- 3
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:34:12.42 ID:XNFafIcX0
- 「―――おにいちゃん」
鼻腔を擽る、甘く優しい、瑞々しい乙女にも似た薔薇の香り。
夕日に照らされて頬を染めた、咲き誇るピンク色の薔薇の花々。
手折った一輪を、豊かな薔薇色の髪に挿して少女が振り向く。
そのあどけない柔和な微笑みは、きっと老若男女、誰しも虜にするだろう。
「おにいちゃんの目の色って、お日様みたいに金色ね」
可愛らしい鈴のような声が心地よく響く。
どこまでも続く、薔薇畑の間を歩く少女の姿は、危なっかしく愛おしい。
- 4
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:35:11.27 ID:XNFafIcX0
- 耳鳴り。
眩暈。
まどろむように緩慢に、しかし其れは唐突に訪れた。
茜色の空を強引に蝕んで夜の帳を下ろす、闇。
それが、どろりと触手を伸ばすように少女の首へと絡みつく。
細い腕を掴む。華奢な腰を飲み込む。
輝く星ぼしが囚われた、濃紺の夜空が彼女を覆い隠す。
悲鳴のように名を呼ぶ。叫ぶ。
少年は手を伸ばす。少女の伸ばす小さな手が、震える指先を爪で微かに引っ掻いた。
そして、完全に、夜に呑まれた。
(;゙゚'ω゚')「うわあああああああああ!!
」
- 5
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:37:09.04 ID:XNFafIcX0
- 堅いベッドの上。少年は酷い有様で薄い毛布を押し退け跳ね起きた。
筋肉質だが痩せた身体。汗でぐっしょり濡れて顔に張り付いた金髪。
日焼けした肌の上には、手入れもされていない無精ひげがそぞろに伸びている。
暗い灰色の眼の下には深い隈が刻まれ、実際の年齢よりもずっと老けて見えた。
( ^ω^)「……。くそっ」
忌々しげに拳でベッドの脇の壁を殴る。
ひなびた安宿の部屋はそれだけで軽く軋む。
次の瞬間、突如部屋の扉が乱暴に開け放たれる。
バンッ
「なるほど貴様かい、さっきから隣で五月蠅いのは」
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:37:59.36 ID:XNFafIcX0
- .@@@
@# _、_@
(# ノ`)
__〃` ^ 〈_
γ´⌒´-−ヾvーヽ⌒ヽ
/⌒ ィ `i´ ); `ヽ
/ ノ^ 、★__¥★_人 |
! ,,,ノ爻\_ _人 ノr;^ > )
( <_ \ヘ、,, __,+、__rノ/ /
ヽ_ \ )ゝ、__,+、_ア〃 /
「……いい度胸だ」
ヽ、___ ヽ.=┬─┬〈 ソ、
〈J .〉、| 母|, |ヽ-´
/"" | |: |
レ :|: 者| リ
/ ノ|__| |
| ,, ソ ヽ )
.,ゝ ) イ ヽ ノ
y `レl 〈´ リ
/ ノ | |
l / l;; |
〉 〈 〉 |
/ ::| (_ヽ \、
(。mnノ `ヽnm
- 7
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:38:55.19 ID:XNFafIcX0
- ( ^ω^)「……」
( ^ω^)「どうも初めまして、ブーンで」
『すおおおお落ち着いてえええええええええ』
( ^ω^)ゴッドイーターのようです!
第一章 『 La Belle au bois dormant 』
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:40:12.60 ID:XNFafIcX0
- 第一話 王様と墓荒らしの少年
( #)ω`)「やれやれだぜ」
一晩銅貨三枚という安宿で、隣の部屋の屈強なレディに失礼を働いてしまった所為で、
ブーンは身体中の痛みに耐えながら、半日街道を歩かねばならなかった。
魔物避けの仕掛けがされた外灯が立ち並ぶ道。外灯がある、というのはもう街が近い証拠だ。
頭から被った鼠色の襤褸衣をずらし、見渡せば程近くに白色の建物が並ぶ都が見えた。
広大な神秘の森に囲まれた都、ユッセ。それが彼の今回の目的地である。
湿地帯であるユッセ周辺は霧も出やすく、それ故に魔物も多い。
あまり他国との交流は芳しくなく、ミステリアスな都だが、
白亜の街並みは有数の美しさで訪れる者の心を奪う。
霧に紛れて森から侵入する魔物を防ぐための、街をぐるりと囲う巨大な外壁を壁伝いに歩く。
間もなく、蒼く輝く魔除け銀で縁取られた、城門と見紛う街の入り口にさしかかった。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:41:22.13 ID:bWq4CeWr0
-
,_,..,ィヽ,、 |
/;;::r‐〜-ミ、 |
ウ ェ ル カ ム
4~/へi::::::;/,ヘミ7
| W E L C O M E !
'-l|<>|:::::|<フ1|i' ノ (
よ う こ そ )
l!
'" |::::l、~`リ へ
/`ー、
ハー;";::i:::ヾイl! ,r'~`ヽ、 \
,.ィ" ri l i ト、
1:|`丶:;;;:イ' ill!7、 、 y; ヽ、_` ー―――――
,. -‐''" 、 くゝソノリ~i
| - 、 , -‐'7ハ ヾニト- ~` ー- 、_
, ィ ´ ,ゝ、_ `r' l | 、レ //
`テ三..ノく _ ` ヽ、
/ , -' ,、 `、_) l,i, i //
(/ ...,,;;;;:` 、 ヽ
;' '" ノ ;;;;:::: i
! : // .....:::::;;イ、_、_\ _ _ノ
l ..,, __,ィ"-‐´ ̄`i::::: ゙゙゙=
...,,,,,. l | ,// - = ""::;; :/
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ヾ :;;;,, ,i
l,// ,,..," /
_,,.....,_
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V ;! `; /;: ノ ,.ィ'"XXXXヽ
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- 10
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:41:48.89 ID:XNFafIcX0
ブーンは首にぶらさげた真っ黒な五芒星のペンダントを衣の内側から取り出した。
訝しげに見遣る門番達の鼻先に吊るす。
と、途端に僅かに後ずさり、右手で行け、とゴーサインを出された。
三人組の門番は街へと入るブーンの後姿を、馬鹿にしたようにせせら笑った。
Ω「おい、見たか、今の……」
Ω「ああ、随分間抜けそうな面だな」
Ω「よせよ、呪われちまうぜ」
( ^ω^)(聞こえてるっつーの)
さらに酷い侮蔑の言葉まで後から聞こえてきたが、気にする風でもなく歩く。
彼の人間性が、聖人君子のように特別に出来ているとかではない。「慣れ」というやつだ。
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:43:30.20 ID:XNFafIcX0
- 暗い巨大な門の下を潜りながら、ペンダントを仕舞いこむ。
門の先に見える眩い光を抜ける。
白亜の都ユッセの美しい光景が、目の前に広がった。
殆ど統一された、白の壁に青の屋根のコントラスト。丁寧に敷かれた白い石畳。
そして、一定区画ごとに備え付けられた、オブジェと見紛う廃棄物の集積所。
おそらく一日に何度も収集するのだろう。街にはゴミ一つ落ちていない。
ブーンは様々な集落や街を歩いてきたが、ここまで整備された都は数えるほどだ。
領主の人となりが窺い知れる。
だが、このユッセに観光で訪れる者は少ない。
先も述べたが、森に囲まれたユッセには霧に紛れて特有の魔物が多く出没する。
その危険性は、街を囲む巨大な防壁が物語っている。故にユッセは閉じられた都だ。
森から溢れる豊富な資源と、希少価値の高い白亜の石の工芸品、
そして素晴らしい力を誇る古来よりの魔除銀の輸出が、この都の経済を支えている。
( ^ω^)「なんという結界がいっぱい。クソ高い魔除銀のバーゲンセールみたいだお」
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:44:38.42 ID:XNFafIcX0
- ( ^ω^)「お?」
不意に、行く手を塞がれた。
|::━◎┥「ゴッドイーター、ブーンだな?」
( ^ω^)「甲冑がしゃべったお」
ブーンを見下ろすプレートアーマー。
頭からつま先まで、全身を覆う銀の鎧の主。
|::━◎┥「……私はユッセの騎士、名はエンリコフだ」
( ^ω^)「よろすこ」
|::━◎┥「……ゴッドイーター、ブーンでいいんだな?」
( ^ω^)b「おいすー」
|::━◎┥「……いや、もういい」
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:45:53.67 ID:XNFafIcX0
- エンリコフと名乗った騎士は疑い深い様子で鎧を軋ませる。
高価な魔除銀製の全身鎧には腕と胸部に、領主家直属の紋章が描かれている。
名乗られずともブーンには、彼が今回の依頼者の関係に深いことは理解できたろう。
最も、彼はブーンを見て失望を禁じ得ないようだったが。
( ^ω^)「んじゃエンリコフさんとやら」
( ^ω^)「今着いたばかりでまだ宿をとってないから、少し待っててほしいお」
|::━◎┥「この街には、忌み人なんぞを泊めてくれる宿はない」
Σ( ^ω^)「なんという差別の徹底した街」
|::━◎┥「口を慎め」
男は素っ気なく言い捨ててから、問答無用でついて来いとばかりに武骨な甲冑の背を見せた。
甲冑の歩き出す音に続いて、ブーンは肩を竦ませて後ろを付いてゆく。
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:46:54.91 ID:XNFafIcX0
- |::━◎┥「差別ではない、警戒だ。お前の宿は城で用意がある。」
|::━◎┥「……私もあまり忌み人に慣れていない。無礼は赦せ」
( ^ω^)「ま、慣れたもんだお」
目覚ましく進化しゆく剣と魔術の文明が広がり続けるこの世界。
今必要とされているのは強力な古代の叡智、そして歴史だ。
あらゆる国と機関が我先にそれを欲する。
なぜならそれは、このユッセの魔除銀のように、自国の軍事力、防衛力に直接繁栄されるからだ。
だが、国々は単なる対人戦争の為に力を欲するにとどまらない。
人間が脅かされているのは、この世界では人間だけではない。
人と共に広く分布する魔物達も近年、急速に進化しつつある。
それまで長く平和を保っていたにも関わらず、
魔物たちに食い潰された土地は、今や一つや二つではなくなった。
この世界に、「何か」が起きていることを告げる警鐘が、ここ百年間で鳴らされ始めた。
- 19
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:48:10.30 ID:XNFafIcX0
- そんな中、必要とされたのが歴史の裏側の仕入れ屋。
神の守る聖域を畏れることなく踏みしだき、幾数多の呪いをその身に受けようと怯まず、あるいは破壊し、
強大な力を持つ墓守を打ち倒すことに長けた者たち。
――――「墓荒らし」。
『ゴッドイーター』とは、ブーンだけを特定する呼称ではない。
ある特定の目的を持った者たちから依頼を請け負い、
古代遺跡や王墓など、多くは聖地、禁域と言われる地を暴く者たちのことを指す。
彼らはその職業柄、あらゆる人々に忌み嫌われる生活を送ることを余儀なくされる。
ゴッドイーター(神を喰らう者)。
彼らは神をも畏れぬ不埒者を差別する意を込めて、そう呼ばれるのだ。
ちなみに、『忌み人』は悪魔崇拝者や墓荒らし全般をそう呼ぶ蔑称で、
単に副葬品、コレクター目的やカニバリストのような、『グール』『グーラー』と呼ばれる者たちをも包括する。
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:49:31.92 ID:XNFafIcX0
- ( ^ω^)「あれっ〜♪お城なんかちょっと小さめ〜〜♪」
中庭に面した回廊。先を案内する騎士の後をついて歩く。
都の中央に配置された、ユッセの領主の城。内装も庭も美しく、展示された調度品も数多い。
が、近隣の貴族廷とそう変わらぬ大きさだ。
世界一の魔除銀の輸出国の領主の城にしては、確かに少々規模が狭い。
|::━◎┥「口を慎めといった筈だが」
Σ( ^ω^)「鼻歌もかお」
|::━◎┥「問題は歌詞だ」
( *^ω^)「ブーンのはマグナム級だお」
|::━◎┥「まともに話は出来んのか貴様」
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:50:58.51 ID:XNFafIcX0
- それまで、大理石の床を重々しく叩いていた甲冑男の足音がとまる。
ブーンも数歩後ろでとどまり、男が振り返るのを眺めている。
ちょうど、謁見の間の扉の前にたどり着いたところだった。
( ^ω^)「結界のせいかお?」
騎士の肩が思わずびくりと震えた。兜の奥からその顔を凝視する。…間抜けな微笑み顔。
初めて会う者たちは大抵、ブーンのことを間抜けで鈍そうな男だと第一印象を抱く。
さらには、屈強で凶悪な忌み人のイメージからはかけ離れているが故に、
畏れられることは珍しい。殆ど、野良犬や鼠のように軽視される。
騎士もそれに漏れず、ブーンを侮っていた。
|::━◎┥「何を」
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:52:20.40 ID:XNFafIcX0
- ( ^ω^)「巧妙に調度品でカモフラされてるけど、城の外、城の内部に2重の結界を張ってるお」
( ^ω^)「さらに外壁を含めたら、この城には3重の分厚い結界が張られていることになるお」
( ^ω^)「大規模結界の所為で、城は小さくせざるを得なかったんだおね」
|::━◎┥「城、ひいては国を守る対策の優先は当たり前のことだろう。何が言いたい」
( ^ω^)「……」
エンリコフは最早、その笑顔を間抜けとは思わなくなっていた。
だが別に印象が良い方に傾いたわけでもない。
危機的意識が、腰に吊り下げた剣の柄へと手を伸ばさせる。
( ^ω^)「ところでエンリコフ。なんで兜を脱がないんだお?」
|::━◎┥「……」
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:54:01.89 ID:XNFafIcX0
- 甲冑男は以前として表情を、銀の兜の中に仕舞い込んでいた。
城の中に入ってまで兜をとらないのは、騎士として忠義と礼節を欠いた行為だ。
紋章の入った魔除銀の甲冑を身に着けることを許されているところを見ると、
騎士への王の信頼は厚いのだろう。なおさら不自然さをぬぐえない。
緊迫した空気が流れる。
静寂。静寂。……静寂。
|::━◎┥「どこまで知らされている?」
( ^ω^)「刮目して見よ、さらば与えられん」
|::━◎┥「では。どこまで分かった?」
( ^ω^)「結界は実は城の内側に向かって掛けられてるお。
んで、あんたのエンリコフは偽名、おそらく」
( ^ω^)「ユッセ王はあんただお」
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:55:07.14 ID:XNFafIcX0
- |::━◎┥「……なるほど。ただの間抜けではないようだな」
|::━◎┥ノ 「扉を開けよ」
ギ、ィ、ィ、ィ、……
王の合図で、紋章の彫られた謁見の間の扉がゆっくりと開かれた。
―――――謁見の間―――――
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:56:30.68 ID:XNFafIcX0
- 謁見の間、と呼ぶには随分仰々しい魔法陣がその床を覆い尽くしていた。
広間は円状に広がり、壁には強力な魔除銀が六ヶ所に配置されている。
硬質なクリスタルで出来たドーム状の天井は、鉄の枠組みが影を落とし、
丁度魔法陣と重なり2重の陣を形成している。
|::━◎┥「なぜ私が王だと分かった?」
広間の奥の王座に坐する、ユッセ王の、低く厳かな声が響く。
( ^ω^)「王が自分の城で兜を取らなくても、誰にも無礼にならないお。
おまけに、そのプレートアーマーはマクシミリアン式をさらに開発したユッセオリジナルの超高級魔除銀製。
一介の騎士が身に着けるには高すぎて手の出ない代物だお」
入口付近で扉を背に立つブーンの両脇には、衛兵が一名ずつ配置されている。
無論、二人とも兜はしていない。
その二人の兵に、王は手で払う仕草を見せる。
- 32
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:58:27.33 ID:XNFafIcX0
- |::━◎┥「……ブーンよ」
兵士が退場するのを見届けると、王は切り出した。
|::━◎┥「忌み人は信用ならない。
だが、今回は、実に鼻もちならない話だが、それに頼らざるを得ない」
|::━◎┥「間に入るものは出来るだけ少なく、顔を知るものはいない方がいい」
( ^ω^)「なるほど、それほどに隠したい、と」
|::━◎┥「そうだ。その秘密を託すお前を、この眼で試したかった」
厳かさを増す声の中に、僅かな怯えともとれる響きがあるのをブーンは感じた。
頬を掻きながらそらとぼけたように王へと声を投げかえす。
( ^ω^)「依頼が終わってもブーンを殺さないでくれお」
|::━◎┥「……」
- 34
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/07(日) 23:59:45.44 ID:XNFafIcX0
- |::━◎┥「ハッハッハッハ!
安心したまえ。君たちを敵に回す程、私は馬鹿ではない」
( ^ω^)「……なら、いいお。お話を聞かせていただくお」
豪奢な椅子に坐した鎧の王は、指先まで覆う銀の手を擦り合せながら咳払いをした。
|::━◎┥「我が都が、広大な森に囲まれているのは知っているな」
( ^ω^)「その森から現れる、特殊な魔物から都を守る為に巨大な外壁を設けたと言われてるお」
|::━◎┥「そうだ。その通りだが、それだけではない。
お前が気付いたように、外壁、街の外灯、全てこの城の結界をより強力にする為の布陣だ。
そして結界はこの広間の丁度真下―――地下に最も強く作用している。」
|::━◎┥「この城の地下に、とある場所への転送装置が封印されているからだ」
( ^ω^)「とある場所?」
|::━◎┥「……我が都より北、最も古き森の奥深く眠る、呪われた遺跡だ」
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:01:05.69 ID:GoXRo1Ng0
- ( ^ω^)ノ ピンポン♪
|::━◎┥σ「はい、ブーンさん」
m9( ^ω^)ビシッ「墓だお!」
|::━◎┥ブーッ「惜しい!」
( ;^ω^)「意外とノリの良いおっさんだな」
|::━◎┥「口を慎め」
|::━◎┥「正確に言うと墓ではない。その姿は巨大な古城だと聞く」
( ^ω^)「王様は見たことないのかお」
|::━◎┥「代々何人も立ち入ることは愚か、存在を口にすることも禁じられている」
( ^ω^)「……」
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:01:50.17 ID:GoXRo1Ng0
- ――――キナ臭い話だ。
ブーンは脳裏に過ぎった疑わしさを、間抜けな仮面に仕舞いこむ。
( ^ω^)「で、その遺跡で僕は何をすればいいんだお?」
|::━◎┥「無論、その遺跡の調査だ」
( ^ω^)「何故今更?」
間合いも入れぬブーンの問いに、王はピクリと一瞬眉を顰めた。
沈黙が答えを促す。
|::━◎┥「それは」
( ^ω^)< ぐうぅぅぅ
間抜けな音が謁見の間の重苦しい空気をぶち壊した。
|::━◎┥「……」
( *^ω^)「その前にちょっとお腹減っちゃったんですけど」
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:02:49.51 ID:GoXRo1Ng0
- 厨房では宮廷料理長の怒号が響いていた。
料理人たちが忙しく動き回り、次々に料理を作っては出す。
それを慌ただしげな足取りで、使用人が次々に運んでいく。
ブーンはちゃっかり、王城の食卓に案内されていた。
( ^ω^)「もしゃもしゃバクバク、ゴクゴクプハァ」
長方形の広いテーブルに所狭しと並べられた豪華な料理の群れ。
恐ろしいスピードで空になる皿の群れ。
( ^ω^)「モリモリゴックンムシャムシャアグアグ」
遠く向かいの関に坐す鎧の領主。
本来ならば優雅な王侯貴族たちの会食がなされる筈の素晴らしい食卓が、
たった一人の若い男に貪り尽くされるその様を眺めながら、
もう幾度目かの吐き気を口元に翳したハンカチで堪えていた。
|::━◎┥「その、食事中すまないが」
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:03:57.76 ID:GoXRo1Ng0
- ( ^ω^)「モシャ?」
|::━◎┥「君たちは皆、そんなによく食べるのかね」
( ^ω^)「ひゃ、はんまひひらはいほ」
|::━◎┥「……」
|::━◎┥「は?」
( ^ω^)「ハフハフズルズル」
|::━◎┥「食うのかよ」
数十分後。
( ^ω^)「ゲェェェェエプ」
厨房の料理人、給仕たちがすっかり疲れ果てたころ、
漸く、少年の人並み外れて旺盛な食欲は満足したらしい。
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:05:00.76 ID:GoXRo1Ng0
- ( ^ω^)「ごちそうさまでした。お陰で久しぶりに腹いっぱいだお」
|::━◎┥「うっぷ、それは良かった。私は胸やけがする」
( ^ω^)「何にも食べてないのに?おかしな王様だお」
|::━◎┥「何十人前も目の前で平らげられたからな。10人前は食った気分だ」
食後の紅茶が二人の前に差し出される。
( ^ω^)「で、さっきの話の続きだお」
優雅にティーカップを持ちあげながら、ブーンが切り出した。
( ^ω^)「……他のゴッドイーターが食う量なんて知らn」
|::━◎┥「そっちかよ」
( ^ω^)「あれ?」
|::━◎┥「……」
( *^ω^)「フヒヒ、じょーくじょーく」
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:06:22.97 ID:GoXRo1Ng0
- ユッセの王が大仰な溜息を、甲冑の向こう側で吐き終わるのを待ってから、
ブーンは静かに仕切りなおした。
( ^ω^)「で、なんで今更、軽蔑するゴッドイーターを雇ってまで、調査する必要があるんだお?」
|::━◎┥「……魔物の進化が、今、我が国の周囲で起こっているからだ」
( ;^ω^)「!」
|::━◎┥「森の魔物が活気づき、街への脅威が大きくなりつつある。
実際に被害が増え、街道の外灯に設置した魔除銀も、何度か破壊された。
……永く王を務めるが、こんなことは初めてだ。
このままでは、いずれ貿易も出来なくなるだろう」
収入の大部分を輸出に頼るユッセにとって、それは致命的だ。
魔除銀がいくらあっても、物資のない貧弱な城は簡単に落とされる。
相手が、魔物でも人間でも、だ。
国家存続の為には、忌々しき事態と言っていい。
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:07:37.86 ID:GoXRo1Ng0
- |::━◎┥「遺跡のある北の森から、進化した魔物どもはやってくるらしい」
( ^ω^)「遺跡の呪いの所為で、魔物が進化したと?」
|::━◎┥「おそらく。何かが起きているのは確かだろう」
( ^ω^)「ふむ」
|::━◎┥「東の国は魔物によって滅びたという。私は我が国を、私の代で滅ぼすわけにはいかない」
王の怯えといら立ちが、鈍く甲冑を震わせて伝わる。
その感情を、腹の下に無理やり抑えこむように、長い息を吐く。
|::━◎┥「民を護るためだ。忌み人のお前に言ってもわかるまいが」
( ^ω^)「ブーンはゴッドイーターだお。約束の報酬さえ貰えば、依頼は果たすお」
|::━◎┥「……報奨金は金貨1000枚。
遺跡で見つけた物はなんなりと持って行け」
- 46
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 00:08:33.90 ID:GoXRo1Ng0
- ( ^ω^)「商談成立だお。我らが盟約により、」
( ^ω^)「叡智は須らく押収し尽くすべし。しかして事情は墓より深く冥府の底に持ち去らん」
ブーンが述べた口上は、ゴッドイーターが依頼を受理する際に必ず述べる。
それは依頼主の秘密を守る絶対の約束であり、
依頼主は遺跡の謎を全て彼らに託す契約をすることを意味する。
|::━◎┥「結構だ」
|::━◎┥「明日の朝発ってもらう。城の離れに用意した部屋に案内させよう」
( ^ω^)「ちッ、厩かよ」
|::━◎┥「口を慎めというのに。安心しろ、客室だ」
( ^ω^)「ひゃっほー」
ブーンがあらかたの話を終えて食卓を出た後。
王はすっかり冷めた紅茶を一口啜る。
|::━◎┥「神よ、許したまえ……」
兜の中から呻くように、小さく漏らした。
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