1 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:00:01 ID:0Wi70pZY0
0.アインクラッド


西暦2023年11月

緑濃い森の中、曲刀を持った二足歩行する爬虫類「リザードマン」に向けて、剣を構える。
つい先日手にした片手用直剣「オニキスライト」は今まで使っていた剣よりも少し軽く刀身も細くなったが、その分リーチは少し長くなっているし全てにおいてグレードアップしている。
それに合わせてオレの剣技(ソードスキル)があれば目の前の爬虫類は敵ではない。

思わず笑みを溢し、いざソードスキルを放つために構えを取った。

2 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:01:16 ID:0Wi70pZY0

「なに戦闘中に笑ってんのよ!」

細剣を光り輝かせて突進する一人の女。
「目にも留まらぬ速さ」とは言わないが、ある程度レベルを上げていなければ目で追う事も出来ない素早さで何発かの突きを当てる。
呆然と構えを解いてソードスキルをキャンセルすると、目の前のリザードマンは澄んだ金属音を奏でつつポリゴンとなって消えた。

「お前スイッチするときは声をかけるっていう基本的な」
「タイミングが遅い!あと笑い顔が気持ち悪い!」

3 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:02:29 ID:0Wi70pZY0
金髪・ツインテール・縦ロールの巻き髪。
生半可な容姿の人間がやったらただの痛いだけだが、それがさまになる美貌をもって冷たく言い放つ。

「どうせ『おれのソードスキルの敵じゃないぜ』とか思いながら戦ってたんでしょ。あー気持ち悪い」

あながち間違っていないため思わず口篭ると、それ見たことかと更に冷たい視線を突き刺してくる。

「おっおっ。そこら辺で許してやれお」
「もう、甘いんだから」

4 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:04:33 ID:0Wi70pZY0

別の一体をポリゴンにした男が、柔和な笑顔を浮かべながら片手用直剣を腰の鞘に収めつつやってくる
見た目は少しふくよかだが、全てがレベルと強化ポイントの割り振りで決まるこの世界において、こいつが本気を出した動きを目で追うことは、それなりにレベルを上げているオレでも難しいだろう。

「モンスター倒したし、先に進むお」
「そうね」
「ああ」

話題が変わったことにほっとしながら残りの仲間に視線を向けると、頭上から一つの影がオレ達三人に向かって飛び降りてきた。

「ちっ!」

防御が間に合わず、きらめく曲刀がオレに当たるその瞬間、水色の光を纏った円形の物が敵に当たった。

光に押しやられ吹き飛ばされるリザードマン。
さっきまでオレが戦っていた敵とはカラーリングと武器防具が異なっている。

5 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:05:22 ID:0Wi70pZY0

「油断大敵だよ。三人とも」

かなり離れた場所に立つ優男。もともと垂れ気味な眉を更に下げながら、弧を描きながら戻ってきた回転する武器を危なげなく手に取る。

「助かったお!」
「ありがと」
「サンキュ」

思い思いに感謝しつつ視線は倒れているリザードマンに向けて武器を向けるオレ達三人。

「悪いな。こいつは私の獲物だ」

6 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:07:05 ID:0Wi70pZY0

しかし走り寄る一人の女が薙刀を4回閃かせると、リザードマンはポリゴンとなった。
肩を超える長い黒髪を整えることも無く、すぐさま女は右手を振ってウインドウを出すと、アイテム欄を確認する。

「ちょっと…」
「おまえ…」
「おっ…おっ…」

その即物的行動に思わず呆れるオレ達の前で小さくガッツポーズ。
涼しげな美人だが、ガッツポーズをしても表情を変えないのはいただけない。

「よし、『クレハ草』ゲット。これで新しいPOT(ポーション)が作れる」
「まったく…」

7 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:07:48 ID:0Wi70pZY0
薙刀使いに近寄る細剣使い。
話し始める二人を見ていると、さっきオレ達を投擲武器で守ってくれた男が寄ってきた。

五人で顔を見合わせ、視線だけでお互いの無事を確認し、安堵する。
(´・ω・`)「さて先を急ごう。先行している皆が待ってるしね」
( ^ω^)「だおだお」
川 ゚ -゚)「暗くなる前にクエスト攻略して、はやく帰ってPOTを作りたい」
ξ゚听)ξ「今回のクエストの目的は、鉱石でしょ」
('A`)「新しい技を試したい」

8 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:08:35 ID:0Wi70pZY0

ナーヴギアを被り、この仮想世界
『アインクラッド』
にやってきて一年。

アバターの死が、ゲームの中での死が、現実になるこの
『ソード・アート・オンライン』
の中にやってきて一年。


オレ達は生き、そして生活をしていた。

9 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:09:34 ID:0Wi70pZY0



第一話 ギルド「V.I.P」へようこそ


139 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/23(土) 22:35:26 ID:qvVRjSJI0
1.さがしものはなんですか


西暦2023年12月

第40層主街区
そのメインストリートから少し外れたところにある『雑貨屋Booon』。
木で出来た扉を開けると店内は意外に広く、壁やテーブルには見やすいように商品が並べられていた。

( ^ω^)「いらっしゃいませだお〜」

店主であろう男が接客をしつつ中に入ってきた少女に声をかける。
その声にひかれたように、各種POTは勿論のこと色とりどりな結晶に木や革の細工品、そして武器や防具には目もくれず、カウンターで買い物をしている男の後ろに少女が並んだ。

( ^ω^)「全部で500コルだお」

取引を成立させた男がカウンターを離れると、店主の顔を睨むように見つめつつ少女が近寄る。

( ^ω^)「いらっしゃいませだお。買い取りかお?」

(*゚ー゚)「……いえ、違います」

( ^ω^)「じゃあ何かさがしものかお?うちにあればよいけど…」

(*゚ー゚)「いえ、違います。……大きく言えば、違わないんですけど…」

(;^ω^)「?」

(*゚ー゚)「情報屋のラルゴさんに聞いてきました。ギルドVIPさんなら、ギコ君を見つけられるって」

( ^ω^)「ああ。そっちのお客さんなのかお」
11 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:12:35 ID:0Wi70pZY0



( ^ω^)「ギルド『V.I.P.』へようこそだお」

12 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:13:26 ID:0Wi70pZY0
特に表情に変化を見せず、ちょっとまってくれと言いながらウインドウを呼び出して、メールを送る。
数秒後にチャイムが鳴り、返信を見ていると眉をひそめた。

(;^ω^)「今話を聞けるのがちょっと出払ってて……」

(;゚ー゚)「一刻を争うんです!待ってる時間にギコ君が!」

(;^ω^)「そうは言われても…」

再び鳴るチャイム。
メールを読むと、少し安堵したように息を付く。

( ^ω^)「依頼は基本的には奥の部屋で聞きたいんだけど、今日はみんなの手がちょっと空いてないので、別のところに行ってくれるかお?」

(*゚ー゚)「どこに行けば?」

( ^ω^)「隣のレストラン、『バーボンハウス』に行って、カウンターに居るマスターに話してくださいだお」

13 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:14:08 ID:0Wi70pZY0
レストラン『バーボンハウス』
深く濃い色彩の木目調でそろえた店内は落ち着いた雰囲気を醸し出し、十席ある四人掛けのテーブルは半分ほど埋まっているがそれほど賑やかではなく、緩やかな空気が流れている。
八つほど高いイスが備えられたカウンターには少女が入ってきたときには誰も座っておらず、薦められて中央付近に腰をかけると淡い茶色の液体が入ったティーカップが置かれた。

(´・ω・`)「これはサービスだから、気にせずに飲んでほしい」

(*゚ー゚)「ありがとうございます」

白いシャツに黒いパンツとベスト、そして首に蝶ネクタイと付けて腰に長めの黒いエプロンをつけたウエイター然とした男が「ちょっと待ってもらえるかな」と言って入り口付近に立つNPC(ノンプレイヤーキャラクター)に話しかけてから、戻ってきた。

(´・ω・`)「ごめんね。まだ営業中だからバタバタしてて」

(*゚ー゚)「…いえ、こちらこそすみません」

(´・ω・`)「で、依頼ってことだけど……人探しかな?」

(*゚ー゚)「はい」

14 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:15:09 ID:0Wi70pZY0
湯気の立ち上るお茶を一口啜り、少女が口を開く。

(*゚ー゚)「私の名前は『しぃ』と言います。お願いします。ギコ君を探してください」

(´・ω・`)「『しぃ』さんですね。僕の名前は『ショボン』といいます。よろしく。で、そのギコ君というのは…」

(*゚ー゚)「私の恋人です。普段は30層にホームを借りていて、二人で狩りをしたりクエストの助っ人をしたりして暮らしていました」

(´・ω・`)「なるほど」

(*゚ー゚)「よほど危険なクエストやパーティーからの指定が無い限り基本二人一緒に動いていましたが、一昨日昼に彼が一人で出かけてから連絡がつかなくなって……」

(´・ω・`)「もちろんメッセージや位置確認も」

(*゚ー゚)「しましたが、メッセージは届かず、位置も不明です」

(´・ω・`)「その……」

(*゚ー゚)「黒鉄宮の碑も見てきました。…死んだことを示す線は入っていませんでした」

(´・ω・`)「それは良かった」

(*゚ー゚)「でも…」

(´・ω・`)「迷宮かどこかのトラップに引っかかってしまったのか…。一刻を争う状況に居なければいいけどね。位置が分からないってのが怖いな」

(*゚ー゚)「お願いします!ギコ君を探してください!助けて……」

15 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:15:56 ID:0Wi70pZY0
目に涙を浮かべて縋り付く様にショボンを見るしぃ。
視線を受け止め、ショボンはもともと垂れ気味の眉を困ったように垂れさせる。

(´・ω・`)「迷宮区や戦闘がかかわるから今すぐ決められることじゃないんだけど…」

そういいながら手早く開いたウインドウで聞いた内容をメッセージとして打ち込んでいくショボン。
しかし打ち込み終わる前にしぃの隣のイスが引かれた。

ξ゚听)ξ「その依頼、受けましょう」

(´・ω・`)「ツン」

ξ゚听)ξ「そういう状況なら、まずは動くのが先決。実際にパーティー組んで迷宮区なり森に入るなんてのは、その先の話よ」

話に突然割り込んできた少女の金髪を見ながら、思わず安堵の息をつくしぃ。

ξ゚听)ξ「ってことで、もっと詳しい話を聞かせて。どこに行ったかとか、何か手がかりは無いの?」

(*゚ー゚)「……はい。なにもありません。ただ、凄く嬉しそうに出て行ったので、何か良い儲け話か割の良いクエストにでも行くのかと思ったんですが…」

川 ゚ -゚)「その前に、話しておくことがあるだろう?ツン、ショボン」

16 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:16:57 ID:0Wi70pZY0
長い黒髪を無造作にかきあげつつツンとは反対側に座る少女。
そして一枚の紙をテーブルに置く。

ξ゚听)ξ「何よ。先に話すことって」

川 ゚ -゚)「生きていく上で大事なことだ」

しぃが紙を見ると、そこには項目が書かれ、その横には金額と思われる数字が書いてある。

川 ゚ -゚)「料金の話だ。

17 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:18:24 ID:0Wi70pZY0
基本成功報酬が10万コル
失敗の場合にはこの報酬は無し。
成功失敗を問わず各実費は請求する。
戦闘が必要な場合には一人1クエスト・ダンジョンで3000コルから。これは攻略ダンジョン・クエストのレベルで変動する。
情報屋に金を支払った場合はその実費。
POTやクリスタルを使った場合はギルドの雑貨屋で補充した金額。これはギルド内販売価格だな。
店で扱っていないアイテムを使用した場合は一般価格で。もしくは同じアイテムを供給してくれれば良い。
戦闘時は死なないことをまず基本とするからポーションやクリスタルの使用は各自の判断にゆだねさせてもらうし、パーティーメンバーの選定にはクエストやダンジョンのレベルに合わせてこちらで決めさせてもらう。
ただ命にかかわらない内容の出費、情報屋に支払う金額・交渉などに関しては君の意見を最優先させてもらおう。
クエストで得たコルは均等分配で必要経費とは別勘定。得たドロップ品は拾った者の物。宝箱はその時の状況で決めさせてもらうが、基本的には開いた者、トラップ解除を行った者の物とする。
あと、調査及び戦闘によって職業を持つ者が休業をした場合、その分の売り上げの補填も加算される。

18 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:20:25 ID:0Wi70pZY0
川 ゚ -゚)「以上で何か質問はあるかな?」

ξ;゚听)ξ「クー」

(;´・ω・`)「クー」

(*゚ー゚)「いえ、ありません」

川 ゚ -゚)「よろしい。それではこれからギコ氏の救出までよろしく。私の名前は『クー』だ」

(*゚ー゚)「よろしくお願いします」

川 ゚ -゚)「それでは話の続きといこう」

いきなり金の話を始めたクーに驚きつつも成り行きを見守っていた二人も気を取り直したように佇まいを直し、しぃの言葉を待つ。

19 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:21:36 ID:0Wi70pZY0
(*゚−゚)「それが…先程のようなことしか……。本当に黙って出て行ってしまったので…」

ξ゚听)ξ「嬉しそうにしていた…か。何か良いことがあったのかな」

川 ゚ -゚)「しかし、失礼だが30層をホームにしているレベルではそれほど「良い話」などなさそうだが」

ξ;゚听)ξ「ちょ。クー」

川 ゚ -゚)「なんだ?ツン」

ξ゚听)ξ「もうちょっと言葉を選びなさい」

(*゚ー゚)「いえ、事実ですから。生きること、生活することをメインにしてますからレベル上げはそれほど真剣にやっていませんでしたし」

(´・ω・`)「でも、クエストの助っ人なんかもやってるんだよね」

(*゚ー゚)「低層のドロップ品でレアアイテムを拾ったことがあって、そのお金で防具と武器は高度な物を揃えたんです。麻痺耐性なども高いので、ギコ君は前衛防御を出来ましたから…。ですのでギコ君のレベルはそれなりに高いです」

ξ゚听)ξ「なるほどね」

川 ゚ -゚)「そうか…過信からくる甘えがなければよいが」

(´・ω・`)「今回も助っ人に出た可能性は?」

(*゚ー゚)「あります。でも…」

ξ゚听)ξ「でも?」

(*゚ー゚)「なんとなく、誰かの助っ人というより自分がメインの何か嬉しいことがあったような雰囲気でいたので…。だからちゃんとしたら話してくれるかなと思って待っていたんですが」

(´・ω・`)「ギコさんがメインでパーティーを組んだかもね」

20 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:22:40 ID:0Wi70pZY0
ウインドウを開き、次々にメッセージを飛ばすショボン。
着信を知らせるチャイムが何度も聞こえ、それを読みつつ次のメッセージを作成して飛ばしていく。

ξ゚听)ξ「とりあえず情報収集からね」

(*゚ー゚)「あ、あの」

川 ゚ -゚)「まずはギコ氏がどこに行ったかを突き止めないとな」

(*゚ー゚)「でも、情報屋のアルゴさんに聞いても分からないって…」

(´・ω・`)「…なるほどね」

十数個のメッセージを飛ばしてからショボンがこちらを向く。
そしていつ入れたのか三人の前に湯気が立ち上るティーカップを置いた。

21 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:24:27 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「しぃさん、二つ確認するよ」

(*゚ー゚)「は、はい」

(´・ω・`)「ギコさんの名前は『GIKO』と書いてギコで良いんだよね」

(*゚ー゚)「はい!そうです!」

(´・ω・`)「あと、アルゴさんに支払う金額は交渉はするけど全部で3000コルを越えるかもしれないけど良いかな」

(*゚ー゚)「は、はい!それくらいなら!分かったんですか!ギコ君がどこに行ったのか」

(´・ω・`)「多分明日の朝までには連絡をもらえると思う」

(*゚ー゚)「ありがとうございます…でも、何で私には……」

(´・ω・`)「……向こうは海千山千の情報屋だからね。聞き方…というか、情報によっては売ってもらうために駆け引きみたいなものも必要な時があるんだよ」

(*゚ー゚)「そうなんですか」

22 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:25:17 ID:0Wi70pZY0
ξ゚听)ξ「今日はどうする?30層に帰る?」

(´・ω・`)「情報が入ったら、内容によってはすぐ来て貰う事になるけど。情報が入って方針が決まったらすぐにメッセージするよ」

(*゚ー゚)「…もしかしたらギコ君が帰ってくるかもしれませんから、一度30層に戻ります。彼も、連絡が取れる状態になったらすぐにメッセージを送ってくれるとは思いますけど…」

川 ゚ -゚)「そうか。じゃあ明日」

(*゚ー゚)「はい、よろしくお願いします!」

(´・ω・`)「ちょっとまって、ツン、クー、彼女とフレンド登録しておいて」

ξ゚听)ξ「オッケー。しぃさん」

(*゚ー゚)「はい」

ウインドウを出す女子三人。
それぞれにメッセージを飛ばして登録をしあう。

川 ゚ -゚)「ショボはしないのか?」

(´・ω・`)「…」

ξ゚听)ξ「クー、金勘定は忘れないのにこういったルールは忘れるわよね」

川 ゚ -゚)「なにかあったか?」

(´・ω・`)「ギルドあての女性のお客さんには女性、男の客には男が連絡窓口だろ」

川 ゚ -゚)「そういえばそんなルールがあったな」

ξ゚听)ξ「はぁ…」

(;゚ー゚)「あ、あの」

ξ゚听)ξ「あ、ごめんね」

席から立ち上がったしぃが腰から九十度のお辞儀をした。

ξ゚听)ξ「え?」

川 ゚ -゚)「ん?」

(´・ω・`)「…」


(*゚ー゚)「よろしくお願いします!」


そのまま叫ぶ彼女に、三者三様の顔を見せるギルドVIPの三人だった。

23 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:26:21 ID:0Wi70pZY0
2.情報は剣技より強し


( ^ω^)「それじゃあ、明日はクエスト攻略だおね」

(´・ω・`)「うん。問題なければ。メンバーはこの五人としぃさんで」

('A`)「彼氏を探して……ねぇ」

営業の終わったバーボンハウス。
カウンターに腰掛ける四人と、カウンターの中のショボン。
テーブルには食事が置かれており、それぞれに口にしている。

川 ゚ -゚)「この人数で大丈夫なのか?」

(´・ω・`)「一応ジョルジュと弟者にも連絡はして待機にしてもらってあるけど、大丈夫だと思うよ」

('A`)「行く層が分かってる口振りだな」

(´・ω・`)「まあね」

( ^ω^)「どこだお?」

(´・ω・`)「37層。木枯らしの森」

24 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:27:10 ID:0Wi70pZY0
ξ゚听)ξ「ちょ、分かってるなら早く行きましょうよ。しぃさんにも連絡して」

(´・ω・`)「色々調べた結果ここが濃厚だし多分間違いないけど、まだ確証がない。それに…」

川 ゚ -゚)「それに?」

(´・ω・`)「ギコ君のレベルなら、『木枯らしの森』はそれほど難しいダンジョンじゃない。パーティーを募集した形跡もあったから、一人で行ったりもしていないだろうしね」

川 ゚ -゚)「でも、帰ってこない」

ξ゚听)ξ「ってことは…」

('A`)「トラップ?」

(´・ω・`)「普通で考えたらその可能性が高いよね」

25 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:27:54 ID:0Wi70pZY0
湯気の出ているカップを啜るショボン。

( ^ω^)「それ以外の可能性もあるのかお?」

(´・ω・`)「うん」

ξ゚听)ξ「勿体つけずに教えなさい。そういうところあるわよね。自分ばっかり分かっちゃってさ」

(´・ω・`)「違う、教えないんじゃない」

川 ゚ -゚)「どういうことだ?」

(´・ω・`)「教えたくても、僕だって分からないから教えようがないんだよ」

ほうけた顔をする四人の視線を受け止めつつ、垂れた眉をさらに下げる。

(´・ω・`)「分かっているなら対策とってすぐ行くよ。でも、分からないから対策の立てようが無い。どんな危険が待っているか全く分からない。そんな状況の場所に、行ける訳が無いだろ」

一見非情だが、自分達の命を考えていてくれることが分かるため何も言えず、ただ困ったように笑みを溢すショボンを見る四人。
そんな彼らに一人ずつ視線を向けながら、ショボンもカップに口をつけた。

(´・ω・`)「トラップにはまってるならよし。万が一推測の域を出ない幾つ物可能性の中の一つに囚われているようだったら、できるだけ簡単な部類であることを祈るよ」

26 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:28:38 ID:0Wi70pZY0
川 ゚ -゚)「『木枯らしの森』に行ったのは確定なのか?」

(´・ω・`)「うん。ギコさんがアルゴさんから買ってたクエストが、あの森のやつだったから」

('A`)「木枯らしの森にクエストなんかあったか?」

(´・ω・`)「最近見つかったやつなんだよ。攻略とか関係ないサブクエスト」

( ^ω^)「あ!あれかお!あの鉱石入手クエスト!」

ξ゚听)ξ「なによそれ」

(´・ω・`)「あの森に『アルグレスライト』って鉱石の入手のクエストがあるらしいんだよ」

川 ゚ -゚)「アルグレスライト?」

('A`)「時々宝箱から出てくるやつだよな。武器や防具には使えないけど、NPCの道具屋ならちょっと高い値段で買ってくれるやつ。でも、あれをそこまでして欲しいやつなんか居るのか?」

( ^ω^)「それは白く濁った小さな石で『アルグルスライト』だお。『アルグレスライト』は透き通った透明な硬い石で、凄く綺麗な石らしいお。まだ近くの村 のNPCから出た情報だけで、それがどんな鉱石なのかは分からないらしいけど、道具屋としては一回見てみたいから、クエストやれるなら嬉しいお。流石兄弟 も新しい武具がどうとか期待してたおね。確か」

27 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:29:52 ID:0Wi70pZY0
ξ゚听)ξ「新規クエストじゃ、情報も出揃ってないってことね」

(´・ω・`)「うん」

川 ゚ -゚)「しかし何に使えるか分からない石なんだろ?なんでギコ氏はそんな物を欲しがるんだ?」

(;^ω^)「『アルグルスライト』の上位鉱石らしいから、売ればそれなりの値段はすると思うけど」

('A`)「うまく防具に出来れば、前衛としてのパワーアップになるかもしれないとかか?」

(´・ω・`)「NPCによると、『その石は透き通るように透明で、光を集めたようにほのかに光る。思いを込めたその石は、永遠に輝くだろう』だって。」

いつの間にかウインドウを出したショボンが情報屋アルゴから買ったメッセージの一文を読み上げた。

(´・ω・`)「さっき連絡してみたら、最近モララーの工房に小さな石を使ったアクセサリーの作製が可能かどうかを聞きに来た男が居たらしい」

28 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:30:37 ID:0Wi70pZY0

(*^ω^)「おっおっおっ。ギコ君はそのつもりかお」

('A`)「リア充が……。もげろ」

ξ゚听)ξ「なにそれ。ただの綺麗な石ってこと?」

川 ゚ -゚)「待てツン、もしかしたら凄い付加能力を持ったアクセサリーが出来るのかもしれん」

29 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:31:20 ID:0Wi70pZY0



(´・ω・`)「反応が普通逆だよね」

30 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:32:28 ID:0Wi70pZY0


ξ゚听)ξ「?」

川 ゚ -゚)「?」

(*^ω^)「おっおっ」

('A`)「けっ」


不思議そうに顔を見合わせる女子二人をよそに妙に盛り上がる男一人とやさぐれる男一人。

31 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:33:19 ID:0Wi70pZY0
メッセージ到着音を聞き、そんな四人には構わず開いたままだったウインドウを操作するショボン。


(´・ω・`)「…これは…」

川 ゚ -゚)「どうした?」

(´・ω・`)「ツン、しぃさんにメッセージ。30層に迎えに行って、その後37層の主街区門前に戦闘装備で来てくれ」

ξ゚听)ξ「分かった」

突然指示を飛ばすショボンに何の問い掛けもせずにウインドウを操作し始めるツン。
他の三人もすぐに動けるように席を立つ。

32 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:34:42 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「ドクオ、ジョルジュと兄弟に連絡、前衛盾可能装備で37層主街区ゲート前に来るよう連絡してくれ」

('A`)「分かった」

(´・ω・`)「ブーン、POT類を準備。レベルはC…いや、Dで」

( ^ω^)「Dかお!?」

(´・ω・`)「本当はEを持って行きたいくらいだ」

( ^ω^)「…かき集めるお」

川 ゚ -゚)「うちにある在庫も出すぞ」

( ^ω^)「頼むお」

(´・ω・`)「二人とも頼む。さらに、クー」

川 ゚ -゚)「何を持ってくれば良い?」

33 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:35:30 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「後追い草か残り火の粉。あとヒカリ苔か光砂を」

川 ゚ -゚)「草と粉はあるが苔と砂は在庫が無いな…」

( ^ω^)「光砂ならこっちにあるお」

(´・ω・`)b「じゃあブーン頼む。クーはこの後全員の連絡統制も頼む」

川 ゚ -゚)「37層に全員集まったらメッセージを入れる」

(´・ω・`)「よろしく。みんなも連絡はクーへ。僕は先に行ってクエストのフラグ立てをする」

('A`)「一人で大丈夫か」

(´・ω・`)「手間はかかるけど、フラグ自体は危険なことは無いらしい。アルゴさんも手伝ってくれるから、さっさと終わらせるよ」

川 ゚ -゚)「アルゴと?二人で?」

(´・ω・`)「もちろんクエスト攻略の情報提供しなきゃだけどね」

('A`)「あの女は…」

ξ゚听)ξ「よし。ショボン、しぃはオーケーよ」

(´・ω・`)「じゃあ後は37層で」

ξ゚听)ξ( ^ω^)川 ゚ -゚)「「「「了解!」」」」('A`)

34 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:40:42 ID:0Wi70pZY0

3.木枯らしの吹く森


37層。
主街区近く迷宮『木枯らしの森』入り口前。
8人の男女がたむろするそこに、一組の男女が現れた。
男はショボン、女は頬にねずみのヒゲのような飾りを施した女性だった。

川 ゚ -゚)「ショボ!」

(´・ω・`)「遅れてすまない」

(アルゴ)「じゃあな、ショボ君。あとはよろしく」

(´・ω・`)「ありがとう」

二人に駆け寄るクーとブーン。
背を向けながら手をひらひらと振る女性をショボンが笑顔で見送る。
36 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:43:26 ID:0Wi70pZY0
川 ゚ -゚)「ショボ」

(´・ω・`)「フラグ立ては終了した」

( ^ω^)「ショボンの分だお」

ショボンの目の前にトレードウインドウが現れ、ブーンから各種POT、クリスタルが渡される。

(´・ω・`)「サンキュ」

( ^ω^)「なんとかレベルD確保したお。共通POTと草と砂はギルドの共通タブに入れてあるお」

(´・ω・`)「ありがと、ブーン」

( ^ω^)「おっおっ。倉庫が空っぽだお」

川 ゚ -゚)「ショボ、あの女は」

(´・ω・`)「アルゴさんなら帰ったよ。追加情報もサービスしてもらった。何か聞きたい事あったかな?」

川 ゚ -゚)「いや、そういうわけでは…」
 _
( ゚∀゚)「おい!ショボン!行こうぜっ!」

(´・ω・`)「うん!まずは簡単に流れを説明する!」

残りのメンバーの待つ場所に駆け寄るショボン。
その後ろからブーンとクーが駆け寄り、円陣を組んだ中心にショボンが立った。

(´・ω・`)「メッセージで送った内容は読んでくれたね?」
 _
( ゚∀゚)「ああ。読んだぜ」

両手剣を携えて重装備をした男が頷く。
それはどこか楽しそうで、戦闘を待ち望んでいるようにさえ見える。
38 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:44:51 ID:0Wi70pZY0

(´・ω・`)「ジョルジュが読んでるなら他の皆も読んでくれたね」
 _
(;゚∀゚)「おいこらショボン」

(´<_` )「クエストネーム『木枯らしに抱かれて』。目標アイテムは三叉の槍『アル・フィー』」

( ´_ゝ`)「弱くは無いけどそれほど欲しい武器じゃないな。それよりもランダムドロップの『アルグレスライト』の方が気になる」

(´<_` )「だな。どんな防具を作れるか楽しみだ」

( ´_ゝ`)「まずは武器だ」

(´<_` )「防具だ」

( ´_ゝ`)「武器だも〜ん。このまえのレア鉱石は弟者に譲ったから、今度は武器って約束だも〜ん」

(´<_` )「兄者…珍しく覚えていたか」

同じ顔をした二人の男。
先に喋りはじめた『弟者』こと『Tei』は両手斧に重装甲だが動きやすそうな防具を着込み、もう一人の『兄者』こと『KEI』は身の丈以上の両手鎚を軽々と肩にかけながら、腰を捻って運動をしていた。
どちらかと言えば弟者が落ち着いていて兄者が軽いように見えるが、会話を良く聞くとあまり変わらないのが分かる。

39 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:46:00 ID:0Wi70pZY0

('A`)「クエストボス『プリング』を倒して、奥にある巣にいるはずの『道に迷った少女』を助けて家に連れて帰ればクエスト終了」

右手に片手剣、左手に小型の手甲を付けて皮装備をメインにしたドクオ。

ξ゚听)ξ「ってことになってるけど、ボス戦のレベルが変わるトラップと」

細剣を腰に携え、身軽な革中心の装備にベージュのマントを付けたツン。

( ^ω^)「更にその後にイベントがあるかもしれないってことなんだおね?」

片手剣を背負い、革に所々金具で補強をした防具のブーン。

川 ゚ -゚)「クエストレベル、ボスレベル共にそれほど敵ではないが、トラップによっては苦戦を強いられる可能性もありと言ったところか」

先端が光り輝く刃になっている薙刀を携え、胴着に袴、胸当てといった和風な服装のクー。

(´・ω・`)「更に目印になるものが乏しい枯れ木ばかりの森。ランダムマッピングじゃないけど、迷路形式で地図があってもなかなか難しい迷宮だね。しぃさん、ギコさんの位置をマッピングしてみてください」

話しながら装備を整えたショボン。
防具は多少金属の部分が多いがブーンとほぼ同じものを着ている。しかし武器は全く違い、小型の盾ほどの大きさの手裏剣をそれこそ盾のように左手に備えている。

(*゚ー゚)「え?は、はい」

40 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:46:48 ID:0Wi70pZY0

軽装に金属の胸当てとガントレット。そしてオーソドックスな槍を携えたしぃがウインドウを開く。

(*゚ー゚)「ギコ君の位置の反応があります!森に居ます!なんで……」

('A`)「木枯らしの森は特殊迷宮だから、迷宮にいる間は同じ森に居る仲間と入り口付近に居る相手にしか位置マッピングができないんだ」

可視モードにしてもらった地図を見るドクオ。
眉間に少し皺が寄る。

('A`)「位置からして、おそらくボス戦中だな」

(*゚ー゚)「そんな迷宮が…」

(´・ω・`)「先行組はブーン、ドクオ、僕。即行で森の中のやらなきゃいけないフラグ立てをする。その後ろを確保組。ジョルジュ、ツン、クーの三人でよろしく。ボスの位置までの最短ルートの道の確保をしてくれ。弟者と兄者はしぃさんを連れて後部組を」

(*゚ー゚)「わ、私も先行します!」

フォーメーションを聞いてしぃが前に進み出るが、ショボンはそれを一蹴した。

41 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:48:45 ID:0Wi70pZY0

(´・ω・`)「君を守りつつフラグを立てるのは命の危険が上がってしまう。かかる時間も増えるだろうね。早く会いたいから先行組みに入りたい気持ちは分かるけど、ギコ君を早く助けたいのなら、こちらの指示に従ってくれ」

(*゚ー゚)「!」

(´・ω・`)「戦闘においても勝手に前には出ないように。加わって欲しい場合はこちらから指示を出すから。弟者、後部組はボス戦まで戦闘が無いようにした布陣だけど、もし敵と出会ったときは君が指示を出してくれ」

(´<_` )「了解した」

何も言えなくなってしまったしぃを尻目に、ウインドウを開くショボン。

(´・ω・`)「ブーンとツンは光砂を持って、後続が道に迷わないようにマーキングを。クーと弟者は後追い草を使って念のために前の組の位置をリアルタイムで追う準備を。クーと弟者には森の地図を渡す。ドクオ、ジョルジュ、兄者は出発のタイミングでPOT耐性強化を」

それぞれにウインドウを開き、アイテムを取り出して腰のポーチにつめる。
それを悔しそうに見つめるしぃだったが、その肩をぽんぽんと二回ほど軽く叩かれた。
上目遣いに振り返ると、困ったような笑顔の兄者。

42 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:49:31 ID:0Wi70pZY0
( ´_ゝ`)「関わった以上は目の前で誰も死なせたくなくって必死なんだよあいつも」
 _
( ゚∀゚)「普段はのんきで垂れ眉の癖に、作戦中は鬼だからな。ま、そのおかげで何度も生き残れたし、死線を潜り抜けてクエストやイベントをクリアすることが出来た。レベルも上がった」

(*゚ー゚)「……はい」

( ´_ゝ`)「POT耐性強化なんてのもあいつの発案なんだ。組分けしたときに、最低一人は耐毒や耐麻痺のPOTを飲んで、その手の異常に対応できるやつを作っておくんだ。攻略しつくされてどこからどんなモンスターが出るか分かっているような迷宮探索のときですら」

( ゚∀゚)「万が一、何か突発的なことが起きても、一人でもそれに対応できれば、クリスタルやPOTで仲間を回復させてやれるからな」

(*゚ー゚)「………」

その隣にジョルジュとドクオが立ち、しぃを見る。

43 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:50:16 ID:0Wi70pZY0
('A`)「だからまあ、とりあえずあいつを、おれ達を信用してくれ。引き受けた以上、最善の策を取るから」

(*゚ー゚)「…はい。……よろしくお願いします」

(´・ω・`)「よし。みんな!準備は良い!?」

( ^ω^)ξ゚听)ξ川 ゚ -゚)( ゚∀゚)( ´_ゝ`)「オー!」(´<_` )('A`)

(´・ω・`)「では出発!」

(*゚ー゚)「はい!」

44 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:53:48 ID:0Wi70pZY0

4.クエスト『木枯らしに抱かれて』


迷宮『木枯らしの森』
最深部に巣を構えるボスクラスモンスター【プリング】
クエスト『木枯らしに抱かれて』の必須攻略モンスターでもあるこの敵は、37層という階層から言えばレベルの高い強敵だったが、彼とパーティーメンバーのレベルを考えれば油断しなければ苦も無く倒せるはずだった。
いや、実際一回目のクエストは苦も無く倒し、クエストをクリアした。
だが欲しかったランダムアイテムがドロップせず、勢いに任せて二度目のクエストを始め、最深部に来た時に、様相は違っていた。

(;,,゚Д゚)「どうなってんだ…こりゃ…」

最初のクエストの時は一体だったクエストボスモンスターが、二体居る。
それだけでクエストクリアの確立は下がり、、死の確率は上がるのに、この二体は恐ろしい連携を行っていた。

45 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:54:29 ID:0Wi70pZY0
| ;^o^ |「こ、こんなの聞いてないですよ!」

( ;^Д^)「ギコ!どうすんだこれ!」

今彼らの目の前にいるモンスターは全身を赤い毛で覆った猿人。
そして後ろには青い毛で覆われた猿人が控えている。

( ;´ー`)「だ、駄目だーよ。何度試しても、戻ってくるだーよ」

T字路型の戦闘エリア。
横に二人並ぶのがやっとの道に立つ猿人。その攻撃を一人で受けて支えるギコの後ろで、三人のパーティーメンバーが悲鳴を上げている。
ギコのHPバーは辛うじて黄色だが、三人は既にレッドゾーンにかかっていた。

( ;´ー`)「なんで逃げようとするともう一つの道から戻ってきちまうんだーよ!こんなトラップ聞いたこと無いだーよ!」

|  ;^o^ |「もう回復POTも無いですよ!」

( ;^Д^)「こんなところで死にたくねー!」

46 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:55:20 ID:0Wi70pZY0
赤毛の猿人、【レッド・プリングス】が振り下ろす斧をはじき返し、ギコが距離を取る。

(;,,゚Д゚)「すまねえ。みんな。なんとしても、皆だけは…」

( ;´ー`)「どうやってだーよ」

( ;^Д^)「転移クリスタルは壊されちまったし、逃げようとして道を逆走してももう一方の道に戻ってきちまう」

|  ;^o^ |「回復アイテムはもうなくなってしまいました。逆にモンスターは何度も何度も回復してしまう!」

(;,,゚Д゚)「チクショウ!」

ギコが大ぶりの片手剣を構えると、剣が淡く青い光り始める。

( ;^Д^)「やめろ!ギコ!」

47 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:56:31 ID:0Wi70pZY0
上段から放ち、右上から左下に袈裟切りを放つ。そして流れるように左下から右下に向けて水平切り、更に喉元に向けて突きを放った。

(,,゚Д゚)「よし!」

全てが命中し、モンスターのHPを大きく削る。ブルーだったカラーがイエローになり、そしてレッドゾーンに変わった瞬間、猿人が吼えた。

(;,,゚Д゚)「ぐっ」

ソードスキルを放った後の硬直時間には攻撃は勿論防御をすることも出来ない。
ギコの体を覆う装備は防御姿勢さえとれればこのレベルの咆哮ならば1ドットもHPバーを減らさずに受け止めることが出来るが、無防備に受けてしまうとHPを減らしてしまう。
そして今回の一撃は、ギコのHPもレッドゾーンに突入させてしまった。

(;,,゚Д゚)「しまった!」

48 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:57:20 ID:0Wi70pZY0
そしてレッドの咆哮と共にジャンプをしたブルーがギコに向けて片手曲刀を振り下ろす。

(;,,゚Д゚)「これしき!」

硬直が溶けて盾を上に向ける。
ギリギリのタイミングで刃を防ぐが、体勢が整っていなかったため受け止めることは出来ず、流してしまった。

( ;^Д^)「ギコ!」

( ;´ー`)「だめだーよ!」

後方から駆け出した三人の目の前で曲刀がきらめき、下から切り上げる。

(#,,゚Д゚)「がふっ!」

体を浮かされはしなかったが、攻撃を直に受けて更にHPバーが減る。

|  ;^o^ |「ギコー!」

更にきらめく曲刀。
何も出来ずに下からそのきらめきを見つめるギコ。
後方から三人が駆け出しているが間に合うとは思えず、間に合ったとしても前衛盾装備でもなくHPバーをレッドゾーンにした三人に出来ることなど一緒に命を散らすことくらいであろう。

49 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:58:19 ID:0Wi70pZY0


(,,゚Д゚)「すまない……みんな……。……しぃ……」

50 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 22:59:23 ID:0Wi70pZY0
死を覚悟したその時、四人の目の前を影が通り過ぎた。

( ^ω^)「死なさないお」

振り下ろされた曲刀を弾くブーンの片手剣。
そこに居た四人の誰もが唖然とする中、その四人の誰も目で追うことの出来ないスピードで片手剣を閃かせ、モンスターを後退させる。

(,,゚Д゚)「お、お前は」

( ^Д^)「ブーン!」

|  ^o^ |「ブーンさん!」

呆け続けるギコと、歓喜に似た声でブーンの名前を呼ぶ二人。

( ´ー`)「た、助かったーよ」

座り込むシラネーヨの横を駆け抜ける新たな黒い影。

('A`)「俺も居るぜ」

硬直したブーンを襲う曲刀を更に弾くドクオの片手剣。
ソードスキルをソードスキルで相殺し、さらに自身のソードスキルの二連撃を確実に当てる。

51 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:00:39 ID:0Wi70pZY0
( ^ω^)「ギコさんだおね」

(,,゚Д゚)「そ、そうだ。あんたたちは?」

('A`)「あんたの恋人の依頼で助けに来た。後ろに下がって回復しろ」

(,,゚Д゚)「しぃの!?」

ギコを守るように前に立ち剣を構えるブーンとドクオ。
腰を抜かして座ってしまったギコの襟を、細い手が掴んだ。

ξ゚听)ξ「早く下がる!」

思いのほか強く引っ張られ、転げるように後ろにいた三人と合流し、共に座り込んでしまう。

( ^Д^)「助かった…」

(;,,゚Д゚)「お、おい、こいつら知ってるのか?」

既にのんきにくつろいでいる様にさえ見える三人に詰め寄るギコ。
そんな四人の頭の上に、ピンク色のクリスタルが添えられた。

「「「ヒール!」」」

52 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:01:55 ID:0Wi70pZY0

三様の声が微妙にずれて四回響く。そして声と共にクリスタルが次々に砕け、四人のHPが満タンに回復した。

川 ゚ -゚)「助けてもらっておいて『こいつら』は聞き捨てならないな」

(´・ω・`)「まぁまぁ。とにかく間に合ってよかった」
 _
( ゚∀゚)「よ!プギャーにシラネーヨに……なんだっけ」

| ; ^o^ |「ブームです!ブーム!いい加減覚えてくださいよ」
 _
( ゚∀゚)「わりぃわりぃ」

四人のHPゲージを確認し、軽口を聞いてからボスモンスターに向かって行く三人。

(;,,゚Д゚)「お、おい。こりゃいったい」

( ´ー`)「ギルド『V.I.P.』だーよ」

(,,゚Д゚)「ギルドブイアイピー?」

( ^Д^)「中層クラスではトップクラスのギルドで、依頼を受けてクエストやダンジョン攻略を行ったりしている集団だよ」

|  ^o^ |「私たちも何度が一緒にクエストをさせてもらったことがありますが、強さは本物ですよ」

( ´ー`)「それなりに金は取るけど、命にはかえられないだーよ」

(,,゚Д゚)「そんなギルドがあったのか」

|  ^o^ |「しかもほとんどのメンバーが職人クラスとして有名で、職人としてなら攻略組クラスとも言われるメンバーも居ます」

(;,,゚Д゚)「はぁ?」

53 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:02:41 ID:0Wi70pZY0
|  ^o^ |「最初に現れたのがブーンさん。道具屋さんで、品揃え豊富です。ギルドメンバーの作った物も売っていたりします」

( ´ー`)「金髪ツインテールの女がツンだーよ。裁縫師で、洋服和服下着から装備効果のある服までなんでもござれらしーよ」

( ^Д^)「垂れ眉でおれ等にクリスタルやってくれたのがショボン、レストラン「バーボンハウス」のオーナーで、ギルドのリーダーでもある」

|  ^o^ |「黒髪の女性がクーさんです。薬剤師で、回復POTから耐性POT、武器に塗る毒までつくれる方です。今日の武器には毒属性をつけていないみたいですね。狭い場所での戦いだからでしょうか」

(,,゚Д゚)「そんなやつらがいたのか」

呆然と前方で戦う五人を見るギコ。

(,,゚Д゚)「後の二人は…」

(´<_` )「あの二人は生粋の戦闘職だ」

( ´_ゝ`)「ジョルジュは釣師って噂もあるけどな」

(,,゚Д゚)「え?」

54 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:03:22 ID:0Wi70pZY0

いつの間にか隣に立つ兄者と弟者。
突然現れて自分の呟きに答えた同じ顔をした二人を見上げる。

(,,゚Д゚)「あ、あんた達は。あれ?」

( ´_ゝ`)「流石武具店美貌の武器マスター兄者と」

(´<_` )「流石武具店聡明なる防具マスター弟者」

( ´_ゝ`)「とはおれ達のことだ!」(´<_` )

(,,゚Д゚)「あ、ああ。名前と顔は知ってる」

( ´_ゝ`)「やはりな。おれの美貌は噂の的だな」

(´<_` )「馬鹿を言え、おれの作る防具の素晴らしさが世間に知れ渡っているだけだ」

( ´_ゝ`)「馬鹿を言うな」

(´<_` )「何を言っている」

(;,,゚Д゚)「い、いや、俺の武器と防具はあんた達の作ったやつだから、買ったときに見た顔を覚えていただけで」

( ´_ゝ`)「なんだつまらん」

(,,゚Д゚)「あんたたちが何でここに?…あんたたちもなのか?」

(´<_` )「ああ。おれ達もあいつらと同じ『V.I.P』だよ」

( ´_ゝ`)「で、彼女の護衛さ」

55 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:04:06 ID:0Wi70pZY0

(*゚ー゚)「ギコ君!」

二人の後ろで涙を浮かべて立っていたしぃが二人を押し避けて駆け寄り、ギコに抱きく。

(,,゚Д゚)「し、しぃ」

(*゚ー゚)「心配したんだからね!」

(*,,゚Д゚)「しぃ…」

(´<_` )「彼女が今回の依頼人だ」

( ´_ゝ`)「彼女が『V.I.P.』に依頼に来なければ、おれ達はここに来なかった」

( ´_ゝ`)「感謝するんだな!」(´<_` )

( ;^Д^)「なんで最後声を合わせてポーズとってんだあの二人」

( ;´ー`)「しらねーよ」

|  ;^o^ |「しかもあの立ち方は…」


戦闘不参加組は暢気に喋りモードに入っているが、戦闘組の戦いは佳境に入っていた。

56 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:05:10 ID:0Wi70pZY0

前衛の巨大猿人【プリングス】のHPバーを赤くすると、猿人は咆哮し、その音で一瞬硬直してしまう。
攻撃判定は防御姿勢さえとればダメージが無いレベルだが、その隙に後方に下がり、後衛にいた巨大猿人がジャンプして上空から襲い掛かる。
そして後ろに行くと隠してあった壷に手を突っ込み、中に入っている物を口にしてHPを回復させる。
通常の回復POTと同じで時間による回復だが、その時間は交代した猿人が作り出すため倒すことが出来ないでいた。

('A`)「おいショボン!きりが無いぞ!」
ξ゚听)ξ「タイミング早く!」

ジョルジュの両手剣が上空から襲い掛かってきた【ブルー・プリングス】の曲刀を弾き、後方に下がらせると同時に自分も下がる。
 _
(#゚∀゚)「もう防ぐのもあきたぞ!早くしろショボン!」

交代で飛び出たドクオの片手剣が一撃を浴びせ、返す一撃で光り始めた猿人の曲刀を弾く。

ξ゚听)ξ「スイッチ!」

ツンの掛け声で横に飛ぶと、自分のいた場所を駆け抜ける金髪が見える。

ξ゚听)ξ「とりゃああああああ!」

57 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:07:44 ID:0Wi70pZY0
女らしくない叫び声を上げながら突きの三連撃をお見舞いし、猿人のゲージをイエローに変える。

ξ゚听)ξ「ブーン!スイッチ!」

( ^ω^)「おー!」

しゃがんだツンの上を飛び越えるブーン。
そのまま後ずさりしながら防御の体勢をとろうとする猿人に迫り、ソードスキルを使わずに三回猿人を切り裂き、後ろに飛ぶ。

(´・ω・`)「ツン!ブーン!位置キープ!ドク!左!クー!ジョル!前衛防御スキル!」

突然飛んだショボンの声に何の疑いも無く即座に反応し位置移動をする五人。
クーとジョルジュは三人の前で自分の武器を回転させてソードスキルを発動させ始める。
その頭上を飛ぶ光。
ショボンの投擲武器、巨大手裏剣である。

(´・ω・`)「ツン!ドク!ブーン!追撃速攻!!」

巨大手裏剣が【ブルー・プリングス】の胸に当たり、HPバーを赤く変える。
大きく息を吸い、咆哮を放つ猿人。
しかしクーとジョルジュの起こしたソードスキルの風が盾となり防ぎ、硬直を免れたツンとドクオとブーンは後方に移動する猿人を追った。

58 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:08:28 ID:0Wi70pZY0
レッド・プリングス「ぐるぎゃわぎゃりゃ!!」

雄たけびを上げ、上空から斧を振り下ろし、ソードスキル発動後の硬直を起こしているジョルジュとクーを狙う猿人。
しかしその額に大型手裏剣が飛来し、命中した。

レッド・プリングス「ぎゃりゃー!」

バランスを崩し攻撃を中断させる猿人。
尻餅をついたそこに駆け寄るジョルジュ。
 _
( ゚∀゚)「ひっさぁーっつ!」

刀身を赤く煌かせた両手剣を上段に構え振り下ろす。
叫び声を上げる猿人を更に下から斜め上に追撃。
そして更に下に切り裂く。

満タンだったHPバーが、目に見えて大きく減った。

川 ゚ -゚)「スイッチ!」

剣技後の硬直状態のジョルジュを右にして走るクー。
既に薙刀の先の刃は水色に煌いている。

川 ゚ -゚)「っ!」

気合をこめて猿人の両足を横に一閃。
薙刀を振り回しつつ自身も一回転して同じ足下から斜め上に一閃。
咆哮をあげようとして息を吸い込んだ猿人の喉元を、頭の上でバトンの様に回された薙刀の刃が三回切りつけた。

猿人のHPバーが、緑から黄色に変わっていた。

59 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:09:18 ID:0Wi70pZY0
アバターゆえ呼吸はしていないがAIのモンスターも擬似呼吸は行っているようで、喉元を押さえて後ずさる。
 _
( ゚∀゚)「そこで俺だ!」

構えなおしたクーがその声で横に飛び、剣技を発動させたジョルジュがシステムによってアシストされたスピードで猿人を追撃する。

猿人「ぐわっ!」

緑色に光る大剣が眉間から股間までを一閃し、猿人が悲鳴を上げる。

そして猿人のHPバーが、赤に変わった。

先ほどまでならその瞬間に後方にいる仲間と交代するために咆哮を繰り出していたが、今回は行わなかった。
いや、行えかなった。
後方で回復しているはずの仲間の猿人【ブルー・プリングス】が、ブーンとドクオとツンによって、一度は回復したものの既にHPを赤くしてしまっていた。
全てがプログラムであり、条件が揃わなければ行動を起こすことが出来ないでいるのだ。

(´・ω・`)「ツン!クー!レベル6麻痺!カウント!」

腰につけていたスローイングナイフを構えるツンとクー。
そのナイフの刀身は黄色に染まっている。

60 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:10:12 ID:0Wi70pZY0
(´<_` )「よし、いくぞ」

( ´_ゝ`)「立て、ギコ」

(;,,゚Д゚)「おっおおっ!?」

双子に両手を引っ張られて立ち上がらせられるギコ。
慌てて剣を持つ間も惜しむスピードで、双子の後ろを猿人の前まで走る。

(´・ω・`)「3!2!1!ゴー!」

掛け声にあわせナイフを投げるツンとクー。
吸い込まれるように二匹の猿人の喉元にそれぞれ刺さると、猿人は一瞬硬直し、そしてしゃがんでしまった。

(;,,゚Д゚)「な、なんだ、これ」

(´・ω・`)「条件を重ねれば、モンスターをこんな状態にすることもできる」

(,,゚Д゚)「え?」

(´・ω・`)「挨拶は戦いが終わった後改めて。ラストアタック、どうぞ」

(,,゚Д゚)「おっ!い、いや。でも……いいのか?」

(´・ω・`)「これくらいはサービスしましょう」

61 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:11:04 ID:0Wi70pZY0
 _
( ゚∀゚)「やらないなら俺がやっちまうぞー!」

川 ゚ -゚)「麻痺にも効果時間があるしな」

ξ゚听)ξ「さっさとやりなさい!」

( ^ω^)「ドロップしたら見せてほしいお!」

(´<_` )「二つ取れたら一つはくれ」

( ´_ゝ`)「二つともくれてもいいぞ」

('A`)「リア充もげろ」

(´・ω・`)「さ、早く」

(*゚ー゚)「……ギコくん」

(,,゚Д゚)「ありがたくやらせてもらうぜゴラァ!」



二匹の猿人それぞれに、ギコのソードスキルが煌いた。

62 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:11:55 ID:0Wi70pZY0




川 ゚ -゚)「で、ドロップしなかったと」


(,,゚Д゚)「……………はい」

(*゚ー゚)「ギコくん、運悪いから」

(,,゚Д゚)「ゴラァ……」

63 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:15:45 ID:0Wi70pZY0

5.みつけにくいものですか?



クエストボス戦の行われた木枯らしの森最深部。
協力してもらい二匹の猿人にラストアタックを行ったギコであったが、ドロップしたボーナスアイテムに目当ての鉱石は入っていなかった。

(,,゚Д゚)「ゴラァ…」

うなだれて膝を付くギコの肩を抱くしぃ。
その運の悪さに呆れたようにギコを見る面々だったが、一人ショボンは腕を組んで考え込んでいた。

(´・ω・`)「ギコさん、プギャーさん、シラネーヨさん、えっと……お名前なん」

|  ;^o^ |「ブームです!ブーム!」

(´・ω・`)「冗談です。ブームさん。皆さんは一回は通常クエストはクリアしたんですよね?」

( ^Д^)「ああ、したぜ。奥の小屋にいる少女を助けて村の民家に連れて行った」

( ´ー`)「そしたら三叉の矛をくれたーよ」

|  ^o^ |「クエストのみのレア物のようですが、それほど威力はなさそうでした。耐久値は高そうなので、コストパフォーマンスは良さそうですが」

64 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:16:35 ID:0Wi70pZY0

(´・ω・`)「なるほど。……まずはクエストをクリアですね。ボス戦が変わったから、おそらく追加イベントがあるでしょう」

(,,゚Д゚)「追加イベント?」

(´・ω・`)「おそらくですけどね。あればもしかするとそこで手に入るかもしれないですよ」

(,,゚Д゚)「ほ、ホントか!?」



最深部の先にある小さな小屋。
小屋の周りは小さな花に覆われており、「木枯らしの森」には似つかわしくない。

( ;^Д^)「最初きた時、こんな花咲いてたか?」

|  ;^o^ |「い、いえ。咲いてなかったと思います」

( ;´ー`)「こんなのシラネーヨ」

(;,,゚Д゚)「ご、ゴラァ」

65 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:17:17 ID:0Wi70pZY0

(´・ω・`)「家に入れるのは二人か三人。フラグを立てをした僕とギコさんは入らないとまずいとして、もう一人は……ジョルジュ、頼む」
 _
( ゚∀゚)「ん?俺でいいのか?」

(´・ω・`)「ああ。部屋の規模から考えて、万が一戦闘になったときは盾以外で防御ができるやつがいた方がいいしね」

前方を見ていたショボンが振り返り、ジョルジュを呼ぶ。
そしてブーンたちを見た。

66 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:19:49 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「小屋の前の待機を、前衛にアニジャとオトジャ」

( ´_ゝ`)「おう」

(´<_` )「わかった」

(´・ω・`)「その後ろにツンとクー」

ξ゚听)ξ「わかった」

川 ゚ -゚)「了解した」

(´・ω・`)「最後にブーンとドクオ。いざとなったら特攻で」

( ^ω^)「わかってるお」

('A`)「ん。まかせろ」

(´・ω・`)「プギャーさん、シラネーヨさん、……ブームさん。お三人は、しぃさんを後ろにして後方で待機をお願いします。万が一の場合は援護をお願いするかもしれませんが」

( ^Д^)「ああ。わかった」

( ´ー`)「まかせるだよ」

|  ^o^ |「今また名前忘れてませんでしたか!?」

(*゚ー゚)「……わかりました」

67 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:21:01 ID:0Wi70pZY0
それぞれが位置に付いたのを確認してから、小屋の扉をそっと開けるショボン。

(´・ω・`)「こんにちは……」

(,,゚Д゚)「ごるぁ……」

声をかけつつ普通に入るショボンとギコとジョルジュ。
暗くて先が見えない部屋だったが、扉を閉めた途端に部屋が明るくなった。

三人の視線の先に見える、女性。
項垂れていて、こちらを見ていない。

( ゚-゚)

(,,゚Д゚)「だ、誰だ?」

(´・ω・`)「一回目にはいなかったんですか?」

(,,゚Д゚)「あの時は居たのはもっと小さな少女で名前は『キョンキョン』とか言ってたな。部屋が明るくなったとたん泣きながら抱きついてきた。迷子になって迷い込んだって言ってて、それで村まで連れて帰ったんだ」

(´・ω・`)「少女……ではありませんね。どうクエストが変化したのか」

68 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:21:56 ID:0Wi70pZY0

( ゚-゚)「だれ…?」

顔を上げ、こちらを見る女性。

( ゚-゚)「あの猿を、倒したの?」

(´・ω・`)「はい、倒しました」

( ゚-゚)「倒してくれたのね!ありがとう!」

涙を浮かべ、笑顔を見せる女性。

( ゚-゚)「病気の父に飲んでもらうための薬草を取りにきたら迷ってしまい、更にあの二匹の猿人と遭遇してしまったために逃げたところ、こんなところに迷い込んでしまいました。でも、これで助かる…帰る事が出来るんですね!」

(,,゚Д゚)「そ、そうだぞゴルァ。帰られるんだ」

( ゚-゚)「良かった…良かった…」
 _
( ゚∀゚)「…おい、ショボン」

(´・ω・`)「まだ分からないよ。警戒はしておいてくれ」
 _
( ゚∀゚)「わかった」

喜びの涙を流す女性を見て、困ったような笑顔を見せているギコ。
しかしショボンは表情を引き締めたままでおり、ジョルジュはそんなショボンを見て気を引き締めた。

69 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:22:48 ID:0Wi70pZY0

( ゚-゚)「そうだ!実は先ほどあれを見つけたんです」

笑顔で後ろを指差す女性。
その指の先には宝箱があった。

(,,゚Д゚)「宝箱!」

( ゚-゚)「はい。なにか逃げることが出来るようなものが無いかと思って部屋の中を探してしたんですが、蓋が重くて開けることが出来なかったんです。皆さんなら開けることが出来るかもしれません」

目を輝かせ、止める間も無く宝箱に駆け寄るギコ。

(´・ω・`)「ギコさん!」

( ゚-゚)「皆さんもさぁ」
 _
( ゚∀゚)「行くしかないようだぜ」

(´・ω・`)「しょうがないね」

警戒しつつ女性の横を通り宝箱に向かうショボンとジョルジュ。
自分たちを待つギコの元に寄る。

(,,゚Д゚)「開かねぇぞゴルァ」

(´・ω・`)「恐らくここにいる全員が力を入れないと駄目なトラップなんでしょう」

(;,,゚Д゚)「トラップ!?」
  _
( ;゚∀゚)「気付いてなかったのかよ」

70 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:23:42 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「ギコさんは一番奥に、ジョルジュは真ん中で手前は僕。力は三分の一程度で後ろに気を配りつつ開けてみましょう」
 _
( ゚∀゚)「よっしゃ!」

(;,,゚Д゚)「お、おう」

女性が見守る中、一番奥になる宝箱の側面にギコが立ち、正面にはジョルジュが立つ。ショボンは完全に女性に背を向けて、ギコとは反対側の側面に手を添えた。

(´・ω・`)「行くよ。いち、に、さん!」

力を込める三人。
蓋が上がり、箱との間に隙間が開いて、完全に開いた。

それと同時に三人に襲い掛かる細剣。

71 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:25:24 ID:0Wi70pZY0

 _
( ゚∀゚)「やっぱりそうきたか!」

ジョルジュの剣が細剣を弾く。
しかしもう一つの刃が上からギコを狙った。

(;´・ω・`)「あぶない!」

動けないでいるギコを飛びついたショボンが突き飛ばす。

(;´・ω・`)「くっ!」
  _
( ;゚∀゚)「ショボン!」

振り下ろされた片手剣によって、ショボンの左足首から下が切り落とされる。
一人目の細剣使いを防いだジョルジュが剣の腹を正面にして構え、二人目の片手剣使いに突進してその体を弾き飛ばした。
  _
( ;゚∀゚)「ショボン!大丈夫か?」

(;´・ω・`)「五分間の左足首欠損ペナルティ」

二人を庇うように剣を構えるジョルジュの後ろで回復POTを口にするショボン。
  _
( ;゚∀゚)「足じゃまずいな」

72 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:26:08 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「とりあえず片手剣のほうを頼む。レイピアの方はこちらで耐えるから」
 _
( ゚∀゚)「大丈夫か?」

(´・ω・`)「やるしかないよ。…ギコさん」

(,,゚Д゚)「お、おお」

(´・ω・`)「片手剣はジョルジュに任せて、レイピアの方を二人で対応しましょう。片手剣のレベルはいくつですか?」

(,,゚Д゚)「943だ」

(´・ω・`)「僕が指示を出すまでソードスキルは二連撃までしか使わないで下さい。相手は早いです。スイッチの出来ない状況で硬直の長い技は使わない方向で。ジョルジュ右!ギコさん前に出て!」

ショボンの言葉どおりに何の迷いもなく右に向かって両手剣を構えるジョルジュ。そこに片手剣が振り下ろされるが、鈍い音を響かせて弾かれた。

前に出たギコの目の前には細剣を構えた女性。

(;,,゚Д゚)「い、行くぞゴルァ」

(´・ω・`)「無理せず行きましょう」
 _
( ゚∀゚)「さっさと倒してそっちに行くからよ!」

(片手゚-゚)

(細剣゚-゚)

無表情にこちらを見る二匹の人型モンスター。
【キョン・ツー】
室内での戦いが、静かに始まった。

73 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:27:03 ID:0Wi70pZY0

小屋に入っていった三人を見つめる残った者たち。

(*゚ー゚)「ギコくん…」

川 ゚ -゚)「このクエストレベルなら、まぁ大丈夫だろう」

ξ゚听)ξ「それよりも…暇よね…」

( ^ω^)「みんなでソードスキルの反復練習でもするとかどうかお?」

( ´_ゝ`)「却下」

(´<_` )「一人でやってろ」

('A`)「まぁ、そんなことも言ってられないみたいだしな」

川 ゚ -゚)「そのようだな」

74 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:27:44 ID:0Wi70pZY0

( ^Д^)「?」

( ´ー`)「?」

|  ^o^ |「?」

(*゚ー゚)「?」

前を向いていたドクオが横を向いて構えを取る。
そしてそれを見たVIPの五人がそれぞれに別方向を向いて武器を構えた。

(*゚ー゚)「みなさん?」

川 ゚ -゚)「プギャー、シラネーヨ、ブーム、そちらには行かさないようにするが、漏れた場合は頼む。しぃさんを守ってくれ」

クーの言葉が終わるかどうかというタイミングで小屋の周りの花が吹っ飛び、地中から小さな猿が飛び出した。

('A`)「猿型モンスター『モンモ』だ。とにかく早いが動きは単純だし攻撃力・耐久力共に低い。だがまれに持ってるナイフに毒が塗られているからそこだけ気をつけろ」

75 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:28:28 ID:0Wi70pZY0
ξ゚听)ξ「分かってる」

('A`)「オレは一応だな」

ξ゚听)ξ「来るわよ」

('A`)「お前はホントに…」

( ^ω^)「ツンはこれで『ありがとう』って言ってるんだお」

ξ*゚听)ξ「ば、ばか」

(´<_` )「余裕だなお前ら」

( ´_ゝ`)「おれ等も余裕だがな」

川 ゚ -゚)「気を抜かず行くぞ!」

( ^ω^)ξ゚听)ξ( ´_ゝ`)「オー!」(´<_` )('A`)

76 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:29:12 ID:0Wi70pZY0
オトジャとアニジャ、そしてツンとクーはお互いを背にして正面からやってくるモンスターにのみ専念し武器を振るう。

パワー型とスピード型の違いはあれど、剣技を駆使したその剣は確実にモンスターを追い詰めていった。

( ^ω^)「おっおっこいつらは動きがすばやいから楽しいお」

('A`)「そう思うのはお前だけだばかたれ」

四人から離れたモンスターを追撃するのはブーンとドクオ。
二人ともすばやい動きで『モンモ』を追い、剣で切り裂いていく。

ドクオはそれでも所々に剣技を放ちシステムのアシストを使ってモンスターを追い詰め、ポリゴンへと変えていくが、ブーンは違っていた。

77 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:29:57 ID:0Wi70pZY0
('A`)「おまえもちゃんとソードスキル使えよ」

( ^ω^)「苦手なんだお。硬直時間嫌いだし」

ブーンが使う剣技は良くて二連撃。
ほとんどは基本の一撃のみ。
それも止めをさす最後の一撃やスイッチ前のタイミングばかりで、基本的にはシステムに頼らない戦闘を行っている。

川 ゚ -゚)「それであの強さなのだから、たまったもんじゃないがな」

ξ゚听)ξ「ほんとよね」

四人が疲労させたモンスターを次々とポリゴンに変えていくブーン。その数はドクオに負けておらず、戦場を風のように走り回っていた。

時折最初からドクオやブーンを狙ってくるモンスターもいるが、そういった敵にはクーたち四人のうちの誰かが投擲武器で攻撃することにより自分に狙いを向けさせ、ドクオとブーンが背後から襲われることを回避させていた。

78 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:30:43 ID:0Wi70pZY0
(*゚ー゚)「凄い…」

完全に外からその光景を見ていたしぃがポツリと呟く。

( ^Д^)「すげえよな」

|  ^o^ |「一人一人の力量もさることながら、集団での息の合わせ方は攻略組みのギルドにすらひけをとらないのではないでしょうか」

( ´ー`)「まえに一緒にクエストをやったときは、あそこまでじゃないけどおれ達三人もあの中で戦ったことがあるだーよ」

(*゚ー゚)「え!?あの中でですか!」

( ^Д^)「『あそこまでじゃない』けどな」

|  ^o^ |「ショボンさんの指示の通りに動いただけですが、自分の力が何倍にもなったように感じました」

( ´ー`)「あれは良い経験だったーよ」

(*゚ー゚)「わたしも…あんなふうに戦ってみたい」

憧れの眼差しで六人を見るしぃ。
プギャーたちも改めて六人の戦いに視線を向けた。

79 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:31:29 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「右!」

ギコが右に意識を向けると尻尾に握られた剣が自分に向かって振り下ろされようとしていた。

(;,,゚Д゚)「ゴラァ!」

それを剣で弾き返し、【キョン・ツー】を後退させる。
HPバーが半分くらいになったところで出してきた長い尻尾は戦闘を長引かせてはいたが、けっして苦戦しているわけではなかった。

(細剣゚-゚)

(,,゚Д゚)「ゴラァ!」

正眼の構えからソードスキルを放ち、キョンツーに一撃。
スキルそのものの威力は並だが、ギコの持つ能力の補正とキョンツーが防具らしい防具は付けていない事により、HPバーは目に見えて減少した。

(,,゚Д゚)「よし!」

(´・ω・`)「上!」

ショボンの声はギコを完全にサポートしていた。
何故見えていなかったことが分かるのかは分からないが、ショボンはギコが注意を払っていない場所を完全に把握しているとしか思えない正確さでギコの視界を補っていた。
81 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:33:04 ID:0Wi70pZY0
(,,゚Д゚)「ふん!」

最初はそれに戸惑っていたギコもその正確性とタイミングにいつしか慣れ、今もショボンの声で見上げると同時に片手剣を簡単に弾き、横一閃に剣を振ってキョンツーを追撃した。

 _
( ゚∀゚)「けっこうやるじゃん」

(´・ω・`)「それなりに戦闘経験はつんでるみたいだね」

既に片手剣を操っていたキョンツーを倒したジョルジュがショボンの隣に立ち、ギコに聞こえない声で会話をする。
 _
( ゚∀゚)「これなら俺の出番は無いかな」

(´・ω・`)「多分大丈夫だと思うよ。 右下!」

投擲用の太い針を構えたままショボンが笑顔を見せる。
すでに左足は元に戻り、HPバーも完全回復して彼もいつでも戦える状態だった。
だがしかし手助けは行わず、じっと観察している。
 _
( ゚∀゚)「で?」
83 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:34:45 ID:0Wi70pZY0
(´・ω・`)「ん?」
 _
( ゚∀゚)「スカウトするのか?」

(´・ω・`)「しぃさんは良いよね。調理スキルも高そうだし、何より可愛い女の子が給仕してくれたらお客さんも増えそうだし」
 _
( ゚∀゚)「今でも充分儲けてるだろうが」

(´・ω・`)「問題はギコさんだね。戦闘スキル一辺倒みたいだし。それでいてジョルジュにもドクオにも三歩くらい及ばないかな」

二人の視線の先でギコがソードスキルを繰り出す。
剣を青く光らせて二連撃を繰り出すが、二発目は空振りしてしまった。

(;,,゚Д゚)「ゴっ!」

ギコの硬直時間に合わせて剣を振り下ろすキョンツー。
しかしその手にショボンが放った針が刺さり、動きを止めた。
その隙にギコは後ろに移動して距離を取り、再び正眼の構えを取る。

(´・ω・`)「ね」
 _
( ゚∀゚)「まだまだだな」

(´・ω・`)「だから、悩み中」

84 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:36:14 ID:0Wi70pZY0

 _
( ゚∀゚)「女の方だけ入れればいいじゃねぇかよ」

(´・ω・`)「それも考えたけどさ……。育ててみるもの面白かななんてことも思ったりしてさ」
 _
(;゚∀゚)「お前…」

(´・ω・`)「ジョルジュは自分がVIPに入ったときのこと覚えてる?」
 _
(;゚∀゚)「忘れるわけねぇだろうが……まさかお前」

(´・ω・`)「ん〜」
 _
(;-∀-)「オレは入って良かったから良いけどよ。あんまり追い詰めてやるなよ」

(´・ω・`)「僕を何だと思ってるのさ」
 _
( ゚∀゚)「鬼?悪魔?」

(´・ω・`)「マジか」
 _
( ゚∀゚)「冗談だよ、冗談。俺やサスガの二人なんかは感謝してるさ。VIPに誘われたおかげで色々楽になったからな」

(´・ω・`)「なら嬉しいんだけどね。僕らこそ、みんなと友達になれて嬉しいから」
 _
(*゚∀゚)「そ、そうか」

(´・ω・`)「照れるな気持ち悪い」
 _
(#゚∀゚)「おまえ」

(´・ω・`)「冗談だよ、冗談。さっきのお返し」

ギコから視線を外し、ほんの少しだけ視線を合わせて笑顔を見せる二人。

(´・ω・`)「そんなことを話しているうちに、そろそろ終わりかな」

85 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:37:05 ID:0Wi70pZY0
細剣使いキョンツーのHPバーが赤く染まり、咆哮をあげる。
構えて防御をするギコには硬直も攻撃判定も付かず、咆哮後の硬直時間に合わせて剣技を放つための構えを取ろうとした。

(´・ω・`)「ラストアタック!重めの得意技!」

(,,゚Д゚)「おう!」

掛け声とほぼ同時に剣を赤く光らせて突進。
跳躍しつつ上段から真下に一閃し、返す刃で腰を捻りつつ斜め上に切り上げ、逆側に腰を捻りつつ半歩後ろに下がり、切っ先をキョンツーの胸の中央に向ける。

(#,,゚Д゚)「ゴルラアァァァ!」

気合と共に剣を突き出しながら突進。
キョンツーの胸に剣が突き刺さり、HPの赤いラインを全て消失させた。

(細剣゚听)「−−−−−!」

声にならない叫び声を上げ、ポリゴンと化すキョンツー。

(;,,゚Д゚)「やった……」

(´・ω・`)「どう、何点くらい?」
 _
( ゚∀゚)「まぁ50点くらいはやってもいいんじゃないか?」

後ろから聞こえる自分を評価する声を気にしつつも、今までにない充足感をもって大きく深呼吸をするギコ。
その目の前にある洋服箪笥の観音開きの扉が開き、一回目のクエストで出会った少女『キョンキョン』が泣きながら自分に抱きついてきた。
88 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:52:05 ID:0Wi70pZY0


6.ギルド『V.I.P.』へようこそ

89 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:52:49 ID:0Wi70pZY0

 _
( ゚∀゚)('A`)
( ^ω^)ξ゚听)ξ
(´・ω・`)川 ゚ -゚)    「かんぱーい!」
( ´_ゝ`)(´<_` )
(,,゚Д゚)(*゚ー゚)

90 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:53:50 ID:0Wi70pZY0

次の日のバーボンハウス。
店の営業は終了し、クエストに参加したギルドVIPの面子とギコとしぃがグラスを鳴らして約20時間前のクエストクリアを讃えあっていた。

(*゚ー゚)「みなさん、本当に有難うございました!」

頭を下げて感謝の言葉を紡ぐしぃの目には涙が浮かんでおり、横に立つギコは所在なさげに頭をかく。

(,,゚Д゚)「あ、ありがとうだゴラァ」

(*゚ー゚)「ギコくん!」

(;,,゚Д゚)「あ、ありがとうございました」

(*゚ー゚)「ホントに心配したんだからね!」

(,,゚Д゚)「それは……すまなかった」
91 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:54:38 ID:0Wi70pZY0

川 ゚ -゚)「まぁ生きて帰ってこれたし、幼女を送り届けたらお礼に目当ての鉱石も貰えたし、全て丸く収まって良かったじゃないか」

鋭い目つきでギコを睨むしぃ。
肩をすくめるギコだったが、クーの言葉で目を輝かせる。

(*,,゚Д゚)「まぁ…それは」

(*゚ー゚)「そういえば、なんでそんな鉱石を取りに行ったの?」

(;,,゚Д゚)「え!?そ、それはその……」

不思議そうに問いかけるしぃに答えられず、後ずさりしながら距離を取ろうとするギコ。
しかししぃも諦めずに部屋の隅に追い詰めていく。
93 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:55:33 ID:0Wi70pZY0

('A`)「おいショボン」

(´・ω・`)「なに?」

('A`)「クエスト話、彼女にも話したんだよな」

(´・ω・`)「話したよ。全部。クエストクリアのレアアイテム、『アルグレスライト』の特徴からなにから」

( ^ω^)「それで、あれかお?」
 _
( ゚∀゚)「分かってやってるんじゃないか?」

('A`)「そうは見えないが…どちらにしても…」

( ^ω^)「わかってやってるなら、かなり悪質だお。かわいそうなギコくん」

( ´_ゝ`)「おい、ツンとクーも一緒になって何故何故言い出したぞ」

(´<_` )「もしも彼女が分かってないってことは、あの二人と同じってことだよな……」
 _
(;゚∀゚)「おいおい、オレですら察しがついたんだぞ」

94 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:57:10 ID:0Wi70pZY0


 _
(;゚∀゚)(;´_ゝ`)(;^ω^)(;´・ω・`)「はぁ…」('A`;)(´<_`;)

95 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:58:22 ID:0Wi70pZY0
男達が溜息をついている間にも、女三人の問い詰めは続いている。

(*゚ー゚)「ギコくん?」

ξ゚听)ξ「あれ、どうするの?」

川 ゚ -゚)「もう換金したのか?」

(;,,゚Д゚)「そ、それはその……」

店の角に追い詰められたギコ。
しかしクーの言葉にしぃが何かを思い出したのか、体をクーに向けた。

(*゚ー゚)「あ、クーさん」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

(*゚ー゚)「あの、今回の経費はいくらくらいになりましたか」

川 ゚ -゚)「そうだな。まずはそれを片付けるか」

ウインドウを出し、アイテム欄から『明細書』と書かれた欄をタップして実体化させる。

川 ゚ -゚)「これがそうだ。支払いはどうする?一括でいけるか?」

(;゚ー゚)「……え?」

明細書を受け取ったしぃが口をぽかんと開けて硬直する。
それを見てギコが明細書を覗き込み、同じように目を見開いて口を開けた。

(;,,゚Д゚)「ひゃ、百二十万コルだとゴラァ!」

96 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:59:09 ID:0Wi70pZY0
ξ゚听)ξ「あら、結構安くついたわね」

(;,,゚Д゚)「や、安い!?」

(´・ω・`)「今回は日数は二日足らずだからね。拘束時間が増えると各人の商売で儲けるはずだった金額もプラスするけど、今回は戦闘も夜だったからそこら辺はサービスしたよ」

川 ゚ -゚)「ほとんどは危険手当だな」

('A`)「クエストのレベルはそれほど高くなかったが、情報が少ない中でのイレギュラーなボス戦、追加イベントの攻略、モブの殲滅、結構頑張ったよな」

( ^ω^)「ものすごくダッシュで走ったから、あのあとちょっと頭が痛くなったお」

ξ゚听)ξ「命の値段…と考えたら、安い方だと思うけど」

(;,,゚Д゚)「そ、それはそう…だけど…」

(*゚ー゚)「70万は即金でお支払いします。残りは少しずつになってしまいますが、必ずお支払いします」

(,,゚Д゚)「!しぃ!そのお金はあの部屋を買うために貯めた!」

(*゚ー゚)「お金より、ギコ君が生きてくれていることの方が大事。そのために使ったお金だよ。お金なら、また貯めればいいじゃない。これからは私も積極的にクエストに行くよ。私もちゃんと戦いたいから」

(,,゚Д゚)「しぃ……」

見つめ合う二人。
そんな二人を見る五人。
そしてショボンの口元が、ほんの少しだけ笑った。

97 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/17(日) 23:59:50 ID:0Wi70pZY0
( ´_ゝ`)「はじまるな」

(´<_` )「おわったな」
 _
( ゚∀゚)「ギコ、かわいそうに」

反対側の隅からかすかに聞こえる男三人の会話を聞きつつ、目の前で視線だけで愛を語っている二人に一歩近寄るショボン。

98 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:02:48 ID:ecrl.ZLI0
(´・ω・`)「さて、そんなお二人に良いお話があります」

(;゚ー゚)「え?」

(;,,゚Д゚)「な、何だゴラァ」

周りを気にせず見詰め合っていた事に気付き、慌ててショボンを見る二人。
そんな状態では周囲に気を配ることも出来ず、五人の後ろで眉間に皺を寄せてこちらを見ている男三人には全く気付いていない。

(´・ω・`)「しぃさん、料理スキルはどれくらいですか?あと、料理の派生スキルは取ってますか?」

(*゚ー゚)「え?料理スキルですか?料理スキルなら、この前コンプリートしました。派生の調理関係のスキルもそれなりに取ってます。そちらはそれほどレベルアップしていないですけど」

ξ゚听)ξ「裁縫とかはどう?」

(*゚ー゚)「裁縫はそれほど…700位のはずです」

ショボンに頷くツン。
そしてショボンも頷き返す。

(´・ω・`)「しぃさん、あなたをギルド『V.I.P.』にスカウトします。このギルドに入りませんか?」

99 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:03:31 ID:ecrl.ZLI0
(*゚ー゚)「え?わ、私がですか?」

(´・ω・`)「はい。当分は僕とツンのサポートになりますが、ある程度スキルを上げたら店を任せたいです」

(*゚ー゚)「で、でも私の戦闘レベルであんな戦いは…」

(´・ ω・`)「攻略組とは違うので、戦闘はしなくても構いません。今ここにはきていませんが、ほとんど戦闘に参加しないギルドメンバーもいますしね。勿論戦闘 にも参加したいなら、その分のスキルノルマも追加しますが、このギルドは職業クラスであることを基本にしていますから、料理と裁縫を頑張ってもらえるな ら、それほど重視はしません」

(*゚ー゚)「わたしが…このギルドに…」

(´・ω・`)「ギルメンの大事な人を助けたことになれば、今回のクエストも、いくらか割引出来ます。そうですね……90万くらいまでには」

(,,゚Д゚)「しぃ、お金のことは気にするなよ」

(*゚ー゚)「ギコくん。わたしね、昨日皆さんの戦いを見いて、あそこに参加したくなったの」

(;,,゚Д゚)「しぃ?」

(*゚ー゚)「ギコくんの後ろで槍でつつくだけじゃなくて、前に出て、ちゃんと戦いたくなったの。だから……いいかな?」

(,,゚Д゚)「……わかった」

(*゚ー゚)「ありがとう、ギコくん。ショボンさん、お願いします」

(´・ω・`)「決断してくれてありがとう。これからよろしく」

(,,゚Д゚)「しぃが入るならオレも入れてくれ!」

100 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:04:19 ID:ecrl.ZLI0
(´・ω・`)「残念だけど、今は戦闘職のみのギルメンは特に必要ではないんだ」

(,,゚Д゚)「そ、そこを何とか」

(´・ω・`)「そう言われてもね。よほど強いならともかく、戦闘もそれほど強くないわけだし」

(,,゚Д゚)「が、頑張るから」

川 ゚ -゚)「まぁ確かに、恋人同士が離れ離れってのもなぁ」

ξ゚听)ξ「彼女が別のギルドってのも嫌よね」

( ^ω^)「でも戦闘職だけってのは、うちのギルドでは特殊だおね。ね、ドクオ」

('A`)「俺とかジョルジュは血の滲むような特訓で、戦闘職だけでも必要とされているわけだが…」

(,,゚Д゚)「どんな特訓でもする!このギルドに相応しいスキルを身につける!だからしぃと一緒にいさせてくれ!」

(´・ω・`)「どんな特訓でも?」

(,,゚Д゚)「ああ!どんな特訓でも!」

(´・ω・`)「どんなスキルでも?」

(,,゚Д゚)「ああ!どんなスキルでも!……どんなスキルでも?」

(´・ω・`)「分かったよ。君の熱意に負けたよ。どんなスキルを身につけるためのどんな特訓でも受けてくれるのだから。それほどまでしぃさんと一緒にいたいのなら、ギルドに迎えよう」

101 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:05:08 ID:ecrl.ZLI0
(,,゚Д゚)「……あれ?おれ、もしかして……」

ニッコリと微笑んでいるショボンと四人。
しぃもそれに釣られてギコに向かって微笑みを向ける。
一人ギコは動揺しているが、なんとか平静を保とうとしている。

(,,゚Д゚)「いや、その…なんというか…言葉のあやっていうのも」

(´・ω・`)「仲間の命を救っただけだからね、今回の費用は各種実費だけでいいよ。後でもう一度ちゃんと計算するけど、多分30万くらいにできるんじゃないかな」

(,,゚Д゚)「それはありがたいが…いや、でも…」

(´・ω・`)「家とは行かないけど、ギルドで所有している建物がいくつかあるから、良ければその一つに住めば良いよ。あとでそれもピックアップするから、二人で選んでくれ」

(;,,゚Д゚)「は、話がうますぎねぇかゴラァ」

満面の笑みで話を続けるショボンと、汗をかき始めるギコ。

そんなギコの肩を叩く一つの手。

(,,゚Д゚)「え?」

102 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:05:52 ID:ecrl.ZLI0
いつの間にやら移動してたジョルジュと流石兄弟。
 _
( ゚∀゚)「ま、がんばれ」

(´<_` )「コツ位なら教えてやるよ」

( ´_ゝ`)「勿論ただでな」

(,,゚Д゚)「あ、あんたたちも?」
 _
( ゚∀゚)「最初キツイけど、その後は結構楽だぞ」

( ´_ゝ`)「生き残るために死ぬ思いをするだけだ」

(´<_` )「大丈夫、死にはしないから」

(;,,゚Д゚)「フォローになってねえぞゴラァ…」

ふと横を向くと、じっと自分を見ているしぃの笑顔。

(,,゚Д゚)「……がんばるしかねぇかゴルァ」

その一言で、ギコを除く全員が微笑んだ。

103 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:06:53 ID:ecrl.ZLI0
( ^ω^)「二人の入団を祝ってもう一度かんぱいだお!」

(´・ω・`)「そうだね。料理も出さないと」

('A`)「少しは戦闘で楽できるようになるな」

ξ゚听)ξ「あんた、レベル上げとソードスキルくらいしか楽しみ無いのになに言ってるのよ」

川 ゚ -゚)「ショボン、ロングテールカウのステーキはあるか?」
 _
( ゚∀゚)「俺はブラッドトリルの酒と、エルスフィッシュの姿煮が食いたい」

(´<_` )「そうだショボン、お前も『エルグレスライト』手に入れたんだよな?防具にさせてくれよ」

( ´_ゝ`)「何を言っている弟者!まずは武器の約束だろうが!」

わいわいと仲良さげにカウンターに向かう8人の背を見ながら、しぃがギコの腕に手を回す。

(*,,゚Д゚)「しぃ?」

(*゚ー゚)「ギコくん、わたし、今凄く楽しい」

(*,,゚Д゚)「……ああ、オレもだぞゴルァ」

八人の後を追って歩き出す二人、それと同時に八人が一斉にこちらを向いた。

(*゚ー゚)「!?」

(,,゚Д゚)「な、なんだゴルァ」

(´・ω・`)「ギコ、しぃ」

104 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:08:22 ID:ecrl.ZLI0


                      _
( ^ω^)ξ゚听)ξ(´・ω・`)川 ゚ -゚)( ゚∀゚)( ´_ゝ`)

    「ギルド『V.I.P.』へようこそ!」

                    ('A`)(´<_` )

105 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/18(月) 00:09:24 ID:ecrl.ZLI0


第一話 終


(´・ω・`)「特訓、あしたからだから」

( ^ω^)「だおだお」
116 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 20:59:40 ID:ue1.mGjQ0
ある日の雑貨屋Booon



( ^ω^)「ひまだお…」

ξ゚听)ξ「ひまね」

ある日の雑貨屋Booon。
カウンターに立つブーンと、その横の椅子に座るツン。

( ^ω^)「朝から誰も来ないって…」

ξ゚听)ξ「まだお昼にもなってないし、こんな日もあるでしょ」

( ^ω^)「夜、狩りを終えて帰ってきた人がドロップ品を売りに来ないなんて…」

ξ゚听)ξ「一眠りしてからくるんじゃない?」

( ^ω^)「朝、これから狩をしに行く人がPOTを買いに来ないなんて…」

ξ゚听)ξ「みんな昨日のうちに準備していたのよ」

( ^ω^)「……なのかお……」

ξ゚听)ξ「そうそう」

117 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 21:05:39 ID:ue1.mGjQ0
( ^ω^)「ツンは今日の仕事は良いのかお?」

ξ゚听)ξ「オーダーされてるのは全部終わったから。細かいのはしぃちゃんのスキルアップ用に回してるし」

( ^ω^)「二人が入ってから二週間。しぃちゃんは結構なれたおね」

ξ゚听)ξ「そうね〜。裁縫の方はまだまだだけど、料理の方はショボンが喜んでたし。すぐにでも店を任せたいって」

( ^ω^)「また店を増やすのか」

ξ゚听)ξ「レストランの方は今のままで、バーを開きたいって話してるみたい。クーがそんなこと言ってた」

( ^ω^)「…あの二人がたくらんでるってことは、また何か…」

ξ゚听)ξ「さすがに大丈夫でしょう。アインクラッドに酔っ払うお酒は無いからバーといってもcafeみたいなもんでしょうし」

( ^ω^)「言い切れるかお?」

ξ゚听)ξ「……むり」

( ^ω^)「だおね」

118 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 21:18:44 ID:ue1.mGjQ0
ξ゚听)ξ「…暇ね」

( ^ω^)「暇だお」

ξ゚听)ξ「きょうはギコは?」

( ^ω^)「朝在庫チェックの手伝いだけしてくれて、開店と同時に体術の修行に行ったお」

ξ゚听)ξ「そういえば、昨日の夕飯のときも顔にヒゲがあったもんね」

( ^ω^)「あれをあんまり恥ずかしいと思ってないのも問題だお」

ξ゚听)ξ「あの修行のときはご飯食べに町に戻るのが辛かったな…」

( ^ω^)「顔にヒゲが描かれているだけであんなに恥ずかしいってことを初めて知ったお」

ξ゚听)ξ「ギコは結構手間取ってるわよね。もう五日くらい?」

( ^ω^)「どうもあの修行には、ランダムで運要素が入ってるんじゃないかって噂らしいお」

ξ゚听)ξ「運?」
121 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 21:31:22 ID:ue1.mGjQ0

( ^ω^)「ツンはあれどれくらいでクリアした?」

ξ゚听)ξ「四日。しぃちゃんも四日だったし、確かクーもそれくらいだったはず」

( ^ω^)「僕とドクオが三日で、ショボンも四日。で、ジョルジュが二日。弟者も三日で、兄者が五日」

ξ゚听)ξ「え?兄者が?」

( ^ω^)「パラメーターの割り振りで言えば、ショボンの四日もかかりすぎだお」

ξ゚听)ξ「だから『運』か」

( ^ω^)「ギコは運悪いらしいから」

ξ゚听)ξ「しぃがそんなこと言ってたわね。そういえば」

( ^ω^)「クリスマスまでに間に合うといいおね」

ξ゚听)ξ「顔に猫のヒゲを描かれたままプロポーズするのも見てみたいけど」

( ^ω^)「それはさすがに可哀想だお。…って、やっと気付いたのかお?」

ξ゚听)ξ「なにを?」

( ^ω^)「ギコがプロポーズ用に『アルグレスライト』をゲットしようとしてたこと」

ξ゚听)ξ「失礼ね、最初から分かってたわよ」

( ^ω^)「またまた」

ξ゚听)ξ「わかってました〜。あれはわざとです〜」

( ^ω^)「そうだったのかお」

ξ゚听)ξ「そうです〜」

( ^ω^)「……」
123 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 21:49:05 ID:ue1.mGjQ0

ξ゚听)ξ「のど渇いちゃった」

ウインドウを出して操作するツン。

( ^ω^)「?」

ξ゚听)ξ「…送信っと。……返信はやっ」

( ^ω^)「お茶でもいれるかお?」

ξ゚听)ξ「大丈夫大丈夫……はいこれ」

ウインドウをタップすると、カウンターにティーポットとケーキが現れた。

( ^ω^)「ん?」

ξ゚听)ξ「ショボンに店のお茶とケーキを共通タブに入れてもらったの。さ、お茶にしよう」

(; ^ω^)「なんちゅう使い方を」

ξ゚听)ξ「あら、結構皆やってるわよ」

(; ^ω^)「マジか」

ξ゚听)ξ「クーとか」

( ^ω^)「…他には?」

ξ゚听)ξ「……クーとか」

( ^ω^)「……暇だおね」

ξ゚听)ξ「お茶美味しい」

124 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 22:01:07 ID:ue1.mGjQ0

( ^ω^)「で?」

ξ゚听)ξ「ん?」

( ^ω^)「いつ知ったんだお?」

ξ゚听)ξ「…………昨日」

( ^ω^)「おそっ!」

ξ゚听)ξ「モララーの工房に顔出したら綺麗な指輪があったから、値段を聞いたらギコからのオーダー品だって言われて」

( ^ω^)「そこでモララーから聞いたと」

ξ゚听)ξ「うん。っていうか、普通気付かないでしょ」

( ^ω^)「男全員気付いてましたがなにか?」

ξ゚听)ξ「クーだって気付いてなかったし」

( ^ω^)「それも問題だお」

ξ゚听)ξ「人の色恋に気付いてもしょうがないじゃない」

( ^ω^)「当事者のしぃちゃんも気付いてないっぽかったおね」

ξ゚听)ξ「あ〜〜多分気付いてないわね」

( ^ω^)「ギコっち…」

ξ゚听)ξ「サプライズ出来るから良いんじゃない?」

( ^ω^)「頬に三本の線が書かれた猫のようなヒゲ面で」

ξ゚听)ξ「そ、ヒゲ面で」

125 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 22:14:03 ID:ue1.mGjQ0

( ^ω^)「にしてもお客さんが来ないお…」

ξ゚听)ξ「攻略組がフロアボス攻略してたりして」

( ^ω^)「それならショボンから情報が回ってくるはずだお」

ξ゚听)ξ「そうよね」

( ^ω^)「そういえば、ショボンとドクオとジョルジュのところにまた攻略組からスカウトが来たらしいお」

ξ゚听)ξ「今度はどこ?」

( ^ω^)「いろんなところ」

ξ゚听)ξ「懲りないわよね。まぁ気持ちは分かるけど」

( ^ω^)「ショボンのところにはギルドごと入らないかって言われたらしいお」

ξ゚听)ξ「…軍じゃないでしょうね」

( ^ω^)「まぁそこらへんはまたショボンから話があると思うお」

ξ゚听)ξ「はなし?」

( ^ω^)「ショボンがイライラしてたから、多分何かしらの連絡は来ると思うお」

ξ゚听)ξ「めんどくさいなぁ」

(; ^ω^)「まぁまぁ。ショボンがくい止めてくれてるし」

ξ゚听)ξ「攻略組が頑張ってくれてるからクリアに近付いてるのは分かるんだけどね」

( ^ω^)「だけど?」

ξ゚听)ξ「なかにはそれを前面に押し出してナンパしてくるバカもいるし」

( ^ω^)「そんなのがいるのかお」

ξ゚听)ξ「いるいる。私のほうは一応女性向けの衣服のみってことにしてるからよっぽどのバカじゃなきゃやってこないけど、クーの方には結構来るみたいよ」

( ^ω^)「あ〜。クーは中身知らなきゃ普通に美人さんだから」

ξ゚听)ξ「……わたしは?」

( ^ω^)「もちろんおきれいで」

ξ゚听)ξ「なんかむかつく」

126 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 22:26:52 ID:ue1.mGjQ0


( ^ω^)「男ものはあんまり種類が無いのかお?」

ξ゚听)ξ「種類?」

( ^ω^)「服の」

ξ゚听)ξ「基本的には一緒かな。専用のものはほとんど無くて、作るときに種類と一緒に男女を選ぶ感じ。初期レベルのものは男女別れてないのもあるくらいだし」

( ^ω^)「そうなのかお?」

ξ゚听)ξ「Tシャツとか、簡単なインナーはそうよ。レベルが上がると形に合わせて生地とか形とか色とか柄とか色々作れるようになるからユニセックスなものはあんまり作ってないけど」

( ^ω^)「いつも服をありがとうだお」

ξ゚听)ξ「どういたしまして。男物はギルドのメンバーのくらいしか作らないから、男女別れてたら面倒だったろうな。作ったこと無い専用のもあるけどね」

( ^ω^)「そんなのがあるのかお?」

ξ゚听)ξ「だいたい新しいのを覚えたら一回作ってみるんだけど、あれは…」

(; ^ω^)「どんな服なんだお?」

ξ゚听)ξ「作ってあげようか?褌とか男性用Tバックとか」

( ^ω^)「………………」

ξ゚听)ξ「?」

( ^ω^)「………………遠慮しておくお」

ξ゚听)ξ「一瞬悩んだその間がキモイ」

127 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 22:33:44 ID:ue1.mGjQ0

( ^ω^)「それにしてもお客さんが来ないお」

ξ゚听)ξ「もうお昼もまわったわね」

( ^ω^)「今日はなんという日でしょう」

ξ゚听)ξ「なにそのしゃべり」

( ^ω^)「いやなんとなく」

今日初めて外から店のドアが開かれ、ドアに取り付けられたベルが音を立てた。

( ^ω^)「いらっしゃいませだお!」
 _
( ゚∀゚)「なんだ、いるじゃねぇか」

( ^ω^)「なんだジョルジュか…」

ξ゚听)ξ「やっとお客さんだと思ったのに」

( ^ω^)「珍しいおね。昼間に店に来るのは」

ξ゚听)ξ「なんか足りなくなった?」
 _
( ゚∀゚)「いや、ショボンのところに魚を渡しに来て、そのまま飯を食べてきた帰りだけどよ、本日休業の札がかかってたからなにやってんのかと思って」

( ^ω^)「え?」

ξ゚听)ξ「え?」
 _
( ゚∀゚)「え?」

( ^ω^)「『本日』?」

ξ゚听)ξ「『休業』?」

128 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 22:36:00 ID:ue1.mGjQ0

 _
( ゚∀゚)「ああ。かかってたぞ」

ξ゚听)ξ「ブーン、今日札をかけたのは誰?」

( ^ω^)「ギコが、修行に行くときに『(,,゚Д゚)「開店の札はかけとくぞゴルァ』って言ってくれたから頼んで…」

ξ゚听)ξ「あー」
 _
( ゚∀゚)「あー」

微妙な空気が流れる店内。
そこに勢いよく再びドアが開かれ、来店を告げる鈴が鳴った。

(*,,゚Д゚)「クリアしたぞゴルァ!」

ξ゚听)ξ「ギコ…」
 _
( ゚∀゚)「ギコ…」

(*,,゚Д゚)「エクストラスキル『体術』をゲットしたぞゴラァ!猫ヒゲともおさらばだ!」

小躍りしかねない勢いで喜んでいるギコ。
しかし漂う微妙な空気に気付き、三人の顔を見る。

(,,゚Д゚)「どうした?なんかあったのか?」

ξ゚听)ξ「う〜ん」
 _
( ゚∀゚)「あー。まぁ、うん」

( ^ω^)「おめでとうだお、ギコ」

(,,゚Д゚)「お、おう。ありがとうだゴルァ」

( ^ω^)「とりあえず、ギルメン必須スキル一つ目ゲットおめでとうだお」

(;,,゚Д゚)「あ、ああ。……ブーン?なんか笑顔が怖いぞ」

( ^ω^)「まさか五日もかかるとは思ってなかったから、他のスキルの習得はもっと早くできるように頑張らないとだお」

(;,,゚Д゚)「お、おい。言葉にトゲがねぇか?」

( ^ω^)「というわけで、稽古をつけてあげるお」

129 名前: ◆dKWWLKB7io:2013/02/19(火) 22:37:44 ID:ue1.mGjQ0


(,,゚Д゚)「え?」

ξ゚听)ξ「え?」
 _
( ゚∀゚)「え?」

( ^ω^)「さ、行くお」

流れるようにカウンターから出てギコに近寄り、その手を掴む。
そして店の奥のドアに向かう。

(;,,゚Д゚)「え?え?え?」

( ^ω^)「ツン、ジョルジュ、店番を頼むお」

ξ゚听)ξ「了〜解」
 _
( ゚∀゚)「しょうがねぇなぁ」

(,,゚Д゚)「え?いや、あれ?ブーン……さん?あれ?」

( ^ω^)「大丈夫だお。中庭に行くだけだお」

(,,゚Д゚)「あ、いや、あれ?」

( ^ω^)「大丈夫だお。園内だから犯罪防止コードが働いて直接当たらないからHPは減らないお」

(,,゚Д゚)「お、おれなんかしたか?」

( ^ω^)「大丈夫、いつまでも一方的に僕の攻撃が続くだけだお」

(;,,゚Д゚)「いや、そんな」

( ^ω^)「その体に恐怖を植えつけてあげるだけだお」

(;,,゚Д゚)「いやーーーーー!」


終わり


ξ゚听)ξ「ギコ、三日は再起不能ね」
 _
( ゚∀゚)「まぁ今回の件は自業自得だな」

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