョルジュ、門を開けてきてよ」
 _
( ゚∀゚)「おう」

( ^ω^)「おっおっ。わかったお」

( ´_ゝ`)「かわいいこ来ないかな」

(´<_` )「セクハラして牢獄に送られないように注意しろよ」

(,,゚Д゚)「おれもやるのか」

(*゚ー゚)「お客さんに怒鳴ったりしちゃ駄目だよ、ギコ君」

川 ゚ -゚)「今のうちに多めに飲物を作っておくか」

呆れながらも楽しそうに準備を始めるメンバーたち。


たとえ仮想空間でも、彼らはここで生き、生活をしていた。
そして、仲間を作り、大事な人を作り、守りたいと、共に生きたいと願った。

『ソードアートオンライン』

ゲームだが遊びではなくなってしまったこの世界で、生きる者達の物語。
主人公ではない、日々を生きる者達の物語。



.

253 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/03/03(日) 22:52:38 ID:b6yq5RR.0



( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです。



第二話 終了


( ゚∋゚)「    」

▼*・ェ・*▼「きゃんっ」



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